ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ

カテゴリ:本のコンシェルジュ( 882 )


2017年 05月 22日

ブックツリー「哲学読書室」に岡本健さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ゾンビ学』(人文書院、2017年4月)を上梓された岡本健さんの選書リスト「ゾンビを/で哲学してみる!?」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

上尾真道さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
渡辺洋平さん選書「今、哲学を(再)開始するために
岡本健さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?

+++



[PR]

by urag | 2017-05-22 10:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 21日

注目新刊:ディディ=ユベルマン『受苦の時間の再モンタージュ』、ほか

a0018105_22274818.jpg


受苦の時間の再モンタージュ――歴史の眼2』ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著、森元庸介/松井裕美訳、ありな書房、2017年5月、本体6,000円、A5判上製292頁、ISBN978-4-7566-1754-5
アール・ブリュット――野生芸術の真髄』ミシェル・テヴォー著、杉村昌昭訳、人文書院、2017年5月、本体4,800円、A5判上製250頁、ISBN978-4-409-10038-7
ジャック・ラカン 不安(下)』ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之/鈴木國文/菅原誠一/古橋忠晃訳、岩波書店、2017年5月、本体5,500円、A5判上製296頁、ISBN978-4-00-061187-9

★ディディ=ユベルマン『受苦の時間の再モンタージュ』は発売済。シリーズ『歴史の眼』の第2巻です。既刊書には刊行順に、第3巻『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』(伊藤博明訳、ありな書房、2015年11月)、第1巻『イメージが位置をとるとき』(宮下志朗/伊藤博明訳、ありな書房、2016年8月)があります。今回刊行された第2巻の原書は、Remontages du temps subi. L'Œil de l'histoire, 2 (Minuit, 2010)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者の松井裕美さんによる巻末解説では本書はこう説明されています。「収容所の映像を読むために「モンタージュする」という行為が考察対象となる。そのためにディディ=ユベルマンが焦点をあてるのは、サミュエル・フラーとハルーン・ファルッキという二人の映画監督である。/本書第Ⅰ章〔「収容所を開き、眼を閉じる──イメージ、歴史、可読性」〕では戦地における経験の表象不可能性と出来事の記録の問題が扱われる。とりわけ記録映像の問題を検討するためにとりあげられるのがフラー〔による「ファルケナウ」1945年、など〕である」(275頁)。そして「本書第Ⅱ章〔「時間を開き、眼を武装する──モンタージュ、歴史、復元」〕では、記録映像を理解可能にするための作業に関するより根本的な方法論的考察が展開される。そのさいに焦点があてられるのはハルーン・ファロッキの作品〔「世界のイメージと戦争の書きこみ」1988年、「猶予」2007年、ほか〕である」(276~277頁)。ディディ=ユベルマンの著書は人文書に置くか芸術書に置くか分類が難しいため、書店さんによっては悩まれるだろうと思うのですが、どちらに置くにせよ、分散させずに一箇所にまとめるのもひとつの手ではあります。

★テヴォー『アール・ブリュット』は発売済。原書は、L'art brut (Skira, 1975)です。著者のミシェル・テヴォー(Michel Thévoz, 1936-)は美術史家、美学者。単独著の既訳書に『不実なる鏡――絵画・ラカン・精神病』(岡田温司/青山勝訳、人文書院、1999年)があります。1976年よりローザンヌの美術館「アール・ブリュット・コレクション(Collection de l'art brut)」の館長を務めておられ、本書『アール・ブリュット』はその設立者である画家のジャン・デュビュッフェが序文を寄せています。そもそも「アール・ブリュット」という概念を提唱したのがデュビュッフェで、本書の第一章にも引用されているテクスト「文化的芸術よりもアール・ブリュットを」でデュビュッフェは次のように書いています。「われわれの言うアール・ブリュットとは次のようなものである。すなわち、それは芸術的文化の影響を逃れた人たちによってつくられた作品であり、そこでは、知的な人々のなかで起きることとは反対に、模倣はほとんどと言っていいほどなく、作品のつくり手がすべてを(主題、材料の選択、作品化の手段、リズム、表現法、等々)伝統的芸術のありきたりの型からではなく、自分自身のなかの奥深い場所から引き出す。われわれはそこで、まったく純粋で生〔き〕のままの芸術的推敲が行なわれ、つくり手自身の固有の衝動を唯一の起点として芸術がその全局面において再発明される現場に立ち会うのである」(11~12頁)。巻頭16頁はカラー図版26点を掲載。目次詳細は書名のリンク先からご覧下さい。版元サイトではデュビュッフェの序文や訳者あとがきも公開されています。アール・ブリュット(英語圏での名称は「アウトサイダー・アート」)にご関心のある方には必携の基本書です。

★『ジャック・ラカン 不安(下)』は発売済。「セミネール」シリーズ第10巻の後半部分です。第12講義「不安、現実的なものの信号」から第24講義「aからいくつかの〈父の名〉へ」までを収録。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。セミネールは原書で全26巻予定、現在まで16巻が刊行されており、そのうち邦訳されたのは今回の『不安』までで9巻です。まだまだ道のりは遥かです。なお、同版元の2017年6月新刊案内によれば、受注生産方式の「岩波オンデマンドブックス」ではセミネール第2巻である『フロイト理論と精神分析技法における自我』上下巻(1998年)の復刻版が6月12日より受付開始だそうです。受注から2~4週間でお届け。本体価格は上巻が7000円、下巻が6600円と割高ですが、仕方ありません。同ブックスは「内容についてはオリジナル本と変わりませんが、装丁や外見が異なります」とのことで、新たな修正はなさそうです。ある場合はもう一度買わねばなりません。

+++

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

戸籍と無戸籍――「日本人」の輪郭』遠藤正敬著、人文書院、2017年5月、本体4,000円、4-6判上製380頁、ISBN978-4-409-24117-2
回想の青山光二――資料で読む「最後の文士」の肖像』池内規行著、共和国、2017年5月、本体5,000円、菊変型判上製288頁、ISBN978-4-907986-35-3
パフォーマンスがわかる12の理論――「クリエイティヴに生きるための心理学」入門!』鹿毛雅治編、金剛出版、2017年4月、本体3,200円、四六判並製400頁、ISBN978-4-7724-1548-4
マインドフルネス実践講義――マインドフルネス段階的トラウマセラピー(MB-POTT)』大谷彰著、金剛出版、2017年5月、本体2,800円、A5判並製184頁、ISBN978-4-7724-1555-2

★遠藤正敬『戸籍と無戸籍』は発売済。前著『戸籍と国籍の近現代史――民族・血統・日本人』(明石書店、2013年)で「戸籍が「日本人なるものを〔・・・〕いかに創出してきたのかを歴史的に検討した」(22頁)著者が今後は「無戸籍とは何か」を問うことによって研究を新たな段階へと進めたユニークな本です。ネタばれはやめておきますが、「あとがき」が非常に自由な筆致で書かれているのも印象的です。

★池内規行『回想の青山光二』は発売済。小説家・青山光二(あおやま・こうじ:1913-2008)さんから著者に当てられた多数の葉書や手紙を引用しつつ綴られた回想記で、巻頭には「秘蔵写真を駆使した」(帯文より)という文学アルバム、巻末には詳細な年譜と全著作目録が収載されています。投げ込みの「共和国急使」第15号(2017年5月20日付)で、下平尾代表は、本書は少部数出版ではあるけれども「諸事即席で売れる本だけが本ではないし、こういう含蓄のある本を世に出すのも版元の仕事であろう」としたためておられます。本書の「あとがき」で著者は下平尾さんを「わが友」と呼び掛けておられ、著者と編集者の麗しい交流に胸打たれる思いがします。

★最後に金剛出版さんの新刊より2点。まず『パフォーマンスがわかる12の理論』は『モティベーションをまなぶ12の理論――ゼロからわかる「やる気の心理学」入門!』(鹿毛雅治編、金剛出版、2012年4月)の続篇で、心理学用語としての「パフォーマンス」をめぐる12の理論を紹介するもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。次に『マインドフルネス実践講義』は『マインドフルネス入門講義』(大谷彰著、金剛出版、2014年10月)の続篇。「マインドフルネスを使いこなすための理論と方法をガイドする実践篇として刊行」(版元サイトより)。目次詳細はこちらも書名のリンク先をご覧ください。マインドフルネスとは「「今、ここ」での体験に気づき(アウェアネス)、それをありのままに受け入れる態度および方法」(16頁)であり、「仏教徒が2500年にわたり実践してきた瞑想がマインドフルネスという臨床手段へと変化し、しかも西洋、特にアメリカを経て仏教国である日本にセラピーとして逆輸入された」(15~16頁)と著者は説明しています。

+++

[PR]

by urag | 2017-05-21 22:05 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 15日

ブックツリー「哲学読書室」に西兼志さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『アイドル/メディア論講義』(東京大学出版会、2017年4月)を上梓された西兼志さんの選書リスト「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

上尾真道さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
渡辺洋平さん選書「今、哲学を(再)開始するために


+++


[PR]

by urag | 2017-05-15 22:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 14日

注目文庫新刊:ヴォルテール『哲学書簡』新訳、ほか

a0018105_22494181.jpg


哲学書簡』ヴォルテール著、斉藤悦則訳、光文社古典新訳文庫、2017年5月、本体980円、364頁、ISBN978-4-334-75354-2
デカメロン(下)』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫、2017年5月、本体1,000円、560頁、ISBN978-4-309-46444-2
星界の報告』ガリレオ・ガリレイ著、伊藤和行訳、講談社古典新訳文庫、2017年5月、本体600円、128頁、ISBN978-4-06-292410-8
自然魔術』ジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ著、澤井繁男訳、講談社学術文庫、2017年5月、本体980円、288頁、ISBN978-4-06-292431-3
柄谷行人講演集成1985-1988 言葉と悲劇』ちくま学芸文庫、2017年5月、本体1,200円、384頁、ISBN978-4-480-09771-2

★今月も続々と古典の新訳が文庫化が続いています。ヴォルテール『哲学書簡』は、斉藤悦則さん訳によるヴォルテール新訳第三弾で、これまでに『カンディード』が2015年8月に、『寛容論』が2016年5月に上梓されています。『哲学書簡』は発禁書にしてベストセラー。既訳文庫には林達夫訳『哲学書簡』(岩波文庫、1980年)があります。

★ボッカッチョ『デカメロン(下)』は、平川祐弘さん訳の全三巻完結編。第八日から第十日、著者結び、までを収録。訳者解説は第六章「『デカメロン』に貼られた様々なレッテル」、第七章「東洋文学との比較」、第八章「結びにかえて」が収められています。なお河出文庫では6月6日発売で、アルトー『タラウマラ』宇野邦一訳が刊行予定だそうです。

★ガリレオ・ガリレイ『星界の報告』は文庫オリジナル版新訳。「1610年にヴェネツィアで刊行された初版に基づいて第一人者が完成させた決定版新訳」(帯文より)と。既訳文庫には、 山田慶児・谷泰訳『星界の報告 他一篇』(岩波文庫、1976年)があります。こちらは「太陽黒点にかんする第二書簡」を併載。

★デッラ・ポルタ『自然魔術』の親本は1990年に青土社より刊行。文庫化にあたっての「追記」によれば「この好機にあたって、科学史家の山本義隆氏から内容等に関して多大なご教示をいただき、感謝の念に堪えない」とありますから、改稿があったと受け止めてよいかと思います。なお同書の「人体篇」が1996年に同じく澤井さんの翻訳で青土社より刊行されており、現在は版元品切の様子。講談社さんから続けて文庫化されたら嬉しいですね。

★『柄谷行人講演集成1985-1988 言葉と悲劇』は、今年1月に刊行された文庫オリジナル版『柄谷行人講演集成1995-2015 思想的地震』に続く講演集。巻末の特記によれば「本書は、1989年に第三文明社より刊行され、1993年に講談社学術文庫に収録された。本文庫化に際しては、講談社学術文庫版を底本とし」、以下のような改変を加えた、とのことです。曰く「一、「バフチンとウィトゲンシュタイン」については、割愛した。一、「漱石の多様性」「坂口安吾その可能性の中心」については、『定本 柄谷行人文学論集』(岩波書店、2016年)所収の改稿版に差し替えた。一、内容の関連性を考慮し、一部講演の配列を差し替えた。一、その他、全体を通して改稿を施した」と。講談社学術文庫版『言葉と悲劇』(現在品切重版未定)と読み比べてみるのも面白そうですね。

+++

[PR]

by urag | 2017-05-14 22:01 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 07日

注目新刊:大橋喜之訳『ピカトリクス』八坂書房、ほか

a0018105_01051271.jpg


ピカトリクス――中世星辰魔術集成
大橋喜之訳
八坂書房 2017年4月 本体6,800円 A5判上製748頁 ISBN978-4-89694-233-0

帯文より:西欧中世の闇を映す伝説の魔道書、その全貌を明らかにする、待望の原典訳! オカルティストたちが渇仰し、ネオプラトニストたちが偏愛した、隠された知の宝庫への深水への錘鉛を垂らすラテン語版からの全訳。韜晦に満ちた奇書の読み書きに欠かせぬ、註・解題・資料も充実!

★発売済。巻頭の注記によれば底本はデイヴィッド・ピングリー(本書の表記ではピングレー)が19もの写本を校合してウォーバーグ研究所より出版したラテン語版(1986年)。元々の原本であるアラビア語版『ガーヤット・アル-ハキーム(賢者の目的)』がスペイン語に翻訳されたのが1256年、それをさらにラテン語に重訳したのが本書です。数々の歴史的魔術書のまとめ本にして便覧(マニュアル)、西欧中世を代表する魔導書(グリモワール)として後世に影響を及ぼしたあまりにも高名な本でしたが、活字化されたのは20世紀後半になってからです。ピカトリクスというのはその編者の名前であるとされています。

★巻頭の「序」では本書の構成について次のように説明されています。「本書は四書に分けられ、またそれぞれが諸章に分けられている。第Ⅰ書では諸天の存在とそれらがそこでなす像(イマジネ)の効果について論じる。第Ⅱ書では諸天の形象全般、そして第八天の運動およびそれがこの世にもたらす諸効果について語る。第Ⅲ書では諸惑星および星座の数々の特徴およびそれらの形象(フィグーラ)と形相(フォルマ)をそれらの色とともに明らかにし、諸惑星の霊(スピリトゥス)の性質また降霊術(ネグロマンツィア)についてもできるだけ述べることとする。第Ⅳ諸では霊の諸特徴およびこの業において遵守しなくてはならないことども、そして図像と燻香その他の補助的なことがらについて語る」(4頁)。

★いわば幻の書が全訳されるというのはそれ自体大きな事件です。訳者はローマ在住の翻訳家にして錬金術研究者の大橋喜之(おおはし・よしゆき:1955-)さん。数々の訳書を八坂書房さんから上梓されているほか、ブログ「ヘルモゲネスを探して」では錬金術関連の古典の日本語訳の数々を公開されています。『ピカトリクス』訳書では写本から図版を多数掲載しており、さらに充実した付録「『ピカトリクス』を読むために」では参考文献が訳出されています。以下に付録の目次を転記しておきます。

『ピカトリクス』大要――M・プレスナーによる亜版梗概
解題 中世星辰魔術『ピカトリクス』再発見の途――20世紀諸賢による所見の紹介
 ソーンダイクによる『ピカトリクス』概説
 エウジェニオ・ガレン「魔術便覧ピカトリクス」
補遺Ⅰ 哲学としての魔術――ペッローネ・コンパーニ
 ペッローネ・コンパーニ「ピカトリクス・ラティヌス」
補遺Ⅱ 像(イメージ)の遡及と典拠の探索――羅版刊行者ピングレー
 ピングレー「『ガーヤット・アル-ハキム』の典拠の幾つか」抄
 ピングレー「『ガーヤ』と『ピカトリクス』の間Ⅰ:スペイン語異文」抄
 ピングレー「『ガーヤ』と『ピカトリクス』の間Ⅱ:ジャービルに帰される『自然学精華集』」抄
補遺Ⅲ ピカトリクス分光
 『クラテスの書』(全訳)

★4月発売の新刊では本書とともに、伊藤博明『ヨーロッパ美術における寓意と表象――チェーザレ・リーパ『イコノロジーア』研究』(付属資料:『イコノロジーア』一六〇三年版全訳)について特記すべきですが、本体価格36,000円という高額本のため、まだ現物は見たことがありません。hontoでは相変わらず購入できませんし、丸善やジュンク堂の店頭にもありませんが、アマゾン・ジャパンではついに在庫されるようになりました。さすがです。

★このほか、4月新刊単行本には以下の注目書がありました。先月は豊作で、そのすべてを月内には取り上げきれないほどでした。

美学講義』G・W・F・ヘーゲル著、寄川条路監訳、石川伊織/小川真人/瀧本有香訳、法政大学出版局、2017年4月、本体4,600円、四六判上製408頁、ISBN978-4-588-01057-6
美味礼讃』ブリア=サヴァラン著、玉村豊男編訳/解説、新潮社、2017年4月、本体2,800円、46判上製429頁、ISBN978-4-10-507031-1
アレゴリー――ある象徴的モードの理論』アンガス・フレッチャー著、伊藤誓訳、白水社、2017年4月、本体7,600円、4-6判上製598頁、ISBN978-4-560-08309-3
ラカニアン・レフト――ラカン派精神分析と政治理論』ヤニス・スタヴラカキス著、山本圭/松本卓也訳、岩波書店、2017年4月、本体6,600円、A5判上製464頁、ISBN978-4-00-002428-0
科学とモデル――シミュレーションの哲学 入門』マイケル・ワイスバーグ著、松王政浩訳、名古屋大学出版会、2017年4月、本体4,500円、A5判上製328頁、ISBN978-4-8158-0872-3

★ヘーゲル『美学講義』は、1820~1821年冬学期の講義(アッシェベルクとテルボルクの筆記録、ヘルムート・シュナイダー編、ランク社、1995年)の全訳。これまでに翻訳されてこなかったものです。美学講義の既訳には、甘粕石介訳『美学講義』(全2巻、北隆館、1949~1950年)、竹内敏雄訳『美学』(全3巻9分冊、岩波書店、1956~1981年;ラッソン編ヘーゲル全集、1931年)、長谷川宏訳『美学講義』(全3巻、作品社、1995~1996年;グロックナー版ヘーゲル全集12~14巻)がありますが、底本が異なります。

★ブリア=サヴァラン『美味礼讃』は帯に「50年ぶりの新訳」と。ただし抄訳です(正確に言えば「全編を翻訳した上で、その約3分の2を単行本としてまとめたもの」〔訳者あとがき〕)。全訳には周知の通り岩波文庫(『美味礼讃』上下巻、関根秀雄/戸部松実訳、1967年)がロングセラーとなっています。原題は『味覚の生理学』(1825年)。著者のジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン(Jean Anthelme Brillat-Savarin, 1755-1826)はパリ控訴裁判所の裁判官を務め、生涯独身だったそうです。「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人か言い当ててみせよう」という名言は、「美味学の永遠の基礎となる、教授のアフォリスム(箴言)」の4番目に挙げられています(414頁)。

★フレッチャー『アレゴリー』は「高山宏セレクション〈異貌の人文学〉」の最新刊。原書は『Allegory: The Theory of a Symbolic Mode』(Cornell University Press, 1964)で、著者34歳の折のデビュー作です。「批評そのものが「アナトミー(N・フライ)の超ジャンルたり得る一大奇観を目の当たりに、我々の「批評」などもはや赤子のたわ言でしかないと知って呆然とせよ」と高山さんは帯文に寄せられています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。フレッチャー(Angus Fletcher, 1930-2016)の既訳書には『思考の図像学――文学・表象・イメージ』(法政大学出版局、1997年)があり、訳者は『アレゴリー』と同じく伊藤誓さんです。なお同シリーズではウィリアム・マガイアー『ボーリンゲン』が高山宏さんの翻訳で続刊予定とのことです。

★スタヴラカキス『ラカニアン・レフト』の原書は『The Lacanian Left: Psychoanalysis, Theory, Politics』(Edinburgh University Press, 2007)で、巻頭には「日本語版への序文」が付されています。目次詳細や立ち読みPDFは書名のリンク先にてご参照になれます。著者のスタヴラカキス(Yannis Stavrakakis , 1970-)さんは英国生まれのギリシア系思想家で、テッサロニキ・アリストテレス大学教授であり、専門は政治理論です。既訳書に『ラカンと政治的なもの』(有賀誠訳、吉夏社、2003年)があります。なお岩波書店さんでは今月18日発売で、ジャック・ラカン『不安(下)』(ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之/鈴木國文 /菅原誠一/古橋忠晃訳)が刊行される予定です。

★ワイスバーグ『科学とモデル』の原書は『Simulation and Similarity: Using Models to Understand the World』(Oxford University Press, 2013)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者のワイスバーグ(Michael Weisberg, 1976-)はアメリカのペンシルヴェニア大学の哲学講座教授で、訳者解説によれば「いまや科学哲学界の重鎮の一人と言ってよい存在」とのこと。単独著としては今回訳された書籍があるのみのようです。帯文には戸田山和久さんの推薦文が掲載されています。「モデル概念を軸に科学哲学を書き換える。よりスリリングでリアルな科学哲学の始まり始まり!」。なお訳者の松王政浩(まつおう・まさひろ:1964-)さんはソーバーの『科学と根拠』(名古屋大学出版会、2012年)の翻訳も手掛けておられます。

★さらに4月刊行の文庫や新書では以下の書目に惹かれました。ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』(巻、堤康徳訳、岩波文庫、2017年4月、文庫各464頁、ISBN978-4-00-327182-7/978-4-00-327183-4)、折口信夫『口訳万葉集(中)』(岩波現代文庫、2017年4月、A6判512頁、ISBN978-4-00-602288-4)、三木清『三木清大学論集』(大澤聡編、講談社文芸文庫、2017年4月、本体1,600円、A6判320頁、ISBN978-4-06-290345-5)、エドワード・スノーデンほか『スノーデン 日本への警告』(青木理/井桁大介/宮下紘/金昌浩/ベン・ワイズナー/マリコ・ヒロセ共著、集英社新書、2017年4月、本体720円、新書判208頁、ISBN978-4-08-720876-4)、エドワード・ルトワック『戦争にチャンスを与えよ』(奥山真司訳、文春新書、2017年4月、本体800円、新書判224頁、ISBN978-4-16-661120-1)。

★5月発売予定の文庫新刊では、講談社学術文庫が気になります。11日発売予定で、ガリレオ・ガリレイ『星界の報告』伊藤和行訳、『新版 平家物語(二)全訳注』杉本圭三郎訳注、フランシス・ギース『中世ヨーロッパの騎士』椎野淳訳、『荘子 全現代語訳(上)』池田知久訳、ジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ『自然魔術』澤井繁男訳などが予告されています。池田知久訳『荘子』は『荘子 全訳注』(講談社学術文庫、2014年5月刊)の簡易版だそうで、総説、現代語訳、原文、解説からなるとのことです。

+++

★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。

〈男性同性愛者〉の社会史――アイデンティティの受容/クローゼットへの解放』前川直哉著、作品社、2017年3月発売(奥付4月)、本体2,400円、46判上製238頁、ISBN978-4-86182-626-9
アンドレ・バザン研究1:特集=作家主義再考』アンドレ・バザン研究会、2017年3月(発行4月)、非売品、A5判並製116頁、ISSN2432-9002
多田富雄コレクション(1)自己とは何か 免疫と生命』多田富雄著、中村桂子/吉川浩満解説、藤原書店、2017年4月、本体2,800円、四六上製344頁、ISBN978-4-86578-121-2
柏木如亭詩集1』柏木如亭著、揖斐高訳注、東洋文庫、2017年5月、本体2,900円、B6変判上製函入304頁、ISBN978-4-582-80882-7

★前川直哉『〈男性同性愛者〉の社会史』は2015年に京都大学大学院人間・環境学研究科から学位を授与された博士論文「近現代日本における「男性同性愛者」アイデンティティの受容過程」に加筆修正したものとのこと。1920年代から70年代の日本を対象とし、アイデンティティ受容や悩みとその解決法をめぐって検証しています。著者の前川直哉(まえかわ・なおや:1977-)さんは現在、東京大学大学院経済学研究科特任研究員で、ご専門はジェンダー・セクシュアリティの社会史。ご著書に『男の絆――明治の学生からボーイズ・ラブまで』(筑摩書房、2011年)があります。

★『アンドレ・バザン研究』はアンドレ・バザン研究会の会誌で、記念すべき第1号では研究会代表の大久保清朗さんによる「バザンの徴の下に――『アンドレ・バザン研究』創刊によせて」のほか、「作家主義再考」と銘打って古典的なテクストの翻訳7編が掲載されています。

アレクサンドル・アストリュック「新しいアヴァンギャルドの誕生――カメラ万年筆」堀潤之訳
ロジェ・レーナルト「フォード打倒! ワイラー万歳!」堀潤之訳
アンドレ・バザン「ジャック・ベッケル『エストラパード街』」角井誠訳
フランソワ・トリュフォー「アリババと「作家主義」」大久保清朗訳
アンドレ・バザン「誰が映画の本島の作者か」大久保清朗/堀潤之訳
アンドレ・バザン「作家主義について」野崎歓訳
アンドリュー・サリス「作家理論についての覚え書き、1962年」木下千花訳

巻末の編集後記で堀潤之さんは次のようにお書きになっておられます。「本号がもっぱら過去の文献の翻訳から成っていることい、物足りなさを覚える読者もいるかもしれない。だが、日本の映画研究においては、近年、(とりわけ外国語による)基礎的な文献を精読するという、人文学の根幹を成すはずの作業が、いささか蔑ろにされている傾向はないだろうか。〔・・・〕本誌が慎ましい姿ではあれ翻訳と集癪という基礎的作業だけに専心していることには、こうした豊かな伝統にささやかながた連なろうという決意も込められている」。地道なご研鑽の姿勢に共感を覚えます。

★『多田富雄コレクション(1)自己とは何か 免疫と生命』はシリーズ全5巻の第1回配本。帯文に曰く「1990年代初頭、近代的「自己」への理解を鮮烈に塗り替えた多田の「免疫論」の核心と、そこから派生する問題系の現代的意味を示す論考を精選」と。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。同コレクションの続巻予定は以下の通りです。年内に完結予定。

第2巻『生の歓び 食・美・旅』[解説]池内紀・橋本麻里(6月刊行予定)
第3巻『人間の復権 リハビリと医療』[解説]立岩真也・六車由実(8月刊行予定)
第4巻『死者との対話 能の現代性』[解説]赤坂真理・いとうせいこう(10月刊行予定)
第5巻『寛容と希望 未来へのメッセージ』[解説]最相葉月・養老孟司(12月刊行予定)

★『柏木如亭詩集1』は東洋文庫第882弾。全2巻予定の第1巻です。帯文は以下の通り。「遊蕩、遊歴生活を貫いた天性の抒情詩人の主要作品を作詩年代順に収める。江戸後期に出現した異数の漢詩人の全貌を味読する訳注。第1巻は青年期から中年期まで。巻末に解説を付す」と。作品ごとに原詩、訓読、詩体、語注、現代語訳でワンセットとなっています。様々な詩がありますが、「蕎麦歌(そばのうた)」というのがあって、「信山蕎麦無物敵(しんざんのそば、もののてきするなし:信州の蕎麦に匹敵するものはない)」と詠んでいます。東洋文庫の次回配本は2017年7月、『柏木如亭詩集2』です。

a0018105_01052105.jpg


+++

[PR]

by urag | 2017-05-07 00:49 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 05月 03日

ブックツリー「哲学読書室」に篠原雅武さんと渡辺洋平さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、篠原雅武さんと渡辺洋平さんの選書リストが追加されました。


◎哲学読書室

上尾真道さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
渡辺洋平さん選書「今、哲学を(再)開始するために

+++


[PR]

by urag | 2017-05-03 00:58 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 30日

注目シリーズのスタート:『吉本隆明全集』第二期、「井筒俊彦英文著作翻訳コレクション」、ほか

a0018105_02104719.jpg


吉本隆明全集(37)書簡I』晶文社、2017年5月、本体6,000円、A5判変型上製456頁、ISBN978-4-7949-7137-1
老子道徳経』井筒俊彦著、古勝隆一訳、慶応義塾大学出版会、2017年4月、本体3,800円、A5判上製272頁、ISBN978-4-7664-2415-7

★『吉本隆明全集(37)書簡I』は5月10日頃発売。第13回配本で、今回から第二期のスタートです。帯文に曰く「『試行』単独編集、試行出版部創設、『初期ノート』刊行、「全著作集」刊行開始――。1962~68年に白熱の核心をむかえる川上春雄宛全書簡150通余りを収録」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末の間宮幹彦さんによる解題によれば、川上春雄さんは吉本隆明さんにかんする資料の収集者であり、年譜作成者であり、著作集の編集・校訂をゆだねられた人物で、試行出版部の発行者だったと紹介されています。また、吉本さんと直接知り合うまでの経緯も解題に記載されています。その川上さんへの全書簡のほか、資料として吉本さん本人やそのご両親や友人に訪問取材した記録なども収録されています。付属の月報13は、山根貞男さんによる「ある世代の思い出」、田中和生さんの「文芸批評家から文人へ――書簡集刊行によせて」、ハルノ宵子さん「お気持ち」を掲載。次回配本は9月予定、第13巻(1972~1976年)で「はじめて外国の文学者たちを論じた『書物の解体学』と長くその資質にひかれて論じてきた『島尾敏雄』、その他の散文と詩を収録[単行本未収録二篇]」(全巻内容より)。

★『老子道徳経』は発売済。シリーズ「井筒俊彦英文著作翻訳コレクション」の第一回配本です。同コレクションは「『井筒俊彦全集』と併せて、今日にいたるまで世界で読み続けられている井筒俊彦の英文代表著作を、本邦初訳で提供し、井筒哲学の全体像をより克明に明らかにするもの」(特設サイトより)で、「日本語著作の空白の時代を埋める」(内容見本より)もの。全7巻全8冊の詳細や『老子道徳経』の目次詳細についても版元さんの特設サイトでご覧いただけます。『老子道徳経』の帯には中島隆博さんによる推薦文が掲載されていますが、それも特設サイトで読むことができます。凡例によれば底本は同出版会から2001年に刊行された『Lao-tzŭ:The Way and Its Virtue』で、「翻訳にあたり新たに原文を修正した部分がある。その異同などは適宜訳注に注記した」とのことです。本訳書には新たに訓読索引と事項索引が付されています。第2回配本は6月刊行予定、『クルアーンにおける神と人間――クルアーンの世界観の意味論』(鎌田繁監訳、仁子寿晴訳)とのことです。

+++

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

大航海時代の日本人奴隷――アジア・新大陸・ヨーロッパ』ルシオ・デ・ソウザ/岡美穂子著、中公叢書、2017年4月、本体1,400円、四六判並製208頁、ISBN978-4-12-004978-1
ジョルジュ・ペレック――制約と実存』塩塚秀一郎著、中公選書、2017年5月、本体2,600円、四六判並製456頁、ISBN978-4-12-110028-3
灰緑色の戦史――ドイツ国防軍の興亡』大木毅著、作品社、2017年5月、本体2,800円、46判上製400頁、ISBN978-4-86182-629-0
熟議民主主義の困難――その乗り越え方の政治理論的考察』田村哲樹著、ナカニシヤ出版、2017年5月、本体3,500円、A5判上製282頁、ISBN978-4-7795-1172-1

★『大航海時代の日本人奴隷』は発売済。カバー表4の紹介文は次の通り。「戦国時代の日本国内に、「奴隷」とされた人々が多数存在し、ポルトガル人が海外に連れ出していたことは知られていた。しかし、その実態は不明であり、顧みられることもほとんどなかった。ところが近年、三人の日本人奴隷がメキシコに渡っていたことを示す史料が見つかった。「ユダヤ教徒」のポルトガル人にたいする異端審問記録に彼らに関する記述が含まれていたのだ。アジアにおける人身売買はどのようなものだったのか。世界の海に展開したヨーロッパ勢力の動きを背景に、名もなき人々が送った人生から、大航海時代のもう一つの相貌浮かび上がる」。緒言にはこうあります。「我々〔著者〕がこの三人の「日本人奴隷」に関する記録に出会ったのは、マカオ、長崎、マニラを転々と暮らした「ユダヤ人」一家の異端審問裁判記録中であった。「ユダヤ人」とはいっても、国籍はポルトガル人で、さらには表面的にはカトリックのキリスト教徒であった。なぜ「ユダヤ教徒」のポルトガル人が、16世紀の長崎に住み、日本人を奴隷として連れ、アジア各地を転々としていたのか。それはアジアにおける人身売買と、多様な文化的アイデンティティを擁したイベリア半島社会の歴史が複雑かつ綿密に絡み合った結果に他ならない」(5頁)。目次も列記しておきます。緒言、はじめに、序章「交差するディアスポラ――日本人奴隷と改宗ユダヤ人商人の物語」、第一章「アジア」(Ⅰ:マカオ、Ⅱ:フィリピン、Ⅲ:ゴア)、第二章「スペイン領中南米地域」(Ⅰ:メキシコ、Ⅱ:ペルー、Ⅲ:アルゼンチン)、第三章「ヨーロッパ」(Ⅰ:ポルトガル、Ⅱ:スペイン)、おわりに、あとがき、参考文献、文献、注。あとがきによれば本書は、ポルトガルで出版されたルシオ・デ・ソウザ(Lúcio de Sousa, 1978-)の著書『16・17世紀の日本人奴隷貿易とその拡散〔Escravatura e Diáspora Japonesa nos séculos XVI e XVII〕』(NICPRI, 2014)の第一章と第二章を、吉田尚弘さんが翻訳し、著者の奥様でいらっしゃる岡美穂子さんが著者との調整のもと、日本で出版するにあたり、より理解しやすい内容と表現へと大幅に改稿したもの、とのことです。

★塩塚秀一郎『ジョルジュ・ペレック――制約と実存』はまもなく発売(5月8日頃)。カバー表4の内容紹介文は次の通りです。「ユダヤ系移民の子としてパリに生誕したペレックは、第二次世界大戦によって戦争孤児となり、想像を絶する人生の断絶を体験した。のち特異な言語遊戯小説の制作者となり、評価は歿後ますます高まっている。本書は、日常・自伝・遊戯・物語の四分類よりペレックの総合的読解に挑み、20世紀後半を彗星の如く駆け抜けた作家の魅力へと縦横に迫る」。目次を列記すると、はじめに、第1章「制約が語る――『煙滅』におけるリポグラムの意味」、第2章「制約下の自伝――『Wあるいは子供の頃の思い出』におけるフィクションと自伝」、第3章「制約と自由の相克――『人生 使用法』における諸プロジェクトの表象」、第4章「発見術としての制約――『さまざまな空間』はなぜ幸福な書物なのか」、おわりに――「大衆的な作家」、あとがき、注。ちなみに「リポグラム」とは「アルファベットの特定の文字を使わずに書く技法」(22頁)で、古代ギリシア以来の歴史があるそうです。ペレックには「リポグラムの歴史」という小文があります(酒詰治男訳、『風の薔薇(5)ウリポの言語遊戯』所収、書肆風の薔薇〔現・水声社〕、1991年、86~105頁)。周知の通りペレックの小説『煙滅』(水声社、2010年)はEを使わずに書かれており、それを塩沢さんはなんと、い段(いきしちにひみりゐ)を使わずにお訳しになっておられます。

★大木毅『灰緑色の戦史』は発売済。帯文はこうです。「シュリーフェン計画、電撃戦から、最後の勝利「ゼーロフ高地の戦い」まで、その“勝利”と“失敗”の本質から学ぶ。戦略の要諦、用兵の極意、作戦の成否。独自の視点、最新の研究、ドイツ連邦軍事文書館などの第一次史料の渉猟からつむがれる「灰緑色」の軍隊、ドイツ国防軍の戦史」。灰緑色はドイツ国防軍の軍服の色で、シンボルカラー。目次は以下の通りです。序「ドイツ国防軍にまつわる「神話」の解体」、第Ⅰ部「国防軍――その前史と誕生:第一次大戦 1939年」(第一章「軍事思想の相克」、第二章「総統と国防軍」)、第Ⅱ部「巨大なる戦場へ 1940-1944年」(第三章「閃く稲妻――電撃戦の時代」、第四章「ロシアのフォン・マンシュタイン」)、第Ⅲ部「鋼鉄軍の黄昏 1943-1945年」(第五章「ビヒモス陸に退く」、第六章「狼たちの落日」)、あとがき、註、主要参考文献、索引。作戦や戦線の数々を視覚化した作図の数々が圧巻です。

★田村哲樹『熟議民主主義の困難』はまもなく発売(5月15日頃)。田村哲樹(たむら・てつき:1970-)さんは名古屋大学大学院法学研究科教授でご専門は政治学・政治理論。複数のご著書がありますが、本書は『熟議の理由――民主主義の政治理論』(勁草書房、2008年)に続いて再び熟議民主主義(deliberative democracy)を論じたもの。序論によれば前著が「一定の包括的な構想を示そうとしたもの」で、今回の新著の主題は「熟議民主主義の困難」であり、その困難をもたらす阻害要因について論じられています。「本書の最終的な目的は、様々な阻害要因に対して、熟議民主主義の意義や可能性を擁護することである」(iii頁)。三部構成となっており(目次詳細は書名のリンク先をご参照ください)、第Ⅰ部「現代社会の状況への対応可能性」では「熟議では対応できないとされがちな現代社会の状況を取り上げ」、第Ⅱ部「問題としての思考枠組」では「熟議民主主義の、機能的に等価な代替案となり得る二つのもの〔情念、アーキテクチャ〕について検討」し、第Ⅲ部では「熟議民主主義に関する私たちの「思考枠組」こそが熟議の阻害要因となり得ると考え」、「思考枠組を転換し、より熟議民主主義の可能性を開くために三つの重要な問題〔親密圏、ミニ・パブリックス、自由民主主義〕を検討する」と。

+++

[PR]

by urag | 2017-04-30 23:32 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 28日

注目新刊『HAPAX 7:反政治』夜光社、注目イベント@PGI

★江川隆男さん(訳書:ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』)
夜光社さんの思想誌『HAPAX』第7号が刊行されました。江川さんは「最小の三角回路について――哲学あるいは革命」(118₋130頁)を寄稿されておられます。

反政治 ― HAPAX 7
夜光社 2017年4月 本体1200円 四六判変形並製186頁 ISBN978-4-906944-12-5

目次:
相模原の戦争(HAPAX+鼠研究会)
人民たちの反政治(HAPAX)
魂の表式(入江公康)
ウンコがしたい(栗原康)
翻訳解題
エイリアンと怪物――『ダーク・ドゥルーズ』における革命(アンドリュー・カルプ)
残酷の政治について(『ホスティス〔Hostis〕』1号より)
残酷の政治についての五つのテーゼ(『ホスティス〔Hostis〕』2号より)
最小の三角回路について――哲学あるいは革命(江川隆男)
火墜論(混世博戯党)
Raw power is laughin' at you and me.(World's Forgotten Boy)
武器を取れ――大道寺将司の俳句(友常勉)

a0018105_15150097.jpg

+++

★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
PGI(東京都港区東麻布2-3-4 TKBビル3F)で2017年5月10日(水)から7月8日(土)にかけて開催される、濱田祐史さんの写真展「Broken Chord」に関連して行われるトークショーにご出演されます。

◎濱田祐史×星野太トークショー

日時:2017年 6月17日 (土) 16:00~
会場:PGI
定員:30 名
料金:500 円(要予約/当日お支払い下さい)

内容:金沢美術工芸大学美術科芸術学専攻講師の星野太氏(美学/表象文化論)をお招きし、”exposure”というキーワードをもとに本作「Broken Chord」を紐解いていくと共に、濱田氏の過去の作品や東欧に滞在した体験にも触れるトークショーを予定しております。

+++


[PR]

by urag | 2017-04-28 15:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 23日

注目新刊:全編新訳『ヘーゲル初期論文集成』作品社、ほか

a0018105_00530708.jpg


ヘーゲル初期論文集成
G・W・F・ヘーゲル著 村田晋一/吉田達訳
作品社 2017年4月 本体6,800円 A5判上製695頁 ISBN978-4-86182-631-3
帯文より:処女作『差異論文』からキリスト教論、自然法論、ドイツ体制批判まで。哲学・宗教・歴史・政治分野の主要初期論文を全て新訳で収録。『精神現象学』に先立つ若きヘーゲルの業績。
目次:
Ⅰ 哲学論文
 フィヒテとシェリングの哲学体系の差異――ラインホルト『一九世紀初頭の哲学の状況をもっと簡単に概観するための寄与』第一部との関連で
 哲学的批判一般の本質、とりわけ哲学の現状にたいするその関係について
 懐疑主義と哲学の関係――そのさまざまな変種の叙述および最近の懐疑主義と古代懐疑主義の比較
 抽象的に考えるのはだれか
 ドイツ観念論最古の体系プログラム
Ⅱ 宗教論文
 ユダヤ人の歴史と宗教
 イエスの教えとその運命
 愛と宗教
一八〇〇年の宗教論
Ⅲ 歴史・政治・社会論文
 自然法の学問的な取りあつかいかた、実践哲学におけるその位置、および実定化した法学との関係について
 歴史的・政治的研究
 ドイツ体制批判
『ヘーゲル初期論文集成』解題
ヘーゲル略年譜
あとがき
人名索引

★発売済。「あとがき」によれば本書は「『精神現象学』刊行までの(年代的にはおよそ1795年から1807年までの)論文をおさめている。『精神現象学』は、哲学はもとより自然科学、歴史、芸術、政治、宗教といったじつに多彩な領域における西洋の知的遺産を弁証法という一貫した論理のもとに鳥瞰させてくれる画期的な著作だが、それを可能にしたのは青年時代の思索の積み重ねである。そこで本書は「Ⅰ 哲学論文」、「Ⅱ 宗教論文」、「Ⅲ 歴史・政治・社会論文」の三章を設けて、青年ヘーゲルの知的活動をできるかぎり多方面にわたって収録するように努めた」とのことです。また、未刊草稿である「キリスト教の精神とその運命」は「それに含まれる草稿群の執筆年代にかなりのばらつきがあり、ヘーゲル自身がまとまった著作を計画していたとは考えられないために、あえて二つに分けて「ユダヤ人の歴史と宗教」と「イエスの教えとその運命」とした」とのことです。初期ヘーゲルの著作群については複数の訳書がありますが、ここにまた刮目すべき新訳が加わったことになります。

★ヘーゲルの新訳は今月もう一冊、『美学講義』(寄川条路監訳、石川伊織・小川真人・瀧本有香訳)が法政大学出版局さんよりまもなく発売予定です。

+++

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

悪しき愛の書』フェルナンド・イワサキ著、八重樫克彦/八重樫由貴子訳、作品社、2017年4月、本体2,400円、四六判上製247頁、ISBN978-4-86182-632-0
群島と大学――冷戦ガラパゴスを超えて』石原俊著、共和国、2017年3月、本体2,500円、四六判並製276頁、ISBN978-4-907986-34-6
謀叛の児――宮崎滔天の「世界革命」』加藤直樹著、河出書房新社、2017年4月、本体2,800円、46変形判上製352頁、ISBN978-4-309-24799-1
痛みと感情のイギリス史』伊東剛史/後藤はる美編、東京外国語大学出版会、2017年3月、本体2,600円、四六判上製368頁、ISBN978-4-904575-59-8
ゾンビ学』岡本健著、人文書院、2017年4月、本体2,800円、4-6判並製340頁、ISBN978-4-409-24110-3
アジアの思想史脈――空間思想学の試み』山室信一著、人文書院:シリーズ・近現代アジアをめぐる思想連鎖、2017年4月、本体3,400円、4-6判上製376頁、ISBN978-4-409-52065-9
アジアびとの風姿――環地方学の試み』山室信一著、人文書院:シリーズ・近現代アジアをめぐる思想連鎖、2017年4月、本体3,400円、4-6判上製392頁、ISBN978-4-409-52066-6

★『悪しき愛の書』は発売済。原書はペルー版『Libro de mal amor』(Alfaguara, 2006)です。フェルナンド・イワサキ(Fernando Iwasaki Cauti, 1961-)はペルーの日系小説家。既訳書に『ペルーの異端審問』(八重樫克彦/八重樫由貴子訳、新評論、2016年7月)があり、同書には筒井康隆さんによる巻頭言、バルガス・リョサによる序文が寄せられていました。『悪しき愛の書』は訳書第二弾であり、全十章構成の小説です。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。三つの序文が収められているほか(スペイン版第三版・メキシコ版初版2011年への序文、スペイン版第二版・ペルー版初版2006年への序文、スペイン語版初版2001年への序文)、2006年版に収められたリカルド・ゴンサレス・ビヒルによる解説が訳出されています。

★『群島と大学』は発売済。著者の石原俊(いしはら・しゅん:1974-:明治学院大学社会学部教員)さんには歴史社会学と同時代分析の二領域でこれまで上梓されてきた『近代日本と小笠原諸島』『〈群島〉の歴史社会学』『殺すこと/殺されることへの感度』などの単独著がありますが、今回の新刊はそれらに収録されてこなかった文章のなかから大小約20本をセレクトし、大幅に加筆修正・再構成したものだそうです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。特に第三部「大学という現場──グローバリズムと国家主義の攻囲のなかで」は大学の先生方の著訳書を刊行したり販売したりしている出版人や書店人は読んでおいた方がいいと感じました。なお、本書は昨秋逝去された道場親信さんに捧げられています。

★『謀叛の児』はまもなく発売。出版社勤務のご経験もおありのノンフィクション作家、加藤直樹(かとう・なおき:1967-)さんによる、話題作『九月、東京の路上で――1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから、2014年)に続く単独著第二弾であり、「世界革命としての中国革命」(15頁)を標榜した宮崎滔天をめぐる評伝です。帯には安藤礼二さんと酒井隆史さんによる推薦文あり。「滔天が復活する」(安藤さん)、「滔天像を一新する驚嘆すべき書」(酒井さん)と。加藤さんは滔天を「いかなる意味でも右翼ではない」(11頁)と評し、アジア主義との見方にも疑義を呈します。「滔天は、独自の深い思索によって日本と中国、世界の行方を見つめ続けた人物であり、その射程の長さには驚くべきものがある」(14頁)。

★『痛みと感情のイギリス史』は編者の伊東さんによる巻頭の「無痛症の苦しみ」によれば、「近世から現代のイギリス史の中に六つの舞台を設定し、個々の具体的な事例を通じて痛みの歴史性を明らかにする。その六つの章を表すキーワードはそれぞれ、Ⅰ「神経」、Ⅱ「救済」、Ⅲ「情念」、Ⅳ「試練」、Ⅴ「感性」、Ⅵ「観察」である」と。収録論文は版元ウェブサイトで公開されています。痛みをめぐる文化史であり、感情史というユニークな分野の研究成果です。

★最後に人文書院さんの新刊3点です。『ゾンビ学』は「世界初、ゾンビの総合的学術研究書」と帯文に謳われています。「映画、マンガ、アニメ、ドラマ、小説、ゲーム、音楽、キャラクターなど400以上のコンテンツを横断し、あらゆる角度からの分析に挑んだ、気鋭による記念碑的著作」とも。書名のリンク先では目次詳細が公開されているほか、「はじめに」「第1章」「付録:資料のえじき―ゾンビな文献収集」をPDFで立ち読みすることができます。著者の岡本健(おかもと・たけし:1983-)さんは、奈良県立大学地域創造学部准教授。ご専門は観光学で、既刊の著書に『n次創作観光――アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』(NPO法人北海道冒険芸術出版、2013年2月)などがあります。

★山室信一さんの『アジアの思想史脈』『アジアびとの風姿』はまもなく発売。「近現代アジアをめぐる思想連鎖」というシリーズの二巻本になります。『アジアの思想史脈』の「はじめに」に曰く、この二巻本は「国内外での講演記録などのうちから、割愛した箇所やもう少し説明を要すると気がかりだった箇所などを補訂したものです。いえ、補訂という以上に、書き下ろしといえるほど全面的に書き改めたものがほとんどです」とのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

+++

[PR]

by urag | 2017-04-23 00:38 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 16日

注目新刊:鈴木祐丞訳『死に至る病』講談社学術文庫、ほか

a0018105_18351663.jpg



死に至る病』セーレン・キェルケゴール著、鈴木祐丞訳、講談社学術文庫、2017年4月、本体1,000円、A6判並製296頁、ISBN978-4-06-292409-2
人類の未来――AI、経済、民主主義』ノーム・チョムスキー/レイ・カーツワイル/ マーティン・ウルフ/ビャルケ・インゲルス/フリーマン・ダイソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2017年4月、本体940円、新書判並製320頁、ISBN978-4-14-088513-0
デカメロン(中)』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫、2017年4月、本体1,000円、文庫判並製560頁、ISBN978-4-309-46439-8

★鈴木祐丞訳『死に至る病』は版元紹介文に曰く「気鋭の研究者が最新の校訂版全集に基づいてデンマーク語原典から訳出するとともに、簡にして要を得た訳注を加えた、新時代の決定版と呼ぶにふさわしい新訳」と。創言社より1990年に刊行された『原典訳記念版キェルケゴール著作全集』第12巻所収の、山下秀智訳「死に至る病」(その後、2007年に同版元から単行本として刊行)以来の新訳です。現在も入手が可能な文庫では斎藤信治訳『死に至る病』(岩波文庫、1939年;改版1957年;著者名表記は「キェルケゴール」)や、桝田啓三郎訳『死にいたる病』(ちくま学芸文庫、1996年;元版は筑摩書房版『キルケゴール全集』第24巻所収、1963年;著者名表記は「キルケゴール」)がありますが、そろそろ新訳が望まれるところではあっただけに、今回の刊行はたいへん嬉しいものではないでしょうか。

★『人類の未来』は、NHK出版新書での吉成真由美さんによるインタビュー本2点、『知の逆転』(ジャレド・ダイアモンド/ノーム・チョムスキー/オリバー・サックス/マービン・ミンスキー/トム・レイトン/ジェームズ・ワトソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2012年12月、本体860円、ISBN978-4-14-088395-2)、『知の英断』(ジミー・カーター/フェルナンド・カルドーゾ/グロ・ハーレム・ブルントラント/メアリー・ロビンソン/マルッティ・アハティサーリ/リチャード・ブランソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2014年4月、本体780円、ISBN978-4-14-088432-4)に続く第3弾です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。個人的にはカーツワイルのインタビューに一番惹かれますが、それは科学技術の進歩によって人間が被る変化の近未来が、出版や読書に対しても影響を及ぼすためで、業界人として無関心ではいられないためです。帯文によれば約5年前の第1弾『知の逆転』は20万部を突破しているのだとか。今後の続刊にも期待したいです。

★『デカメロン(中)』では第四日から第七日までを収録。平川さんの解説は第三章「ボッカッチョの生涯とその革新思想」、第四章「ダンテを意識するボッカッチョ」、第五章「寛容という主張」が収められています。第五日第八話はかのボッティチェルリの連作絵画全四作の元ネタとなった、ナスタージョ・デリ・オネスティ(Nastagio degli Onesti)の物語です。呪いによる永劫の繰り返しは、主人公が迎えたハッピーエンドよりも古今の読者に衝撃を与えたことでしょう。下巻の発売予定日は5月8日とのことです。

+++

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

心を操る寄生生物――感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ著、西田美緒子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2017年4月、本体2,300円、四六判上製328頁、ISBN978-4-7726-9555-8
ほどける』エドウィージ・ダンティカ著、佐川愛子訳、作品社、2017年4月、本体2,400円、四六判上製303頁、ISBN978-4-86182-627-6
啓蒙と神話――アドルノにおける人間性の形象』藤井俊之著、航思社、2017年4月、本体3,800円、A5判上製368頁、ISBN978-4-906738-22-9
和歌のアルバム――藤原俊成 詠む・編む・変える』小山順子著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉4、2017年4月、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36444-6
異界へいざなう女――絵巻・奈良絵本をひもとく』恋田知子著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉5、2017年4月、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36445-3
陳独秀文集3 政治論集2 1930-1942』陳独秀著、江田憲治/長堀祐造編訳、平凡社:東洋文庫881、2017年4月、B6変型判上製函入504頁、ISBN978-4-582-80881-0

★特記したいのは『心を操る寄生生物』です。ネコを飼っている読者が衝撃を受けるかもしれない一冊。トキソプラズマの話でしょ、という賢明な読者にもお薦めします。それだけの話では終わらないからです。原書は『This Is Your Brain on Parasites: How Tiny Creatures Manipulate Our Behavior and Shape Society』(Eamon Dolan/Houghton Mifflin Harcourt, 2016)。ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』(みすず書房、2015年7月)、コリン『あなたの体は9割が細菌――微生物の生態系が崩れはじめた』(河出書房新社、2016年8月)、モントゴメリー&ビグレー『土と内臓――微生物がつくる世界』(築地書館、2016年11月)、デサール&パーキンズ『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』(紀伊國屋書店、2016年12月)など、ここ最近増えているマイクロバイオーム関連の既刊書を堪能した読者は、きっと本書の神経寄生生物学(neuroparasitology:ニューロパラサイトロジー/ニューロパラシトロジーとも)に興味を持たれるだろうと思います。「私たちはこれまで寄生生物の政治的な影響力を過小評価してきた。〔・・・〕たぶん地政学は寄生生物の観点から教えるべきものだ」(268頁)とも著者が書いている通り、文系の研究にも侵食しうる議論があります。類書に小澤祥司『ゾンビ・パラサイト――ホストを操る寄生生物たち』(岩波書店:岩波科学ライブラリー、2016年12月)があります。ちなみに著者のマコーリフさんはカール・ジンマー『パラサイト・レックス――生命進化のカギは寄生生物が握っていた』(光文社、2001年)を本書執筆の出発点として言及しています。

★『ほどける』の原書は『Untwine』(Scholastic Press, 2015)。訳者はあとがきで本書を「さまざまの形の愛と葛藤」を描いた作品と説明しつつ、次のような一節を引いています。「たぶんわたしたちはあまりに多くを持ちすぎ、他の人たちはあまりに持たなすぎる。他の人たちが絶えず苦しみのなかで生きているのに、わたしたちには喜びを味わう資格があると、いったい誰がいうのだろう? 毎日を死とともに過ごす人たちがいるのにわたしたちはいい人生を送らなければならないと、誰が言うのだろう?」(248頁)。

★『啓蒙と神話』は京都大学人文科学研究所助教の藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さんの博士論文を改稿したものです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「過ぎた昔を懐かしむのでもなく、まだ見ぬ明日の世界を希望的観測のもとに眺めるのでもなく、この現在において過去となり、また未来として現れもする時間の様相を、いまここから地続きに果てしなく続く地獄として冷徹に見据えるところから、アドルノの歴史哲学は構想されている。/地獄としての現在というアドルノの認識は、本書もまた共有するところである」(292-293頁)。本書のあとがきによれば藤井さんは岡田暁生さんとの共訳でアドルノの音楽論集『幻想曲風に』の翻訳作業を進めておられ、法政大学出版局から刊行される予定なのだそうです。

★『陳独秀文集3』はまもなく発売。全3巻の完結編です。帯文に曰く「近代中国の大先導者でありながら不等にその存在意義を貶められてきた思想家の主要論説を編訳。第3巻はトロツキズム転向後から晩年まで。生涯にわたる反対派の真面目」と。次回配本は5月刊、揖斐高訳注『柏木如亭詩集1』とのことです。

+++

★最後にナカニシヤ出版さんの最近の新刊の一部を列記します。

モダン京都――〈遊楽〉の空間文化誌』加藤政洋編、ナカニシヤ出版、2017年4月、本体2,200円、4-6判上製244頁、ISBN978-4-7795-1166-0
リバタリアニズムを問い直す――右派/左派対立の先へ』福原明雄著、ナカニシヤ出版、2017年4月、本体3,500円、4-6判上製280頁、ISBN978-4-7795-1156-1
ヒューム哲学の方法論――印象と人間本性をめぐる問題系』豊川祥隆著、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体3,500円、4-6判上製228頁、ISBN978-4-7795-1126-4
交錯と共生の人類学――オセアニアにおけるマイノリティと主流社会』風間計博編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体5,200円、A5判上製320頁、ISBN978-4-7795-1144-8
響応する身体――スリランカの老人施設ヴァディヒティ・ニヴァーサの民族誌』中村沙絵著、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体5,600円、A5判上製404頁、ISBN978-4-7795-1019-9
国際関係論の生成と展開――日本の先達との対話』初瀬龍平/戸田真紀子/松田哲/市川ひろみ編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体4,200円、A5判上製402頁、ISBN978-4-7795-1147-9
社会運動と若者――日常と出来事を往還する政治』富永京子著、2017年3月、本体2,800円、4-6判上製280頁、ISBN978-4-7795-1164-6
代表制民主主義を再考する――選挙をめぐる三つの問い』糠塚康江編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体4,600円、A5判上製348頁、ISBN978-4-7795-1145-5
交錯する多文化社会――異文化コミュニケーションを捉え直す』河合優子編、ナカニシヤ出版、2016年12月、本体2,600円、4-6判並製234頁、ISBN978-4-7795-1114-1

★特記したいのは加藤政洋編『モダン京都』と、富永京子『社会運動と若者』。前者は「文学作品、地図・絵図、そして古写真などを材料にして、モダン京都における〈遊楽〉の風景を探訪しながら、都市空間の随所に埋もれた場所の意味と系譜を掘り起こす試み」(序章、7頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。4月15日に放映されたNHK「ブラタモリ」の第70回「京都・祇園――日本一の花街・祇園はどうできた?」を楽しまれた方は本書でいっそう興味深い歴史の細部が学べます。『社会運動と若者』は、立命館大学准教授の富永京子(とみなが・きょうこ:1986-)さんによる、博士論文の書籍化である『社会運動のサブカルチャー化――G8サミット抗議行動の経験分析』(せりか書房、1986年)に続く単独著第2作。「「世代」や「学生」であることに基づく運動の特質があるという論じ方ももはや有効ではなく、ネガティブな批判にせよ、ポジティブな持て囃しにせよ、年長者が自らのものさしで若者を論じているだけなのではとも感じている。私たち年長者は自分たちが思うほど若くないし、若者たちは思った以上に年長者とは異なる体験を生きている。だからこそ、彼らの意味世界を汲み尽くす試みからまずは始める必要があるのではないか」(ii-iii頁)と富永さんは巻頭の「はじめに」で読者に問いかけておられます。

a0018105_18483882.jpg


+++

[PR]

by urag | 2017-04-16 18:37 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)