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2006年 09月 26日

「今週の注目新刊」の約1年半、全68回を総括してみました

「[本]のメルマガ」9月25日号に掲載した拙文を転載します。

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■「ユートピアの探求」/ 五月
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◎「今週の注目新刊」の約1年半、全68回を総括してみると

もう遥か昔のことのように感じるのだけれど、オンライン書店「bk1」で、人文思想書の新刊を毎週紹介する「人文レジ前」というコーナーを、2001年6月から2004年6月までやらせてもらっていた。同時期に、メタローグの隔月書評誌『レコレコ』や、同社の年刊特集誌『ことし読む本いち押しガイド』、そしてNTT出版の季刊誌『インターコミュニケーション』などへ書評を寄稿させてもらっていたおかげで、人文書全体の底上げに微力ながら貢献するという私個人の願望の一端が果たせたように思う。

人文書の宣伝というのはしかし地味なもので、上記の仕事はすべて節目を迎え、一昨年の夏は「これからどうしようか」と辺りを見回したものだった。どうも風向きはよくなかった。多数の人文書版元のたゆまぬ営業努力は変わらず続いていたのだけれど、会社の枠組みを超えて、人文書販売の底上げをするという作業は、書店さんにとっても、読者にとっても、今なお見えにくいものになっているのではないかと思う。

「人文レジ前」を終了するおよそひと月前の2004年5月6日、「ウラゲツ☆ブログ」を立ち上げた。そして「人文レジ前」を終了後に、「人文レジ裏」というブログも立ち上げた。前者は仕事がらみだから否応なく継続していったけれど、後者は活動方針が定まらず、ほどなくやめてしまった。しかし、新刊を毎週チェックするという作業は自分にとってやはり欠かせるものではなく、また、幸いにも複数の方から「人文レジ前」を惜しむ声を頂戴していたので、「ウラゲツ☆ブログ」の中で、「今週の注目新刊」というコーナーを立ち上げた。2005年4月17日のことだ。

本業である出版業と、新刊を紹介するライター業を以前までは立て分けていたけれど、もはや分離する必要もないと思った。私は本の海の中で生きている自分を再認識した。業界に入ってからというもの、自社他社の区別なく、素晴らしいと思った本はもともと宣伝し続けてきたのだし、自分の会社の本もそうした本たちの網目の中で生かされるものなのだから、本の海の中に住まう自分のあらゆる志向性をブログにさらけ出そうと思ったのだった。

ブログで「今週の注目新刊」を始めてから今月(2006年9月)いっぱいで、全68回を数える。このうち、新書や文庫、ライブラリー、ブックレットを除く単行本だけで集計してみたところ、261社の版元の760冊を取り上げてきたことがわかった。集計する前に好物のティママンのグーズを飲んだせいで、時折譫妄状態の中でカウントが怪しくなった場面もあるが、概算数字としてはほぼこんなものかと思う。

われながら興味があったのは、どこの版元の本を一番多く取り上げてきたか、だった。結果は自分が予想していたのとは違っていて若干驚きもしたが、納得できるものではあった。10冊以上を基準にして順位にすると以下の通りになる。

1位:みすず書房、42冊
2位:岩波書店、32冊
3位:法政大学出版局、30冊
4位:青土社、27冊
5位:河出書房新社、25冊
6位:平凡社、17冊
7位:作品社、16冊
8位:明石書店、14冊
8位:人文書院、14冊
10位:春秋社、13冊
11位:NHK出版、12冊
11位:水声社、12冊
13位:白水社、10冊
13位:藤原書店、10冊
13位:講談社、10冊
13位:新曜社、10冊

まず驚いたのは、みすずがダントツのトップだったことだ。これは全く意識していなかった。もうひとつ驚いたのは、講談社が上位に入っていることだった。私にとって大手の本は文庫を除いてそのほとんどが興味を惹かないから、最大手はほとんど取り上げていないはずなのだけれど、それでも10点もある。作品社が7位なのは、自分の古巣であるという背景もあるかもしれないが、別段贔屓したわけではない。げんにもう一つの古巣である未来社はもう少し順位が下になる。

思い出せば、大学生の頃、生協で人文系版元の全点フェアが行われていたときには、よく大量買いをしていたものだった。特にみすず書房のフェアではあれもこれもと欲張ったものだった。なるほど、私は今も昔もみすずファンらしい。いずれにせよ、上位のみすず、岩波、法政、の三社はおそらく私自身が無意識のうちに目標としている版元の理想形であるのかもしれない。

上記のデータは、その版元が年間で何点刊行しているかを参考にすると、また違った順位表を作れるのではないかと思う。例えば、上記のランクにはないが、哲学書房や洛北出版の新刊はほぼすべて漏れなく関心を払っている。各版元が刊行した本のうち何点を気に入っているか、そういう切り口ならば、順位はおのずと違ってくるだろう。

なお、単行本の上位ランクには筑摩書房が入っていないが、同社は文庫新書の部門ではおそらくトップになるのではないかと思う。ちくま学芸文庫、岩波文庫、講談社学術文庫、平凡社ライブラリーが大方を占めるだろう。

今回気づいたことがもう一つある。私は選書において「bk1」時代から、図書館流通センター(TRC)の「週刊新刊全点案内」を常に参照していたのだけれど、まことに腹立たしいことに、同サービスを含む「ブックポータル」は2005年8月24日で終了してしまった。毎週1100~1500点をチェックしていた時は、零細版元の良書をけっこうピックアップできていた、ということがよくわかった。

現在利用している、bk1の日替わりの「新入荷一覧」は、24時間以内に発送可能な書籍から選択的に掲載されているため、データ登録はされたけれど、まとまった部数をTRCが仕入れていない零細版元の新刊の多くは、「見えなくなってしまった」のだ。

これの穴を埋めるには、ジュンク堂書店のような超大型書店に行って、新刊棚を巡回してくるしかない。むろん本屋巡りは大好きなので、苦痛ではないけれど、ネットで一括してデータベースを見れば良かった頃の便利さと合理性には遠く及ばない。本屋巡りというのは社会人にとっては、時間の余裕がなければできない贅沢なのだ。

さらにもうひとつの贅沢があることに「今週の注目新刊」では毎回気づかされる。自分がピックアップした新刊をすべて購入した場合、毎週数万円ずつの出費となり、一ヶ月で十万円以上をかけなければ、注目新刊を買うことが不可能なのだ。残念ながらその経済的余裕は私にはないし、たとえ買えたとしても、今度は本の置き場所に困るだろう。「注目新刊」の一覧と、リアルに買った本のリストは当然異なることになる。「良書」の類を購入し続けるのは金持ちでなければ無理だし、その本を保管するのも、それなりの大きな書斎と設備を構えなければ無理だ。ようするに贅沢なのである。

さきほど「ブログですべてをさらけ出す」と書いたけれど、私は新刊をチェックする以上に、実は古書を漁っていてるということを、さらけ出しては「いない」。新刊はともかくとして、どんな古書を漁っているのかをもし明かしてしまったとしたら、私の仕事場と趣味はほとんど丸見えになってしまう。本当のことを言えば、自分にとって「今週の注目古書」は「今週の注目新刊」同様、あるいはそれ以上に面白い。広く情報を共有してみたい気もするけれど、漁書においてライバルである諸姉兄に塩を贈るわけにはいかない。

いつか仕事を引退することになったら、そしてそのときにまだブログをやっていたら(やっていない気がするが)、「今週の注目古書」を始めてみたいなと思ったりする。


◎五月(ごがつ):1968年生まれ。月曜社取締役。本誌25日号編集同人。
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by urag | 2006-09-26 02:57 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2006年 09月 24日

今週の注目新刊(第68回:06年9月24日)

a0018105_0214294.jpg近代とホロコースト
ジークムント・バウマン:著 森田典正:訳
大月書店 06年9月刊 3,885円 46判296+20頁 ISBN:4-272-43069-6

強制収容所グーゼンの日記――ホロコーストから生還した画家の記録
アルド・カルピ(1886-1973):著 川本英明:訳
創元社 06年9月刊 3,360円 46判373頁/図版32頁 ISBN:4-422-30040-7

歪んだ建築空間――現代文化と不安の表象
アンソニー・ヴィドラー(1942-):著 中村敏男:訳
青土社 06年10月刊 3,990円 46判421+71頁 ISBN:4-7917-6292-4

デカルトの暗号手稿
アミール・D・アクゼル:著 水谷淳:訳
早川書房 06年9月刊 1,995円 46判292頁 ISBN:4-15-208762-5

コンピュータの名著・古典100冊 〔改訂新版〕――若きエンジニア〈必読〉のブックガイド
石田晴久:編
インプレスジャパン 06年9月刊 1,680円 A5判269頁 ISBN:4-8443-2304-0

本草家カルペパー――ハーブを広めた先駆者の闘い
ベンジャミン・ウリー(1958-):著 高儀進:訳
白水社 06年10月刊 3,990円  46判372頁 ISBN:4-560-02755-2

ロングテール――「売れない商品」を宝の山に変える新戦略
クリス・アンダーソン(1961-):著 篠森ゆりこ:訳
早川書房 06年9月刊 1,785円 46判302頁 ISBN:4-15-208761-7

古代中世暦――和暦・ユリウス暦月日対照表
日外アソシエーツ編集部:編
日外アソシエーツ 06年9月刊 5,250円 A5判506頁 ISBN:4-8169-1998-8

◎注目新書

入門!論理学/ 野矢茂樹:著 / 中公新書:中央公論新社 / 777円 / ISBN:4-12-101862-1

反西洋思想 / イアン・ブルマ+アヴィシャイ・マルガリート / 新潮新書:新潮社 / 756円 / ISBN:4106101823
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by urag | 2006-09-24 23:40 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2006年 09月 20日

10月16日店頭発売予定:大竹伸朗エッセイ集『ネオンと絵具箱』

a0018105_13204841.jpgネオンと絵具箱 (ねおんとえのぐばこ) 【ジャンル:芸術、エッセイ】

大竹伸朗=著、46判並製カバー装232頁(挿絵白黒20数点)、本体価格1,600円、2006年10月13日取次搬入予定、ISBN:4-901477-27-7

●内容:アーティストの日常と原点を明かした最新エッセイ集。全27篇。「この道を歩くと季節を超えて初心が忍び寄る」。装丁=著者+小関学

●関連情報(1):東京都現代美術館で10月14日~12月24日に大回顧展「全景」が開催!
●関連情報(2):NHK「新日曜美術館」で11月半ばに特集番組放送予定!
●関連情報(3):『ユリイカ』11月号、『美術手帖』、『en-taxi』、『アイデア』、『ART iT』など、雑誌特集が続々!

●目次:

絵窓、歌窓
ネオン星
バクテリアの夢
音が見る夢
モナリザのサイズ
夢の味
スクラップ時計
旅景
今、記すこと
UK77
ダラムの地図
ワイアー
島とシルヴィアン
牧場の展覧会
展覧会と造船所の花見
『「黒い」「紫電改」』
メッタメタ大道講座
油くさい時間軸
達人の佇まい
反逆のメロディー
冥土・イン・日暮里
遠山
佐賀の松本君
マムシ狂騒曲ハメ短調
「鳥羽力」の神秘
年輪ディープパープル
ネオンと絵具箱
あとがき

●著者:大竹伸朗(おおたけ・しんろう):1955年東京生まれ。画家。絵画、立体作品、版画、コラージュ、印刷物、パフォーマンス(音)、絵本、写真、エッセイなど幅広く活動。おもな画集や著書に以下のものがある。『SO:大竹伸朗の仕事 1955-91』(UCA)、『日本景/ジャパノラマ』(朝日新聞社)、『ジャリおじさん』(福音館書店)、『既にそこにあるもの』(ちくま文庫)、『カスバの男』(集英社文庫)、『テレピン月日』(晶文社)、『18』(青山出版社)、『んぐまーま』(谷川俊太郎との共著)など。

●好評既刊:
大竹伸朗小説集『権三郎月夜(ごんさぶろうつきよ)』
06年5月刊 A5判上製112頁 図版6点(一部カラー) 本体1600円 ISBN4-901477-24-2
別府生まれの黒い犬、権三郎。港町の藍色の闇夜をぶらぶらするうちに、不思議な世界へと引き込まれ彷徨する、夢幻冒険犬譚。8年ぶりの創作集。幻の中編「覗岩テクノ」併載。

大竹伸朗写真+ドローイング+コラージュ『UK77(ゆーけー・なななな)』
04年6月刊 B5判上製656頁(4C:144頁、B/W:512頁) 本体7000円 ISBN:4-901477-12-9
Digging my way to London...大竹伸朗、21歳、パンク吹き荒れるロンドンでみたものの大部分。

●続刊予定:【ジャンル:芸術書】
『増補 ドンケデリコ』ヤマツカ・アイとのコラボレーションから生まれたファクス交換漫画。増補し、待望復刊なる。初版:作品社、1996年。
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by urag | 2006-09-20 13:17 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)
2006年 09月 17日

今週の注目新刊(第67回:06年9月17日)

a0018105_141247.jpg地上の迷宮と心の楽園
J・A・コメニウス(1592-1670)著 藤田輝夫(1941-2004)訳 相馬伸一監修
東信堂 06年8月刊 3,780円 A5判上製268頁 ISBN4-88713-703-6
■帯文より:チェコ国民文学の古典、待望の発刊! 三十年戦争下の絶望的状況のなか、現世の虚偽への批判を通して心への回帰に至ったコメニウスの精神の軌跡が描かれる。
●「コメニウス・セレクション」の記念すべき第一回配本です。優れた教育者として著名なコメニウス(コメンスキー)ですが、著書の翻訳出版にはこれまでに以下のものがありました。

『聖の世界と教育』、辻幸三郎訳(『大教授学』第1章~第14章までの抄訳で、Keatinge英訳からの重訳)、目黒書店、1924年
『大教授学』、稲富栄次郎訳(Keatinge英訳からの重訳)、玉川大学出版部、1956年/再販1978年
『大教授学』全2巻、鈴木秀勇訳、明治図書、1962年/合本、1973年/全2巻再版、1979年
『母親学校の指針』、藤田輝夫訳、玉川大学出版部、1986年
『世界図絵』、井ノ口淳三訳、ミネルヴァ書房、1988年/平凡社ライブラリー、1995年

●今回の新刊の訳者である藤田輝夫さんは実はコメニウスの著作の大部分を邦訳なさっており、それらの書目リストはコメニウス研究者の太田光一さんのウェブサイトで見ることができます。
●東信堂さんからこのたび刊行が開始された「コメニウス・セレクション」は、「汎知学」の思想家としてのコメニウスの全貌を開示するものとなることでしょう。画期的な素晴らしいシリーズで、大きな拍手を送らずにいられません。


エスペラント日本語辞典 / 日本エスペラント学会エスペラント日本語辞典編集委員会編 / 日本エスペラント学会 / ¥6,300
●辞書好きにはたまらない、『エスペラント日本語辞典』。これまでに入手しやすかった類書は、宮本正男編『日本語エスペラント辞典 〔第3版〕』 (日本エスペラント学会、1998年)と、三宅史平編『エスペラント小辞典』(大学書林、1976年)でしたが、新しいスタンダードになるのでしょうか。

編集者 / 川上隆志(1960-)著 / 千倉書房 / ¥1,995
●『編集者』の著者、川上隆志さんは、東大卒で岩波書店に入社、単行本や新書のほか、『へるめす』編集長として活躍。現在は専修大学文学部助教授。

「ねずみ男」精神分析の記録 / フロイト著 / 北山修編集・監訳 / 高橋義人訳 / 人文書院 / ¥2,835
催眠術の日本近代 【復刊】 / 一柳広孝(1959-)著 / 青弓社 / ¥2,100
幻影の城館 / マルセル・ブリヨン(1895-1984)著 / 村上光彦訳解説 / 未知谷 / ¥2,940
ピノチェト将軍の信じがたく終わりなき裁判--もうひとつの9・11を凝視する / アリエル・ドルフマン(1942-)著 / 宮下嶺夫訳 / 現代企画室 / ¥2,520
〈メディア〉の哲学--ルーマン社会システム論の射程と限界 / 大黒岳彦(1961-)著 / NTT出版 / ¥5,040
ソフィストとは誰か? / 納富信留(1965-)著 / 人文書院 / ¥2,940
パースの宇宙論 / 伊藤邦武(1949-)著 / 岩波書店 / ¥2,940


◎今週の注目文庫・新書・選書

a0018105_1415663.jpg●ゲーデル初の文庫化は、いわゆる「不完全性定理」を提示したクルト・ゲーデル(1906-1978)の高名な論文「プリンキピア・マテマティカおよび関連した大系の形式的に決定不能な命題について I」の翻訳と、長大な解説からなる一冊。ちくま学芸文庫のMath&Scienceシリーズから刊行が企図されていてもおかしくなかった気がしますが、ひょっとして別訳がありうるのかもしれないと想像してみたり。

●貧富格差の拡大傾向がますます無視できなくなっているこんにち、中流の崩壊や下流社会、格差社会といったキータームをめぐる新刊が増えています。橋本さんの『階級社会』もその一つ。文芸春秋から刊行された山田昌弘さんの単行本新刊『新平等社会--「希望格差」を超えて』などとあわせ、話題になりそうな本です。

ゲーデル 不完全性定理 / 林晋+八杉満利子訳 / 岩波文庫 / ¥735
シャドウ・ワーク / I・イリイチ / 岩波現代文庫 / ¥1,260
万里の長城 / カフカ著 / uBooks:白水社 / ¥1,050
階級社会--現代日本の格差を問う / 橋本健二(1959-)著 / 講談社選書メチエ / ¥1,575


◎今週の気になる版元:小学館スクウェア

●新シリーズ「高野山大学選書」として『高野山と密教文化』『真言密教の新たな展開』『現代に密教を問う』が刊行されましたが、これの発行発売元が小学館の自費出版部門である小学館スクウェアです。大手出版社の自費出版部門というのはこれまでさほど表立った活動を目にしないような印象がありましたが、90年代後半から自費出版専門の新興勢力版元がぐいぐいと成長し、大手も今や大いに宣伝している、という状況なのだと言えるでしょうか。
●大手系自費出版部門:岩波出版サービスセンター学習研究社出版企画センター講談社出版サービスセンター三省堂自費出版センター中央公論事業出版ルネッサンスブックス(幻冬舎)など。
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by urag | 2006-09-17 22:51 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2006年 09月 13日

今週の注目新刊(第66回:06年9月10日【後編】)

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紀伊國屋書店総務部が97年から発行していた季刊広報誌「i feel」が06年春号をもって休刊し、今月から今度は同出版部が編集し発行する季刊フリーマガジン「scripta スクリプタ」が誕生しました。「i feel」と同様、広報誌として位置づけられています。誌名はラテン語の格言「Verba volant, scripta manent: 言葉は去りゆくが、書かれたものは残る」から採ったそうです。

その第一号の「from author/translator」のコーナーに、中田力(なかだ・つとむ:カリフォルニア大学脳神経学教授/新潟大学統合脳機能研究センター長)さんが「三丁目で見た夕日」という一文を寄せておられ、一読して強く惹かれた私は、中田さんの最新著『脳のなかの水分子』を早速購入してみました。中田さんの文章が魅力的だったから、また、この先生の創見になる「脳の渦理論」に、一介のモルフォロジー好きとしてピンときたからです。

で、この『脳のなかの水分子』。とてつもなく面白いです。これまで紀伊國屋書店から『脳の方程式』と題された連作が刊行されていますが、これを読んでいなかった自分が実に恥ずかしい。無知にもほどがあります。「意識」と「こころ」の成り立ちの解明に挑み続けている中田さんの「感動」と「苦労」がじんわりと伝わってくる素晴らしい本です。

脳のなかの水分子--意識が創られるとき
中田力(1950-)著
紀伊国屋書店 06年8月刊 1,680円 46判174頁 ISBN:4-314-01011-8
■帯文より:意識は脳のなかの水から生まれる! 現象論に徹する現代脳科学を乗り越え、「複雑系の脳科学」から意識をも説明する「脳の渦理論」誕生へ! 脳科学のコペルニクス革命。

音楽から沈黙へ フォーレ--言葉では言い表し得ないもの
ウラディミール・ジャンケレヴィッチ:著 大谷千正+小林緑+遠山菜穂美+宮川文子+稲垣孝子:訳
新評論 06年8月刊 4,725円 A5判451頁 ISBN:4-7948-0705-8
■帯文より:魂の安らぎ、流れゆく生命、無限の優美さ。フォーレ作品の美の世界を独創的論法で解き明かすフランス音楽書の至宝、待望の完訳。

徳について(I) 意向の真剣さ
ヴラジミール・ジャンケレヴィッチ:著 仲沢紀雄:訳
国文社 06年9月刊 3,360円 46判302頁 ISBN:4-7720-0513-7
■帯文より:悪とは何か、善とは何か。暴力を制するために暴力に頼り、殺戮を止めるために殺戮に訴えることができるか、真実を救うために虚偽によることができるか。犠牲とは、勇気とはなにかという種々の問いに、倫理の根源的問題を見いだす。
●ジャンケレヴィッチ畢生の大著"Traité des vertus"の初訳。全4分冊の第1巻。

精神分析すること--無意識の秩序と文字の実践についての試論
セルジュ・ルクレール(1924-1994):著 向井雅明:訳
誠信書房 06年8月刊 2,730円 46判218頁 ISBN:4-414-40418-5
●『子どもが殺される--一次ナルシシズムと死の欲動』(小林康夫+竹内孝宏:訳、誠信書房、98年刊、ISBN:4-414-40411-8)に続く、ラカンの高弟の邦訳第二弾。原書は"Psychanalyser"。
●誠信書房では今月末にジョン・R・サールの邦訳新刊『表現と意味--言語行為論研究』(山田友幸監訳、46判320頁)を刊行する模様。

アトランティスの暗号--10万年前の失われた叡智を求めて
コリン・ウィルソン(1931-):著 松田和也:訳
学研 06年9月刊 2,730円  46判487頁 ISBN:4-05-403095-5
●『アトランティスの遺産』(角川春樹事務所、1997年)、『アトランティス・ブループリント--神々の壮大なる設計図』(学研、2002年)に続く、コリン・ウィルソンによるアトランティス本の邦訳第三弾。

***
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◎注目の文庫、新書

何と言っても注目は、光文社から創刊された「光文社古典新訳文庫」です。今月の第一回配本では、8点が発売されています。どれも目を惹くものばかりですが、亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』(全4巻、既刊は第1巻のみ)の続刊予定の問い合わせが多かったようです。第2巻は11月発売予定だとか。

「いま、息をしている言葉で」というのが、この古典新訳シリーズのキャッチフレーズです。まあ新訳と呼ばれるものは他社の場合でも「読みやすさ」を目指すものなので、改めて声高に宣言しているその戦略性に注目したいと思います。書店店頭に置いてある無料の小冊子には次のようなことが書いてありました。

「哲学や思想など、人文・社会科学の著作もラインナップされます。じつは翻訳の質の向上がいちばん望まれているのは、このジャンルなのです」。言ったな。言ってくれたな。言った以上は本当にチャレンジしてくださいよ。そして数年でこのシリーズが終息しないように、頑張ってくださいよ。何十年と続けないと、意味がないですよ。

さすがに創刊時だけあって、地元の駅構内の小さな本屋さんでも、カントさえもが平積みされるというとても感動的な光景を見ることができました。10月には、シュペルヴィエル『海に住む少女』(永田千奈訳)やレーニン『帝国主義論』(角田安正訳)など、全4点が出るそうです。今後も「どんな小さな本屋さんでも置いてある」という営業姿勢を貫いていただきたいです。

海外文学を中心に新訳を進められるそうですが、もしも私が担当編集者だったらそういう方針は立てなかったろうと思います。かつての中央公論社の「日本の名著」シリーズを参考に、日本の古典の現代語訳を中心に進めて(岩波書店の「日本思想体系」や「日本古典文学大系」の全巻を現代語訳するくらいの勢いが望ましい)、中国古典や仏典、アジアの諸経典、そしてアジア文学の新訳をやるほうが遥かに興味があります。言うは易し、に過ぎませんが。

マダム・エドワルダ/目玉の話
バタイユ:著 中条省平:訳
光文社古典新訳文庫:光文社 06年9月刊 440円 文庫判165頁 ISBN:4-334-75104-0
■帯文より:いまも暗い輝きを放つバタイユの小説世界。新訳では、この作家が本来持っていた、愚直なまでの論理性を回復し、日常語と哲学的な表現が溶けあう世界が見事に再現される。
●「目玉の話」というのはこれまで「眼球譚」として日本では知られていた小説です。生田耕作訳の「マダム・エドワルダ」および「眼球譚」は角川文庫の『マダム・エドワルダ』で読めます。角川文庫版では、バタイユのエッセイ「エロティシズムに関する逆説」と、バタイユの講演および討論会の記録「エロティシズムと死の魅惑」が併録されています。また、生田さんによる「眼球譚」は、単独で河出文庫からも『〈初稿〉眼球譚』として刊行されています。生田訳の底本は1928年版の初稿。今回、中条さんによって新訳された「目玉の話」の底本は1947年の新稿です。

永遠の平和のために/啓蒙とは何か 他3編
カント:著 中山元:訳
光文社古典新訳文庫:光文社 06年9月刊 680円 文庫判387頁 ISBN:4-334-75108-3
■帯文より:難解な哲学用語を使わずに、初めて翻訳されたカントの論文集。現在でも、なお輝きを失わない、カントの現実的な問題意識に貫かれた言葉の数々が、静かに語りかけてくる。
●収録論文:「啓蒙とは何か」「世界市民という視点からみた普遍史の理念」「人類の歴史の憶測的な起源」「万物の終焉」「永遠平和のために」。岩波文庫では以下の2点に分割されています。篠田英雄訳『啓蒙とは何か 他四篇』(1974年改訳)、宇都宮芳明訳『永遠平和のために』(1985年)。前者には「理論と実践」という論考が併録されていますが、今回の新訳版には収録されていません。 今回の新訳版では巻末に訳者の中山さんによる長文解説「カントの思考のアクチュアリティ」が収録されています。

善の研究
西田幾多郎(1870-1945):著 小坂国継(1943-):全注釈
講談社学術文庫:講談社 06年9月刊 1,155円 文庫判518頁 ISBN:4-06-159781-7
●「最初は気が進まなかった」と正直に告白されている小坂さんですが、何十年もかけて読み続けてきた成果がこの一冊になったわけで、若い読者には詳細な注釈と解説が読解の手引きになることでしょう。
●『善の研究』を論じた研究書は色々とありますが、原文と注釈を併載したものには、香山リカの『善の研究--実在と自己』(哲学書房、2000/2005年)があります。

般若心経 現代語訳
玄侑宗久(1956-)著
ちくま新書:筑摩書房 735円 新書判221頁 ISBN:4-480-06319-6
●現代語訳とありますが、中味は砕けた文章で読ませるかなり自由な注釈編が大半を占め、後ろの方に現代語訳と書き下し文、白文、お経として音読するための仮名文、文字が読めない人のために元禄時代に開発された絵心経が収録されています。

甦るヴェイユ
吉本隆明(1924-):著
MC新書:洋泉社 06年9月刊 1,470円 新書判213頁 ISBN:4-86248-069-1
●親本は、JICC出版局(現・宝島社)から1992年に刊行。

坂口安吾と中上健次
柄谷行人:著
講談社文芸文庫:講談社 1,470円 文庫判412頁 ISBN:4-06-198452-7
●親本は、太田出版の「批評空間叢書」から1996年に刊行。

十二世紀ルネサンス
伊東俊太郎:著
講談社学術文庫:講談社 1,050円 文庫判307頁 ISBN:4-06-159780-9
●親本は、岩波セミナーブックス『十二世紀ルネサンス--西欧世界へのアラビア文明の影響』(1993年)。

フーコー・コレクション (5) 性・真理
ミシェル・フーコー:著 小林康夫+石田英敬+松浦寿輝:編
ちくま学芸文庫:筑摩書房 1,470円 文庫判457頁 ISBN:4-480-08995-0
●収録論文:「性現象と真理」「身体をつらぬく権力」「性の王権に抗して」「世界認識の方法-- 吉本隆明との対談」「性現象と孤独」「性の選択、性の行為」「倫理の系譜学について」「快楽の用法と自己の技法」「『性の歴史』への序文」「自由の実践としての自己への配慮」「生存の美学」「自己の技法」「個人の政治テクノロジー」。
●この機会にフーコー晩年のセミナー記録『自己のテクノロジー』(岩波現代文庫)も一緒に購入することをお奨めします。

ペンローズの〈量子脳〉理論--心と意識の科学的基礎をもとめて
ロジャー・ペンローズ:著 竹内薫+茂木健一郎:訳&解説
ちくま学芸文庫:筑摩書房 06年8月刊 1,470円 文庫判461頁 ISBN:4-480-09006-1
●親本は徳間書店から1997年に刊行された『ペンローズの量子脳理論--21世紀を動かす心とコンピュータのサイエンス』。
●ペンローズの著書の初の文庫化。新書化されたものには以下があります。『心は量子で語れるか--21世紀物理の進むべき道をさぐる』(中村和幸訳、ブルーバックス:講談社、1999年、ISBN:4-06-257251-6)。

すべての女は美しい
荒木経惟:著
だいわ文庫:大和書房 06年9月刊 580円 文庫判192頁 ISBN:4-479-30047-3
●同じく今月に刊行された朝日文庫の一冊、佐内正史の写真集『ロマンチック』が扱っているのもまた「女性」なのですが、荒木さんのそれと好対照をなしています。
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by urag | 2006-09-13 23:15 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2006年 09月 10日

今週の注目新刊(第66回:06年9月10日【前編】)

今週は大漁につき、2回に分けてご紹介します。まずは単行本全編。続くエントリーでは単行本後編と文庫新書を。
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愛の新世界
シャルル・フーリエ(1772-1837):著 福島知己(1971-):訳
作品社 06年8月刊 8,190円 A5判716頁 ISBN 4-86182-089-8
■帯文より:そのあまりの先鋭さ故に長らく封印されていた幻の奇書、ついに全貌を現わす。稀代の幻視者フーリエが描く、恋愛のユートピア!
●本書については刊行前から拙ブログで何度か触れてきました。待望の刊行です。何はさておき、初版が限定800部ですから、多少の我慢をしてでも本書は買うに越したことはないです。半世紀に一度あるかないかの、ホンモノの「奇書」の翻訳なのですから。
●苦心の訳文に詳細な訳註と解説、巻末には用語集と地図が付されています。索引が欲しかった気もしますが、作成するだけでも途方もない作業となるでしょうし、人名索引はドゥブー版にありますから、原書を買うのがいいと思います。原文と訳文を対照もできますし。
●訳者の福島さんは訳稿をつくるに際して、フランス国立古文書館に保管されているフーリエの草稿にも目を通されていて、ドゥブー版と異なる判読をされている部分があるので、本書はいわば、福島さんによる最新校訂版に基づいていると言っていいわけです。
●松田行正さんの装丁も素晴らしいです。箔押しなどの加工が美しく、本書にぴったりです。
●フーリエの言う「調和世界」と、それを構成する様々な愛のかたちは、現代人にとっても今なお新鮮に映ることでしょう。常識や慣習をぶち壊す一撃また一撃が、本書には満載されています。
●フーリエ哲学は極端な思想なのでしょうか? そうではないかもしれません。彼は『四運動の理論』(現代思潮新社)でこう述べています、「賢明なる中庸に安定することなく、常に両極のあいだを動揺するのが文明の運命である」と。フーリエが極端な存在に映るとしたら、それは現代人こそが極端な存在だからかもしれないのです。

双数について
ヴィルヘルム・フォン・フンボルト(1761-1835):著 村岡晋一(1952-):訳&解説
新書館 06年9月刊 2,940円 A5判222頁 ISBN:4-403-12018-0
●「双数について」「いくつかの言語における場所の副詞と人称代名詞の類縁性について」「人間の言語構造の相違について」の三論文を収録。フンボルトの邦訳は20世紀前半に集中していて、後半はほとんどなかっただけに、今回の新刊は久しぶりのニュースです。 後半は『言語と精神--カヴィ語研究序説』(亀山健吉:訳、法政大学出版局、84年刊)と、『人間形成と言語』(クラウス・ルーメルほか:訳、以文社、89年刊)くらいで、あとは復刻が1点あるくらいです、『言語と人間』(岡田隆平:訳、創元社、48年刊/ゆまに書房、98年刊)。

ヨーロッパ文明史--ローマ帝国の崩壊よりフランス革命にいたる
フランソワ・ギゾー(1787-1874):著 安士正夫:訳
みすず書房 06年9月刊 3,360円 46判344頁 ISBN:4-622-07239-4
●初版は1987年刊。本年度の「書物復権」で復刊されたものの一つです。みすず書房のその他の復刊書目はこちらをご覧になってください。

異説・近代芸術論
サルヴァドール・ダリ(1904-1989):著 滝口修造訳
紀伊国屋書店 06年9月刊 2,310円 A5判131頁 ISBN:4-314-01014-2
●初版は1979年刊。これも「書物復権」からの一冊。「書物復権」全体の、復刊決定書目はこちらをご覧ください。

ブレイキング・グラウンド--人生と建築の冒険
ダニエル・リベスキンド(1946-):著 鈴木圭介:訳
筑摩書房 06年9月刊 3,675円 A5判344頁 ISBN:4-480-85784-2
●ポーランド出身の、現代建築界を代表する一人であるリベスキンドの、本邦初の単行本です。デリダとの交流がつとに有名ですから、建築書だけでなく、現代思想の棚に置いていい本だと思います。コールハースやバルモンド、チュミ、ジェンクス、礒崎新、飯島洋一の本なども並んでいるともっといいと思います。

摩天楼とアメリカの欲望--バビロンを夢見たニューヨーク
トーマス・ファン・レーウェン(1941-):著 三宅理一+木下寿子:訳
工作舎 06年9月刊 3,990円 A5判383頁 ISBN:4-87502-397-9
●著者はライデン大学教授で、アメリカでも教鞭を執っているそうです。同じくオランダの研究者
であるマグダ・レヴェツ-アレクサンダー女史による『塔の思想』という小さな本が河出書房新社からかつて刊行されていて、そこでは西欧文明における塔の精神史がコンパクトに解明されていましたが、ファン・レーウェンの本書は特にアメリカに的を絞って書かれているようです。聳え立つ摩天楼はなぜ人を魅了するのでしょうか。屹立するファロスだから? むろん、それだけが論点ではないのです。

テヘランでロリータを読む
アーザル・ナフィーシー(1950c-):著 市川恵里:訳
白水社 06年9月刊 2,310円 46判485頁 ISBN:4-560-02754-4
●ヴェールの着用を拒否したためテヘラン大学教授の地位を追われたナフィーシー女史(現在はジョンズ・ホプキンズ大学教授)が、女性だけの読書会を秘密裏に開いて禁書である「ロリータ」「グレート・ギャツビー」などを読んだという、「イスラーム革命下のイラン」における回想録だそうです。中味の立ち読みや岡真理さんの特別寄稿、書店員さんや読者からの声を掲載している白水社の特集ページはこちらです。

戦場で心が壊れて--元海兵隊員の証言
アレン・ネルソン(1947-):著
新日本出版社 06年9月刊 1,365円 小B6判156頁 ISBN:4-406-03312-2
●著者はベトナム戦争体験者で、長い年月、PTSDと対峙してきた方です。現代日本へのまなざしや、憲法9条などに対するコメントなど、経験者の言葉の重みを受け止めたいと思います。岩波書店の新刊『玉砕/Gyokusai』(小田実+ドナルド・キーン+ティナ・ペプラー)とあわせ、911を迎えるにあたって読みたい本です。

カイエ 1957-1972
E・M・シオラン(1911-1995):著 金井裕:訳
法政大学出版局 06年9月刊 28,350円 A5判1012+18頁 ISBN:4-588-15045-6
●「15年間にわたり書き継がれた膨大な未発表ノートの全訳に人名索引と略年譜を付」したものだそうです。翻訳出版自体は非常に喜ぶべきものですが、この値段では学生は買えないし、社会人だってたいていは尻込みするでしょう。推測するに初版は300部くらいかもしれません。大学図書館向けでしょうね。欲しい、でも手が出ない。

図書館は本をどう選ぶか
安井一徳(1982-):著
勁草書房 06年9月刊 2,205円 46判164+5頁 ISBN:4-326-09831-7
●「図書館の現場」シリーズの一冊。著者は東大卒で現在は国立国会図書館に勤務されています。「公共図書館での図書の選択はどんな基準にもとづいているのか。市民の要求か社会的価値か。選択基準の正当性を原理的に考えぬく」というのが趣旨だそうです。「原理的に」というのは恐らく、個々の実務を包摂していくようなメタレヴェルにおける選書論である、という意味でしょうね。要求論と価値論というのは、出版社においても書店においても直面する問題です。若い著者がどんなふうに整理しているのか、興味は尽きません。

書店繁盛記
田口久美子(1947-):著
ポプラ社 06年9月刊 1,680円 46判307頁 ISBN:4-591-09433-2
■帯文より:本屋さんの棚には、私たちの未来がつまっている。若い書店員の奮闘から、本と出版の未来を考える。
●リブロ池袋店の黄金期を振り返った『書店風雲録』(本の雑誌社、2003年)に続き、ジュンク堂書店池袋店での体験記がぎっしり詰まっています。ウェブマガジン「ポプラビーチ」で連載されていた「書店日記」を再構成し、加筆訂正したもの。今回の本も非常に面白いです。ほとんどの人物が実名で出てきて、皆さんの奮闘振りにあらためて感動。抱きしめたくなる本です。私の実名がちょこっと出てくるのは汗顔の至り。ああオンライン書店で買うんじゃなくて、ジュンク堂で買えばよかった。
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by urag | 2006-09-10 16:33 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(1)
2006年 09月 08日

月曜社創業五周年記念・公式ウェブサイト限定販売

月曜社創業五周年記念のサイン本ウェブサイト限定販売を8日18:00より開始いたしました。

川田喜久治『地図』サイン本【限定75部】
定価12600円(税込)+送料

やなぎみわ『White Casket〔海外版〕』サイン本【限定50部】
ナズラエリ社から発売された海外版の、日本国内初の販売になります。
定価12600円(税込)+送料

森山大道×滝沢直己『NOVEMBRE』サイン本【限定15部】
デッドストック品(注文キャンセル等により返品された商品)を、森山大道氏サイン入りで販売します。
定価6930円(税込)+送料

思いがけず早期に完売することもございます。速報はブログをご覧いただけたら幸いです。
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by urag | 2006-09-08 18:00 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2006年 09月 04日

『未来』06年9月号に啓文堂高幡店による専売復刊の話が

a0018105_2055781.jpg業界人にはよく知られているはずの話ですが、啓文堂書店高幡店の志水店長(72年生まれ)が講談社文芸文庫の大岡昇平『愛について』を同店の専売商品として700冊買い切るという条件で見事復刊させたことがありました。今春の話です。その顛末が、PR誌「未来」06年9月号の「書店のABC」コーナーに寄稿した志水雅弘さんご自身の筆になる「「専売」――初めての挑戦」で明らかにされています。

啓文堂書店は京王グループ傘下の中堅チェーンで、都内を中心に三十数店舗を展開。高幡店はその一つです。チェーンでは昨年講談社文庫のとある商品を猛烈に拡販し、それがきっかけで志水さんは講談社サイドに『愛について』の復刊をかけてアタック。実績ある書店からの申し出に、講談社は実に迅速なことに数日のうちに重版を決定、一ヵ月後には重版が出来上がったというのです。すごい。

志水さんは店内で同商品を60面積み、ズバリ700冊全部を陳列し、手書きのパネルとPOPを設置。なんと一ヵ月後には100冊を売り、四ヶ月で重版部数の半数にあたる350冊を売り切ったそうです。これはたった一店舗の話。「専売商品は確かにリスクを伴う。だが“当店でしか手に入らない”という武器は専売ならではの魅力がある」と志水さんは語り、書店人や出版人に専売へのチャレンジを勧めています。

出版社サイドの気持ちとして申し上げれば、書店さんから「専売したいので復刊を」との申し出があったら、身を乗り出して大いに話を伺うでしょう。むろん、文庫ではなく単行本の場合は、単価が高いですから、いくら書店さんが買い切ると言っても、高額本の場合は難しいこともあるかもしれません。

しかし内容や版権にまつわる事情がクリアになっていれば、どんなに高額な商品でも復刊できないことは原則的にありません。それに、買い切っていただくとなれば、出版社側も「直取引にして卸正味を下げる」こともできるでしょう。

人文書業界でもそういう「専売」への夢はずっと昔からありました。専売とはいきませんでしたが、いわゆる「復刊事業」には積極的に取り組んできました。一店舗に買い切って欲しいとは言わないまでも、人文書を置くような大型書店さんがチェーンで買い切ってくださるなら、引き受けることも可能だと思います。専売商品が他チェーンとの差別化に貢献するならば、商売としては成功です。

しかしながら人文書業界では専売復刊というのは聞いたことがありません。教科書採用品につき実質的な専売状態になることはあるでしょうけれど・・・。しかし、岩波文庫、講談社学術文庫、ちくま学芸文庫、平凡社ライブラリーなどの人文系の文庫(あるいは新書でもいいのですが)は、大型書店チェーンならば専売復刊をお願いしてもいいような気がします。あるいは出版社側が専売復刊を持ちかけたら引き受けてくださる書店さんがいらっしゃるでしょうか。

講談社は上記の流れを成功と見たのか、あるいは他店や遠方の読者からの声があったのか、『愛について』を遠からず重版するそうです。私は専売店で売切れるまでは重版しないということを専売商品の特権的条件にしたほうがいいように思います。というのも、在庫というのは残りが少なくなってからしぶとく何年ももったりする場合があるのですから。

たとえばA書店で専売復刊となったとき、あるいはカバーや奥付にその書店の名を冠したり、あるいはその書店の要望にしたがって装丁を変えたりという試みも不可能ではありません。書店主導で本をカスタマイズしていく、そうした試みもあっていいと思います。

***

「未来」9月号の広告および筑摩書房の公式ウェブサイトの近刊情報によれば、ちくま学芸文庫の「フーコー・コレクション」の続刊予定はこうなっています。第五巻「性・真理」9月8日刊、第六巻「生政治・統治」10月12日、そして「フーコー・ガイドブック」です。最後の「ガイドブック」というのはどんなものなんでしょうね。筑摩書房では10月下旬にフーコーの単行本新刊『マネの絵画』(阿部崇訳、A5判240頁、価格未定)も刊行するそうです。

「未来」10月号では丹生谷貴志さんによる『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』の書評が掲載されると予告が出ていました。楽しみです。
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by urag | 2006-09-04 19:36 | 雑談 | Trackback(1) | Comments(0)
2006年 09月 03日

今週の注目新刊(第66回:06年9月3日)

作品社からアドルノ、ジェイムスンが連続して刊行。そしてついにフーリエの『愛の新世界』も同社から800部限定で発売(後日続報)。『パブリッシャー』の著者マシュラーはジョナサン・ケイプ社の伝説的出版人であり、ブッカー賞の創設者。業界人必読といったところ。

a0018105_13223141.jpg道徳哲学講義
T・W・アドルノ著 船戸満之訳
作品社 3,360円 46判306頁 ISBN 4-86182-094-4
■原書:"Probleme der Moralphilosophie", Surhkamp, 1996.
■帯文より:狂った社会を如何に生きるか。実践理性の優位を説きつつ徳の追求と幸福の追求の背反定率(アンチノミー)に横着するカントの「道徳哲学」に対し、自由意志と深い洞察に基づく無限の限定否定を提起する『否定弁証法』「自由の章」への前哨。
●フランクフルト大学で1963年の夏学期、5月7日から7月27日にかけて、アドルノが週2回ずつ合計17回、「道徳哲学の諸問題」と題して行った講義の記録です。「狂った社会の中に正しい生活はありえない」という命題をめぐってカントの道徳哲学を批判的に乗り越えるための諸契機が素描されます。

カルチュラル・ターン
フレドリック・ジェイムスン著 合庭惇+河野真太郎+秦邦生訳
作品社 2,940円 46判296頁 ISBN:4-86182-092-8
■原書:"The Cultural Turn", Verso, 1998.
■帯文より:ポストモダンは何をもたらすか。現実のイメージ化と時間の断片化。ポストモダンの二大特徴はマスメディアの肥大化・情報システムの加速化と相俟って、われわれを歴史的記憶喪失にする。ポストモダンの現状を見据えつつその病弊を剔出した記念碑的考察。
●2005年にVersoから刊行された"Archeologies of the Future: The Desire Called Utopia and Other Science Fictions"も現在、作品社で翻訳出版の準備が進められているそうです。

シェイクスピアの驚異の成功物語
スティーヴン・グリーンブラット著 河合祥一郎訳
白水社 4,410円 46判612頁 ISBN:4-560-02748-X

不鮮明の歴史
ヴォルフガング・ウルリヒ(1967-)著 満留伸一郎訳
ブリュッケ 2,730円 A5判216頁 ISBN:4-434-08270-1

人造美女は可能か?
巽孝之+荻野アンナ編著
慶応義塾大学出版会 2,625円 46判344頁 ISBN:4-7664-1301-6

アート/表現する身体--アフォーダンスの現場
佐々木正人編
東京大学出版会 3,360円 A5判308頁 ISBN:4-13-011119-1

祖先の物語 (上・下)
リチャード・ドーキンス著 垂水雄二訳
小学館 各3,360円 A5判472頁/456頁 ISBN:4093562113/4093562121

わたしが見たポル・ポト--キリングフィールズを駆けぬけた青春
馬淵直城(1944-)著
集英社 税込2,100円 46判288頁 ISBN:4-08-775367-0

パブリッシャー--出版に恋をした男
トム・マシュラー(1933-)著 麻生九美訳
晶文社 2,940円 46判390頁 ISBN:4-7949-6700-4


◎注目の選書、ブックレット新刊

山川出版社の「日本史リブレット」は、同社の「ヒストリア」や、吉川弘文館の「歴史文化ライブラリー」とともに、歴史学への興味をかきたててくれる啓発的な好シリーズだと私は思います。人文書コーナーよりも、新書コーナーの隣で併売してもらうほうが、いいような気がします。

鷲田さんの新刊は「待たなくてよい社会、待つことができない社会」としての現代への批判。平野啓一郎さんのスローリーディング本と問題意識が重なるものがありますね。

天文方と陰陽道
林淳著
日本史リブレット(46):山川出版社 840円 A5変型判100頁 ISBN:4-634-54460-1

対馬からみた日朝関係
鶴田啓著
日本史リブレット(41):山川出版社 840円 A5変型判116頁 ISBN:4-634-54410-5

石造物が語る中世職能集団
山川均著
日本史リブレット(29):山川出版社 840円 A5変型判116頁 ISBN:4-634-54290-0

「待つ」ということ
鷲田清一(1949-)著
角川選書:角川学芸出版 1,470円 B6判198頁 ISBN:4-04-703396-0
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by urag | 2006-09-03 17:31 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2006年 09月 01日

新規開店情報:あおい書店が各地へ殴りこみ

あおい書店が積極的に激戦区へ打って出るようです。すごい気合ですね。

あおい書店町田店
9月28日オープン予定、町田駅前の町田モディ8階、400坪、ト帳合。
久美堂チェーンの本拠地へ殴りこみ。リブロや三省堂がすでに参入済みの町田駅前で競争激化は必至。

あおい書店横浜店
10月21日オープン予定、横浜駅西口のダイエー新館4~6階、1000坪、ト帳合。
有隣堂チェーンの牙城へ殴りこみ。紀伊國屋、丸善、栄松堂などがしのぎを削る激戦区への参入。

あおい書店名古屋本店
11月中旬オープン予定、栄のマルエイスカイル5階、700坪、帳合未公開。
星野書店チェーンの地元への殴りこみ。と言いますか、あおい書店の本拠地も名古屋なのです。他地域への出店が目立っていて、あおいが名古屋発だということを知らない方が案外多いかもしれません。満を持して本丸をいよいよオープンといったところでしょうか。近隣の紀伊國屋書店ロフト名古屋店は不採算を理由に10月初旬に撤退予定。それでもなお丸善、マナハウス、リブロ、旭屋などが残っています。

このほかに業界紙では、喜久屋書店北神戸店(500坪)、フタバ図書GIGA大宮店などの開店予定が報じられています。注目は「大宮対決」。新興勢力のジュンク堂や、地元の老舗、須原屋はどう迎え撃つのでしょうか。ちなみにジュンク堂大宮ロフト店では、先月(8月4日)、7階コミック売場を拡充し、コミック専門店「Junku.COM」をオープンさせています。82坪増床して、223坪の日本最大のコミック売場となったそうです。
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by urag | 2006-09-01 22:32 | 雑談 | Trackback | Comments(0)