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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 899 )


2005年 11月 19日

レヴィナス『全体性と無限』の新訳が岩波文庫から

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エマニュエル・レヴィナス(1906-1995)の主著である『全体性と無限』の新訳が岩波文庫から全2巻で刊行されます。今月、まず上巻が発売されました。

全体性と無限(上)――外部性をめぐる試論
レヴィナス著 熊野純彦(1958-)訳
岩波文庫(岩波書店) 05年11月 本体940円 文庫判462頁 ISBN4-00-336911-4
■カバー紹介文より:第二次世界大戦後のヨーロッパを代表する哲学者の主著。フッサールとハイデガーに学んだレヴィナス(1906-1995)は、西欧哲学を支配する「全体性」の概念を拒否し、「全体性」にけっして包み込まれることのない「無限」を思考した。暴力の時代のただなかで、その超克の可能性を探り続けた哲学的探求は、現象学の新たな展開を告げるものとなる。(全2冊)

原書が刊行されたのは1961年。合田正人(1957-)さんによる同書の翻訳『全体性と無限――外部性についての試論』が国文社から刊行されたのが1989年でした。爾来ロングセラーを続けている本書ですが、このたび新訳の文庫が出て、私がリブロ池袋店で発売日翌日に購入した時には、うずたかく積まれている文庫新刊の平台の中でたった2冊しか残っていない状況でした。隣に積んである同岩波文庫の新刊、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』がまだたくさん残っていました。

難解をもって鳴るレヴィナスの著書ですから、もとより覚悟しなければなりませんが、もし文庫だけを買おうという方がいらっしゃいましたら、国文社版も同時に購入されることをお奨めします。どちらかの翻訳で意味がよく分からない箇所があったら、他方を読んでみるのです。

それでも分からない場合は原書や他言語訳(たとえばアルフォンソ・リンギスによる英訳)を参照するとよいのですが、当面は二つの翻訳を読み比べながら、それらを統合して自分にとってのベストの翻訳を脳裏に思い浮かべるのも、一興です。

ご参考までに、序文の冒頭を比較してみましょう。

熊野訳:
 私たちは道徳によって欺かれてはいないだろうか。それを知ることこそがもっとも重要であることについては、たやすく同意がえられることだろう。
 聡明さとは、精神が真なるものに対して開かれていることである。そうであるなら、聡明さは、戦争の可能性が永続することを見てとるところにあるのではないか。戦争状態によって道徳は宙づりにされてしまう。戦争状態になると、永遠なものとされてきた制度や責務からその永遠性が剥ぎとられ、かくて無条件な命法すら暫定的に無効となるのである。

合田訳:
 何よりも重要なのは、道徳の詐術にわれわれが欺かれていないかどうか、それを知ることである。こう言えば、誰もがためらうことなく同意するであろう。だが、なぜ道徳はかくも軽んじられているのか。その理由を考えてみよう。
 真実に対して精神が眼を塞がないこと、それが明晰さであるとするなら、いつ起こるかもしれない戦争の可能性を見て取ることがかかる明晰さの本義であろう。戦争状態は道徳を一時中断する。戦争状態は永続的なものと思われていた諸制度や責務からその永遠性を剥ぎ取り、それによって、数々の絶対的な責務を一時的に無効ならしめる。

こうして読み比べてみると、原文や他言語訳がどうなっているのか、気になりませんか。紀伊國屋書店やジュンク堂書店、丸善など、人文系の洋書の扱いがある書店では、原書が廉価なペーパーバック版で手に入りますから、どうぞこの機会に。リンギスの英訳本のペーパーバックは、アマゾン・ジャパンなどでも購入できます。

文庫本、単行本、洋書は、売場が通常異なっていますから、三つの売場を渡り歩いてこれらを捜さなければなりません。これらをすべて並べて販売している、という書店さんがいらっしゃいましたら、どうぞお知らせください(売場の「証拠写真」などあるとうれしいです)。宣伝させていただきます。なお書店員さんの自家撮りではなく、一読者の方が売場を撮影される場合は、お店側の許可が必要になりますから、どうぞご注意ください。

来月には、西谷修(1950-)さん訳の『実存から実存者へ』が、ちくま学芸文庫から発売される予定だそうです。本書はつい最近まで講談社学術文庫に収録されていましたが、このたびお引越しのようで。筑摩書房さんにはこの際、ぜひ合田正人さんの『レヴィナス――存在の革命へ向けて 』(ちくま学芸文庫)を重版していただきたいものです。

レヴィナスはたしかに難解ですが、学者さんのみが親しんでいるわけではありません。たとえば内田樹さんは『観念に到来する神について』(国文社、1997年)の「訳者あとがき」で次のように書かれています。

 どういう人たちがレヴィナスの本を買い、どういう個人的課題とのかかわりでレヴィナスを読んでいるのか、私はほとんど知るところがない。しかしまれに「市井のレヴィナシアン」と出会うことがある。そういう人たちと話していると、レヴィナスの思想が私たちの時代の、私たちの生き方に切実なかかわりをもっていることが実感できる。もちろんその人たちは哲学の専門家でもないし、難しいフランス語も読めないし、レヴィナスについての知識を知的威信のカードとして使う機会もない。ある種の内的な渇望が彼らをレヴィナスに向かわせている。本書はそのような読者のための訳書であることをこころがけた。

内田さんによる抄訳で1985年9月に国文社から出版された『困難な自由――ユダヤ教についての試論』の改訳版が準備されていることは皆さんご承知の通りです。今回は抄訳ではなく全訳と聞きます。長らく古書市場でもめったに見かけず高額になっていますから、若い読者は待ち望んでいることでしょう。(H)

追記:11月21日

当ブログの読者の方から「内田訳の出版計画は中絶したのではなかったか」とのご指摘がありました。たしかに、内田さんご本人の04年5月12日の日記(「内田樹の研究室」)にはこう書いてあります。

【引用開始】

家にもどってから、『困難な自由』のことを考える。

訳稿はできあがったのだが、翻訳権を取り損なってしまったのである。

翻訳権がないんじゃ、本は出せない。

ふつうは訳者にオッファーするときに翻訳権も取得するのであるが、訳者が私のようにでれでれ何年も訳稿を遅らせると、その間のライツの更新料も些少ではないので、あまり財政的に余裕のない出版社の場合は、ぎりぎりまで翻訳権を取得しないということがある。

今回はそれが裏目に出て、いざ出版という段になって、翻訳権がよその出版社にいっていたことがわかったのである。

七年越しの仕事が反古になりそうでだが、まあ、世の中そういうこともある。

レヴィナスの翻訳はそれ自体が私にとっては勉学と愉悦の経験であるから、それが最終的に本のかたちにならなくても、別によいのである。

ただ、ウチダ訳『困難な自由』を期待していた全国29人のファンの方には申し訳ないことをした。

ウチダ私訳をぜひ読みたいという人には、ファイルを個人的にお送りするという手もある。
有料頒布ではないのだから、べつにコピーライツには抵触しないと思うけれど、正規の翻訳権をとっていま翻訳をしている方にたいしてはある種の営業妨害でもある。
出版の「仁義」を考慮すると、やはり誰にも見せずに、このまま闇から闇へ葬り去られるのが、わが訳稿の宿命なのかもしれない。

なんだか気の毒だけれど、しかたがない。

【引用終了】

たしかにこの約一年半前の日記を拝見すると、訳稿はできあがったのに、某社では出版できなくなった、ということになっています。しかし、内田訳が今後も絶対に出版されなくなったわけではないと私は思っています。たとえば単行本の契約を他社が取得していたとしても、文庫化する契約は別途に結べるはずなのです(単行本の版権契約と文庫本の版権契約は別)。

とすると、読者の待望する声が高まれば、どこか別の版元が文庫化に踏み切るかもしれない。内田さんの昨今の人気を考えると、そうしたことがいつの日か実現しないとも限りません。残念ながら月曜社は文庫をつくっていませんから名乗り出たくても現在は無理なのですが、たとえばあんな版元やこんな版元の名前が浮かびます。

ですから、正確には改訳版が準備されて「いる」ではなく、「いた」と書くべきでしたけれども、私にはまだすべてが終わったようには思えないのです。

ちなみに他社から出版されるらしい新訳・全訳については詳細は私は知りません。(H)
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by urag | 2005-11-19 15:54 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(4)
2005年 11月 18日

トクヴィル生誕二百年で「アメリカのデモクラシー」新訳

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フランスの政治学者アレクシス・ド・トクヴィル(1805-1859)は短い一生のうちにも後世に残るいくつかの重要な研究を遺しました。『アメリカにおけるデモクラシー』や『アンシャン・レジームと革命』などが有名ですが、特に前者は日本でも明治時代からこんにちまで幾度か翻訳されています。

肥塚龍訳『自由原論』(有隣堂、1881-1882年)、井伊玄太郎訳『米国の民主政治』 (研進社、1948年)、杉木謙三訳『アメリカの民主主義』(朋文社、1957年)、岩永健吉郎訳『アメリカにおけるデモクラシーについて』(『世界の名著(33)』中央公論社、1970年刊、所収)、岩永健吉郎・松本礼二訳『アメリカにおけるデモクラシー』(研究社出版、1972年) など、英訳版からの重訳もあれば、抄訳もあり、題名の表記も様々でした。

現在も入手できるのは、戦後長く本書の翻訳と改訂に携わられた井伊玄太郎さんによる『アメリカの民主政治』全三巻(講談社学術文庫)です。

そして今回、松本礼二さんの翻訳で『アメリカのデモクラシー』全四巻が岩波文庫で刊行開始となりました。

研究者の方はよくご存知かと思いますが、一般読者にとってはやや紛らわしいと思われることを特記しておこうと思います。本書の巻数のことです。

岩波文庫版では原書を全二巻と数えています。1835年に刊行されたのが第一巻、さらに五年後の1840年に刊行された続編が第二巻です。このたびの岩波文庫の日本語版では、35年版(第一巻)と40年版(第二巻)をそれぞれ二分冊にし、合計で全四巻としています。つまり、岩波文庫では日本語訳全四巻の内訳は、第一巻(上・下)、第二巻(上・下)というふうになるのです。

講談社学術文庫版に親しんできた読者は「アレッ」と思うことでしょう。というのも、井伊訳の全三巻では、1835年版の原書が第一巻と第二巻とに分かれていることを教えており、それぞれは日本語訳では上巻と中巻に収められているのです。そして1840年版の原書続編は「第三巻」として訳されています。これが下巻です。

整理するとこういうことです。松本先生が「第~巻」と訳しておられるのを、井伊先生は「第~編」と訳しておられます。また、井伊先生の「第~巻」は、松本先生の「第~部」に対応します。そんなわけで、岩波文庫版では「第三巻」は存在しません。そのような数え方をしていないからです。

松本先生の採用されている訳語では、本書の構造を表すとき、巻>部>章とされており、井伊先生の場合は編>巻>章>節(下巻では編>巻>編>章)となっています。

上記の説明ではまだこんがらがっている感じが残っているかもしれませんから、日本語訳のそれぞれの本の対応を詳しく書きます。並んでいるものが同じ内容です。

 岩波文庫版・松本訳『アメリカのデモクラシー』第一巻(上)・・・第一巻第一部
 講談社学術文庫版・井伊訳『アメリカの民主政治』(上)・・・第一編第一巻

 岩波文庫版・松本訳『アメリカのデモクラシー』第一巻(下)・・・第一巻第二部
 講談社学術文庫版・井伊訳『アメリカの民主政治』(中)・・・第一編第二巻

 岩波文庫版・松本訳『アメリカのデモクラシー』第二巻(上)および(下)・・・第二巻
 講談社学術文庫版・井伊訳『アメリカの民主政治』(下)・・・第二編第三巻

お分かりいただけましたでしょうか。あとは現物をご確認いただくしかありません。

本件は実は今月末、弊社が刊行するサミュエル・ウェーバー『破壊と拡散』での表記に関連することでもあります。ウェーバーが当該の「第三巻/第三部」を引用参照しているからです。ここ十数年間もっとも参照しやすかった井伊訳に従うかたちで、「第三巻」と表記しましたが、ウェーバーの原文では「second volume」です。これを「第二巻」とすると、しかし混乱が生じかねませんでした、少なくとも今までは。

岩波文庫版の新訳が刊行されることで、こうした数え方に関する呼称の問題は落ち着くのではないかと思います。つまり、松本先生の方式に落ち着くのではないかと。そうすると、『破壊と拡散』では将来的に「第三巻」の表記を「第二巻」に修正することになるでしょう。

以上、些細なようで、意外とそうでもないかもしれない一件について、無知ゆえの駄弁を費やしましたこと、どうかお許しください。読者の皆さんにとってほんの少しでもお役に立てたらよいのですが。(H)
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by urag | 2005-11-18 01:38 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
2005年 11月 15日

「ピュタゴラス・ブックス」シリーズ4点同時刊行

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ランダムハウス講談社さんから、「ピュタゴラス・ブックス」という新しいシリーズの本が4点同時に刊行されました。

星たちのダンス――惑星が描き出す美の世界
ジョン・マルティノー著 青木薫訳
ランダムハウス講談社 05年11月 本体1400円 B6変形判86+6頁 ISBN4-270‐00104-6
■帯文より:地球をとりまく、驚くべき調和
■原書:"A Little Book of Coincidence" by John Martineau, 2001, Walker Publishing.

ハーモノグラフ――音がおりなす美の世界
アンソニー・アシュトン著 青木薫訳
ランダムハウス講談社 05年11月 本体1400円 B6変形判76+14頁 ISBN4-270‐00105-4
■帯文より:耳に快い音は、目にも美しい
■原書:"Harmonograph: A Visual Guide to the Mathematics of Music" by Anthony Ashton, 2003, Walker Pubishing.

Q.E.D.――証明が生み出す美の世界
バーカード・ポルスター著 青木薫訳

プラトンとアルキメデスの立体――三次元に浮かび上がる美の世界
ダウド・サットン著 青木薫訳
ランダムハウス講談社 05年11月 本体1400円 B6変形判80+12頁 ISBN4-270‐00107-0
■帯文より:球体から生まれた、深遠なる形の数々
■原書:"Platonic & Archimedean Solids" by Daud Sutton, 2002, Walker Publishing.

●ブックデザインはいずれも、松田行正さんと中村晋平さんによるものです。本文がそれぞれスミではなく特色で刷られていて、幾何学模様の多い図版が映えて、やわらかい感じがします。私は「Q.E.D.」だけ後回しにしてしまったので、ここでは三冊の紹介のみです。

●テーマは副題にも共通するように、数学的・天文学的・調和的「美の世界」で、それぞれが簡潔に紹介されています。古代ギリシアの哲学者ピュタゴラスの名を冠したシリーズということで、すぐにピンとくる方もいらっしゃることでしょう。

●調和的美は、自然界に満ち満ちており、ミクロの世界からマクロの世界まで、また、目に見えるものから、目に見えない形而上学的な次元までを貫いています。混乱と混迷の時代にこそ、調和へ向けられた古えの人々の視線を思い出すべきなのではないかと私は思います。

●東大出版会から現在刊行中のシリーズ「非線形・非平衡現象の数理」とあわせ、今後の展開をとても楽しみにしているのが「ピュタゴラス・ブックス」です。

●私自身は、大学生の時分から、いわゆる「思弁的音楽」のテーマや、「音楽」概念の変遷と拡張、また、「和声学」(プトレマイオス)、「世界の和声」(ケプラー)、「波動学」(ハンス・イェンニ)、「アクロアシス(聞くことによる観照)」(ハンス・カイザー)などに関心を持ち、はや十数年が経ちました。いずれ、「調和」をテーマにした叢書を立ち上げるのだ、と志しています。この方面の関心については「未来」誌の2004年4月号に書きました。

●いつか私にとっての「聖地」のひとつであるスイスのバーゼルにも旅行に行けたらと思います。なぜバーゼルなのか? 今はただ沈黙しておきます。(H)
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by urag | 2005-11-15 23:01 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2005年 11月 14日

平井玄『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』が太田出版から

なんかexblogの投稿機能やコメント閲覧がおかしいです。水曜日のメンテを前に何かすでにいじってませんか。
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ミッキーマウスのプロレタリア宣言
平井玄(1952-)著
太田出版 05年11月 本体1200円 46判180頁 ISBN4-87233-993-2
■カバー紹介文より:日本階級社会には、支配する人間と、忠実な犬と、路上を徘徊するネズミとがいる――。ネズミたちよ、自分の欲望をやつらに渡すな。世界を底から食い破れ。「支配されざる者」の笑いと、そして自由を。階級社会の正体をあばき、「フリーター問題」の根源に迫る、最もラディカルなテキスト!
■目次:
I 21世紀のネズミども
II 東京ミッキーマウス工場
III 亡霊的プロレタリア
エピローグ ネズミたちの歌

●天地小口が真っ赤に塗られています。三方金ならぬ三方赤。真っ赤な装丁はタカハシデザイン室によるもの。かつて同出版社から刊行された『共産主義者宣言』を思い出しますね。内容は、場末に生きる人々の日常と内面のうごめきを、小説のような、エッセイのような、論文のような、独特でハードコアな筆致で書いたものです。

●たぶん、若い読者には理解しにくいかもしれません。しかし、社会の底辺を生きる人々がいて、地を這うような世界が現実にあって、隣り合わせに自分たちが生きていることは事実なわけです。知らん振りしたってそこにある、という意味で、若い人にも無関係ではないのです。無関係どころではない。ここに描かれた群集の中に自分自身もいるのだから。

●本書を立ち読みしながら、この本に書いてあることが分からない「青い」ヤツラしかいまどきの世間にはいないんだろうな、などと若者をバカにするような人がもしいるとすれば、そういう年寄りは本書だけでなく、『電波男』(三才ブックス)とか、限定版のフィギュア・ポストカードつき『NHKにようこそ! 4』(角川書店)なども買って、フザケンナ!とかナンジャコリャ!等々とブツクサ言いながら眺めるといいのです。

●暴言はさておき、本書は様々な痛みを感じながらも読み通すことを薦めたい本です。たとえわからない部分があってもいい。著者は巻末でこう述べています。「こうして小さな本をまとめるためには、私自身の五〇年間をひっくり返し、切り刻み、生肉のまま放り出すしかなかった。恥らいはあるが、悔いはない。今やこのような声の絞り出し方が必要なのだという確信がある」と。

●まさに生肉なのです。しかもぶっとい骨付き。生肉を味わうことなど、なかなかできるものではない。そして、本書を読み通してもなお、自分の日常とは無関係だと思うならば、その日常を自分なりに言葉にしてみるといいのです。黙ってたってしょうがないぜ、と本書は教えているのです。(H)
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by urag | 2005-11-14 21:54 | 本のコンシェルジュ | Trackback(3) | Comments(2)
2005年 11月 13日

今週の注目新刊(第28回:05年11月13日)

セキュリティ・ソフトの具合がおかしくなって更新が遅れました。マイクロソフトが配布する修正パッチ等にはたまに「副作用」が伴うときがあるように思います。

***

本屋さんの仕事
永江朗+北尾トロ+江口宏志ほか著
平凡社 05年11月 本体1,500円 A5判123頁 ISBN4-582-63066-9
■表紙宣伝文より:人気の書店は、どのように誕生し、お客さんの支持を集めているのか。独自のノウハウ、哲学を徹底的に語った「本屋さんの仕事」講座。ビジネスを成功させる秘訣、仕事と人生を楽しむヒントが見つかります。
●お洒落な装丁とカラー図版が楽しい「太陽レクチャー・ブック」の一冊。昨今注目されている個性派書店を紹介しています。タコシェ、ブックファースト渋谷店、ユトレヒト、TSUTAYA TOKYO ROPPONGI、BOOK246、古書日月堂、杉並北尾堂、ハックネット、恵文社一乗寺店。版元の紹介文によれば、「オリジナルで注目を集める書店のノウハウを披露。大好きな本をビジネスにする秘訣、仕事と人生を楽しむヒントを伝えます」とのこと。同時刊行は『アートの仕事』。

感じる脳――情動と感情の脳科学よみがえるスピノザ
アントニオ・R・ダマシオ著 田中三彦訳
ダイヤモンド社 05年11月 本体2,800円 46判413頁 ISBN4-478-86051-3
■帯文より:脳科学と哲学が融合した! 心を生み出す身体と脳の関係。進化は「感情」に何を託したのか。
■版元紹介文より:高等脳を持った多くの生物は、身体の反応を受け脳が感情を生みだす。つまり感情とは、身体の反応無くしては生みだされない。米国の著名な脳科学者である著者が、多くの脳障害・損傷患者の研究から導き出したのが、身体反応(=情動)を脳が受け取り感情を生みだすという考えです。これとほぼ同じ考えを持っていたのが、哲学者・スピノザでした。本書は最新の脳研究とスピノザの哲学的思考がどのようにリンクし、同一の考え方に至ったのかを説いた一冊です。
■目次より:
訳者まえがき
第1章 感情の脳科学とスピノザ
第2章 欲求と情動について
第3章 感情のメカニズムと意義
第4章 感情の存在理由
第5章 心を形成するもの
第6章 スピノザ思想の源
第7章 自己保存としての感情
原著者註
付録1 スピノザの時代とその前後
付録2 脳の構造

●読書欲を大いにそそる詳細目次はこちらでチェック。ダイヤモンド社の販売サイトでは一部立ち読みも可能。
●ポルトガル生まれ、アメリカ在住の神経学者ダマシオの既訳書には以下のものがあります。『無意識の脳 自己意識の脳――身体と情動と感情の神秘』(講談社、03年06月刊)、『生存する脳――心と脳と身体の神秘』(講談社、00年01月刊、版元品切)、『神経心理学と病巣解析』(ハンナ・ダマジオとの共著、医学書院、91年12月刊、品切)。

生命記号論――宇宙の意味と表象〔新装版〕
ジェスパー・ホフマイヤー著 松野孝一郎+高原美規訳
青土社 05年11月 本体2,200円 46判259+13頁 ISBN4-7917-6217-7
■帯文より:メッセージとしての生命。生命の世界を、生物ばかりでなく組織や細胞までもがメッセージを交換しあう〈記号圏〉として捉える「生命記号論」。脳やDNAによる決定論的生命観を乗り越え、〈自然〉と〈文化〉の対立を相対化し、〈意識〉の誕生の謎に迫る。

神学大全 第44冊 第3部 第79問題-第83問題
トマス・アクィナス著 稲垣良典訳
創文社 05年10月 本体5,000円 A5判256+28頁 ISBN4-423-39344-1
■版元紹介文より:本巻では、秘跡の結果および秘跡の現実的な行使・執行をめぐる様々の問題(例えば、聖別されたホスチアをねずみが齧った時はどうすべきかなど)が論じられる。トマスの聖体神学は、超自然的神秘に対しても日常生活で起こる出来事に対しても、驚くべき一貫性をもって考察が進められる。犠牲としてのミサという問題を考察するにあたり取り上げる三つの異論には、16世紀の宗教改革者たちの議論が基本的にすべて含まれている。
●トマスの議論に内在する、単なる瑣末への執着などではない、細部への配慮には本当に驚かされます。重箱の隅をつつく、という批判ではとらえられない何かがあります。

ヒンドゥー教の事典
橋本泰元+宮本久義+山下博司著
東京堂出版 05年11月 本体5,000円 菊判414頁 ISBN4-490-10682-3
■帯文より:現代に息づく宗教の力。仏教を通して日本文化の基層にも多大の影響を与えたヒンドゥー教とその文化について、地域性に配慮し、充分な現地の観察を踏まえて、思想史の流れに沿って俯瞰する。

近代文学の終り――柄谷行人の現在
柄谷行人著
インスクリプト 05年11月 本体2,600円 46判273頁 ISBN4-900997-12-9
■帯文より:文学から革命へ――柄谷思想の総決算と新展開。
■版元紹介文より:柄谷行人の新たな展開へ向けた重要な論点をすべて含み、わかりやすい言葉で提示する待望の新著。名講義「近代文学の終り」をはじめ、漱石の文学論をめぐる新原稿、座談会やインタビューをも収録し、一貫してラディカルでポジティヴな、岩波版定本著作集以降の思考の全貌を明らかにするクロニクル。
■目次より:
第一部 近代文学の終り
 1 翻訳者の四迷
 2 文学の衰滅 ―― 漱石の『文学論』
 3 近代文学の終り
第二部 国家と歴史
 1 歴史の反復について[聞き手 岡本厚]
 2 交換、暴力、そして国家[聞き手 萱野稔人]
第三部 テクストの未来へ
 1 イロニーなき終焉[聞き手 関井光男]
 2 来るべきアソシエーショニズム[座談会 浅田彰、岡崎乾二郎、大澤真幸]
あとがき

●たいへん美しい本書の装丁は、間村俊一さんによるものです。手にとって、しばらくうっとりしてしまいます。

波状言論S改――社会学・メタゲ-ム・自由
東浩紀編著
青土社 05年11月 本体1,600円 46判347頁 ISBN4791762401
■帯文より:宮台真司、北田暁大、大澤真幸、鈴木謙介と、東浩紀が、メタな理論とベタな現実の往復運動=批評を実践する、画期的鼎談集。
●関連イベントが以下の通りあります。

第28回 新宿セミナー @ Kinokuniya
『波状言論S改』(青土社)刊行記念トークセッション
「ゼロ年代の批評の地平 ―リベラリズムとポピュリズム/ネオリベラリズム」
東浩紀×北田暁大×斎藤環×山本一郎
日時:12月25日(日)18:30開演(18:00開場)
料金:1,000円(全席指定・税込)
前売:11月15日(火)発売開始
会場:新宿・紀伊國屋ホール(紀伊國屋書店新宿本店4階)
主催:紀伊國屋書店(協力:青土社)
前売取扱所:キノチケットカウンター(紀伊國屋書店 新宿本店5F 10:00~18:30)
予約・問合せ:紀伊國屋書店事業部 03-3354-0141(受付時間 10:00~18:30)

「戦時下」のおたく
ササキバラ・ゴウ編
角川書店 05年10月 本体1,900円 46判411頁 ISBN4048839292
■戦争、したいんでしょ。サブカルチャーとナショナリズム。反復する歴史の波の中で、日本のまんが・アニメの現在を問う評論アンソロジー。
■版元紹介文より:世界に進出する日本のおたく産業は着々と体制の道具として取り込まれている。官許サブカルチャーの虚妄を撃つ評論、対談集。
●先月の新刊ですが、店頭で目に留まりました。私は大塚さんがここしばらく示唆されてきた「現在は〈戦時〉である」という認識に共感しています。執筆者および対談者は以下の通り。ササキバラ・ゴウ、上野俊哉、榎戸洋司、大澤信亮、大塚英志、斎藤環、更科修一郎、中塚圭骸。
●大塚英志+大澤信亮の新刊新書『「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』(角川oneテーマ)も併読すべきかと思います。ここでも「戦時下」がキーワードです。

ヴィレル-ボカージュ――ノルマンディ戦場写真集
ダニエル・テイラー著 岡崎淳子訳
大日本絵画 05年12月 本体2,800円 B5判96頁 ISBN4-499-22900-6
■帯文より:1944年6月13日、フランス・ノルマンディ地方の田舎町[ヴィレル-ボカージュ]を舞台に繰り広げられた、イギリス軍戦車部隊とドイツ軍のティーガー戦車の死闘。ここで25両の敵車両を撃破し名声を馳せたのがドイツ軍戦車部隊のエース、孤高の"ティガーの戦士"ミヒャエル・ヴィットマンであった。本書は初の試みとして、ドイツ軍のヴィレル-ボカージュ占領直後に従軍カメラマンによって撮影された100枚の写真を詳細に検証、この戦いに改めて冷静な分析を加えたものである。本書では両軍の戦果を再評価するとともに、過去に発表された多くの関連資料と、従来採り上げられてこなかった当事者の証言を対照し、新たな視点からヴィレル-ボカージュの戦いで起こった事実と、そこで生まれたミヒャエル・ヴィットマンにまつわる伝説の真実に迫る。検証、“ヴィットマン伝説”。
●軍事マニア向けかもしれない表層を剥ぎ取って、本書の「構造」を吟味したいものです。同出版社からは『ヴィットマン――LSSAHのティーガー戦車長たち(下)』も同時刊行したようです。

シュルツ全小説
ブルーノ・シュルツ著 工藤幸雄訳
平凡社ライブラリー(平凡社) 05年11月 本体1,900円 文庫版488頁 ISBN4-582-76557-2
■帯文より:歪んだ創世記。非合法的に創造された世界模型。巻末エッセイ=田中純。
■版元紹介文より:20世紀の悲劇を背負ったヨーロッパ辺境が生んだ一抹の光。クエイ兄弟の映画でカルト的人気を誇る独自の作品世界への扉が開かれる。元本は読売文学賞受賞。
●新潮社より刊行されていた工藤幸雄訳『ブルーノ・シュルツ全集』全2巻をかつて大枚をはたいて(17000円)購入した私の知人は、本書を書店で見かけて気を失いそうになったそうです。全集は、第1巻が創作篇と評論篇で、第2巻が書簡篇と解説篇。友よ、君の買物は間違ってはいなかったと私は確信しているよ。

***

以上です。
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by urag | 2005-11-13 21:54 | 本のコンシェルジュ | Trackback(1) | Comments(0)
2005年 11月 12日

松村みね子訳『かなしき女王』がちくま文庫から

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ちくま文庫の11月の新刊で、フィオナ・マクラウド(Fiona Macleod, 1856-1905)の『かなしき女王――ケルト幻想作品集』(松村みね子訳)が刊行されました。

ご承知の通り、松村みね子さん(本名:片山廣子さん 1878-1957)は、弊社から一年前に刊行し、ご講評をいただいた『燈火節』の著者です。『燈火節』では小説と随筆を集成しましたが、本書は、ケルト/アイルランド文学の先駆的紹介者でもあった彼女による翻訳書です。

親本の歴史をたどると次のようになります。まず、1925年に第一書房(現存する同名社とは無関係)から『かなしき女王―― フイオナ・マクラオド短篇集』として刊行され、1999年11月に沖積舎から『かなしき女王――ケルト幻想作品集』(著者名の表記はフィオナ・マクラオド)として復刊されました。この際、ケルト文化に造詣の深い比較文学研究者の井村君江さんの解題が付されました。

今回文庫化するにあたっては、『愛蘭戯曲集(1)』(玄文社出版部、1922年)に収録されていた戯曲「ウスナの家」をあらたに併録し、井村さんの解題に「補遺」が追加され、作家の荻原規子さんによる解説も付されました。

■目次:

海豹
女王スカァアの笑ひ
最後の晩餐
髪あかきダフウト
魚と蠅の祝日
漁師

約束

浅瀬に洗ふ女
剣のうた
かなしき女王
ウスナの家

解題「アイルランド文学翻訳家 松村みね子」井村君江
松村みね子翻訳年譜一覧(井村君江編)
解説「ケルトの幽冥」萩原規子

■カバーに記載された内容紹介文:「かなしき女王」とは、ケルト神話の女戦士スカァアのこと。スカイ島の名の由来となったとされる、この美しく猛々しい女王と英雄クウフリンの恋と戦いの物語こそ、スコティッシュ・ケルトを代表する物語である。輪廻転生を信じる土着信仰ドルイドと古代キリスト教が入り混じった幻想的な短編12篇に、新たに戯曲「ウスナの家」を収録。

さて、話はかわって、弊社より続刊予定である短歌集成+資料編の『野に住みて』ですが、読者の皆様から多くのお問い合わせを頂いております。遠からず刊行時期が決定しますので、またブログや月曜社公式ウェブサイトで発表いたします。お待たせしておりすみません。(H)
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by urag | 2005-11-12 22:24 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
2005年 11月 09日

ベネディクト・アンダーソン『比較の亡霊』が作品社から

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ついに今週、店頭発売開始です。

比較の亡霊――ナショナリズム・東南アジア・世界
ベネディクト・アンダーソン(1936-)著
糟谷啓介+高地薫+イ・ヨンスク+鈴木俊弘+増田久美子+田中稔穂+荒井幸康+中村順+木村護郎クリストフ訳
作品社 05年11月刊 本体5,800円 A5判605+27頁 ISBN4-86182-037-5

■帯文より:タイ、フィリピン、インドネシアにおける国家の成立過程の精細な分析と「比較」を通してナショナリズムの起源・性質・将来を理論的・実証的に探究し、ナショナリズムの深層論理を明らかにする待望の労作。ナショナリズム研究における新古典『想像の共同体』のさらなる深化と展開!

■目次:

地図
著者注記
謝辞
序文
第一部 ナショナリズムの長い弧
 第1章 ナショナリズム、アイデンティティ、系列性の論理
 第2章 レプリカ、アウラ、後期ナショナリズムの想像力
 第3章 遠距離ナショナリズム
第二部 東南アジア 各国研究
 第4章 暗黒の時代、光の時代
 第5章 専門的な=専門家の夢 二つのジャワ古典に関する考察
 第6章 ジャカルタの靴に入った砂利
 第7章 禁断症状
 第8章 現代シャムの殺人と進歩
 第9章 フィリピン人のカシーケ民主主義
 第10章 最後のフィリピン人
 第11章 想像することの難しさ
第三部 東南アジア 比較研究
 第12章 東南アジアの選挙
 第13章 共産主義後のラディカリズム
 第14章 勝手に逃げる
 第15章 マジョリティとマイノリティ
第四部 何が残されたか
 第16章 不幸な国
 第17章 ネーションの善性
訳者解説 『想像の共同体』以降のアンダーソン
訳者あとがき
索引

■原書:"The Spectre of Comparisons", 1998, Newyork: Verso.

●小社スタッフが作品社在籍時代から関わってきた本なので、いよいよの刊行に感慨が深まります。皆様のご高覧を乞う次第です。

●アンダーソンの既訳書には以下のものがあります。『言語と権力』(日本エディタースクール出版部、95年)、『増補 想像の共同体』(NTT出版、97年)。

以上です。(H)
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by urag | 2005-11-09 11:05 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2005年 11月 07日

ちくま文庫創刊20周年記念復刊

ちくま文庫の復刊書目がついに決まりました。9点14冊。私が期待していた書目『ヒロシマわが罪と罰――原爆パイロットの苦悩の手紙』(哲学者ギュンター・アンダースとエノラ・ゲイ号の気象観測員クロード・イーザリーの往復書簡集、原題は『良心の立入禁止区域』)は残念ながら選外。落胆。

復刊されるのは次の書目。

ギリシア喜劇 I/II
アリストパネス著 高津春繁他訳
I 4-480-02061-6 1155円
II 4-480-02062-4 1313円

短篇集 妖精族のむすめ
ダンセイニ著 荒俣宏編訳
4-480-02151-5 924円

妖精詩集
W・デ・ラ・メア著 荒俣宏訳
4-480-02231-7 777円

もつれっ話
ルイス・キャロル著 柳瀬尚紀訳
4-480-02345-3 630円

ザ・ベスト・オブ・サキ I/II
中西秀男訳
I 4-480-02229-5 945円
II 4-480-02230-9 924円

骨董屋 上/下
C・ディケンズ著 北川悌二訳
上 4-480-02341-0 1155円
下 4-480-02342-9 1155円
 
火星の笛吹き
レイ・ブラッドベリ著 仁賀克雄訳
4-480-02562-6 1050円

ウォー・ゲーム
P・K・ディック著 仁賀克雄訳
4-480-02650-9 777円

東京百話 天の巻/地の巻/人の巻
種村季弘編
天 4-480-02101-9 1313円
地 4-480-02102-7 1260円
人 4-480-02103-5 1260円

正直に感想を言えば普通の重版でもよかったんじゃないかというくらいの、「在庫してて当たり前では?」なレベルの書目だ(そうはいかないのが昨今の現実だろうけれども)。以下、あくまでも一読者の立場からの「理想論」として感想を述べたい。

岩波文庫と同様に、通常の重版と「一括重版」、そして季節ごとの「復刊」の三本柱をたてて、今後、ちくま文庫およびちくま学芸文庫の重版と復刊に邁進して欲しい。そうでもしないと筑摩書房の文庫の「格」はあがらないと思う。

既刊書に品切がままあり、供給に安定感がないとなれば、どうして読者は信頼できるだろうか。他社の悪口など言いたくはないが、一読者としては、がっかりだ。もっと読者の要望にふだんから耳を傾けて欲しいものだ。

しかしともかくも今回、いくつかの書目の復刊は叶った。今後の復刊および一括重版事業の第一歩になることを信じるしかない。

文庫の場合は、その存在意義からして、新刊を作らねばならない、というのを第一義とするのではなく(出版界の現実はそうではないが)、まずは既刊書を大事にし、できるかぎり在庫点数を増やして品切がなくなるようにしてほしい。売り切っておしまい、というのは文庫にふさわしくない。

他社文庫の場合にはたしかに読み棄てられることを前提としているかのような娯楽ものが多いのも確かだけれども、そうしたいわば「ブックオフ向け」の文庫とは一線を画しているのがちくま文庫であり、ちくま学芸文庫なのだと信じたい。

ずいぶんとナイーブな意見だし、同業者として天に唾する愚を冒したわけだけれども、案外、筑摩書房の社内でも私と同意見の人がいそうな気がするのは妄想だろうか。(H)
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by urag | 2005-11-07 19:18 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2005年 11月 06日

今週の注目新刊(第27回:05年11月6日)

「読書の秋」というキャッチフレーズがなんだか廃れつつあるように思う今日この頃です。

***

ボッティチェッリ全作品
高階秀爾+鈴木杜幾子+京谷啓徳著
中央公論美術出版 05年11月 本体64,000円 B4変型判 バックラム装 保護函入 本文344頁・カラー図版144頁 ISBN4-8055-0508-7
■版元紹介文より:ルネサンスの巨匠・ボッティチェッリの入手可能な全作品144点を世界各国から収集し、その繊細な線描、華麗な色調をすみずみまでクリアーに再現。高階・鈴木両大家に気鋭の研究家京谷啓徳氏を加え、最新の研究成果を踏まえた伝記・解説等を併せて収める、わが国初のオリジナル版。
■本書の特色:ボッティチェッリ(1445-1510)の全作品を全点カラーで収録。最新の印刷技術により、繊細な線描、華麗な色調を忠実に再現。研究者・愛好者必読の論文を掲載。「作品解説」のほか、詳細年譜、参考文献など豊富な資料を収録。定評ある中央公論社版『全作品』シリーズの棹尾を飾る。格調高く堅牢な造本による永久保存版。
■本文:序文、評伝、解説、年譜、主要作品リスト。
■カラー図版:宗教作品99点、世俗主題作品35点、ダンテの「神曲」挿絵10点。
●この値段では庶民は簡単に手が出せませんが、売切れてしまうと、のちのち古書市場でもっと高価になることでしょう。でもどうなんだろう、某大書店ではまだ一冊も売れていないと聞きました。でも欲しいなあ、現金では買えないけど。

ディオニュソスの美学
高橋巌著
春秋社 05年11月 本体2,200円 46判213頁 ISBN4-393-95504-8
■帯文より:バッハの「フーガの技法」からシュタイナーの芸術論まで、音楽と絵画に潜む「ディオニュソス的なもの」が浮上する。人は自己の内面に出会ったとき、芸術家になる。
■版元紹介文より:バッハ、ワーグナーからシュタイナー、イッテンまで幅広く芸術作品を語りつつ、その根底に共通する精神を明らかにした高橋美学の真骨頂。対位法、音楽の内面世界、音階の力、光の認識論など芸術の本質に触れる「内的体験」を語りつくした講演集。
●シュタイナー研究者として著名な高橋さんの最新著です。久しぶりではないでしょうか。シュタイナーの特異な音楽論や芸術論に裏打ちされた重厚な精神史を本書から学べるでしょう。

生成するマラルメ
柏倉康夫(1939-)著
青土社 05年11月 本体4,800円 A5判460頁 ISBN4791762150
■帯文より:〈詩人〉の誕生、その全軌跡を読む。1861年12月、地方紙で匿名デビューをとげた19歳の詩人が、いかにしてフランスを、西洋近代を代表する芸術家となったか。膨大な資料を収集し、書簡のすべて、テクストの細かい修正過程までを精緻に分析して詩人の生成する瞬間をとらえた批評=ドキュメント。
●『ユリイカ』連載がまとまったものです。マラルメ研究の基本的文献として常に座右に置いておきたい味わい深い本です。「世界は一冊の美しい書物へと至るためにつくられているのです」という彼の有名な言葉は、ジャーナリストのユレのインタビューに際して発せられた、別れ際の名文句ですが、このエピソードも非常に生き生きと活写されています。

セルバンテスの芸術
本田誠二(1951-)著
水声社 05年10月 本体5,000円 A5判414頁 ISBN4891765615
■帯文より:『ドン・キホーテ』出版400年記念。小説そのものの起源であり、その最高の到達点ともいうべきこの大長編小説を生んだセルバンテスの創作理念を、戯曲、短編小説、叙事詩等を含めてその全作品から解き明かす。
■目次より:
序章 対立の時代とセルバンテス
第1章 セルバンテスの人と作品
第2章 『ガラテア』と牧人小説
第3章 『アルジェールの牢獄』と演劇
第4章 『模範小説集』における魔術とエロース
第5章 『ドン・キホーテ』と騎士道物語
第6章 『パルナソ山への旅』と叙事詩
第7章 『ペルシーレス』と冒険小説
第8章 詩人セルバンテス
●数週間前に刊行された既刊書ですが、書店店頭で立ち読みして、読み応えのある素晴らしい研究書だと思ったので、取り上げます。訳者の本田さんは次の大著の翻訳もされています。こちらも必読でしょう。

セルバンテスの思想
アメリコ・カストロ著 本田誠二訳
法政大学出版局 04年8月 本体7,300円 46判669+35頁 ISBN4588008013
■帯文より:セルバンテスを覆っていたスペインの“栄光の神話”を引きはがし、ヨーロッパ的知性の文脈に位置づける。
■目次より:
第1章 文学的指針
第2章 表現された現実に対する批判と表現者
第3章 文学的主題としての“過ち”と“調和”
第4章 神の内在的原理としての自然
第5章 その他のテーマ
第6章 宗教思想
第7章 道徳観
第8章 結論

政治報道とシニシズム――戦略型フレーミングの影響過程
J・N・カペラ+K・H・ジェイミソン著 平林紀子+山田一成監訳
ミネルヴァ書房 05年11月 本体6,500円 A5判378+38頁 ISBN4-623-04449-1
■帯文より:なぜ世論はシニカルなのか? アメリカ政治を蝕む「冷笑の螺旋」、実証研究によるフレーミング効果の解明。
●フレーミング効果(framing effect)というのは、簡単に言うと、メディア報道などにおいて、ある話題をポジティヴに、あるいはネガティヴに伝えることによって、視聴者の受け取り方が違ってくる、ということを説明する際に使用される術語だと私は理解しているのですが、マスコミという存在はこんにち無視できない大きな権力になっていますから、その影響力を考える上で本書は役に立つのではないかと思われます。特に昨今の日本における劇場型政治とそれに寄り添う各種報道などを考えるためには。本書とともに、次の本も併読しておくべきではないかと思います。

インターネットは民主主義の敵か
キャス・サンスティーン著 石川幸憲訳
毎日新聞社 03年11月 本体1,905円 46判223頁 ISBN4620316601
■版元紹介文より:インターネットでの言論は「絶対に自由」であるべきだ―ネット第一世代が唱えたその主張に対し、著者は自由と民主主義の原理にもとづき異議を申し立てる。出版以来、全米に賛否両論を巻き起こした本書は、インターネットの将来のみならず、「討議型民主主義」と「表現の自由」に関心あるすべての方への基本書といえる。
■目次より:
第1章 デーリーミー
第2章 アナロジーと理想
第3章 分裂とサイバー・カスケード
第4章 社会の接着剤と情報伝播
第5章 市民
第6章 規制とは何か
第7章 言論の自由
第8章 政策と提案
第9章 結論 リパブリック・コム

討議倫理
ユルゲン・ハーバーマス(1929-)著 清水多吉+朝倉輝一訳
法政大学出版局 05年11月 本体3,300円 46判283+20頁 ISBN4-588-00832-3
■帯文より:討議とは、討議倫理とは何か。了解と意思形成、正義と善は、いかにして実現されうるのか。カントとヘーゲルを問い直しつつ、道徳・実践理性・正義・公共性・人格の原理を論ずる。法の基礎としての倫理を追究してきたハーバーマスが、諸論争を通じて発展させた〈討議倫理学〉の全体像。
●小社(月曜社)刊行の、A・ガルシア・デュットマン『友愛と敵対』では、ハーバーマスの「討議倫理」とデリダの「脱構築」が対比的に論じられています。ハーバーマスの本書と、デリダの『友愛のポリティックス』(みすず書房)、カール・シュミットの『政治的なものの概念』 (未来社)などの議論の地平が、現代においてどのように繋がっているのか、デュットマンは示しています。

臨床哲学がわかる事典
田中智志(1958-)著
日本実業出版社 05年11月 本体1,800円 A5判222頁 ISBN4-534-03988-3
■帯文より:「かわいそう」という言葉をどのように使っていますか? 医療・看護・介護・教育をめぐる新しい思考!
●現代社会における様々な〈生きにくさ〉の悩みや痛み、苦しみ、それらをめぐる「生きることの哲学」である「臨床哲学 cilinical philosophy」について、90のキーワードから解説した、読む事典だそうです。キーワードには、ニヒリズム、時間感覚、エロティシズム、生きる意味、他者との関係、健康、聖なるもの、老い、ケアリング、QOL、復讐、音楽、自己決定、身体、コミュニケーションなどが含まれています。
●臨床哲学、という言葉を書名で見るようになったのはそれほど昔ではありません。国際高等研究所学術出版から今年3月に出版された報告書『臨床哲学の可能性』 の研究概要が示すところによれば、「現実社会の具体的場面で生じているさまざまな問題を「治療」という観点から、しかも「医者」ではなく、むしろ「患者」の立場に立って考えていこうとする哲学的活動」を言うそうです。
●書名に「臨床哲学」を冠している既刊書には以下のものがあります。『臨床哲学』養老孟司著(哲学書房、1997年)、『「聴く」ことの力――臨床哲学試論』鷲田清一著(TBSブリタニカ/阪急コミュニケーションズ、1999年)、『木村敏著作集(7)臨床哲学論文集』(弘文堂、2001年)など。

もうひとつの愛を哲学する――ステイタスの不安
アラン・ド・ボトン著 安引宏訳
集英社 05年11月 本体3,200円 A5版382頁 ISBN4-08-773440-4
■どうすれば、不安から抜け出せるのか? 幸福に生きるための哲学の冒険! 『哲学のなぐさめ』『旅する哲学』につづく哲学三部作。独・フィナンシャル・タイムズ選定「年間最優秀経済書賞受賞」。
●デビュー作である『恋愛をめぐる24の省察』(白水社)以来、彼の著書は毎回楽しみにしています。私の個人的な意見では、先述した「臨床哲学」に「より臨床医学寄り」のものと、「より哲学寄り」のものがもしもあるとすれば、本書は後者に属すると思うのです。後者にはほかに、エリック・ホッファーですとか、アンドレ・コント=スポンヴィルといった人々がいるというのが、私の勝手な「分類」です。

クリシュナムルティ著述集(1)花のように生きる――生の完全性
ジドゥ・クリシュナムルティ(1895-1986)著 横山信英(1949-)+藤仲孝司(1963-)訳
UNIO発行 星雲社発売 05年11月 本体2,600円 46判539+17頁 ISBN4-434-06966-7
■帯文より:クリシュナムルティの初期の対話集。第一次世界大戦後の世界恐慌の混沌とした時代のなかで、「星の教団」を解散したクリシュナムルティは、彼のことばに耳を傾ける人々と、新たな対話を始めた。訳註、索引付。
●著書がたくさん翻訳されているわりには、彼に対する大半の日本人の理解は浅く軽いものなのではないかと思います。神秘思想家とか、そんな言葉で片付けられる人物ではありませんが、概して日本人の宗教観の貧しさから来る偏見と先入観が、彼だけでなく多くの宗教的思想家たちの言説を読み誤らせ、それ以上に彼らから自分たちを不当に遠ざけているように、私には思えます。しかし、クリシュナムルティもまた「臨床哲学」に貢献しうるのです。

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以上です。(H)
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by urag | 2005-11-06 23:52 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2005年 11月 03日

エーコ『美の歴史』が東洋書林より刊行

a0018105_2373726.jpg皆さん、スゴい本がまもなく発売ですよ。

画像が小さくて、実際の本の大きさが分からないと思いますが、A5判より大きく、菊判よりも大きく、ほぼB5のサイズです。本の厚みも30ミリ強で存在感バッチリ。青色の魅惑的なカバーに惹かれて手に取ってみるとズッシリ重い。開いてみて見てびっくり。古代から現代まで、様々な芸術作品がオールカラーで迫ります。合計500点以上(!)あるという図版がすべて、印刷のクオリティが高いです。全頁がすべすべのアート紙ですし。

新聞広告が出ていましたから楽しみにされていた読者もいらっしゃることでしょう、エーコの『美の歴史』がついに東洋書林さんからほどなく発売されます。広告で見たときには、本体8,000円というのはちょっと高価だなあと思っていましたが、現物を見て十分納得。一万円を超えていても全然おかしくないくらいなのに、8,000円とはすごい。

美の歴史
ウンベルト・エーコ編著 植松靖夫監訳 川野美也子訳
東洋書林 05年11月 本体価格8,000円 A4変形判439頁 ISBN4-88721-704-8

■帯文より:エーコによって導かれる、絢爛たる美の迷宮。
■カバーソデ紹介文より:〈美〉とはなにか? 絶対かつ完璧な〈美〉は存在するのか? 〈真〉や〈善〉、〈聖〉との関係は? ――古代ギリシア・ローマ時代から現代まで、絵画・彫刻・音楽・文学・哲学・数学・天文学・神学、そして現代のポップアートにいたるあらゆる知的遺産を渉猟し、西洋人の〈美〉の観念の変遷を考察。美しい図版とともに、現代の“知の巨人”エーコによって導かれる、めくるめく陶酔の世界!

■原書:"Storia della bellezza" a cura di Umberto Eco, 2004, Bompiani.

昨年英語版が刊行されて、各紙で絶賛されたと聞きます。図版が満載の、キレイなアート書だから? いえ、それだけじゃないでしょう。エーコの知的センスが魅力なのです。本書は言ってみれば、エーコによる西洋美術史講義です。共著者は小説家のジロラモ・デ・ミケレ。目次は以下の通り。エーコが執筆を担当した章は、(エーコ)と特記します。

序論 (エーコ)
比較表:裸体のヴィーナス/裸体のアドニス/着衣のヴィーナス/着衣のアドニス/ヴィーナスの顔と髪型/アドニスの顔と髪型/聖母マリア像の変遷/イエス・キリスト像の変遷/君主像の変遷/女性君主像の変遷/プロポーション
第I章:ギリシアの理想美
第II章:アポロ風の美とディオニュソス風の美
第III章:均衡と調和の美 (エーコ)
第IV章:中世の光と色彩 (エーコ)
第V章:怪物の美 (エーコ)
第VI章:牧場の少女から天使のような貴婦人へ (エーコ)
第VII章:15・16世紀の魔術的な美
第VIII章:貴婦人と英雄
第IX章:優美から不安の美へ
第X章:理性と美
第XI章:崇高 (エーコ)
第XII章:ロマン主義の美
第XIII章:芸術至上主義 (エーコ)
第XIV章:新しい物体
第XV章:機械の美 (エーコ)
第XVI章:抽象的な形から素材の深みへ (エーコ)
第XVII章:メディアの美 (エーコ)
引用参考文献出典一覧
美術家名索引
監訳者あとがき

以上です。比較表というのは、テーマ別に見開きで古代から現代までの美の形象をサムネイル形式で時代順に並べたもので、一目で歴史の流れが概観できます。各章では節ごとに簡潔な論説が展開され、各時代の参考文献がふんだんに引用されています。多数の図版と多数の引用に接するにつけ、あたかも本書は時代ごとの小宇宙が寄り集まって出来た、美の一大天体図のようです。

長ったらしい記述がないので、読んでいて退屈しませんし、ページをめくるたびに現れる図版の美しさは眺めていてまったく飽きさせません。特に見開きの図版にはしばし見入ってしまう迫力に満ちています。立ち読みするには重いですし、レジに直行して、帰宅後にじっくりご覧ください。ちなみにカバーを剥ぎ取ると、真っ白いクロス装の本体で、背にカラの箔押しで書名等が刻まれています。脱いでもキレイな本。

ここ最近、小社本を含めイタリア関連書が目立ちます。ネグリ+ハートの『マルチチュード』(NHK出版)も出版されたばかりですが、イタリアといえばやっぱり美術の国。ローマ時代からの連綿たる美の歴史の厚みには圧倒されます。『マルチチュード』もいいですが、ぜひこの『美の歴史』も店頭で併売されてほしいです。イタリア現代思想の広がりと深みが体感できると思います。

とにかくオススメです。Oさん、この本には自信があるって言ってたの、まさに納得できました。すごい本だよ。(H)
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by urag | 2005-11-03 23:44 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)