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2012年 03月 31日

2012年3月の注目新刊2点:『ヴィータ・テクニカ』『10年メモ』

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ヴィータ・テクニカ――生命と技術の哲学
檜垣立哉(1964-)著
青土社 2012年3月 本体3,600円 四六判上製492頁 ISBN978-4-7917-6647-5
帯文より:臓器移植、遺伝子操作、脳科学からiPS細胞……。生命科学における「技術」の進歩は、私たちの「生命」の捉え方を大きく変貌させた。「生」のありようを考察しつづけてきた著者の集大成にして、あたらしい時代の生命哲学。

目次:
第一章 ヴィータ・テクニカの哲学へ
第二章 生態学的転回エコロジカル・ターンについて
 1 自然の非本質主義について
 2 ビオスとゾーエ
 3 エコ・バイオ・キャピタルへ
第三章 生命における主体/生態における視点
 1 自己触発について
 2 内部観測について
 3 ドーキンスと遺伝子の自己
第四章 確率・環境・自己
 1 統計の生政治学へ
 2 統治の主体としての人口
 3 人口論から自己論へ
第五章 テクネーとしての自己
 1 告白/牧人司祭権力の両義性
 2 パレーシアとしてのテクネー
 3 フーコーのテクネー論・未来のテクネー論
第六章 ゲシュテルとパノプティコン
 1 ハイデガーの技術論
 2 テクネーの主体とは誰か
 3 技術の主体の微分化に向けて
第七章 マイナーテクノロジーとメタリック生命体
 1 国家の外のテクネー
 2 徒党集団対国家
 3 国家と資本とその外部
終章 ヴィータ・テクニカ問題集
 1 物質としての生命
 2 映像のテクネーと身体
 3 エコロジカルなものの存在論に向けて


ヴィータ・テクニカへのあとがき
索引

★月刊誌『現代思想』での二年間にわたる22回の連載をまとめたもの。帯文にある通り、本書は著者の現時点での哲学的集大成とみなしていいだろう大作です。これまでに刊行されている著書(ただし単独著に限る)は以下の通りです。

2004年04月『ベルクソンの哲学――生成する実在の肯定』勁草書房
2002年10月『ドゥルーズ――解けない問いを生きる』NHK出版(シリーズ「哲学のエッセンス」)
2005年01月『西田幾多郎の生命哲学――ベルクソン、ドゥルーズと響き合う思考』講談社現代新書;2011年01月、講談社学術文庫
2006年05月『生と権力の哲学』ちくま新書
2008年10月『賭博/偶然の哲学』河出書房新社(シリーズ「道徳の系譜」)
2009年04月『ドゥルーズ入門』ちくま新書
2010年12月『フーコー講義』河出ブックス
2010年12月『瞬間と永遠――ジル・ドゥルーズの時間論』岩波書店

★「あとがき」には以下のように書かれています。「この書物で描きえたことは、この厚さをもってしても至極わずかなものかもしれない。〔…〕ここから先は、筆者自身の思想的課題として、様々な場で、別の試みを継続させていく必要があるのだろう」。そして、ヴィータ・テクニカのさらなる展開として、エコロジー、エコノミー、エシックス、美学、フェミニズム/クィア、記号、等々の諸領域と接続する試みについて言及されています。

★本書はその細部や注に至るまで非常に啓発的ですが、たとえば次のような一節にふされた注で提示された問題提起は戦後日本思想史の一面を照射するものであるように感じます。「イタリアの美学者であったアガンベンは、ベンヤミン研究を中心にしながらも、フーコーやドゥルーズ=ガタリを経由しつつ、政治的なものの思考へといたっている。ドイツのフランクフルト学派とフランス・ポストモダン思想との接合、あるいはそこでの美学的領域と政治哲学との工作や、さらには生命論的な思考の重層化は、容易なようでいて、実際には誰にもなしえなかったことである」(第二章第二節、47頁)。この箇所に以下の注が付されています。「日本では従来は今村仁司の試みしか存在しなかったといえる。岡田温司等を中心に、イタリア系の現代思想の紹介が進展していることは、この点できわめて大きな意義をもつだろう。しかし同時に、何故イタリア思想においてこうした企てが可能になったのか、どうして日本の八〇年代の現代思想はそこにいたりえなかったのかを検証する必要があるようにおもえる」(注5、444頁)。


10年メモ
nu 2012年3月15日発売 本体3,000円 B6判変型(180×135×40mm)832頁 
帯文より:去年の今日、何してた? 忘れたくない、日々のできごとを一冊に。家族のこと、仕事のこと、学びのこと、食事のこと、お金のこと、からだのこと、買い物のこと、見たこと、聞いたこと、読んだこと、話したこと、今後のこと、みんなのこと、あなたのこと――。

★インディペンデント・マガジン「nu」の番外編ともいうべき10年日記帖です。2012年4月始まりなので、ちょうどこの春から使えます。版元の説明をお借りすると、「左ページには一日のメモ欄が10年分並びます。右ページはフリースペースなので、メモの続きはもちろん、別の用途にもお使いいただけます。/メモ欄は1日約50文字。2年目以降は、前年のメモと比較をたのしめるのが10年メモの特徴です。続けるほどにたのしさ倍増。10年後には、もうひとりの自分に会える?」とのこと。表紙の色は、ベーシックのブラックのほか、ネイビー、バーガンディ、ブラウン、マスタードがあります。nuのサイトで購入できます。発行者である戸塚泰雄さんによれば、この「10年メモ」を製作するきっかけは3・11の震災だったようです。なるほど。「10年目も」書き続けることができますように。

★先述の通りnuのサイトでも直販されていますが、吉祥寺のRoundaboutでは今月上旬まで「10年メモ」フェアを行っているとのことです。このほか、オンライン通販ではリルマグ、リアル書店では新宿のBIBLIOPHILIC(ディスクユニオン)、吉祥寺の百年やバサラブックス、ブックスルーエ、36 Sublo、西荻窪のFALL、表参道のユトレヒト、下北沢の気流舎やヴィレッジヴァンガード下北沢店、代官山の蔦屋書店、中野のタコシェ、下高井戸のトラスムンド、三鷹の四歩(シッポ)、京都のガケ書房、等の店頭で取り扱いあり。
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by urag | 2012-03-31 20:54 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 30日

東京で初めての月曜社全点フェア@東京堂書店神田神保町店

本日リニューアルオープンした東京堂書店神田神保町店にて、弊社全点フェアが行われています。すっかり新しく生まれ変わった神保町店は良い意味で「ここは本当に本屋さん?」とためらってしまうような美しいお店になっています。ふくろう店サイドから見た外観は写真の通り。

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奥に見える右手の入口から入るとまずカフェスペースになるので、入るところを間違えたかとつい思ってしまいます。手前の左手の入口から入ります。

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まず入ると右手奥にカフェ、その手前が四面のタワー、左手はエスカレーターです。エスカレーター脇の壁面棚の奥の方が催事棚で、弊社の全点フェアが行われています。以下の写真は店の奥の方からフェア全体を見たものと、寄って撮ったもの。

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「書物の可能性はここから始まる。愛書家へ贈る、個性あふれる出版社の世界」と銘打たれた「TOKYODO PRIME COLLECTION」の第6弾として、弊社の全点フェア「月曜社書店」が展開中です。フェアの命名は企画者の清都さん。こんな素晴らしい位置の広いスペースを占領してしまって申し訳ないというか、恐縮するばかりです。写真では分かりにくいかもしれませんが、品切本も並んでいます。クリフォード『ルーツ』、毛利嘉孝『文化=政治』、上野俊哉『アーバン・トライバル・スタディーズ』、森山大道『新宿+』『大阪+』、平井浩編『ミクロコスモス 第1集』。今では全巻揃えるのが難しくなってしまった『表象』誌も既刊全5冊が並んでいます(現在は、01、04、05号が品切)。保存用の弊社備品扱いの貴重本を出しましたので、書目によっては最終出荷になりそうです。森山大道さんのサイン本『ハワイ』もあります。

弊社は創業12年になりますけれども、全点フェアというのは今まで数えるほどしかありません。中野のギャラリー「ウナ・カメラ・リーベラ」、関西学院大学生協、ジュンク堂書店京都BAL店のたった3回。弊社が所在する東京都下での全点フェアは実は初めてなんですね。ですから、弊社がどんな本を手掛けていただいたのかを見ていただくには東京堂さんにお越しいただくのが一番です。

ブックフェアに加えて、4月28日(土)18:00~19:30には、森山大道さんの最新写真集『カラー』刊行記念のトークイベントおよびサイン会が行われます。聞き手は瀬戸正人さんです。詳細は追ってお知らせします。

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写真がブレておりますので、鮮明なものは東京堂さんご提供のものをご覧ください。新しい神保町店のコンセプトはWORSHIP OF MANKIND <人間礼賛>。曰く「“地球”という惑星に、未曾有な規模でのパラダイム・シフトが起こっていると誰しもがリアルに感じている、“今”という時代……。その小さな惑星の中で、思想を巡らし、活動し、今日という“未来”を積み重ねてきた“人間”、という存在……。人間は今、どこへ行こうとしているのでしょうか…。そんな時代だからこそ、人間を見つめなおしたい。かつての時代の要請がルネッサンスを巻き起こしたように、今こそ、「人間礼賛」」とのことです。リニューアル後のフロア構成は、

1F:Foresee "FUTURE" of Mankind <人間の"未来"を読むフロア>・・・各ジャンル新刊、書評コーナー、週間ベスト、サイン本、雑誌、文庫、新書・選書など。
2F:Grasp "ACT" of Mankind <人間の"活動"を掴むフロア>・・・経済・経営・法律、ビジネス、社会・政治、辞書・語学、自然科学、建築・工学・コンピュータ、芸術など。
3F:Trace "MIND" of Mankind <人間の"思考"を辿るフロア>・・・文学・全集、人文科学、地方・章出版・リトルプレス、豆本、アウトレットなど。

となっています。レジは1Fに集中。2Fにトイレと、禁煙専用のカフェスペース。3Fには喫煙用のカフェスペースがあって、1Fでお茶を買って右手の座席ないし階段を上って2Fないし3Fの座席を使用、ということになります。かつてTSUTAYA TOKYO ROPPONGIやブックファースト新宿店がオープンした時、書店空間の新時代を感じさせたものでしたが、東京堂書店のリニューアルはまさに、コンセプトも什器も照明も、洗練された新しさを感じます。蔦屋代官山と同様に格好のモデルケースとして業界の見学者が今後絶えないだろうという予感がします。

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右手奥のエレベーターを使って3Fに行くと、正面が「アウトレット」つなりバーゲンブックの棚です。写真の手前の棚両面と、その向うの棚両面。多種多様な本がいずれもお値打ち価格で売られています。要チェックです。
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by urag | 2012-03-30 16:34 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 29日

本日発売:イェイツ『ジョン・フローリオ』、中央公論新社より

ジョン・フローリオ――シェイクスピア時代のイングランドにおける一イタリア人の生涯
フランシス・イェイツ(1899-1981)著 正岡和恵+二宮隆洋訳
中央公論新社 2012年3月 本体4,200円 A5判上製424頁 ISBN978-4-12-004360-4
帯文より:イェイツ史学の出発点を画す傑作評伝。宗教難民の子弟にしてブルーノの友人、初の『エセー』英訳者にして伊英辞典編纂者、シェイクスピア作品の霊感源とも目される異能の人――大陸の人文主義的教養をイングランドに伝え、イギリス・ルネサンスの開花に貢献した特異なイタリア人の生涯と業績を、汎欧的視点から活写する無類の伝記。イェイツ年譜、著作目録などを併載する。

原書:John Florio: the Life of an Italian in Shakespeare's England, Cambridge University Press, 1934.

目次:
はしがき
第I章 ジョン・フローリオの父親
第II章 『第一の果実』
第III章 初期の友人や知人たち
第IV章 フランス大使館にて
第V章 フローリオとブルーノ
第VI章 『第二の果実』
第VII章 ジョン・エリオットの『果実』
第VIII章 エリオットとハーヴィ
第IX章 伊英辞典と「H・S」
第X章 モンテーニュの翻訳
第XI章 宮廷にて
第XII章 宮廷時代の文芸活動
第XIII章 引退と晩年
第XIV章 トッリアーノとフローリオの手稿
結論 フローリオとシェイクスピア
補遺I 読者への辞
補遺II ソープによるフローリオへの献辞

訳者あとがき
読書案内
フランシス・イェイツ年譜
フランシス・イェイツ主要著作
ジョン・フローリオの著作
原註
主要人名索引

★本日発売(版元公式では明日発売)です。昨日28日取次搬入済。シリーズ「メディアシオン」の第三弾です。正岡さんによる「訳者あとがき」によれば、本書はイェイツの第一作で、未訳の著書は本書に続く第二作『「恋の骨折り損」研究』(1936年)を残すのみとのこと(ただし死後刊行の論文集全三巻を除く)。多くの訳書は品切になっているとはいえ、主著である『記憶術』(水声社、1993年)や『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統』(工作舎、2010年)はまだ入手可能です。ここまで訳書が揃っているのですから、品切になった本を文庫化して「イェイツ著作集」を作れそうなものですが、はかない願望でしょうか。

★補遺I「読者への辞」はフローリオの著書『言葉の世界』(1598年)から採られたものです。補遺II「ソープによるフローリオへの献辞」はジョン・ヒーリー『エピクテトスの提要』(1610年)が出典。巻末の「読書案内」は二宮隆洋さんによるもの。書物のさんざめく星座は読者だけでなく書店員さんを必ずや益するでしょう。

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by urag | 2012-03-29 22:20 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 29日

「図書新聞」に『パリ南西東北』の書評

「図書新聞」2012年3月31日付の8面に、弊社10月刊、サンドラール『パリ南西東北』の書評「あらゆる時代・都市における「郊外」という大テーマ――60年以上前のフランスの出版文化のドラマも見えてきた」が掲載されました。評者はフリー編集者の影山裕樹さんです。「郊外という普遍的なテーマを、60年以上前の出版物の、それも遠く離れた都市のディテールであぶりだす。これは出版という表現手法の冒険のひとつでもある。〔…〕訳者・昼間賢の目線の先にあるのは、〔…〕あらゆる時代、あらゆる都市における「郊外」という大テーマであるように思えた」と評していただきました。影山さん、ありがとうございました!

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by urag | 2012-03-29 15:42 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 25日

土曜社の新刊第三弾『獄中記』まもなく発売

★今回は4月10日発売予定の『獄中記』のほか、今月刊行の注目新刊数点をご紹介します。

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獄中記
大杉栄著 大杉豊解説
土曜社 2012年4月 ペーパーバック判(172×112mm)並製224頁 ISBN978-4-9905587-2-7
カバー紹介文より:1906(明治39)年、東京外語大を出て8カ月で入獄するや、監修の目をかすめて、エスペラント語にのめりこむ。英・仏・エス語から独・伊・露・西語へ進み、「一犯一語」とうそぶく。生物学と人類学の大体に通じて、一個の大杉社会学を志す。出歯亀君、野口男三郎ら獄友と交際する好奇心満足主義。牢格子を女郎屋に見立て、看守の袖をひく堺利彦は売文社以前。「おい、秋水!」という大杉に気づかず、歩み去る逆徒・幸徳。21歳の初陣から、大逆事件の26歳まで――、自分の頭の最初からの改造を企てる人間製作の手記!

★4月10日発売予定。土曜社の新刊第3弾は、『日本脱出記』『自叙伝』に続く『獄中記』。「大杉栄ペーパーバック版」全3巻完結です。巻末の「大杉栄獄中読書録」に並ぶ和洋の書籍は実に壮観です。その数約150冊。飽くなき探究心は、相手が本であろうが人であろうが関係なく、大杉にとって監獄はまるで社交場であり勉強部屋のようです。版元プレスリリースによれば、本書の見どころのひとつは「語学ができ、人情に通じ、腕っぷしも強い。大杉の人気の秘訣」とのこと。カバーを飾る大杉の肖像画は、その昔、洋画家の林倭衛が書いた「出獄の日のO氏」。警視庁の介入で二科展から撤去された油絵です。

◎関連イベント
4月17日:中森明夫×坂口恭平「大杉栄を語る」@DOMMUNE
4月30日:大杉豊「大杉栄スライドトーク」@不忍ブックストリート


終わりなきパッション――デリダ、ブランショ、ドゥルーズ
守中高明(1960-)著
未來社 2012年3月 本体2,600円 四六判上製304頁 ISBN978-4-624-01185-7
帯文より:エクリチュールの経験はパッション以外のものではない――デリダやドゥルーズ、ブランショを援用しながら思考し続けた著者渾身の論文集。精神分析をめぐる二論文、パウル・ツェランや吉増剛造、宮澤賢治、アンドレ・ブルトン、ロートレアモンを取り扱った論考や書評、書き下ろしとなる人種主義についての批判的考察を所収。

★発売済。16篇のうち、掉尾を飾る「ネイションと内的「差異」――天皇制イデオロギーのもとでの在日朝鮮人」が書き下ろしです。2007年8月に書かれたもので、30頁近い長篇。そのほかは1994年から2007年にかけて執筆され発表されたもの。「あとがき」から察するに、当初は全18篇の予定だったようです。守中さんは詩人でもあり、詩集を含めた著書には以下のものがあります。

95年06月『反=詩的文法――インター・ポエティックス』思潮社
97年04月『二人、あるいは国境の歌』思潮社
99年05月『守中高明詩集』思潮社(現代詩文庫)
99年12月『脱構築』岩波書店(思考のフロンティア)
01年11月『シスター・アンティゴネーの暦のない墓』思潮社
04年06月『存在と灰――ツェラン、そしてデリダ以後』人文書院
05年06月『法』岩波書店(思考のフロンティア)
09年07月『系族』思潮社


出版状況クロニクル(III)2010年3月~2011年12月
小田光雄(1951-)著
論創社 2012年3月 本体2,000円 46判並製268頁 ISBN978-4-8460-1131-4 
帯文より:大震災前後の出版界。出版物売上高のピークは、1996年の2兆6500億→それが直近の数字では→1兆8700億。書店数のピークは、1986年の1万3000軒→それが直近の数字では→4850軒。その数字が示す“落差”の意味を2年間にわたって探る!

★発売済。一業界人として断言しなければなりませんが、もし出版界のここ5年間の推移を概観したいならば、小田さんの「出版状況クロニクル」既刊3冊を読み、そして同氏のブログで現在も継続して書かれている月次クロニクルを参照するのが一番の近道です。かの松岡正剛さんは「千夜千冊遊蕩篇」で、2009年のクロニクル第一巻を評して「ただひたすらに赤裸々なレポート」と書きました。出版社に就職したいと考えている学生さんにもお薦めします。この業界は全体としては衰退していますが、ニッチは非常にたくさんあります。一見すると新規参入する余地がないほどぎっしりと既成業者が市場を埋め尽くしていますが、見方を変えると笑ってしまうくらい穴ぼこだらけの世界で、アイデア次第ではまだまだ面白いことができるかもしれない場所です。しかし「面白いことができる」のと「商売になる」のとが必ずしも一致しない世界でもあるので、成功するのは容易ではありません。この5年間を見るだけでも、出版界の状況はさらに厳しくなっています。この国の長期的な不景気の縮図の一つが出版界です。本書は絶望のためにあるのではなくて、業界の厳しさを前にどう自分なりに戦いを挑むか、読む者の覚悟が試されるのでしょう。

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雇用、利子、お金の一般理論
ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)著 山形浩生(1964-)訳
講談社学術文庫 2012年3月 本体1,500円 A6判並製572頁 ISBN978-4-06-292100-8
帯文より:この本が、経済学を変え、世界を変えた。正確で明快な新訳で読む社会科学史上の偉業。ジョン・R・ヒックス『ケインズ氏と「古典派」たち』採録。序文:ポール・クルーグマン。
版元紹介文より:物が売れない、職がない――なぜ市場は自由放任では機能しなくなることがあるのか。世界的不況のなか、ケインズは自らも通暁する古典派経済学の誤謬と限界を徹底的に見据え、ついに現代経済学の基礎となる本書に至った。現実世界と向き合い理論をラディカルに更新する、社会科学という営みの理想形。本書の概略を定式化したヒックスの重要論文も採録。

★発売済。山形さんがネット上で公開している全訳の書籍化です。オンラインやPDFで無料で読めても、文庫だとコンパクトなので「買い」ですね。『一般理論』は数年前にも岩波文庫で新訳が二巻本で出ましたが、山形さん曰く「〔三種類も既訳が存在する〕にもかかわらず訳者が本書の全訳を行ったのは、既存の翻訳がきわめて不満な出来だったからだ。〔…〕翻訳上の誤りも散見されるし、それ以上に三つとも自他共に認める「逐語訳」だ。〔…〕いずれも日本語としてまともに読むのはつらい。〔…〕一般の場面で普通に使われる英語は、なるべく業界のジャーゴンではない、一般の場面で普通に使われる日本語にするのがこの訳書の基本的な翻訳方針だ」(「訳者解説」551-552頁)。難解かつ大冊である本書を通読するのが苦痛な方は、山形さんによるめちゃくちゃスマートで便利な「要約版」をまず読んでおくといいかもしれません。

★学術文庫の5月新刊で注目したいのは、慈円『愚管抄 全現代語訳・注』(大隅和雄訳)。11日発売です。同日刊行の文芸文庫では『折口信夫芸能論集』(安藤礼二編)と、柄谷行人『反文学論』に注目。

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同時代史
タキトゥス(c56-c120)著 國原吉之助(1926-)訳
ちくま学芸文庫 2012年3月 本体1,600円 文庫判528頁 ISBN978-4-480-09435-3
帯文より:殺戮、陰謀、裏切り。暴帝ネロ自殺後の凄まじい政争を迫真の筆致で活写したローマ史の大古典。
カバー紹介文より:暴帝ネロの自殺後、ローマ帝国に泥沼の内乱が勃発した。各地の総督がその配下の軍隊に担がれて、次々に皇帝となったのである。紀元69年1月1日、ゲルマニア軍のウィテッリウスは、ヒスパニア総督である元首ガルバに叛旗を翻す。アレクサンドリア軍からは、ウェスパシアヌスが皇帝として奉戴されていた。その結果、多くの市民の血が流れ、三人の皇帝が斃れた。そこには、人間の欲望が絡みあい、殺戮、陰謀、裏切りなど、凄まじい政争が繰り広げられた。本書は、希代の歴史家タキトゥスが、この同時代の壮大な歴史ドラマを、臨場感溢れる雄渾な筆致で記録したローマ史の大古典。解説:本村凌二。

★発売済。親本は96年、筑摩書房刊。文庫化にあたって「大幅に手を入れた」とのことです。訳者の國原先生はこれまで、タキトゥスの訳書では『年代記――ティベリウス帝からネロ帝へ』(全二巻、岩波文庫、1981年)、『ゲルマニア/アグリコラ』(ちくま学芸文庫、1996年)を手掛けられています。タキトゥス自身にとっては『同時代史』は『年代記』の前に書かれたものですが、扱っている年代は『年代記』が先、『同時代史』が後です。『年代記』は在庫僅少とのこと(写真のは97年6月の一括重版のもの)。ちくま学芸文庫版『ゲルマニア』は品切。岩波文庫の泉井久之助訳『ゲルマーニア』も在庫僅少だそうです。岩波が何を重版するかはウェブサイトの「復刊」で毎月チェックできますが、筑摩書房の場合は重版情報は書店向けのコンテンツなのですね。一般読者にも公開してくださったらいいのに。ついでに「在庫僅少本」も随時更新で一覧になっていると買い逃し防止になるので、あったらすごくうれしいですね。
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by urag | 2012-03-25 23:57 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 21日

『アドルフ・ロース著作集(1)虚空へ向けて』、アセテートより

版元に予約していた例の本が今日ついに届きました。

アドルフ・ロース著作集(1)虚空へ向けて
アドルフ・ロース著 加藤淳訳 鈴木了二+中谷礼仁監修
編集出版組織体アセテート 2012年4月 本体2,800円 A5判並製314頁 ISBN978-4-902539-21-9
帯文より:ラディカルな近代建築宣言「装飾と犯罪」で知られる建築家アドルフ・ロース(1870-1933)による、めくるめく19世紀末ウィーン文化批評の全貌。全31編中27編本邦初訳。ドイツ語初版より訳出。解題2篇、200以上の詳細な訳注を付す。アドルフ・ロース全集発刊開始第1弾。

原書:Ins Leere gesprochen, 1879-1900. Georges Crès et Cie, Paris / Zürich, 1921.

★「アセテート友の会通信」第23号(2011年9月10日)の挨拶文に本書刊行の意義の端的な説明がありますので、引用します。「ロースの著作は現在、ドイツ語圏において3巻本の全集として刊行されています。『虚空へ向けて(INS LEERE GESPROCHEN)』はその第1巻目にあたり、主に1897年から1900年までのわずか4年の間に執筆された論文を集めたものです。これは、ロースの批評家としてのキャリアの最初期に書かれたものでありますが、実際に発行されたのは晩年を迎えた1921年でした。執筆にとどまらず、出版に関してもロース自身が関わったとされています。今回のアセテート版刊では、同書におさめられた全31稿中、なんと27稿が本邦初訳となっています。/日本ではロース関する既往研究は数多く存在します。しかしそのほとんどが「建築家ロース」の見解に視点がおかれ、装飾の排除を確言したモダニズム建築の先駆者と理解されがちでした。伊藤哲夫氏(元国士舘大学教授)による、日本で唯一のロース著作集の翻訳本『装飾と罪悪』(中央公論美術出版、1987)でも、建築に関係する論稿がその大部分を占めています。しかし、今回の『虚空へ向けて』では、その概念を覆すかのような新しいロースの見解がご覧頂けるかと思います。専攻研究者〔ママ。あるいは先行研究者?〕である伊藤哲夫先生も私たちの意向に大いに賛同され、資料面で大きなご協力をいただいております。/アセテート版に収録されるロースの論考は「建築」論だけではありません。「メンズモード」「女たちのモード」「工芸の展望I」(本邦初訳)で端的に判明するように、進歩、伝統、倫理三つどもえの葛藤、ファッションや工芸への深い洞察といった、生活全体を構成するディティールへの意識の高さは、建築論の領域を越えた「非建築」論、はたまた新しい「生活」「文化」誌としてたち現れてきます」。

★訳注は早稲田大学中谷研究室によるもので、解題2篇というのは、ヴァルター・ループレヒター「アドルフ・ロースとウィーン文化」(安川晴基訳)と、細井淳「『虚空へ向けて』と皇帝即位50周年記念展示会」です。目次詳細は版元サイトに掲載されています。書容設計は羽良多平吉(EDiX)さん。たいへん美しく繊細です。版元直販の場合、消費税を取らないばかりか、「2000円以上のご購入で日本国内送料無料」とのことですので、本書は国内住所に限り送料無料。なおかつクレジットカード決済可能です。カラー口絵といい、詳細な訳注といい、これで2,800円というのは実にお得です。中谷さんのブログ記事によれば初版1000部とのことですからご注文はお早めに。「アセテート編集者日記」によれば、初回出荷で在庫を使い切ったご様子で、印刷所からの追加待ちとのこと。出だし好調なのですね。

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★なお、中谷礼仁さんはまもなく平凡社より発売になる以下の新刊にも執筆者として深くかかわっておられます。貴重な記録です。

今和次郎「日本の民家」再訪 
瀝青会(れきせいかい)著
平凡社 2012年3月 本体3,200円 A5判上製394頁 ISBN978-4-582-54440-4
帯文より:90年前のあの民家たちはいま、どうしているだろう――。瀝青会は『日本の民家』に収められた45件を探して全国津々浦々、今日もアスファルトの上を行く。2000日の旅が教えてくれたのは、うつろい、うつろわぬ、歴史の狭間にある民家・農山漁村・都市・人々の姿でした。
版元紹介文より:今和次郎が訪ねた民家・集落を、90年後にあらためて実地調査。その結果は? 驚きと発見の「21世紀版・日本の民家」。汐留ミュージアムで初の今和次郎回顧展開催中(2012年3月25日まで)。

★今和次郎『日本の民家』(1922年)は、岩波文庫(1989年)で読むことができましたが、2005年に一括重版されたのち、現在は品切。そろそろ再刊されてもおかしくないだろうと思います。

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by urag | 2012-03-21 14:30 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 18日

まもなく発売:平凡社さんの3月新刊2点

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★まもなく発売となる平凡社さんの新刊2点をご紹介します。なお平凡社さんは文京区白山より社屋の引っ越しをされ、明日(2012年3月19日)から、神保町で業務を開始されるとのことです。新しい所在地は、〒101-0051 東京都千代田区神田神保町3-29 電話03-3230-6570(代表)。栗田出版販売さんの新社屋の近くですね。新刊の奥付ではすでに新しい所在地が記載されています。平凡社さんのtwitter情報によれば「弊社98年の歴史で初めての神保町ではあります」とのこと。

完訳 日本奥地紀行(1)横浜―日光―会津―越後
イサベラ・バード(Isabella Bird, 1831-1904)著 金坂清則(1947-)訳注
東洋文庫(平凡社) 2012年3月 本体3,000円 全書判上製394頁 ISBN978-4-582-80819-3
帯文より:イザベラ・バードの明治日本への旅の真実に鋭く迫る初版からの完訳決定版。正確を期した翻訳と丹念な調査に基づく巨細を究めた徹底的な注で、初めてわかる諸発見多数。全4巻刊行開始。

★1880年刊初版本からの完訳は、時岡敬子訳『イザベラ・バードの日本紀行』(上下巻、講談社学術文庫、2008年)以来です。平凡社さんではこれまで1885年刊簡略本の訳書、高梨健吉訳『日本奥地紀行』(東洋文庫、1973年;平凡社ライブラリー、2000年)を刊行されています。原書名はUnbeaten Tracks in Japan: An Account of Travels in the Interior, Including Visits to Aborigines of Yezo and the Shrines of Nikko and Iseで、直訳すると『日本の未踏の地――蝦夷の先住民および日光東照宮・伊勢神宮訪問を含む内地旅行の報告』(凡例より)。1878年(明治11年)5月に横浜に上陸し、同年12月に横浜から離日するまでの、七ヶ月間の旅行記です。「開港場の日本人は外国人と交わることによって人が悪くなり、品を失っているが、内陸部に住む日本人は「未開人」であるどころか、とても親切で、心優しく、礼儀正しい。それで、[外国人でも]日本人の従者一人以外には誰も伴わずとも、外国人がほとんど訪れない地域を、無礼な目にも強奪にも一度もあわないで旅することができる。私がこうして1200マイル[1930キロ]にもわたって旅ができたように」(36頁)。今回刊行された第一巻の解題には、原著の新解釈についてや、簡略本、既訳書の問題点を特記されており、新訳にかける強い思いを感じることができます。


ボヘミアの〈儀式殺人〉――フロイト・クラウス・カフカ
平野嘉彦(1944-)著
平凡社 2012年3月 本体3,200円 四六判上製292頁 ISBN978-4-582-70291-0
帯文より:「ユダヤ人はキリスト教徒を殺害し、その生血を過越の祭に用いる」――中世から連綿と続く〈儀式殺人〉への誹謗は、啓蒙主義の潜伏期を経て、近代に復活する。事件に対するユダヤ系知識人の多様な反応から、Judeであることの困難を描く異色の思想史。
帯文(裏)より:Judeを現在、一語の日本語に翻訳することはできない。人種・民族を根拠とする近代国民国家の成立以後にあってこの語は、宗教的概念「ユダヤ教徒」と人種的概念「ユダヤ人」の異なる二義をともに含むものになってしまったからだ。反ユダヤ主義やシオニズムにまつわる諸々のイデオロギーの錯綜もそのことを反映している。本書は、十三世紀に遡るユダヤ人による〈儀式殺人〉伝説が、長い忘却の淵から、近代に至って復活したことを焦点化し、文学的読解と歴史学的実証の双方から〈儀式殺人〉とされた事件に対するユダヤ系知識人たちの多様な反応を検証する。「Judeとして生きる」とはどういうことなのか、その複雑な輪郭を描く意欲作。

目次:
序論
 第一章 〈儀式殺人〉の歴史
 第二章 『タルムード・ユダヤ人』をめぐって
第I部
 第一章 ボヘミアの〈儀式殺人〉
 第二章 マサリックの異議申立
 第三章 「暗示」をめぐって
第II部
 第一章 フロイトの『日常生活の精神病理学』
 第二章 クラウスの『炬火』
 第三章 カフカの『審判』
第III部
 第一章 それぞれの歩み
 第二章 ウィーンのヒルスナー、あるいはヒルスナーのウィーン
 第三章 ウィーンからの出立

あとがき
関係年表/文献一覧/索引

★ユダヤ人がユダヤ教の祭である「過越(すぎこし)」に際してキリスト教徒の子供を殺してその血を抜き取り、儀式に使用する――古くから存在したデマがふたたび活性化していく歴史的過程を辿り、反ユダヤ主義に煽られたデマの横行を目の当たりにしたフロイト、カール・クラウス、カフカらの作品に影を落とした〈儀式殺人〉を考察しつつ、ドイツ語圏におけるユダヤ人の困難な地位を分析した本です。カフカの『審判』の主人公が喉をかき切られて死ぬ場面と、『審判』の執筆中断後に書かれた日記における記述との交差が、ツヴァイクの戯曲「ハンガリーの儀式殺人」を読んで泣いたカフカとつながっていくことを説明されるくだりには戦慄すら覚えました。今まで知らなかった『審判』の奥の部屋を覗かせてもらった心地です。なお、平野先生はちくま文庫で『カフカ・セレクション』全3巻を編訳されていますが、『審判』は訳されていません。
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by urag | 2012-03-18 21:24 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 17日

月曜社4月新刊『昆虫の記憶~』『カラー』、bk1にて予約受付中

弊社4月新刊2点、bk1にて予約受付中です。どうぞご利用ください。

上旬発売予定:清水アリカ『昆虫の記憶による網膜貯蔵シェルター、及びアンテナ』(遺稿エッセイ集成)
下旬発売予定:森山大道『カラー
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by urag | 2012-03-17 13:07 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 16日

本日取次搬入:アドルノ『ヴァーグナー試論』、作品社より

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ヴァーグナー試論
テオドール・W・アドルノ著 高橋順一訳
作品社 2012年3月 本体4,000円 A5判上製307頁 ISBN978-4-86182-354-1
帯文より:愛と死と陶酔の形而上学。社会的性格・動機・音色・楽劇など10の視点から多角的に考察。いかがわしさと崇高さを併せ持つ天才の全貌を明らかにする。附:「ヴァーグナーのアクチュアリティ」・作品概要・詳細解説。

原書:Versuch über Wagner, Knaur, 1964.

目次:
クナウル社ポケット版への助言
I. 社会的性格
II. 身振り
III. 動機
IV. 響き
V. 音色
VI. ファンタスマゴリー
VII. 楽劇
VIII. 神話
IX. 神と乞食
X. キマイラ
索引
付録「ヴァーグナーのアクチュアリティ」(1963年9月講演)
解説にかえて「仮象と仮象を内破するもの――アドルノのヴァーグナー認識について」高橋順一
ヴァーグナーの作品概要
訳者あとがき

★本日16日取次搬入です。この試論は1937年秋から1938年春に賭けてロンドンとニューヨークで執筆され、1952年になってようやく公刊されたものです。ナチスの支配から異国に逃れたアドルノの当時の心境も、この試論に影を落としているように見えます。高度資本主義社会においてその存在自体がパラドックスであるところの芸術をめぐって、アドルノはヴァーグナーの作品のうちに時代を読み解くアクチュアリティを見出しています。彼は試論をこう締めくくります、「ヴァーグナーのオーケストラは寄る辺なき人間の不安を語ることによって、寄る辺なきものにとって、たとえ脆弱で偽りなものであろうと助けを意味しうるのだ。そして音楽の太古的な異議申し立てが約束したものをあらためて約束することが出来るのだ。不安なき生への約束を」(187頁)。

★担当編集者は先日、熊野純彦さんの新訳カント『純粋理性批判』を手掛けられたTさんです。Tさんは河出書房在籍時代よりこんにちに至るまでアドルノの訳書を数多く担当されており、その中には主著である『否定弁証法』も含まれています。Tさんは現在、『純理』級の大物を準備されているところ。思わず「おお」と声が出る古典でした。

★本日午前二時すぎに吉本隆明さんがお亡くなりになりました。吉本さんの最後の長編散文詩と言ってさしつかえないはずの『言葉からの触手』(河出書房新社、1989年;河出文庫、1995年)を担当されたのもほかならぬTさんです。吉本さんの著書の中で私はこの作品が一番好きです。「地平線はもっと向うにみえるのだが、そこへゆく道はそれほど分明にはたどれない。〔…〕黄昏の気配だけが確かにあって、あたりをうす暗くしているからだ。〔…〕いまあの地平線にたどりつく道を照らしだしてくれるのは、概していえば大文字の無意味を行使することだという気がする。/それ以外のやり方では、ひとつひとつの振る舞いに意味という烙印がおされ、あの装置からの声の虜になる。〔…〕わたしたちはわたしたちの影を踏んで歩く。それは以前から歩行がたくさんの岐路にたったあとでやった方法だ。それに頼らざるをえないだろう。それはそれでいいのだが、自戒はいつもつきまとう。もう地平線の薄明にとりついたとおもったのに、ほんとはつぎの巨大都市の膨大な建物たちのシルエットにすぎなかった、そんなことはありうるのだ。でも徒労とみえる歩行が信じられるのは、地平線がみえること、それから徒労の影も天使の影も見捨てて、確かに歩いてきたからだ」(文庫版、120-122頁)。独立独歩の人、吉本隆明。内田樹さんは「毎日新聞」でこうコメントしています。「吉本さんの言葉には身体性があった。貧しさや飢餓といった生活者の実感に基づいた思想だ。最後の戦中派の思想家。吉本さんが亡くなられたことで戦中派の時代は完膚なきまでに終わった。時代は軽くなっていくでしょう」(3月16日付東京夕刊芸術文化欄「吉本隆明さん死去:哲学者・梅原猛さん、内田樹・神戸女学院大名誉教授らの話」)。そうなのかもしれない、と思った刹那、言いようのない暗い戦慄が背中に張り付くのを感じました。

★『ヴァーグナー試論』の美麗な装丁は中島かほるさんによるもの。カバーに使用されている絵は、説明するまでもないかもしれませんが、クリムトの「水蛇1」です。
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by urag | 2012-03-16 22:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 15日

弊社出版物の著者や訳者の方々の最近の御活躍

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★馬場智一さん(サラ-モランス『ソドム』共訳者)
博士論文に加筆修正された著書第一作を勁草書房さんより上梓されました。本日15日取次搬入です。

倫理の他者――レヴィナスにおける異教概念
馬場智一(ばば・ともかず:1977-)著
勁草書房 2012年3月 本体5,500円 A5判上製496頁 ISBN978-4-326-10213-6
帯文より:生きることは他人の場所を奪うことである──。倫理への道にエゴイズムの影を落とす「異教」概念。そのの思想史的由来とレヴィナスにおけるその多元的意義を、精緻かつ鮮やかに解明していく。「西洋哲学」の自明性を問う探究の書。
版元紹介文より:「異教」とはユダヤ・キリスト教からみたその他の宗教一般、つまり西洋にとっての他者をさす。本書は、後期ハイデガーの思想を「異教崇拝」として批判したレヴィナスにおけるその概念の変遷と政治的・存在論的意義を、語と概念の歴史から出発して論ずる。「西洋哲学」の自明性の境界へと至る探求の軌跡。

目次:
はしがき
序論 「異教」の問いとレヴィナス
Ⅰ 「異教徒」、翻訳史と語源論争
 はじめに
 第1章 ヘブライ語──タナッハにおける‘âmとgôj
  一「ユダヤ教」成立までの歴史的経緯
  二 用語上の考察、‘âmとgôjの区別、および国内異邦人
  三 小括
 第2章 ヘブライ語からギリシア語へ──七〇人訳聖書における‘âmとgôjの曖昧さの修正
  一 七〇人訳聖書成立に至る歴史的経緯
  二 用語翻訳の考察
 第3章 ギリシア語──新約聖書:キリスト教徒、ユダヤ教徒、異教徒
  一 λαος(oに鋭アクセント)とℇθνη(ℇに無気記号と鋭アクセント)の用法
  二 小括
  三 補説──パウロにおける兵士としてのキリスト教徒表象
 第4章 ラテン語──ウルガタ訳における「異教徒」
  一 ウルガタ訳聖書の成立
  二 λαος(oに鋭アクセント)からpopulusへ
  三 ℇθνη(ℇに無気記号と鋭アクセント)からgentesへ
  四 gentilesの登場と三?四世紀における用語定着
 第5章 ラテン語内部での変遷
  一 問題の概観
  二 paganus=「田舎者」(前一~後一世紀)
  三 paganus=「文民」(一世紀)
  四 paganus=「集団に属さないもの」(二世紀~)
  五 「異教徒」という意味での最初の用法(四世紀前半)
  六 paganus=「異教徒」の台頭(四世紀後半~五世紀前半)
 第6章 近代語における「異教徒」
  一 近代諸語への翻訳
  二 レヴィナスの用法との関連
 小括
Ⅱ 西欧精神史における異教批判の歴史
 はじめに
 第1章 前史──不道徳な神々の批判と自然神学批判(プラトン)
  一 『国家』(360―400)
  二 『法律』第一〇書
 第2章 聖書にみられる異教批判の基本的議論
  一 偶像と快楽主義
  二 終末論
 第3章 古代護教論
  一 フィロン
  二 アタナシオス
  三 アウグスティヌス
 第4章 護教論の変化と異教概念の形式化
  一 古代以降の護教論の変遷
  二 カント
  三 キルケゴール
 第5章 啓蒙以後の宗教論の変遷と異教概念の変化
  一 偶像崇拝の起源論争
  二 宗教の比較歴史学(宗教の進歩史観)
 第6章 ドイツにおいて再び形而上学化された宗教論における異教
  一 ヘルダー(異教の両義性)
  二 ヘーゲル(異教の「精神」史的意味)
  三 シェリング(ポテンツとしての異教の存在)
 小括
Ⅲ レヴィナスにおける異教概念
 はじめに
 第1章 護教的パガニスム概念の受容?──レヴィナスとマリタン
  一 「ユダヤ人問題」に対するマリタンの立場
  二 ユダヤ人の超自然性を巡るマリタンとレヴィナスの相違
  三 小括──ユダヤ・キリスト教の反パガニスム同盟の綻び
 第2章 了解とは別の仕方で──異教的実存様態の対蹠点
  一 存在への釘付けと情態性
  二 繋縛を開示する情態性
  三 開示から隠蔽への移行
  四 繋縛隠蔽的情態性
  五 小括
 第3章 存在者の文明論的諸様態──ユダヤ、キリスト教西欧、異教
  一 身体との同一性と居心地の悪さ
  二 世界の内在と脱出
  三 超自然対自然
  四 過去による選びの感動と現在優位
  五 小括
 第4章 異教の両義性
  一 異教的存在様態の否定的側面
  二 異教の必然性
 第5章 「パガニスムの危険」の消失と非場所の思想
  一 非場所としての住居の消失
  二 場所なき移民?
 補章 自然法とノアの命法──レヴィナスにおける自然概念(の不在)とその帰結
  一 存在と自然の同一性
  二 ノアの命法
  三 人権の現象学
 小括
 結論
 補論
 あとがき
 参考文献/事項索引/人名索引


★ジョルジョ・アガンベンさん(『アウシュヴィッツの残りのもの』『バートルビー』『瀆神』『思考の潜勢力』著者)
今年1月に『ホモ・サケル』シリーズ第二部第五分冊『神のわざ――聖務の考古学』がトリノの出版社ボラーティ・ボリンギエリより発売になりました。昨年第四部第一分冊が出たばかりなので、二年連続刊行というのは珍しいです。第二部は第三分冊まで出ていましたが、第四分冊は飛ばして、第五分冊が先行したかたちになります。なお、第二部はすべてボラーティから出ています。

Opus Dei: Archeologia dell'ufficio. Homo sacer, II, 5, Torino: Bollati Boringhieri, 2012.

◎アガンベン「ホモ・サケル」シリーズ

第一部:1995年『ホモ・サケル――主権権力と剥き出しの生』(高桑和巳訳、以文社、2003年)
第二部第一分冊:2003年『例外状態』(上村忠男・中村勝己訳、未來社、2007年)
第二部第二分冊:2007年『王国と栄光──オイコノミアと統治の神学的系譜学のために』(高桑和巳訳、青土社、2010年)
第二部第三分冊:2008年『言語の秘蹟――宣誓の考古学』(未訳)
第二部第五分冊:2012年『神のわざ――聖務の考古学』(未訳)
第三部:1998年『アウシュヴィッツの残りのもの――アルシーヴと証人』(上村忠男・廣石正和訳、月曜社、2001年)
第四部第一分冊:2011年『至高の貧しさ――修道院の規律と生の形式』(未訳)

なお、平凡社さんの新シリーズ「イタリア現代思想」の第一回配本、アガンベン『裸性』はいよいよ今月発売のようです。


★大竹弘二さん(ガルシア・デュットマン『友愛と敵対』共訳者、同『思惟の記憶』訳者)
先月8日に発売された太田出版さんの季刊誌『atプラス』11号より、連載「公開性の根源」が開始されました。第1回は「主権vs統治」と題されています。「近代初期(16/17世紀)の政治思想に見られる「主権」と「統治」(あるいは公開性と秘密)の鋭い緊張関係を明らかにすることで、いまや危機を迎えつつある民主主義の統治能力(ガバナビリティ)の再生を目指す試み」であるとのことです。楽しみな連載です。

atプラス――思想と活動(11)帝国としての中国
太田出版 2012年2月 A5変型判並製196頁 ISBN9784778313029


★森山大道さん(写真集『新宿』『新宿+』『大阪+』『NOVEMBRE』『ハワイ』『にっぽん劇場』『何かへの旅』『オンザロード』)
弊社より4月下旬発売予定の最新写真集『カラー』を記念して、以下の個展が行われます。

◎発刊記念個展 森山大道「カラー
日時:2012年5月11日(金)−6月9日(土)
場所:タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム(東京・六本木)
内容:2008年から2012年にかけて東京の街をデジタルカメラでおよそ30,000枚撮影した森山は、そのうち厳選された作品191点をまとめた写真集『カラー』を4月下旬に刊行します。この写真集刊行を記念して開催される本展では、印刷原稿プリントによるインスタレーションと、大引き伸ばしプリント数点を展示予定です。これら30,000作品のうち99点は、昨年開催された回顧展「オン・ザ・ロード 森山大道写真展」(国立国際美術館、大阪)の一展示室の壁面すべてを覆い尽くす圧倒的な展示方法で先行発表されました。今後さらなる展開が期待される森山のカラー作品への試みを、この機会にどうぞご高覧下さい。

また、以下の展覧会も1月よりゴールデンウィークまで開催中です。先の話になりますが、ロンドンのテート・モダンでの展覧会情報も添えます。

◎「森山大道 何かへの旅」展
日時:2012年1月21日(土)~5月6日(日)
場所:沖縄県立美術館コレクションギャラリー2

◎「William Klein / Daido Moriyama
会期:2012年10月10日~2013年1月27日
会場:テート・モダン(ロンドン)
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by urag | 2012-03-15 21:55 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)