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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 868 )


2017年 02月 09日

注目新刊:ルフォール『民主主義の発明』勁草書房

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弊社出版物でお世話になっている訳者の皆さんの最近のご活躍をご紹介します。

★渡名喜庸哲さん(共訳:サラ-モランス『ソドム』)
クロード・ルフォール(Claude Lefort, 1924-2010)の『L'invention democratique』(Fayard, 1981/1994)の共訳書を上梓されました。帯文に曰く「民主主義はまだ発明されていない。全体主義を総括しながら、現代民主主義の理論を打ち立てる、原題フランスの政治哲学者ルフォールの主著」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。あとがきによれば「本書のきっかけとなったのは、〔・・・訳者のうち数名がパリのカフェで集った際に〕フランス政治哲学で何かまだ訳されていない古典的な著作を訳そうと盛り上がったことを機縁にしている」とのことです。ルフォールの訳書でもっとも古いものはサルトルとの論戦を一冊にまとめた『マルクス主義論争』(白井健三郎訳、ダヴィッド社、1955年)ですが、その後刊行された訳書の数は片手で足りる少なさだっただけに、今回のような発掘は非常に有益です。

渡名喜さんは巻末解説「クロード・ルフォールの新しさと古さ」で次のように述べておられます。「「民主主義」および「全体主義」についての今なお色あせない根源的な考察がルフォールにはあるはずだ。〔・・・〕ルフォールが問題にしているのは、「共産主義」対「自由主義」という構図そのものがもはや効力を有さない「ポスト共産主義」(iv頁)の社会だということは忘れないようにしよう」(390頁)。

民主主義の発明――全体主義の限界
クロード・ルフォール著 渡名喜庸哲/太田悠介/平田周/赤羽悠訳
勁草書房 2017年1月 本体5,200円 A5判上製432頁 ISBN978-4-326-30254-3

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★竹峰義和さん(共訳書:シュティーグラー『写真の映像』)
東京大学出版会のPR誌「UP」2017年2月号にご論考「投壜通信の宛先――フランクフルト学派の思想家たちの亡命期の手紙」(1~6頁)を寄稿されています。「われわれのような後世の読者が、みずからに宛てられたわけではないテクストを、あたかも海岸に漂着した「投壜通信」を開封するかのように紐解き、読み進めていくとき、そこにたまたま書きつけられていなければ永遠に失われていたはずの過去の生が刹那的に息を吹き返す。「過去の救済」とはフランクフルト学派の思想における鍵語であるが、そこで志向されているのは、かつて在りしものを、いまでは失われてしまったものを、追想というかたちでよみがえらせようとするような、祈りにも似た営みなのである」(6頁)。

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by urag | 2017-02-09 16:51 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 05日

注目新刊:ブルデュー『男性支配』、ほか

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男性支配』ピエール・ブルデュー著、坂本さやか/坂本浩也訳、藤原書店、2017年1月、本体2,800円、四六上製240頁、ISBN978-486578-108-3
キャリバンと魔女――資本主義に抗する女性の身体』シルヴィア・フェデリーチ著、小田原琳/後藤あゆみ訳、以文社、本体4,600円、四六判上製528頁、ISBN978-4-7531-0337-9
なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか――人間の心の芯に巣くう虫』シェルドン・ソロモン/ジェフ・グリーンバーグ/トム・ピジンスキー著、大田直子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2017年2月、本体2,200円、46判並製280頁、ISBN978-4-7726-9554-1
チャムパ王国とイスラーム――カンボジアにおける離散民のアイデンティティ』大川玲子著、平凡社、2017年2月、本体5,000円、A5判上製248頁、ISBN978-4-582-70354-2

複数の新刊をまとまりとして見ることで、人文書と現代とが響き合う「今」が見えてくることがあります。自分自身や自集団の価値観から他者を排除することを正当化するような強弁がまかり通る危険性に曝されつつある現代において、支配的思想を歴史的に再検証することは一種の「ワクチン」として非常に重要です。ラルフ・キーズが言うところの「ポスト・トゥルースの時代」(『The Post-truth Era: Dishonesty And Deception In Contemporary Life』St. Martins Press, 2004)が、米国の新政権の誕生によっていよいよ顕在化し始めています。もうひとつの世界の可能性を示唆してきたオルタナティヴという言葉がもはや左派の専売特許ではなくなったこんにち、コンウェイ大統領顧問が言う「オルタナティヴ・ファクツ」や、バノン首席戦略官が与してきた「オルト・ライト」が言論の最前線で影響力を発揮し、皮肉にもオーウェルのディストピア小説『1984』がベストセラーに躍り出ています。

日本においても政治やマスコミ、市民運動や一般企業に至るまで右傾化の懸念が年々深刻になっているのは周知の通りです。米国ほどではないにせよ、『1984』をはじめとするオーウェルの作品や、ハクスリーの『素晴らしい新世界』が日本でも再評価される機運が高まるかもしれません。すでにコーナーづくりやフェアの準備を始めている書店さんもあると聞きます。以下にご紹介する書籍のいくつかは、長い目で見た人間社会の弱点を明らかにするのに役立つと思われます。

ここ最近ではジェンダー論やフェミニズム方面で注目新刊が続いています。ブルデュー『男性支配』の原著は1998年刊。「男性的な社会弁護論は、支配関係を、生物学的な自然のなかに組み込むことによって正当化するのだが、その生物学的な自然自体が、自然化された社会的構築物なのである」(41頁)と教えます。「男らしさとは、きわめて関係的な観念であり、〔・・・〕何よりも自己自身のなかの女性的なものに対する一種の恐怖のなかで構築されている観念なのである」(80頁)とも。フェデリーチ『キャリバンと魔女』の原著は2004年刊。「封建制から資本主義への「移行」を女性、身体、そして本源的蓄積という観点から再検討する」(14頁)もの。「資本主義の書くには、契約による賃金労働と奴隷状態の間の共生関係だけでなく、それとともに、労働力の蓄積と破壊という弁証法的対立も存在する。そのために、身体、労働、生命によってもっとも大きな犠牲を強いられたのは、女性であった」(26頁)とフェデリーチは指摘します。フェミニズム、フーコー、マルクス主義の諸理論との交差は、書棚づくりや芋づる式読書ののヒントになるはずです。

ソロモンほか『なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか』の原書は2015年刊。原題は「果心の虫――人生における死の役割」。心理学者三氏による「恐怖管理理論」を明かしたもので、自尊心や偏見の昂進や他者嫌悪の裏に潜む恐怖の心的メカニズムを鋭く分析しています。死の恐怖こそが人間の行動に大きな影響を及ぼしている、と暴く本書のユニークさは非常に説得的です。大川玲子『チャムパ王国とイスラーム』は「カンボジアのチャム人の宗教文化であるイスラームについて論じたもの」で「このテーマを論じた日本語著作としては初めて」(18頁)だそうです。チャム人は、2世紀の歴史資料に名を留め、19世紀前半にヴェトナムによって滅ぼされたチャムパ(占城)王国の末裔。東南アジアのムスリム史の興味深い一面を学べます。

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このほか、新訳や新装版、展覧会図録の注目新刊をご紹介します。

テクストの楽しみ』ロラン・バルト著、鈴村和成訳、みすず書房、2017年1月、本体3,000円、四六判上製184頁、ISBN978-4-622-08566-9
[新装版]星と人間──精神科学と天体』ルドルフ・シュタイナー著、西川隆範編訳、風濤社、2017年1月、本体2,200円、四六判上製216頁、ISBN978-4-89219-427-6
アドルフ・ヴェルフリ――二萬五千頁の王国』アドルフ・ヴェルフリ画、服部正監修、国書刊行会、2017年1月、本体2,500円、AB判上製232頁、ISBN978-4-336-06141-6

バルト『テクストの楽しみ』は原著が1973年刊、初訳は沢崎浩平訳『テクストの快楽』で1977年にみすず書房から刊行され、99年に第15刷を数えるロングセラーでした。46の断章から成る比較的に親しみやすい本で、「理論から自伝への回帰を徴づけたバルト後期の代表作」(帯文より)。シュタイナー『星と人間』は2001年に刊行されたものの新装版で編訳者はしがきによれば「シュタイナーが星々の性質について解き明かした幾多の講義のなかから基本的な」9篇の講義を訳出したものです。全354巻という膨大なシュタイナー全集(スイス、ルドルフ・シュタイナー出版社)の規模を考えると今後もシュタイナーの訳書は増えていくに違いありません。『アドルフ・ヴェルフリ』は日本初となる大規模個展「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」の公式図録。図録だけあって豪華な造本の割には非常に安く、お買い得です。2017年1月11日~2月26日まで兵庫県立美術館、3月7日から4月16日まで名古屋市美術館、4月29日から6月18日まで東京ステーションギャラリーにて開催。曼荼羅と楽譜を融合させたような特異な作品群は見る者を別世界に引きずり込む魔力を湛えています。自伝的旅行記『揺りかごから墓場まで』だけでも全45冊2万5千頁に及ぶという膨大な作品群のうち、初期のドローイングから最晩年作まで74点をオールカラーで収録。圧倒的な秩序と圧倒的な自由が共存する驚異的な作品世界を垣間見ることができる、待望の一冊です。

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by urag | 2017-02-05 21:40 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 01月 29日

注目新刊:『現代思想の転換2017』『コミュニズムの争異』『政治の理論』、ほか

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現代思想の転換2017――知のエッジをめぐる五つの対話』篠原雅武編、人文書院、2017年1月、本体1,800円、4-6判並製208頁、ISBN978-4-409-04109-3
コミュニズムの争異――ネグリとバディウ』アルベルト・トスカーノ著、長原豊訳、航思社、2017年1月、本体3,200円、46判上製308頁、ISBN978-4-906738-21-2
フレイマー・フレイムド』トリン・T・ミンハ著、小林富久子+矢口裕子+村尾静二訳、水声社、2016年12月、水声社、本体4,000円、四六判上製407頁、ISBN978-4-8010-0206-7
十九世紀フランス哲学』フェリックス・ラヴェッソン著、杉山直樹+村松正隆訳、知泉書館、2017年1月、本体6,500円、菊判上製440頁、ISBN978-4-86285-247-2

★『現代思想の転換2017』は人文書院のウェブサイト上で連載された4本の対談「いま、人文学の本を書くとは」に新たな1本を加えて1冊としたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。編者の篠原さんは中村隆之さん(中村さんは「不透明なものを訳す」という追記も寄稿しておられます)、小泉義之さん、藤原辰史さん、千葉雅也さんと対談し、さらにティモシー・モートンさんにもインタヴューしています。モートンさんへのインタヴューは篠原さんが先月上梓した『複数性のエコロジー』(以文社、2016年12月)にも別のものが付録として掲載されており、すでに目にした方もいらっしゃるかと思います。『現代思想の転換2017』に収められた諸篇は篠原さんが「歴史学、哲学、文学という、人文学の基礎にかかわる人たちに、研もので、究をおこなううえでのモチベーションを、新年を、率直に聞きたいと考え」て行ったものだ、と巻頭の「はじめに」には書かれています。また、巻末の「インタヴューを終えて」ではこう書かれています。「私は、このインタヴューをする前、現在は、先行き不透明で暗い時代だと考えていた。「唯ぼんやりした不安」に強く苛まれていた。終えてみた今の気分を率直にいうと、不安はわずかに薄れてきて、新しいことが始まっている、もっと楽に構えていいと思えるようになってきた。〔・・・〕いま始まりつつあるのは、喪失と崩壊を本当に埋め合わせようとする機運ではないか。〔・・・〕私はこのインタヴューをつうじて、新しい思想、新しい人文学が、すでに始まっていることを感じ取ったということだけはいっておきたい」。

★『コミュニズムの争異』はまもなく発売。日本オリジナル編集の論文集で、帯文によれば、自らの師であるネグリとバディウの理論をめぐる批判的入門書とのことです。今回が初訳となるトスカーノ(Alberto Toscano, 1977-)はロンドン大学コールドスミス校で社会学を講じており、バディウやネグリ、アリエズらの著書の英訳のほか、『生産の劇場』『ファナティシズム』などの自著があり、マルクス主義の新たな再生を模索する「歴史的唯物論」誌の編集委員を務めています。『コミュニズムの争異』にはネグリ論が3編、バディウ論が4編おさめられています。目次明細は近く版元サイトで公開されるものと思われます。書き下ろしの序文「係争のもとにあるさまざまなコミュニズム」でトスカーノが綴った次の言葉が印象的です。「僕らの手近にはやや妥協的な別種のコミュニズム哲学があったことも確かだ。古典的なマルクス主義的展望の数知れない反復は言うまでもないが、アガンベン、ナンシー、デリダの哲学がそうである。けれども、当時、コミュニズムの釈明なき肯定を哲学の必要性の等しく「純真な」強調に、より精確には、(単に)歴史的に積み上がった思想の身体-遺体としての哲学ではなく一箇の能動的実践としての哲学の必要性の強調に、結びつけていた思想家は、ネグリとバディウだけだったのである」(8~9頁)。

★『フレイマー・フレイムド』は叢書「人類学の転回」の第6弾。『Framer Framed』(Routledge, 1992)の全訳です。ヴェトナム出身でアメリカで活躍する思想家・映像作家であるトリン・ミンハ(Trinh T. Minh-ha, 1952-)の4つ目の訳書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。映像作品三作(「ルアッサンブラージュ」1982年、「ありのままの場所――生きることは円い」1985年、「姓はヴェト、名はナム」1989年)の台本や、インタヴュー9本を収録しています。既訳書と異なり、映像作家としてのトリンに焦点を当てた本で、待望久しかった刊行です。原書とは判型こそ違いますが、多数掲載されていた図版は訳書でもすべて収められているようです。共訳者の小林富久子さんはこれまでもトリンの著書の翻訳に携わってこられており、『月が赤く満ちる時』の上梓から数えて20年以上貢献されています。本書の翻訳を思い立ったのは原著刊行より間もない頃と言いますから、四半世紀以上の献身と言うべきでしょう。

★『十九世紀フランス哲学』は発売済。『La Philosophie en France au XIXe siècle』(Hachette, 1867)の全訳です。ラヴェッソン(Félix Ravaisson, 1813-1900)の単独の訳書は実に『習慣論』野田又夫訳、岩波文庫、1938年;原著『De l'habitude』1838年)以来のもので、約80年ぶりの刊行に驚きを禁じえません。ラヴェッソンがベルクソンに影響を与えていることは良く知られているはずですが、19世紀ヨーロッパの思想家で日本人が思い浮かべるのはヘーゲル、マルクス、ディルタイ、ニーチェなどドイツの巨星たちであり、フランスの思想家たちについてはあまり多くを知らなかったと思われます。本書はその欠落を埋めてくれるものであり、人物小事典ともなっている巻末の人名索引を含め、特筆すべき労作と呼ぶべき成果です。内容紹介や目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

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★このほか以下の新刊との出会いがありました。特に稲葉振一郎さんの『政治の理論』は先述の『現代思想の転換2017』や『コミュニズムの争異』との対比において非常に示唆的です。稲葉さんの前作『宇宙倫理学入門』や篠原さんの『複数性のエコロジー』などの既刊書と合わせて、人文知を問い直し活気づける必読書となっています。

日本批評大全』渡部直己著、河出書房新社、2017年1月、本体7,000円、46判上製644頁、ISBN978-4-309-02534-6
青年の主張――まなざしのメディア史』佐藤卓己著、河出ブックス、2017年1月、本体1,800円、B6判並製440頁、ISBN:978-4-309-62500-3
政治の理論――リベラルな共和主義のために』稲葉振一郎著、中公叢書、2017年1月、本体1,700円、四六判並製320頁、ISBN978-4-12-004935-4
解離の舞台――症状構造と治療』柴山雅俊著、金剛出版、2017年1月、本体4,200円、A5判上製320頁、ISBN978-4-7724-1531-6
短歌で読む哲学史』山口拓夢著、田畑書店、2017年1月、本体1,300円、A5判並製136頁、ISBN978-4-8038-0340-2

★河出書房新社さんの新刊2点は発売済。渡部直己『日本批評大全』は、上田秋成『雨月物語』序や本居宣長『源氏物語玉の小櫛』から、蓮實重彦『夏目漱石論』、柄谷行人『日本近代文学の起源』まで、近現代日本の約百年間の批評70作を渡部さんによる解題を付して収録ないし抄録したアンソロジーです。全8頁の投込小冊子には、本書のサポートを担った大澤聡さんと渡辺さんの対談「近代批評の記念碑のために」が収められています。「「批評」はいま明らかに死にかけている。すでに心肺停止に陥っているといって過言ではない」(638頁)と渡辺さんは後記に本書編纂の動機を明かしておられます。

★2009年10月に創刊された河出ブックスが8年目にして100点目に到達したとのことです。佐藤卓己『青年の主張』はその記念すべき100番で、NHKが毎年の「成人の日」に放送してきた番組「NHK青年の主張全国コンクール」(ラジオ中継は1956年より;テレビ放送は1960~1989年;1990~2004年は「NHK青春メッセージ」と改題)をめぐる初めての総括的研究です。章立ては以下の通り。序章「《青年の主張》の集合的記憶」、第一章「ラジオから響く「小さな幸せ」――1950年代」、第二章「ブラウン管に映る弁論大会――1960年代」、第三章「「らしさ」の揺らぎと再構築――1970年代」、第四章「笑いの時代の「正しさ」――1980年代」、第五章「《青年の主張》のレガシー――1990年以降」。

★稲葉振一郎『政治の理論』は昨年末に刊行された『宇宙倫理学入門』に続く稲葉さんの新著。「すべてが「資本」として流動化していく世界の中で、確固とした(アレント的な意味での)公共世界と私有財産を、資本主義といかに折り合いをつけつつ構築し維持していくか」(298頁)を基本課題とする「リベラルな共和主義」を論じたもの。もともとは入門書として新書で刊行するはずが膨らんだものだそうで、以下の十章から成ります。第一章「政治権力はどのように経験されるか」、第二章「アレントの両義性」、第三章「フーコーにとっての政治・権力・統治」、第四章「自由とは何を意味するのか」、第五章「市場と参加者のアイデンティティ」、第六章「信用取引に潜在する破壊性」、第七章「「市民」の普遍化」、第八章「リベラルな共和主義と宗教」、第九章「リベラルな共和主義の可能性」、第十章「政治の場」。巻末のあとがきには〈ドゥルーズ=ガタリ左派〉への批判が素描されており、興味深いです。

★柴山雅俊『解離の舞台』は帯文に曰く「解離性障害を理解・支援するための比類なき決定書」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「解離性障害では、解離性の意識変容(空間的変容)が基盤にあって、そこからさまざまな解離症状が発展していく。誤解を恐れずに表現すれば、解離とは現実と夢(空想)の接近の諸相である」(22頁)。「夢と現実が織りなす意識変容の夢幻空間が「解離の舞台」である。それは解離の病理であるとともに、解離から回復するための重要な契機となるように思われる」(23頁)。付録として「解離の主観的体験チェックリスト」が巻末に掲載されています。本来の用途ではありませんが、自己診断の手掛かりになるかもしれません。

★山口拓夢『短歌で読む哲学史』は、昨秋に休眠状態から脱し新たな出発を開始した田畑書店さんが放つ「田畑ブックレット」の創刊第一弾です。著者の山口拓夢(やまぐち・たくむ:1966-)さんはかの山口昌男さんのご子息で、本書が初の単独著となります。ギリシア哲学に始まり、イエス・キリストと教父哲学、中世神学、ルネッサンスの哲学、近世哲学、近現代哲学、構造主義以降までの西洋哲学史を概括する入門書となっており、特徴をなすのは哲学者の思想的核心を短歌で表現している点です。たとえばハイデガーはこう詠まれています。「ものごとを立ち現せる「在る」というはたらきに目をじっと凝らそう」。なるほど覚えやすいかもしれませんね。目次や内容詳細については書名のリンク先をご覧ください。

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by urag | 2017-01-29 23:20 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 01月 24日

アガンベン『哲学とはなにか』ほか、書評情報

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★ジョルジョ・アガンベンさん(著書:『アウシュヴィッツの残りのもの』『バートルビー』『涜神』『思考の潜勢力』『到来する共同体』)
★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
昨年イタリアで刊行されたばかりのアガンベンさんの最新刊『哲学とは何か』の訳書が早くも上村忠男さんによって実現されました。書誌情報を以下に掲出しますが、目次を含めた詳細は書名のリンク先をご覧ください。なお、上村さんは来月、グラムシ『革命論集』を講談社学術文庫より上梓されます。2月10日発売予定、本体1,680円です。弊社の12月新刊、カッチャーリ『抑止する力』を合わせると、3か月連続でイタリア思想の訳書を世に送り出したことになります。

哲学とはなにか
ジョルジョ・アガンベン著 上村忠男訳
みすず書房 2017年1月 本体4,000円 四六判上製224頁 ISBN978-4-622-08600-0

帯文より:音声を奪われて文字と化した知の弱さ、無調律の政治風景。哲学は今日、音楽の改革としてのみ生じうる。言葉の始原=詩歌女神〔ムーサ〕たちの場所へと、思考を開く。

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なお『抑止する力』と『哲学とはなにか』をめぐっては、文化人類学者の真島一郎さん(東京外国語大学大学院国際協力講座教授)がブログ「真島一郎研究室」1月21日付エントリー「カッチャーリ 『抑止する力』 / アガンベン 『哲学とはなにか』 」で論及してくださっています。

「現実の歴史のうちでカテコーンの抑止的な力が危機を迎えるとき、 当のカテコーンによって維持されていたプロメーテウス的秩序が、エピメーテウス(プロメーテウスの弟)の時の到来により復讐されることになるというのが、著者カッチャーリの予測です。とりわけ、世界の現在と未来を展望する本書末尾の一文は、読み手を戦慄させることになるかもしれません。「プロメーテウスは引退してしまった。あるいはふたたび岸壁に縛りつけられてしまった。そしてエピメーテウスがわたしたちの地球を徘徊してはパンドラの壺の蓋をつぎつぎに開けて回っている」(159頁)。エピメーテウスが扉をひらいてしまう永続的な危機の時とは、かつて『政治神学』のシュミットが、「例外状況」についてふれたのち鮮やかに描いてみせた、ドイツロマン派の「永遠の対話」と、そしてあの「純粋決定/決意」の対立と、どこまで交叉した問題系を形成しうるのか、大いに興味を惹かれるところです」。

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いっぽう最近、弊社11月既刊書、森山大道×鈴木一誌『絶対平面都市』に書評が2本寄せられています。ひとつは「キネマ旬報」2017年2月上旬号「映画・書評」欄に掲載された上野昂志さんによる書評「急かされ、考えさせられる」です。

「『遠野物語』に書かれた森山の言葉を引いた鈴木が、「現実世界のあちら側に、写され、コピーされ、印刷されたものたちの別世界がかたちづくられている」というのは「単なる比喩ではないんですね」と問い、森山が「比喩ではすまない感じ」といい「おびただしい印刷物の世界。コピーされたものの反乱〔ママ〕のなかに人々はいますから」と応えるというような刺激的な応酬が随所にある」(本書294~295頁参照)。

もうひとつは「朝日新聞」2017年1月22日付読書欄の、大竹昭子さんによる書評です。

「森山の発言はつねにブーメランのように同じ場所に戻ってくる。「なにも写さなかったんじゃないか」という自問と「こうしちゃいられない」という焦り。〔・・・〕無意識と自意識のはざまを行き来する言葉の彼方から、写真の不思議さが立ち上がってくる。世界を理解するのではない。世界が謎の集積であることを可視化するのが写真なのだと」。

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by urag | 2017-01-24 17:32 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 01月 22日

注目新刊:栗原康さんの一遍上人伝、ほか

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死してなお踊れ――一遍上人伝
栗原康著
河出書房新社 2017年1月 本体1,600円 46版上製256頁 ISBN978-4-309-24791-5

帯文より:家も土地も財産も、奥さんも子どもも、ぜんぶ捨てた一遍はなぜ踊り狂ったのか――いま最高度に注目される思想家による絶後の評伝。
推薦文(瀬戸内寂聴氏):踊り狂うほど、民衆を熱狂させた、一遍上人の希有な魅力を、瑞々しい栗原さんの新鮮な文体で描いた、最高に魅力的な力作!
推薦文(朝井リョウ氏):栗原康の言葉を通せば、教科書の中のあの人もこの人もまるで旧知の悪友のよう。一遍と踊りたい、朝まで、床が抜けるまで!

目次:
はじめに
第一章 捨てろ、捨てろ、捨てろ
第二章 いけ、いけ、往け、往け
第三章 壊してさわいで、燃やしてあばれろ
第四章 国土じゃねえよ、浄土だよ
第五章 チクショウ

参考文献
おわりに

★まもなく発売。売り出し中の若手の中でもっとも破天荒で転覆的で痛快な評伝を世に送り出せるアナーキスト、栗原康さんによる最新作。大杉栄伝(夜光社、2013年)、伊藤野枝伝(岩波書店、2016年)に続く第三弾で、踊り念仏で知られる時宗の開祖、一遍を扱います。瀬戸内さん、朝井さんを魅了したその文体は読む者の魂を鼓舞する生気に満ちたもので、このテンションを維持するのはなかなかのエネルギーを必要とするのではないかと思います。栗原さんのエネルギーの源泉のひとつかもしれないものが本書の冒頭にずばり書き記されていますが、こんな書き出しが近年の人文書にあっただろうかという赤裸々な告白になっています。引用するのも無粋なので、ぜひ現物を手に取ってみていただければ幸いです。

★「富も権力もクソくらえ。アミダにまかせろ、絶対他力。浄土にいくということは、権力とたたかうということとおなじことだ」(33頁)。「トンズラだ、トンズラしかない。いちど人間社会をとびだして、アミダの光をあびにゆこう。一遍は、それをやるのが念仏なんだといっている」(57頁)。「だいじなことなので、くりかえしておこう。念仏に作法なんてありゃしない。うれしければうれしいし、たのしければたのしい。念仏は爆発だ。はしゃいじまいな」(110頁)。一遍につられて踊り念仏の輪が広がる様を描いた第三章の「踊り念仏の精神――壊してさわいで、燃やしてあばれろ」の節は、あたかも野外のレイヴでのトランス状態にも似た沸騰の中で、一遍の時代と現代とが見事にひとつになる瞬間を捉えています。「まるで獣だ、野蛮人だ。ここまでくると身分の上下も、キレイもキタナイも、男も女も関係ない。およそ、これが人間だとおもいこんできた身体の感覚が、かんぜんになるなるまで、自分を燃やして、燃やして、燃やしつくす。いま死ぬぞ、いま死ぬぞ、いま死ぬぞ。体が念仏にかわっていく」(114頁)。

★「生きて、生きて、生きて。生きて、生きて、往きまくれ。おまえのいのちは、生きるためにながれている。なんでもできる、なんにでもなれる、なにをやっても死ぬ気がしない。あばよ、人間、なんまいだ。気分はエクスタシー!!」(114~115頁)。「さけべ、うたえ、おどれ、あそべ。おのれの神〔たましい〕をふるわせと。だまされねえぞ、鎌倉幕府。したがわねえぞ、戦争動員。念仏をうたい、浄土をたのしめ。しあわせの歌をうたうということは、あらゆる支配にツバをはきかけつということだ」(158頁)。「一遍にとって、念仏をとなえて死ぬというのは、いまある自分を殺してしまう、からっぽにしてしまうということであった。なんどでも、なんどでも、ゼロから自分の人生をやりなおす、やりなおしていい、やりなおせる。そういう境地を成仏するといっていた」(161頁)。今まで様々な仏僧伝があったとはいえ、栗原さんのそれは最初から最後までそれ自体が「歌」のようで、今までにない、天にも昇るようなヴァイブレーションを発散しています。

★本書『死してなお踊れ』と同日発売となる河出書房新社さんの新刊に、荒川佳洋『「ジュニア」と「官能」の巨匠 富島健夫伝』があります。こちらも評伝です。ジュニア小説と官能小説をともに数多く残した流行作家、富島健夫(とみしま たけお:1931-1998)の生涯を描いたもの。富島の代表作は『おさな妻』(1970年)で、幾度となく映画化やTVドラマ化されています。

★このほか、最近の新刊では『子午線――原理・形態・批評 Vol.5』(書肆子午線、2017年1月、本体2,000円、B5変型判並製264頁、ISBN978-4-908568-10-7)に注目しました。八幡書店社主の武田崇元さんの長編インタヴュー「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」が掲載されています。子午線ではこれまで既刊号で、松本潤一郎さん(第1号)、大杉重男さん、安里ミゲルさん(ともに第2号)、金井美恵子さん、花咲政之輔さん(ともに第3号)、稲川方人さん(第4号)といった方々のインタヴューを掲載されてきましたが、今回の相手はオカルト界の重鎮。レフトとオカルトのあわいの変遷をたどることのできる貴重な内容で、必読です。
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by urag | 2017-01-22 23:59 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 01月 15日

注目新刊:ニーチェ『愉しい学問』新訳、ほか

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★毎月の出費はそれなりのものになりますが、素晴らしき文庫の数々が毎月刊行されていることには本当に驚嘆するばかりです。出版社さんと編集者の皆さんに感謝の念を捧げます。

引き裂かれた自己――狂気の現象学』R・D・レイン著、天野衛訳、ちくま学芸文庫、2017年1月、本体1,300円、文庫判368頁、ISBN978-4-480-09769-9
未開社会における性と抑圧』B・マリノフスキー著、阿部年晴/真崎義博訳、ちくま学芸文庫、2017年1月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-09775-0
共産主義黒書〈アジア篇〉』ステファヌ・クルトワ/ジャン=ルイ・マルゴラン著、高橋武智訳、ちくま学芸文庫、2017年1月、本体1,700円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-09774-3
柄谷行人講演集成1995-2015 思想的地震』柄谷行人著、ちくま学芸文庫、2017年1月、本体1,000円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-09773-6
愉しい学問』フリードリヒ・ニーチェ著、森一郎訳、講談社学術文庫、2017年1月、本体1,450円、文庫判512頁、ISBN978-4-06-292406-1
禅語の茶掛を読む辞典』沖本克己/角田恵理子著、講談社学術文庫、2017年1月、本体920円、文庫判256頁、ISBN978-4-06-292411-5
三木清教養論集』三木清著、大澤聡編、講談社文芸文庫、2017年1月、本体1,500円、文庫判272頁、ISBN978-4-06-290336-3
すばらしい新世界〔新訳版〕』オルダス・ハクスリー著、大森望訳、ハヤカワepi文庫、2017年1月、本体800円、文庫判375頁、ISBN978-4-15-120086-1
動物農場〔新訳版〕』ジョージ・オーウェル著、山形浩生訳、ハヤカワepi文庫、2017年1月、本体700円、文庫判206頁、ISBN978-4-15-120087-8
古代研究I 民俗学篇1』折口信夫著、角川ソフィア文庫、2016年12月、本体920円、文庫判351頁、ISBN978-4-04-400196-4
平治物語 現代語訳付き』日下力訳注、角川ソフィア文庫、2016年12月、本体1,480円、文庫判477頁、ISBN978-4-04-400034-9
よくわかる真言宗 重要経典付き』瓜生中著、角川ソフィア文庫、2016年12月、本体960円、文庫判342頁、ISBN 978-4-04-400135-3
生きるよすがとしての神話』ジョーゼフ・キャンベル著、飛田茂雄/古川奈々子/武舎るみ訳、角川ソフィア文庫、2016年11月、本体1,240円、文庫判454頁、ISBN978-4-04-400187-2
乳房の神話学』ロミ著、高遠弘美訳/解説、角川ソフィア文庫、2016年9月、本体1,200円、文庫判476頁、ISBN978-4-04-400162-9
幸福な王子/柘榴の家』ワイルド著、小尾芙佐訳、光文社古典新訳文庫、2017年1月、本体880円、文庫判304頁、ISBN978-4-334-75347-4
ポケットマスターピース13 セルバンテス』野谷文昭編、三倉康博編集協力、吉田彩子訳、集英社文庫、本体1,300円、文庫判712頁、ISBN978-4-08-761046-8

★まずはちくま学芸文庫の今月新刊から。レイン『引き裂かれた自己』の親本は1971年にせりか書房より刊行(著者名の当時のカタカタ表記は「レイング」)。文庫化にあたり正副題を逆転させ(原題は『The Divided Self: An Existential Study in Sanity and Madness』で1960年刊)、全面的な訳文改訂の上、新たに1965年の「ペリカン版への序文」を訳出。レインの著書が文庫化されるのは初めてのことです。

★マリノフスキー『未開社会における性と抑圧』の親本は1972年に社会思想社より刊行。原著は『Sex and Repression in Savage Society』(1927年)で底本には53年の第4版が使用されています。文庫版へのあとがきや、編集部による特記はなし。クルトワ/マルゴラン『共産主義黒書〈アジア篇〉』は昨春(2016年3月)に刊行された「ソ連篇」に続くもの。親本は2006年に恵雅堂出版より刊行。文庫化にあたり「誤りを適宜訂正し、新たに人名索引を付した」とのことです。『柄谷行人講演集成1995-2015』は文庫版オリジナルアンソロジー。収録作については書名のリンク先をご覧ください。

★次に講談社学術文庫。ニーチェ『愉しい学問』は文庫版オリジナルの新訳。底本は1887年に刊行された原著第二版。講談社学術文庫にはニーチェ論は複数あるものの、訳書は初めてで(講談社文庫では1971年に吉沢伝三郎訳『このようにツァラトゥストラは語った』上下巻が刊行されていました)、意外な印象があります。訳者の森さんは東北大学教授。一昨年夏(2015年6月)にはみすず書房よりアーレント『活動的生』の訳書を上梓されています。いっぽう『禅語の茶掛を読む辞典』は2002年の同社の単行本を文庫化。掛軸の写真を多数収録し、解説は1頁ないし見開きで読み切れるので、通勤に最適かもしれません。慌ただしい日常のさなかに思索と鑑賞のひとときを。

★続いて講談社文芸文庫。『三木清教養論集』は生誕120年記念の文庫オリジナルアンソロジー。カバー紹介文に曰く「読書論・教養論・知性論の三部構成で、その思想の真髄に迫る」と。それぞれの部には9篇ずつ収められ、合計で27篇を読むことができます。底本は岩波書店版全集で、「新漢字新かなづかいに改め〔・・・〕底本中明らかな誤りは正し」たと特記されています。編者の大澤聡さんが巻末に長文解説「しゃべる教養をめぐって」を寄せておられます。

★続いてハヤカワepi文庫。ハクスリー『すばらしい新世界』とオーウェル『動物農場』はともに新訳。前者は3年前に黒原敏行さんによる新訳が光文社古典新訳文庫より刊行されたばかり。ハヤカワepi文庫でのオーウェルの新訳は、2009年の高橋和久訳『一九八四年』に続くもの。1947年のウクライナ版序文が重訳(英語原文は失われており、ウクライナ語訳の英訳からの日本語訳)されているのが貴重です。『動物農場』の最近の訳書では、新訳ではありませんが、開高健訳/解説がちくま書房より3年前に刊行されています。ハクスリーにせよオーウェルにせよ、その問題意識の鋭さゆえに今後とも長く読まれ続けるに違いありません。

★続いて「創刊20周年」だという角川ソフィア文庫。折口信夫『古代研究』は生誕130周年記念による旧版全6巻(1974~1977年)のリニューアルです。新版も全6巻予定で解説を担当しているのは安藤礼二さん。旧版に掲載されていた池田弥三郎さんの解説も併載されています。今月下旬に第Ⅱ巻「民俗学篇2」が発売予定です。日下力訳注『平治物語』はカバー表4紹介文に曰く「最新の研究成果をふまえ、本文、脚注、現代語訳、校訂注に解説までを収載した文庫で初めての完全版」。瓜生中『よくわかる真言宗 重要経典付き』は、同著者の書き下ろしとなる「よくわかる」シリーズの、お経読本(2014年)、浄土真宗(2015年)、曹洞宗(2016年7月)に続く4点目。重要経典の読み仮名付き原文と現代語訳が、簡潔な解題や語句解説とともに収められているのが勉強になります。

★同文庫については昨年末までに取り上げていなかった2点の既刊書にも注目。キャンベル『生きるよすがとしての神話』は1996年に同版元から刊行された単行本の文庫化。キャンベルの文庫本は『神話の力』(飛田茂雄訳、ハヤカワ文庫NF、2010年)や『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕』(上下巻、倉田真木/斎藤静代/関根光宏訳、ハヤカワ文庫NF、2015年)に続く3点目。いっぽう、ロミ『乳房の神話学』の親本は1997年に青土社から刊行された単行本の改訂版。ロミの単行本は数多くありますが、文庫化は本書が初めて。新たに書き直されたご様子の訳者あとがきによれば図版については版権の問題があり、すべてを収録するわけにはいかなかったとのことです。原著『Mythologie du sein』(1965年)や青土社版と比べてみるのも一興かと。

★最後に光文社古典新訳文庫と集英社文庫「ポケットマスターピース」。前者のワイルドは、同文庫では『ドリアン・グレイの肖像』(仁木めぐみ訳、2006年)、『サロメ』(平野啓一郎訳、2012年)、『カンタヴィルの幽霊/スフィンクス』(南條竹則訳、2015年)に続くもの。帯文に曰く「大人のために訳しました。ビターな味わいの童話集、全9篇収録」と。後者の『セルバンテス』は、「ポケットマスターピース」第13弾で、これでシリーズ完結。昨年はセルバンテスの没後400年でした。今どきの文庫はこの大冊ではこうした値段にはなりようがないはずなのですが、そこは天下の集英社で、コスパ抜群の新訳文学古典シリーズでした。第二期があってもおかしくないと思います。

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トランプは世界をどう変えるか?――「デモクラシー」の逆襲』エマニュエル・トッド/佐藤優著、朝日新書、2016年12月、本体720円、新書判176頁、ISBN978-4-02-273699-4
乾浄筆譚2――朝鮮燕行使の北京筆談録』洪大容著、夫馬進訳注、東洋文庫、2017年1月、本体2,800円、6変判上製函入292頁、ISBN978-4-582-80879-7
徂徠集 序類2』荻生徂徠著、澤井啓一/岡本光生/相原耕作/高山大毅訳注、東洋文庫、2017年1月、本体3,000円、B6変判上製函入352頁、ISBN978-4-582-80880-3

★トッド/佐藤優『トランプは世界をどう変えるか?』は帯に「緊急出版」の文字が躍っています。朝日新聞編集委員の大野博人さんによるトッドさんへのインタヴュー「民主主義がトランプを選んだ」(2016年11月10日)と、佐藤さんによる書き下ろし「「トランプ現象」の世界的影響、そして日本は」が併載されています。トランプ次期大統領による「共和党候補指名受諾演説」(2016年7月21日)も収められています。トッドさんはインタヴューの末尾でこう指摘しています。「ある意味で、米国ではどんな大統領であれ、人格的な面はやや二次的なことなのです。やりたいことが何でもできるわけではない」(36頁)。佐藤さんもやはり末尾付近でこう指摘しています。「あるいは、政策がうまくいかなければ、敵を作り出そうとするかもしれません。/今回の大統領選で可視化された、パワーエリートやエスタブリッシュメントから顧みられることのない人々の「不安」を背景に、アメリカ自身が、国内にアメリカの敵を探し始める可能性が充分にあるのです」(162頁)。

★まもなく発売となる東洋文庫の今月最新刊は2点、第879番『乾浄筆譚2』と、第880番『徂徠集 序類2』です。ともに全2巻完結。2月刊行は『陳独秀文集3』と予告されています。また来月、平凡社ライブラリーでは『ヘーゲル・セレクション』(廣松渉著、加藤尚武編訳/解説)が予定されています。佐藤優さん推薦とのこと。
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by urag | 2017-01-15 23:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 01月 09日

第一期全12巻完結、晶文社版『吉本隆明全集』、ほか

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吉本隆明全集3[1951-1954]』吉本隆明著、晶文社、2017年1月、本体7,000円、A5判変型上製848頁、ISBN978-4-7949-7103-6
エジプト人モーセ――ある記憶痕跡の解読』ヤン・アスマン著、安川晴基訳、藤原書店、2016年12月、本体6,400円、A5判上製432頁、ISBN978-4-86578-104-5
東京を愛したスパイたち 1907-1985』アレクサンドル・クラーノフ著、村野克明訳、藤原書店、2016年12月、本体3,600円、四六判上製432頁、ISBN978-4-86578-103-8
シン・ゴジラ論』藤田直哉著、作品社、2016年12月、本体1,800円、46判並製256頁、ISBN978-4-86182-612-2
現代思想 2017年2月臨時増刊号 総特集=神道を考える』青土社、2016年12月、本体2,000円、A5判並製310頁、ISBN978-4-7917-1336-3
文藝 2017年春季号』河出書房新社、2017年1月、本体1,300円、A5判並製512頁、ISBN978-4-309-97909-0
こびとが打ち上げた小さなボール』チョ・セヒ著、斎藤真理子訳、河出書房新社、2016年12月、本体1,900円、46変形判上製360頁、ISBN978-4-309-20723-0

★第一期完結となる第12回配本『吉本隆明全集3[1951-1954]』はまもなく発売、明日10日取次搬入です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。付属する「月報12」は、吉増剛造「沈黙の言語」、芦田宏直「「転回」について」、ハルノ宵子「eyes」を掲載。帯文に曰く「『日時計篇』の後半部と『転位のための十篇』の初期異稿を含む21篇を新たに収録。大学の特別研究生を修了し、東洋インキ製造株式会社に就職・勤務の日々に書き継がれ、2冊の私家版詩集発行に結実する膨大な詩稿群を中心に収録」と。800頁近い詩群に圧倒されるばかりです。「わたしに信なきものの強さを与へよ」(153頁)という法外な一行は、彼の人生を貫く強烈な光芒であるかのように感じます。次回配本は第37巻、今春(4~5月)の刊行予定とのことです。

★藤原書店さんの新刊2点、ヤン・アスマン『エジプト人モーセ――ある記憶痕跡の解読』と、クラーノフ『東京を愛したスパイたち 1907-1985』は発売済。前者の原書は『Moses der Ägypter: Entzifferung einer Gedächtnisspur』(Hanser, 1998)です。前年(97年)に英語版がまず刊行され、著者自身がドイツ語に訳し大幅に加筆したのが当訳書の底本である98年版です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文に曰く「西洋の人文学に“記憶論的転回”をもたらした、大論争の書!〔・・・〕聖書の伝承に対し、モーセを“エジプト人”とする――邪とされたエジプトに、ある真理の故郷を求める――試みが、西洋の精神史にはあった。古代エジプトの王アクエンアテンから、スペンサー、カドワース、ウォーバートン、ラインホルト、シラー、そしてフロイトへ、“エジプト人モーセ”の想起の系譜を掘り起こす」。巻末の訳者解説ではアスマンのその後の著書『モーセの区別』(2003年)、『一神教と暴力の言葉』(2006年)も紹介されており、訳書の続刊を期待せずにはいられません。

★『東京を愛したスパイたち 1907-1985』は「今日のロシアで最も脂の乗り切った日本学舎の一人である」(訳者あとがきより)というクラーノフ(1970-)が2014年に刊行した『スパイの東京』のロシア語版に基づいて大幅に加筆訂正を施し、東京以外の年が舞台の第五章を省略して、全四章にまとめた日本オリジナル版、とのことです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。カバー表4の紹介文によれば、「格闘技サンボの創始者ワシーリー・オシェプコフ、ゾルゲ事件で日本でも名高いリヒャルト・ゾルゲ、ソ連の探偵小説の先駆者として注目が高まっているロマン・キム(キン・キリュー)、さらに主として戦後に活動した四人の諜報員たち。小伝によって彼らの人物像をコンパクトに紹介すると共に、彼らや関係者の書きのこしたもの、さらに公文書の記録から、〔・・・〕現代の東京にその足跡を再現し、著者自身が訪ね歩く」。

★なお藤原書店さんの今月新刊にはピエール・ブルデュー『男性支配』(坂本さやか・坂本浩也訳)が予告されています。「ブルデュー唯一の「ジェンダー」論」とのことです。

★藤田直哉『シン・ゴジラ論』は発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者は巻頭で、『シン・ゴジラ』だけでなく『君の名は。』にも言及し、次のように自問しておられます。「何故2016年に、震災を想起させるエンターテイメントがこれほどヒットしたのか? 震災の経験を心理的に「昇華」させたい人々がこれほど大勢いたからこそ、これほどの「国民的」ヒットとなたのではないか?」(5頁)。先日も書きましたが、この本と、先に発売された笠井潔『テロルとゴジラ』の刊行記念イベントとして、お二人のトークショー「ゴジラの戦後、シン・ゴジラの震災後」が、今月17日(火)19時から八重洲ブックセンター本店8Fギャラリーにて行われます。新刊2点の内いずれかをお買い上げのお客様に参加整理券が配布されます。なお、作品社さんでは今月より山中峯太郎訳著『名探偵ホームズ全集』全三巻が刊行開始となるとのことです。

★『現代思想 2017年2月臨時増刊号 総特集=神道を考える』は発売済。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。赤坂憲雄「イザベラ・バードの見た神道」、山本ひろ子「中世の諏訪――「南宮」と諏訪流神道をめぐって」、彌永信美「八百万の神達=「梵天帝釈、無量の天子……」?」、檜垣立哉「吉本隆明・記紀書・南島論」、福嶋亮大「家・中国化・メディア――折口信夫『死者の書』の構造」などを収録。「現代思想」は2月号(1月27日発売予定)が特集「ビットコインとブロックチェーンの思想」、2月発売の3月臨時増刊号が「人類学の時代」「知のトップランナー46人の美しいセオリー」の2本となるそうです。

★『文藝 2017年春季号』はまもなく発売。佐々木中さんの小説「私を海に投げてから」(165-202頁)や、1月24日発売予定の渡部直己『日本批評大全』(河出書房新社、46判640頁、ISBN978-4-309-02534-6)をめぐる対談、渡部直己×斎藤美奈子「批評よ、甦れ――『日本批評大全』刊行によせて」(476-489頁;『日本批評大全』の詳細目次が484-485頁に掲出)のほか、昨年7月30日に73歳で死去された柳瀬尚紀さんへの追悼特集が組まれています。亡くなる前日まで取り組んでおられたという、ジョイズ『ユリシーズ』第15章「キルケー」冒頭部を訳した遺稿をはじめ、朝吹真理子、いしいしんじ、稲川方人、円城塔、岡田利規、柴田元幸、高山宏、四方田犬彦の各氏がエッセイを寄稿されています。

★四方田さんは昨年末に発売された同社の新刊、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』にも解説「病身〔ピョンシン〕の眼差し」を寄せておられます。同書は1978年に韓国で刊行されて以来、「約300刷、130万部」(プレスリリースより)のロングセラーで、映画化されたり教科書に掲載されてきたという作品です。四方田さんは本書を次のように紹介しています。「1970年代の韓国社会に横たわっていた数多くの問題が取り上げられている。貧困と身障者差別。土地の再開発と強制執行。劣悪な労働条件と自然破壊。キリスト教信仰と労働争議。〔・・・〕作家としての趙世煕の面目とは、〔・・・〕悲惨な現実を〈病身〉、つまり身体障碍者という視座を通して描いてみせたところにある」(345頁)。
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by urag | 2017-01-09 22:02 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 12月 25日

注目文庫本と新刊単行本、さらに関連イベント情報

★ここ3ヶ月(10月~12月)の間に刊行された文庫新刊のうち、今まで取り上げていなかった書目を版元別に列記したいと思います。

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★まずはハヤカワ文庫。リチャード・ドーキンス『進化とは何か――ドーキンス博士の特別講義』(吉成真由美編訳、12月)は2014年12月に刊行された同名単行本の文庫かで、巻末には吉川浩満さんによる解説「危険で魅惑的な知的探求の旅」が加わっています。ドーキンスは単行本は多いものの、文庫本は『遺伝子の川』(垂水雄二訳、草思社文庫、2014年)に続いてやっと2冊目。なお来年2月にはドーキンスの自伝第2巻にして完結編『ささやかな知のロウソク(仮)』(垂水雄二訳)が単行本として早川書房より刊行予定とのことです。

★次に中公文庫。三島由紀夫『古典文学読本』(11月)は、『文章読本』『小説読本』に続く、同文庫の三島文学読本三部作の完結編。巻末の編集付記によれば本書は三島の「古典文学に関するエッセイを独自に編集し、雑誌「文藝文化」掲載の全評論、短篇小説「中世に於ける一殺人常習者の残せる哲学的日記の抜粋」を合わせて収録したもの」と。刊舞うtには富岡幸一郎さんによる解説「詩学の神風」が収められています。

★続いて岩波文庫。カルロ・レーヴィ『キリストはエボリで止まった』(竹山博英訳、10月)は同作の既訳『キリストはエボリに止りぬ』(清水三郎治訳、岩波書店、1953年)以来の新訳。上村忠男さんによる詳細な読解本『カルロ・レーヴィ『キリストはエボリで止まってしまった』を読む――ファシズム期イタリア南部農村の生活』(平凡社ライブラリー、2010年)も刊行されています。マルトゥレイ/ダ・ガルパ『ティラン・ロ・ブラン』(全4冊、田澤耕訳、既刊1~3、10~12月)はセルバンテスが愛読したという騎士道小説の古典で、第1巻にはバルガス=リョサによる日本語版への序文「「ティラン・ロ・ブラン」――境界のない小説」が置かれています。2007年の単行本の文庫化です。ルドルフ・シュタイナー『ニーチェ 自らの時代と闘う者』(高橋巌訳、12月)は、樋口純明訳『ルドルフ・シュタイナー著作全集(5)ニーチェ――同時代との闘争者』(人智学出版社、1981年)、西川隆範訳『ニーチェ――同時代への闘争者』(アルテ、2008年)に続く新訳。シュタイナーは文庫ではもっぱらちくま学芸文庫で読めるだけでしたが、岩波文庫の仲間入りをついに果たしたことに感慨を覚えます。

★講談社学芸文庫。ダーウィン『人間の由来(下)』(長谷川眞理子訳、10月)と『杜甫全詩訳注(四)』(下定雅弘・松原朗編、10月)はそれぞれ完結編。後者は全詩題索引や杜甫年譜を含め1100頁を超える大冊とはいえ、本体2,900円というお値段で、税込ではついに3,000円を越えました。ジャック・ラカン『テレヴィジオン』(藤田博史・片山文保訳、12月)は同名単行本(青土社、1992年)の文庫化。のっけからルビがとても多いあの訳書がどうなるのかと注目していましたが、基本そのままでした。某動画サイトでは本書の元となった実際の番組映像を見ることができますので、ルビが残っているのはこれはこれで良いのかもしれません。ヴェルナー・ゾンバルト『ブルジョワ――近代経済人の精神史』(金森誠也訳、12月)は同名単行本(中央公論社、1990年)の文庫化。本書より前のゾンバルトの文庫本はすべて金森さん訳で、講談社学術文庫より発売されています。『恋愛と贅沢と資本主義』2000年、『戦争と資本主義』2010年、『ユダヤ人と経済生活』2015年。

★ちくま学芸文庫。エトムント・フッサール『内的時間意識の現象学』(谷徹訳、12月)は、立松弘孝訳(みすず書房、1967年)以来の新訳。ちくま学芸文庫がフッサールの新訳に取り組んでおられるのは実に頭が下がることで、今後も継続して下さることを願うばかりです。アマルティア・セン『経済学と倫理学』(徳永澄憲・青山治城・松本保美訳、12月)は、『経済学の再生――道徳哲学への回帰』(麗澤大学出版会、2002年)の文庫化。センの著書は新書はあったものの文庫本は今回が初めて。今後増えることを期待したいです。エドモンズ/エーディナウ『ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い10分間の大激論の謎』(二木麻里訳、12月)は同名単行本(筑摩書房、2003年)の文庫化。ざっくり言って、議論にイライラしたウィトゲンシュタインをポパーが意地悪く煽る、という風にかつて私には見えていたエピソード(ドミニク・ルクール『ポパーとウィトゲンシュタイン』野崎次郎訳、国文社、1992年参照) の真相について追いかけた実に興味深い一冊。ポパーがウィトゲンシュタインに挑んだのは確かだとしても、彼が「火かき棒で脅さないこと」と言及したのはラッセルにたしなめられたウィトゲンシュタインが退室してからのことだったと知ることができたのは、どこかほっとさせるものがありました。

★最後に河出文庫。ヘーゲル『哲学史講義』(長谷川宏訳)は同講義第一部「ギリシャの哲学」第二篇「独断主義と懐疑主義」から第二部「中世の哲学」第三篇「学問の復興」までを収録した第Ⅲ巻が11月に、第三部「近代の哲学」を収録した第Ⅳ巻が12月に発売で、全4巻完結です。新刊ではありませんがセリーヌ『なしくずしの死』(上下巻、高坂和彦訳、2002年)が、丸善およびジュンク堂書店の限定復刊として、ブコウスキー『くそったれ! 少年時代』中川五郎訳、長野まゆみ『野ばら』、松浦理恵子『親指Pの修業時代』上下巻、田中小実昌『ポロポロ』、金井美恵子『小春日和』などと一緒に10月末にリクエスト重版されたことは特筆しておきたいと思います。復刊されたと聞くと以前の版を持っていてもつい買ってしまいますが、今回セリーヌを買ったのは理由が二つありました。一つは、自分が傑作だと評価している作品を丸善やジュンク堂の書店員さんが高く評価しておられ、熱いコメントが帯文に掲載されていることです。丸善丸広百貨店飯能店の細川翼さんによる「これほどまでにおぞましい小説は、他に類をみない」というコメントはまさに『なしくずしの死』にふさわしい最上の誉め言葉です。この小説に描かれた社会のおぞましさは読者の肺腑を今なお鋭くえぐり、ますますアクチュアリティを増しているかのように思われます。物語の順番は前後しますが、本作の前に書かれた『夜の果てへの旅』(上下巻、生田耕作訳、中公文庫、1978年;改版2003年)で描かれた戦争の風景や退役軍人の苦悩もまた、フラッシュバックのように現代人の胸の内に繰り返し蘇ります。人間の愚かさがなくならない限り、セリーヌの作品もまた生き続けます。

★セリーヌ『なしくずしの死』を再度購入することになった二つ目の理由は、特に下巻の束幅の違いによります。分かりやすいように写真を撮っておきますが、下巻の2刷(2011年9月)と今回の3刷(2016年10月)では束幅が違うのです。2刷の方が厚い。頁数に変更はありません。おそらくたまたま何らかの事情で初刷より厚い本文紙を使ったために、2刷だけ束幅が広くなったのだろうと思われます。3刷では修正されています。こういうアクシデント(?)も時には愛おしいものです。なお上巻にはこうしたブレはありません。

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★また最近では以下の新刊との出会いがありました。

現代思想2017年1月号 特集=トランプ以後の世界』青土社、2016年12月、本体1,400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1335-6
戦車に注目せよ――グデーリアン著作集』ハインツ・グデーリアン著、大木毅編訳・解説、田村尚也解説、作品社、2016年12月、本体5,500円、46判上製720頁、ISBN978-4-86182-610-8
テロルとゴジラ』笠井潔著、作品社、2016年12月、本体2,200円、46判並製320頁、ISBN978-4-86182-606-1
タブッキをめぐる九つの断章』和田忠彦著、共和国、2016年12月、本体2,400円、A4変型判上製216頁、ISBN978-4-907986-22-3  
重版未定――弱小出版社で本の編集をしていますの巻』川崎昌平著、河出書房新社、2016年11月、A5判並製232頁、ISBN978-4-309-27788-2

★『現代思想2017年1月号』は27日発売予定。収録されている討議や論考については誌名のリンク先をご覧ください。年始の特集号に相応しく読み応えのある寄稿陣となっています。翻訳ものではチョムスキーのインタヴューに始まり、バーニー・サンダースとスパイク・リーの対談、コーネル・ウェスト、マイク・デイヴィス、マイケル・ハート+サンドロ・メッザードラ、ヴィジャイ・プラシャドらのテクストを読むことができます。なお、青土社さんの『現代思想』1973年1月創刊号「特集*現代思想の総展望」と『ユリイカ』1969年7月創刊号が、プリント・オン・デマンド(POD)としてアマゾン・ジャパンより購入可能となっています。これはアマゾン・ジャパンで行われている「プリント・オン・デマンド(POD) 創刊号・復刻版特集」への出品だそうです。古書で所有していてもつい買いたくなりますね。

★なお、今月発売の「情況」誌2016年第3号でも「トランプ・ショック」という特集が組まれています。第二特集は「16年テーゼ」。寄稿者は、高野孟、白井聡、丸川哲史、山の手緑、渋谷要、森元斎、栗原康、矢部史郎、ほか。

★グデーリアン『戦車に注目せよ』と、笠井潔『テロルとゴジラ』はともに22日取次搬入済。『戦車に注目せよ』は田村尚也さんによる解説「各国軍の戦車と機械化部隊について」によれば、本書は「第二次世界大戦前からドイツ軍の装甲部隊の発展に力を注ぎ、「ドイツ装甲部隊の父」とも言われるハインツ・グデーリアン将軍〔Heinz Wilhelm Guderian, 1888-1954〕が。第二次大戦前の1937年に出版した著書『戦車に注目せよ〔Achtung Panzer〕!』と、戦後に書かれたものを含むいくつかの短文を訳出し、一冊にまとめたものである。このうち、『戦車に注目せよ!』は、第一次世界大戦中の戦闘の様相の変化、その中でもとくに戦車部隊の先述の分析を踏まえて、ドイツ軍の装甲部隊が採用すべき戦術や装備、編制などについて論じたものだ」(681頁)とのこと。グデーリアンはこれまで回想録については訳書が刊行されたことがありますが(『電撃戦――グデーリアン回想録』本郷健訳、フジ出版社、1974年;上下巻、中央公論新社、1999年)、主著をはじめとする理論書がまとまって訳されるのは本書が初めてです。帯文に曰く「戦争を変えた伝説の書
電撃戦の立役者が自ら記した組織革新(イノヴェーション)の要諦。名のみ知られていた幻の書ついに完訳。ほかに旧陸軍訳の諸論文と戦後の論考、刊行当時のオリジナル全図版収録」。主要目次は以下の通り。

戦車に注目せよ!(1937年)
 序文
 著者序
 1914年 いかにして陣地戦に陥ったか
 1915年 不十分な手段を以って
 戦車の発生
 新兵科の誕生
 ヴェルサイユの強制
 大戦後の外国における発展
 ドイツの自動車戦闘部隊
 装甲部隊の生活
 装甲部隊の戦法と他兵科との協同
 現代戦争論
 結論
 参考文献一覧
戦車部隊と他兵科の協同(1937年)
 第三版への序文
 一般的観察
 世界大戦における発展
 大戦後の発展
 装甲捜索団隊
 戦闘に任じる装甲部隊
 他兵科との協同
 最近の戦争による教訓
 結論
「機械化」 機械化概観(1935年)
快速部隊の今昔(1939年)
近代戦に於けるモーターと馬(1940年)
西欧は防衛し得るか?(1950年)
 序文
 一、前史
 二、西欧列強の過てる決定
 三、火元はいたるところに在る
 四、ヨーロッパの軍事力
 五、同盟の意義
 六、合衆国の影響
 七、権利と自由をめぐって
 八、認識と行動?
 九、アフリカ、
 一〇、結論
そうはいかない! 西ドイツの姿勢に関する論考(1951年)
 序文
 一、近代の戦争遂行における空間と時間
 二、今日の戦争の本質
 三、ヨーロッパ国防地理学について
 四、若干の戦時ポテンシャル
 五、軍事同盟国か、外人部隊か?
 六、そして、われわれは?
 七、アイゼンハワー
 結語
解説1 各国軍の戦車と機械化部隊について(田村尚也)
解説2 彼自身の言葉で知るグデーリアン(大木毅)

★笠井潔『テロルとゴジラ』は帯文に曰く「半世紀を経て、ゴジラは、なぜ、東京を破壊しに戻ってきたのか? 世界戦争、大量死、例外社会、群集の救世主、行動的ニヒリズム、トランプ……「シン・ゴジラ」を問う表題作をはじめ、小説、映画、アニメなどの21世紀的文化表層の思想と政治を論じる著者最新論集」。あとがきにはこうあります、「小説や映画やアニメなどの文化表象関連と政治論を含む社会思想関連の文章を集めた評論集だ。こうした種類の著作を、私は『黙示録的情熱と死』〔作品社、1994年〕のあと20年以上も出していない」(315頁)。2010年代に発表された論考を中心に、表題作の書き下ろし評論を含め、全4部構成となっています。目次構成は以下の通り。巻末の初出一覧に従い、各論考の初出年も示しておきます。

第Ⅰ部
テロルとゴジラ――〈本土決戦〉の想像的回帰としての(書き下ろし)
3・11とゴジラ/大和/原子力(2011年)
セカイ系と例外状態(2009年)
群衆の救世主〔セレソン〕――『東のエデン』とロストジェネレーション(2010年)
第Ⅱ部
デモ/蜂起の新たな時代(2012年)
「終戦国家」日本と新排外主義(2013年)
シャルリ・エブド事件と世界内戦(2015年)
第Ⅲ部
「歴史」化される60年代ラディカリズム(2009年)
大審問官とキリスト(2012年)
永田洋子の死(2011年)
吉本隆明の死(2012年)
第Ⅳ部
ラディカルな自由主義の哲学的前提(1996年)
あとがき

★なお、作品社さんでは27日取次搬入で、藤田直哉『シン・ゴジラ論』という新刊をリリースされることになっています。笠井さんの『テロルとゴジラ』と、藤田さんの『シン・ゴジラ論』の刊行を記念して、以下の通りトークイベントが行われるとのことです。お二人は対談集『文化亡国論』(響文社、2015年)を昨年上梓されています。

◎笠井潔×藤田直哉「ゴジラの戦後、シン・ゴジラの震災後

日時:2017年1月17日 (火) 19時00分~(開場:18時30分)
会場:八重洲ブックセンター本店 8F ギャラリー
定員:80名(申し込み先着順) 
申込方法:1階カウンターにて参加対象書籍『テロルとゴジラ』もしくは『シン・ゴジラ論』のいずれかをお買い上げの方に、参加整理券を差し上げます。お電話でのご予約の場合、当日ご来店いただいて書籍をご購入いただきます(電話03-3281-8201)。なお整理券1枚につき、お1人のご入場とさせていただきます。

内容:庵野秀明総監督『シン・ゴジラ』は、東日本大震災に対するひとつの回答であった。日本が蒙った巨大な災禍を理解する象徴として「怪獣」を用いた初代『ゴジラ』の精神を受け継いだ傑作であるとの世評が高い。核兵器、第二次世界大戦、その死者たち、戦後に生まれ変わらなければならなかった日本社会の心理的屈折を引き受けたゴジラ。ゴジラは、東日本大震災という、津波と原発事故を巻き起こした巨大な災禍を引き受けて、どう変わったのか。ゴジラを通して戦後日本社会の連続と断層を語る。2016年という、震災から5年経った年に『シン・ゴジラ』や『君の名は。』のように、震災をエンターテイメントとして昇華する作品が成功したということの意義を踏まえたうえで、トランプ以降のアメリカと世界、サブカルと政治、そして2017年、この国の未来を語る。※トークショー終了後、笠井潔さん、藤田直哉さんのサイン会を実施いたします。

★和田忠彦『タブッキをめぐる九つの断章』は発売済。くぼたのぞみ『鏡のなかのボードレール』、ラクーザ『ラングザマー』に続くシリーズ「境界の文学」の第3弾です。タブッキ(Antonio Tabucchi, 1943-2012)の訳書に解説やあとがきとして書いたものを中心に、追悼文や書き下ろしを加えて一冊にまとめたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。タブッキの短篇「元気で」(『絵のある物語』より)や、タブッキへのインタヴュー「物語の水平線」(1997年)も併載されています。投込栞の「共和国急使」第13号によれば、今年共和国さんは新装版1点を含む新刊12点を出版されたとのこと。ひとり出版社としてはなかなかたいへんなペースです。今後も年間10点を維持できればいい、とも。共和国さんのご苦労については、下段でご紹介するトークイベントでも語られることでしょう。

★川崎昌平『重版未定』は発売済ですでに重版したとのこと。「DOTPLACE」でのウェブ連載が一冊となったもので(その後も継続連載中)、小規模出版社の現実を淡々と、分かりやすく描いておられるマンガです。大手版元よりも個性的な出版社での仕事を目指したい学生さんにとって必読なだけでなく、同業者にとっても自分を振り返る上で良いきっかけになると思います。同業者一人ひとりにとっては本書で描かれているエピソードとはまた別の体験を持っているわけですが、それらがすべて一冊の本に結実するわけではありません。大半は語られず知られないまま埋もれていきます。そんななか本書が生まれたのは、著者が編集者であると同時に著述家、大学非常勤講師、同人誌作家でもあるという複合的な視点と立場が可能にした賜物ではないかと思います。先日もご紹介しましたが、著者のお話を直接聞ける機会が以下の通りありますので、お時間のある方はどうぞお越し下さい。

◎川崎昌平×下平尾直×小林浩「小さな出版社と編集者の大きな夢」――『重版未定』重版出来記念

内容:川崎昌平さんによる『重版未定』が、河出書房新社から発売され、このたび重版出来が決定しました! 編集者とは何か? 出版社とは何のためにあるのか? 弱小出版社に勤務する編集者を主人公に描いた、出版文化を深く考えるためのブラック・コメディ『重版未定』。このたびB&Bでは、『重版未定』の重版出来を記念してイベントを開催します。お相手にお迎えするのは、共和国の下平尾直さんと、月曜社の小林浩さん。現実に存在する「小さな出版社」で働く編集者たちは、今、どんな問題点や可能性を考えているのか? 出版の未来に何を見るのか? 2016年の総括と、2017年への期待も含め、大いに語り合っていただきます。どうぞお楽しみに!

出演:川崎昌平(作家、編集者)、下平尾直(共和国)、小林浩(月曜社)
時間:20:00~22:00 (19:30開場)
場所:本屋B&B 世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
入場料:1500yen + 1 drink order

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by urag | 2016-12-25 23:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 12月 18日

注目新刊:『アントニー・ブラント伝』中央公論新社、ほか

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★風邪をひいて頭がぼんやりしています。今回は簡略なご紹介にて失礼します。まずは発売済の注目新刊から。

『ゲンロン4 現代日本の批評Ⅲ』東浩紀編、ゲンロン、2016年12月、本体2,400円、A5版並製350頁+E19頁、ISBN978-4-907188-19-1
弁論家の教育4』クインティリアヌス著、森谷宇一・戸高和弘・伊達立晶・吉田俊一郎訳、京都大学学術出版会:西洋古典叢書、2016年12月、本体3,400円、四六変判上製328頁、ISBN978-4-8140-0034-0
トマス・アクィナス『ヨブ記註解』』保井亮人訳、知泉書館、2016年11月、本体6,400円、新書判上製706頁、ISBN978-4-86285-243-4
『コモン・フェイス――宗教的なるもの』ジョン・デューイ著、髙徳忍訳、柘植書房新社、2016年12月、本体2,500円、46判並製272頁、ISBN978-4-8068-0683-7

★『ゲンロン4』では特集「現代日本の批評」が完結。完結記念に収録された、浅田彰さんの長編インタヴュー「マルクスから(ゴルバチョフを経て)カントへ――戦後啓蒙の果てに」(聞き手=東浩紀)が目を惹きます。東さんの率直な問いかけの数々に浅田さんが率直に応答されており、浅田さんの半生が垣間見えるものともなっています。東さんの巻頭言「批評という病」によれば『ゲンロン0 観光客の哲学』の刊行がいよいよ近づいているようです。次号となる5号は3月刊行予定、特集名は「幽霊的身体(仮)」となっています。

★『弁論家の教育4』は本邦初完訳となる「Institutionis Oratoriae」全12巻を5巻の訳書に分割して収録する、その第4巻。原著第9巻および第10巻を収録しています。「よく書き、よく話すには、多く読み、多く聞くべし。弁論術を養うための読書指南」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『トマス・アクィナス『ヨブ記註解』』は「Expositio Super Iob Ad Litteram」の翻訳。新書サイズに横組という珍しい造本で、ほぼ同時期に刊行された同館の『哲学中辞典』と同じ体裁です。半年前には対照的な大判本(B5判)の『ヘーゲルハンドブック――生涯・作品・学派』を刊行されており、内容に応じて様々な器を用意される柔軟性を感じます。

★『コモン・フェイス』は「A Common Faith」(Yale University Press, 1934)の訳書。既訳には、岸本英夫訳『誰れでもの信仰――デュウイー『宗教論』』(春秋社、1956年)、河村望訳『共同の信仰』(『デューイ=ミード著作集(11)自由と文化/共同の信仰』所収、人間の科学新社、2002年)、栗田修訳『人類共通の信仰』(晃洋書房、2011年)があります。「宗教対宗教的なるもの」「信仰とその対象」「宗教的効用の人間的居場所」の全3章。巻末に訳者による長編解説が付されています。

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★このほか最近では以下の書籍との出会いがありました。いずれも発売済です。

アントニー・ブラント伝』ミランダ・カーター著、桑子利男訳、中央公論新社、2016年12月、本体5,000円、A5判上製598頁、ISBN978-4-12-004771-8
シベリア抑留――スターリン独裁下、「収容所群島」の実像』富田武著、中央公論新社、2016年12月、本体860円、新書判並製288頁、ISBN978-4-12-102411-4
死を想え――『九相詩』と『一休骸骨』』今西祐一郎著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉、2016年12月、本体1,000円、A5判並製90頁、ISBN978-4-582-36441-5
漢字・カタカナ・ひらがな――表記の思想』入口敦志著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉、2016年12月、A5判並製90頁、ISBN978-4-582-36442-2
漱石の読みかた――『明暗』と漢籍』野網摩利子著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉、2016年12月、A5判並製84頁、ISBN978-4-582-36443-9

★カーター『アントニー・ブラント伝』は「Anthony Blunt: His Lives」(Macmillan, 2001)の訳書。ソ連のスパイ「ケンブリッジ・ファイヴ」の一人だったイギリスの美術史家に光を当て、複数の文学賞を受賞した評伝大作です。イギリスの歴史家であり作家のミランダ・カーター(Miranda Carter, 1965-)のデビュー作で、いくつもの顔を持っていたアントニー・ブラント(アンソニーとも。Anthony Blunt, 1907-1983)の素顔に迫っています。ブラントの美術評論には『イタリアの美術』(中森義宗訳、SD選書:鹿島出版会、1968年)や、『ピカソ〈ゲルニカ〉の誕生』(荒井信一訳、みすず書房、1981年)、『ウィリアム・ブレイクの芸術』(岡崎康一訳、晶文社、1982年)などがあります。『イタリアの美術』のみ、今なお新刊で購入可能です。

★富田武『シベリア抑留』はカバーソデ紹介文に曰く「第2次世界大戦の結果、ドイツや日本など400万人以上の将兵、数十万人の民間人が、ソ連領内や北朝鮮などのソ連管理地域に抑留され、「賠償」を名目に労働を強制された。いわゆるシベリア抑留である。これはスターリン独裁下、主に政治犯を扱った矯正労働収容所がモデルの非人道的システムであり、多くの悲劇を生む。本書はその起源から、ドイツ軍捕虜、そして日本人が被った10年に及ぶ抑留の実態を詳述、その全貌を描く」と。主要目次は以下の通りです。序章「矯正労働収容所という起源」、第1章「二〇〇万余のドイツ軍捕虜――新客の「人的賠償」、第2章「満州から移送された日本軍捕虜――ソ連・モンゴル抑留」、第3章「現地抑留」された日本人――忘却の南樺太・北朝鮮」、終章「歴史としての「シベリア抑留」の全体像へ」。著者は3年前に人文書院より『シベリア抑留者たちの戦後――冷戦下の世論と運動 1945-56』を刊行されています。

★『死を想え』『漢字・カタカナ・ひらがな』『漱石の読みかた』の3点は平凡社さんの新シリーズ「ブックレット〈書物をひらく〉」の初回配本。巻末の「発刊の辞」によれば、同シリーズは国文学研究資料館の「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(歴史的典籍NW事業)の研究成果を発信するものだそうです。いずれも興味深いテーマばかりで、図版も多数の、楽しいシリーズとなりそうです。
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by urag | 2016-12-18 15:30 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 12月 11日

まもなく発売:篠原雅武『複数性のエコロジー』、稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』、など

★まもなく発売となる、注目の近刊書を列記します。年の瀬だけあって、注目作が目白押しです。毎年恒例の「紀伊國屋じんぶん大賞2017」は、2015年12月~2016年11月末までに刊行された人文書が対象ですでに12月6日(火)で投票を締め切っていますので(発表は2月上旬予定)、以下の書籍は2018年の選考対象となるのですね。12月刊行分が次年度の選考対象になるのは「新書大賞」と同じで仕方ないことですが、率直な感想を言うと、編集者も書き手も年内刊行を目指して頑張るわけなので、年末にはそれなりに力作が揃うようになります。賞をあげるなら、12月で締めて、翌年1~2月でじっくり投票・選考して3月下旬に発表、新年度である4月からフェア展開、という方が望ましいような気もします。まあ新年度は何かと書店さんは忙しいので去年のことなんざもう構っているヒマはない、となるのが現実でしょうけれど、以下にご紹介する篠原さんや稲葉さんの新刊は大賞候補になっても不思議ではない本なので、翌々年に発表される頃には「けっこう前に発売した本」という印象を抱かれがちではあります。どの時期で区切ろうと同じような問題は起きうるとはいえ、年末の注目作を見逃すな、という作り手の側の思いは残るところです。

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複数性のエコロジー――人間ならざるものの環境哲学』篠原雅武著、以文社、2016年12月、本体2,600円、四六判上製320頁、ISBN978-4-7531-0335-5
宇宙倫理学入門――人工知能はスペース・コロニーの夢を見るか?』稲葉振一郎著、ナカニシヤ出版、2016年12月、本体2,500円、4-6判上製272頁、ISBN978-4-7795-1122-6
『破壊 ― HAPAX6』夜光社、2016年12月、本体1,300円、四六判変形並製204頁、ISBN978-4-906944-11-8
吉本隆明と『共同幻想論』』山本哲士著、晶文社、2016年12月、本体4,500円、A5判上製546頁、ISBN978-4-7949-6947-7

★篠原雅武『複数性のエコロジー』は12日頃発売。篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さんは大阪大学大学院特任准教授(2017年3月まで)。本書はイギリスの哲学者ティモシー・モートン(Timothy Bloxam Morton, 1968-)のエコロジー思考と環境哲学を紹介する入門書でもありつつ、篠原さんの日常生活から生まれた問題意識の来歴および現在がそこにどう交差しているかが窺えて、お勉強臭くない、思わず惹きこまれるアクチュアルな五冊となっています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末には2016年8月18日から20日にかけてライス大学のモートン研究室で行われたインタヴューの記録が「ティモシー・モートン・インタビュー2016」(277~304頁)が併載されています。今後翻訳も増えていくであろうモートンさんについては、ブログ「Ecology without nature」やYouTubeでの彼の公式チャンネルをご参照ください。

★なお、篠原さんがモートンさんをはじめ、中村隆之さん、小泉義之さん、藤原辰史さん、千葉雅也さんらと対談した新著『現代思想の転換2017――知のエッジをめぐる五つの対話』が人文書院から来月下旬に刊行される予定だそうです。『複数性のエコロジー』とともに、要チェックではないかと思います。

★稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』は23日頃発売。稲葉振一郎(いなば・しんいちろう:1963-)さんは明治学院大学教授。帯文を借りると本書は「宇宙開発は公的に行われるべきか、倫理的に許容されるスペース・コロニーとはどのようなものか、自律型宇宙探査ロボットは正当化できるか――宇宙開発のもたらす哲学的倫理的インパクトについて考察する、初の宇宙倫理学入門!」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。宇宙植民を考えることは、それを支える技術(生命医療技術、ヒューマン・エンハンスメント、ロボット、人工知能)の考察とも切り離せないことを本書は教えてくれます。テレビ番組「やりすぎ都市伝説」での関暁夫さんの予告的紹介により思いがけず今後読者層を広げる可能性があるかもしれないスウェーデン出身の哲学者ニック・ボストロム(Nick Bostrom, 1973-)についても幾度となく言及されており、哲学や倫理学とは縁がなかった読者層でもこの分野(ポストヒューマン/トランスヒューマン)への関心が高まってほしいと期待するばかりです。

★『破壊 ― HAPAX6』は15日頃発売。収録テクスト10篇については誌名のリンク先をご覧ください。今回もエッジの効いた粒揃いの内容で、鈴木創士さんの詩篇「帝国は滅ぶ」に始まり、フランスにおける労働法改悪反対運動をめぐる『ランディマタン』誌の二つのテクスト、さらに、ティクーン、ライナー・シュールマン、ジョン・クレッグらの翻訳や、『大学生詩を撒く』鎧ヶ淵支部、森元斎、友常勉、鼠研究会の各氏の寄稿が読めます。特にライナー・シュールマン(Reiner Schürmann, 1941-1993)の「アナーキーな主体として自己を自律的に形成する(抄)」(HAPAX訳、93-107頁)は思いがけない年末の贈り物でした。底本はおそらく、『PRAXIS International』誌第3号(1986年、294~310頁)かと思われます。

★シュールマンと言えば、卓抜なエックハルト論『マイスター・エックハルトと彷徨の喜悦』(1972年)やハイデガー論『アナーキーの原理――ハイデガーと行為の問い』(1982年)、ジェラール・グラネル編の遺作『破壊されたヘゲモニー』などの著書で知られ、アムステルダムに生まれフランスや米国で活躍し、惜しくもエイズで早世した神父であり、ドイツ系哲学者です。翻訳を久しぶりに読めることは驚きですらあります。既訳テクストには以下のものがあったかと記憶しています。「道の大家、マイスター・エックハルト」(「神学ダイジェスト」23号、上智大学神学部神学ダイジェスト研究会、1971年9月、4~12頁)、「ハイデッガーをいかに読むか」(「創文」256号、創文社、1985年6月、18~20頁)、「自然法則と裸の自然――マイスター・エックハルトにおける思惟の経験について」(『明日への提言――京都禅シンポ論集』天竜寺国際総合研修所、1999年3月、369~408頁)。

★山本哲士『吉本隆明と『共同幻想論』』は17日頃発売。山本さんは先月、600頁を超える大著『フーコー国家論――統治性と権力/真理』(文化科学高等研究院出版局、2016年11月)を上梓されたばかり。山本さんが編集長を務めておられると聞く文化科学高等研究院出版局ではご承知の通り、吉本さんの『心的現象論』(愛蔵版:序説+本論、文化科学高等研究院出版局、2008年;普及版:本論、文化科学高等研究院出版局、2008年)、『思想の機軸とわが軌跡』(文化科学高等研究院出版局、2015年)などを刊行されており、吉本さんと山本さんの対談集『思想を読む 世界を読む』(文化科学高等研究院出版局、2015年)もあります。

★『吉本隆明と『共同幻想論』』の帯文はこうです、「なぜ今、吉本隆明の思想が必要なのか? 主著のひとつである『共同幻想論』を手がかりに、高度資本主義の変貌をつかみとり、「吉本思想」のエッセンスと現在性を伝える渾身の一冊。共同幻想国家論の構築へ――」。あとがきの最後で山本さんはこう述べておられます。「吉本思想の深みは、あらためて直面してみるとやはり並大抵ではないということです。同時に、『フーコー国家論』、『ブルデュー国家論』を共同幻想概念をもちこんで、明証化しました。この三部作で、マルクス主義的国家論を脱出する閾と通道が明示しえたとおもいます」(543頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。『ブルデュー国家論』は続刊書かと思われます。なお、晶文社版『吉本隆明全集』は来月刊行予定の第3巻(1951-1953:日時計篇(下)/「日時計篇」以後/ほか)でもって第Ⅰ期全12巻完結とのことです。山本さんが詳細に論じられた『共同幻想論』は第10巻に収められています。

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★次に発売済の注目新刊をご紹介します。

十年後のこと』東浩紀ほか著、河出書房新社、2016年11月、本体1,600円、46判上製224頁、ISBN978-4-309-02519-3
現代思想2017年1月臨時増刊号 総特集=九鬼周造 -偶然・いき・時間-』青土社、2016年12月、本体1,800円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1334-9
渡辺崋山書簡集』渡辺崋山著、別所興一訳注、東洋文庫、2016年12月、本体3,300円、B6変判上製函入496頁、ISBN978-4-582-80878-0 
地獄大図鑑 復刻版』木谷恭介著、復刊ドットコム、2016年12月、本体4,250円、B6判上製176頁、ISBN978-4-8354-5437-5

★『十年後のこと』は「文藝」誌2014年秋号と2016年秋号からまとめられた掌篇小説アンソロジー。帯文に曰く「明日を想像する人へ、35人の作家が想像する35の物語」と。収録作品については書名のリンク先をご覧ください。漫画家の方の作品も収められていますが、漫画ではなく活字ものです。人文系の書き手では東浩紀さんの「時よ止まれ」(初出「文藝」2014年秋号)を収録。封筒の中身、確かに読むのは辛いですけれど、読まずにはいられない気もします。

★『現代思想2017年1月臨時増刊号 総特集=九鬼周造』では、松岡正剛「面影と偶然性」、山内志朗「九鬼周造とスコラ哲学」、千葉雅也「此性をもつ無――メイヤスーから九鬼周造へ」、檜垣立哉「偶然性と永遠の今――現在性をめぐる九鬼と西田」、合田正人「九鬼周造の戦争――民族(フォルク)幻想とリズム」、ほか9篇の論考と討議1本を収録し、巻末には主要著作ガイドを配しています。九鬼の文庫新刊は今年、岩波文庫から2月に『時間論 他二篇』、8月に『人間と実存』が出ました。

★『渡辺崋山書簡集』は東洋文庫の第878番。年代順に、1831年9月~1837年12月「田原藩政復興と画作の抱負」、1836年12月~1839年3月「西洋事情への開眼と藩政改革の構想」、1839年5月~9月「蛮社の獄中期の苦悩」、1840年1月~12月「田原蟄居と新生の決意」、1841年1月~10月および遺書「再起の断念と自死への道」の全五部で、各書簡の現代語訳のあと部末に訳注と解説、原文は巻末にまとめるという構成。凡例によれば、底本は日本図書センター版『渡辺崋山集』の第3巻と4巻(1999年)。底本にない田原市博物館所蔵の書簡一通が新たに加えられています。訳注者の別所さんは巻頭の「はじめに」で「一国の利害を超えた“人の道”の尊重を訴えた崋山の言説は、今日も見直す価値がある」(8頁)としたためておられます。東洋文庫次回配本は1月、『乾浄筆譚2』と『徂徠集 序類2』とのことです。

★木谷恭介『地獄大図鑑 復刻版』は、復刊ドットコムによるジャガーバックスシリーズ復刻の第5弾です。1975年当時の値段に比べれば恐ろしく高いですが、それでも古書を買うよりかはお得です。主要目次は以下の通り。「日本八大地獄――地獄のきわめつけ」「地獄への道――死者のたどる道は?」「死者の国――昔の人はこう考えた」「東洋の地獄――日本の地獄のみなもと」「キリスト教の地獄――ダンテによる集大成」「世界の地獄――各国の地獄をめぐる」「大ゆかいまんが 地獄に落ちた三人」「巻末特別ふろく 最新版地獄案内」。ページサンプルは書名のリンク先でご覧になれます。予約特典はオリジナル「2017地獄カレンダー」(A3サイズ・四つ折)で、おどろおどろしい赤黒い絵に「まさに地獄。」という文字が躍るシュールなものとなっています。

★なお、復刊ドットコムによるジャガーバックスシリーズ復刻の次弾は2月中旬刊、中西立太著/小林源文イラスト『壮烈! ドイツ機甲軍団 復刻版』だそうです。本体3,700円、予約特典はオリジナルポストカード。今までのラインナップとジャンルが違いますから売れ方も異なるのだろうと思われます。
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by urag | 2016-12-11 21:38 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)