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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 868 )


2017年 03月 26日

注目新刊:國分功一郎『中動態の世界』医学書院、ほか

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中動態の世界――意志と責任の考古学
國分功一郎著
医学書院 2017年3月 A5判並製336頁 ISBN978-4-260-03157-8

帯文より:「しゃべっている言葉が違うのよね」。ある依存症当事者がふと漏らした言葉から、「する」と「される」の外側への旅がはじまった。若き哲学者は、バンヴェニスト、アレントに学び、デリダ、ハイデッガー、ドゥルーズを訪ね直し、細江逸記を発見し、アガンベンに教えられ、そして新たなスピノザと出会う。 失われた「態」を求めて。

目次:
プロローグ――ある対話
第1章 能動と受動をめぐる諸問題
第2章 中動態という古名
第3章 中動態の意味論
第4章 言語と思考
第5章 意志と選択
第6章 言語の歴史
第7章 中動態、放下、出来事――ハイデッガー、ドゥルーズ
第8章 中動態と自由の哲学――スピノザ
第9章 ビリーたちの物語

あとがき

★「シリーズ ケアをひらく」の最新刊。知の考古学者としての國分さんの才気がもっとも生きいきと示された本です。ごく図式的に言えば、國分さんのこれまでの著作には『暇と退屈の倫理学』や『ドゥルーズの哲学原理』のような哲学的著作と、『近代政治哲学』や『民主主義を直感するために』のような政治的著作があったわけですが、この二つの分岐が、文法や言葉をめぐる史的探究としての『中動態の世界』へとついに合流した、という印象があります。この流れは國分さんを、デビュー作『スピノザの方法』と同様に、再びスピノザの精読へと促す還流でもあったかもしれません(第8章)。さらに本書では、その円環は自由論として兆す問いの地平へと思考を発出し始めているように思えました。

★同書の刊行を記念して、以下のトークイベントが行われる予定です。定員40名のところ、告知開始初日である昨日25日(土)の夜ですでに20名まで予約が入ったそうなので、参加ご希望の方はお早めにご予約下さい。【3月27日18時現在予約満席となりました。まことにありがとうございました。

◎國分功一郎×星野太「中動態と/の哲学」【満席御礼

日時:2017年04月29日(土)19:30開演(19時開場)
場所:ジュンク堂書店池袋本店4F喫茶コーナー
料金:1000円(1ドリンク付、当日4F喫茶受付にて精算)
予約:ジュンク堂書店池袋本店1Fサービスコーナーもしくは電話03-5956-6111

内容:このたび國分功一郎さんが出版された『中動態の世界』(医学書院)は「中動態」という失われた文法を追い求めながら、人間の存在そのものを問い直そうとする野心作です。対話相手の星野太さんは上梓したばかりの初の単著『崇高の修辞学』(月曜社)の中で、「言葉と崇高」という言語一般を問い直す問題に挑んでいます。哲学と言語という古くて新しい論点を巡る対話。いま最も思弁的であり、最も思弁的であるが故にアクチュアルな二冊の本の著者がジュンク堂に集います!

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★國分さんの新刊『中動態の世界』の発売前後には次のような新刊も発売されています。いずれも書名のリンク先に書誌情報や目次詳細がありますので、ご参照ください。

デカルト 医学論集』ルネ・デカルト著、山田弘明/安西なつめ/澤井直/坂井建雄/香川知晶/竹田扇訳、アニー・ビトボル=エスペリエス序、法政大学出版局、2017年3月、本体4,800円、A5判上製326頁、ISBN978-4-588-15082-1
グリム兄弟言語論集――言葉の泉』ヤーコプ・グリム/ヴィルヘルム・グリム著、千石喬/高田博行編、千石喬/木村直司/福本義憲/岩井方男/重藤実/岡本順治/高田博行/荻野蔵平/佐藤恵訳、ひつじ書房、2017年2月、本体12,000円、A5判上製398頁、ISBN978-4-89476-850-5
二人称的観点の倫理学――道徳・尊敬・責任』スティーヴン・ダーウォル著、寺田俊郎監訳、会澤久仁子訳、法政大学出版局、2017年3月、本体4,600円、四六判上製462頁、ISBN978-4-588-01052-1
新版アリストテレス全集(18)弁論術/詩学』堀尾耕一/野津悌/朴一功訳、岩波書店、2017年3月、本体7,600円、A5判上製函入500頁、ISBN978-4-00-092788-8

★デカルトについては知泉書館版『全書簡集』全8巻が昨春完結しており、今回『医学論集』が成ったわけですが、この『医学論集』のあとがきによれば、続刊として、法政大学出版局では『デカルト 数学・自然学論集』が、知泉書館からは『ユトレヒト紛争書簡集』が予定されており、「これでデカルト研究の典拠とされるいわゆるアダン・タヌリ版全集全11巻のほとんどすべてが日本語で読めることになる」とのことです。

★グリム兄弟については童話以外の訳書を本屋さんで探すのがなかなか難しいのが現状なので、ご参考までに下記にまとめておきます。

ドイツ・ロマン派全集(15)グリム兄弟』小沢俊夫/谷口幸男/寺岡寿子/原研二/堅田剛訳、国書刊行会、1989年(品切)
『グリム兄弟往復書簡集――ヤーコプとヴィルヘルムの青年時代』全5巻、山田好司訳、本の風景社、2002~2007年(第1巻のみ書名は『グリム兄弟自伝・往復書簡集』。ブッキング〔現・復刊ドットコム〕よりPOD版として刊行されていたものの現在は入手できない様子。なお訳者の山田さんは同じく本の風景社より2010~11年に『わが生涯の回想――グリム兄弟の弟ルートヴィヒ・エーミール・グリム自伝』上下巻を上梓されており、こちらは入手可能なようです。)
ヤーコプ・グリム 郷土愛について――埋もれた法の探訪者の生涯』稲福日出夫編訳、編集工房東洋企画、2006年
グリム兄弟 メルヘン論集』高木昌史/高木万里子訳、法政大学出版局、2008年

★ダーウォル(Stephen Darwall, 1946-)は現在、イェール大学アンドリュー・ダウニー・オリック教授であり、ミシガン大学ジョン・デューイ卓越名誉教授。初訳となる本書は、『The Second-Person Standpoint: Morality, Respect, and Accountability』(Harvard University Press, 2006)の第一部、第二部、第四部を訳出したもの。監訳者解説によれば「原著は全四部・十二章からなるが、その第三部にあたる第七章「二人称の心理学」および第八章「間奏――正義をめぐるリードとヒューム」を、原著者と相談のうえ、割愛した」と。補助的な章であることを考慮し大部な訳書になることを避けたとのことです。

★『新版アリストテレス全集(18)弁論術/詩学』は予定より約5か月遅れの第15回配本。「弁論術」堀尾耕一訳、「アレクサンドロス宛の弁論術」野津悌訳、「詩学」朴一功訳、を収録。付属の「月報15」は新版全集の編集委員のお一人で昨秋逝去された神崎繁さんへの、中畑正志さんによる「惜別の辞」が掲載されています。「神崎さんが執筆する予定だった『政治学』の解説はどのようなものとなったのだろうか、と想像して、それが読めないことが残念でなりません」とお書きになっておられます。同月報の「編集部より」によれば第17巻「政治学」は内山勝利訳・解説から、神崎繁/相沢康隆/瀬口昌久訳、内田勝利解説となるそうです。同月報では、第16巻「大道徳学/エウデモス倫理学」、第8~9巻「動物誌」の正誤表も記載されています。次回配本は7月末刊行予定、第4巻「自然学」とのことです。

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★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。

遊戯の起源――遊びと遊戯具はどのようにして生まれたか』増川宏一著、平凡社、2017年3月、本体3,600円、4-6判上製306頁、ISBN978-4-582-46821-2
〈増補新版〉文化的再生産の社会学――ブルデュー理論からの展開』宮島喬著、藤原書店、2017年3月、本体4,200円、A5判上製368頁、ISBN978-4-86578-118-2

★増川宏一『遊戯の起源』は帯文に曰く「社会性の形成とともに生まれた人間の遊びの起源と変化、遊戯具に秘められた多彩な知恵と活動のあとを読み解く」もの。図版多数。目次を列記すると、はじめに、序章「ヒトは賢い」、第一章「遊びへの準備」、第二章「身体能力の競い」、第三章「道具を用いる遊び」、第四章「遊戯具の起源」、終章、おわりに、あとがき、参考文献、索引。あとがきによれば、本書をもって著者の一連の遊戯史研究が完結したとのことです。

2006年05月『遊戯――その歴史と研究の歩み』法政大学出版局/ものと人間の文化史
2010年10月『盤上遊戯の世界史――シルクロード 遊びの伝播』平凡社
2012年02月『日本遊戯史――古代から現代までの遊びと社会』平凡社
2014年09月『日本遊戯思想史』平凡社
2017年03月『遊戯の起源』平凡社

★宮島喬『〈増補新版〉文化的再生産の社会学』は、1994年刊の旧版とことなるのは、巻頭に「増補新版への序文」が加えられ、第Ⅱ部「ブルデュー理論からの展開」の第8章「エスニシティと文化的再生産論」に「補論」が足され、あらたに第10章「「子どもの貧困」と貧困の再生産――一ノートとして」が新設された、という3点です。

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by urag | 2017-03-26 23:18 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 03月 20日

注目新刊:櫂歌書房版『プラトーン著作集』、ほか

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人生の短さについて 他2篇』セネカ著、中澤務訳、光文社古典新訳文庫、2017年3月、本体900円
デカメロン 上』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫、2017年3月、本体1,000円
北欧の神話』山室静著、ちくま学芸文庫、2017年3月、1,000円
組織の限界』ケネス・J・アロー著、村上泰亮訳、ちくま学芸文庫、2017年3月、本体1,000円
重力と恩寵』シモーヌ・ヴェイユ著、冨原眞弓訳、岩波文庫、2017年3月、本体1,130円
口訳万葉集(上)』折口信夫著、岩波現代文庫、2017年3月、本体1,400円
『老子』――その思想を読み尽くす』池田知久訳注、講談社学術文庫、2017年3月、本体2,200円
新版 雨月物語 全訳注』上田秋成著、青木正次訳注、講談社学術文庫、2017年3月、本体1,650円
アルキビアデス クレイトポン』プラトン著、三嶋輝夫訳、講談社学術文庫、2017年3月、本体820円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第一分冊 第一アルキビアデース/ヒッパルコス/第二アルキビアデース』水崎博明訳、櫂歌全書16/櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年2月、本体2,800円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第二分冊 プロータゴラース』水崎博明訳、櫂歌全書17/櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年2月、本体2,200円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第三分冊 ピレーボス』水崎博明訳、櫂歌全書18/櫂歌書房、星雲社発売、2017年2月、本体2,800円
『プラトーン著作集 第七巻 自然哲学 ティーマイオス/クリティアース』水崎博明訳、櫂歌全書19/櫂歌書房、星雲社発売、2017年2月、本体3,000円
復刻版 きけ小人物よ!』ウィルヘルム・ライヒ著、片桐ユズル訳、赤瀬川源平挿画、新評論、2017年2月、本体2,000円

★まずは文庫新刊から。光文社古典新訳文庫のセネカ『人生の短さについて 他2篇』は表題作のほか、「母ヘルウィアへのなぐさめ」と「心の安定について」を収録。岩波文庫版では樋口勝彦訳(『幸福なる生活について 他一篇』1954年;「人生の短さについて」を併載)、茂手木元蔵訳(『人生の短さについて 他二篇』1980年;「心の平静について」「幸福な人生について」を併載)、大西英文訳(『生の短さについて 他二篇』2010年;「心の平静について」「幸福な人生について」を併載)という風に長く読み継がれてきた名著です。「母ヘルウィアへのなぐさめ」は文庫では初訳(単行本としては大西英文訳が岩波書店版『セネカ哲学全集(2)倫理論集Ⅱ』2006年に、茂手木元蔵訳が東海大学出版会〔現・東海大学出版部〕『セネカ道徳論集』1989年に収録)。皇帝ネロの教育係を務め、自死を命じられた哲人の言葉は二千年の時を超えて今なお読む者の胸に刺さります。ローマ帝国の爛熟期と現代社会がどこか似ているからでしょうか。

★次に河出文庫。平川訳『デカメロン』は親本が2012年刊。全3巻で文庫化。文庫での同作の既訳には、柏熊達生訳(既刊2巻、世界古典文庫、1948~49年;全10巻、新潮文庫、1954~56年;全3巻、ちくま文庫、1987~88年)、野上素一訳(全6巻、岩波文庫、1949~59年)、高橋久訳(全5巻、新潮文庫、1965~66年)、河島英昭訳(上下巻、講談社文芸文庫、1999年)などがありますが、現在も新本で入手可能なのは河島訳のみ。平川訳には長編の訳者解説が付されていて、上巻では第一章「西洋文学史上の『デカメロン』」、第二章「新訳にあたって」を収録。中巻は4月6日発売予定。

★次にちくま学芸文庫。山室静『北欧の神話』は筑摩書房版「世界の神話」シリーズで刊行された単行本(1982年)の文庫化。訳書ではなく、解説を交えた再説本。ですます調が柔らかく、若年の読者層にも訴求するのではないかと思います。アロー『組織の限界』は岩波書店の単行本(初版、1976年;岩波モダンシラシックス、1999年)からのスイッチ。文庫版オリジナルの巻末解説は慶応大学経済学部教授の坂井豊貴さん。「読者は本書『組織の限界』から、情報という厄介なもの、そして信頼という貴重な資産について、考えさせられることになるだろう」(162頁)という結語に至る前半部の論説がユニーク。

★続いて岩波文庫および岩波現代文庫。『重力と恩寵』は『自由と社会的抑圧』(2005年)、『根をもつこと』(上下巻、2010年)に続く、冨原眞弓さん訳による岩波文庫のヴェイユ新訳本。文庫の既訳には田辺保訳(講談社文庫、1974年;ちくま学芸文庫、1995年)があります。『口訳万葉集』は全三巻予定の上巻。解説「最高に純粋だった」は文芸評論家の持田叙子さんによるもの。中公文庫版「折口信夫全集」では第4巻と5巻の上下巻でした(1975~76年)。

★最後に講談社学術文庫。池田知久訳注『『老子』』は『淮南子』『荘子』に続く、同文庫での池田さんによる懇切な訳注本。『老子』の「諸思想を総合的・体系的に解明し、一般読者にその諸思想のありのままの内容を分かりやすい形で提供しよう」(凡例より)というもので、巻末には原文・読み下し、現代語訳がまとめられています。同文庫では、金谷治さんによる訳解本である『老子』が1997年に刊行されていますが、それを残しつつ新刊も出すという講談社さんの姿勢は好ましいですし正しいです。青木正次訳注『新版 雨月物語 全訳注』は同文庫の同氏による訳注本上下巻(1981年)を再構成し、一巻本としたもの、とのことです。原文(原文が漢文の場合は読み下し付き)、現代語訳、語文注、考釈という構成。プラトン『アルキビアデス クレイトポン』三嶋輝夫訳は文庫オリジナルの新訳。訳者の三嶋さんは同文庫ではプラトンの『ラケス』を1997年に、『ソクラテスの弁明・クリトン』を1998年に上梓されています。「アルキビアデス」の副題は「人間の本性について」、「クレイトポン」は「徳の勧め」です。

★続いて単行本新刊。水崎博明訳『プラトーン著作集』(全10巻27冊予定)は、福岡の出版社「櫂歌書房(とうかしょぼう)」さんより刊行中の個人全訳。第六巻第一分冊に収められたのは「第一アルキビアデース――人間の本性について」「ピッパルコス――利得の愛好者」「第二アルキビアデース――祈願について」。短期間に先述の三嶋訳とこの水崎訳の二つの新訳が上梓されたわけで、驚くべき成果です。櫂歌書房は星雲社扱いで、基本的にパターン配本はないでしょうから、大型書店でも限られた店舗でしか見かけないかもしれませんが、取り寄せは比較的に容易ですから、買い逃す手はありません(ネット書店の場合、アマゾンよりもhontoの方が便利です)。ここまで既刊15巻が上梓されていますが、2月付で4点を発行。2011年2月の第1回配本以降、27冊中19巻までたどり着いたことになります。最新巻である第七巻は「自然哲学」部門であり、「ティーマイオス」と「クリティアース」が一冊にまとめられています。次回配本は順番通りであれば第八巻「人間存在の在るところ」部門となり、三分冊の「国家」に「クレイトポーン」が含まれることになります。全巻共通の感動的な「序」の冒頭には、水崎さんの恩師の言葉が刻まれています。「しかし、プラトンは、僕は思うが、未だ誰一人にも読まれてはいないのだ」。

★ライヒ『復刻版 きけ小人物よ!』片桐ユズル訳は、太平出版社版『W・ライヒ著作集』第4巻(1970年)の復刻。旧版は刊行10年余の間に10刷を数えるロングセラーでした。復刻にあたり、巻頭には訳者による「復刻に寄せて――訳者巻頭言」が新たに付されています。赤瀬川源平さんによる挿画本であることを知っているのは中年以上の世代でしょうから、若い読者には新たな出会いとなることと思います。しかし、本書が素晴らしいのは赤瀬川さんの超現実主義的な挿画による以上にその内容です。「小人物よ、あなたがどんなであるかあなたは知りたいでしょう。あなたはラジオで便秘薬や歯みがきやデオドラントの広告を聞く。しかしあなたにはプロパガンダの音楽は聞こえない。あなたの耳をとらえようとしてつくられているこれらのものの吐き気のするような悪趣味と底知れぬおろかしさをあなたはわからないでいる。ナイトクラブの司会者たちがあなたについてしゃべっている冗談をちゃんときいたことがありますか? あなたについて、かれ自身について、あなたのみじめなちっぽけな世界のすべてについての冗談。あなたの便秘薬の広告をきいてあなたがどんなふうな、どんな人間であるかを知りなさい」(53頁;旧版では59頁;おそらくこの言葉に読者の方が見覚えがあるとしたらそれは、キィの名著『メディア・セックス』の引用だからかもしれません)。実を言えば私はこの著作をドイツ語原書からの新訳で再刊したいと念願してきましたが、今まで果たせずにきました。片桐訳は英訳からの重訳ではあるものの、充分に読み応えがある名訳です。ちなみに太平出版社のライヒ著作集は全10巻のうち半分まで刊行されて途絶しましたが、未刊の半分はすべて他社から翻訳が出ているので、既訳を利用すれば全10巻を再現できます。今こそライヒを再評価すべき時です。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

無名鬼の妻』山口弘子著、作品社、2017年3月、本体1,600円、46判上製468頁、ISBN978-4-86182-624-5
『触れることのモダニティ――ロレンス、スティグリッツ、ベンヤミン、メルロ=ポンティ』高村峰生著、以文社、2017年2月、本体3,200円、菊判上製314頁、ISBN978-4-7531-0339-3
ドゥルーズと多様体の哲学――二〇世紀のエピステモロジーにむけて』渡辺洋平著、人文書院、2017年2月、本体4,600円、4-6判上製370頁、ISBN978-4-409-03093-6
ラカン 真理のパトス――一九六〇年代フランス思想と精神分析』上尾真道著、人文書院、2017年3月、本体4,500円、4-6判上製344頁、ISBN978-4-409-34050-9
フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データ』日野行介/尾松亮著、人文書院、2017年2月、本体1,800円、4-6判並製208頁、ISBN978-4-409-24115-8
日本人のシンガポール体験――幕末明治から日本占領下・戦後まで』西原大輔著、人文書院、2017年3月、本体3,800円、4-6判上製312頁、ISBN978-4-409-51074-2
近代皇族妃のファッション』青木淳子著、中央公論新社、2017年3月、本体4,000円、A5判上製416頁、ISBN978-4-12-004957-6
ユネスコ番外地 台湾世界遺産級案内』平野久美子編著、中央公論新社、2017年3月、本体1,400円、A5判並製128頁、ISBN978-4-12-004959-0
西洋美術の歴史7 19世紀:近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ』尾関幸/陳岡めぐみ/三浦篤著、中央公論新社、2017年2月、本体3,800円、B6判上製600頁、ISBN978-4-12-403597-1

★まず作品社さんの新刊。山口弘子『無名鬼の妻』は帯文に曰く「悲劇の文人・村上一郎との波瀾の半生。海軍主計中尉との出会いから、その壮絶な自死まで。短歌と刀を愛した孤高の文人・村上一郎の悲運に寄り添い支え続けた妻、93歳の晩晴!」と。「戦後、ジャーナリスト、編集者として活躍し、思想家であり、文芸評論家で、小説も書き、日本の古典と詩歌をこよなく愛した歌人でもあった」(「プロローグ」より)村上一郎(1920-1975)さんの伴侶だった人形作家、長谷えみ子さんの半生を取材した本です。無名鬼とは村上さんが創刊した文芸誌の名前。貴重な証言から成る無類の一冊です。

★次に以文社さんの新刊。高村峰生『触れることのモダニティ』は、イリノイ大学大学院へ2011年に提出された英文の博士論文『Tactility and Modernity』を日本語に直し、大幅な改稿と増補を施したもの。序論「触覚とモダニズム」、第一章「後期D・H・ロレンスにおける触覚の意義」、第二章「スティーグリッツ・サークルにおける機械、接触、生命」、第三章「ヴァルター・ベンヤミンにおける触覚の批判的射程」、第四章「触覚的な時間と空間――モーリス・メルロ=ポンティのキアスム」、結論、あとがき、という構成。結論の末尾近くで著者はこう記しています。「本稿が検討したモダニストたちの多くは〔・・・〕接触〔contact〕のエピファニー的な性質に言及していた。彼らは触覚=接触が西洋の伝統的な時間・空間概念、ならびに主体と世界との静的な関係に挑戦すると考えたのだ」(244頁)。

★続いて人文書院さんの新刊。渡辺洋平『ドゥルーズと多様体の哲学』は博士論文を増補改訂したもの。多様体(multiplicité)とはドゥルーズにおいて「特殊な個体化のあり方をとらえるために考案された概念であり、ひとつの固定した人格や性格、性別、あるいは種や類、主体と言った概念とは全く異なる思考法のために創造された概念である」(222頁)と著者は解説します。生成変化や此性、固有名もそこに連なります上尾真道『ラカン 真理のパトス』は21日(火)取次搬入でまもなく発売。ラカンの1960年代の仕事の解明を目指したもので、2011年から2016年にかけて発表してきた成果に書き下ろし(第七章「科学の時代の享楽する身体」)を加えた一書。著者の単独著第一作です。日野行介/尾松亮『フクシマ6年後 消されゆく被害』は、福島における小児甲状腺がんの多発と原発事故の因果関係をなんとか誤魔化そうとする国、県、医師たちの卑劣さを追及した痛烈な本。「情報がいびつにシャットダウンされた社会で、民主主義はありうるのだろうか」(199頁)という言葉が胸に刺さります。西原大輔『日本人のシンガポール体験』は巻頭の「はじめに」によれば、「主に幕末から戦後に至る百年あまりの間に、日本人が旅行記に記録し、絵画に描き、文学の舞台とし、音楽や映画の題材としたシンガポールのイメージを論じたもの」で、「日本人の眼に映ったシンガポールの姿を日本文化史の中に探り、その全体像を描こうと試みた」もの。元は日本シンガポール協会の機関誌に2000年から2011年まで連載された文章とのことです。

★最後に中央公論新社さんの新刊です。青木淳子『近代皇族妃のファッション』は博士論文をもとに書籍化。「日本人の洋装化、生活文化の近代化をリードした皇族妃たち」(帯文より)を研究したもので、梨本宮伊都子妃と朝香宮允子妃の例が詳細に検討されています。カラーを含む図版多数。著者は婦人画報社の編集者を務めたご経験もおありです。細野綾子さんによる組版と装丁が美しいです。『ユネスコ番外地 台湾世界遺産級案内』は書名の「級」の字がミソ。「台湾には世界遺産が一つもない」(帯文より)ながら、素晴らしい自然と文化に恵まれており、本書ではオールカラーで18の名所が紹介されています。『西洋美術の歴史』第7巻は第5回配本。「今ここにあるものこそ美しい。革新と多様性の世紀」(帯文より)と謳う本書では19世紀が扱われ、「多様なベクトルが作用して、坩堝のような混沌」(序章、39頁より)が描出されています。

◎『西洋美術の歴史』既刊書と次回配本(すべて本体価格は3,800円)

2016年10月:第4巻「ルネサンスⅠ:百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現」小佐野重利/京谷啓徳/水野千依著、ISBN978-4-12-403594-0
2016年11月:第6巻「17~18世紀:バロックからロココへ、華麗なる展開」大野芳材/中村俊春/宮下規久朗/望月典子著、ISBN978-4-12-403596-4
2016年12月:第2巻「中世Ⅰ:キリスト教美術の誕生とビザンティン世界」加藤磨珠枝/益田朋幸著、ISBN978-4-12-403592-6
2017年01月:第1巻「古代:ギリシアとローマ、美の曙光」芳賀京子/芳賀満著
2017年02月:第7巻「19世紀:近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ」尾関幸/陳岡めぐみ/三浦篤著、ISBN978-4-12-403593-3
2017年03月:第3巻「中世Ⅱ:ロマネスクとゴシックの宇宙」木俣元一/小池寿子著、ISBN978-4-12-403593-3

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by urag | 2017-03-20 16:39 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 03月 12日

注目新刊:森元斎『アナキズム入門』ちくま新書、ほか

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アナキズム入門
森元斎著
ちくま新書、2017年3月、本体860円、新書判272頁、ISBN978-4-480-06952-8

帯文より:「森元斎は共が飢えていたらパンをかっぱらってでも食わしてくれる。魂のアナキストだ。アニキ!!」栗原康氏推薦!

カバーソデ紹介文より:国家なんていらない。資本主義も、社会主義や共産主義だって要らない。いまある社会を、ひたすら自由に生きよう――そうしたアナキズムの施行は誰が考え、発展させてきたのか。生みの親プルードンに始まり、奇人バクーニン、聖人クロポトキンといった思想家、そして歩く人ルクリュ、暴れん坊マフノといった活動家の姿を、生き生きとしたアナーキーな文体で、しかし確かな知性で描き出す。気鋭の思想史研究者が、流動する瞬間の思考と、自由と協働の思想をとらえる異色の入門書。

目次:
はじめに
第一章 革命――プルードンの智慧
第二章 蜂起――バクーニンの闘争
第三章 理論――聖人クロポトキン
第四章 地球――歩く人ルクリュ
第五章 戦争――暴れん坊マフノ
おわりに
引用文献

★発売済。デビュー作『具体性の哲学――ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考』(以文社、2015年)が胚胎していたアナキズム思想への枝分かれが、ついに開花へと転じていくさまを感じさせる、鮮烈な一冊が生まれた、というのが第一印象です。文体は盟友である栗原康さんとの共振を感じさせ、短く畳みかけていく音楽性が心地よいです。「本当は、みんなアナキストだ」(13頁)、「反国家を掲げずとも、皆アナキストでしかない。そしてコミュニストでしかない」(14頁)。生きている限りお互い助け合う関係(17頁)、「互酬性なき贈与の関係」(18頁)、それをアナキズム、コミュニズム、アナルコ・コミュニズムの基底に見るところから本書は出発します。「相互扶助を行っていた種こそが常に子孫を残し、?栄していった。虫のほとんどは、群れをなして、何千年も生きているではないか! 人間だって、そうだろう。アナルコ・コミュニズムはいたるところにあるし、それが基盤にある。私たちは虫である、動物である、人間である、自然である。ただ生きている。生そのもののあり方、それがアナルコ・コミュニズムなのではないだろうか」(20頁)。

★本書は目次にある通り、過去の様々なアナキストの活躍を活写するもので、権威権力上司先生からの抑圧に日々うんざりしている人々すべてに「暴れる力」(参照:栗原康『現代暴力論――「あばれる力」を取り戻す』角川新書、2015年)を思い出させてくれます。おそらく「暴れる力」、爆発的な生命力は、本当は誰しもが幼い頃には持ち合わせていた何かではなかったかと思います。「大人しさ」とは対極的なこの力が自分の中にもまだあることを本書は教えてくれる気がします。実に爽快な一書です。ネタバレはやめておきますが、あとがきの最後にある一言も素敵です。アナキスト人類学者であるグレーバーの『負債論――貨幣と暴力の5000年』(酒井隆史監訳、高祖岩三郎・佐々木夏子訳、以文社、2016年11月)がよく売れた書店さんなら、森さんの『アナキズム入門』も必ず売れると思います。ちょうどひと月前、森さんと栗原さんはほかならぬ『負債論』をめぐるトークイベントを某書店さんで行っています。

★なお、森さんが「現在の私たちが読むべき本だと本当に思う」と激賞されているクロポトキンの『相互扶助論』は先月、「〈新装〉増補修訂版」が同時代社から発売されています。大杉栄訳。内田樹さんはこの本に次のような推薦文を寄せておられます「定常経済・相互扶助社会は「夢想」ではなくて、歴史の必然的帰結です。意図的に創り出さなくても、自然にそうなります。この企ての合理性が理解できない人たちは「弱者を支援するために作られた組織」の方が「勝者が総取りする組織」よりも淘汰圧に強いということを知らないのでしょう。――『相互扶助論』をぜひお手に取って頂きたいと思います。クロポトキンは相互扶助する種はそうしない種よりも生き延びる確率が高いという生物学的視点からアナーキズムを基礎づけようとしました。なぜアナーキズムが弾圧されたのか、その理由が読むと分かります。国家による「天上的介入」抜きで市民社会に公正と正義を打ち立てることができるような個人の市民的成熟をアナーキズムは求めました。「公正で雅量ある国家」を建設するより前に、まずその担い手たる「公正で雅量ある市民」を建設しようとしたことに国家は嫉妬したのです」。

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★このほか最近では以下の新刊に目が留まりました。

語録 要録』エピクテトス著、鹿野治助訳、中公クラシックス、2017年3月、本体1,600円、新書判284頁、ISBN978-4-12-160172-8
不安(上)』ジャック・ラカン著、ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之/鈴木國文/菅原誠一/古橋忠晃訳、岩波書店、2017年3月、本体4,900円、A5判上製248頁、ISBN978-4-00-061186-2
メディアの本分――雑な器のためのコンセプトノート』増田幸弘編、彩流社、2017年3月、本体2,200円、四六判並製280頁、ISBN978-4-7791-7087-4

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★エピクテトス『語録 要録』は中公バックス版『世界の名著14 キケロ エピクテトス マルクス・アウレリウス』(1980年)からのスイッチ。同じ訳者による『エピクテートス 人生談義』(上下巻、岩波文庫、1958年)との違いについてですが、底本は共に1916年のトイプナー版ではあるものの(中公クラシックス版には原典情報が記載されていないため親本である『世界の名著』版の巻頭にある鹿野治助さんによる解説「古代ローマの三人の思想家」の末尾にある「後記」を参照)、岩波文庫の方は現存する『語録』全4巻を全訳し、関連する断片と『提要』(『要録』のこと)を訳出したものであり、いっぽう、中公クラシックス版は岩波文庫より10年下った1968年に出版されたハードカバー版『世界の名著13』で実現された改訳版であり、『語録』の抄訳と『要録』の全訳を収めています。この改訳版では『語録』は各章の順番が入れ替えられるなどの工夫が為されています。さらに今回の新書化にあたって、巻頭に國方栄二さんによる解説「エピクテトス――ストイックに生きるために」が新たに加えられています。

★ジャック・ラカン『不安(上)』はラカンのセミネール(講義録)の第10巻の前半です。講義は1962年から63年にかけて行われたもので、書籍としては2004年にスイユから刊行されています。上巻では講義の第11回までを収録。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。リンク先では立ち読み用PDFもあり、上下巻の目次や10頁までの本文が読めます。カバーソデ紹介文に曰く「主体と欠如、欲望とその原因をめぐるトポロジカルな迷宮の果てに、ついに「対象a」をめぐる本格的考察を展開」と。ラカン自身は「不安」という主題を「極めて大きな鉱脈」(3頁)だと評価しており、第1回講義「シニフィアンの網の中の不安」では、サルトルやハイデガーら同時代の哲学者に目配せを送りつつも、実存思想から画然と隔たった「刃の上」(21頁)へと聴講生を導きます。難解な(よそよそしい)『エクリ』に比べると『セミネール』ではいくらか、より親切な(魅惑的な)ラカンに出会えます。むろんそれは単純に分かりやすいことを意味してはいないのですが、分からないなりにも受講している感覚を味わえるのが『セミネール』の魅力ではないかと思います。

★増田幸弘編『メディアの本分』は、版元紹介文に曰く「記者や編集者、カメラマン、デザイナー、コピーライター、映画監督ら25人が考えた現場からのメディア論」であり、帯には「マスコミ希望は必読!」と謳われています。日ごろ弊社もお世話になっている紀伊國屋書店新宿本店仕入課の大矢靖之(おおや・やすゆき:1980-)係長が「器と書店についての試論」と題して寄稿されており、私と同世代の「共和国」代表、下平尾直(しもひらお・なおし:1968-)さんによる「未完のページを埋めるもの」と題した実に軽妙な小説仕立ての一文を読むこともできます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。それぞれの現場からの肉声が胸に沁みます。特に編者の増田幸弘(ますだ・ゆきひろ:1963-)さんによる「幸福な出会いの哲学」の末尾にある、自分が世間に対して感じる「屈服しきれないもの」の根っこが「子どもたちに語り継ぐため」という点にあるのだ、という言葉に強い共感を覚えます。また、増田さんの「編者あとがき」での発言にも同様な思いを抱きました。曰く「いまの時代、「器」、なんでも載せられる「雑な器」が失われた」のではないか、「それが社会の閉塞感につながっているのではないか」(274頁)と書いておられます。「かつて暮らしの回りには、「雑な器」があふれていた。新聞も、雑誌も、本も、音楽も、映画も、テレビも、あらゆるものが「雑な器」であり、社会そのものが「雑な器」だった」(274~275頁)。洗練され、セレクトされたものしか「器」に盛り込むのをゆるさない社会、と。まさに私自身、同様な感覚の中で出版の仕事をしており、その一帰結はおそらく遠からず形にできると思います。

★同じく「編者あとがき」によれば増田さんは先月、『不自由な自由 自由な不自由――チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイン』という新刊を六耀社さんから刊行されており、「本書〔『メディアの本分』〕を編集した同時期、チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイナーたちを取材して回り、表現の自由が著しく制限されていた社会主義時代を浮き彫りにしようとした」と述懐されています。この本は『メディアの本分』と表裏一体のもので、いまの日本や世界を考えるうえで併読されたい、とのことです。

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by urag | 2017-03-12 21:10 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 03月 07日

注目新刊:上野・米虫・近藤編『主体の論理・概念の倫理』以文社

弊社出版物でお世話になっている著者の方の最近のご活躍をご紹介します。

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★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』)
2013年度から2015年度までの3年間にわたって「フランス・エピステモロジーの伏流としてのスピノザ」という共同研究の成果をまとめた編著書を上梓されました。巻頭の「スピノザ人物相関図」は力作で、スピノザ(Baruch De Spinoza, 1632-1677)の死後からこんにちにいたるまでの影響関係がコンパクトにまとめられています。書店員さん必見かと。

主体の論理・概念の倫理――二〇世紀フランスのエピステモロジーとスピノザ主義
上野修・米虫正巳・近藤和敬編
以文社 2017年2月 本体4,600円 A5判上製476頁 ISBN978-4-7531-0338-6

目次:
スピノザ人物相関図
序(上野修)
第一部〈概念〉
 導入 カヴァイエス、エピステモロジー、スピノザ(近藤和敬)
 【コラム】ジャン・カヴァイエス(近藤和敬)
 第一章 一つの哲学的生成――ブランシュヴィックからカヴァイエスへ(中村大介)
 【コラム】レオン・ブランシュヴィック(中村大介)
 第二章 ジャン・カヴァイエス――概念の哲学 その下部構造の諸要素(ウーリヤ・ベニス=シナスール/近藤和敬訳)
 第三章 カヴァイエスとスピノザ『エチカ』のあいだに見出しうる一つの関係――カヴァイエスはなぜ『公理的方法と形式主義』の口頭試問でスピノザの加護を求めたのか(近藤和敬)
 第四章 ヴュイユマン『代数学の哲学』とスピノザ『エチカ』の幾何学的秩序(原田雅樹)
 【コラム】ジュール・ヴュイユマン(原田雅樹)
第二部〈主体〉
 導入 エピステモロジーと精神分析――ラカン、ドゥサンティ、スピノザ(上野修)
 【コラム】ルイ・アルチュセール(上尾真道)
 第一章 構造と主体の問い――『分析手帖』という「出来事」(坂本尚志)
 【コラム】ジャック=アラン・ミレール/ジャン=クロード・ミルネール/アラン・バディウ(坂本尚志)
 第二章 ラカンの「エピステモロジー」における真理の探究について(上尾真道)
 【コラム】ジャック・ラカン(信友建志)
 第三章 ラカンにおけるスピノザのプレゼンス(上野修)
 第四章 ラカンと数理論理学――フランス現代思想におけるスピノザ受容の一側面として(信友建志)
 第五章 概念の哲学・精神分析・生命の哲学の知られざる結節点――ドゥサンティとそのスピノザ主義について(米虫正巳)
 【コラム】ジャン=トゥサン・ドゥサンティ(米虫正巳)
第三部〈生〉
 導入 生命のエピステモロジーとスピノザ主義(米虫正巳)
 第一章 概念の哲学から生命の哲学へ――カンギレムによるスピノザ主義の展開(藤井千佳世)
 【コラム】ジョルジュ・カンギレム(藤井千佳世)
 第二章 カンギレムとヘーゲル――概念の哲学としての生命の哲学(坂本尚志)
 第三章 ドゥルーズにとってのスピノザ――『エチカ』の意味論的解釈をめぐって(朝倉友海)
 【コラム】ジル・ドゥルーズ(朝倉友海)
 第四章 構成主義としての哲学と内在としての生――ドゥルーズ/スピノザとゲルー/フィヒテ(米虫正巳)
 【コラム】マルシアル・ゲルー(米虫正巳)
第四部〈現在〉
 第一章 現代英語圏におけるスピノザ読解――分析形而上学を背景にした、スピノザの必然性概念をめぐる側面的考察(木島泰三)
 鼎談 総括と展望(上野修・米虫正巳・近藤和敬)
欧語文献
邦語文献
人名索引

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by urag | 2017-03-07 19:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 03月 05日

白水社版『メルロ=ポンティ哲学者事典』(全3巻+別巻1)刊行開始、ほか

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メルロ=ポンティ哲学者事典 第三巻 歴史の発見・実存と弁証法・「外部」の哲学者たち
モーリス・メルロ=ポンティ編著 加賀野井秀一/伊藤泰雄/本郷均/加國尚志監訳
白水社 2017年2月 本体5,400円 A5判上製460頁 ISBN978-4-560-09313-9

帯文より:ヘーゲル、マルクス、ニーチェ、ベルクソン、ハイデガー、サルトル……おもに19~20世紀に活躍した300名超の「セレブな哲学者たち」を収録する第三巻。もれなく哲学がわかる、考える人の座右の「友」。第1回配本、全3巻+別巻1。

目次:
はじめに
本書の構成と執筆者
VI 歴史の発見(モーリス・メルロ=ポンティ)
 十八世紀
 十九世紀
 シェリング(ジュール・ヴュイユマン)
 ヘーゲル(エリック・ヴェイユ)
 コント(ポール・アルブース=バスティード)
 マルクス(ハロルド・ローゼンバーグ)
 ニーチェ(カール・レーヴィット)
VII 実存と弁証法(モーリス・メルロ=ポンティ)
 十九世紀末の形而上学
 一九〇〇年前後の科学批判
 ベルクソン(ジル・ドゥルーズ)
 ベルクソニスム
 ブロンデル(アンリ・デュメリ)
 行為の弁証法
 クローチェ(ノルベルト・ボッビオ)
 アラン(モーリス・サヴァン)
 ヘーゲル学派とマルクス主義の再興
 レアリスム
 ラッセル(アンソニー・クイントン)
 論理主義
 フッサール(アルフォンス・ド・ヴァーレンス)
 シェーラー(アルフレッド・シュッツ)
 ハイデガー(アルフォンス・ド・ヴァーレンス)
 サルトル(アルフォンス・ド・ヴァーレンス)
 現象学の方向
 学派に属さない人々
 哲学史家
VIII 「外部」の哲学者たち(モーリス・メルロ=ポンティ)
 アインシュタインと物理学
 ゴールドシュタインと生物学
 ソシュールと言語学
 モースと人類学
 フロイトと精神分析
 コフカと心理学
 哲学と文学
 カール・バルトと神学
索引
訳者略歴

★原書は『Les philosophes célèbres』(Editions d'art Lucien Mazenod, 1956)で、日本語訳ではこれを三分冊に分割し、さらに日本語版オリジナルの別巻(「現代の哲学」/年表/総索引)で補完するとのことです。上記に書き出した目次にはさらに細目があり、たとえば第VI部の「十八世紀」の賞ではヴィーコ、ルソー、コンドルセ、ヴォルネーが取り上げられています(もっともルソーについては第二巻を参照せよ、と記されています)。各細目はメルロ=ポンティのほか、17名が分担執筆しており、そのなかにはバシュラールやギュスドルフ、ダミッシュ、ポンタリスらが含まれています。無記名や上記の丸括弧内の「肖像」の寄稿者を含むと20名以上が第三巻に参加しています。半世紀以上前の古い本ではありますが、もはや古典であり、取り上げられた思想家たちと錚々たる執筆陣の登場に、壮大な星座を仰ぎ見る心地がします。

★次回配本は4月46日発売の第二巻「大いなる合理主義・主観性の発見」で、「デカルト、スピノザ、ライプニッツ、パスカル、ヒューム、ルソー、カント……主に17~18世紀に活躍した哲学者たち100名超を立項解説」し、「スタロバンスキーのモンテーニュ論を収録」とのことです。

★なおMazenod社の「セレブ」シリーズには『政治家列伝』(全6巻、1969~1977年)、『探検家列伝』(1965年)、『女傑列伝』(全2巻、1960~1961年)、『建築家列伝』(全2巻、1958~1959年)、『アルピニスト列伝』(1956年)、『彫刻家列伝』(1954年)、『画家列伝』(全3巻、1948年;1953~1964年)、『作家列伝』(全3巻補巻1、1951~1971年)、『発明家列伝』(1950年)、『児童列伝』(1949年)、『医師列伝』(1947年)、『音楽家列伝』(1946年)など、多数あるようです。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

『頼山陽とその時代(上・下)』中村真一郎著、ちくま学芸文庫、2017年3月、本体1,500円/1,700円、文庫判496頁/656頁、ISBN978-4-480-09778-1
『カント入門講義――超越論的観念論のロジック』冨田恭彦著、ちくま学芸文庫、3017年3月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-09788-0
中国のマンガ〈連環画〉の世界』武田雅哉著、平凡社、2017年2月、本体3,500円、A5判上製372頁、ISBN978-4-582-48222-5
ラカン的思考』宇波彰著、作品社、2017年2月、本体2,400円、46判上製240頁、ISBN978-4-86182-621-4
追放と抵抗のポリティクス――戦後日本の境界と非正規移民』髙谷幸著、ナカニシヤ出版、2017年2月、本体3,500円、A5判上製272頁、ISBN978-4-7795-1155-4

★ちくま学芸文庫の3月新刊はまもなく発売(8日発売予定)。中村真一郎『頼山陽とその時代』はかつて単行本全一巻(中央公論社、1971年)で刊行され、文庫化(中公文庫、全三巻、1976~1977年)を経て今回再刊されるものです。大幅にルビを増やし、人名索引を一新したとのこと。中公文庫版では解説を篠田一士さんが書かれていましたが、今回の版では揖斐高さんが「『凍泉堂詩話』から『頼山陽とその時代』へ」と題した解説を寄せておられます。編集部の巻末特記によれば揖斐さんは再刊にあたって「誤りの訂正や表記の変更」に協力されています。 頼山陽(らい・さんよう:1780-1832)の主著『日本外史』は岩波文庫(全3巻、1976~1981年)で読むことができます。

★冨田恭彦『カント入門講義』はちくま学芸文庫のための書き下ろし。章立ては以下の通りです。はじめに/第1章 カント略伝/第2章 なぜ「物自体」vs「表象」なのか?/第3章 解かなければならない問題/第4章 コペルニクス的転回/第5章 「独断のまどろみ」から醒めて/第6章 主観的演繹と図式論/第7章 アプリオリな総合判断はいかにして可能か/第8章 魅力と謎/あとがき。『純粋理性批判』に見られるカントの観念論の論理を、可能な限りわかりやすく説き明かすこと(「はじめに」より)が目指されています。なお筑摩書房さんでは石川文康訳で『純粋理性批判』全2巻が単行本で3年前に刊行されていますが、いずれ文庫化される折にはぜひ全1巻本に挑戦していただきたいです。同書はどの文庫でも分冊形式なので、一冊で通読できる文庫の需要はそれなりにあると思うのです。

★筑摩書房さんの3月新刊ではこのほか、森元斎『アナキズム入門』ちくま新書、山室静『北欧の神話』ちくま学芸文庫、ケネス・J・アロー/村上泰亮訳『組織の限界』ちくま学芸文庫、などに注目。後日取り上げる予定です。

★武田雅哉『中国のマンガ〈連環画〉の世界』は発売済。本書は「20世紀の中国で生まれ、発達し、21世紀にさしかかるころにはすでにその隆盛期を終えた、「連環画」と呼ばれる特殊な様式の読み物」(「はじめに」より)を紹介する試みとのことです。「連環画」とは「文字通りには「連続する絵(で構成される本)」といった意味」だそうで、「「マンガ」「漫画」「劇画」「コミック」のたぐいである」ものの「かならすしも、それらとぴったり一致するわけではない」と。中華民国~中華人民共和国建国初期~文化大革命~文革終息後といった時代を経て今日に至る歴史をひもとく、非常に興味深い研究書です。カラー口絵24頁を含め、図版多数。

★宇波彰『ラカン的思考』は発売済。はしがきに曰く、入門書でもラカン思想の粗述でもアカデミックな研究でもない「「まともな」ラカン解釈とは異なった見方」を提示するもので、帯文には「著者畢生のライフワーク」と謳われています。「あなたは存在しない」「心と身体」「かたちが意味を作る」「他者の欲望」「解釈とは何か」「あとから作る」「反復は創造し、破壊する」「像と言語」「コレクション」「フィルター・バブル」の全10章立て。とりわけ異色の第10章「フィルター・バブル」は、「ネットワーク、ソーシャルメディアの急激な発達」(あとがきより)が社会にもたらす変化にラカン的主題を見出したものとのことで、1933年生まれの重鎮の、いまなお立ち止まることのない思考の歩みというものを感じることができるのではないかと思われます。

★なお、まもなくラカンのセミネール第10巻(1962~1963年)である『不安〔L'angoisse〕』の訳書が岩波書店から刊行されます。まずは上巻(小出浩之/鈴木國文/菅原誠一/古橋忠晃訳)が3月9日に発売。うかうかしているといつの間にか品切になってしまうのが通例なので、新刊時に購入するのが一番です。

★髙谷幸『追放と抵抗のポリティクス』はまもなく発売。著者の髙谷幸(たかや・さち:1979-)さんは現在、大阪大学大学院人間科学研究科准教授で、ご専門は社会学、移民研究。本書が単独著第一作となります。序章にはこう書かれています。「本書は、戦後日本における非正規移民の追放と抵抗の「現場」、すなわち移住者の越境、その越境者を線引き、追放しようとする主権権力、そうした権力への抵抗運動によるポリティクスを考察することを目的とする。またそれをとおして、日本の境界が、それぞれの時代においてどのような文脈や論理にもとづいて引かれ、いかなる効果をもたらしてきたのかを明らかにすることをもめざしている」(7~8頁)。「この場に暮らすすべての人びとの空間としての社会を肯定する」(214頁)ことの難しさと向き合うためのアクチュアルな新刊ではないでしょうか。

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by urag | 2017-03-05 23:49 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 27日

注目新刊:山田俊弘『ジオコスモスの変容』(記念イベントあり)

弊社出版物でお世話になっている著者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

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★ヒロ・ヒライさん(編著書:『ミクロコスモス 第1集』)
★山田俊弘さん(論考:「ニコラウス・ステノ、その生涯の素描――新哲学、バロック宮廷、宗教的危機」、『ミクロコスモス 第1集』所収)
ヒロ・ヒライさんが編纂しておられるシリーズ「bibliotheca hermetica叢書」の最新刊『ジオコスモスの変容』が発売となりました。同書は山田俊弘(やまだ・としひろ:1955-)さんが2004年に東京大学大学院に提出した博士論文「17世紀西欧地球論の発生と展開――ニコラウス・ステノの業績を中心として」を大幅に改稿したものとのことです。詳しい書誌情報や目次については書名のリンク先をご覧ください。山田さんの訳書である、ニコラウス・ステノ『プロドロムス――固体論』(東海大学出版会〔現:東海大学出版部〕、2004年)とともにひもときたい一書です。また、『ジオコスモスの変容』の刊行を記念し、トークイベントが開催される予定とのことです。こちらのリンク先からご予約いただけます。

ジオコスモスの変容――デカルトからライプニッツまでの地球論
山田俊弘著 ヒロ・ヒライ編集
勁草書房 2017年2月 本体4,800円 A5判上製304頁 ISBN978-4-326-14829-5

帯文より:デカルト、キルヒャー、スピノザ、ライプニッツ。17世紀ヨーロッパの科学革命を生きた知識人たち、彼らによって世界をその歴史の理解が大変革をとげる。デンマーク人ステノを案内人に、この壮大な旅路を「ジオ・コスモス」観の変容として読みとき、地球惑星科学の起源に肉迫する。

◎トークイベント「デカルトからライプニッツまでの地球像――17世紀ヨーロッパの科学革命におけるジオコスモス」ヒロ・ヒライ(BH叢書・監修)×山田俊弘(東京大学研究員)

日時:2017年3月8日(水)19時~21時(開場18時30分)
場所:本屋 EDIT TOKYO  東京都中央区銀座5-3-1 ソニービル6F
料金:2,000円(ドリンク付)

内容:哲学と歴史を架橋し、テクスト成立の背景にあった「知のコスモス」に迫るインテレクチュアル・ヒストリー。その魅力を紹介する「bibliotheca hermetica(ヘルメスの図書館)」叢書の第4回配本は、『ジオコスモスの変容:デカルトからライプニッツまでの地球論』です。近代科学の創始者であるガリレオやニュートンといった学者たちが活躍した17世紀は、科学革命の時代と呼ばれています。天動説と地動説をめぐって論争が繰り広げられた時代です。地動説によって地球が世界の中心ではなく、惑星のひとつになってしまうことは、世界観そのものの大きな変容でした。この大変革期に、デカルト、キルヒャー、スピノザ、ライプニッツといった知識人たちは、化石、鉱物、火山活動、気象といったものから、地球がどのようなものだと考えていたのでしょうか。デンマーク人ステノを案内人に、「ジオ・コスモス」(大地の世界)観の変容というこの壮大な旅路へご案内します。

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by urag | 2017-02-27 12:43 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 26日

注目文庫新刊(2017年1月~2月)、ほか

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★ここ2ヶ月(2017年1月~2月)の文庫新刊から、今まで取り上げていなかった書目で注目しているものをまとめておきます。

『アレフ』J・L・ボルヘス著、鼓直訳、岩波文庫、2017年2月
『統辞理論の諸相――方法論序説』チョムスキー著、福井直樹/辻子美保子訳、岩波文庫、2017年2月
『漫画 坊ちゃん』近藤浩一路著、岩波文庫、2017年1月
『ティラン・ロ・ブラン4』マルトゥレイ/ダ・ガルバ著、田澤耕訳、岩波文庫、2017年1月
『シェイクスピア・カーニヴァル』ヤン・コット著、高山宏訳、ちくま学芸文庫、2017年2月
『社会学的想像力』C・ライト・ミルズ著、伊奈正人/中村好孝訳、ちくま学芸文庫、2017年2月
『ヘーゲル・セレクション』廣松渉/加藤尚武編訳、平凡社ライブラリー、2017年2月
『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス著、木村榮一訳、河出文庫、2017年2月
『考えるということ』大澤真幸著、河出文庫、2017年1月
『時間の非実在性』ジョン・エリス・マクタガート著、永井均訳・注解と論評、講談社学術文庫、2017年2月
『朝日の中の黒い鳥』ポール・クローデル著、内藤高訳、講談社学術文庫、2016年11月
『無意識の幻想』D・H・ロレンス著、照屋佳男著、中公文庫、2017年2月
『吉本隆明 江藤淳 全対話』中公文庫、2017年2月
『英語襲来と日本人――今なお続く苦悶と狂乱』斎藤兆史著、中公文庫、2017年1月
『忍者の兵法――三大秘伝書を読む』中島篤巳著、角川ソフィア文庫、2017年2月
『古代研究Ⅲ 民俗学篇3』折口信夫著、角川ソフィア文庫、2017年2月
『古代研究Ⅱ 民俗学篇2』折口信夫著、角川ソフィア文庫、2017年1月
『貞観政要』湯浅邦弘著、角川ソフィア文庫、2017年1月
『仏教の大意』鈴木大拙著、角川ソフィア文庫、2017年1月

★まずは創刊90年を迎えるという岩波文庫。ボルヘス『アレフ』(鼓直訳)は内田兆史さんが解説を執筆。既訳には、土岐恒二訳『不死の人』(白水社、1968年;白水uブックス、1996年)、篠田一士訳「エル・アレフ」(『世界の文学(9)』所収、集英社、1978年)、木村榮一訳『エル・アレフ』(平凡社ライブラリー、2005年)があります。『統辞理論の諸相』は『統辞構造論――付『言語理論の論理構造』序論』(福井直樹/辻子美保子訳、2014年1月)に続く、岩波文庫のチョムスキー本第二弾。福井/辻子共訳では岩波現代文庫でも『生成文法の企て』(2011年8月)に刊行されており、文庫で読めるチョムスキー言語学はこれで三冊目になります。近藤浩一路『漫画 坊ちゃん』はいわゆるコミックではなく、簡略な筋書にイラストが付されたもの。底本は1925年6月刊の新潮社版改版第三版。文庫化にあたり清水勲さんが解説を書かれています。『ティラン・ロ・ブラン4』はこれで全4巻完結。巻末に「文庫版へのあとがき」が付されています。なお、同文庫では2月21日発売で「2017年〈春〉のリクエスト復刊」38点43冊が発売。今回はシラー『ヴィルヘルム・テル』(桜井政隆/桜井国隆訳、1929年第1刷;1957年第14刷改版、2017年第27刷)を購入。ヴィルヘルム・テルの息子ヴァルターが言います、「父ちゃん、早く射ておくれ。僕こわいことなんかないよ」、その言葉に父は決心し矢をつがえます、「ぜひもない」(129頁)。この喩えようもない緊迫感。来月の同文庫新刊にはヴェイユの『重力と恩寵』が冨原眞弓訳で16日発売と予告されています。同日発売の岩波現代文庫では折口信夫『口訳万葉集(上)』(全三巻予定)が出るそうです。

★次にちくま学芸文庫。ヤン・コット『シェイクスピア・カーニヴァル』の親本は1989年より平凡社より刊行。文庫化にあたり「文庫版訳者あとがき」が追加されています。原書は『The Bottom Translation: Marlowe and Shakespeare and the Carnival Tradition』(Northwestern University Press, 1987)で、これは英訳版オリジナル論集という体裁なのかと思います。C・ライト・ミルズ『社会学的想像力』は新訳。既訳には鈴木広訳『社会学的想像力』(紀伊國屋書店、1965年;新装版、1995年)があり、目下「書物復権2017」で15票を得票しています(2月26日現在)。今回の新訳の底本は1959年のOUP初版本。凡例および訳者あとがきによれば同書は2000年に出版40周年記念版を謳う改訂版が出ているものの本文に変更はないとのことで、改訂版に付されたトッド・ギトリンの解説は訳出していないとのことです。なお3月のちくま学芸文庫では、山室静『北欧の神話』、アロー『組織の限界』村上泰亮訳など、4月にはカンディンスキー『点と線から面へ』宮島久雄訳などが予告されています。

★続いて平凡社ライブラリー。廣松渉/加藤尚武編訳『ヘーゲル・セレクション』廣松渉/加藤尚武編訳の親本は平凡社より1976年に刊行された『世界の思想家12 ヘーゲル』。
帯文の佐藤優さんによる推薦コメントに曰く「学生時代、この本によってヘーゲルと出会った。ヘーゲル哲学最良の入門書」。ライブラリー化にあたり、加藤さんが「平凡社ライブラリー版あとがき」をお書きになっています。再版にあたり「新全集版のページ数と照合できるようにする作業は滝口清栄氏が行ってくれた。〔・・・〕また文献案内の改訂も、滝口氏が行ってくれた」とあります。なお、ヘーゲル関連のアンソロジー近刊には、村岡晋一/吉田達訳『ヘーゲル初期論文集成 全新訳』が作品社より4月下旬刊行予定と予告されています。

★続いて河出文庫。リャマサーレス『黄色い雨』は奥付前の特記によれば、2005年にソニー・マガジンズ(現ヴィレッジブックス)から刊行された単行本『黄色い雨』に、訳し下ろし二篇「遮断機のない踏切」と「不滅の小説」を加えて文庫化したもの。大澤真幸『考えるということ』は2013年刊『思考術』の改題文庫化。書名は親本の方がより端的で良いような気もしますが気のせいでしょうか。文庫化にあたり「文庫版あとがき」のほか、木村草太さんによる解説「凡庸な警察と名探偵」が付されています。なお河出文庫では3月6日発売予定で、ボッカッチョ『デカメロン 上』(平川祐弘訳)が予告されています。これは見逃せません。

★続いて講談社学術文庫。『時間の非実在性』は巻頭の「はじめに」によれば、1908年に『Mind』誌第17号(456~474頁)に載ったイギリスの哲学者ジョン・マクタガート(John McTaggart, 1866年-1925)の論文「The Unreality of Time」の翻訳に永井均さんによる「要約」「注解と論評」「付論」を付したものとのことです。「ほとんどの読者にとって、本書はやっと出現したあの有名なマクタガート論文の本邦初訳ということになるだろう。しかし私自身にとっては、それはいわば本文理解のために付けられた付録のようなものであって、本文はあくまでも「注解の論評」のうちのいくつかと「付論」である」(7頁)と永井さんはお書きになっておられます。クローデル『朝日の中の黒い鳥』は昨年11月に同文庫の創刊40周年記念「リクエスト限定復刊」として再版された20点のうちの一冊です。カバーは特別仕様。遅まきながら先月になってようやく購入しました。同書はクローデルによる高名な日本論。今回4刷で、久しぶりの再版のような気がします。20点のラインナップについては書名のリンク先をご覧ください。なお同文庫では3月にプラトン『アルキビアデス クレイトポン』三嶋輝夫訳や、青木正次訳注『新版 雨月物語 全訳注』、4月にはキェルケゴール『死に至る病』鈴木祐丞訳や、杉本圭三郎訳注『新版 平家物語(一) 全訳注』などの発売が予定されています。また、講談社文芸文庫では3月にワイド版『小林秀雄対話集』、4月には吉本隆明『写生の物語』、大澤聡編『三木清大学論集』などが予定されています。

★続いて中公文庫です。ロレンス『無意識の幻想』は新訳。原書は1922年に刊行された『Fantasia of the Unconscious』で、2004年にケンブリッジ大学出版より刊行された版を底本に使用。主要目次を列記すると、まえがき、第1章「序文」、第2章「聖家族」、第3章「神経節、横隔膜の上下のレベル等」、第4章「樹木・幼児・パパ・ママ」、第5章「五感」、第6章「知性の最初の微光」、第7章「教育の最初の諸段階」、第8章「教育・男女の性・子供の性」、第9章「性の誕生」、第10章「親の愛」、第11章「悪循環」、第12章「連禱風に――強く勧めたいこと」、第13章「宇宙論」、第14章「眠りと夢」、第15章「下半身」、エピローグ。なお、同書には既訳として小川和夫訳(青木書店、1940年;南雲堂、1957年;改訂版、1966年;『D・H・ロレンス紀行・評論選集5』所収、南雲堂、1987年)があります。『吉本隆明 江藤淳 全対話』は、2011年11月に中央公論新社より刊行された『文学と非文学の倫理』が親本。文庫化にあたり、吉本隆明さんへのインタヴュー「江藤さんについて」(聞き手=大日方公男、中央公論特別編集『江藤淳1960』所収、2011年)を増補し、さらに内田樹さんと高橋源一郎さんによる解説対談「吉本隆明と江藤淳――最後の「批評家」」が加えられています。斎藤兆史『英語襲来と日本人』の親本は講談社より2001年に刊行。文庫化にあたって副題を「えげれす語事始」から「今なお続く苦悶と狂乱」に変更し、新版あとがきが加えられました。新版あとがきでは「イギリスがEUを離脱すれば、EU加盟国の中から英語を国語とする国が消え〔・・・〕公用語でなくなる可能性がある」と指摘し「世界における英語の位置」が変化しつつあることに注意を喚起されています。

★最後に角川ソフィア文庫。中島篤巳『忍者の兵法』は『忍術秘伝の書』(角川選書、1994年)の改題改稿版。三つの秘伝書『正忍記』『万川集海』『忍秘伝』を読み解き解説したもので、忍術を総合生活術だとする観点が面白いです。付録として初公開資料 『武田流忍之書(全)』が収められています。折口信夫『古代研究Ⅱ 民俗学篇2』『古代研究Ⅲ 民俗学篇3』は全六巻中の第二巻と第三巻。湯浅邦弘『貞観政要』は「ビギナーズ・クラシックス 中国の古典」シリーズの一冊。「源頼朝や徳川家康、明治天皇も治世の参考にしたと言われる帝王学の最高傑作」(カバー紹介文より)の抄訳で、各条は現代語訳・書き下し文・原文(返り点付き)・解説で構成されています。社会人必読かと。鈴木大拙『仏教の大意』は昭和天皇への「御進講」原稿を増補して公刊したもの。第一講「大智」、第二講「大悲」から成ります。巻末には若松英輔さんによる解説「霊性の体現者・鈴木大拙」(145~158頁)が付されています。なお同書は同じく先月に中公クラシックスでも刊行されています。こちらでは山折哲雄さんの解説「近代思想とは一線を画した人」(5~22頁)を読むことができます。没後50年とあって鈴木大拙の本が各社より文庫本や単行本で再刊されており、単行本では今月は筑摩書房よりワイド版『禅』工藤澄子訳が刊行され、来月は河出書房新社より『禅のつれづれ』が発売予定です。

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★このほか、最近では亜紀書房さんの新刊2点との出会いがありました。サイとロクサーヌ、二人の素敵な女性との出会いでした。

愛しのオクトパス――海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』サイ・モンゴメリー著、小林由香利訳、亜紀書房、2017年2月、本体2,200円、四六判上製352頁、ISBN978-4-7505-1503-8
バッド・フェミニスト』ロクサーヌ・ゲイ著、野中モモ訳、亜紀書房、2017年1月、本体1,900円、四六判並製394頁、ISBN978-4-7505-1494-9

★モンゴメリー『愛しのオクトパス』は『The Soul of an Octopus: A Surprising Exploration into the Wonder of Consciousness』(Atria Books, 2015)の翻訳です。著者のサイ・モンゴメリー(Sy Montgomery, 1958-)はアメリカ在住のナチュラリストで作家。既訳書に『彼女たちの類人猿――グドール、フォッシー、ガルディカス』(羽田節子訳、平凡社、1993年)、『幸福の豚――クリストファー・ホグウッドの贈り物』(古草秀子訳、バジリコ、2007年)、『テンプル・グランディン――自閉症と生きる』(杉本詠美訳、汐文社、2015年)があります。今回の新刊では、モンゴメリーはとある水族館で雌のミズダコ「アテナ」に出会い、たちまち虜になります。冷たい水槽に腕を突っ込んだ著者にタコの触手が絡みつきます。「アテナの吸いつきかたは、しっかりとではあるけれど、優しかった。エイリアンにキスされている感じがした」(12頁)。そしてアテナの死後には今度は年若いオクタヴィアと知り合います。さらにその後、カーリーやカルマと。もちろん皆、タコの話。彼女たちと著者との交流が愛情に満ちているためか、何とも不思議な世界に読者は引きずり込まれ、魅了されることになります。読む前は食べ物としてしかタコを見ていなかった自分が読後には恥ずかしく思えるくらいの、とても素敵な本です。

★ゲイ『バッド・フェミニスト』は『Bad Feminist』(Harper Perennial, 2014)の翻訳。著者のロクサーヌ・ゲイ(Roxane Gay, 1974-)はアメリカの作家。イースタン・イリノイ大学で教鞭も取っています。今回が彼女の初めての日本語訳書となる本書は、彼女のエッセイ集第一作であり、全米ベストセラーの一書です。「これは私たちの文化と、そてを私たちがどう消費するのかについての考察です。本書に収録されたエッセイでは、現代の映画における人種問題、「多様性」の限界、革新がいかに不十分かについても論じています」(14頁)と彼女は巻頭の「はじめに――フェミニズム(名詞):複数」で書いています。「私たち全員が同じフェミニズムを信じる必要はないのです。フェミニズムは多元的なものとして存在することができます。私たちが各々の内にあるさまざまなフェミニズムにお互いに敬意を払う限り。〔・・・〕たくさんの若い女性が、自分を重ね合わせることができる有名なフェミニストを見つけられないと言うのを私は耳にしてきました。これは残念なことかもしれませんが、しかし、この世界を歩む姿を見たいと思うようなフェミニストに、私たち自身がなりましょう(なろうとしましょう)」(同)。どうかぜひ店頭で、この短い「はじめに」だけでも良いので立ち読みしてください。上に引いた箇所以外にも胸に響く率直な言葉があり、きっと惹かれると思います。また、彼女のTEDトーク「バッド・フェミニストの告白」もご参照ください。あらかじめ言っておくと、この短いプレゼンテーションでは伝わり切らないかもしれない奥行き――彼女が壇上で「バッド・フェミニズム、つまりより懐の広いフェミニズム」と端的に述べたものの内実――が本書にはあります。

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by urag | 2017-02-26 23:42 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 19日

注目新刊:坂口恭平『けものになること』河出書房新社、ほか

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けものになること
坂口恭平著、河出書房新社、2017年2月、本体1,700円、46判上製226頁、ISBN978-4-309-02547-6

★まもなく発売(2月23日予定)。いとうせいこうさんをして「ベケット!」と驚嘆せしめた前作『現実宿り』(2016年10月刊)に続き、最新作ではドゥルーズが降臨します。版元紹介文に曰く「ドゥルーズになった「おれ」は『千のプラトー』第10章を書き始めた。狂気と錯乱が渦巻きながら23世紀の哲学をうみだす空前の実験。『現実宿り』を更新する異才の大傑作」と。

★書き出しはこうです。「おれはドゥルーズだ。どう考えてもそうだ。見た目も知らなければ、彼がいつ死んだかも知らない。死んでいないかもしれない。しかし、明白なことがある。それはおれがドゥルーズであるということで、つまり死んだ男が、今、ここにいるのだ。わたしは、いつまでもそれが続くとは思えない。もう足の指先は幾分冷たくなっていて、小指の爪は跡形もない。それなのに、わたしは、おれがドゥルーズだと分かっていた。明確にそう認識していた」(3頁)。

★「おれは、わたしの体の反乱軍である。わたしはまだそこにはいない。わたしはまだおれに会っていない。おれは向っている。おれは一人で出て行った」(3~4頁)。「書くこと、それもまた加速である。書くことは己の体に針を刺している」(4頁)。「書くことは言語に麻薬を飲ませることだ。言語に呪術をかける魔術師よろしく、己の存在を消し、税務署から、戸籍から、家族から、共同体から、国家から完全に脱獄することだ。つまり、捕まったとしても、わたしにはわからない。完全に麻薬体となったわたしはその意味がわからない。わたしは一本のサボテンである。無数のサボテンである。言語を攪乱する体である」(5頁)。

★「わたしは二十八冊の文献をもとにこの本を書いた。しかし、その本は読んですらいない。つまり、本は読むものではなく、言語を錯乱にいたらせるための魔術師の薬草の一つである。それは干からびた薬草。薬草に見えないただの草。しかし、そこに死はない。われわれもまた死なないのだが、それは肉体が滅びないのではなく、草のように死なない。本は、一本の草、無数の草、見たことのない草である。名前をつけることもできない草」(6~7頁)。『千のプラトー』の第十章『けものになること』を突然書く羽目になった(8頁)という著者の筆致は、保坂和志さんを次のように触発しています。

★「この言葉の激流はなんだ?音楽?ダンス?それも空き缶の中で。あらゆる文献?部屋の中には虎までいた!稲妻?切り落とした自分の中指?焼きもせずそれを食べた。白と黒の中の極彩色?ガタリの持っていた小さな杖?病原菌そのもの。/いや、これは小説だ。信じがたいことにここには言葉しか使われていない!言葉がすべてをやっている。これは小説の奇跡だ」(帯文より)。「あらゆる生命の予感のままでいること」(213頁)を目論んだ本書は、すでに発売前から奇書です。廃位された、とてつもなく(分裂が)速いために止まって見える、幻の王。河出さんのすごいところはドゥルーズの訳書や研究書を多数刊行している守護者であると同時に、それらを訓詁学の閉鎖空間に封じ込めてほとんど誰も入り込めないようにするのではなく、むしろ本作のような思いもよらない通気口を設置して、内と外を爆音で共鳴させる共謀者であることを厭わないというスタンスです。

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★ここ最近ではさらに以下の新刊との出会いがありました。

新装版 生命と現実――木村敏との対話』木村敏/檜垣立哉著、河出書房新社、2017年2月、本体2,400円、46判上製226頁、ISBN978-4-309-24794-6
高橋和巳――世界とたたかった文学』河出書房新社編集部編、河出書房新社、2017年2月、本体1,900円、A5判並製240頁、ISBN978-4-309-02549-0
理性の起源――賢すぎる、愚かすぎる、それが人間だ』網谷祐一著、河出ブックス、2017年2月、本体1,700円、B6判並製240頁、ISBN978-4-309-62501-0
貧困と地域――あいりん地区から見る高齢化と孤立死』白波瀬達也著、中公新書、2017年2月、本体800円、新書判並製240頁、ISBN978-4-12-102422-0
欧州周辺資本主義の多様性――東欧革命後の軌跡』ドロテー・ボーレ/ベーラ・グレシュコヴィッチ著、ナカニシヤ出版、2017年2月、本体4,800円、A5判上製420頁、ISBN978-4-7795-1127-1
【増補新版】ポスト・モダンの左旋回』仲正昌樹著、作品社、2017年1月、本体2,200円、46判上製352頁、ISBN978-4-86182-617-7

★『けものになること』のほかの河出さんの今月新刊には、同じく23日発売予定で、木村敏さんと檜垣立哉さんとの対談本『生命と現実』の新装版や、アンソロジー『高橋和巳』があります。『生命と現実』の初版は2006年。新装版刊行にあたり、檜垣さんによる「『生命と現実』の10年後」という一文が新たに巻末に加えられています。『高橋和巳』では、三島由紀夫と高橋和巳との対談「大きなる過渡期の論理」(初出:「潮」1969年11月号)が再録され、今なお不気味なアクチュアリティを放っています。作品ガイドや年譜も充実。河出文庫では『わが解体』『日本の悪霊』『我が心は石にあらず』が近刊予定だそうです。また、今月第101弾に突入した河出ブックスでは、科学哲学と生物学哲学がご専門の網谷祐一さんによる『理性の起源』が発売済です。戸田山和久さんが「痛快作」と絶賛されている本書では、進化生物学とそれをめぐる科学哲学の観点から理性の起源と進化について分析されています。

★中公新書の新刊『貧困と地域』は大阪の釜ヶ崎をめぐるエリアスタディーズ。著者の白波瀬達也(しらはせ・たつや:1979-)さんは関西学院大学准教授で、著書に『宗教の社会貢献を問い直す』(ナカニシヤ出版、2015年)があるほか、共編著に『釜ヶ崎のススメ』(洛北出版、2011年)があります。今回の新著は「地区指定から半世紀以上が経過し、地域の様相は大きく変化している」ものの「貧困が集中している現実は変わっていない」というあいりん地区(釜ヶ崎)の検証を通じて「「貧困の地域集中」とそれによって生じた問題を論じるものだ」とまえがきにあります。「対策を講じても、また新たな問題が生じることも頻繁にある。絶対的な正解やわかりやすい正義と悪は存在せず、現実は複雑かつ混沌としたものだ。その現実にできる限り目を凝らして考えた成果が本書である」(v頁)。

★ボーレ/グレシュコヴィッチ『欧州周辺資本主義の多様性』は『Capitalist Diversity on Europe's Periphery』(Cornell University Press, 2012)の全訳。巻頭の「日本語版への序文」によれば、ホール/ソスキス『資本主義の多様性――比較優位の制度的基礎』(原著『Varieties of Capitalism』2001年; 遠山弘徳ほか訳、ナカニシヤ出版、2007年)が提示した問題圏に中東欧を適用したもので、「いかに資本主義がポスト社会主義諸国の中で構築され安定してきたか」が明らかにされています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『【増補新版】ポスト・モダンの左旋回』の親本は情況出版より2002年に刊行。増補新版にあたり、旧版全九章に加えて、「情況」誌に2003年から2004年にかけて発表された五篇の論考と、「増補新版への前書き」「増補新版へのあとがき」が収められています。旧版の目次はこちらをご覧いただくとして、以下には追加された五章の章題を列記しておきます。第十章「『言葉と物』の唯物論」、第十一章「ドゥルーズのヒューム論の思想史的意味」、第十二章「戦後左翼にとっての「アメリカ」」、第十三章「加藤典洋における「公共性」と「共同性」」、第十四章「『ミル・プラトー』から『〈帝国〉』へ――ネグリの権力論をめぐる思想史的背景」。なお、「2015年以降の政治情勢を受けての補遺」と銘打たれ、第十二章には「トランプという逆説」、第十三章には「21世紀の加藤典洋」と、それぞれ新たな節が書き加えられています。

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by urag | 2017-02-19 17:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 13日

注目新刊:デリダ『嘘の歴史』とロレッドのデリダ論、ほか

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弊社出版物でお世話になっている著訳者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

★ジャック・デリダさん(著書:『条件なき大学』)
★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』)
『Histoire du mensonge : Prolégomènes』(Galilée, 2012)の訳書が刊行され、一昨年来日を果たしたフランスの哲学者パトリック・ロレッド(Patrick Llored)さんのデリダ論『Jacques Derrida : Politique et éthique de l'animalité』(Sils Maria, 2013)の共訳書もまもなく発売されます。それぞれの目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ロレッドさんのデリダ論は西山さんの巻末解説によれば「日本語版のために本文に微修正を施し、後書きを追加しているので、本書は独自編集版となっている」とのことです。

嘘の歴史 序説
ジャック・デリダ著 西山雄二訳
未來社 2017年2月 本体1,800円 四六判上製106頁 ISBN978-4-624-93270-1

カバー紹介文より:晩年のデリダが1997年におこなった講演録。プラトン、アリストテレス、ルソー、カント、ニーチェ、ハイデガー、フロイトを参照しつつ、時代や文化によってことなる嘘の概念の歴史を問い、とりわけアーレントとコイレのテクストを読解する。意識的に嘘をつくことと知らずに間違うことの差異を明確にし、嘘の概念を脱構築的に問い直す。村山富市元首相の1995年の日本軍の戦争犯罪を認めた戦後50年談話や、ヴィシー政府の戦争中のユダヤ人狩りという犯罪的行為を認めたシラク元大統領の発言などを具体的に論じながら、現代の政治的な嘘をアクチュアルに考察する味読すべき小著。


ジャック・デリダ――動物性の政治と倫理
パトリック・ロレッド著 西山雄二/桐谷慧訳
勁草書房 2017年2月 本体2,200円 四六判上製160頁 ISBN978-4-326-15444-9

帯文より:近代政治の主権概念は人間と動物の区分と不可分であり、政治は常に人間に固有なものとされてきた。西欧思想においては、人間と人間ではない生きものたちの政治関係の発明が回避され、獣と主権者のアナロジーによって動物たちに日々ふるわれる根底的な暴力が見えなくされてきたのだ。デリダが人生の最後に発明した「動物-政治」概念から、「民主主義的な主権」の問いが開かれる。いかにしてデリダは動物たちを来たるべき民主主義へ参入させるのか。

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★岡本源太さん(著書:『ジョルダーノ・ブルーノの哲学』)
★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』)
2月3日発売の『現代思想2017年3月臨時増刊号 総特集=人類学の時代』に岡本さんのご論考「イメージにおける自然と自然の「大分割」を超えて――イメージ論の問題圏(三)」(317-325頁)が掲載されました。岡本さんの不定期寄稿「イメージ論の問題圏」はこれまでに「現代思想2013年1月号 特集=現代思想の総展望2013」に「囚われの身の想像力と解放されたアナクロニズム――イメージ論の問題圏」が、そして「現代思想2015年1月号 特集=現代思想の新展開2015――思弁的実在論と新しい唯物論』に「眼差しなき自然の美学に向けて――イメージ論の問題圏(二)」が掲載されています。

また、2月14日発売の『現代思想2017年3月臨時増刊号 総特集=知のトップランナー50人の美しいセオリー』では、近藤さんのご論考「ある理論が美しいと言われるとき、その真の理由は何でありうるか」(226-232頁)が掲載されました。同特集号では、ジュンク堂書店の福嶋聡さんによる「〈未来の自分〉と読書」(242-245頁)も掲載されています。

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by urag | 2017-02-13 16:30 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 12日

注目新刊:2017年1月~3月

通常の週末記事で手一杯で、言及できてない書目のフォローをここしばらくできていませんでしたが、今年からは少しでも多くの書名を留めておくよう心掛けたいと思います。とはいえ今回できたのは、アマゾン・ジャパンの「人文・思想」分野とその関連書2か月分強の見直しだけで、他分野全体を通覧できてはいません。往々にして「これは」という発見は他分野のものだったりするので、本当は全分野の新刊一覧にしっかり目を通すべきですが、昔ネットでも公開されていたTRCの週刊新刊全点案内のような便利な情報源が見当たらないのが残念です。アマゾンの「人文・思想」分野には学参に移してもらった方がいいような書目や、似たようなハウツー電子書籍も多数見受けるので、そういう中から選別していくのがしんどいですね。

★2017年1月既刊

0105『アレント入門』中山元著、ちくま新書
0106『日本十二支考――文化の時空を生きる』濱田陽著、中公叢書
0110『本屋、はじめました――新刊書店Title開業の記録』辻山良雄著、苦楽堂
0110『キリストを生きる』トマス・ア・ケンピス著、山内清海訳、文芸社セレクション
0110『現代語訳 蓮華面経』仁科龍著、雄山閣
0110『「革命」再考――資本主義後の世界を想う』的場昭弘著、角川新書
0112『質的研究法』G・W・オルポート著、福岡安則訳、弘文堂
0112『ジェンダー史とは何か』ソニア・O・ローズ著、長谷川貴彦/兼子歩訳、法政大学出版局
0113『共時性の深層――ユング心理学が開く霊性への扉』老松克博著、コスモスライブラリー
0114『われわれはいかに働き どう生きるべきか――ドラッカーが語りかける毎日の心得、そしてハウツー』P・F・ドラッカー述、上田惇生訳、ダイヤモンド社
0120『本能の現象学』ナミン・リー著、中村拓也訳、晃洋書房
0120『カント 美と倫理とのはざまで』熊野純彦著、講談社
0120『カント哲学の奇妙な歪み――『純粋理性批判』を読む』冨田恭彦著、岩波現代全書
0124『社史の図書館と司書の物語――神奈川県立川崎図書館社史室の5年史』高田高史著、柏書房
0124『アーカイヴの病〈新装版〉』ジャック・デリダ著、福本修訳、法政大学出版局
0125『生の悲劇的感情〈新装版〉』ウナムーノ著、神吉敬三/佐々木孝訳、法政大学出版局
0125『キリスト教教父著作集 第2巻I エイレナイオス1 異端反駁1』大貫隆訳、教文館
0125『泳ぐ権力者――カール大帝と形象政治』ホルスト・ブレーデカンプ著、原研二訳、産業図書
0125『ダンヒル家の仕事』メアリー・ダンヒル著、平湊音訳、未知谷
0125『ローカルブックストアである――福岡 ブックスキューブリック』大井実著、晶文社
0125『「本をつくる」という仕事』稲泉連著、筑摩書房
0126『岩波茂雄文集 第1巻 1898-1935年』植田康夫/紅野謙介/十重田裕一編、岩波書店
0126『正常と病理〈新装版〉』ジョルジュ・カンギレム著、滝沢武久訳、法政大学出版局
0126『世界宗教の経済倫理――比較宗教社会学の試み 序論・中間考察』マックス・ウェーバー著、中山元訳、日経BPクラシックス
0128『学生との対話』小林秀雄著、国民文化研究会/新潮社編、新潮文庫

一覧をローラーするまで『キリスト教教父著作集 第2巻I エイレナイオス1 異端反駁1』(大貫隆訳、教文館)に気づいていなかったのは不覚でした。エイレナイオス『異端反駁』はこれまでに第3分冊と第4分冊が小林稔訳で1999年に刊行されましたがその後しばらく続刊が途絶えていました。大貫先生が訳者を務められているということで、今後はさほど待たずに完結しそうな気がします。

文芸社セレクションは文庫サイズのシリーズで、ブラヴァツキーの『シークレット・ドクトリン』第三巻を昨年刊行したりして、要チェックなレーベルです。今般もトマス・ア・ケンピスの新訳(『キリストを生きる』山内清海訳)が発売されていて驚きました。雄山閣の単行本、仁科龍『現代語訳 蓮華面経』は同社の『大蔵経全解説大事典』(1998年、新装版2016年)よりの抜粋とのこと。同事典は税込45,360円なので、こうした切り売りは悪い感じはしません。

『泳ぐ権力者――カール大帝と形象政治』(原研二訳、産業図書)はブレーデカンプの8点目の訳書。初期の訳書である『古代憧憬と機械信仰――コレクションの宇宙』(藤代幸一/津山拓也訳、法政大学出版局、1996年)が品切のようですが、ブレーデカンプの知名度や業績から言ってそろそろ文庫の仲間入りを果たしても良いような気がします。


★2017年2月既刊
0201『絵画の歴史――洞窟壁画からiPadまで』デイヴィッド・ホックニー/マーティン・ゲイフォード著、木下哲夫訳、青幻舎
0201『シュタイナーのアントロポゾフィー医学入門』日本アントロポゾフィー医学の医師会監修、ビイングネットプレス
0203『ドイツ啓蒙と非ヨーロッパ世界――クニッゲ、レッシング、ヘルダー』笠原賢介著、未來社
0206『天災と日本人――地震・洪水・噴火の民俗学』畑中章宏著、ちくま新書
0206『カンギレムと経験の統一性――判断することと行動すること 1926-1939年』グザヴィエ・ロート著、田中祐理子訳、法政大学出版局
0206『『法華経釈問題』翻刻研究――翻刻校訂・国訳〔新版〕』『法華経釈問題』翻刻研究会 著、ノンブル社
0206『メディアの歴史――ビッグバンからインターネットまで』ヨッヘン・ヘーリッシュ著、川島建太郎訳、法政大学出版局
0207『アナトミカル・ヴィーナス――解剖学の美しき人体模型』ジョアンナ・エーベンステイン著、布施英利監修、グラフィック社
0209『芸術の終焉のあと――現代芸術と歴史の境界』アーサー・C・ダントー著、山田忠彰監訳、河合大介/原友昭/粂和沙訳、三元社

ホックニーの『絵画の歴史――洞窟壁画からiPadまで』は同版元のホックニーの既刊書『秘密の知識』(木下哲夫訳、青幻舎、2006年;普及版2010年)が品切になっていることを考えると早めに購入しておくのがいいのかもしれません。同じく芸術の分野ではダントーの『芸術の終焉のあと』は見逃せない一書(原著は1997年刊)。さらに『メディアの歴史』はキットラーやボルツに並ぶドイツ・メディア論の大家ヘーリッシュ(Jochen Hörisch, 1951-)の待望の初訳。このところ書店人や司書、出版人の新刊は色々と出ておりそれぞれ注目すべきなのですが、本書は特に業界人必読と強く推すべき重厚な一冊です。


★2017年2月刊行予定
0214『アート・パワー』ボリス・グロイス著、石田圭子/齋木克裕/三本松倫代/角尾 宣信訳、現代企画室
0214『ソシオパスの告白』M・E・トーマス著、高橋祥友訳、金剛出版
0214『セルバンテス全集 第2巻 ドン・キホーテ 前篇』岡村一訳、水声社
0215『キリスト教神学で読みとく共産主義』佐藤優著、光文社新書
0216『プルーストと過ごす夏』アントワーヌ・コンパニョン/ジュリア・クリステヴァ/ほか著、國分俊宏訳、光文社
0217『イスラーム入門――文明の共存を考えるための99の扉』中田考著、集英社新書
0217『アレフ』J・L・ボルヘス著、鼓直訳、岩波文庫
0222『芸術の言語』ネルソン・グッドマン著、戸澤義夫/松永伸司訳、慶應義塾大学出版会
0222『〈新装〉増補修訂版 相互扶助論』ピョートル・クロポトキン著、大杉栄訳、同時代社
0222『オネイログラフィア――夢、精神分析家、芸術家』ヴィクトル・マージン著、斉藤毅訳、書肆心水
0222『エックハルト〈と〉ドイツ神秘思想の開基――マイスター・ディートリッヒからマイスター・エックハルトへ』長町裕司著、春秋社
0227『ドゥルーズと多様体の哲学――二○世紀のエピステモロジーにむけて』渡辺洋平 著、人文書院
0227『主体の論理・概念の倫理――二〇世紀フランスのエピステモロジーとスピノザ主義』上野修/米虫正巳/近藤和敬編、以文社
0228『義科『廬談』摩訶止觀――論草3』天台宗典編纂所編、春秋社
0228『アフリカ美術の人類学――ナイジェリアで生きるアーティストとアートのありかた』緒方しらべ著、清水弘文堂書房
0228『無神論と国家』坂井礼文著、ナカニシヤ出版
0228『メルロ=ポンティ哲学者事典(第3巻)歴史の発見・実存と弁証法・「外部」の哲学者たち』モーリス・メルロ=ポンティ編著、加賀野井秀一/伊藤泰雄/本郷均/加國尚志監修・翻訳、白水社

ホックニーやダントーの新刊に続いて芸術論関連ではグロイス『アート・パワー』やグッドマン『芸術の言語』、マージン『オネイログラフィア』と、どんどん話題書が続くことになり、活況を呈するでしょう。水声社版『セルバンテス全集』はアマゾンでは扱いがありませんが、まさか全集が刊行開始とは驚きです。哲学系では全3巻別巻1予定の『メルロ=ポンティ哲学者事典』に注目。4月には第2巻、6月には第1巻、8月に別巻の刊行が予定されています。基礎文献です。


★2017年3月刊行予定
0301『世界の夢の本屋さんに聞いた素敵な話』ボブ・エクスタイン著、藤村奈緒美訳、 エクスナレッジ
0308『語録 要録』エピクテトス著、中公クラシックス
0311『社会問題としての教育問題――自由と平等の矛盾を友愛で解く社会・教育論』ルドルフ・シュタイナー著、今井重孝訳、イザラ書房
0311『アルキビアデス クレイトポン』プラトン著、三嶋輝夫訳、講談社学術文庫
0314『グリム兄弟言語論集――言葉の泉』ヤーコプ・グリム/ヴィルヘルム・グリム著、千石喬/高田博行/木村直司/福本義憲訳、ひつじ書房
0315『幻覚V―器質・力動論2』アンリ・エー著、影山任佐/阿部隆明訳、金剛出版
0317『シュタイナー 根源的霊性論――バガヴァッド・ギーターとパウロの書簡』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社
0322『〈世界史〉の哲学 近世篇』大澤真幸著、講談社
0330『ラカン 真理のパトス』上尾真道著、人文書院

まだリリースされている情報が少ないため点数も少ないものの、『グリム兄弟言語論集』と、エー『幻覚』第V巻は押さえたいところです。2点とも高額本ですが、品切になればいっそう高値がつくことは目に見えています。『幻覚』は全5巻完結で、品切になっている既刊書はオンデマンド版が出るようです。ほっとされる読者もいらっしゃるのではないかと想像します。
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by urag | 2017-02-12 23:29 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)