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2009年 03月 27日

高祖岩三郎さんの新著とグレーバーのインタビュー新刊

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『ニューヨーク列伝』『流体都市を構築せよ』(ともに、青土社)に続く、高祖岩三郎さん(1955-)の著書第三弾が刊行されました。初めての書き下ろし単行本でもあります。文化と政治、ストリートと理論を活き活きと結びつけ、オルタナティヴな世界観と未来像を提示する、アツい本です。内容も素晴らしいですが、人文書担当の書店員さんはぜひ巻末の注もご覧下さい。これまでに刊行されてきた参考文献を眺めると、本書が形作る実践知の星座が見えてきます。

また、高祖さんが翻訳された、グレーバー本の第二弾も刊行されました。本書の編集を担当された以文社編集部の前瀬宗祐さんが作成された、出来立てほやほやのブックリストも掲載します。棚作りやブックフェアにどんどんご活用いただけたら、とのことです。

新しいアナキズムの系譜学
高祖岩三郎:著 河出書房新社 09年3月 本体1,600円 四六判並製244頁 ISBN978-4-309-24469-3
内容:いま世界を席巻する新しいアナキズム的実践を、ドゥルーズ=ガタリ、マルクスなどの理論と出会わせながら、巨大にしてラディカルな思想をうちたてる空前のマニフェスト。壮大なダイナミズムと情動に満ちた、来るべき哲学/運動の序曲。
目次:プロローグ「新しいアナキズムの位相」/第一章「アナキスト地理学とは何か?」/第二章「闘争空間アメリカ」/第三章「都市的蜂起の伝統」/第四章「群島的世界――世界と出会い直すこと、世界を愛し直すこと」/第五章「地球意志」/エピローグ「千の世界の組織論に向けて」

資本主義後の世界のために――新しいアナーキズムの視座
デヴィッド・グレーバー:著 高祖岩三郎:訳 以文社 09年3月 本体:2,000円 四六判上製216頁 ISBN978-4-7531-0267-9
内容:想像力の領域に切り込むアナーキスト人類学の斬新な価値理論が、歴史と未来を同時に読み替え、希望なき資本主義システムのオルタナティヴを提示する。待望のインタビュー集。
目次:まえがき(高祖岩三郎)/グレーバーインタビュー・1「新しいアナーキズムの政治」/グレーバーインタビュー・2「新しいアナーキズムの哲学」/グレーバー最新論文「負債をめぐる戦略」/グレーバー+矢部史郎/対話「資本主義づくりをやめる」/あとがき(高祖岩三郎)

◆ブックリスト「ポスト資本主義社会を考える――反‐経済学、ベーシック・インカム、新しいアナーキズム」

「反‐経済学」関連

(2009.3月発売)『新版 相互扶助論』クロポトキン(同時代社)978-4886836434
(2009.2月発売)『贈与論』マルセル・モース(ちくま学芸文庫)978-4480091994
(2009.3月発売)『ポスト新自由主義――民主主義の地平を広げる』山口二郎編、上野千鶴子、柄谷行人、金子勝ほか(七つ森書館)978-4822809843
(2009.3月発売)『グローバル権力から世界をとりもどすための13人の提言』ネルミーン・シャイク(青土社)978-4791764761
(2009.3月発売)『共生経済がはじまる』内橋克人(朝日新聞出版)978-4022505408
(2008.12月発売)『金融危機の資本論』本山美彦+萱野稔人(青土社)978-4791764624
(1991.11月発売)『愛の労働』ジョヴァンナ・フランカ・ダラ・コスタ(インパクト出版会)978-4755400230
(2006.7月発売)『自然主義の可能性――現代社会科学批判』ロイ・バスカー(晃洋書房)978-4771017566
(2008.5月発売)『ディオニュソスの労働』アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート(人文書院)978-4409030745
(2003.6月発売)『経済の文明史』カール・ポランニー(ちくま学芸文庫)978-4480087591
(1994.4月発売)『想念が社会を創る』コルネリュウス・カストリアディス(法政大学出版局)978-4588004520
(1956.1月発売)『経済学批判』カール・マルクス(岩波文庫)978-4003412503
(2008.8月発売)『ミシェル・フーコー講義集成〈8〉生政治の誕生』(筑摩書房)978-4480790484
(1999.7月発売)『モーラル・エコノミー――東南アジアの農民叛乱と生存維持』ジェームス・C. スコット(勁草書房)978-4326501663
(2002.5月発売)『四運動の理論』上・下巻、シャルル・フーリエ(現代思潮新社)978-4329004192、978-4329004208
(2008.9月発売)『三つのエコロジー』フェリックス・ガタリ(平凡社ライブラリー)978-4582766516
(2008.3月発売)『ポスト・フォーディズムの資本主義』パオロ・ヴィルノ(人文書院)978-4409030752

「ベーシック・インカム」関連

(2009.2月発売)『ベーシック・インカム入門』山森亮(光文社新書)978-4334034924
(2007.11月発売)『ベーシック・インカム――基本所得のある社会』ゲッツ・ W・ヴェルナー(現代書館)978-4768469637
(2008.10月発売)『シティズンシップとベーシック・インカムの可能性』武川正吾(法律文化社)978-4589031129
(2007.4月発売)『VOL02』特集=ベーシック・インカム(以文社)978-4753102549
(2009.4月下旬発売)『ベーシック・インカムの哲学』P・V・パリース(勁草書房)
(2005.5月発売)『自由と保障――ベーシック・インカム論争』トニー・フィッツパトリック(勁草書房)978-4326601851
(2002.10月発売)『福祉社会と社会保障改革――ベーシック・インカム構想の新地平』小沢修司(高菅出版)978-4901793049
(2008.4月発売)『ネオリベ現代生活批判序説』増補版、白石嘉治・大野英士編(新評論)978-4794807700
(2009.3月発売)『生存権――いまを生きるあなたに』立岩真也、岡本厚、尾藤廣喜(同成社)978-4886214782
(2009.3月発売)『唯の生』立岩真也(筑摩書房)978-4480867209
(2009.3月発売)『週刊金曜日』特集「貧困脱出の切り札 ベーシックインカム」2009年3月6日741号
(2008.12月発売)『思想地図』VOL.2 特集=ジェネレーション(日本放送出版協会)978-4140093412

「新しいアナーキズム」関連

(2009.3月発売)『新しいアナキズムの系譜学』高祖岩三郎(河出書房新社)978-4309244693
(2009.3月発売)『資本主義後の世界のために』デヴィッド・グレーバー(以文社)978-4753102679
(2009.3月発売)『権力を取らずに世界を変える』ジョン・ホロウェイ(同時代社)978-4886836427
(2009.3月発売)『闘争のアサンブレア』廣瀬純+コレクティボ・シトゥアシオネス(月曜社)978-4901477451
(2009.4月下旬発売)『2008年に何が起きたのか?』(仮題)白石嘉治+矢部史郎(新評論)
(2006.11月発売)『アナーキスト人類学のための断章』デヴィッド・グレーバー(以文社)978-4753102518
(2008.7月発売)『歩きながら問う――研究空間「スユ+ノモ」の実践』金友子編著(インパクト出版会)978-4755401794
(2008.8月発売)『素人の乱』二木信、松本哉(河出書房新社)978-4309244471
(2009.2月発売)『チョムスキーの「アナキズム論」』ノーム・チョムスキー(明石書店)978-4750329222
(2005.3月発売)『暗闇のなかの希望――非暴力からはじまる新しい時代』レベッカ・ソルニット(七つ森書館)978-4822805968
(2005.4月発売)『反権力――潜勢力から創造的抵抗へ』ミゲル・ベナサジャグ、ディエゴ・ストゥルヴァルク(ぱる出版)978-4827201659
(2006.4月発売)『愛と暴力の現代思想』矢部史郎+山の手緑(青土社)978-4791762637
(1997.10月発売)『T.A.Z.――一時的自律ゾーン』ハキム・ベイ(インパクト出版会)978-4755400599
(2008.6月発売)『VOL03』特集=反資本主義/アート(以文社) 978-4753102631
(2006.5月発売)『VOL01』特集=アヴァン・ガーデニング(以文社) 978-4753102471
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by urag | 2009-03-27 19:28 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2009年 03月 25日

近刊チェック《知の近未来》:09年3月25日

ほら、だから言ったじゃありませんか、業界再編のキーマンは丸善の小城武彦社長だって。WBCでの日本二連覇は確かに国民的ニュースです。イチローの2点勝ち越しのセンター前ヒット、最高でした。ただ、業界人にとっては、これまた大きなニュースがありました。

先に丸善や図書館流通センターと提携した大日本印刷が、今度はジュンク堂書店の発行済株式の51%を今月18日付で取得。さらに昨日24日には、丸善の決算会見の席上で、小城武彦社長がこんなことを公表したのです。丸善とジュンク堂書店と大日本印刷の三社は経営統合を視野に入れた提携協議を開始した、と。なんですって?!

新文化の記事→ http://www.shinbunka.co.jp/news2009/03/090324-03.htm

丸善とジュンク堂。正直、考えられない取り合わせです。むろん、将来的に経営統合したところで、丸善ブランドとジュンク堂ブランドがひとつになって、「丸善ジュンク堂書店」が誕生するほど簡単ではないと思います。店構えが現時点ではあまりにも違う。小城さんはあわよくば、オンライン書店大手、例えばアマゾンの日本法人をも飲み込みたいんじゃなかろうか。さらに言えば、大手版元とも提携しちゃうのかもしれない。音羽か一ツ橋ほどの大物と。

大手ナショナル・チェーン同士の提携協議は、ライバルである紀伊國屋書店や新興勢力のブックファーストなどに衝撃をもたらすだけではなくて、取次や版元との力関係にも影響を及ぼしていくのでしょう。いったいこの先、どうなるんだろう。

……さて、来月の新刊で気になったのは以下の書目である。

2009年04月
01日『アメリカは変われるか?』堤未果 大月書店
02日『肉体の迷宮』谷川渥 東京書籍 1,890円
06日『ドゥルーズ入門』檜垣立哉 ちくま新書 777円
06日『現代美術のキーワード100』暮沢剛巳 ちくま新書 777円
06日『多読術』松岡正剛 ちくまプリマー新書 840円
06日『京都美術鑑賞入門』布施英利 ちくまプリマー新書 819円
07日『神曲 天国篇』ダンテ/平川祐弘訳 河出文庫 998円  
07日『快楽の館』ロブ=グリエ/若林真訳 河出文庫 924円
08日『精神科医がものを書くとき』中井久夫 ちくま学芸文庫 1,260円
08日『クルーグマン教授の経済入門』山形浩生訳 ちくま学芸文庫 1365円  
08日『ゲーテ形態学論集 動物篇』木村直司編訳 ちくま学芸文庫 1365円  
09日『故郷/阿Q正伝』魯迅/藤井省三訳 光文社古典新訳文庫 価格未詳  
09日『善悪の彼岸』ニーチェ/中山元訳 光文社古典新訳文庫 価格未詳
09日『ガムテープで文字を書こう!』佐藤修悦 世界文化社 1,500円
10日『氏神事典――あなたの神さま・あなたの神社』戸矢学 河出書房新社 1,260円
13日『不確実性の時代』ガルブレイス/斎藤精一郎訳 講談社学術文庫 1,470円
14日『光と影 新装版』森山大道 講談社 1,890円
15日『物部・蘇我氏と古代王権』黛弘道 吉川弘文館 1,995円
16日『セザンヌ』ガスケ/與謝野文子訳 岩波文庫 903円  
17日『生物の驚異的な形』ヘッケル/戸田裕之訳 河出書房新社 2,940円
17日『ホーチミン・ルート従軍記』レ・カオ・ダイ 岩波書店 2,940円
20日『救済の星』ローゼンツヴァイク/村岡晋一ほか訳 みすず書房 9,975円
21日『マルクス『資本論』入門』KAWADE道の手帖 河出書房新社 1,575円
22日『21世紀を生き抜くためのブックガイド』岩崎稔+本橋哲也編 河出書房新社 1,680円
23日『さびしい文学者の時代』埴谷雄高+北杜夫 中公文庫 680円
24日『新訳 自殺について』ショウペンハウエル/河井眞樹子訳 PHP研究所 1,365円
25日『ポー短編集(2)』ポー/巽孝之訳 新潮文庫 420円
25日『スピヴァク、日本で語る』本橋哲也ほか訳 みすず書房 2,310円

まず、『クルーグマン教授の経済入門』は先月3点あったクルーグマン(1953-)の新刊の紹介で、日経ビジネス人文庫から刊行されていたが現在は品切、とお伝えしていたものの再文庫化かと思う。ガルブレイス(1908-2006)の『不確実性の時代』は83年に講談社文庫として上下本で刊行されていたものを学術文庫にスイッチして合本したものだろう。当時は上下本各380円。隔世の感を禁じえない。学術文庫ではマルクス『共産党宣言』水田洋訳が昨年末、講談社文庫からスイッチされている。古典の復刊は今後も積極的にお願いしたいものだ。

ローゼンツヴァイク(1986-1929)の『救済の星』は「ついに」という言葉を五回以上繰り返してもいいほどの待望の翻訳である。原著は1921年。現代思想において「メシア的なもの」が考察される時、参照項として欠かせない古典だ。値段はやや悶絶の域ではあるけれど、これは買うしかない。

ヘッケル(1834-1919)の新刊というのは『自然創造史』(2巻本、晴南社、1946年)以来のはずで、63年ぶりではないだろうか。版元紹介文によれば、「太古の原生生物から無脊椎動物、植物から動物まで……なぜ自然界はこんなにも美しいのか? ドイツの博物学者ヘッケルが描いた《芸術的な生物画集》、待望の刊行! 荒俣宏氏推薦!」とのこと。おそらくはこれは"Kunstformen der Natur"(『自然の芸術的形態』)として知られている博物学図譜のことだろう。息を呑むほど美しい極彩色の生物画の数々は、ネットで検索すれば色々サンプル画像が出てくるが、これらをまとめて手元に置いていつでも間近に眺められるようになるというのは何とも嬉しいことだ。

今月「植物篇」が出て来月「動物篇」が出る『ゲーテ形態学論集』や、先月刊行された福岡伸一『動的平衡』(木楽舎)や、昨年刊行のスティーヴン・スキナー『聖なる幾何学』(ランダムハウス講談社)や、イアン・スチュアート『もっとも美しい対称性』(日経BP社)などなど、ヘッケルとともにひもとくと楽しい本は色々ある。自然の造形美やパターン(法則性)の美というのは、時代を超えて人間に訴えかけるものがあると思う。

ヘッケルの新刊とともに私が大いに楽しみにしているのは、工作舎から来月中旬に刊行される予定の、ケプラー(1571-1630)の『宇宙の調和』だ。この本もまた、自然の美、それも天体の数学的音楽的な美に魅せられた著作である。訳者の岸本良彦さんは本書の「解説」でこう書いている。
http://www.kousakusha.co.jp/NEWS/weekly0324.html

「この書では、ケプラーが神学校時代から勉強してきた聖書、ピュタゴラス派、プラトン派、アリストテレス、ストア哲学、幾何学、ガレノス医学さらにグラーツで占星暦の作成にたずさわって以来の占星術理論と、『新天文学』で実測データにもとづいて確立した近代天文学とが響きあい、まさに調和している。ケプラーより以前には、当然のことながら、近代天文学にもとづく宇宙論はありえなかった。(中略)しかしまた、ケプラーの三法則から万有引力の法則を導き出したニュートンによって近代科学へとさらなる一歩を踏み出したケプラー以降には、古代・中世思想の伝統を継承したこのような宇宙論の構想はなくなっていった。すなわち、『宇宙の調和』は科学史の分水嶺に立つケプラーのみが書くことのできたヨーロッパ思想史上の至宝と言えよう」。

宇宙の法則を科学的に探求することと、宇宙の美を直観的に堪能することの間に、現代人の大半はあるいは隔たりを感じているかもしれない。星空を見上げて感嘆することの素朴さは、科学以前の単なる信仰的感情と切って捨てられてしまうのかもしれない。それならば、子ども時代の「感動」というのは総じて宗教の起源ということになってしまうだろう。私たちはこうした「宗教めいたもの」の何を、いったい恐れているのだろうか。もし直観を捨てるならば、私たちは世界との美的な紐帯を失うだろう。それは、生物としての人間に内在する美を無視することでもある。

美は誘惑的であるがゆえに警戒されるが、美への不感症に甘んじるならば、世界と人間が一体であることは無視されるようになり、そこには世界も人間もともに利用すべき消費財としてしか見ない恐るべき功利主義が誕生する。その態度はさらに、それを公然と肯定する傲慢さに裏打ちされる。ケプラーの『宇宙の調和』を出版することはある意味でとてつもなく時代的遅れのように見えるかもしれないが、それは全く違う。科学技術の進歩に無自覚に乗っかってきた現代人が平然と忘却したままでいるところの何ものかを取り戻すために、あの「分水嶺」に私たち自身も立ち会うことがついに今許されようとしているのだ。現代人が自滅する前にこの幸運を享受できるというのは、誰が認めようと認めまいと、またとないまれなチャンスなのである。

発売日が未詳だが、4月新刊には次のものもある。

『コークの味は国ごとに違うべきか?』パンカジ・ゲマワット 文藝春秋 2,000円
『私とは何か』池田晶子/わたくし、つまりNobody編 講談社 1,575円
『死とは何か』池田晶子/わたくし、つまりNobody編 毎日新聞社 1,575円
『ミラー・ニューローン』リゾラッティ/シニガリア 紀伊國屋書店 2,100円
『スクラップブック 1932-1946』カルティエ=ブレッソン写真 岩波書店 8,610円
『戦後日本スタディーズ(2)60・70年代』上野千鶴子ほか 紀伊國屋書店 2,520円

さらに再来月の新刊では、以下のものの予告がすでに出ている。

2009年05月
04日『皇室事典』所功ほか編 角川学芸出版 5,040円
11日『歎異抄』阿満利麿訳/注/解説 筑摩書房 10,500円
11日『ジョン・ケージ著作選』小沼純一編 筑摩書房 1,050円
11日『ゲームの理論と経済行動1』フォン・ノイマン+モルゲンシュテルン/銀林浩ほか監訳 阿部修一ほか訳 筑摩書房 1,575円
20日『ナショナリズム論・入門』大澤真幸+姜尚中編 有斐閣 2,310円
22日『新エディターシップ』外山滋比古 みすず書房 2,625円
25日『ならず者たち』デリダ/鵜飼哲+高橋哲哉訳 みすず書房 4,200円

驚くべきは『ゲームの理論と経済行動』である。値段からすると学芸文庫だろうか。もともとは東京図書より72年から73年にかけて全五巻で刊行されたもので、第一巻が『経済行動の数学的定式化』阿部修一訳、第二巻が『2人ゲームの理論』橋本和美訳、第三巻が『n人ゲームの理論』下島英忠訳、第四巻が『ゲームの合成分解』銀林浩訳、第五巻が『非零和ゲームの理論』宮本敏雄訳、となっていた。言うまでもなくゲーム理論の古典中の古典だが、絶版になって久しく、古書価は高く、なおかつなかなか市場でお目にかからない。今回は全三巻になるという。再来月発売の第一巻の訳者は、阿部修一と橋本和美の両氏である。ということは、全五巻本を再編集した抄録版となるのかもしれない。

外山さんの『新エディターシップ』は編集論の名著『エディターシップ』(1975年)の新版だろうか。こんにちの編集論の花形は、松岡正剛さんの「編集工学」ということになるのだろうけれど、外山さんの編集論とて、今なお新鮮であり、まったく古びてはいない。旧版の掉尾を飾るエッセイ「編集人間」の結びの言葉はこうである。

「ものごとが理解できるというのも、心の目で関係を認めて、既存の秩序と結びつけたときの現象である。こういうことに注意するならば、人間の営みは何ひとつとしてエディターシップによらないものはないように思われる。人間文化はエディターシップ的文化以外の何ものでもない。/われわれはすべて、自覚しないエディターである」(190頁)。

けだし名言である。先に私はケプラーの『宇宙の調和』の刊行を喜んで、贅言を弄したけれど、つまりは外山滋比古さんの上記の言葉を引けばそれで事足りただろう。人はたとえ自覚していなくても誰もが編集者であり、自覚するならばその人は、人と人との間、人とモノとの間、モノとモノとの間の結びつきに変化をもたらす革命家としての編集者になるだろう。
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by urag | 2009-03-25 23:43 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
2009年 03月 23日

注目新刊:芸術書篇/本の本篇

◎注目新刊:芸術書篇

ユルギス・バルトルシャイティス『異形のロマネスク――石に刻まれた中世の奇想』馬杉宗夫訳、講談社、09年3月、1800円、ISBN978-4-06-215344-7
まさか講談社からバルトルシャイティスの翻訳が出るとは夢にも思いませんでした。訳者の馬杉さんの著書が講談社から刊行されていますから、そのご縁だろうと思うのですが、リブロポートや国書刊行会が出版してきたようなハードコアな研究書の企画を講談社で通せるとはとうてい考えられなかったことです。さすが講談社だからこその値段で、出版助成金があったとはいえ、力の差を見せ付けられた気がします。書名からは何の訳書なのか判然としませんでしたが、フランスにおいて主に1980年代以降にフラマリオン社から再刊されたことのある彼の著書の中で未訳のまま残っているのは"Formation, Deformation"のみだったので、もしやと思ったらやっぱりそうでした。もともとは1931年に出版された『ロマネスク彫刻における装飾様式』という本で、パリ大学に提出された博士論文です。「訳者あとがき」によれば、「1950年に、故吉川逸治先生が翻訳すべく、バルトルシャイティス本人から許可状をもらっておられたそうである。どうしたいきさつで、翻訳が実現されなかったのかは、お伺いする機会はなかった」とのことです。バルトルシャイティスの師匠であり舅であるアンリ・フォション(フォシヨンとも)のもとで吉川先生は学ばれたそうで、馬杉さんがパリ大学博士課程の折に指導教官だったルイ・グロデッキもフォションの高弟、というそういうつながりがあったわけです。今回の訳書の著者紹介では『幻想の中世』がリブロポートから刊行となっていますが、のちに平凡社ライブラリーから上下巻で刊行されており、現在は版元品切です。なお、平凡社ライブラリーでは、さいきんフォションの『形の生命』(杉本秀太郎訳、岩波書店)が40年ぶりにご本人により改訳されて刊行されました。同ライブラリーの、もうひとつのフォションの訳書『ラファエッロ』は品切。ちくま学芸文庫版の阿部成樹訳『かたちの生命』も品切で、アマゾン・マーケット・プレイスではなんと現在2万円近い値段で出品されています。悲しいというか、けしからんというか。最後に一言。バルトルシャイティスの主要著作で再刊されたもののうち、未訳のまま残っているのは"Formation, Deformation"のみだと先ほど書きました。正確に言えば、翻訳予定があることを見かけたことはあるけれど実際には未刊のままの書目が、もう一点あります。『覚醒と驚異――幻想のゴシック』です。これは、『バルトルシャイティス著作集(4)鏡』の月報に付された「バルトルシャイティス書誌」によれば、弥永信美さんの訳で平凡社刊行予定と書いてありました。94年当時のことです。気長に待つしかないと思います。

バーバラ・M・スタフォード『実体への旅――1760年‐1840年における美術、科学、自然と絵入り旅行記』高山宏:訳、産業図書、08年8月、8000円、ISBN978-4-7828-0164-2
もう半年以上前の本になりますが、今まで取り上げそびれていたので。この本が刊行されたことは発売時から知っていましたが、書店で現物を見たのはその数ヵ月後のことです。菊判より大きいの大型本などめったにない人文書の現代思想の棚で、燦然と輝き、存在感を放っていました。大型で厚い本に弱いのです。片手で持って立ち読みするのが辛いほど。これまでのスタフォードの本のようにA5判だろうと踏んで、探すのを後回しにしていた自分を恨みました。印象的なカバーと帯は戸田ツトムさんによるもの。イマジネーションを喚起させる素晴らしい装丁と帯文のハーモニーです。いっぽう本文は横組で、ごくシンプルなレイアウト。戸田さんに中身もやっていただいたほうがよかったのに。図版がすべて白黒なのもちょっと惜しいです。訳文は高山宏さんの愛情に満ちたノリのいい文章で、今回もスタフォードさんの博識にノックアウトです。この本は読者を未知なる過去への途方もない「旅」に連れて行ってくれます。

小島一郎写真集成』青森県立美術館:監修、インスクリプト、09年1月、3800円、ISBN978-4-900997-23-3
この写真集はあれこれ感想を述べるより、とにかく現物をみていただくのが一番だと思います。何度見直してみても飽きない逸品です。暗い空と明るい雪原のコントラスト。青森の空の見事な表情を捉える絶妙さといったらありません。ヒステリック・グラマーの写真集を扱っているオンラインストア「BUENOBOOKS」の、小島一郎写真集『hysteric eleven』(完売)のギャラリーでサンプル写真が見れます。

榎本敏雄写真集『かぎろひ 陽炎[櫻・京・太夫]』平凡社、09年2月、4200円、ISBN978-4-582-27771-5
桜の季節にぴったりの写真集です。特に、深い奥行きの桜の木立が地表を果てなく覆う水面に逆さに映っている作品などは、恐ろしく幻想的で、思わず我を忘れて見入ってしまいます。これはいったいどこの山奥の風景なのだろうと思ったら、春嵐一過の代々木公園なのでした。すごいなこれ。

◎注目新刊:本の本篇

西野嘉章『西洋美術書誌考』東京大学出版会、09年1月、8800円、ISBN978-4-13-080211-6
帯文に「美術書の宇宙――16世紀初頭からフランス革命前夜までの古文献書誌総覧」とあります。グーテンベルク聖書以後の古い美術書に興味のある人にとっては、ありがたい本です。カラー図版107点収録、となっていますが、掲載されている本はもともとほとんどモノトーンなので、カラーではなく白黒印刷でもよかったんじゃないかと思わせるのですが、そこがさすがに西野先生のこだわりです。造本も『装釘考』(玄風舎、2000年)同様、実に瀟洒に仕上がっています。気がかりでならないのは、『装釘考』と同様、文字のみの頁では藁半紙のように軽くて独特の風合いの本文紙を使用しておられることです。これは怖い。酸化が普通の上質紙に比べて早いはずだからです。『装釘考』は函入本ですが、函に入れたまま大切に保管しても酸化は免れません。頁の三方から徐々に内側に向かってヤケが進行していきます。いわんや今回の本はカバー装で本体が剥き出しになりますから、酸化はいやがおうでも早いでしょう。私はこの用紙は個人的には大好きなのですが、長期保存が難しいのが難点です。うつろうまでのほんのひとときを愛でる、という意味では昨今にない「はかなさ」を導入した造本の妙と言うべきではあるものの、せめて函入にしてくださればよかった。函入で一万円を超えたとしても、そのほうが良かったかもしれません。「あとがき」で示された西野先生のご構想によれば、本書は、「時代や地域や範疇のまったく異なった文献群を対象とする三つの研究をひとつに束ね、造本と書誌と伝播の三方向から古今東西の印刷物を吟味しなおす」三部作である、『装釘考』『文献考』『誌紙考』のうちの第二巻(『文献考』)に相当するそうです。ということは、いずれ『誌紙考』が刊行されるということになるのでしょう。鶴首して待ちます。

ジュゼップ・カンブラス『西洋製本図鑑』市川恵里:訳、岡本幸治:日本語版監修、雄松堂出版、08年12月、6600円、ISBN978-4-8419-0499-4
A4変型(305×235mm)の大判で、上製本、中身は写真多数のフルカラー160頁。これで6600円というのは版元の努力の賜物だと思います。古典籍を修復したり解体して製本しなおしたり、とにかく大切にする文化が今なお残っている西欧の製本技術の細かい工程を写真付きで見ることができます。著者はスペインの製本家。この本は、広く「著者」にまず読んでもらいたいです。現在のオフセット印刷と製本技術は、本書のようには細かい手作業ではありませんが、それでも、本が出来上がるまで、製本ひとつをとってもどれほどの作業が積み重ねられているのか、どれほどの愛情が込められているのかが、本書で十分に理解できると思います。書物は本当は使い捨てにされるような存在ではないのだということがよく分かると思います。使い捨てにしているのは出版社じゃないかって? 冗談はよしてください。たしかに使い捨てにする会社もあります。しかし、実際のところ、出版人が書物に注ぐ愛情について、いったいどれほどの人がどこまで知っているでしょうか。

内沼晋太郎『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』朝日新聞出版、09年3月、2200円、ISBN978-4-02-250546-0
弱冠28歳のブック・コーディネーターの記念すべき第一作です。私が編集同人をつとめている「[本]のメルマガ」25日号に掲載されている彼の連載も、加筆されてこの本に収められています。ブック・コーディネーターというのは平たく言えば、要するに「選書業」です。選書業を専門にしておられる人はまだ全国的には少ないです。有名どころでは、安岡洋一(1967年生まれ。メメックス/ハックネット)、江口宏志(1972年生まれ。ユトレヒト)、幅允孝(1976年生まれ。バッハ)、内沼晋太郎(1980年生まれ。numabooks)の各氏といったところ。彼らは業界の既成の土俵の上でゴチャゴチャやるよりは、業界の外に「本がある場所/風景」をどんどんつくっています。例えば「情熱大陸」で紹介されてますます有名人になった幅さんの今までの実績を見てください。業界内部の人間だとどうしてもしがらみが多すぎてできなかったことを、彼らは実践しています。学ぶことはたくさんありますし、私自身、彼らの自由な発想に大いに共感しています。そもそも選書の仕事というのは、書店さんの仕事の手伝いとして、版元営業もやります。ブックフェアなどは日常茶飯事ですし、私の場合、これまで人文書売場に、「人文文庫棚」(紀伊國屋書店新宿本店ほか)や、「人文洋書棚」(ジュンク堂書店池袋本店)や、「反戦平和棚」(ジュンク堂書店新宿店)などをつくるお手伝いをしました。今は、「エコ書店論」を構想して、オルタナティヴな書店像と出版流通の近未来をあれこれ考えています。内沼さんは彼一流の柔軟な発想で、次々と活躍の場を広げています。彼の足跡と、彼の仕事の「哲学」に触れていただくには、今回の新刊を読んでいただくのが一番です。ぜひ、たくさんの若い読者に読んでもらいたいです。
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by urag | 2009-03-23 03:53 | 本のコンシェルジュ | Trackback(1) | Comments(0)
2009年 03月 23日

注目新刊:人文書古典篇(単行本/文庫本)

多忙につきここしばらく「注目新刊」をブログにアップしていなかったので、昨年末からこれまでに刊行された書目の中から、特記しておきたいものについてかんたんにおさらいします。まずは人文書古典篇(単行本/文庫本)をアップします。続いて芸術書篇、本の本篇、現代思想篇と続く予定で、書目をピックアップ済みですが、いつアップできるかは正直わかりません。価格はすべて本体価格(税別)です。

◎人文書古典篇(単行本)

マハバーラト 第四巻』、池田運:訳、講談社出版サービスセンター、09年1月、5000円、ISBN978-4-87601-810-9
ヒンディー語版からの完訳です。自費出版とは言え、挿画も造本も立派ですし、なにより完訳というのが素晴らしいです。これまでに英訳からの重訳版(『マハーバーラタ』全9巻、山際素男編訳、三一書房、1991年-1998年)や、訳者の逝去により中断されたサンスクリット語原典からの翻訳(『原典訳マハーバーラタ』既刊8巻、上村勝彦訳、ちくま学芸文庫、2002年-2005年、未完)などがありました。池田運さん(1928-)はこれまで『バガヴァッド・ギーター』や『ラーマーヤナ』もヒンディー語から訳されており、同サービスセンターから出版していらっしゃいます。それぞれ重版されていて、2000年刊の『シュリマド・バガワットギータ』は3刷、2003年刊の『ラーマーヤン』は2刷です。自費出版本はほとんど書店店頭に置かれないだけに重版というのはすごいと思います。『マハバーラト』は2006年に第一巻が刊行され、一年に一巻ずつ自費出版されて、今回の第四巻で完結です。私は第四巻をジュンク堂書店池袋店の人文書新刊棚に一冊ささっているのを見つけて購入したのですが、こういう思いがけない出会いは嬉しいものです。なぜ「バーラタ」ではなく「バーラト」なのかは訳者あとがきを読めば分かります。

アルビノス他『プラトン哲学入門』中畑正志:編、鎌田雅年/木下昌巳/國方栄二/久保徹/村上正治/脇條靖弘:訳、京都大学学術出版会、08年12月、4100円、ISBN978-4-87698-180-9
西洋古典叢書第IV期第14回配本。帯文に曰く「紀元後2~5世紀の古代ギリシア・ローマ人による、入手しがたいプラトン哲学の案内書をここに一書にまとめる。この時代の哲学は一般に「中・後期プラトン主義」と呼ばれているが、わが国ではほとんどその実態が知られていないので、その内実を知る上でも重要」と。収録されているのは、アルビノス『プラトン対話篇入門』、アルキノオス『プラトン哲学講義』、アプレイウス『プラトンとその学説』、ディオゲネス・ラエルティオス『プラトン伝』、オリュンピオドロス『プラトン伝』、著者不明『プラトン哲学序説』。今となっては貴重な目録「西洋古典叢書がわかる――西洋古典ミニガイドブック」の巻末に記載された刊行予定には、カルキディウスの『ティマイオス注解』、オリュンピオドロスの『ゴルギアス注解』や『パイドン注解』、プロクロスの『プラトン神学』や『ティマイオス注解』や『パルメニデス注解』や『神学綱要』、プロティノスの『エンネアデス』、ダマスキオス『第一の原理について』などが挙がっています。こうした夢のようなラインアップがいったいいつこれらが読めるようになるのかは想像もつきませんが、長生きしたいなと思ったりします。

マックス・ウェーバー『職業としての政治/職業としての学問』中山元:訳、日経BP社、09年2月、1600円、ISBN978-4-8222-4722-5
いまなお感動的な二つの講演が新訳でしかも一冊で読めるというのはありがたいことです。これまでの岩波文庫などが読みにくかったわけではありませんが、今回の新訳ではいっそうこなれた文章になっています。「天職」(清水訳、脇訳)や「職業」(西島訳)とこれまで訳されてきたBerufは、今回「召命[天職]」と訳されています。

ホセ・オルテガ・イ・ガセット『形而上学講義』杉山武:訳、晃洋書房、09年1月、2300円、ISBN978-4-7710-2025-2
編者注によれば本書は、1932年~1933年にマドリッド大学の形而上学講座においてなされた講義の準備用ノート、であるとのことです。「訳者あとがき」で指摘されている通り、講義の冒頭は「意表をつく」ものです。曰く「われわれはこれから《形而上学》を勉強しようとしている。そしてわれわれがしようとしているそのことは、さしあたり虚偽である」。オルテガが虚偽だと言っているのは形而上学ではなくて、「ある学科目を勉強しようとすることの虚偽性」が問題なのだと言っています。ここからオルテガは読む者をぐいぐい引っ張っていくのですが、書名から想像できないくらいに語られていることはアクチュアルです。勉強とは何か」、「学問とは何か」を根本的に問おうとする本書を、私は大学一年生に薦めたいと思います。講義は全部で14回に分割されており、後半の第10回の出だしはこんな感じです。「これまでの講義のなかでわれわれは《形而上学》という名称すらあげてこなかった。その点では、われわれはただ時間を無駄にするだけであったかも知れない、しかしながらきょうわれわれは《形而上学》の考察にもどることにしよう」。いかにも破格な講義のように聞こえますが、この講義はオルテガ流の「生の哲学」への入門篇とでも受け取るべき内容で、当時の聴衆は大いに傾聴したのではないかと想像できます。

フェルディナン・ド・ソシュール『一般言語学 第三回講義』増補改訂版、小松英輔:編、相原奈津江・秋津伶:訳、エディット・パルク、09年3月、3500円、ISBN978-4-901188-07-4
コンスタンタンによる講義記録の旧訳を全面的に見直し、訳注と索引を充実させ、今回新たにソシュールの自筆講義メモを加えたもの。初版(03年2月)にあった西川長夫さんによる解題「甦るソシュール」は、今回の版では収録されていません。頁数の都合とのお話を版元さんより伺いました。エディット・パルクさんでは、これまで「ソシュール一般言語学講義」の『第一回講義』(リードランジェによる講義記録)や『第二回講義』(リードランジェ/パトワによる講義記録)の翻訳も刊行されています。

ペーター・ソンディ『ヘルダーリン研究――文献学的認識についての論考を付す』ヘルダーリン研究会:訳、法政大学出版局、09年1月、2800円、ISBN978-4-588-00901-3
『現代戯曲の理論』(ペーター・ションディ著、市村仁/丸山匠訳、法政大学出版局、79年7月)以来の、久々の訳書になります。収録されているのは、「文献学的認識について」「別の矢――讃歌の後期様式の成立史に寄せて」「かれその人、祝祭の王――讃歌『平和の祭り』」「擬古典主義の克服――1801年12月4日付ベーレンドルフ宛書簡」「ジャンル詩学と歴史哲学――シラー、シュレーゲル、ヘルダーリンについての補説を付す」「付録『悲劇の意味』(本文と注解)」です。巻末の年譜によれば、ソンディの著作は全二巻本が77年に刊行されており、それに先立つ73年から75年に講義録全五巻が刊行され、近年では書簡集が93年に、また『ツェラン-ソンディ往復書簡集』が05年に刊行されています。すべてSuhrkamp社からの出版。個人的には上記のツェランとの往復書簡集や72年刊の『ツェラン研究』などが早く翻訳されて欲しいところです。今のところ日本語で読めるのは、「『迫奏〔ストレッタ〕』を読む――パウル・ツェランの詩篇についてのエッセー」(飯吉光夫訳、『世界の文学(38)現代評論集』所収、集英社、1978年)くらいでしょうか。

マルティン・ハイデガー「建てる 住む 思考する」大宮勘一郎:訳、KAWADE道の手帖『ハイデガー――生誕120年、危機の時代の思索者』所収、河出書房新社、09年3月、1500円、ISBN978-4-309-74025-6
昨年、中央公論美術出版から刊行された中村貴志編訳『ハイデッガーの建築論――建てる・住まう・考える』に続く新訳です。参考までに、道の手帖『ハイデガー』の内容を以下に列記します。興味深い内容になっていると思います。

▼翻訳
マルティン・ハイデガー『建てる 住む 考える』訳=大宮勘一郎
▼インタビュー
高田珠樹「ハイデガー第二世紀の20年目に」聞き手=編集部
田崎英明「フランスにおけるハイデガー思想」聞き手=編集部
▼論文
磯崎新「なぜ、ハイデガーは建築〔アーキテクチュア〕を語らないのか。」
谷徹「現象学という方法:フッサールとハイデガー」
合田正人「城から城:レヴィナスとハイデガー」
杉本隆久「〈思考されざるもの〉:メルロ=ポンティとハイデガー」
大宮勘一郎「揺れる大地:ベンヤミンとハイデガー」
安藤礼二「ハイデガーからスフラワルディーへ:アンリ・コルバンとハイデガー」
長原豊「用象=集-立と元有――試論:マルクスとハイデガー」
池田喬+手塚博「表象・有限性・技術:フーコーとハイデガー」
上田和彦「「赦しえない沈黙」再考:ブランショとハイデガー」
西山雄二「父の反例:デリダとハイデガー」
和田伸一郎「現実界の現象学:ヴィリリオとハイデガー」
増田靖彦「根拠と発生をめぐって:ドゥルーズとハイデガー」
▼主要著作・論文解題
池田喬『アリストテレスの現象学的解釈』
齋藤元紀『ハイデッガー カッセル講演』
池田喬『存在と時間』
誉田大介『芸術作品の根源』
山本英輔『哲学への寄与』
串田純一『貧しさ』
江黒史彦『「ヒューマニズム」について』
吉田恵吾『言葉についての対話』
▼日本人とハイデガー(再録アンソロジー)
マルティン・ハイデッガー「原子力時代と「人間性喪失」(小島威彦氏へ)」
手塚富雄「ハイデガーとの一時間」
和辻哲郎「『風土』序言より」
三木清「ハイデッゲル教授との想い出」
田辺元「危機の哲学か哲学の危機か」
ハイデッガー×久松真一「芸術の本質」
木田元「ハイデガーとの付き合い方」
▼コラム
池田喬「YouTubeで見るハイデガー」
▼資料
ハイデガー略年譜

◎人文書古典篇(文庫本)

ピロストラトス『英雄が語るトロイア戦争』内田次信:訳、平凡社ライブラリー、08年10月、1300円、ISBN978-4-582-76652-2
「ホメロスが語らなかったトロイア戦争の実相を、参戦し戦死した英雄プロテシラオス自らが、彼を抱擁し言葉を交した者の口を通じて証す」(カバー説明文より)という体裁の対話編。

カエサル『ガリア戦記』石垣憲一訳、平凡社ライブラリー、09年3月、1500円、ISBN978-4-582-76664-6
訳者の石垣憲一さん(1971-)は翻訳家兼プログラマで、今回の翻訳のもととなったのはラテン語メーリングリストの『ガッリア戦記』読書会だそうで、老若男女20名が翻訳に参加した成果を、石垣さんがあらためて訳し直して世に問うものだそうです。同メーリングリストでは現在、『内乱記』を翻訳中だそうです。

セネカ『怒りについて 他二篇』兼利琢也:訳、岩波文庫、08年12月、860円、ISBN978-4-00-336072-9
岩波版『セネカ哲学全集』第一巻から、「怒りについて」「摂理について」「賢者の恒心について」を一冊にして文庫化したものです。旧版『怒りについて 他一篇』(茂手木元蔵訳、1980年)はこれで絶版になるのですね。もったいない。ギリシア語やラテン語の古典は、訳者によって解釈が異なることがままありますから、旧訳とて絶版にする必要はないのに、と私はいつも思います。旧版では「怒りについて」と「神慮について」が収録されていました。後者は兼利訳では「摂理について」となっています。セネカはご承知のように皇帝ネロの時代のローマ帝国に生き、ネロの教育係でしたが、謀反のかどでネロから自害を命じられます。危機と混沌の時代に生きたゆえか、セネカは現代人の不安な日常にも訴えかける筆力を持っています。古代ローマ期ではマルクス・アウレリウス、エピクテトスなどと並んで私の好きな哲学者です。

ルネ・デカルト『哲学原理』山田弘明/吉田健太郎/久保田進一/岩佐宣明:訳・注解、ちくま学芸文庫、09年3月、1200円、ISBN978-4-480-09208-3
第一部の新訳と注解です。訳者の山田さんは同文庫から刊行された『省察』も翻訳されています。『哲学の諸原理 Principia Philosophiae』の文庫化には、岩波文庫の桂寿一訳『哲学原理』、角川文庫の桝田啓三郎訳『哲学の原理』がありましたが、現在は前者が在庫僅少、後者は絶版です。なお、同書の全訳を読むためには、朝日出版社の『科学の名著 第II期第7巻 デカルト』に収録されている『哲学の原理』(井上庄七/水野和久/小林道夫/平松希伊子:訳)をひもとかねばなりません。『科学の名著』シリーズは本書だけでなく今なお「空前絶後」の成果と言えると思います。

ゲーテ形態学論集 植物篇』木村直司:編訳、ちくま学芸文庫、09年3月、1500円、ISBN978-4-480-09185-7
木村直司さん(1934-)は同文庫でゲーテ『色彩論』を刊行済みです。今回の『ゲーテ形態論集』は、今回の植物篇の目次によれば、動物篇も刊行される予定のようです。植物篇は、「形態学――有機体の形成と変形」と「植物学」の二部構成で、後者には長篇の「植物のメタモルフォーゼ試論」などが含まれています。動物篇は「観相学」と「動物学」の二部構成。

マルセル・モース『贈与論』吉田禎吾/江川純一訳、ちくま学芸文庫、09年2月、1200円、ISBN978-4-480-09199-4
吉田さんによる「訳者あとがき」によれば、「訳出にあたっては、有地享訳『社会学と人類学』(弘文堂、1973)を参照したが、注が途中で脱落しているところもあり、二つの英訳、カニソンのものとホールズのものを参考した」とのことです。有地訳『贈与論』は『社会学と人類学』二分冊のうち第一分冊に収録されており、それに先立って勁草書房から単行本として62年に刊行されていました。勁草書房版は08年6月に新装版が刊行されています。
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by urag | 2009-03-23 02:00 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2009年 03月 20日

ETV特集「犬の記憶」09年3月15日放映

NHK教育テレビの番組「ETV特集」で、さる日曜日09年3月15日、「犬の記憶~森山大道・写真への旅」が放映されました。

内容・・・・「まるで淋(さみ)しき野良犬のように、時代の路上をさすらい続ける写真家森山大道。1960年代のデビュー以来、徹底して都市の路上スナップにこだわり続けてきた森山の写真が、今、世界的注目を集めている。パリ、ニューヨーク、ブエノスアイレス、ハワイ、東京・・・。なまめくモノクロームの世界に、日々、凶々(まがまが)しく変貌(へんぼう)を遂げる都市と人間たちのありさまを、まさに犬の眼(め)で記録した圧倒的な作品群。昨年秋、70歳を迎えた森山は、これまでの集大成ともいうべき新シリーズ、「TOKYOオン・ザ・ロード」の撮影にとりかかった。京成立石、三ノ輪、南千住など東京の下町からライフワークである新宿の路上へ、らせん状に東京を撮り尽くす予定だ。写真とは記憶と現在のゆくりなき邂逅(かいこう)だと森山はいう。番組では、森山の写真家的日常に密着しながら、大阪釜ヶ崎、東京新宿、青森三沢など、森山の生きた都市と時代の記憶を辿って、その写真の世界を旅していく。それは、虚(うつ)ろな現代日本の失われた未来を探し求める、写真の旅である」。

弊社では森山大道さんの写真集として、『新宿+』、『大阪+』、『ハワイ』を刊行しており、全国の大型書店にて好評発売中です。このほかにも品切重版未定ですが、『新宿』、『NOVEMBRE』といった写真集も刊行しておりました。この2点についてはごくまれに返品が生じることがあります。今回の放送をきっかけに在庫を総ざらいしたところ、この2点をそれぞれ数冊ずつ「発掘」しました。美本ではありませんので、コレクター向きではありません。「どうしても欲しい、なんとか入手したい」という方で、本のコンディションが「難あり」という条件を許容してくださる方にのみ、お分けいたします。弊社公式ウェブサイトに掲げてあるEメールアドレスまでお問い合わせ下さい。先着順の限定販売です。なお、実物を事前に見たい、というご要望には申し訳ありませんがお応えすることができませんので、なにとぞご了承下さい。税込書籍代のほか、送料が実費でかかります。お支払いは郵便振替による前金となります。発送は4月上旬を予定しております。

なお、ウェブ販売限定で、『ハワイ』サイン本やポスターセットなども販売しておりますので、こちらの特設ページをご覧下さい。
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by urag | 2009-03-20 19:29 | 森山大道 | Trackback | Comments(0)
2009年 03月 20日

シンポジウム「人文学の危機と出版の未来」@東京外国語大学

下記のイベントに参加いたします。皆様のお越しをお待ちしております。

◎東京外国語大学出版会発足記念特別シンポジウム「人文学の危機と出版の未来」

日時:2009年4月22日 15時―18時
場所:東京外国語大学本部管理棟2階 大会議室

総合司会:谷川道子(東京外国語大学教授、附属図書館前館長)
ご挨拶:亀山郁夫(東京外国語大学長、ロシア文学)
パネラー:大塚信一(岩波書店元社長、東アジア出版人会議最高顧問)/小林浩(月曜社取締役)/田口久美子(ジュンク堂書店池袋本店副店長)/和田忠彦(東京外国語大学副学長、イタリア研究)
進行:岩崎稔(東京外国語大学出版会編集長)

内容:「グーテンベルクギャラクシーの終焉」ということがささやかれ始めてからすでに久しくなっています。活字離れどころか、人文社会科学の知が総じて陳腐化させられているとまでいわれる時代に、出版と書物にはどのような未来が待ち受けているのでしょうか。また知と教養の再生・再構築の道筋は、どのように描けるのでしょうか。危機のなかにいまあえて船出する東京外国語大学出版会は、この問題をめぐって、斯界の論客をお招きして、熱く論じてみます。みなさま、ぜひお運びください。なお、シンポジウム終了後に、立食パーティを予定しております。お気軽にご参加ください。

【会場へのアクセス】 西武多摩川線(JR中央線武蔵境駅にて乗り換え)多磨駅下車徒歩4分。あるいは、京王線飛田給駅下車北口からの循環バスで5分「東京外国語大学前」下車。

東京外国語大学出版会
住所:東京都府中市朝日町3-11-1 TEL:042-330-5559/FAX:042-330-5199
e-mail: tufspub@tufs.ac.jp

***

東京外国語大学出版会の第一弾ラインナップがいよいよスタートします!

2008年10月に発足いたしました東京外国語大学出版会は、
①スリリングな教養の旅の水先案内人となる叢書〈Pieria Books=ピエリア・ブックス〉を
②傑出した研究成果である最先端の学術書(人文社会の専門書)を
③豊かな教育実践に裏打ちされた決定版の教科書(語学教科書、参考書)を
みなさんのもとにお届けしていきます。

本学の特色である国際性・学際性に富んだ企画、社会的関心の高いテーマ企画が目白押しです。芯の通った独自のエディターシップを発揮して、大学からの知の発信に意欲的に取り組んでいきます。ご期待ください。第一弾のラインナップは下記の3点です。ぜひお近くの書店でお買い求めください。

Pieria Books
『ドストエフスキー 共苦する力』(亀山郁夫著 東京外国語大学長)
四六判・並製・272頁・定価:本体1400円+税 4月10日発売予定 ISBN978-4-904575-01-7
いまなぜ、ドストエフスキーなのか。『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』『悪霊』『白痴』の四大長編の深奥に分け入り、そこに隠された秘密のメッセージを多様に読み解きながら、神なき時代に生きる現代人の救いのありかをさぐる。

Pieria Books
『身体としての書物』(今福龍太著 東京外国語大学教授)
四六判・並製・320頁・定価:本体1600円+税 3月31日発売 ISBN978-4-904575-02-4
ボルヘス、ジャベス、ベンヤミン、グリッサンらの独創的なテクストを読み解きながら開示される、「書物」という理念と感触をめぐる新たな身体哲学。本学のゼミナールから生まれた画期的な書物論、全14講!

『中上健次と村上春樹 〈脱六〇年代〉的世界のゆくえ』(柴田勝二著 東京外国語大学教授)
四六判・上製・352頁・定価:本体2500円+税 3月31日発売 ISBN978-4-904575-03-1
現代日本文学を疾走してきたふたりの作家は、時代とどう向き合い、時代をどう描いてきたのか。相異なる作風をもつ両者の差異と重なりを緻密に読み解き、ポストモダンの様相を浮かび上がらせる意欲的文学論!

お求めはお近くの書店へ、お問い合わせは下記まで。

東京外国語大学出版会
〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1 東京外国語大学附属図書館内
TEL:042-330-5559/FAX:042-330-5199 e-mail: tufspub@tufs.ac.jp
http://www.tufs.ac.jp/common/tufspub/
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by urag | 2009-03-20 18:43 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2009年 03月 15日

中公『新書大賞2009』に寄稿しました。

中央公論新社さんから今月発売された『新書大賞2009』の「目利きが選ぶジャンル別3冊」で「哲学・思想」コーナーを担当しました。3冊ということなので、「西洋哲学」「東洋哲学」「現代思想」から以下の通り各1冊ずつを選びました。狙いとしては「知の限界を知る」(西洋哲学)、「リアリティを変える」(東洋哲学)、「時代(いま)を読む」(現代思想)という三題話でした。

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性』高橋昌一郎:著 講談社現代新書 08年6月 740円
「孟子」は人を強くする』佐久協:著 祥伝社新書 08年10月 780円
ポスト消費社会のゆくえ』辻井喬+上野千鶴子:著 文春新書 08年5月 900円

価格表示は本体価格です。字数の関係もあって言及できなかったのですが、上記のほかに候補として考えていたのは次の本でした。

『超訳「資本論」』的場昭弘:著 祥伝社新書 08年5月 840円
『ニーチェ――ツァラトゥストラの謎』村井則夫:著 中公新書 08年3月 960円
『カントの読み方』中島義道:著 ちくま新書 08年9月 700円

『ヨーガ入門――自分と世界を変える方法』北沢方邦:著 平凡社新書 08年2月 760円
『イカの哲学』 中沢新一+波多野一郎:著 集英社新書 08年2月 680円

『不可能性の時代』大澤真幸:著 岩波新書 08年4月 780円
『逆接の民主主義――格闘する思想』大澤真幸:著 角川oneテーマ21 08年4月 724円
『論争若者論』文春新書編集部:編 文春新書 08年10月 740円
『「若者論」を疑え!』後藤和智:著 宝島社新書 08年4月 720円
『「生きづらさ」について――貧困、アイデンティティ、ナショナリズム』雨宮処凛+萱野稔人:著 光文社新書 08年7月 760円
『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』湯浅誠:著 岩波新書 08年4月 本体740円
『リアルのゆくえ――おたく/オタクはどう生きるか』大塚英志+東浩紀:著 講談社現代新書 08年8月 860円
『ネットいじめ――ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』荻上チキ:著 PHP新書 08年7月 740円
『サブカル・ニッポンの新自由主義――既得権批判が若者を追い込む』鈴木謙介:著 ちくま新書 08年10月 740円

『悩む力』姜尚中:著 集英社新書 08年5月 680円
『鬱の力』五木寛之+香山リカ:著 幻冬舎新書 08年6月 740円

***

上記とは別に、昨年に刊行された新書の中で、個人的にインパクトの強かった新書をもしも挙げるとしたら、次の2点がベストになります。

在日一世の記憶』小熊英二+姜尚中:編 集英社新書 08年10月 1600円
サバイバル!――人はズルなしで生きられるのか』服部文祥:著 ちくま新書 08年11月 760円

前者(『在日一世の記憶』)は昨年刊行された新書の中で一番分厚いのではないかと思います。書名の通りの内容で、帯文にはこうあります、「戦後/解放後を生き抜いた在日一世52人の魂の証言集」。つまり聞き書きなのですが、いずれの証言も人生の重みと深みを感じる、非常に素晴らしい本です。単行本ではなく、新書という手に取りやすい体裁で刊行されたことにも好感が持てます。ここしばらくネットの世界では「在日」の方々へのヘイト・スピーチがずいぶん目立つようになってきて辟易しますが、この本がもっと読まれるようになるといいと心から思います。

後者(『サバイバル!』)は、『サバイバル登山』(みすず書房、06年6月)に続く、服部文祥さんの書き下ろし第二弾です。今回の新書では、サバイバル登山の体験記のほかに、サバイバル登山の基礎知識や基本思想なども書かれています。私は服部さんの本は哲学に通じるものがあると思っていて、第一作の刊行当時、ジュンク堂書店の福嶋聡さん(当時池袋本店副店長、現在は大阪本店店長)に熱烈に推薦したことを思い出します。福嶋さんからその後「池袋店でも売れてるよ」と言われた時にはとても嬉しかったです。

『サバイバル!』の名言の数々をご紹介しますと、

「登山は判断の連続で成り立っている。なのに登山者の目に、判断の正誤が見える形であらわれるのは、致命的に誤っていたときだけだ。正しい判断にご褒美はなく、生存という現状維持が許される。小さな失敗は見えない労力や苦痛になって返ってくる。そして決定的な失敗をしたときに、登山者は死という代償を受けとることになる」(7-8頁)。

「フリークライミングの精神とは、登るということを突き詰めることで、もう一度、命の境界線をハッキリさせようということなのだ。/その延長で私は「サバイバル登山」に行き着いた。フェアに地球と向き合おうという考え方から生まれた登山スタイルの一つである。/装備に頼らずに原始的な山塊に入り込んでいくと、生々しい身体感覚や明暗さまざまな感情を次から次へと感じることになる。それは自分という人間が存在を持って立ち現れてくる瞬間でもある」(34頁)。

「登山に遭難する確率がなければそれを登山とはいわない。死ぬ可能性がないものを命とは呼ばないのといっしょである。生+死=命。相反する要素が同居してはじめて意味をなす事象は世の中にあふれている」(211-212頁)。

このほかにも印象的な言葉がありますが、生真面目一辺倒ではなく、思わず笑ってしまうようなユーモラスな記述もがあります(81頁とか)。どうか本屋さんでお買い求め下さい。服部さんの文章を読む時、私は、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンのことを思い起こします。アガンベンが論じる、現代世界における「剥き出しの生」について考えてみると、一方では、アガンベン自身が指摘するような、様々な権力によって強制的に裸にされ(保護や保障を剥奪され)危険にさらされることになる人々の生の過酷さに、否応なく気付かされます。そのもう一方で、自ら裸になって生(き)のままの生存へと接近し体感しようとするサバイバル登山のストイックさというのも、「剥き出しの生」の問題圏の別局面を構成するように思えます。それらはまったく次元を異にすることなのですが、どちらも、生きることと死ぬことについて考えさせてくれると私は感じています。

最近刊行されたアガンベンさんの最新著の書名は奇しくも、『裸形(Nudità)』です。弊社から刊行した『涜神』と同様の、エッセイ集。表題作では、宗教画、解剖図マネキン、現代アートなどにおけるヌードを引き合いにしつつ、神学、政治学、身体論を横断する議論が展開されています。参考図版には日本のやや古いマイナーな映像作品から採ったと思われるSM画像もあって、一瞬目を疑いました。驚くべき守備範囲の広さです。このほか、カフカのヨーゼフ・Kを論じたものですとか、大著『王国と栄光』に通じる「栄光の身体」をめぐる議論、また、「人格/個人(persona)なきアイデンティティ」と題されたエッセイもあります。全11編。

……ちなみに、「新書大賞2009」の大賞を受賞した堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)の受賞記念講演と贈賞式が、今月(09年3月)25日(水)18:30から、三省堂書店神保町本店8F特設会場で行われるそうです。また、取次大手の日販さんでは、「3月10日(火)発売の『新書大賞2009』(中央公論新社刊)にて掲載される「決定 新書大賞2009」の発表を記念し、上位の新書銘柄を集めたフェアを取引先書店店頭にて展開」する、と発表されています。
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by urag | 2009-03-15 02:26 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2009年 03月 09日

イベント「暮らし革命 / Life Revolution」@京都・喫茶はなれ

闘争のアサンブレア』の共著者である廣瀬純さんと『ルーツ』の共訳者である遠藤水城さんが、左京区元田中の「喫茶はなれ」というカフェスペースで行われる下記の催しに出演されます。皆様のお越しをお待ちしております。

暮らし革命 / Life Revolution

もてる限りの創造力で、現代社会のだめっぷりを変え、「今」に対する対案を出そうとするプロジェクトが、世界中で増えているような気がします。hanareの活動も、そんな大きな流れの「点」になればと思いながら、会話と煙をくぐらすコミュニティーカフェとして、小さなパンク食堂として、京都の左京区で活動してきました。そして今年で3周年、4月18日には盛大なパーティーを開きます。「あーでもないこーでもない」とうんうんうなりながら、個人の生活から大きな世界情勢までをひっくるめ、芸術的で美しい暮らし方、もう一つの社会のあり方を考える1日にします。料理と飲み物を囲んだパーティーが進行しつつ、坂口恭平さん(美術家)、高嶺格さん(美術家)、廣瀬純さん(龍谷大学専任講師、映画批評家)、遠藤水城さん(インディペンデントキュレーター)という、とびっきり面白い人達のトークがあったり、京野菜と手作り味噌の販売、坂口恭平さんのライブなどなど、支離滅裂かつ、盛りだくさん。4月18日はとにかく左京区に全員大集合!

[日時]2009年4月18日(土) 16:00~22:00
[場所]anchovie Cafe 3F Space
[住所]京都市左京区田中西大久保町47-2
[アクセス]叡山電鉄元田中駅下車すぐ
[料 金]2,000円(1ドリンク&スナック)
[お問い合わせ]info(at)hanareproject.net

★参加を希望される方は、上記メールアドレスまでご連絡くださると来場者人数を把握することができるので、助かります。

★パーティー会場の1階はアンチョビカフェ(イタリアンレストラン)、2階はOKUTE(バー)です。パーティーを途中で抜け出して、1階、2階で話の続きを...という展開もお勧めです。

□パーティー〈16:00-22:00〉
hanare といえばパーティー。 美味しい軽食と飲み物、お腹が空いている人にはしっかりフードも準備しています。だらだら、ワイワイお楽しみください。途中参加もOKです。気軽にお越しください。

□大原からの野菜・味噌販売 〈16:00~〉
京都大原、つくだの棚田で、有機無農薬栽培の野菜と米を作っている、ヴィレッジ・トラスト・つくだ農園(渡辺夫妻+犬1匹)による野菜と、麦味噌/米味噌の販売があります。売り切れ次第終了。

□トーク 〈17:00-19:30〉
「新しい社会のあり方」を考え、実行に移すには、アートの創造性/批評性なくしては始まりません。という訳で、トークゲストには、アートは社会の中でどのような力を持ちうるのかを思考し、いろんな方法でもって実践している人たちを招いています。たくさん喋って、アイデアを交換できる場にします。

□ライブ 〈20:30-21:00〉
坂口恭平によるアコースティックライブ。ケニアのナイロビでマスターしてきた曲を中心に、坂口ワールドが炸裂します。

[ゲスト]
高嶺 格
美術作家。1990年代初頭より、個人およびグループでパフォーマンスなどを行い、ダムタイプの作品にも参加する。舞台芸術などの空間造形にも関わり、身体を主軸にして様々なメディアを駆使しながら多彩な作品を発表している。主な作品に、「木村さん」や、コモン・センスを巡る現在の混迷した状況を表現したインスタレーション「ビッグ・ブロウ・ジョブ」、2トンにも及ぶ粘土を使用したクレイアニメーション「God Bless America」など。「性」の問題にも触れながら、異なる背景や価値観を持つ他者への接触と困惑、更に相互理解を志向するプロセスを表現している。最近の展覧会に、山口情報芸術センター(YCAM)で開催された大友良英展「ENSEMBLES」の共同制作作品、せんだいメディアテークでの「大きな休息」がある。

廣瀬 純
1971 年、東京生まれ。1999年、パリ第3大学映画視聴覚研究科博士課程中退。現在、龍谷大学経営学部専任講師、仏・映画批評誌「Vertigo」編集委員。著書に『美味しい料理の哲学』(河出書房新社、2005年)、『闘争の最小回路―南米の政治空間に学ぶ変革のレッスン』(人文書院、2006年)、『闘争のアサンブレア』(Colectivo Situacionesとの共著、月曜社、2009年3月)、『シネキャピタル』(洛北出版、2009年4月刊行予定)など。訳書にパオロ・ヴィルノ『マルチチュードの文法』(月曜社、2004年)、トニ・ネグリ『芸術とマルチチュード』(月曜社、2007年、共訳)/『未来派左翼―グローバル民主主義の可能性をさぐる(上・下)』(日本放送出版協会[NHKブックス]、2008年)など。

坂口 恭平
1978 年熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。小学生時代、学習机を巣のように改造して遊ぶ体験から建築家を志すも、次第に建築家なしの建築へ興味を持つようになる。1999年、渋谷区に建っていた公団の屋上にある貯水タンクに棲む。2004年、卒業論文として作った路上生活者の家を調査した写真集『0円ハウス』をリトルモアより出版。2005年、小説の中に描かれた空間を文字から絵に変換する「立体読書」シリーズ開始。東京の庭の無い場所に作られた庭「四次元ガーデン」を採集開始。2006年、カナダのバンクーバー美術館にて初個展。ペンとインクで都市を描き始める「DIg-Ital」。2007 年、ケニアのナイロビで開催された世界社会フォーラムに参加し、鉄屑とダンボールで自転車彫刻を制作。2008年、隅田川に住む都市採集生活の達人鈴木さんと出会い、彼の生活を記録した『TOKYO 0円ハウス0円生活』を大和書房より出版。その後、初めての小説『隅田川のエジソン』も青山出版社より出版。

遠藤 水城
キュレーター。ARCUS Projectディレクター。フリーランスのキュレーターとして世界各地で活躍。art space tetra(2004/福岡)、Future Prospects Art Space(2005/マニラ)、 遊戯室(2007/水戸)など、アートスペースの設立にも携わる。2004-2005年、日本財団APIフェローとしてフィリピンおよびインドネシアに滞在。2005年国際的な若手キュレーターに贈られる「Lorenzo Bonaldi Art Prize」受賞。「Singapore Biennale 2006」ネットワーキング・キュレーター。2007年、Asian Cultural Councilフェローで米国に滞在。2009年、フランスのVassiviere Art Centerで曽根裕個展「スノー・レオパード・ガーデン」を企画。11月に開催される横浜国際映像祭キュレーター。共訳書にジェイムズ・クリフォード『ルーツ―20世紀後期の旅と翻訳』(月曜社)がある。東京芸術大学非常勤講師。

[hanare]
2006年にウィークリーカフェ「喫茶はなれ」の運営を開始してから、2009年4月にhanareは3周年を迎えます。ワークショップ・レクチャー、ビジュアルプロジェクト等の企画・運営を通し、生活に関わること全て(食、芸術、現代思想、身体、政治・経済、建築、他全部)について実験的でワクワクする活動を行っている人たちと協働しながら、新しい考え方、表現方法を模索し、実践しています。あくまでも京都に生きる私たちの生活に深く根ざしながら、世界の地方都市ともダイレクトに繋がり、共に生きて行くこと、インディペンデントな場所として、抗う力を養う場所でもありたいと思っています。今後は21世紀の「公民館」として活動の幅を広げて行きます。
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by urag | 2009-03-09 12:38 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2009年 03月 06日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

これから開店する本屋さんで、弊社の本を扱ってくださる予定のお店を順次ご紹介しております。お近くにお越しの際はどうぞお立ち寄りください。

09年3月20日(金)
WONNDER3(ワンダースリー):??坪
新潟市中央区東堀通3-318-1 1F
海外文学、日本の小説、サブカル本を扱うネット古書店さんが実店舗をオープン。新本もセレクトして扱われるようです。自己紹介によれば店長さんは「某遊べる本屋の下北、自由が丘、新潟、本店、埼玉なんかで8年働いておりましたが、 このたび独立。古本屋をはじめました。 出身は仙台市、7年位京都の大学(とほほ・・)、東京3年、名古屋3年、現在は新潟に」とのこと。

09年3月26日(木)
夢屋書店アピタ稲沢東店:図書260坪
愛知県稲沢市尾張西部拠点地区13街区リーフウォーク稲沢アピタ棟2F
ユニーの書籍事業部である夢屋書店は愛知県を中心に24店舗を展開。今回の新規店は本店的位置付けとのこと。大型ショッピングモール「リーフウォーク稲沢」のキーテナント。

09年4月1日(水)
大垣書店四条店:??坪
京都市中京区烏丸通四条上ル笋町689 京都御幸ビル2F
地下鉄烏丸線四条駅下車徒歩約1分。近隣にはくまざわ書店四条烏丸店やshin-bi(京都精華大学のショップ兼アートギャラリー)など。

09年4月13日(月)
フタバ図書TERAワンダーシティ店:図書500坪
名古屋市西区二方町40番 イオンモール名古屋mozoワンダーシティ4F
地区最大規模のショッピングモール「mozo ワンダーシティ」内に、レンタル&セル600坪を併設する大型複合書店としてオープン。フタバ図書チェーンの49店舗目。

09年4月18日(土)
ジュンク堂書店那覇店:図書1,500坪
那覇市牧志1-19-29
沖縄都市モノレール美栄橋駅、徒歩1分の「旧ダイエー那覇店(ダイナハ)」入居ビルの1~3階にて展開。九州および沖縄で最大の書店が誕生することになります。今まで弊社の本は沖縄の書店さんの店頭にはほとんど並びませんでしたが、近年、戸田書店豊見城店さんで新刊を扱っていただくようになり、さらに今回のジュンク堂さんでは弊社の既刊書ほとんども陳列されるようになります。ありがたいことです。
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by urag | 2009-03-06 23:50 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2009年 03月 06日

09年3月9日店頭発売開始『闘争のアサンブレア』

本日(09年3月6日)取次搬入となる弊社新刊についてお知らせいたします。『アルゼンチン、社会の実験室』として長らく予告させていただいていたものを、改題して刊行いたします。書店店頭には9日以降より並び始める予定です。

a0018105_125783.jpg闘争のアサンブレア

廣瀬純×コレクティボ・シトゥアシオネス:著
四六判(タテ188ミリ×ヨコ130ミリ)、並製カバー装240頁、本体価格2200円、ISBN:978-4-901477-45-1

政治経済運動の新たなる水平的・自律的集団性(アサンブレア)の構築へ。21世紀の始まりとともに、ネオリベラリズムに抗して立ち上がったアルゼンチンの失業労働者や職場占拠労働者、都市中産階級たちの様々な実践と挑戦を紹介。《生活=闘いのための作業仮説》をめぐる、熱き対話集。

「アサンブレアの試みにおいて興味深いことのひとつは、この運動が自分たちで互いに呼びかけ合うことによって出現したという事実にあるということ、政党によるリーダーシップも、労組によるリーダーシップもなしに生れてきたということです」(廣瀬純)。

「アサンブレアが構成したものは、都市部の断片化された空間全体のなかに国家的でも市場的でもないような公共空間を生産するための、潜勢力にみちたひとつの新たなやり方なのです」(コレクティボ・シトゥアシオネス)。

目次
まえがき(廣瀬純)
第一章 19/20――権力を解任する民衆蜂起
第二章 ピケテロ運動――自律性・水平性の実践
第三章 雇用主のいない企業、オルターナティヴ市場
第四章 都市中産階級の政治化――近隣住民アサンブレア
第五章 正義がないなら、エスクラチェがある――「母たち」と「子どもたち」
付録(コレクティボ・シトゥアシオネス+サンドロ・メッザドラ)
 2004年7月――権力を解任するカーニバル
 2005年10月――運動のメランコリー
解説「ブエノス・アイレス報告」(廣瀬純)
あとがき(コレクティボ・シトゥアシオネス)

廣瀬純(ひろせ・じゅん):1971年、龍谷大学経営学部教員。仏・映画批評誌『VERTIGO』編集委員。著書に『美味しい料理の哲学』(河出書房新社)、『闘争の最小回路—南米の政治空間に学ぶ変革のレッスン』(人文書院)、『シネキャピタル』(洛北出版、近刊予定)。訳書にパオロ・ヴィルノ『マルチチュードの文法』(月曜社)、トニ・ネグリ『芸術とマルチチュード』(月曜社、共訳)、同『未来派左翼』(NHK出版)など。

コレクティボ・シトゥアシオネス(Colectivo Situaciones):1999年、「運動としての調査」グループとしてブエノス・アイレスにて結成。著書に、2002年『19と20-新たな社会的主役についての覚書』(未訳)、同年『仮説891-ピケットの彼方へ』(MTDソラーノとの共著、未訳)。
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by urag | 2009-03-06 01:05 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)