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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 884 )


2017年 07月 11日

ブックツリー「哲学読書室」に高桑和巳さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ジャック・デリダ講義録 死刑I』(高桑和巳訳、白水社、2017年6月)の訳者・高桑和巳さんによる選書リスト「死刑を考えなおす、何度でも」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも

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by urag | 2017-07-11 16:01 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 07月 11日

ブックツリー「哲学読書室」に吉松覚さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、マーティン・ヘグルンド『ラディカル無神論――デリダと生の時間』(吉松覚/島田貴史/松田智裕訳、法政大学出版局、2017年6月)の共訳者・吉松覚さんによる選書リスト「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」が追加されました。共訳者の皆さんによる選書だと伺っています。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置

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by urag | 2017-07-11 10:12 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 07月 09日

注目新刊:柏倉康夫訳『新訳 ステファヌ・マラルメ詩集』私家版、ほか

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新訳 ステファヌ・マラルメ詩集
柏倉康夫訳
私家版(柏倉康夫=発行、上野印刷所=印刷)、2017年6月、頒価2000円、A5判上製148頁、ISBNなし、限定100部

★月刊誌「ユリイカ」2015年1月号~9月号での連載「[新訳]ステファヌ・マラルメ詩集」に「若干の修正を加え」て一冊としたもの。kindle版は青土社さんから3月に発売済(862円)。紙媒体は訳者の柏倉康夫さんご自身によって、私家版として今般、限定100部が発刊されました。うち60部がフランス図書から購入できると聞いています【7月12日追記:16時現在「在庫僅少」とのことで売切必死です】。和紙を使った表紙デザインと題字は古内都さんによるもの。なお底本はベルトラン・マルシャル校注によるプレイアード叢書版『マラルメ全集Ⅰ』(ガリマール、1998年)です。

★紙媒体版の「後記」によれば「電子版では翻訳とフランス語のテクストの間にリンクを張り、両方を行き来しながら鑑賞ができ、さらにIndexでは、マラルメが49篇の詩に用いたすべての単語が、どの詩篇のどの行にあるかを検索できる仕組みになっている」とのことです。さらに「欧文の詩は、本来、耳で聴いて味わうものである」(同「後記」)ため、電子版には本当は原詩朗読の音声データを付加されたかったご様子です。

★柏倉さんのブログ「ムッシュKの日々の便り」にはマラルメ翻訳の苦心と工夫の一端が綴られています。2015年3月1日付エントリー「詩を訳すとはⅦ、Brise Marineをめぐって」では「海からの風(Brise Marine)」の翻訳をめぐるエピソードを読むことができます。従来訳では「微風」や「そよ風」と訳されてきたbriseですが、柏倉さんは「内容からしてこの場合のbriseは決して「そよそよとした微風」ではなく、むしろ強め風でなくてはならない」と指摘されています。また作品冒頭のchairは「肉」や「肉の身」と訳されてきましたが、今回の新訳では「肉体」としたことについてもコメントがあります。

★マラルメの美しい詩句は百数十年を隔てた現代人の心にも訴えかける感性が息づいているように思います。あるいは柏倉さんによって再び現代へと見事に召喚されたというべきでしょうか。個人的に印象深い箇所を少しだけ抜き出してみます。「華麗に、全的に、そして孤独に、このように/跡形もなく蒸発することに、人間たちの誤った自負心は恐れ慄いている。/この取り乱した群衆! 彼らは宣言する、すなわち、自分たちは/未来の亡霊の悲しい半透明な姿にすぎないと」(「喪の乾杯」79頁)。「そう、ただ私のため、私のためだけに、ひとり咲く花! お前たちも知っていよう、目もくらむ知の深淵に/永久に埋もれたアメジストの花園を」(「エロディアード」59頁)。

★作品中で時折マラルメは三つの単語を並列することがあるのですが、これにはマラルメの詩の宇宙を読む者の胸中に出現させる喚起力があるように感じます。例えば「孤独、暗礁、星」(「乾杯」5頁)、「地図、植物図鑑、典礼書」(「プローズ(デ・ゼッサントのために)」82頁)、「夜、絶望、宝石」(「――船旅のたった一つの気掛りに」124頁)など。市販される紙媒体がたったの60冊というのはもったいない印象がありますが、いずれ本書をはじめ、「牧神の午後」※や「賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう」や、ポー「大鴉」のマラルメによる訳詩など、柏倉さんが研究されてきた一群のマラルメ作品が一冊にまとめられることを強く願いたいです。

※「牧神の午後」は本書(64~73頁)に収録されていますが、かつて柏倉さんはこの詩篇を単独出版されたことがあります(『牧神の午後』左右社、2010年、加藤茜挿画、130部限定)。また、同作の初期ヴァージョンである「牧神の独白」については、ジャン=ミシェル・ネクトゥや柏倉さんによる論及を収録した大型本、『牧神の午後――マラルメ・ドビュッシー・ニジンスキー』(オルセー美術館編、柏倉康夫訳、平凡社、1994年)があります。柏倉さんによる論及は本書の訳者あとがきとして収録されており、柏倉さんのブログでも読むことができます(「マラルメのエロティシズム」)。

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★このほか、最近では以下の新刊詩集との出会いがありました。
柏木如亭詩集2』柏木如亭著、揖斐高訳注、東洋文庫/平凡社、2017年7月、本体2,900円、B6変判上製函入302頁、ISBN978-4-582-80883-4
哀歌とバラッド』浜田優著、思潮社、2017年7月、本体2,400円、A5判上製104頁、ISBN978-4-7837-3574-8

★『柏木如亭詩集2』はまもなく発売となる全2巻の完結編で、東洋文庫の第883巻。第2巻では初老期から老年期の漢詩作品を収めています。帯文に曰く「京都を足場に諸国を漂泊し、時に江戸を思う」とあります。柏木如亭(かしわぎ・じょてい:1763-1819)は医者だった弟に送った七言絶句「示立人弟」の中で「人生一世誰非客(人生一世、誰か客に非ざらん:人の一生は皆な旅人のようなもの)」(141頁)と歌いました。解説によれば、文化十年(1813年)の冬に信州・上田の弟である正亭の住まいを訪問し、しばらく滞在して楽しい日々を過ごした如亭が、辞去する際に書き送ったもの。食事にありつける場所が故郷だ(趣意)、と句は続きます。

★『哀歌とバラッド』は編集者であり詩人でもある浜田優(はまだ・まさる:1963-)さんによる、『生きる秘密』(思潮社、2012年)に続く最新詩集。特に印象に残ったのは「鎮魂歌」の中の次の一節です。「母が逝って三年近く経ったある日/夢のなかで私が、すでに辞めた職場のトイレを出て/自分のデスクに戻ってくると、横に母が立っていた/「さあ、もう帰るよ」と私が小声で言うと/「そうかい、死後とは終わったんだね」と嬉しそうだ」(47~48頁)。もしあの職場のことなら、今は建屋の老朽化で、浜田さんの昔の席のあたりは雨漏りしていると聞きました。水が流れた痕跡というのはなぜあんなにも悲しくも生々しく見えるのでしょうか。

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★また、今月のちくま学芸文庫では以下の書目が発売されています。

ユダヤ人の起源――歴史はどのように創作されたのか』シュロモー・サンド著、高橋武智監訳、佐々木康之/木村高子訳、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,800円、文庫判656頁、ISBN978-4-480-09799-6
社会学への招待』ピーター・L・バーガー著、水野節夫/村山研一訳、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-09803-0
よくわかるメタファー――表現技法のしくみ』瀬戸賢一著、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN9784-480-09805-4
一百四十五箇条問答――法然が教えるはじめての仏教』法然著、石上善應訳・解説、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-098061
道教とはなにか』坂出祥伸著、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,300円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-09812-2

★『ユダヤ人の起源』の親本は浩気社より2010年に刊行。発売元はランダムハウス講談社で発売直後に武田ランダムハウスジャパンに変更されたものと思われます。同社は2012年に倒産しており、浩気社も本書を最後に出版が途絶えているようです。原著は2008年に刊行されたヘブライ語版で、日本語訳は仏語訳版『Comment le peuple juif fut inventé』(Fayard, 2008)を底本としています。この仏語訳版は刊行された年内に4万部も売れたそうです。佐々木康之さんによる「文庫版への訳者まえがき」には、文庫化にあたり誤植を改め訳文を改訂したとあります。著者のサンド(Shlomo Sand, 1946-)はテルアビブ大学名誉教授。

★『社会学への招待』は巻末注記によれば新思索社の普及版(2007年)を底本とし「全体を通して訳文を見直したほか、新たに索引を加えた」と。索引は事項と人名を合わせたもの。原著は『Invitation to Sociology: A Humanistic Perspective』(Doubleday, 1963)です。「文庫版訳者あとがき」によれば「本書は、非常に軽やかな口調で、すぐれた社会学的発想の諸相を懇切丁寧に展開・披露してくれている社会学への招待状である」と。日本語訳は1979年に出版されて以来、改訂を経て版を重ねてきたロングセラーです。新思索社は昨夏倒産。ベイトソンの訳書など文庫化が待たれている書目は数多いです。

★『よくわかるメタファー』は「メタファーを中心に比喩をわかりやすく解きほぐすと同時に、わかりやすい比喩とは何か、なせそれはわかりやすいのかについて考える」(「はじめに」より)もの。親本となる『よくわかる比喩――ことばの根っこをもっと知ろう』(研究社、2005年)を「若干改訂し、補章を加えた」(巻末注記)とのことです。補章というのは本書末尾のパートⅤ「メタファーの現在」の終章「2500年比喩の旅」の後に置かれた「村上春樹とメタファーの世界」のこと。この補章では村上春樹さんが今年2月に上梓した『騎士団長殺し』の第2部「遷ろうメタファー編」が取り上げられています。

★『一百四十五箇条問答』は月刊「在家仏教」誌での連載「心月輪」(2012年3月718号2016年12月775号)に加筆修正のうえ文庫化したもの。法然の教えが一問一答形式で平易に書かれた晩年作を現代語訳し解説したものです。訳と解説を担当された石上善應(いしがみ・ぜんのう:1929-)さんは2010年に同文庫から法然の『選択本願念仏集』の現代語訳を上梓されています。『選択本願念仏集』と『一百四十五箇条問答』の石上さんによる現代語訳はもともと中央公論社版『日本の名著(5)法然』(1971年)で発表されたもので、その後推敲を経て2冊の文庫となったわけです。

★『道教とはなにか』は十章だてで、章題を列記すると「さまざまな神々を祀る宮廟」「仙人たちの姿と伝記」「房中術・導引・禹歩――道教に取り込まれる古代の方術(一)」「呪言――道教に取り込まれる古代の方術(二)」「呪符――道教に取り込まれる古代の方術(三)」「煉丹術の成立と展開――外丹の場合」「道教と医薬」「道教の歴史」「日本文化と道教」「現代の道教と気功事情」です。親本は中央公論新社より2005年に刊行されたもの。文庫化にあたり文庫版あとがきが加えられ、そこで参考文献が追補されています。

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by urag | 2017-07-09 14:38 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 07月 06日

注目新刊:『ジャック・デリダ講義録 死刑Ⅰ』白水社

★ジャック・デリダさん(著書:『条件なき大学』)
★高桑和巳さん(訳書:アガンベン『バートルビー』『思考の潜勢力』、共訳:ボワ/クラウス『アンフォルム』)
「ジャック・デリダ講義録」の最新刊『死刑Ⅰ』が先月末、白水社さんより上梓されました。1999年12月8日から2000年3月までに11回分の講義が収められています。2000~2001年度に当たる『死刑Ⅱ』は郷原佳以、佐藤嘉幸、西山雄二、佐藤朋子の四氏により白水社から続刊予定だそうです。なお、同講義録ではすでに『獣と主権者Ⅰ』(西山雄二/郷原佳以/亀井大輔/佐藤朋子訳、白水社、2014年11月)と『獣と主権者Ⅱ』(西山雄二/亀井大輔/荒金直人/佐藤嘉幸訳、白水社、2016年6月)が刊行されています。

ジャック・デリダ講義録 死刑Ⅰ
ジャック・デリダ著 高桑和巳訳
白水社 2017年6月 本体7,500円 A5判上製422頁 ISBN978-4-560-09803-5

帯文より:「私は、単にして純な、最終的な死刑廃止に投票します。」──このヴィクトール・ユゴーの声を力強く響かせながら、残酷さ、血、例外、恩赦、主権、利害……極刑のはらむ概念について、憲法や条約、文学作品とともに明解に問い直されてゆく哲学のディスクール! 死刑存廃論の全体を脱構築してゆく、政治神学‐死刑論。

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by urag | 2017-07-06 11:26 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 07月 02日

注目新刊:セヴェーリ『キマイラの原理』白水社、ほか

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キマイラの原理――記憶の人類学
カルロ・セヴェーリ著 水野千依訳
白水社 2017年6月 本体7,300円 A5判上製414頁 ISBN978-4-560-09555-3

帯文より:埋もれたヴァールブルクの遺産、来たるべき《イメージ人類学》へ。文字なき社会において「記憶」はいかに継承されるのか。 西洋文化のかなたに息づく「記憶術」から人間の「思考形式の人類学」へと未踏の領域を切り拓く、レヴィ゠ストロースの衣鉢を継ぐ人類学者による記念碑的著作。オセアニアの装飾、ホピ族の壺絵、アメリカ先住民やクナ族の絵文字、アパッチ族の蛇=十字架、スペイン系入植者末裔のドニャ・セバスティアーナ――言葉とイメージのはざまに記憶のキマイラが結晶する。

★発売済。原書は『Il percorso e la voce: Un'antropologia della memoria』(Einaudi, 2004)で、原題は『行程と声――記憶の人類学』で、訳題「キマイラの原理」は2007年のフランス語版から採られています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭には「記憶から思考へ」と題された日本語版への序文が付されています。その題名の意図するところはこうです。「記憶の分析は別種の思考形式の研究へと到達する」(7頁)。訳者あとがきによれば本書は「人類学者カルロ・セヴェーリがアメリカ大陸やオセアニアの先住民を対象とする地域研究の成果を理論的に推し進め、「記憶の人類学」という未踏の学問領域を切り拓いた記念碑的ともいえる著作」であり、「記憶が社会的に共有される「儀礼」という場に焦点を定め、西洋文化のかなたに息づく記憶技術の解明に捧げた本書は、特定の地域研究の枠を超えて、哲学、民族学、心理学、精神医学、言語学、美術史、物語論の成果を縦横に応用しながら、広く人間一般の記憶、認識、想像力をめぐる理論研究として、独創的かつ発展性のある新しい視座を私たちに提起」するものです。セヴェーリ(Carlo Severi, 1952-)はイタリア出身でパリの社会科学高等研究院(EHESS)の社会人類学講座教授であり、フランス国立科学研究センター(CNRS)の教授。2016年には来日を果たしており、著書が邦訳されるのは今回が初めてです。

★訳者あとがきでは20世紀後半以降のイメージ論や記憶術研究、そして人類学の動向についても概観されており、書店員さんや版元営業にとって必読です。例えば人類学についてはこんな説明があります。「人類学や言語学を席捲したクロード・レヴィ=ストロースの「構造主義」に抗し、それを批判的に乗り越えようとした1968年以降のいわゆる「ポスト構造主義思想」(ピエール・クラストル、モーリス・ゴドリエなど)を経て、80年代以降の人類学には、構造主義の遺産を再評価しながら、両者を媒介し統合しようとする新たな動きが胎動した。ヘナレ、ホルブラード、ワステルによって「人類学の静かな革命」と呼ばれた転換がそれである。ダン・スペルベルに代表される認知人類学、ジェイムズ・クリフォード、ジョージ・E・マーカス、マイケル・M・J・フィッシャーをはじめ、英米系民族誌学に80年代に高揚した「ポストモダン人類学」(あるいは「再帰的人類学」)の衝撃的な理論的転回、さらに90年代のポストコロニアル人類学の影響を受けつつも、それらの陰で個別に進められてきた研究が、近年、ひとつの思想的潮流として認識され、人類学の「存在論的転回」という名のもとで注目を集めている。この動向を代表するのは、英米の人類学者マリリン・ストラザーンやロイ・ワグナー、アルフレッド・ジェル、ティム・インゴルド、フランスのブルーノ・ラトゥール、フィリップ・デスコラ、フレデリック・ケック、そしてブラジルのエドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ、さらに若手ではカナダのエドゥアルド・コーンらである。日本でも近年、この新たな潮流は脚光を浴びており、〔・・・〕水声社から刊行中の叢書「人類学の転回」を筆頭に、精力的に紹介が進められている」(370頁)。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

謎床――思考が発酵する編集術』松岡正剛×ドミニク・チェン著、晶文社、2017年7月、本体1,800円、四六判並製360頁、ISBN978-4-7949-6965-1 C0095
飯場へ――暮らしと仕事を記録する』渡辺拓也著、洛北出版、2017年7月、本体2,600円、四六判並製506頁、ISBN978-4-903127-26-2
「利己」と他者のはざまで――近代日本における社会進化思想』松本三之介著、以文社、2017年6月、本体3,700円、四六判上製456頁、ISBN978-4-7531-0341-6
バルカン――「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』マーク・マゾワー著、井上廣美訳、中公新書、2017年6月、本体920円、新書判並製336頁、ISBN978-4-12-102440-4
マリリン・モンロー 最後の年』セバスティアン・コション著、山口俊洋訳、中央公論新社、2017年6月、本体1,850円、四六判並製224頁、ISBN978-4-12-004987-3
ジョジョ論』杉田俊介著、作品社、2017年7月、本体1,800円、46判並製320頁、ISBN978-4-86182-633-7
〈戦後思想〉入門講義――丸山眞男と吉本隆明』仲正昌樹著、作品社、2017年7月、本体2,000円、46判並製384頁、ISBN978-4-86182-640-5
『旅に出たロバは――本・人・風土』小野民樹著、幻戯書房、2017年7月、本体2,500円、四六判上製238頁、ISBN:978-4-86488-125-8
『60年代は僕たちをつくった[増補版]』小野民樹著、幻戯書房、2017年7月、本体2,500円、四六判上製270頁、ISBN978-4-86488-123-4
テレビ番組海外展開60年史――文化交流とコンテンツビジネスの狭間で』大場吾郎著、人文書院、2017年6月、本体3,800円、4-6判並製426頁、ISBN978-4-409-23057-2
悲しみについて』津島佑子著、2017年6月、本体2,800円、4-6判上製332頁、ISBN978-4-409-15029-0

★まず『謎床(なぞとこ)』はまもなく発売開始。松岡正剛さんとドミニク・チェンさんという親子ほどの差があるお二人による刺激的な対談本です。チェンさんは巻頭の「はじめに」で「あらゆる情報が即時にインストールできる現代の環境において、いかに本質的な謎、つまり問いを生成できるかということは、人間を人間たらしめる最も重要な要件となる」と指摘し、人間「相互の自律的な学習」を展望します。これは出版界にとっても重要なアイデアです。

★次に洛北出版さんと以文社さんの新刊です。渡辺拓也『飯場へ』は2014年に大阪市立大学大学院より学位授与された博士論文に加筆修正を施したもの。自ら飯場にも飛び込んだ体当たりの瑞々しい論考です。松本三之介『「利己」と他者のはざまで』は丸山真男さんのお弟子で、政治思想史研究の重鎮による、近代日本における社会進化論から自然権思想の形成を読み解く試み。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★次に中央公論新社さんの新刊から2点。『バルカン』の原書は『The Balkans: a short history』(Modern Library, 2000)です。近年続々と邦訳されている歴史家の4冊目の訳書にして初の新書。序と解題は村田奈々子さんがお書きになっておられます。『マリリン・モンロー 最後の年』の原書は『Marilyn 1962』(Editions Stock, 2016)。訳者あとがきの文言を借りると、女優の後半生を12人の関係者の視点から多角的かつ重層的に描いたもの。

★続いて作品社さんの新刊から2点。『ジョジョ論』は障碍者介助の傍ら執筆活動を続けてきた気鋭の批評家による力作。弱さや病、狂気や無能力の中に人間の本当の強さやかけがえのない美を見つつ、それらをオルタナティヴな資本として評価する試みです。周知の通り三池崇史監督による実写映画公開も間近(8月4日)。『〈戦後思想〉入門講義』は仲正さんの講義シリーズの最新刊。丸山の『忠誠と反逆』と吉本の『共同幻想論』を精読したものです。

★続いて幻戯書房さんの新刊から小野民樹さんのエッセイ2点。『旅に出たロバは』は岩波書店の編集者時代の神保町古書店街の記憶を綴った「古本の小道」を含む6篇を収録。小野さんは2007年に退職後、大学教授を10年間勤めあげて退官されたばかりです。青年期を綴った『60年代は僕たちをつくった[増補版]』の親本は2004年に洋泉社より刊行。再刊にあたり、「古稀老人残日録」と「増補版あとがき」が加えられています。

★最後に人文書院さんの新刊から2点。大場吾郎『テレビ番組海外展開60年史』は元テレビマンの研究者による、日本のテレビ番組が1960年代以降にどのように輸出され受容されてきたかを綿密に検証した労作。『悲しみについて』は「津島佑子コレクション」第Ⅰ期第1回配本。収録作品は書名のリンク先をご覧ください。巻末には石原燃さんによる解説「人の声、母の歌」が収められています。第2回配本は9月予定、『夜の光に追われて』です。

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by urag | 2017-07-02 15:27 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 25日

注目新刊:ヘグルンド『ラディカル無神論』、ラトゥール『法がつくられているとき』、ほか

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★明日以降順次発売開始と聞く注目新刊をまずご紹介します。

ラディカル無神論――デリダと生の時間』マーティン・ヘグルンド著、吉松覚/島田貴史/松田智裕訳、法政大学出版局、2017年6月、本体5,500円、四六判上製478頁、ISBN978-4-588-01062-0
法が作られているとき――近代行政裁判の人類学的考察』ブルーノ・ラトゥール著、堀口真司訳、水声社、2017年6月、本体4,500円、四六判上製473頁、ISBN978-4-8010-0263-0

★ヘグルンド『ラディカル無神論』の原書は『Radical Atheism: Derrida and the Time of Life』(Stanford University Press, 2008)です。ヘグルンド(Martin Hägglund, 1976-)は、スウェーデン出身の哲学者で、現在イェール大学比較文学・人文学教授。本訳書は著者にとって英語で刊行された初めての著書であり、単行本での本邦初訳となります(中国語訳と韓国語訳が進行中と聞きます)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。日本語版付録として「ラディカル無神論的唯物論──メイヤスー批判」(初出:吉松覚訳、『現代思想』2016年1月号「特集=ポスト現代思想」)が再録されています。ヘグルンドは序文で自著についてこう述べています。「本書は、デリダがたどった道筋全体を一貫して捉えなおそうとする試みを提示している。デリダの思考のなかに倫理的ないし宗教的な「転回」があったとする見解を退けることで、私は、ラディカルな無神論が終始一貫して彼の著作を形づくっていることを明らかにしたい」(3頁)。

★序文では各章について端的な紹介があります。「第一章〔時間の自己免疫性──デリダとカント〕では、デリダの脱構築とカントの批判哲学との関連を扱う」。「第二章〔原‐エクリチュール──デリダとフッサール〕では時間の総合という脱構築的な観念を、デリダが「原-エクリチュール」と呼んだものの分析を通して展開する」。「第三章〔原‐暴力──デリダとレヴィナス〕では、原-エクリチュールと、デリダが原-暴力と呼ぶものとの関連を明らかにする」。「第四章〔生の自己免疫性──デリダのラディカル無神論〕では、デリダのラディカル無神論の重要性を、詳細にわたって示すことにする」。「第五章〔デモクラシーの自己免疫性──デリダとラクラウ〕では、ラディカル無神論の論理がデリダのデモクラシー概念に結びつけられる」(20-22頁)。

★以下では印象的な言葉を抜き出してみます。「デリダは、それ〔「生き延び」という観念〕が自分の仕事全体にとって中心的な重要性をもつと繰り返し指摘しているが、彼は生き延びの論理について明確に問題を示したことなど一度もなかったし、それが同一性や欲望、倫理や政治にかんするわれわれの思考へと分岐していることを示したこともなかった。こうした議論を準備することで私は、彼がこの語に与える厳密な意味において、デリダを「相続」しようと努めた。相続することは、単に師に導かれたことを受け入れるだけではない。それは、師の教えをさまざまな仕方で生き続けさせるために、その遺産を肯定し直すことなのである。/このような相続はもっともらしく教えを守ることによってはなしえない。それは、ただ教えを批判的に識別することを通してのみ可能なのである」(23-24頁)。

★「ラディカル無神論の最初の挑戦は、生のあらゆる瞬間が実のところ生存の問題なのだということを証明することである。〔・・・〕何ものもそれ自体として与えられることはありえず、つねにすでに過ぎ去っている〔・・・〕仮に出来するものがそれ自体として与えられ過ぎ去ってしまうことがなかったならば、未来のために何かを書き留める理由などないだろう。〔・・・〕生き延びの運動なしにはいかなる生も存在しえない〔・・・〕。生き延びの運動は来たるべき予見不可能な時間のために、破壊可能な痕跡を残すことによってのみ存続するのだ」(96頁)。

★「ひとが望む未来はどのようなものであれ、内在的に暴力的で(なぜならこの未来は、他の未来を犠牲にしてのみ到来しうるのだから)、かつそれ自体暴力にさらされている(なぜならこの未来は他の未来の到来によって打ち消されるかもしれないからだ)。〔・・・〕生き延びを目指した欲動は、デモクラシーを望むということがいかにして可能になるかわれわれが説明することを可能にする傍らで、なぜこの欲望は本質的に退廃しうるもので、内在的に暴力的なのかを説明することをも可能にしてくれる〔・・・〕。デモクラシーを望むとしても、時間を逃れた存在の状態を望むことはできない。デモクラシーを望むことは本質的に、時間的なものを望むことである。なぜならデモクラシーは、民主主義的であるために、自らの変化=他化に開かれたままでなければならないからだ。〔・・・デモクラシーを求める欲望は〕あらゆる欲望において機能している生き延びの暴力的な肯定を明快に説明している〔・・・〕。ラディカル無神論の論理によってわれわれは政治の問題と、デモクラシーの課題を、新たな観点から評価することができるようになる」(398-399頁)。

★『ラディカル無神論』はそれ自体がデリダの思想を相続する試みであると同時に、デリダを相続しようとした先行者たちとの対話でもあり、それらをとりまく哲学史との対話でもあります。本書を読むことなしにデリダ研究の現在は語れないのではないかと思われます。

★ラトゥール『法が作られているとき』は「叢書・人類学の転回」の最新刊。原書は『La Fabrique du droit : une ethnographie du Conseil d'État』(La Découverte, 2002)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「フランスの行政法最高裁判所であるコンセイユデタの人類学的調査が実施され、法を専門としない外部者の視線から、裁判官が事件を処理し判決を作り上げるプロセスについて、詳細な記述が行われている」(訳者あとがき、456頁)本書について、ラトゥールは英語版序文でこう書いています。「エスノグラフィという装置を用いて、哲学的には捉えることができないような哲学的問題に取り組もうとしている。つまり、法の本質についてである。それは、本質とは、定義の中ではなく、実践、それもある特別な方法で異質な現象を全体的に結びつけているような、実態に根差した実践の中にこそあるということを知っているからである。そして、本書全体を通じて焦点を当てているのが、この特別な方法そのものを探求することなのである」(451頁)。

★ブルーノ・ラトゥール(Bruno Latour, 1947-)はフランス・パリ政治学院教授。科学社会学の泰斗で訳書には以下のものがあります。

1985年『細菌と戦うパストゥール』岸田るり子/和田美智子訳、偕成社文庫、1988年(品切)
1987年『科学がつくられているとき――人類学的考察』川崎勝/高田紀代志訳、産業図書、1999年
1991年『虚構の「近代」――科学人類学は警告する』川村久美子訳、新評論、2008年
1992年『解明 M.セールの世界――B.ラトゥールとの対話』ミシェル・セール著、梶野吉郎/竹中のぞみ訳、法政大学出版局、1996年(品切)
1999年『科学論の実在――パンドラの希望』川崎勝/平川秀幸訳、産業図書、2007年
2002年『法が作られているとき――近代行政裁判の人類学的考察』堀口真司訳、水声社、2017年
2014年「「近代」を乗り越えるために」、『惑星の風景――中沢新一対談集』所収、中沢新一著、青土社

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★次に、発売済の今月新刊から注目書をピックアップします。

ミシェル・フーコー講義集成Ⅲ 処罰社会――コレージュ・ド・フランス講義1972-1973年度』ミシェル・フーコー著、八幡恵一訳、筑摩書房、2017年6月、本体6,000円、A5判上製448頁、ISBN978-4-480-79043-9
口訳万葉集(下)』折口信夫著、岩波現代文庫、2017年6月、本体1,400円、A6判並製480頁、ISBN978-4-00-602289-1

★『ミシェル・フーコー講義集成Ⅲ 処罰社会』は発売済。全13巻のうちの第11回配本(原書『La société punitive. Cours au Collège de France (1972-1973)』は2013年刊)。帯文はこうです。「規律権力はどこから来たのか――現代の監視社会の起源を問う、もうひとつの『監獄の誕生』! 18世紀末から19世紀にかけ、監獄という刑罰の形態が、身体刑にとって代わり、突如として一般的になる。なぜ、このような奇妙な現象が生じたのか。犯罪者を「社会の敵」へと変えるさまざまな刑罰の理論と実践を検討し、のちの『監獄の誕生』では十分に深められなかった「道徳」の観点から、現代における規律権力の到来を系譜学的にさぐる。フーコー権力論の転回点を示す白熱の講義」。残すところ、講義録は第Ⅱ巻「刑罰の理論と制度(1971-1972)」と第Ⅹ巻「主体性と真理(1980-1981)」の2巻となりました。ちなみに新潮社版『監獄の誕生』は現在版元品切ですが、アマゾンでの表示が7月31日に入荷予定となっているので、おそらく重版が掛かるのだと思われます。

★折口信夫『口訳万葉集(下)』は全三巻の完結編。29歳の折の口述筆記による現代語訳です。下巻は巻十三から巻二十を収めています。夏石番矢さんによる解説「波路のコスモロジー」が巻末に掲載されています。今年は折口の生誕130年であり、角川ソフィア文庫の『古代研究』をはじめ、新刊が続いています。

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★また最近では以下の新刊との出会いがありました。

ゲンロン5 幽霊的身体』東浩紀編、ゲンロン、2017年6月、本体2,400円、A5判並製324頁、ISBN978-4-907188-21-4
わが人生処方』吉田健一著、中公文庫、2017年6月、本体860円、文庫判並製280頁、ISBN978-4-12-206421-8
鯨と生きる』西野嘉憲著、平凡社、2017年6月、本体4,500円、B5変判上製96頁、ISBN978-4-582-27828-6

★『ゲンロン5 幽霊的身体』は6月24日(土)より一般書店発売開始。発行部数一万部と聞いていますので、本誌の取扱書店一覧は、人文書版元の営業にとってMAXに近い配本先となり、非常に参考になります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。東浩紀さんによる巻頭言「批評とは幽霊を見ることである」にこんな言葉があります。「つまり批評とは、なによりもまず視覚の問題なのだ。批評家は、見えるものを分析するだけではいけない(それはジャーナリストや社会学者の仕事だ)。しかし、かといって、見えないものを夢想するだけでもいけない(それはこんどは芸術家の仕事だろう)。批評家は、見えるもののなかに、本来なら見えないはずのものを幻視する、特殊な目をもっていなけれなならない。言い換えれば、幽霊が見える目をもっていなければならない。/批評とは幽霊を見ることだ」(9~10頁)。「この21世紀の社会をよりよく生きるためには、みなが幽霊を見る目をもつべきである、すなわちみなが小さな批評家になるべきである〔・・・〕。ポストモダンとは、幽霊の時代であり、批評の時代なのである」(11頁)。なお、続刊となる第6号(9月予定)と第7号(2018年1月)では、連続で「ロシア現代思想」の特集が組まれるそうです。

★吉田健一『わが人生処方』は発売済。没後20周年記念オリジナル編集のエッセイ集第三弾です。人生論と読書論から成る二部構成で、巻末には著者のご息女である吉田暁子さんと松浦寿輝さんの対談「夕暮れの美学――父・作家、吉田健一」(初出は『文學界』2007年9月号)と、松浦さんの解説「すこやかな息遣いの人」が収められています。松浦さんはこうお書きになっておられます。「本書が教えてくれるのは、人は恋人の瞳や飼っている犬のしぐさや川面に移ろう光を愛するように本を愛しうるし、また愛すべきだという簡明な真実である。この「一冊の本」と深くまた密に付き合うことで、人は「時間がただそれだけで充実してゐる」世界を体験することができるからだ」(271頁)。「わたしの書架には数十年来何度も何度も読み返し読み古した挙句、黄ばんでよれよれになってしまった集英社文庫版の『本当のような話』や中公文庫版の『東京の昔』がまだ残っており、それらをわたしは死ぬまで手元に置いて、折に触れ繰り返しページを繰りつづけるだろう」(272頁)。紙の書物の「「実在」と深く密に触れ合」うことの「「充実」した時間」、この幸福は愛読書を持つ者なら共感できることではないかと思います。すべてが素早く移ろいゆく世界の中で、一冊の愛すべき書物を読む時間を持てるのは、この上なく贅沢なことです。

★西野嘉憲『鯨と生きる』は発売済。帯文に曰く「関東で唯一の捕鯨基地がある千葉県和田漁港。毎年、町には鯨とともに夏が訪れる。鯨が息づく町の暮らしや捕鯨船の様子を、自然とヒトの関係を追ってきた写真家が活写」。漁や解体、料理や食事など、外房の日常風景が並びます。意義深い出版に接し、著者や出版社に深い敬意を覚えます。本書に言及はありませんが、「環境保護団体」を自称する輩やその賛同者たちの横暴とは一切無縁の、貴重な一冊です。

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by urag | 2017-06-25 18:53 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 19日

ブックツリー「哲学読書室」に金澤忠信さんと藤井俊之さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ソシュールの政治的言説』(月曜社、2017年5月)を上梓された金澤忠信さんの選書リスト「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」と、『啓蒙と神話――アドルノにおける人間性の形象』(航思社、2017年4月)を上梓された藤井俊之さんの選書リスト「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

上尾真道さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
渡辺洋平さん選書「今、哲学を(再)開始するために
岡本健さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?

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by urag | 2017-06-19 16:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 19日

注目新刊:ブランショ『終わりなき対話(II)限界-経験』筑摩書房

★西山達也さん(訳書:サリス『翻訳について』)
★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』)
共訳書、モーリス・ブランショ『終わりなき対話(Ⅱ)限界−経験』が発売されました。書誌情報は下記の通り。西山達也さんは訳者を代表して、訳者あとがきをお書きになっておられます。なお第三部は2017年10月予定と予告されています。

終わりなき対話(Ⅱ)限界−経験
モーリス・ブランショ著、湯浅博雄/岩野卓司/上田和彦/大森晋輔/西山達也/西山雄二訳
筑摩書房、2017年6月、本体5,900円、A5判上製496頁、ISBN978-4-480-77552-8
カバー表1紹介文より:意味と決別せよ。ニーチェ論を転回点にヘラクレイトスからバタイユへ、哲学と文学を架橋し、意味の極北を探る渾身の第二部。

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by urag | 2017-06-19 11:13 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 18日

注目新刊:ハマー『アルカイダから古文書を守った図書館員』紀伊國屋書店、ほか

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ハイデガー『存在と時間』を読む』サイモン・クリッチリー/ライナー・シュールマン著、スティーヴン・レヴィン編、串田純一訳、法政大学出版局、2017年6月、本体4,000円、四六判上製298頁、ISBN978-4-588-01059-0
新訳ベルクソン全集(7)思考と動くもの』竹内信夫訳、白水社、2017年6月、本体4,100円、4-6判上製368頁、ISBN978-4-560-09307-8
西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』シュペングラー著、村松正俊訳、2017年6月、本体1,800円/1,600円、新書判並製384頁/288頁、ISBN978-4-12-160174-2/ISBN978-4-12-160175-9
なぞ怪奇 超科学ミステリー 復刻版』斎藤守弘著、復刊ドットコム、2017年6月、本体3,700円、B6判上製218頁、ISBN978-4-8354-5492-4

★『ハイデガー『存在と時間』を読む』の原書は『On Heidegger's Being and Time』(Routledge, 2008)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチにおけるクリッチリーとシュールマンの講義をレヴィンがまとめて、まえがきを付したものです。何と言ってもシュールマン(Reiner Schürmann, 1941-1993)のハイデガー講義(1978年、1982年、1986年)をまとめて読めるようになったことが嬉しいです。シュールマンには主著であるハイデガー論『アナーキーの原理』やエックハルト論、大部の遺稿集などがあり、いずれも未訳ですが、これをきっかけに日本語でもいずれ読めるようになればと願わずにいられません。

★『新訳ベルクソン全集(7)思考と動くもの』は配本が遅れていましたが、何と言っても個人全訳ですから気長に待つということで全然良かったわけです。しかしながら本書巻末の「読者のみなさまへ」という白水社の特記や月報7での「訳者のつぶやき」において、事情が明かされています。巻末の特記(ほぼ同文の「『新訳ベルクソン全集』についてお知らせとお詫び」が版元サイトに掲出)にはこうあります。「既刊では「訳注」を「原注」と併せ付してまいりましたが、本巻においては、訳者の健康上の理由により、「訳注」は断念せざるを得ませんでした。〔・・・〕同様の理由により、現時点では、次回以降の配本(第6巻『道徳と宗教の二つの源泉』及び「別巻」)の見通しが立っておりません。つきましては、訳者と話合いの結果、今回配本をもちまして刊行をいったん中止させていただくことに致しました。みなさまのご賢察を願い上げ、ご寛恕を乞う次第です」と。竹内先生は月報にこう書かれています。「最後の一巻『道徳と宗教の二つの源泉』に取り組んでいきたいという思いにいささかの変りもない。しかし、自身の身体の現状をふまえ、白水社と協議した結果、刊行はいったん中止して、再開・完結を期したいと考えるに至った」。まさに命懸けのご訳業に胸が震えます。

★『西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』は、五月書房の縮約版の再刊。巻末の編集付記によれば「1976年に五月書房さから刊行された『西洋の没落』(縮約版)を底本とし、新たな解説を作品の前に付した。割注は訳者に拠る」と。新たな解説というのは第1巻巻頭に掲載された板橋拓己(成蹊大学教授)による「時代が生んだ奇書」のこと。訳者は1981年に死去されています。本文の改訂の有無についてですが、同付記によれば「明らかな誤字・脱字は訂正した。固有名詞や用字・用語については初版の表記に拠った」とあります。縮約版ではなく完全版が再刊されたらよかったのに(五月書房が廃業されているため新本での入手はできません)とも思いますが、親本は46判上下巻で1200頁を超える大冊なので、中公クラシックスに入れるには大きすぎたでしょうか。

★『なぞ怪奇 超科学ミステリー 復刻版』は「ジャガーバックス」に続いて復刊ドットコムが再刊に着手した「ジュニアチャンピオンコース」の第一弾。初版は1974年。個人的には「ジャガー」よりこちらのシリーズの方が好きで、しかも一番印象に残っている本書が復刻され、嬉しくてたまりません。頁をめくると脳裏の深い場所から記憶がまざまざと蘇ってくるのを感じます。どのイラストも写真もくっきりと思い出に一致して、どれほど自分がこの本に強い印象を抱いていたのかが分かります。送料も含めると4000円超えにはなりますが、満足です。強いて言えば、原本とは製本に差があって、ノドの開きに物足りなさを感じます。これは以後、何とか改善されればと願うばかりです。それにしても子供時代の本を大学生の頃に一挙に廃棄してしまったのは失敗だったなと今さらながらつくづく悔やまれます。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

アルカイダから古文書を守った図書館員』ジョシュア・ハマー著、梶山あゆみ訳、紀伊國屋書店、2017年6月、本体2,100円、B6判上製349頁、ISBN978-4-314-01148-8
人類はなぜ肉食をやめられないのか――250万年の愛と妄想のはてに』マルタ・ザラスカ著、小野木明恵訳、インターシフト発行、合同出版発売、2017年6月、本体2,200円、46判並製320頁、ISBN978-4-7726-9556-5
現代思想2017年7月臨時増刊号 総特集=築地市場』青土社、2017年6月、本体1,600円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1347-9

★『アルカイダから古文書を守った図書館員』の原書は『The Bad-Ass Librarians of Timbuktu: And Their Race to Save the World's Most Precious Manuscripts』(Simon & Schuster, 2016)です。イスラム原理主義者はこれまで他宗教や多文化の遺跡や歴史的遺物の破壊を繰り返してきましたが、彼らのターゲットには古文書も含まれています。本書は西アフリカ・マリ共和国で37万点もの貴重書をアルカイダ系組織から守った図書館員アブデル・カデル・ハイダラの活躍を伝えるノンフィクションです。危険を察知したハイダラの機転により、トンブクトゥの図書館から1000キロ離れた首都バマコまで古文書が移されたお蔭で、被害は拡大せずに済んだと言います。イスラム原理主義者の行動範囲がイギリスやフランスまで広がりつつあるこんにち、この先に起こるかもしれない新たな悲劇のことを強く危惧せざるをえません。

★『人類はなぜ肉食をやめられないのか』の原書は『MEATHOOKED: The History and Science of Our 2.5-Million-Year Obsession with Meat』(Basic Books, 2016)です。目次および解説は書名のリンク先をご覧ください。肉食の長い長い歴史をひもとき、なぜ人類は肉を食べるのか好きなのかを解き明かします。それは「古代の細菌が他の細菌の「肉」の味のとりこになったときから始まっている」(14頁)というのです。そして「肉食は、人類がアフリカから外に出るのを後押ししただけでなく、(人類の親戚であるチンパンジーに比べて)体毛が薄くなり大量の汗をかくようになったことにもかかわっているのだ」(同)そうです。本書ではさらに食肉不足が予想される近未来を展望し、「肉のない世界」(296頁)での栄養転換について説明しています。「肉の消費を大幅に減らさなければ、地球温暖化や水不足、環境汚染に直面する可能性が著しく高くなる」(301頁)と著者は警告しています。

★『現代思想2017年7月臨時増刊号 総特集=築地市場』は中沢新一さんによる責任編集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。中沢さんご本人は、伊東豊雄さんとの徹底討論「「みんなの市場」をめざす」「夢にあふれた近代建築――『東京市中央卸売市場築地本場・建築図集』を読む」を行い、仲卸業者の中澤誠さんへのインタヴュー「天才的な築地市場」を手掛けられているほか、巻頭言や論考2篇「築地市場の「富」」「築地アースダイバー」(図版協力=深澤晃平)を寄稿しておられます。「築地アースダイバー」で中沢さんはこう書いておられます。「築地市場のユニークさは、物流センターとしての機能だけに限定されない。仲卸の中心にしてかたちづくられてきた「中間機構」の中に、味覚をめぐる莫大な量の身体的暗黙知が蓄積され、それがいまも健全な活動を続けている。〔・・・〕築地市場は我々の宝物である。そしてなによりも築地市場には未来がある。この未来を絶ってしまってはならない」(39-40頁)。これがノスタルジーなどではないことは本特集号の内容がよく示しています。

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by urag | 2017-06-18 18:18 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 06月 11日

注目新刊:キャロル『セレンゲティ・ルール』紀伊國屋書店、ほか

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★まず先月発売の新刊でこれまで言及できていなかった新刊の中で特に注目している本を以下に列記します。

◎2017年5月刊行
02日『哲学としての美学――“美しい”とはどういうことか』ギュンター・ペルトナー著、渋谷治美監訳、中野裕考+中村美智太郎+馬場智一+大森万智子訳、晃洋書房
12日『ラテン語を読む――キケロー「スキーピオーの夢」』山下太郎著、ベレ出版、2017年5月、本体2,900円、A5判並製368頁、ISBN978-4-86064-510-6
12日『シャルリ・エブド事件を読み解く――世界の自由思想家たちがフランス版9・11を問う』ケヴィン バレット編著、板垣雄三訳、第三書館
14日『観念に到来する神について』新装版、エマニュエル・レヴィナス著、内田樹訳、国文社
15日『最後の人間からの手紙――ネオテニーと愛、そしてヒトの運命について』ダニ=ロベール・デュフール著、福井和美訳、書肆心水
22日『自己意識と他性――現象学的探究』ダン・ザハヴィ著、中村拓也訳、法政大学出版局
24日『キリスト教教父著作集(2/Ⅱ)エイレナイオス(2)異端反駁(Ⅱ)』エイレナイオス著、大貫隆訳、教文館
25日『ニーベルンゲンの歌』岡﨑忠弘訳、鳥影社
26日『ミルトン・エリクソンの催眠の経験――変性状態への治療的アプローチ』ミルトン・H・エリクソン/アーネスト・L・ロッシ著、横井勝美訳、金剛出版
26日『私たちのなかの私――承認論研究』アクセル・ホネット著、日暮雅夫+三崎和志+出口剛司+庄司信+宮本真也訳、法政大学出版局
27日『本棚の歴史』新装復刊版、ヘンリー・ペトロスキー著、池田栄一訳、白水社
30日『ボディ・スタディーズ――性、人種、階級、エイジング、健康/病の身体学への招待』マーゴ・デメッロ著、田中洋美監訳、兼子歩+齋藤圭介+竹﨑一真+平野邦輔訳、晃洋書房

★山下太郎『ラテン語を読む』はキケローの著作『国家について』の最終巻である「スキーピオーの夢」のラテン語原文、全文訳(直訳調)、現代語訳を掲出するだけでなく、原文を文章のまとまりごとに分け、それぞれの訳文を示した上で構成する一語ずつすべてについても語義と文法の解説を加え、さらに復習用の逐語訳を付す、という体裁の本です。原文は10頁強を占めるに過ぎませんが、じっくりと原典に向き合うことができ、独習者向けの親切な一冊です。著者の山下さんは東京、名古屋、京都を中心にラテン語講習会を精力的に続けられています。

★次に今月刊行済の新刊で未言及のものから注目書をピックアップします。これらのいくつかはあらためて後日触れるつもりです。

◎2017年6月
08日『西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』シュペングラー著、村松正俊訳、2017年6月、本体1,800円/1,600円、新書判並製384頁/288頁、ISBN978-4-12-160174-2/ISBN978-4-12-160175-9
09日『プラトーン著作集 第10巻書簡集・雑編 第1分冊 エピノミス/書簡集』水崎博明訳、櫂歌書房
09日『プラトーン著作集 第10巻書簡集・雑編 第2分冊 雑編』水崎博明訳、櫂歌書房
09日『フランス・ルネサンス文学集(3)旅と日常と』宮下志朗+伊藤進+平野隆文編訳、斎藤広信+篠田勝英+高橋薫訳、白水社
11日『新訳ベルクソン全集(7)思考と動くもの』竹内信夫訳、白水社
12日『ハイデガー『存在と時間』を読む』サイモン・クリッチリー/ライナー・シュールマン著、スティーヴン・レヴィン編、串田純一訳、法政大学出版局
13日『道徳哲学史』バルベラック著、門亜樹子訳、京都大学学術出版会 (近代社会思想コレクション20)

★さらに、これから月内に発売予定の注目新刊も掲出しておきます。今月は見逃せない重要作が続々と登場します。

15日『終わりなき対話(Ⅱ)限界-経験』モーリス・ブランショ著、湯浅博雄+上田和彦+岩野卓司+大森晋輔+西山達也+西山雄二訳、筑摩書房
21日『精神の革命――ラディカルな啓蒙主義者と現代民主主義の知的起源』ジョナサン・イスラエル著、森村敏己訳、みすず書房
22日『ミシェル・フーコー講義集成(3)処罰社会 コレージュ・ド・フランス講義1972-1973年度』八幡恵一訳、筑摩書房
28日『キマイラの原理――記憶の人類学』カルロ・セヴェーリ著、水野千依訳、白水社
29日『死刑Ⅰ(ジャック・デリダ講義録)』高桑和巳訳、白水社
30日『ラディカル無神論――デリダと生の時間』マーティン・ヘグルンド著、吉松覚+島田貴史+松田智裕訳、法政大学出版局

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか』ショーン・B・キャロル著、高橋洋訳、紀伊國屋書店、2017年6月、本体2,200円、46判上製346頁、ISBN978-4-314-01147-1
斎藤昌三 書痴の肖像』川村伸秀著、晶文社、2017年6月、本体5,500円、A5判上製504頁+カラー口絵8頁、ISBN978-4-7949-6964-4

★キャロル『セレンゲティ・ルール』はまもなく発売(15日頃)。原書は『The Serengeti Rules: The Quest to Discover How Life Works and Why It Matters』(Princeton University Press, 2016;書名のリンク先で著者の動画もご覧になれます)です。著者のショーン・B・キャロル(Sean B. Carroll, 1960-)はウィスコンシン大学マディソン校教授で、エボデボ(進化発生生物学)の第一人者。単独著の既訳書に『シマウマの縞 蝶の模様――エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(渡辺政隆+経塚淳子訳、光文社、2007年)、共著では『DNAから解き明かされる形づくりと進化の不思議』(Jennifer K.GrenierおよびScott D.Weatherbeeとの共著、上野直人+野地澄晴監訳、羊土社、2003年)があります。

★今回翻訳された『セレンゲティ・ルール』は彼の最新著。「さまざまな種類の分子や細胞の数を調節する分子レベルのルールが存在するのと同じように、一定の区域で生息可能な動植物の個体数を調節するルールが存在する」(18~19頁)ことを発見した著者は、この生態系レベルのルールをタンザニアのセレンゲティ国立公園にちなんで「セレンゲティ・ルール」と呼んでいます。訳者の高橋さんは巻末の訳者あとがきでこう指摘されています。「生態系の破壊は、言うまでもなく今日の大問題の一つであり、本書を読めば、生命や生態系の基盤となる調節の論理を無視した人間の営みによって予期せぬ破局が引き起こされ得るという環境倫理の問題を、具体例を通じて十分に理解できるはずである」(298頁)。地球の行く末を真剣に案じている読者は本書から大きな示唆を得られるはずです。

★著者はこう述べています。「もっとも差し迫った課題とは、私たちが住む世界の健康が蝕まれていることを、そして他の生物はもちろん、人間の生活をも支えている地球の生態系が、それによっていかなる影響を受けているかを理解することなのだ。〔・・・〕20世紀の標語が「医療による生活向上」であったとすれば、21世紀の標語は「環境保全による生活向上」というものになろう」(274頁)。さらにこうも述べます。「本書を執筆した同期の一つは、長期的な見通しを必要とし、不可能とすら思えるほど複雑で困難な挑戦であっても、これまで何度も克服されてきたという事実を示したかったことである。〔・・・〕メンドータ湖、イエローストーン、ゴンゴローザにおける成果は、特定の種の再生、生息環境の改善、さらには荒廃した生態系の再生すら可能であることを示す。今こそ私たちは態度を改めるべきだ」(276頁)。

★川村伸秀『斎藤昌三 書痴の肖像』は発売済。カバーソデ紹介文に曰く「大正・昭和の書物文化興隆期に、奇抜な造本で書物愛好家たち垂涎の書籍を作り上げたことで知られている書物展望社。その社主であり、自らも編集者・書誌学者・蔵票研究家・民俗学者・俳人・郷土史家と多彩な顔を持っていた斎藤昌三(1887-1961)の足跡を丹念に調べ直し、その人物像と同時代の作家・学者・画家・趣味人たちとの交友とを鮮やかに描き出した画期的な労作。今では貴重な傑作装幀本の数々をカラー頁を設けて紹介。詳細な年譜・著作目録も付す」と。カバーにはさらに仕掛けもあって、裏返しても使えるものとなっています(店頭にて現物をご確認いただくことをお薦めします)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。カラーグラビア「ゲテ装本・書物展望社本、少雨荘の本」はただただその美しさにため息が出ます。

★類書には八木福次郎『書痴斎藤昌三と書物展望社』(平凡社、2006年)があります。また、晶文社さんでは出版人列伝として近年では、カルロ・フェルトリネッリ『フェルトリネッリ――イタリアの革命的出版社』(麻生九美訳、晶文社、2011年、ISBN978-4-7949-6756-5)も刊行されており、話題を呼びました。さらに同社では国内の出版人や書店員の様々な自伝的著作を出されていることも周知の通りかと思います。なお、晶文社さんの近刊書として、松岡正剛×ドミニク・チェン『謎床――思考が発酵する編集術』(晶文社、2017年7月上旬発売、本体1,700円、四六判並製360頁、ISBN978-4-7949-6965-1)が予告されています。たいへん楽しみです。

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by urag | 2017-06-11 20:04 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)