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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 899 )


2017年 06月 25日

注目新刊:ヘグルンド『ラディカル無神論』、ラトゥール『法がつくられているとき』、ほか

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★明日以降順次発売開始と聞く注目新刊をまずご紹介します。

ラディカル無神論――デリダと生の時間』マーティン・ヘグルンド著、吉松覚/島田貴史/松田智裕訳、法政大学出版局、2017年6月、本体5,500円、四六判上製478頁、ISBN978-4-588-01062-0
法が作られているとき――近代行政裁判の人類学的考察』ブルーノ・ラトゥール著、堀口真司訳、水声社、2017年6月、本体4,500円、四六判上製473頁、ISBN978-4-8010-0263-0

★ヘグルンド『ラディカル無神論』の原書は『Radical Atheism: Derrida and the Time of Life』(Stanford University Press, 2008)です。ヘグルンド(Martin Hägglund, 1976-)は、スウェーデン出身の哲学者で、現在イェール大学比較文学・人文学教授。本訳書は著者にとって英語で刊行された初めての著書であり、単行本での本邦初訳となります(中国語訳と韓国語訳が進行中と聞きます)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。日本語版付録として「ラディカル無神論的唯物論──メイヤスー批判」(初出:吉松覚訳、『現代思想』2016年1月号「特集=ポスト現代思想」)が再録されています。ヘグルンドは序文で自著についてこう述べています。「本書は、デリダがたどった道筋全体を一貫して捉えなおそうとする試みを提示している。デリダの思考のなかに倫理的ないし宗教的な「転回」があったとする見解を退けることで、私は、ラディカルな無神論が終始一貫して彼の著作を形づくっていることを明らかにしたい」(3頁)。

★序文では各章について端的な紹介があります。「第一章〔時間の自己免疫性──デリダとカント〕では、デリダの脱構築とカントの批判哲学との関連を扱う」。「第二章〔原‐エクリチュール──デリダとフッサール〕では時間の総合という脱構築的な観念を、デリダが「原-エクリチュール」と呼んだものの分析を通して展開する」。「第三章〔原‐暴力──デリダとレヴィナス〕では、原-エクリチュールと、デリダが原-暴力と呼ぶものとの関連を明らかにする」。「第四章〔生の自己免疫性──デリダのラディカル無神論〕では、デリダのラディカル無神論の重要性を、詳細にわたって示すことにする」。「第五章〔デモクラシーの自己免疫性──デリダとラクラウ〕では、ラディカル無神論の論理がデリダのデモクラシー概念に結びつけられる」(20-22頁)。

★以下では印象的な言葉を抜き出してみます。「デリダは、それ〔「生き延び」という観念〕が自分の仕事全体にとって中心的な重要性をもつと繰り返し指摘しているが、彼は生き延びの論理について明確に問題を示したことなど一度もなかったし、それが同一性や欲望、倫理や政治にかんするわれわれの思考へと分岐していることを示したこともなかった。こうした議論を準備することで私は、彼がこの語に与える厳密な意味において、デリダを「相続」しようと努めた。相続することは、単に師に導かれたことを受け入れるだけではない。それは、師の教えをさまざまな仕方で生き続けさせるために、その遺産を肯定し直すことなのである。/このような相続はもっともらしく教えを守ることによってはなしえない。それは、ただ教えを批判的に識別することを通してのみ可能なのである」(23-24頁)。

★「ラディカル無神論の最初の挑戦は、生のあらゆる瞬間が実のところ生存の問題なのだということを証明することである。〔・・・〕何ものもそれ自体として与えられることはありえず、つねにすでに過ぎ去っている〔・・・〕仮に出来するものがそれ自体として与えられ過ぎ去ってしまうことがなかったならば、未来のために何かを書き留める理由などないだろう。〔・・・〕生き延びの運動なしにはいかなる生も存在しえない〔・・・〕。生き延びの運動は来たるべき予見不可能な時間のために、破壊可能な痕跡を残すことによってのみ存続するのだ」(96頁)。

★「ひとが望む未来はどのようなものであれ、内在的に暴力的で(なぜならこの未来は、他の未来を犠牲にしてのみ到来しうるのだから)、かつそれ自体暴力にさらされている(なぜならこの未来は他の未来の到来によって打ち消されるかもしれないからだ)。〔・・・〕生き延びを目指した欲動は、デモクラシーを望むということがいかにして可能になるかわれわれが説明することを可能にする傍らで、なぜこの欲望は本質的に退廃しうるもので、内在的に暴力的なのかを説明することをも可能にしてくれる〔・・・〕。デモクラシーを望むとしても、時間を逃れた存在の状態を望むことはできない。デモクラシーを望むことは本質的に、時間的なものを望むことである。なぜならデモクラシーは、民主主義的であるために、自らの変化=他化に開かれたままでなければならないからだ。〔・・・デモクラシーを求める欲望は〕あらゆる欲望において機能している生き延びの暴力的な肯定を明快に説明している〔・・・〕。ラディカル無神論の論理によってわれわれは政治の問題と、デモクラシーの課題を、新たな観点から評価することができるようになる」(398-399頁)。

★『ラディカル無神論』はそれ自体がデリダの思想を相続する試みであると同時に、デリダを相続しようとした先行者たちとの対話でもあり、それらをとりまく哲学史との対話でもあります。本書を読むことなしにデリダ研究の現在は語れないのではないかと思われます。

★ラトゥール『法が作られているとき』は「叢書・人類学の転回」の最新刊。原書は『La Fabrique du droit : une ethnographie du Conseil d'État』(La Découverte, 2002)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「フランスの行政法最高裁判所であるコンセイユデタの人類学的調査が実施され、法を専門としない外部者の視線から、裁判官が事件を処理し判決を作り上げるプロセスについて、詳細な記述が行われている」(訳者あとがき、456頁)本書について、ラトゥールは英語版序文でこう書いています。「エスノグラフィという装置を用いて、哲学的には捉えることができないような哲学的問題に取り組もうとしている。つまり、法の本質についてである。それは、本質とは、定義の中ではなく、実践、それもある特別な方法で異質な現象を全体的に結びつけているような、実態に根差した実践の中にこそあるということを知っているからである。そして、本書全体を通じて焦点を当てているのが、この特別な方法そのものを探求することなのである」(451頁)。

★ブルーノ・ラトゥール(Bruno Latour, 1947-)はフランス・パリ政治学院教授。科学社会学の泰斗で訳書には以下のものがあります。

1985年『細菌と戦うパストゥール』岸田るり子/和田美智子訳、偕成社文庫、1988年(品切)
1987年『科学がつくられているとき――人類学的考察』川崎勝/高田紀代志訳、産業図書、1999年
1991年『虚構の「近代」――科学人類学は警告する』川村久美子訳、新評論、2008年
1992年『解明 M.セールの世界――B.ラトゥールとの対話』ミシェル・セール著、梶野吉郎/竹中のぞみ訳、法政大学出版局、1996年(品切)
1999年『科学論の実在――パンドラの希望』川崎勝/平川秀幸訳、産業図書、2007年
2002年『法が作られているとき――近代行政裁判の人類学的考察』堀口真司訳、水声社、2017年
2014年「「近代」を乗り越えるために」、『惑星の風景――中沢新一対談集』所収、中沢新一著、青土社

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★次に、発売済の今月新刊から注目書をピックアップします。

ミシェル・フーコー講義集成Ⅲ 処罰社会――コレージュ・ド・フランス講義1972-1973年度』ミシェル・フーコー著、八幡恵一訳、筑摩書房、2017年6月、本体6,000円、A5判上製448頁、ISBN978-4-480-79043-9
口訳万葉集(下)』折口信夫著、岩波現代文庫、2017年6月、本体1,400円、A6判並製480頁、ISBN978-4-00-602289-1

★『ミシェル・フーコー講義集成Ⅲ 処罰社会』は発売済。全13巻のうちの第11回配本(原書『La société punitive. Cours au Collège de France (1972-1973)』は2013年刊)。帯文はこうです。「規律権力はどこから来たのか――現代の監視社会の起源を問う、もうひとつの『監獄の誕生』! 18世紀末から19世紀にかけ、監獄という刑罰の形態が、身体刑にとって代わり、突如として一般的になる。なぜ、このような奇妙な現象が生じたのか。犯罪者を「社会の敵」へと変えるさまざまな刑罰の理論と実践を検討し、のちの『監獄の誕生』では十分に深められなかった「道徳」の観点から、現代における規律権力の到来を系譜学的にさぐる。フーコー権力論の転回点を示す白熱の講義」。残すところ、講義録は第Ⅱ巻「刑罰の理論と制度(1971-1972)」と第Ⅹ巻「主体性と真理(1980-1981)」の2巻となりました。ちなみに新潮社版『監獄の誕生』は現在版元品切ですが、アマゾンでの表示が7月31日に入荷予定となっているので、おそらく重版が掛かるのだと思われます。

★折口信夫『口訳万葉集(下)』は全三巻の完結編。29歳の折の口述筆記による現代語訳です。下巻は巻十三から巻二十を収めています。夏石番矢さんによる解説「波路のコスモロジー」が巻末に掲載されています。今年は折口の生誕130年であり、角川ソフィア文庫の『古代研究』をはじめ、新刊が続いています。

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★また最近では以下の新刊との出会いがありました。

ゲンロン5 幽霊的身体』東浩紀編、ゲンロン、2017年6月、本体2,400円、A5判並製324頁、ISBN978-4-907188-21-4
わが人生処方』吉田健一著、中公文庫、2017年6月、本体860円、文庫判並製280頁、ISBN978-4-12-206421-8
鯨と生きる』西野嘉憲著、平凡社、2017年6月、本体4,500円、B5変判上製96頁、ISBN978-4-582-27828-6

★『ゲンロン5 幽霊的身体』は6月24日(土)より一般書店発売開始。発行部数一万部と聞いていますので、本誌の取扱書店一覧は、人文書版元の営業にとってMAXに近い配本先となり、非常に参考になります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。東浩紀さんによる巻頭言「批評とは幽霊を見ることである」にこんな言葉があります。「つまり批評とは、なによりもまず視覚の問題なのだ。批評家は、見えるものを分析するだけではいけない(それはジャーナリストや社会学者の仕事だ)。しかし、かといって、見えないものを夢想するだけでもいけない(それはこんどは芸術家の仕事だろう)。批評家は、見えるもののなかに、本来なら見えないはずのものを幻視する、特殊な目をもっていなけれなならない。言い換えれば、幽霊が見える目をもっていなければならない。/批評とは幽霊を見ることだ」(9~10頁)。「この21世紀の社会をよりよく生きるためには、みなが幽霊を見る目をもつべきである、すなわちみなが小さな批評家になるべきである〔・・・〕。ポストモダンとは、幽霊の時代であり、批評の時代なのである」(11頁)。なお、続刊となる第6号(9月予定)と第7号(2018年1月)では、連続で「ロシア現代思想」の特集が組まれるそうです。

★吉田健一『わが人生処方』は発売済。没後20周年記念オリジナル編集のエッセイ集第三弾です。人生論と読書論から成る二部構成で、巻末には著者のご息女である吉田暁子さんと松浦寿輝さんの対談「夕暮れの美学――父・作家、吉田健一」(初出は『文學界』2007年9月号)と、松浦さんの解説「すこやかな息遣いの人」が収められています。松浦さんはこうお書きになっておられます。「本書が教えてくれるのは、人は恋人の瞳や飼っている犬のしぐさや川面に移ろう光を愛するように本を愛しうるし、また愛すべきだという簡明な真実である。この「一冊の本」と深くまた密に付き合うことで、人は「時間がただそれだけで充実してゐる」世界を体験することができるからだ」(271頁)。「わたしの書架には数十年来何度も何度も読み返し読み古した挙句、黄ばんでよれよれになってしまった集英社文庫版の『本当のような話』や中公文庫版の『東京の昔』がまだ残っており、それらをわたしは死ぬまで手元に置いて、折に触れ繰り返しページを繰りつづけるだろう」(272頁)。紙の書物の「「実在」と深く密に触れ合」うことの「「充実」した時間」、この幸福は愛読書を持つ者なら共感できることではないかと思います。すべてが素早く移ろいゆく世界の中で、一冊の愛すべき書物を読む時間を持てるのは、この上なく贅沢なことです。

★西野嘉憲『鯨と生きる』は発売済。帯文に曰く「関東で唯一の捕鯨基地がある千葉県和田漁港。毎年、町には鯨とともに夏が訪れる。鯨が息づく町の暮らしや捕鯨船の様子を、自然とヒトの関係を追ってきた写真家が活写」。漁や解体、料理や食事など、外房の日常風景が並びます。意義深い出版に接し、著者や出版社に深い敬意を覚えます。本書に言及はありませんが、「環境保護団体」を自称する輩やその賛同者たちの横暴とは一切無縁の、貴重な一冊です。

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by urag | 2017-06-25 18:53 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 19日

ブックツリー「哲学読書室」に金澤忠信さんと藤井俊之さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ソシュールの政治的言説』(月曜社、2017年5月)を上梓された金澤忠信さんの選書リスト「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」と、『啓蒙と神話――アドルノにおける人間性の形象』(航思社、2017年4月)を上梓された藤井俊之さんの選書リスト「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

上尾真道さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
渡辺洋平さん選書「今、哲学を(再)開始するために
岡本健さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?

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by urag | 2017-06-19 16:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 19日

注目新刊:ブランショ『終わりなき対話(II)限界-経験』筑摩書房

★西山達也さん(訳書:サリス『翻訳について』)
★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』)
共訳書、モーリス・ブランショ『終わりなき対話(Ⅱ)限界−経験』が発売されました。書誌情報は下記の通り。西山達也さんは訳者を代表して、訳者あとがきをお書きになっておられます。なお第三部は2017年10月予定と予告されています。

終わりなき対話(Ⅱ)限界−経験
モーリス・ブランショ著、湯浅博雄/岩野卓司/上田和彦/大森晋輔/西山達也/西山雄二訳
筑摩書房、2017年6月、本体5,900円、A5判上製496頁、ISBN978-4-480-77552-8
カバー表1紹介文より:意味と決別せよ。ニーチェ論を転回点にヘラクレイトスからバタイユへ、哲学と文学を架橋し、意味の極北を探る渾身の第二部。

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by urag | 2017-06-19 11:13 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 18日

注目新刊:ハマー『アルカイダから古文書を守った図書館員』紀伊國屋書店、ほか

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ハイデガー『存在と時間』を読む』サイモン・クリッチリー/ライナー・シュールマン著、スティーヴン・レヴィン編、串田純一訳、法政大学出版局、2017年6月、本体4,000円、四六判上製298頁、ISBN978-4-588-01059-0
新訳ベルクソン全集(7)思考と動くもの』竹内信夫訳、白水社、2017年6月、本体4,100円、4-6判上製368頁、ISBN978-4-560-09307-8
西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』シュペングラー著、村松正俊訳、2017年6月、本体1,800円/1,600円、新書判並製384頁/288頁、ISBN978-4-12-160174-2/ISBN978-4-12-160175-9
なぞ怪奇 超科学ミステリー 復刻版』斎藤守弘著、復刊ドットコム、2017年6月、本体3,700円、B6判上製218頁、ISBN978-4-8354-5492-4

★『ハイデガー『存在と時間』を読む』の原書は『On Heidegger's Being and Time』(Routledge, 2008)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチにおけるクリッチリーとシュールマンの講義をレヴィンがまとめて、まえがきを付したものです。何と言ってもシュールマン(Reiner Schürmann, 1941-1993)のハイデガー講義(1978年、1982年、1986年)をまとめて読めるようになったことが嬉しいです。シュールマンには主著であるハイデガー論『アナーキーの原理』やエックハルト論、大部の遺稿集などがあり、いずれも未訳ですが、これをきっかけに日本語でもいずれ読めるようになればと願わずにいられません。

★『新訳ベルクソン全集(7)思考と動くもの』は配本が遅れていましたが、何と言っても個人全訳ですから気長に待つということで全然良かったわけです。しかしながら本書巻末の「読者のみなさまへ」という白水社の特記や月報7での「訳者のつぶやき」において、事情が明かされています。巻末の特記(ほぼ同文の「『新訳ベルクソン全集』についてお知らせとお詫び」が版元サイトに掲出)にはこうあります。「既刊では「訳注」を「原注」と併せ付してまいりましたが、本巻においては、訳者の健康上の理由により、「訳注」は断念せざるを得ませんでした。〔・・・〕同様の理由により、現時点では、次回以降の配本(第6巻『道徳と宗教の二つの源泉』及び「別巻」)の見通しが立っておりません。つきましては、訳者と話合いの結果、今回配本をもちまして刊行をいったん中止させていただくことに致しました。みなさまのご賢察を願い上げ、ご寛恕を乞う次第です」と。竹内先生は月報にこう書かれています。「最後の一巻『道徳と宗教の二つの源泉』に取り組んでいきたいという思いにいささかの変りもない。しかし、自身の身体の現状をふまえ、白水社と協議した結果、刊行はいったん中止して、再開・完結を期したいと考えるに至った」。まさに命懸けのご訳業に胸が震えます。

★『西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』は、五月書房の縮約版の再刊。巻末の編集付記によれば「1976年に五月書房さから刊行された『西洋の没落』(縮約版)を底本とし、新たな解説を作品の前に付した。割注は訳者に拠る」と。新たな解説というのは第1巻巻頭に掲載された板橋拓己(成蹊大学教授)による「時代が生んだ奇書」のこと。訳者は1981年に死去されています。本文の改訂の有無についてですが、同付記によれば「明らかな誤字・脱字は訂正した。固有名詞や用字・用語については初版の表記に拠った」とあります。縮約版ではなく完全版が再刊されたらよかったのに(五月書房が廃業されているため新本での入手はできません)とも思いますが、親本は46判上下巻で1200頁を超える大冊なので、中公クラシックスに入れるには大きすぎたでしょうか。

★『なぞ怪奇 超科学ミステリー 復刻版』は「ジャガーバックス」に続いて復刊ドットコムが再刊に着手した「ジュニアチャンピオンコース」の第一弾。初版は1974年。個人的には「ジャガー」よりこちらのシリーズの方が好きで、しかも一番印象に残っている本書が復刻され、嬉しくてたまりません。頁をめくると脳裏の深い場所から記憶がまざまざと蘇ってくるのを感じます。どのイラストも写真もくっきりと思い出に一致して、どれほど自分がこの本に強い印象を抱いていたのかが分かります。送料も含めると4000円超えにはなりますが、満足です。強いて言えば、原本とは製本に差があって、ノドの開きに物足りなさを感じます。これは以後、何とか改善されればと願うばかりです。それにしても子供時代の本を大学生の頃に一挙に廃棄してしまったのは失敗だったなと今さらながらつくづく悔やまれます。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

アルカイダから古文書を守った図書館員』ジョシュア・ハマー著、梶山あゆみ訳、紀伊國屋書店、2017年6月、本体2,100円、B6判上製349頁、ISBN978-4-314-01148-8
人類はなぜ肉食をやめられないのか――250万年の愛と妄想のはてに』マルタ・ザラスカ著、小野木明恵訳、インターシフト発行、合同出版発売、2017年6月、本体2,200円、46判並製320頁、ISBN978-4-7726-9556-5
現代思想2017年7月臨時増刊号 総特集=築地市場』青土社、2017年6月、本体1,600円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1347-9

★『アルカイダから古文書を守った図書館員』の原書は『The Bad-Ass Librarians of Timbuktu: And Their Race to Save the World's Most Precious Manuscripts』(Simon & Schuster, 2016)です。イスラム原理主義者はこれまで他宗教や多文化の遺跡や歴史的遺物の破壊を繰り返してきましたが、彼らのターゲットには古文書も含まれています。本書は西アフリカ・マリ共和国で37万点もの貴重書をアルカイダ系組織から守った図書館員アブデル・カデル・ハイダラの活躍を伝えるノンフィクションです。危険を察知したハイダラの機転により、トンブクトゥの図書館から1000キロ離れた首都バマコまで古文書が移されたお蔭で、被害は拡大せずに済んだと言います。イスラム原理主義者の行動範囲がイギリスやフランスまで広がりつつあるこんにち、この先に起こるかもしれない新たな悲劇のことを強く危惧せざるをえません。

★『人類はなぜ肉食をやめられないのか』の原書は『MEATHOOKED: The History and Science of Our 2.5-Million-Year Obsession with Meat』(Basic Books, 2016)です。目次および解説は書名のリンク先をご覧ください。肉食の長い長い歴史をひもとき、なぜ人類は肉を食べるのか好きなのかを解き明かします。それは「古代の細菌が他の細菌の「肉」の味のとりこになったときから始まっている」(14頁)というのです。そして「肉食は、人類がアフリカから外に出るのを後押ししただけでなく、(人類の親戚であるチンパンジーに比べて)体毛が薄くなり大量の汗をかくようになったことにもかかわっているのだ」(同)そうです。本書ではさらに食肉不足が予想される近未来を展望し、「肉のない世界」(296頁)での栄養転換について説明しています。「肉の消費を大幅に減らさなければ、地球温暖化や水不足、環境汚染に直面する可能性が著しく高くなる」(301頁)と著者は警告しています。

★『現代思想2017年7月臨時増刊号 総特集=築地市場』は中沢新一さんによる責任編集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。中沢さんご本人は、伊東豊雄さんとの徹底討論「「みんなの市場」をめざす」「夢にあふれた近代建築――『東京市中央卸売市場築地本場・建築図集』を読む」を行い、仲卸業者の中澤誠さんへのインタヴュー「天才的な築地市場」を手掛けられているほか、巻頭言や論考2篇「築地市場の「富」」「築地アースダイバー」(図版協力=深澤晃平)を寄稿しておられます。「築地アースダイバー」で中沢さんはこう書いておられます。「築地市場のユニークさは、物流センターとしての機能だけに限定されない。仲卸の中心にしてかたちづくられてきた「中間機構」の中に、味覚をめぐる莫大な量の身体的暗黙知が蓄積され、それがいまも健全な活動を続けている。〔・・・〕築地市場は我々の宝物である。そしてなによりも築地市場には未来がある。この未来を絶ってしまってはならない」(39-40頁)。これがノスタルジーなどではないことは本特集号の内容がよく示しています。

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by urag | 2017-06-18 18:18 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 11日

注目新刊:キャロル『セレンゲティ・ルール』紀伊國屋書店、ほか

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★まず先月発売の新刊でこれまで言及できていなかった新刊の中で特に注目している本を以下に列記します。

◎2017年5月刊行
02日『哲学としての美学――“美しい”とはどういうことか』ギュンター・ペルトナー著、渋谷治美監訳、中野裕考+中村美智太郎+馬場智一+大森万智子訳、晃洋書房
12日『ラテン語を読む――キケロー「スキーピオーの夢」』山下太郎著、ベレ出版、2017年5月、本体2,900円、A5判並製368頁、ISBN978-4-86064-510-6
12日『シャルリ・エブド事件を読み解く――世界の自由思想家たちがフランス版9・11を問う』ケヴィン バレット編著、板垣雄三訳、第三書館
14日『観念に到来する神について』新装版、エマニュエル・レヴィナス著、内田樹訳、国文社
15日『最後の人間からの手紙――ネオテニーと愛、そしてヒトの運命について』ダニ=ロベール・デュフール著、福井和美訳、書肆心水
22日『自己意識と他性――現象学的探究』ダン・ザハヴィ著、中村拓也訳、法政大学出版局
24日『キリスト教教父著作集(2/Ⅱ)エイレナイオス(2)異端反駁(Ⅱ)』エイレナイオス著、大貫隆訳、教文館
25日『ニーベルンゲンの歌』岡﨑忠弘訳、鳥影社
26日『ミルトン・エリクソンの催眠の経験――変性状態への治療的アプローチ』ミルトン・H・エリクソン/アーネスト・L・ロッシ著、横井勝美訳、金剛出版
26日『私たちのなかの私――承認論研究』アクセル・ホネット著、日暮雅夫+三崎和志+出口剛司+庄司信+宮本真也訳、法政大学出版局
27日『本棚の歴史』新装復刊版、ヘンリー・ペトロスキー著、池田栄一訳、白水社
30日『ボディ・スタディーズ――性、人種、階級、エイジング、健康/病の身体学への招待』マーゴ・デメッロ著、田中洋美監訳、兼子歩+齋藤圭介+竹﨑一真+平野邦輔訳、晃洋書房

★山下太郎『ラテン語を読む』はキケローの著作『国家について』の最終巻である「スキーピオーの夢」のラテン語原文、全文訳(直訳調)、現代語訳を掲出するだけでなく、原文を文章のまとまりごとに分け、それぞれの訳文を示した上で構成する一語ずつすべてについても語義と文法の解説を加え、さらに復習用の逐語訳を付す、という体裁の本です。原文は10頁強を占めるに過ぎませんが、じっくりと原典に向き合うことができ、独習者向けの親切な一冊です。著者の山下さんは東京、名古屋、京都を中心にラテン語講習会を精力的に続けられています。

★次に今月刊行済の新刊で未言及のものから注目書をピックアップします。これらのいくつかはあらためて後日触れるつもりです。

◎2017年6月
08日『西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』シュペングラー著、村松正俊訳、2017年6月、本体1,800円/1,600円、新書判並製384頁/288頁、ISBN978-4-12-160174-2/ISBN978-4-12-160175-9
09日『プラトーン著作集 第10巻書簡集・雑編 第1分冊 エピノミス/書簡集』水崎博明訳、櫂歌書房
09日『プラトーン著作集 第10巻書簡集・雑編 第2分冊 雑編』水崎博明訳、櫂歌書房
09日『フランス・ルネサンス文学集(3)旅と日常と』宮下志朗+伊藤進+平野隆文編訳、斎藤広信+篠田勝英+高橋薫訳、白水社
11日『新訳ベルクソン全集(7)思考と動くもの』竹内信夫訳、白水社
12日『ハイデガー『存在と時間』を読む』サイモン・クリッチリー/ライナー・シュールマン著、スティーヴン・レヴィン編、串田純一訳、法政大学出版局
13日『道徳哲学史』バルベラック著、門亜樹子訳、京都大学学術出版会 (近代社会思想コレクション20)

★さらに、これから月内に発売予定の注目新刊も掲出しておきます。今月は見逃せない重要作が続々と登場します。

15日『終わりなき対話(Ⅱ)限界-経験』モーリス・ブランショ著、湯浅博雄+上田和彦+岩野卓司+大森晋輔+西山達也+西山雄二訳、筑摩書房
21日『精神の革命――ラディカルな啓蒙主義者と現代民主主義の知的起源』ジョナサン・イスラエル著、森村敏己訳、みすず書房
22日『ミシェル・フーコー講義集成(3)処罰社会 コレージュ・ド・フランス講義1972-1973年度』八幡恵一訳、筑摩書房
28日『キマイラの原理――記憶の人類学』カルロ・セヴェーリ著、水野千依訳、白水社
29日『死刑Ⅰ(ジャック・デリダ講義録)』高桑和巳訳、白水社
30日『ラディカル無神論――デリダと生の時間』マーティン・ヘグルンド著、吉松覚+島田貴史+松田智裕訳、法政大学出版局

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか』ショーン・B・キャロル著、高橋洋訳、紀伊國屋書店、2017年6月、本体2,200円、46判上製346頁、ISBN978-4-314-01147-1
斎藤昌三 書痴の肖像』川村伸秀著、晶文社、2017年6月、本体5,500円、A5判上製504頁+カラー口絵8頁、ISBN978-4-7949-6964-4

★キャロル『セレンゲティ・ルール』はまもなく発売(15日頃)。原書は『The Serengeti Rules: The Quest to Discover How Life Works and Why It Matters』(Princeton University Press, 2016;書名のリンク先で著者の動画もご覧になれます)です。著者のショーン・B・キャロル(Sean B. Carroll, 1960-)はウィスコンシン大学マディソン校教授で、エボデボ(進化発生生物学)の第一人者。単独著の既訳書に『シマウマの縞 蝶の模様――エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(渡辺政隆+経塚淳子訳、光文社、2007年)、共著では『DNAから解き明かされる形づくりと進化の不思議』(Jennifer K.GrenierおよびScott D.Weatherbeeとの共著、上野直人+野地澄晴監訳、羊土社、2003年)があります。

★今回翻訳された『セレンゲティ・ルール』は彼の最新著。「さまざまな種類の分子や細胞の数を調節する分子レベルのルールが存在するのと同じように、一定の区域で生息可能な動植物の個体数を調節するルールが存在する」(18~19頁)ことを発見した著者は、この生態系レベルのルールをタンザニアのセレンゲティ国立公園にちなんで「セレンゲティ・ルール」と呼んでいます。訳者の高橋さんは巻末の訳者あとがきでこう指摘されています。「生態系の破壊は、言うまでもなく今日の大問題の一つであり、本書を読めば、生命や生態系の基盤となる調節の論理を無視した人間の営みによって予期せぬ破局が引き起こされ得るという環境倫理の問題を、具体例を通じて十分に理解できるはずである」(298頁)。地球の行く末を真剣に案じている読者は本書から大きな示唆を得られるはずです。

★著者はこう述べています。「もっとも差し迫った課題とは、私たちが住む世界の健康が蝕まれていることを、そして他の生物はもちろん、人間の生活をも支えている地球の生態系が、それによっていかなる影響を受けているかを理解することなのだ。〔・・・〕20世紀の標語が「医療による生活向上」であったとすれば、21世紀の標語は「環境保全による生活向上」というものになろう」(274頁)。さらにこうも述べます。「本書を執筆した同期の一つは、長期的な見通しを必要とし、不可能とすら思えるほど複雑で困難な挑戦であっても、これまで何度も克服されてきたという事実を示したかったことである。〔・・・〕メンドータ湖、イエローストーン、ゴンゴローザにおける成果は、特定の種の再生、生息環境の改善、さらには荒廃した生態系の再生すら可能であることを示す。今こそ私たちは態度を改めるべきだ」(276頁)。

★川村伸秀『斎藤昌三 書痴の肖像』は発売済。カバーソデ紹介文に曰く「大正・昭和の書物文化興隆期に、奇抜な造本で書物愛好家たち垂涎の書籍を作り上げたことで知られている書物展望社。その社主であり、自らも編集者・書誌学者・蔵票研究家・民俗学者・俳人・郷土史家と多彩な顔を持っていた斎藤昌三(1887-1961)の足跡を丹念に調べ直し、その人物像と同時代の作家・学者・画家・趣味人たちとの交友とを鮮やかに描き出した画期的な労作。今では貴重な傑作装幀本の数々をカラー頁を設けて紹介。詳細な年譜・著作目録も付す」と。カバーにはさらに仕掛けもあって、裏返しても使えるものとなっています(店頭にて現物をご確認いただくことをお薦めします)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。カラーグラビア「ゲテ装本・書物展望社本、少雨荘の本」はただただその美しさにため息が出ます。

★類書には八木福次郎『書痴斎藤昌三と書物展望社』(平凡社、2006年)があります。また、晶文社さんでは出版人列伝として近年では、カルロ・フェルトリネッリ『フェルトリネッリ――イタリアの革命的出版社』(麻生九美訳、晶文社、2011年、ISBN978-4-7949-6756-5)も刊行されており、話題を呼びました。さらに同社では国内の出版人や書店員の様々な自伝的著作を出されていることも周知の通りかと思います。なお、晶文社さんの近刊書として、松岡正剛×ドミニク・チェン『謎床――思考が発酵する編集術』(晶文社、2017年7月上旬発売、本体1,700円、四六判並製360頁、ISBN978-4-7949-6965-1)が予告されています。たいへん楽しみです。

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by urag | 2017-06-11 20:04 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 28日

注目新刊:ケック『流感世界』水声社、ほか

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流感世界――パンデミックは神話か?
フレデリック・ケック著 小林徹訳
水声社 2017年5月 本体3,000円 46判上製354頁 ISBN978-4-8010-0259-3

帯文より:レヴィ=ストロースの方法論を受け継ぐ気鋭の人類学者が描いた、パンデミック化したこの世界。「種の壁」を乗り越えるインフルエンザウイルスを、香港・中国・日本・カンボジアを股にかけて追跡し、ヒトと動物種とのあいだに広がる諸関係に新たな対角線をひく。ヒトが作り上げる〈社会〉のあり方を、《危機》への対応という観点から問い直す。

目次:
序論 動物疾病の人類学
第一章 バイオセキュリティをめぐる回り道
第二章 自然に面した衛生前哨地
第三章 家禽経営
第四章 仏教的批判
第五章 動物を開放すること
第六章 生物を生産すること
第七章 ウイルスの回帰――あるパンデミックの回想録
第八章 ドライとウェット――実験室の民族誌
結論 パンデミックは神話か?
謝辞/原註/訳註
訳者あとがき――パンデミックの神話論をめぐって

★発売済。叢書「人類学の転回」の第8回配本です。原書は『Un monde grippé』(Flammarion, 2010)です。著者のケック(Frédéric Keck, 1974-)はフランスの人類学者で哲学史家。第一章でケックは自らの人類学的教養の源泉を、アメリカの文化人類学(ボッズ、クローバー、ギアツ)と、フランスの社会哲学や心性史研究(コント、デュルケーム、フェーヴル、ブロック)から得ていると明かしています。また、著者が本書で神話という概念をパンデミックに適用する理由は次のように述べられています。「神話は、表象と現実の連環や、計算的な合理性と道徳的感情の連環より以上のものを含意している。この概念が提示するのは〔・・・〕「世界観」なのである。つまりそれは、共通の世界という地平に含まれるすべてのものを知覚させ、逆説的にこの世界を、それが常に脅かされてきたがゆえに、構築される前のものとして表象するものなのだ」(256頁)。

★そしてこうも著者は述べています。「本書において私が試みたのは、「神話の大地は丸い」というレヴィ=ストロースの断言を取り上げ直すことだったのだ。私は微生物学者たちを追いながら、ウイルスの起源に関する彼らの神話を共有していたが、彼らが国境を跨ぐときには、この神話の変換に注意を向け続けていた。微生物学者たちがウイルスは国境を知らないと言い続けるとしても、それでもなお、ウイルスについての社会的表象が意味をなすのは、歴史によって構成された国境を取り巻く文脈においてなのであり、ウイルスが国境を跨ぐときにこの表象が変換されたり反転したりするその在り方においてなのである」(263頁)。訳者は本書について「さまざまな観念が予感的に散りばめられた豊かな土壌となるべき書物である」(343頁)と評しておられます。科学人類学が有する越境的射程の魅力に溢れた本です。

★帯表4に記載されたシリーズ続刊予定には、クリス・ハン/キース・ハート『経済人類学』、マイケル・タウシグ『模倣と他者性』が挙がっています。また、水声社さんの2015年9月25日付「《叢書 人類学の転回》まもなく刊行開始!」に掲出された刊行予定のうちで未刊の書目には、アルフレッド・ジェル『アートとエージェンシー』、フィリップ・デスコラ『自然と文化を超えて』があります。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。いずれも発売済です。

現代思想2017年6月号 特集=変貌する人類史』青土社、2017年5月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1346-2
なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか――“カワイイ”を世界共通語にしたキャラクター』クリスティン・ヤノ著、久美薫訳、作品社、2017年5月、本体3,600円、46判上製526頁、ISBN978-4-86182-593-4
カネと暴力の系譜学』萱野稔人著、河出文庫、2017年5月、文庫判208頁、ISBN978-4-309-41532-1
澁澤龍彦ふたたび』河出書房新社編集部編、河出書房新社、2017年5月、本体1,300円、A5判並製224頁、ISBN978-4-309-97918-2
増補新版 ブラック・マシン・ミュージック――ディスコ、ハウス、デトロイト・テクノ』野田努著、河出書房新社、2017年5月、本体4,300円、46判上製512頁、ISBN978-4-309-27846-9

★『現代思想2017年6月号 特集=変貌する人類史』は中沢新一さんと山極寿一さんの討議「「人類史」のその先へ」をはじめ、日本人研究者のインタヴューや寄稿が充実しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。次号(2017年7月号)の特集は「宇宙への旅」と予告されており、昨年末『宇宙倫理学入門』(ナカニシヤ出版、2016年12月)を上梓された稲葉振一郎さんが三浦俊彦さんと討議されるようです。

★『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか』の原書は『Pink Globalization: Hello Kitty's Trek across the Pacific』(Duke UNiversity Press, 2013)。原題にある「ピンクのグローバリゼーション」とは日本の《カワイイ》をめぐるカルチャーの世界的な伝播と受容を表わすもの。ハワイ大学の人類学教授によるサンリオ研究であり、ユニークです。なお著者には、本書の訳者でもある久美薫さんによる既訳書『パン・アメリカン航空と日系二世スチュワーデス』(原書房、2013年)があります。

★最後に河出書房新社さんの今月新刊より3点をご紹介します。『カネと暴力の系譜学』はシリーズ「道徳の系譜」の単行本を文庫化したもの。文庫化にあたり、國分功一郎さんが解説「理論的であること」を寄せておられます。なお、同シリーズから文庫化された本には酒井隆史『暴力の哲学』(単行本2004年;文庫2016年)があります。

★『澁澤龍彦ふたたび』は「文藝別冊・KAWADE夢ムック」の新刊。編集後記によれば「2002年に「文藝別冊」で澁澤特集を編み、2013年にその増補新版を出した。今回、歿後30年という節目にあらためて澁澤とこの時代の通路をひらくべく新たに別冊を編んだ」とのことです。東雅夫さんによるアンソロジー「掌上のドラコニア――澁澤龍彦による澁澤龍彦」のほか、『現代思想』にも登場されていた中沢新一さんが「水の発見」という論考を寄稿されています。

★『増補新版 ブラック・マシン・ミュージック』は2001年に刊行された長大なクラブミュージック論の新版で、巻末に書き下ろしとなる「16年目のブラック・マシン・ミュージック」が収録されています。「日の当たらないところには、明るい場所にはない力強い繋がりがある」(488頁)。「チャート・ミュージックではないのにかかわらず、途絶えることなく拡大し続けている」ものの力。巻頭に置かれた「ビギン・トランスミッション」にはこう書かれていました。「ディスコ、ハウス、あるいはテクノ、これらアンダーグラウンド・ミュージックは、世界の周辺に住むひとたちが、世界の秩序から隔離された場所で繰り広げてきたものだ。なるだけ世界の痛みから遠ざかろうとする感情が、最初この音楽の根底にはあった。が、この音楽はときを経て、世界を不透明にするシステムに牙をむきはじめた」(12頁)。「ぼくはこの本でなるだけ彼らの背景や考え、その変遷を伝えようと努めている。今や世界中の若者を虜にしているダンス・カルチャーの原風景を見つめ、彼らのやってきたことを歴史的に追い、現在やっていることの意義を読者に問いたいと思う」(13頁)。

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by urag | 2017-05-28 16:15 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 22日

注目新刊:W・ブラウン、G・アガンベン、『現代思想』資本論特集号

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★中井亜佐子さん(共訳:ロイル『デリダと文学』)
カリフォルニア大学バークレー校政治学教授のウェンディ・ブラウン(Wendy L. Brown, 1955-)さんの、『寛容の帝国』(向山恭一訳、法政大学出版局、2010年)に続く単独著日本語訳第二弾を手掛けられました。まもなく店頭発売開始と聞いています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。原書は『Undoing the Demos: Neoliberalism's Stealth Revolution〔デモス(市民/人民/民衆)の解体――新自由主義のステルス革命〕』(Zone Books, 2015)です。

いかにして民主主義は失われていくのか――新自由主義の見えざる攻撃
ウェンディ・ブラウン著、中井亜佐子訳
みすず書房 2017年5月 本体4,200円 四六判上製336頁 ISBN978-4-622-08569-0
帯文より:いまや新自由主義は、民主主義を内側から破壊している。あらゆる人間活動を経済の言葉に置き換え、民主主義を支える理念、制度、文化を解体する過程を説き明かす。

★ジョルジョ・アガンベンさん(著書:『アウシュヴィッツの残りのもの』『バートルビー』『思考の潜勢力』『瀆神』『到来する共同体』)
3月下旬にミラノの出版社「ノッテテンポ」から初めての自伝となる『書斎の自画像』を刊行されました。秘蔵写真満載の一冊で、いずれ日本語でも読めるようになるのではないかと思われます。

Autoritratto nello studio
Giorgio Agamben著
nottetempo 2017年3月 18ユーロ 菊判変型上製176頁 ISBN978-88-7452-667-3

★アントニオ・ネグリさん(著書:『芸術とマルチチュード』)
『現代思想』2017年6月臨時増刊号「総特集=マルクスの思想――『資本論』150年」に、論文「共の構築――新たなコミュニズム」が長原豊さんの訳で掲載されています(98~111頁)。これの原典は以下のもののようです。'La construction du commun: Un nouveau communisme', trans. Jeanne Revel, in Alain Badiou and Slavoj Žižek (eds), L'Idée du communisme, II. Conférence de Berlin, Fécamp: Nouvelles Editions Lignes, 2010, pp. 199-213. これは、2009年にロンドンで開催されたシンポジウムが書籍化された、The Idea of Communism(Verso, 2010;『共産主義の理念』コスタス・ドゥズィーナス+スラヴォイ・ジジェク編、長原豊監訳、沖公祐+比嘉徹徳+松本潤一郎訳、水声社、2012年6月)に続く、第二弾(2010年6月25~27日にベルリンで開催されたシンポジウムの記録『共産主義の理念Ⅱ』)に収録された発表論文かと思います。ちなみに第一弾『共産主義の理念』ではネグリの論考は「共産主義――概念と実践についての省察」と題されたものでした。『現代思想』臨時増刊号に収録されている諸論考については下記誌名のリンク先をご覧ください。

現代思想2017年6月増刊号 総特集=マルクスの思想――『資本論』150年
青土社 2017年5月 本体1900円 A5判並製278頁 ISBN978-4-7917-1345-5

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by urag | 2017-05-22 16:51 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 22日

ブックツリー「哲学読書室」に岡本健さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ゾンビ学』(人文書院、2017年4月)を上梓された岡本健さんの選書リスト「ゾンビを/で哲学してみる!?」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

上尾真道さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
渡辺洋平さん選書「今、哲学を(再)開始するために
岡本健さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?

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by urag | 2017-05-22 10:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 21日

注目新刊:ディディ=ユベルマン『受苦の時間の再モンタージュ』、ほか

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受苦の時間の再モンタージュ――歴史の眼2』ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著、森元庸介/松井裕美訳、ありな書房、2017年5月、本体6,000円、A5判上製292頁、ISBN978-4-7566-1754-5
アール・ブリュット――野生芸術の真髄』ミシェル・テヴォー著、杉村昌昭訳、人文書院、2017年5月、本体4,800円、A5判上製250頁、ISBN978-4-409-10038-7
ジャック・ラカン 不安(下)』ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之/鈴木國文/菅原誠一/古橋忠晃訳、岩波書店、2017年5月、本体5,500円、A5判上製296頁、ISBN978-4-00-061187-9

★ディディ=ユベルマン『受苦の時間の再モンタージュ』は発売済。シリーズ『歴史の眼』の第2巻です。既刊書には刊行順に、第3巻『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』(伊藤博明訳、ありな書房、2015年11月)、第1巻『イメージが位置をとるとき』(宮下志朗/伊藤博明訳、ありな書房、2016年8月)があります。今回刊行された第2巻の原書は、Remontages du temps subi. L'Œil de l'histoire, 2 (Minuit, 2010)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者の松井裕美さんによる巻末解説では本書はこう説明されています。「収容所の映像を読むために「モンタージュする」という行為が考察対象となる。そのためにディディ=ユベルマンが焦点をあてるのは、サミュエル・フラーとハルーン・ファルッキという二人の映画監督である。/本書第Ⅰ章〔「収容所を開き、眼を閉じる──イメージ、歴史、可読性」〕では戦地における経験の表象不可能性と出来事の記録の問題が扱われる。とりわけ記録映像の問題を検討するためにとりあげられるのがフラー〔による「ファルケナウ」1945年、など〕である」(275頁)。そして「本書第Ⅱ章〔「時間を開き、眼を武装する──モンタージュ、歴史、復元」〕では、記録映像を理解可能にするための作業に関するより根本的な方法論的考察が展開される。そのさいに焦点があてられるのはハルーン・ファロッキの作品〔「世界のイメージと戦争の書きこみ」1988年、「猶予」2007年、ほか〕である」(276~277頁)。ディディ=ユベルマンの著書は人文書に置くか芸術書に置くか分類が難しいため、書店さんによっては悩まれるだろうと思うのですが、どちらに置くにせよ、分散させずに一箇所にまとめるのもひとつの手ではあります。

★テヴォー『アール・ブリュット』は発売済。原書は、L'art brut (Skira, 1975)です。著者のミシェル・テヴォー(Michel Thévoz, 1936-)は美術史家、美学者。単独著の既訳書に『不実なる鏡――絵画・ラカン・精神病』(岡田温司/青山勝訳、人文書院、1999年)があります。1976年よりローザンヌの美術館「アール・ブリュット・コレクション(Collection de l'art brut)」の館長を務めておられ、本書『アール・ブリュット』はその設立者である画家のジャン・デュビュッフェが序文を寄せています。そもそも「アール・ブリュット」という概念を提唱したのがデュビュッフェで、本書の第一章にも引用されているテクスト「文化的芸術よりもアール・ブリュットを」でデュビュッフェは次のように書いています。「われわれの言うアール・ブリュットとは次のようなものである。すなわち、それは芸術的文化の影響を逃れた人たちによってつくられた作品であり、そこでは、知的な人々のなかで起きることとは反対に、模倣はほとんどと言っていいほどなく、作品のつくり手がすべてを(主題、材料の選択、作品化の手段、リズム、表現法、等々)伝統的芸術のありきたりの型からではなく、自分自身のなかの奥深い場所から引き出す。われわれはそこで、まったく純粋で生〔き〕のままの芸術的推敲が行なわれ、つくり手自身の固有の衝動を唯一の起点として芸術がその全局面において再発明される現場に立ち会うのである」(11~12頁)。巻頭16頁はカラー図版26点を掲載。目次詳細は書名のリンク先からご覧下さい。版元サイトではデュビュッフェの序文や訳者あとがきも公開されています。アール・ブリュット(英語圏での名称は「アウトサイダー・アート」)にご関心のある方には必携の基本書です。

★『ジャック・ラカン 不安(下)』は発売済。「セミネール」シリーズ第10巻の後半部分です。第12講義「不安、現実的なものの信号」から第24講義「aからいくつかの〈父の名〉へ」までを収録。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。セミネールは原書で全26巻予定、現在まで16巻が刊行されており、そのうち邦訳されたのは今回の『不安』までで9巻です。まだまだ道のりは遥かです。なお、同版元の2017年6月新刊案内によれば、受注生産方式の「岩波オンデマンドブックス」ではセミネール第2巻である『フロイト理論と精神分析技法における自我』上下巻(1998年)の復刻版が6月12日より受付開始だそうです。受注から2~4週間でお届け。本体価格は上巻が7000円、下巻が6600円と割高ですが、仕方ありません。同ブックスは「内容についてはオリジナル本と変わりませんが、装丁や外見が異なります」とのことで、新たな修正はなさそうです。ある場合はもう一度買わねばなりません。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

戸籍と無戸籍――「日本人」の輪郭』遠藤正敬著、人文書院、2017年5月、本体4,000円、4-6判上製380頁、ISBN978-4-409-24117-2
回想の青山光二――資料で読む「最後の文士」の肖像』池内規行著、共和国、2017年5月、本体5,000円、菊変型判上製288頁、ISBN978-4-907986-35-3
パフォーマンスがわかる12の理論――「クリエイティヴに生きるための心理学」入門!』鹿毛雅治編、金剛出版、2017年4月、本体3,200円、四六判並製400頁、ISBN978-4-7724-1548-4
マインドフルネス実践講義――マインドフルネス段階的トラウマセラピー(MB-POTT)』大谷彰著、金剛出版、2017年5月、本体2,800円、A5判並製184頁、ISBN978-4-7724-1555-2

★遠藤正敬『戸籍と無戸籍』は発売済。前著『戸籍と国籍の近現代史――民族・血統・日本人』(明石書店、2013年)で「戸籍が「日本人なるものを〔・・・〕いかに創出してきたのかを歴史的に検討した」(22頁)著者が今後は「無戸籍とは何か」を問うことによって研究を新たな段階へと進めたユニークな本です。ネタばれはやめておきますが、「あとがき」が非常に自由な筆致で書かれているのも印象的です。

★池内規行『回想の青山光二』は発売済。小説家・青山光二(あおやま・こうじ:1913-2008)さんから著者に当てられた多数の葉書や手紙を引用しつつ綴られた回想記で、巻頭には「秘蔵写真を駆使した」(帯文より)という文学アルバム、巻末には詳細な年譜と全著作目録が収載されています。投げ込みの「共和国急使」第15号(2017年5月20日付)で、下平尾代表は、本書は少部数出版ではあるけれども「諸事即席で売れる本だけが本ではないし、こういう含蓄のある本を世に出すのも版元の仕事であろう」としたためておられます。本書の「あとがき」で著者は下平尾さんを「わが友」と呼び掛けておられ、著者と編集者の麗しい交流に胸打たれる思いがします。

★最後に金剛出版さんの新刊より2点。まず『パフォーマンスがわかる12の理論』は『モティベーションをまなぶ12の理論――ゼロからわかる「やる気の心理学」入門!』(鹿毛雅治編、金剛出版、2012年4月)の続篇で、心理学用語としての「パフォーマンス」をめぐる12の理論を紹介するもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。次に『マインドフルネス実践講義』は『マインドフルネス入門講義』(大谷彰著、金剛出版、2014年10月)の続篇。「マインドフルネスを使いこなすための理論と方法をガイドする実践篇として刊行」(版元サイトより)。目次詳細はこちらも書名のリンク先をご覧ください。マインドフルネスとは「「今、ここ」での体験に気づき(アウェアネス)、それをありのままに受け入れる態度および方法」(16頁)であり、「仏教徒が2500年にわたり実践してきた瞑想がマインドフルネスという臨床手段へと変化し、しかも西洋、特にアメリカを経て仏教国である日本にセラピーとして逆輸入された」(15~16頁)と著者は説明しています。

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by urag | 2017-05-21 22:05 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 15日

ブックツリー「哲学読書室」に西兼志さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『アイドル/メディア論講義』(東京大学出版会、2017年4月)を上梓された西兼志さんの選書リスト「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

上尾真道さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
渡辺洋平さん選書「今、哲学を(再)開始するために


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by urag | 2017-05-15 22:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)