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2008年 10月 26日

近刊チェック《知の近未来》:08年10月25日

「[本]のメルマガ」08年10月25日号に寄稿した拙稿です。
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■「近刊チェック《知の近未来》」/ 五月
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今週金曜日、人文会40周年記念の合同研修会に招かれて参加することができた。その席上で、百名近い書店員さんを前に、いわゆる「ゼロ世代」(70年代以降に生まれて、00年代にデビューした若い書き手たち)について紹介した折に、個人的に一番の注目株は「素人の乱」の松本哉さんであると話した。松本さんはこれまでに『貧乏人の逆襲!』(筑摩書房、08年6月)と『素人の乱』(河出書房新社、08年8月)の二冊を刊行していて、どちらも抱腹絶倒の面白さである。

彼が「いまここ」に幾度となく召還してきた「革命後の世界」は底抜けに明るく、柔軟で、いいかげんで、重々しい「現在」の息苦しさを笑い飛ばす力を持っている。社会的弱者は無力なのではない。いや、たとえそれが無力と世間からは名指されようと、そこには常に、かつてないほどの潜在的可能性が充溢している。小さい頃から足首に巻かれていたせいで、大人になっても引きちぎれないと勘違いしている本当はか細い鎖を、自らの意思と集団性で断ち切るのだ。「素人の恐ろしさを見せつけてやる!」(小笠原瓊太)とは真実である。「素人の乱」は「もうひとつの世界は可能だ」というオルタナティヴなメッセージを体現している。それは様々な新世界と接続しうる現代の重要な結節点であり、新世界という「場」を起動させる特異点でありうる。

まもなく松本さんならびに「素人の乱」の著書第三弾が刊行されることを私は人文会の席上で熱く喧伝した。しかし肝心なことに、書名は思い出せないし、版元名を思い切り間違えるという失態を犯した。正しくは下記の11月近刊一覧にある通り、アスペクトから来月17日に発売される『貧乏人大逆襲』である。強力に推薦している割には思い出せないというのは全くいいかげんだ。研修会ではこのほかにも、別の話題で13世紀と言うべきところを12世紀と間違ったりして、大人数を前に調子を掴みきれずにいた。

確かに当日は時間の余裕がないタイトな進行だったから、とか、祖母が死去して発表の準備が十分に出来なかったから、等々、言い訳を並べればきりがない。ただただそういうプレッシャーを胸裏から追い出せなかっただけの話だ。人前で中途半端な遠慮をすると必ず後悔する。とはいえ一方で、同席した参加者から様々な刺激を受け、大いに啓発された喜びも確かにあった会だった。ちくさ正文館の古田さんや、あゆみブックスの鈴木さん、ジュンク堂書店の福嶋さんといったベテラン書店員の言葉は一つ一つが端的で、風雪に折れることのない、柔軟かつ強固な信念というものを改めて学んだ思いだった。

さて、「ニートのカリスマ」と呼ばれることもあるらしい松本さん(しかし彼自身はニートではない)の本は、もし六月時点での「朝日新聞」の記事で報道されている通りならば、年内にあと三冊出るはずだ。その内の一冊となる来月の近刊を含め、来月以降に刊行される版元各社の新刊で気になったタイトルを、以下の通り今回も掲げてみる。書名や価格(税込)、発売日は変更になる場合があるのでご注意のほどを。

11月
05日『日本語が亡びるとき:英語の世紀の中で』水村美苗 筑摩書房 1,890円
06日『官能小説「絶頂」表現用語用例辞典』永田守弘編 河出i文庫 735円
06日『神曲 地獄篇』ダンテ 平川祐弘訳 河出文庫 998円
06日『かくも不吉な欲望』クロソウスキー 河出文庫 1,575円
06日『「日本」とは何か:日本の歴史(00)』網野善彦 講談社学術文庫 ?円 
07日『年齢事典:人生に起こり得る2815の出来事』タダノ・キンシュウ アスペクト 1,890円
07日『老いる準備:介護すること されること』上野千鶴子 朝日文庫 604円
07日『雪の結晶:小さな神秘の世界』K・リブレクト 河出書房新社 1,575円
10日『まなざしの地獄:尽きなく生きることの社会学』見田宗介 河出書房新社 1,200円
10日『禅語遊心』玄侑宗久 ちくま文庫 714円
10日『源氏物語(1)桐壺~賢木』大塚ひかり訳 ちくま文庫 1,260円
10日『つげ義春コレクション(2)大場電気鍍金工業所/やもり』ちくま文庫 798円
10日『カフカ・セレクション(3)異形/愚意』浅井健二郎訳 ちくま文庫 998円
10日『作者の図像学』J-L・ナンシー+F・フェリーニ ちくま学芸文庫 1,050円
10日『命題コレクション 哲学』坂部恵+加藤尚武編 ちくま学芸文庫 1,575円
10日『「芸術言語論」への覚書』吉本隆明 フォレスト出版 1,680円
10日『空海の企て:密教儀礼と国のかたち』山折哲雄 角川選書 1,600円
13日『CIA秘録:その誕生から今日まで』上下巻 ティム・ワイナー 文藝春秋 各1,200円
14日『機密指定解除:歴史を変えた極秘文書』トーマス・アレン 日経BP出版センター 1,995円
14日『自我の起源:愛とエゴイズムの動物社会学』真木悠介 岩波現代文庫 1050円
14日『アメリカの黒人演説集』荒このみ編訳 岩波文庫 945円
14日『蛇儀礼』ヴァールブルク 三島憲一訳 岩波文庫 588円
15日『アフォーダンスの視点から:乳幼児の育ちの考察【DVD付】』佐々木正人 小学館 4,410円
15日『「幻」の日本爆撃計画』アラン・アームストロング 日本経済新聞出版 2,100円
17日『ゴダール・マネ・フーコー』蓮實重彦 NTT出版 2,310円
17日『貧乏人大反乱』松本哉 アスペクト 1,365円
19日『闇の摩多羅神:変幻する異神の謎を追う』川村湊 河出書房新社 2,100円
19日『[新訳]大学・中庸』守屋洋編訳 PHP研究所 945円
20日『[新訳]西行物語(仮)』宮下隆二編訳 PHP研究所 840円
20日『夢と精神病』アンリ・エー みすず書房 4,200円
20日『サンパウロへのサウダージ』レヴィ=ストロース みすず書房 4,200円
20日『神話論理(IV-1)裸の人(1)』レヴィ=ストロース みすず書房 8,925円
21日『中国貧困工場潜入記』アレクサンドラ・ハーネイ 日経BP出版センター 2,310円
22日『西国巡礼の寺』五来重 角川ソフィア文庫 820円
25日『服従の心理』スタンレー・ミルグラム 河出書房新社 3,675円
26日『チベット侵略鉄道:中国の野望とチベットの悲劇』アブラム・ラストガーテン 集英社 2,520円
26日『文学の読み方』J・ヒリス・ミラー 岩波書店 2,520円 
27日『霊魂離脱とグノーシス』ヨアン・クリアーノ 岩波書店 4,725円
27日『群島-世界論』今福龍太 岩波書店 5,460円
28日『鳥の仏教』中沢新一 新潮社 1,470円
28日『江戸時代語辞典』潁原退蔵著 尾形仂編 角川学芸出版 23,100円
28日『アップルを創った怪物:もうひとりの創業者 ウォズニアック自伝』ダイヤモンド社 2,100円

12月
01日『よく生きる智慧:完全新訳版『預言者』』柳澤桂子 小学館 1,680円
05日『現代世界で起こったこと:ノーム・チョムスキーとの対話1989-1999』ノーム・チョムスキー 日経BP出版センター 3,570円
10日『ロラン・バルトの遺産』マルティ+コンパニョン+ロジェ みすず書房 3,990円
19日『ブラック・ノイズ』トリーシャ・ローズ みすず書房 3,780円
19日『マーク・ロスコ 芸術家の真実』マーク・ロスコ みすず書房 5,880円
19日『糸と痕跡』カルロ・ギンズブルグ 上村忠男訳 みすず書房 3,675円

ダンテ『神曲』の文庫は現在、山川丙三郎訳岩波文庫版全三巻、寿岳文章訳集英社全三巻のみであり、平川訳の文庫化は嬉しい。かつて、古いものでは生田長江訳新潮文庫版全二巻、七十年代には三浦逸雄訳角川文庫版全三巻、八十年代以降には西沢邦輔訳トレビ文庫(近代文芸社)版があり、変り種では永井豪によるコミック版上下巻(講談社漫画文庫)や、山川訳を転用した「お風呂で読む文庫」版(フロンティアニセン)というのもあった。

河出書房新社ではクロソウスキーやミルグラムの新訳も出る。訳者は、前者(文庫)が大森晋輔と松本潤一郎、後者(単行本)は山形浩生だ。岸田秀によるミルグラムの旧訳書は河出から出ていたけれどしばらく品切が続いており、古書価も高騰していた。新訳が名手山形によるものとなればいっそう待ち遠しい。クロソウスキーの旧訳は小島俊明訳(現代思潮新社)である。河出ではさらに見田宗介『まなざしの地獄』を大澤真幸の解説を付して復刊する。

見田本では、一方で岩波が真木名義の『自我の起源』を文庫化。上野千鶴子の文庫新刊は、05年2月に刊行された同名の学陽書房の単行本が親本。

岩波文庫の『アメリカ~』は副題を「私には夢がある 他」という。言うまでもなく、私には夢がある、とは、かのマーティン・ルーサー・キング・ジュニアがワシントン大行進の際に行ったスピーチのことだろう。キングのほかにどんな演説が収録されるのか、楽しみである。大行進の前日に逝去したデュボイスや、キングと鋭く対立したことがあるマルコムXらの演説も含まれるのだろうか。

岩波文庫の来月新刊でびっくりしたのは三島訳のヴァールブルクである。既訳は、五年前に加藤哲弘訳がありな書房から刊行されている。同書房の『ヴァールブルク著作集』全七巻と重複する内容の文庫本には、今回の岩波文庫に先行して、ちくま学芸文庫の『異教的ルネサンス』(進藤英樹訳、04年8月)があるが、そもそも訳書が出現するまでたいへん長らく「名のみ高く」といった情況が続いたアビ・ヴァールブルク(1866-1929)の著作が、数年のうちに二冊も文庫で出るというのは、ほとんど奇跡のようだ、というか、改めて、いままでなぜ出なかったのか、不思議なほどだ。

アスペクトの『年齢事典』は、世界の歴史的偉人たちの「人生に起こった出来事を年齢別に列記」(版元紹介文)したものだそうだ。年齢ごとに自分史の書き込み欄が付いているそうで、偉人と自分の人生を比べるという欲求(もしくは自虐心)を満たしてくれるだろう。男のツボを心得た好企画。

大塚ひかり(1961-)個人全訳『源氏物語』の刊行開始は気合が入ったプロジェクトだ。しかも最初から文庫で出すというのが嬉しい。第一巻「桐壺~賢木」が11月10日発売、第二巻「花散里~少女」は12月12日発売だそうで、三巻以降は隔月刊で全六巻が告知されている。すべての巻の巻末に付録として資料的な図解や解説がつくが、「光源氏のセックス年表」「薫のセックスレス年表」といったものもあり、ユーモラスだ。

上記一覧には載せていないが、4日発売で、日本経済新聞社出版から上野榮子訳『源氏物語―口語訳』(全八巻、28,000円)が刊行される。一主婦が20年という長い年月をかけて完成したもので、今春同社日刊紙に完訳の記事が載った際には大反響があったと聞く。

クリアーノの書名にある「霊魂離脱」には、エクスタシス、と読み仮名が振ってある。訳者は桂芳樹で、桂さんは同著者の『ルネサンスのエロスと魔術』(工作舎、91年11月) も翻訳している。エリアーデに並ぶ20世紀ルーマニアの碩学の著書は、二度にわたって桂さんの訳業により、日本の読者に供されることになる。中沢新一の新刊は「日本では未訳の貴重な仏典を紹介」というのだが、詳細はよくわからない。

柳澤桂子の新刊は、「20世紀最大の名著の魂を、柳澤桂子が心血を注いで甦らせ」たと取次のデータベースでは情報が登録されている。柳澤さんは四年前に刊行した『生きて死ぬ智慧』(小学館、04年10月)で般若心経の新訳ならぬ心訳を試み、同書はベストセラーとなった。今度の元ネタが何なのか思い浮かばなかったので、親しい書店員さんに聞いたところ、それはレバノン生まれの詩人カリール・ジブラン (ハリール・ジブラーンとも。1883-1931)の『預言者』のことでは、との答えが返ってきた。なるほど!

私は手の平サイズの小さい版(おそらくは至光社版か)でしか見たことはなかったが、改めて調べてみると、幾度となく訳されてきたことを不覚にも初めて知った。かの神谷美恵子さんも訳している(『ハリール・ジブラーンの詩』(角川文庫)。先の書店員氏は「ジブランの本のことじゃないかもよ」と言っていたが、ほぼ間違いない気がする。

発売日未確認だが、11月の新刊予定には以下の書目もある。

『エピステモロジーの現在』金森修編著 慶應義塾大学出版会 5,880円
『学者と反逆者:19世紀アイルランド』イーグルトン 松柏社 3,675円
『幸福論』アラン 白水Uブックス 1,365円
『精神分析とスピリチュアリティ』N・シミントン 創元社 4,200円
『フェティシュ諸神の崇拝』シャルル・ド・ブロス 法政大学出版局 2,730円
『パスポートの発明:監視・シティズンシップ・国家』ジョン・トーピー 法政大学出版局 3,360円
『連帯経済の可能性:ラテンアメリカにおける草の根の経験』アルバート・O・ハーシュマン 法政大学出版局 2,310円
『ビジュアル版 天文学の歴史』クーパー+ヘンベスト 東洋書林 12,600円
『現場警察官のための死体の取扱い』捜査実務研究会 立花書房 1,701円
『五〇〇億ドルでできること』ビョルン・ロンボルグ編 バジリコ 1,680円
『〈ひきこもり〉への社会学的アプローチ:メディア・当事者・支援活動』荻野達史ほか編著 ミネルヴァ書房 2,730円
『ある家族の秘密:マンガで知るナチスの時代とホロコースト』エリック・ホイベル 汐文社 2,625円
『蝦夷と東北戦争』鈴木拓也 吉川弘文館 2,625円
『表象の戦後人物誌』御厨貴 千倉書房 2,940円
『中国の性愛術』土屋英明 新潮選書 1,155円
『賄賂とアテナイ民主政:美徳から犯罪へ』橋場弦 山川出版社 1,575円

イーグルトンはちょうど青土社から書評集『反逆の群像』が出たばかり。訳者にはどちらも大橋洋一さんが名を連ねている。ド・ブロスの本は原著が1760年に刊行された古典である。フェティシズム(偶像崇拝よりも古い宗教形態、古代信仰における呪物崇拝)という用語は彼の創見とされている。

トーピーとハーシュマンの新刊は、来月一挙五点の刊行が予告されている法政大学出版局の新シリーズ(と思しき)「サピエンティア」からのもの。人文系の新シリーズでは、今月より刊行開始になった京都大学学術出版会の「近代社会思想コレクション」(第一回配本はホッブズ『市民論』だった)と並び、要注目である。


◎五月(ごがつ):某出版社取締役。近刊情報をご提供は ggt0711【アットマーク】gmail.com までお願いします。
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by urag | 2008-10-26 16:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2008年 10月 24日

「天然生活」08年12月号に『新編燈火節』の書評

月刊誌「天然生活」08年12月号の、ブックガイド「本を旅して」欄に、片山廣子『新編燈火節』の書評が掲載されました。野崎泉さんによる「みはてぬ夢と、「ピンクいろのびんばふ」」という記事で、熊井明子さんの『私の部屋のポプリ』(河出書房新社)と一緒に取り上げられています。

「「赤とピンクの世界」と題されたその随筆では、(・・・)「びんばふというものには或るたのしさがある。幸福という字も當てはまるかもしれない」というのである。・・・この随筆が書かれた時代から何十年も過ぎたはずなのに、いまほどこの「ピンクいろのびんばふ」に共感できる時代もない気がする。衣食住は一応満たされているものの、それ以外にも買わねばならない記にさせられるものがこの世の中には多すぎるからである」、と評していただきました。

野崎さん、どうもありがとうございました。
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by urag | 2008-10-24 22:04 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2008年 10月 24日

「週刊金曜日」にバトラー『自分自身を説明すること』の書評

本日(08年10月24日)発売の「週刊金曜日」にジュディス・バトラー『自分自身を説明すること』の書評が掲載されました。「きんようぶんか読書」欄に、本橋哲也さん(東京経済大学)の記事で、「ネオリベ的情況を撃つ思想的根拠」と題されて掲載されています。

「小出版社ながら次々と重要な書物を翻訳刊行している月曜社の「暴力論叢書」にジュディス・バトラーが登場した。・・・私たちの社会性の根本を社会の支配的な規範に抗する他者の存在、自らの思い通りにならない他者との倫理的関係に求めるバトラーの考察は、自己中心的な志向と行為の蔓延するネオリベラルな現代を撃つための思想的根拠となるはずだ。覇気にあふれた二人の訳者による秀逸な訳業によって、バトラーがまたひとつ、私たちの身近な財産に加えられた。今年いちばんの翻訳思想書のひとつだろう」と評価していただきました。

本橋さん、ありがとうございました!
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by urag | 2008-10-24 17:50 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2008年 10月 21日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

これから開店する本屋さんで、弊社の本を扱ってくださる予定のお店を順次ご紹介しております。お近くにお越しの際はどうぞお立ち寄りください。

08年11月下旬
ブックファースト阪急西宮ガーデンズ店:図書460坪
兵庫県西宮市高松町14-2 阪急西宮ガーデンズ 4F
※阪急電鉄西宮北口駅前の「阪急西宮スタジアム」跡地にオープンする、西日本最大のショッピングセンター「阪急西宮ガーデンズ」内に出店。同SCは、阪急百貨店、TOHOシネマズ西宮OS、イズミヤを核に、268の専門店が入居。ブックファーストはその中でも、ユニクロや電器店のジョーシン、雑貨のロフトなどと並ぶ大型店です。

***

入居する専門店の一覧を見ていてふと思ったことがあります。雑貨を扱う店はロフト以外にもたくさんありますが、本を扱うのはブックファーストだけです。そもそも小さい本屋が複数出店するというのは、巨大SCではありえない話なので当たり前といえば当たり前ではあります。例外的に、ヴィレッジヴァンガードのような、本と雑貨の両方を扱う店舗と、本のみを扱う専業店が同一SC内に並存することがありますが、専業書店が複数出店する例はまだ見たことがありません。また、ブックオフや古書店が出店する例も見たことがないです。

SC内に古書店がないのは、古道具屋や骨董店がないのと同じなのだろうとは推測できます。しかし、なぜなのでしょうか。「新規開店」と「中古品」のイメージが両立しないからでしょうか。昨今は猫も杓子も「エコ」を謳って、巨大SCもさかんにエコ対策を自慢しているのに、リサイクル店を誘致していないらしいのは合点がいきません。アウトレット中心の郊外型ショッピングモールがあるならば、リサイクル中心のショッピングモールがあってもいいはずだし、大型SCにもリサイクル店をどんどん誘致すればいい。いまだにSCの運営会社は「作っては捨てる」文化に乗っかってやたらと図体のデカいハコを作っている。そんなふうに見えます。

出版界も基本的に「作っては捨てる」世界です。リサイクルは古書店任せです。コンテンツ産業における「エコ」とはいったいどんなことなのか。「再生紙を利用しています」というのはよく見かけますが、再生紙を利用しようが、結局本を作りすぎてしまえば、もう一度断裁することになります。では、紙を使わずすべて電子データにすれば「エコ」なのか、というと、そうとも言い切れない。データを閲覧したり保存したりするための端末やソフトやメディア、そしてその端末を動かす電力が必要なわけで、紙媒体との比較は単純ではありません。

話を巨大SCに戻すと、雑貨屋とちがって本屋が複数出店することにならないのは、本が多種多様でも、流通が基本的に日販やトーハンなどの大取次によって担われているから、とも言えるかもしれません。商品によって流通が多様であれば、さまざまな小売店が存在しうることが想定できますが、本の場合は、たいていの書目は大取次が直接的ないし間接的手段(中小の専門取次を経由する「仲間卸」)で調達しえます。むろん、間接的にも調達できないようなミニコミ誌や自主流通本というのもあります。怖いのは、大取次やそれを利用する書店が扱えなかったり、扱いにくかったりすると、その本や雑誌の「存在感」が圧倒的に小さくなることです。「存在しないに等しい」認知度しかない。しかしこれは本に限ったことではありませんね。

知っている人は知っている、知らない人は全然知らない。当たり前ですね。「知る人ぞ知る」という言い方は時として滑稽な響きを帯びます。希少性を元手に商売することは必ずしも簡単ではありません。
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by urag | 2008-10-21 17:02 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2008年 10月 20日

注目新刊:ドミニク・チェン企画特集『SITE ZERO』第2号「情報生態論―生きるためのメディア」

a0018105_22128.jpgメディア・デザイン研究所の批評誌『SITE ZERO/ZERO SITE』の第二号が刊行されました。特集は「情報生態論――生きるためのメディア」です。この特集を企画したのは、ドミニク・チェン(1981-)さん。「〈いきるためのメディア〉のデザインと散種」をミッションに、今年四月に共同設立したばかりの株式会社ディヴィデュアルの取締役をつとめておられます。同社のマニフェストはこちら

第二号は両開きになっていて、右端からは縦組174頁、左端からは横組290頁のボリューム。表紙の加工が凝っているので、傷よけにシュリンクがかかっています。写真は横組サイドの表紙。シュリンクに銀のシールが貼ってあります。

今回の執筆陣は以下の通り。ドミニク・チェン、高橋悠治、毛利悠子、田中浩也、市川創太、松岡康友、渡邊淳司、ゲオルク・トレメル/篠儀直子訳、三輪眞弘、城一裕、徳井直生、中嶋謙互、ローレンス・リャン/ドミニク・チェン訳、ヨハイ・ベンクラー/ドミニク・チェン+生貝直人訳、スコット・ラッシュ/篠儀直子訳、バリー・スミス/柳澤田実訳、西垣通×ドミニク・チェン(対談)、ロベルト・ザイデル、宮﨑裕助、カトリーヌ・マラブー/郷原佳以訳、南後由和、榑沼範久、田中純。

同誌の第0号「エステティクスの臨界」(06年7月)と、第1号「〈病〉の思想/思想の〈病〉」(07年9月)はすでに品切。小部数発行のため、店頭にあるうちに買わないと入手困難になること必至です。第2号は本体価格2,096円。公式ウェブサイトからの購入も可能です。
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by urag | 2008-10-20 02:02 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2008年 10月 19日

注目新刊:檜垣立哉『賭博/偶然の哲学』河出書房新社

a0018105_1164888.jpg賭博/偶然の哲学
檜垣立哉(1964-):著
河出書房新社 09年10月 本体1,500円 46判並製184頁 ISBN978-4-309-24455-6

■帯文より:「世界」は博徒たちの驚きにある。競馬をめぐるかつてない洞察にはじまり、ドゥルーズ/九鬼周造/フーコー/ドストエフスキーを斬新に読み解き、偶然の論理と倫理、そしてリスク社会の生をラディカルに問う、気鋭の哲学者による哲学の賭博。

■目次より:
はじめに
第一章 競馬の記号論
第二章 賭けることの論理 九鬼とドゥルーズ
第三章 賭けることの倫理 リスク社会と賭博
終章 賭博者たち

★シリーズ「道徳の系譜」の最新刊です。第二章では、九鬼の『偶然性の問題』が論じられます。「九鬼周造の『偶然性の問題』は、その議論の構成において、ドゥルーズの「出来事」論そのままの軌跡を辿っている。とくに、その結論部、形而上的偶然の分類は、ドゥルーズにおける、静的発生・微分的発生・賽の一振りの議論と驚くべき仕方で折り重なっている。(・・・)もちろん、昭和の初期に書かれた九鬼の文章のほうが、60年代の作品であるドゥルーズのものより四十年余り古い。しかし九鬼は、ドゥルーズが『差異と反復』〔河出文庫〕で主張している内容を、ほぼそっくり四十年前に論じているとともに、むしろそこでは、西田幾多郎の議論が巧妙に織り込まれることによって、ドゥルーズがはっきりと言明し得なかった思考の突端さえもがとりだされているように見える。そして両者を繋ぐ軸は、実はマラルメとプルーストである」(68-69頁)。

★既刊書(単独著に限る)
00年04月『ベルクソンの哲学――生成する実在の肯定』勁草書房
02年10月『ドゥルーズ――解けない問いを生きる』日本放送出版協会
05年01月『西田幾多郎の生命哲学――ベルクソン、ドゥルーズと響き合う思考』講談社現代新書
06年05月『生と権力の哲学』ちくま新書

★なお、九鬼周造の『偶然性の問題』は、現在、燈影舎から刊行されている「京都哲学撰書」の 第5巻、坂部恵編/九鬼周造著『偶然性の問題・文芸論』(本体3,600円、00年4月刊) で入手可能です。『問題』以降の「偶然性」をめぐる九鬼の議論は、書肆心水から刊行されている『偶然と驚きの哲学――九鬼哲学入門文選』(本体2,300円、07年6月刊)で読むことができます。
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by urag | 2008-10-19 00:24 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2008年 10月 18日

ブックフェア「麗奈タン・トポス★ビックバン!!」@紀伊國屋書店新宿本店

紀伊國屋書店新宿本店で開催中のブックフェア「〈熱き時代〉の新宿、新宿の〈いま〉」の関連イベントとして、弊社から『幼なじみのバッキー』を刊行している画家、増山麗奈さんが選書するブックフェアが以下の通り行われます。
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◎「麗奈タン・トポス★ビックバン!!」

期間:08年10月20日~11月2日
場所:紀伊國屋新宿本店6階美術書コーナー(新宿区新宿3-17-7)
TEL:03-3354-0131
営業時間:新宿本店|10:00~21:00

内容紹介文より:ロスジェネ編集委員、岡本太郎現代芸術大賞入選画家の画家「麗奈タン」こと増山麗奈の熱い「地場=トポス」とカルチャーシーンをリードする紀伊國屋が交差して、異次元空間が生まれてしまった!増山のオススメアート本や、若手アーティスト達のアートマガジンなど、ここでしか見れないレア・アイテムも一挙に集合!いま、新宿が熱い!必見です。絵画販売&本のセレクトも含め、画家が書籍コーナーをジャックしちゃうのは、前代未聞だとか。

***

店頭の写真を紀伊国屋さんからいただきましたので、公開します。すごいですね、本当に絵も販売されていて、眼を奪われます。08年10月24日追記。
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by urag | 2008-10-18 22:12 | イベント告知 | Trackback | Comments(2)
2008年 10月 17日

注目新刊:『カルデロン演劇集』

a0018105_22205577.jpgカルデロン演劇集
ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ(1600-1681):著 佐竹謙一(1949-):訳
名古屋大学出版局 08年9月 本体6,600円 A5判上製508頁 ISBN978-4-8158-0597-5

■帯文より:人生の深淵をのぞかせる、色彩渦巻くバロック演劇の精華。シェイクスピアにも比される、スペイン黄金世紀を代表する劇作家カルデロン。哲学劇『人生は夢』をはじめ、宗教劇・歴史劇・喜劇・名誉の悲劇等、多彩かつ豊穣な世界を凝縮した初の本格的選集。

■目次より:
はじめに

十字架への献身
イングランド国教会分裂 ◆
淑女「ドゥエンデ」
四月と五月の朝 ◆
密かな恥辱には密かな復讐を ◆
人生は夢
驚異の魔術師
不名誉の画家 ◆

解説 カルデロンの演劇  
あとがき

★訳者の佐竹さんはかつて、「驚異の魔術師」と「淑女ドゥエンデ」をあわせた一冊を平凡社ライブラリーから刊行していました(『驚異の魔術師』97年4月)。今回この二篇は改稿されて『演劇集』に収録されています。カルデロンの演劇を収めた手ごろな本にはこのほかに、高橋正武訳『人の世は夢・サラメアの村長』岩波文庫、78年刊)があります。120作現存するというカルデロンの戯曲のうち、「サラメアの村長」はかつて森鴎外も訳していますが、トータルの数としては翻訳はさほど多くはありません。◆印は本邦初訳です。

★「人生は夢」より、主人公セヒスムンド王子の台詞、第二幕の最終場面。315-316頁:しょせん人は、生きることは夢を見ているに過ぎないという特異な世界にいるわけだし、おれはおれで、生きている人間は目を覚ますまでその生き様を夢で見ているのだということを身をもって学ばせてもらった。・・・この世では誰もがみんなそれとは気づかずに、それぞれの生き様を夢で見ている・・・人生とは何だ? 狂乱だ。人生とは何だ? まやかし、影、幻だ。この上ない幸せとてちっぽけなものだ。人生はすべてが夢だ。夢はしょせん夢なのだ。

★「人生は夢」より、主人公セヒスムンド王子の台詞、第三幕の最終場面。332頁:偉大な勝利をおさめようと血気にはやるものの、今はおのれに打ち勝つことがもっとも崇高な勝利。

★上記別訳(高橋正武訳「人の世は夢」、岩波文庫78年刊、119頁):勇気を奮えば、大小の勝利は勝ち取れるとはいうものの、きょう勝ちとらねばならぬもっとも気高い勝利とは、おのれに克つこと。

★上記別訳(田尻陽一訳「人生は夢」、『ベスト・プレイズ』白鳳社00年刊、254頁):勇気をふるえば、いかなる勝利も手に入れることはできるが、今日、おのれの欲望を抑えることが最高の勝利となる。〔ここでは田尻訳は文脈を踏まえて、「おのれに打ち克つ」を「おのれの欲望を抑える」と、より説明的に訳しています。訳書の比べ読みはとても面白いです。〕

★上記原文:
SEGISMUNDO:
 Pues que ya vencer aguarda
 mi valor grandes victorias,
 hoy ha de ser la más alta
 vencerme a mí.

★「人生は夢 La vida es sueño」の原文は、こちらで公開されています。

★スペイン文学の黄金世紀(16-17世紀)に活躍した文学者にはカルデロンのほかに、次の人々がいます。セルバンテス、ロペ・デ・ベーガ、ゴンゴラ、ケベード、グラシアン、など。
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by urag | 2008-10-17 22:23 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2008年 10月 16日

新創刊誌:『POSSE』/『K8』/『貧困研究』/『悍』

大手版元のあいつぐ雑誌休刊とは対照的に、ここ数年間で、大書店の人文社会書売場に並ぶような小規模雑誌がどんどん創刊されています。『VOL』や『フリーターズ・フリー』や『ロスジェネ』などの労働/運動系、『前夜』(昨年7月発売の12号で休刊)や『at』や『RATIO』や『SITE ZERO/ZERO SITE』や『表象』や『REVIEW HOUSE』や『思想地図』などの批評系、『新現実』や『PLANETS』や『nu』や『KINO』や『メカビ』(07年12月発売08年冬号にて休刊)や『エクス・ポ』(08年10月20日発売第6号にて第一期終了)や『m9』(08年8月発売第3号にて休刊)などのカルチャー系などがあって、花盛りです(まあこんな風に強引にジャンル分けしても無意味なのですが)。とくにここ半年の間に増えましたね。さらに、リニューアルした『早稲田文学』や『オルタ』、文芸系の『重力』や『attention』や『球体』や『モンキービジネス』や『真夜中』、デザイン系の『D/SIGN』や『grahpic/design』、等々、広く「文化系」の新創刊ブームが続いていることがわかります(ほかにもたくさんあって全部はとてもピックアップできませんが、お奨めの新雑誌があったら、コメ欄で教えていただけると嬉しいです)。

そして先月、今月と、以下の四誌が生まれました。

★9月7日刊、発売中

POSSE 創刊号
NPO法人POSSE 08年9月7日 年4回発行 税込850円 A5判128頁 ISBNなし

内容:「新たなヴィジョンを拓く労働問題総合誌」をテーマに、労働や貧困の観点から現在の社会を変えていくために必要な分析や政策、運動について議論する季刊誌。

NPO法人POSSE:「若者が働くこと」に関する様々な問題に取り組む団体。労働相談を中心に、若者が労働法の知識を知ることのできるイベントの開催や、街頭での若者アンケート調査活動、政策提言などを行っている。

創刊号内容:「派遣労働問題の新段階」。日雇い派遣の禁止や秋葉原事件の背景が議論されるなか、派遣労働の根本を問う特集になった。また、「マンガに見る若者の労働と貧困」についても特集しており、最近の若者文化における労働や貧困の描かれ方についても、分析を試みている。

創刊号目次:
特集1 派遣労働問題の新段階
座談会「秋葉原事件に見る若者労働とアイデンティティ」竹信三恵子(朝日新聞)×後藤和智(『「若者論」を疑え!』著者)×池田一慶(ガテン系連帯)
「派遣労働の変容と若者の過酷」木下武男(昭和女子大学教授・ガテン系連帯)
「派遣の広がり―3つの業界から」POSSE編集部
「派遣会社の内側から見た派遣労働」田中光輔(元派遣会社業務担当者)
「派遣労働運動のこれから」関根秀一郎(派遣ユニオン)
「釜ヶ崎暴動と日雇い労働」生田武志(野宿者ネットワーク)
「派遣労働ブックガイド10」POSSE編集部

特集2 マンガに見る若者の労働と貧困
「『働きマン』と『闇金ウシジマくん』をつなぐもの」渋谷望(千葉大学准教授)
「消費者金融・闇金マンガの背景」宇都宮健児(弁護士)
「労働と貧困の若者マンガ事情」POSSE編集部

「権利主張はいかにして可能か」道幸哲也(北海道大学教授・NPO職場の権利教育ネットワーク)
「労働と思想 1 アントニオ・ネグリ」入江公康(大学非常勤講師)

次号(12月中旬刊行予定)内容:特集3本立て→「徹底検証『蟹工船』ブーム」、「「名ばかり管理職」問題」、「若者の「やりがい」と職場の違法状態」。主な執筆陣予定→高橋哲哉、萱野稔人、雨宮処凛、本田由紀、熊沢誠、ほか。

購入方法:公式ウェブサイト、紀伊國屋書店新宿本店、ジュンク堂書店新宿店、模索舎(新宿)、ジュンク堂書店池袋本店、東大生協駒場書籍部、一橋大学消費生活協同組合、ブックファースト京都店、ジュンク堂書店京都BAL店(10月20日以降予定)、ジュンク堂書店大阪本店。

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★9月29日刊、発売中

K8 創刊号
こだま屋 08年9月29日 本体500円

創刊号(00号)コンテンツ:
1. 毛利嘉孝 ×萱野稔人 対談
2. 生田武志 (野宿者ネットワーク)インタビュー
3. 鈴木孝弥 (音楽評論家)×大場俊明 (Riddim編集長)×K8

次号(01号、08年内刊行予定)コンテンツ
1. サヨコ (ZELDA、サヨコオトナラ)インタビュー
2. OTO (じゃがたら、サヨコオトナラ)インタビュー 他

取り扱い書店:青山ブックセンター本店(表参道)、ジュンク堂新宿店、模索舎(新宿)、IRREGULAR RHYTHM ASYLUM(新宿)、タコシェ(中野)、百年(吉祥寺)、バサラブックス(吉祥寺)、気流舎(下北沢)、ガケ書房(京都)。オンラインでは、こだま屋、Lilmag、nuなど。

こだま屋:九十九里海岸を臨む長生村でカレー屋の開業準備のかたわら、ミニコミを創刊。

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★10月15日刊、発売中

貧困研究 vol.1 2008-October 特集:貧困研究の課題
貧困研究会:編 明石書店 08年10月15日 年2回発行 本体1800円 B5型並製144頁 ISBN978-4-7503-2869-0

編集委員:青木紀(編集長、北海道大学)、岩田正美(日本女子大学)、布川日佐史(静岡大学)、福原宏幸(大阪市立大学)、松本伊智朗(札幌学院大学)。

内容(明石書店近刊案内より):日本における貧困研究の深化・発展、国内外の研究者の交流、そして貧困問題をさまざまな人々に認識してもらうことを目的として2007年12月に発足した貧困研究会(代表:岩田正美)を母体に発刊されるジャーナル、年2回刊。

創刊の辞→PDF

第一号内容(貧困研究会ウェブサイトより):
特集「貧困研究の課題」
貧困研究に今何が求められているか◎岩田正美
貧困解決に経済学はいかに貢献できるか◎橘木俊詔
貧困解決に社会保障法はいかに貢献できるか◎菊池馨実
貧困現象を空間的視点からとらえると見えるもの◎水内俊雄

小特集「生活保護と扶助基準」
いま、生活保護を問うことの意味─低所得層と生活保護◎杉村宏
いま、なぜ生活保護基準を議論すべきか◎布川日佐史

[海外貧困研究動向]
アメリカにおける貧困研究の動向─子どもの貧困についての計量分析を中心に◎阿部彩

[この人に聞く]
反貧困運動の組織化と研究への期待◎湯浅誠+(編集委員)松本伊智朗

[書評論文]
堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』を中心に─ジャーナリストの著作から学ぶ◎青木紀
大山典宏『生活保護vsワーキングプア──若者に広がる貧困』─ワーキングプア問題に対して生活保護は有効か◎福原宏幸

[国内貧困研究情報]
1 注目すべき調査研究報告書を読む:最近公表された研究報告書の紹介◎松本伊智朗
2 興味深い統計と数字の動きを見る:貧困急増の実態とその背景─いくつかの統計資料◎後藤道夫

[政策・反貧困運動等情報]
[キーワード解説]

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★明日(08年10月17日)より発売

悍【HÀN】 第1号 特集・1968
白順社 08年10月25日 年2回(4月・10月)刊行 本体1400円 A5判208頁 ISBN978-4-8344-0102-8

編集委員:内野儀・鴻英良・すが秀実・前田年昭
編集人:前田年昭

執筆者紹介/編集後記/奥付/発刊宣言→ラインラボにPDFで掲載

第1号目次:
68-72*世界革命*展(豊島重之)
1968年の頃の風(唐十郎)
反逆には やっぱり 道理がある(津村喬)
特集討議・「1968」という切断と連続(佐伯隆幸×すが秀実×鵜飼哲×米谷匡史)
「大学解体」に関する若干の考察(青柳宏幸)
壮大なテーマに「楽しく」挑み続けることは可能か?(ペペ長谷川)
なんと正しいことをしたのだろう!(ふとら のぶゆき)
『地の果て 至上の時』 あるいは「路地」の残りの者たち(石川義正)
1968年の戦争と可能性 アナキズム、ナショナリズム、ファシズムと世界革命戦争(千坂恭二)
同意は何を消去したか? 68年5月を今、考えるために(クリスティン・ロス、内野儀訳)

取り扱い書店:
ジュンク堂書店 池袋本店、新宿店、大阪本店、京都店、三宮店ほか
リブロ 池袋本店、渋谷店、吉祥寺店ほか
紀伊國屋書店 新宿南店ほか
丸善 丸の内本店ほか
模索舎(→本日16日より先行発売)
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by urag | 2008-10-16 00:33 | 本のコンシェルジュ | Trackback(1) | Comments(2)
2008年 10月 15日

注目新刊:カミュ『カリギュラ』ハヤカワ演劇文庫

a0018105_5271184.jpgアルベール・カミュ(1913-1960)の戯曲『カリギュラ』の新訳がハヤカワ演劇文庫から刊行されました。訳者は岩切正一郎さんです。岩切さんは昨年末上演された、蜷川幸雄演出、小栗旬主演の舞台『カリギュラ』の上演台本の翻訳を担当され、今回の文庫化にあたってさらに推敲されたとのことです。巻末には、内田樹さんの解説「アルベール・カミュと演劇」が収録されています。

早川書房さんのプレスリリースにはこう宣伝されています。「講演がスタートするや、新潮文庫版『カリギュラ』(渡辺守章訳、1971年刊。現在入手困難)を求めるファンが書店に殺到。〔上演会場のシアターコクーンがある〕渋谷の各書店では「『カリギュラ』絶版です」という張り紙がなされ、神保町の古書店外からは旧訳版がいっせいに姿を消し、オンライン書店Amazonの古書コーナーでは2万円を超える値がついた」と。

そんなお祭り状態だったとは知りませんでした。書斎の文庫棚に並ぶカミュの一連の書目の中から渡辺訳版を取り出して、思わずまじまじと眺めずにはおれませんでした。これに2万円をつけるなんていくらなんでもヒドイな。20年前は360円だったのに。これぞホントの不条理劇。

写真は左が、舞台のDVDプレゼントを謳ったオビ付きの新訳版、右が新潮文庫版です。カミュでも絶版は避けられないのですね。まあ、たいがいの日本人にとって見れば、カミュと言えばタレントのセイン・カミュさんを真っ先に思い浮かべるような時代でしょうし。セインさんをかの文豪の孫だとは知っていても、カミュの作品を読んだことのある若い人は少ないのでしょう。でも、小栗旬さんのおかげで、カミュが再読されるなら、それは喜ばしいことです。

舞台『カリギュラ』がどうしてそんなに好評だったのかは知りません。『カリギュラ』はそもそも内容が暗いし、残虐に振舞う皇帝カリギュラの狂った生き様は、ストレス社会で穏やかに生きたいはずの現代人にはあまりにも「無駄」で「過剰」な感じがします。しかし、この世を疎ましく思うあまりに陰惨な事件を起こす人々が現実にいるわけで、カリギュラの暴力性は誰もが内に抱えているものなのかもしれません。げんに、カミュは当初、「カリギュラはきみたちひとりひとりのなかにいる」(153頁、訳注11)とラストシーンで主人公自身に語らせたかったようです。

カリギュラは身内の死をきっかけに、横暴な君主に変貌します。彼にとって、世界はありのままで充分ではなく(新訳22頁)、そのままでは耐えられない代物であり(同頁)、それゆえ彼は「不可能なもの」を欲します(21頁)。人間は常に死と隣り合わせであることを分からせるためなのか、彼は市民から財産を取り上げ、餓死へ追い込もうとし、家来たちを次々と処刑します。カリギュラがついに人間と世界を全否定するに至る(47頁)のを阻止するために、家来で物書きのケレアはカリギュラを抹殺しようとします。

カリギュラはケレアに向かってこう言います。「おまえは頭がいい。頭の良さは、高くつくか、それともみずからを否認するか、そのどちらかだ。おれは代償を払う。おまえは、どうして否認せず、しかも代償を払おうともしないんだ」(105頁)。ケレアは答えます。「どうしてかといえば、生きたいからです。幸福でありたいからです。不条理をありとあらゆる結末へ押し進めるのでは、人は生きることもできず、幸福にもなり得ません」(同頁)。

カリギュラはほどなく家臣たちに殺されます。断末魔はこうです。「おれはまだ生きている!」(150頁)。「カリギュラはおまえ自身だ」と説教されるよりは、このラストのほうが全然いいし、不気味ですね。

カフカの『審判』では、主人公ヨーゼフ・Kは犬のように殺され、読者はその不可解な死を受け入れるほかはなく、主人公の影のような「恥辱」だけが残るのを見ます。主人公は復活できません。いっぽう、カフカと同様にカミュが不条理を描くとは言っても、『カリギュラ』の場合は、主人公が殺されてもその死は必然であり、さらに言えばこの暴君は死を通り越して読者の胸の内にその分身を生かし続けるような怨念を感じさせます。主人公は何度でも生き返るのです。

Kは転生せず、そのかわり死という最後の安楽があります(「流刑地にて」の将校や、「断食芸人」の主人公のように)。しかしカリギュラは転生し続け、死の安楽を得ることはありません。悪夢は覚めないのです。

覚めない悪夢を与えるという意味ではカミュの『カリギュラ』は最悪なまでに気分の悪い作品です。しかしそれゆえに読者を試す孤高な作品でもあるのです。この毒――苦い教訓であり、消尽しきれない強い「念」――を飲んでしまった若い読者は次にどの本を読めばいいのでしょう。ハヤカワ演劇文庫では『カリギュラ』はアルベール・カミュ戯曲集の第一巻と位置づけられているようなので、今後、別の作品が第二巻として同文庫から出るでしょう。

アルベール・カミュ I カリギュラ
アルベール・カミュ著 岩切正一郎訳
ハヤカワ演劇文庫 08年9月 本体700円 184頁 ISBN978-4-15-140018-6

カリギュラ・誤解
アルベール・カミュ著 渡辺守章・鬼頭哲人訳
新潮文庫 71年6月 360円(88年19刷当時) ISBN4-10-211405-X
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by urag | 2008-10-15 05:28 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)