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2017年 04月 30日

注目シリーズのスタート:『吉本隆明全集』第二期、「井筒俊彦英文著作翻訳コレクション」、ほか

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吉本隆明全集(37)書簡I』晶文社、2017年5月、本体6,000円、A5判変型上製456頁、ISBN978-4-7949-7137-1
老子道徳経』井筒俊彦著、古勝隆一訳、慶応義塾大学出版会、2017年4月、本体3,800円、A5判上製272頁、ISBN978-4-7664-2415-7

★『吉本隆明全集(37)書簡I』は5月10日頃発売。第13回配本で、今回から第二期のスタートです。帯文に曰く「『試行』単独編集、試行出版部創設、『初期ノート』刊行、「全著作集」刊行開始――。1962~68年に白熱の核心をむかえる川上春雄宛全書簡150通余りを収録」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末の間宮幹彦さんによる解題によれば、川上春雄さんは吉本隆明さんにかんする資料の収集者であり、年譜作成者であり、著作集の編集・校訂をゆだねられた人物で、試行出版部の発行者だったと紹介されています。また、吉本さんと直接知り合うまでの経緯も解題に記載されています。その川上さんへの全書簡のほか、資料として吉本さん本人やそのご両親や友人に訪問取材した記録なども収録されています。付属の月報13は、山根貞男さんによる「ある世代の思い出」、田中和生さんの「文芸批評家から文人へ――書簡集刊行によせて」、ハルノ宵子さん「お気持ち」を掲載。次回配本は9月予定、第13巻(1972~1976年)で「はじめて外国の文学者たちを論じた『書物の解体学』と長くその資質にひかれて論じてきた『島尾敏雄』、その他の散文と詩を収録[単行本未収録二篇]」(全巻内容より)。

★『老子道徳経』は発売済。シリーズ「井筒俊彦英文著作翻訳コレクション」の第一回配本です。同コレクションは「『井筒俊彦全集』と併せて、今日にいたるまで世界で読み続けられている井筒俊彦の英文代表著作を、本邦初訳で提供し、井筒哲学の全体像をより克明に明らかにするもの」(特設サイトより)で、「日本語著作の空白の時代を埋める」(内容見本より)もの。全7巻全8冊の詳細や『老子道徳経』の目次詳細についても版元さんの特設サイトでご覧いただけます。『老子道徳経』の帯には中島隆博さんによる推薦文が掲載されていますが、それも特設サイトで読むことができます。凡例によれば底本は同出版会から2001年に刊行された『Lao-tzŭ:The Way and Its Virtue』で、「翻訳にあたり新たに原文を修正した部分がある。その異同などは適宜訳注に注記した」とのことです。本訳書には新たに訓読索引と事項索引が付されています。第2回配本は6月刊行予定、『クルアーンにおける神と人間――クルアーンの世界観の意味論』(鎌田繁監訳、仁子寿晴訳)とのことです。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

大航海時代の日本人奴隷――アジア・新大陸・ヨーロッパ』ルシオ・デ・ソウザ/岡美穂子著、中公叢書、2017年4月、本体1,400円、四六判並製208頁、ISBN978-4-12-004978-1
ジョルジュ・ペレック――制約と実存』塩塚秀一郎著、中公選書、2017年5月、本体2,600円、四六判並製456頁、ISBN978-4-12-110028-3
灰緑色の戦史――ドイツ国防軍の興亡』大木毅著、作品社、2017年5月、本体2,800円、46判上製400頁、ISBN978-4-86182-629-0
熟議民主主義の困難――その乗り越え方の政治理論的考察』田村哲樹著、ナカニシヤ出版、2017年5月、本体3,500円、A5判上製282頁、ISBN978-4-7795-1172-1

★『大航海時代の日本人奴隷』は発売済。カバー表4の紹介文は次の通り。「戦国時代の日本国内に、「奴隷」とされた人々が多数存在し、ポルトガル人が海外に連れ出していたことは知られていた。しかし、その実態は不明であり、顧みられることもほとんどなかった。ところが近年、三人の日本人奴隷がメキシコに渡っていたことを示す史料が見つかった。「ユダヤ教徒」のポルトガル人にたいする異端審問記録に彼らに関する記述が含まれていたのだ。アジアにおける人身売買はどのようなものだったのか。世界の海に展開したヨーロッパ勢力の動きを背景に、名もなき人々が送った人生から、大航海時代のもう一つの相貌浮かび上がる」。緒言にはこうあります。「我々〔著者〕がこの三人の「日本人奴隷」に関する記録に出会ったのは、マカオ、長崎、マニラを転々と暮らした「ユダヤ人」一家の異端審問裁判記録中であった。「ユダヤ人」とはいっても、国籍はポルトガル人で、さらには表面的にはカトリックのキリスト教徒であった。なぜ「ユダヤ教徒」のポルトガル人が、16世紀の長崎に住み、日本人を奴隷として連れ、アジア各地を転々としていたのか。それはアジアにおける人身売買と、多様な文化的アイデンティティを擁したイベリア半島社会の歴史が複雑かつ綿密に絡み合った結果に他ならない」(5頁)。目次も列記しておきます。緒言、はじめに、序章「交差するディアスポラ――日本人奴隷と改宗ユダヤ人商人の物語」、第一章「アジア」(Ⅰ:マカオ、Ⅱ:フィリピン、Ⅲ:ゴア)、第二章「スペイン領中南米地域」(Ⅰ:メキシコ、Ⅱ:ペルー、Ⅲ:アルゼンチン)、第三章「ヨーロッパ」(Ⅰ:ポルトガル、Ⅱ:スペイン)、おわりに、あとがき、参考文献、文献、注。あとがきによれば本書は、ポルトガルで出版されたルシオ・デ・ソウザ(Lúcio de Sousa, 1978-)の著書『16・17世紀の日本人奴隷貿易とその拡散〔Escravatura e Diáspora Japonesa nos séculos XVI e XVII〕』(NICPRI, 2014)の第一章と第二章を、吉田尚弘さんが翻訳し、著者の奥様でいらっしゃる岡美穂子さんが著者との調整のもと、日本で出版するにあたり、より理解しやすい内容と表現へと大幅に改稿したもの、とのことです。

★塩塚秀一郎『ジョルジュ・ペレック――制約と実存』はまもなく発売(5月8日頃)。カバー表4の内容紹介文は次の通りです。「ユダヤ系移民の子としてパリに生誕したペレックは、第二次世界大戦によって戦争孤児となり、想像を絶する人生の断絶を体験した。のち特異な言語遊戯小説の制作者となり、評価は歿後ますます高まっている。本書は、日常・自伝・遊戯・物語の四分類よりペレックの総合的読解に挑み、20世紀後半を彗星の如く駆け抜けた作家の魅力へと縦横に迫る」。目次を列記すると、はじめに、第1章「制約が語る――『煙滅』におけるリポグラムの意味」、第2章「制約下の自伝――『Wあるいは子供の頃の思い出』におけるフィクションと自伝」、第3章「制約と自由の相克――『人生 使用法』における諸プロジェクトの表象」、第4章「発見術としての制約――『さまざまな空間』はなぜ幸福な書物なのか」、おわりに――「大衆的な作家」、あとがき、注。ちなみに「リポグラム」とは「アルファベットの特定の文字を使わずに書く技法」(22頁)で、古代ギリシア以来の歴史があるそうです。ペレックには「リポグラムの歴史」という小文があります(酒詰治男訳、『風の薔薇(5)ウリポの言語遊戯』所収、書肆風の薔薇〔現・水声社〕、1991年、86~105頁)。周知の通りペレックの小説『煙滅』(水声社、2010年)はEを使わずに書かれており、それを塩沢さんはなんと、い段(いきしちにひみりゐ)を使わずにお訳しになっておられます。

★大木毅『灰緑色の戦史』は発売済。帯文はこうです。「シュリーフェン計画、電撃戦から、最後の勝利「ゼーロフ高地の戦い」まで、その“勝利”と“失敗”の本質から学ぶ。戦略の要諦、用兵の極意、作戦の成否。独自の視点、最新の研究、ドイツ連邦軍事文書館などの第一次史料の渉猟からつむがれる「灰緑色」の軍隊、ドイツ国防軍の戦史」。灰緑色はドイツ国防軍の軍服の色で、シンボルカラー。目次は以下の通りです。序「ドイツ国防軍にまつわる「神話」の解体」、第Ⅰ部「国防軍――その前史と誕生:第一次大戦 1939年」(第一章「軍事思想の相克」、第二章「総統と国防軍」)、第Ⅱ部「巨大なる戦場へ 1940-1944年」(第三章「閃く稲妻――電撃戦の時代」、第四章「ロシアのフォン・マンシュタイン」)、第Ⅲ部「鋼鉄軍の黄昏 1943-1945年」(第五章「ビヒモス陸に退く」、第六章「狼たちの落日」)、あとがき、註、主要参考文献、索引。作戦や戦線の数々を視覚化した作図の数々が圧巻です。

★田村哲樹『熟議民主主義の困難』はまもなく発売(5月15日頃)。田村哲樹(たむら・てつき:1970-)さんは名古屋大学大学院法学研究科教授でご専門は政治学・政治理論。複数のご著書がありますが、本書は『熟議の理由――民主主義の政治理論』(勁草書房、2008年)に続いて再び熟議民主主義(deliberative democracy)を論じたもの。序論によれば前著が「一定の包括的な構想を示そうとしたもの」で、今回の新著の主題は「熟議民主主義の困難」であり、その困難をもたらす阻害要因について論じられています。「本書の最終的な目的は、様々な阻害要因に対して、熟議民主主義の意義や可能性を擁護することである」(iii頁)。三部構成となっており(目次詳細は書名のリンク先をご参照ください)、第Ⅰ部「現代社会の状況への対応可能性」では「熟議では対応できないとされがちな現代社会の状況を取り上げ」、第Ⅱ部「問題としての思考枠組」では「熟議民主主義の、機能的に等価な代替案となり得る二つのもの〔情念、アーキテクチャ〕について検討」し、第Ⅲ部では「熟議民主主義に関する私たちの「思考枠組」こそが熟議の阻害要因となり得ると考え」、「思考枠組を転換し、より熟議民主主義の可能性を開くために三つの重要な問題〔親密圏、ミニ・パブリックス、自由民主主義〕を検討する」と。

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by urag | 2017-04-30 23:32 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 28日

注目新刊『HAPAX 7:反政治』夜光社、注目イベント@PGI

★江川隆男さん(訳書:ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』)
夜光社さんの思想誌『HAPAX』第7号が刊行されました。江川さんは「最小の三角回路について――哲学あるいは革命」(118₋130頁)を寄稿されておられます。

反政治 ― HAPAX 7
夜光社 2017年4月 本体1200円 四六判変形並製186頁 ISBN978-4-906944-12-5

目次:
相模原の戦争(HAPAX+鼠研究会)
人民たちの反政治(HAPAX)
魂の表式(入江公康)
ウンコがしたい(栗原康)
翻訳解題
エイリアンと怪物――『ダーク・ドゥルーズ』における革命(アンドリュー・カルプ)
残酷の政治について(『ホスティス〔Hostis〕』1号より)
残酷の政治についての五つのテーゼ(『ホスティス〔Hostis〕』2号より)
最小の三角回路について――哲学あるいは革命(江川隆男)
火墜論(混世博戯党)
Raw power is laughin' at you and me.(World's Forgotten Boy)
武器を取れ――大道寺将司の俳句(友常勉)

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★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
PGI(東京都港区東麻布2-3-4 TKBビル3F)で2017年5月10日(水)から7月8日(土)にかけて開催される、濱田祐史さんの写真展「Broken Chord」に関連して行われるトークショーにご出演されます。

◎濱田祐史×星野太トークショー

日時:2017年 6月17日 (土) 16:00~
会場:PGI
定員:30 名
料金:500 円(要予約/当日お支払い下さい)

内容:金沢美術工芸大学美術科芸術学専攻講師の星野太氏(美学/表象文化論)をお招きし、”exposure”というキーワードをもとに本作「Broken Chord」を紐解いていくと共に、濱田氏の過去の作品や東欧に滞在した体験にも触れるトークショーを予定しております。

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by urag | 2017-04-28 15:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 23日

注目新刊:全編新訳『ヘーゲル初期論文集成』作品社、ほか

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ヘーゲル初期論文集成
G・W・F・ヘーゲル著 村田晋一/吉田達訳
作品社 2017年4月 本体6,800円 A5判上製695頁 ISBN978-4-86182-631-3
帯文より:処女作『差異論文』からキリスト教論、自然法論、ドイツ体制批判まで。哲学・宗教・歴史・政治分野の主要初期論文を全て新訳で収録。『精神現象学』に先立つ若きヘーゲルの業績。
目次:
Ⅰ 哲学論文
 フィヒテとシェリングの哲学体系の差異――ラインホルト『一九世紀初頭の哲学の状況をもっと簡単に概観するための寄与』第一部との関連で
 哲学的批判一般の本質、とりわけ哲学の現状にたいするその関係について
 懐疑主義と哲学の関係――そのさまざまな変種の叙述および最近の懐疑主義と古代懐疑主義の比較
 抽象的に考えるのはだれか
 ドイツ観念論最古の体系プログラム
Ⅱ 宗教論文
 ユダヤ人の歴史と宗教
 イエスの教えとその運命
 愛と宗教
一八〇〇年の宗教論
Ⅲ 歴史・政治・社会論文
 自然法の学問的な取りあつかいかた、実践哲学におけるその位置、および実定化した法学との関係について
 歴史的・政治的研究
 ドイツ体制批判
『ヘーゲル初期論文集成』解題
ヘーゲル略年譜
あとがき
人名索引

★発売済。「あとがき」によれば本書は「『精神現象学』刊行までの(年代的にはおよそ1795年から1807年までの)論文をおさめている。『精神現象学』は、哲学はもとより自然科学、歴史、芸術、政治、宗教といったじつに多彩な領域における西洋の知的遺産を弁証法という一貫した論理のもとに鳥瞰させてくれる画期的な著作だが、それを可能にしたのは青年時代の思索の積み重ねである。そこで本書は「Ⅰ 哲学論文」、「Ⅱ 宗教論文」、「Ⅲ 歴史・政治・社会論文」の三章を設けて、青年ヘーゲルの知的活動をできるかぎり多方面にわたって収録するように努めた」とのことです。また、未刊草稿である「キリスト教の精神とその運命」は「それに含まれる草稿群の執筆年代にかなりのばらつきがあり、ヘーゲル自身がまとまった著作を計画していたとは考えられないために、あえて二つに分けて「ユダヤ人の歴史と宗教」と「イエスの教えとその運命」とした」とのことです。初期ヘーゲルの著作群については複数の訳書がありますが、ここにまた刮目すべき新訳が加わったことになります。

★ヘーゲルの新訳は今月もう一冊、『美学講義』(寄川条路監訳、石川伊織・小川真人・瀧本有香訳)が法政大学出版局さんよりまもなく発売予定です。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

悪しき愛の書』フェルナンド・イワサキ著、八重樫克彦/八重樫由貴子訳、作品社、2017年4月、本体2,400円、四六判上製247頁、ISBN978-4-86182-632-0
群島と大学――冷戦ガラパゴスを超えて』石原俊著、共和国、2017年3月、本体2,500円、四六判並製276頁、ISBN978-4-907986-34-6
謀叛の児――宮崎滔天の「世界革命」』加藤直樹著、河出書房新社、2017年4月、本体2,800円、46変形判上製352頁、ISBN978-4-309-24799-1
痛みと感情のイギリス史』伊東剛史/後藤はる美編、東京外国語大学出版会、2017年3月、本体2,600円、四六判上製368頁、ISBN978-4-904575-59-8
ゾンビ学』岡本健著、人文書院、2017年4月、本体2,800円、4-6判並製340頁、ISBN978-4-409-24110-3
アジアの思想史脈――空間思想学の試み』山室信一著、人文書院:シリーズ・近現代アジアをめぐる思想連鎖、2017年4月、本体3,400円、4-6判上製376頁、ISBN978-4-409-52065-9
アジアびとの風姿――環地方学の試み』山室信一著、人文書院:シリーズ・近現代アジアをめぐる思想連鎖、2017年4月、本体3,400円、4-6判上製392頁、ISBN978-4-409-52066-6

★『悪しき愛の書』は発売済。原書はペルー版『Libro de mal amor』(Alfaguara, 2006)です。フェルナンド・イワサキ(Fernando Iwasaki Cauti, 1961-)はペルーの日系小説家。既訳書に『ペルーの異端審問』(八重樫克彦/八重樫由貴子訳、新評論、2016年7月)があり、同書には筒井康隆さんによる巻頭言、バルガス・リョサによる序文が寄せられていました。『悪しき愛の書』は訳書第二弾であり、全十章構成の小説です。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。三つの序文が収められているほか(スペイン版第三版・メキシコ版初版2011年への序文、スペイン版第二版・ペルー版初版2006年への序文、スペイン語版初版2001年への序文)、2006年版に収められたリカルド・ゴンサレス・ビヒルによる解説が訳出されています。

★『群島と大学』は発売済。著者の石原俊(いしはら・しゅん:1974-:明治学院大学社会学部教員)さんには歴史社会学と同時代分析の二領域でこれまで上梓されてきた『近代日本と小笠原諸島』『〈群島〉の歴史社会学』『殺すこと/殺されることへの感度』などの単独著がありますが、今回の新刊はそれらに収録されてこなかった文章のなかから大小約20本をセレクトし、大幅に加筆修正・再構成したものだそうです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。特に第三部「大学という現場──グローバリズムと国家主義の攻囲のなかで」は大学の先生方の著訳書を刊行したり販売したりしている出版人や書店人は読んでおいた方がいいと感じました。なお、本書は昨秋逝去された道場親信さんに捧げられています。

★『謀叛の児』はまもなく発売。出版社勤務のご経験もおありのノンフィクション作家、加藤直樹(かとう・なおき:1967-)さんによる、話題作『九月、東京の路上で――1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから、2014年)に続く単独著第二弾であり、「世界革命としての中国革命」(15頁)を標榜した宮崎滔天をめぐる評伝です。帯には安藤礼二さんと酒井隆史さんによる推薦文あり。「滔天が復活する」(安藤さん)、「滔天像を一新する驚嘆すべき書」(酒井さん)と。加藤さんは滔天を「いかなる意味でも右翼ではない」(11頁)と評し、アジア主義との見方にも疑義を呈します。「滔天は、独自の深い思索によって日本と中国、世界の行方を見つめ続けた人物であり、その射程の長さには驚くべきものがある」(14頁)。

★『痛みと感情のイギリス史』は編者の伊東さんによる巻頭の「無痛症の苦しみ」によれば、「近世から現代のイギリス史の中に六つの舞台を設定し、個々の具体的な事例を通じて痛みの歴史性を明らかにする。その六つの章を表すキーワードはそれぞれ、Ⅰ「神経」、Ⅱ「救済」、Ⅲ「情念」、Ⅳ「試練」、Ⅴ「感性」、Ⅵ「観察」である」と。収録論文は版元ウェブサイトで公開されています。痛みをめぐる文化史であり、感情史というユニークな分野の研究成果です。

★最後に人文書院さんの新刊3点です。『ゾンビ学』は「世界初、ゾンビの総合的学術研究書」と帯文に謳われています。「映画、マンガ、アニメ、ドラマ、小説、ゲーム、音楽、キャラクターなど400以上のコンテンツを横断し、あらゆる角度からの分析に挑んだ、気鋭による記念碑的著作」とも。書名のリンク先では目次詳細が公開されているほか、「はじめに」「第1章」「付録:資料のえじき―ゾンビな文献収集」をPDFで立ち読みすることができます。著者の岡本健(おかもと・たけし:1983-)さんは、奈良県立大学地域創造学部准教授。ご専門は観光学で、既刊の著書に『n次創作観光――アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』(NPO法人北海道冒険芸術出版、2013年2月)などがあります。

★山室信一さんの『アジアの思想史脈』『アジアびとの風姿』はまもなく発売。「近現代アジアをめぐる思想連鎖」というシリーズの二巻本になります。『アジアの思想史脈』の「はじめに」に曰く、この二巻本は「国内外での講演記録などのうちから、割愛した箇所やもう少し説明を要すると気がかりだった箇所などを補訂したものです。いえ、補訂という以上に、書き下ろしといえるほど全面的に書き改めたものがほとんどです」とのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

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by urag | 2017-04-23 00:38 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 16日

注目新刊:鈴木祐丞訳『死に至る病』講談社学術文庫、ほか

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死に至る病』セーレン・キェルケゴール著、鈴木祐丞訳、講談社学術文庫、2017年4月、本体1,000円、A6判並製296頁、ISBN978-4-06-292409-2
人類の未来――AI、経済、民主主義』ノーム・チョムスキー/レイ・カーツワイル/ マーティン・ウルフ/ビャルケ・インゲルス/フリーマン・ダイソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2017年4月、本体940円、新書判並製320頁、ISBN978-4-14-088513-0
デカメロン(中)』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫、2017年4月、本体1,000円、文庫判並製560頁、ISBN978-4-309-46439-8

★鈴木祐丞訳『死に至る病』は版元紹介文に曰く「気鋭の研究者が最新の校訂版全集に基づいてデンマーク語原典から訳出するとともに、簡にして要を得た訳注を加えた、新時代の決定版と呼ぶにふさわしい新訳」と。創言社より1990年に刊行された『原典訳記念版キェルケゴール著作全集』第12巻所収の、山下秀智訳「死に至る病」(その後、2007年に同版元から単行本として刊行)以来の新訳です。現在も入手が可能な文庫では斎藤信治訳『死に至る病』(岩波文庫、1939年;改版1957年;著者名表記は「キェルケゴール」)や、桝田啓三郎訳『死にいたる病』(ちくま学芸文庫、1996年;元版は筑摩書房版『キルケゴール全集』第24巻所収、1963年;著者名表記は「キルケゴール」)がありますが、そろそろ新訳が望まれるところではあっただけに、今回の刊行はたいへん嬉しいものではないでしょうか。

★『人類の未来』は、NHK出版新書での吉成真由美さんによるインタビュー本2点、『知の逆転』(ジャレド・ダイアモンド/ノーム・チョムスキー/オリバー・サックス/マービン・ミンスキー/トム・レイトン/ジェームズ・ワトソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2012年12月、本体860円、ISBN978-4-14-088395-2)、『知の英断』(ジミー・カーター/フェルナンド・カルドーゾ/グロ・ハーレム・ブルントラント/メアリー・ロビンソン/マルッティ・アハティサーリ/リチャード・ブランソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2014年4月、本体780円、ISBN978-4-14-088432-4)に続く第3弾です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。個人的にはカーツワイルのインタビューに一番惹かれますが、それは科学技術の進歩によって人間が被る変化の近未来が、出版や読書に対しても影響を及ぼすためで、業界人として無関心ではいられないためです。帯文によれば約5年前の第1弾『知の逆転』は20万部を突破しているのだとか。今後の続刊にも期待したいです。

★『デカメロン(中)』では第四日から第七日までを収録。平川さんの解説は第三章「ボッカッチョの生涯とその革新思想」、第四章「ダンテを意識するボッカッチョ」、第五章「寛容という主張」が収められています。第五日第八話はかのボッティチェルリの連作絵画全四作の元ネタとなった、ナスタージョ・デリ・オネスティ(Nastagio degli Onesti)の物語です。呪いによる永劫の繰り返しは、主人公が迎えたハッピーエンドよりも古今の読者に衝撃を与えたことでしょう。下巻の発売予定日は5月8日とのことです。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

心を操る寄生生物――感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ著、西田美緒子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2017年4月、本体2,300円、四六判上製328頁、ISBN978-4-7726-9555-8
ほどける』エドウィージ・ダンティカ著、佐川愛子訳、作品社、2017年4月、本体2,400円、四六判上製303頁、ISBN978-4-86182-627-6
啓蒙と神話――アドルノにおける人間性の形象』藤井俊之著、航思社、2017年4月、本体3,800円、A5判上製368頁、ISBN978-4-906738-22-9
和歌のアルバム――藤原俊成 詠む・編む・変える』小山順子著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉4、2017年4月、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36444-6
異界へいざなう女――絵巻・奈良絵本をひもとく』恋田知子著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉5、2017年4月、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36445-3
陳独秀文集3 政治論集2 1930-1942』陳独秀著、江田憲治/長堀祐造編訳、平凡社:東洋文庫881、2017年4月、B6変型判上製函入504頁、ISBN978-4-582-80881-0

★特記したいのは『心を操る寄生生物』です。ネコを飼っている読者が衝撃を受けるかもしれない一冊。トキソプラズマの話でしょ、という賢明な読者にもお薦めします。それだけの話では終わらないからです。原書は『This Is Your Brain on Parasites: How Tiny Creatures Manipulate Our Behavior and Shape Society』(Eamon Dolan/Houghton Mifflin Harcourt, 2016)。ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』(みすず書房、2015年7月)、コリン『あなたの体は9割が細菌――微生物の生態系が崩れはじめた』(河出書房新社、2016年8月)、モントゴメリー&ビグレー『土と内臓――微生物がつくる世界』(築地書館、2016年11月)、デサール&パーキンズ『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』(紀伊國屋書店、2016年12月)など、ここ最近増えているマイクロバイオーム関連の既刊書を堪能した読者は、きっと本書の神経寄生生物学(neuroparasitology:ニューロパラサイトロジー/ニューロパラシトロジーとも)に興味を持たれるだろうと思います。「私たちはこれまで寄生生物の政治的な影響力を過小評価してきた。〔・・・〕たぶん地政学は寄生生物の観点から教えるべきものだ」(268頁)とも著者が書いている通り、文系の研究にも侵食しうる議論があります。類書に小澤祥司『ゾンビ・パラサイト――ホストを操る寄生生物たち』(岩波書店:岩波科学ライブラリー、2016年12月)があります。ちなみに著者のマコーリフさんはカール・ジンマー『パラサイト・レックス――生命進化のカギは寄生生物が握っていた』(光文社、2001年)を本書執筆の出発点として言及しています。

★『ほどける』の原書は『Untwine』(Scholastic Press, 2015)。訳者はあとがきで本書を「さまざまの形の愛と葛藤」を描いた作品と説明しつつ、次のような一節を引いています。「たぶんわたしたちはあまりに多くを持ちすぎ、他の人たちはあまりに持たなすぎる。他の人たちが絶えず苦しみのなかで生きているのに、わたしたちには喜びを味わう資格があると、いったい誰がいうのだろう? 毎日を死とともに過ごす人たちがいるのにわたしたちはいい人生を送らなければならないと、誰が言うのだろう?」(248頁)。

★『啓蒙と神話』は京都大学人文科学研究所助教の藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さんの博士論文を改稿したものです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「過ぎた昔を懐かしむのでもなく、まだ見ぬ明日の世界を希望的観測のもとに眺めるのでもなく、この現在において過去となり、また未来として現れもする時間の様相を、いまここから地続きに果てしなく続く地獄として冷徹に見据えるところから、アドルノの歴史哲学は構想されている。/地獄としての現在というアドルノの認識は、本書もまた共有するところである」(292-293頁)。本書のあとがきによれば藤井さんは岡田暁生さんとの共訳でアドルノの音楽論集『幻想曲風に』の翻訳作業を進めておられ、法政大学出版局から刊行される予定なのだそうです。

★『陳独秀文集3』はまもなく発売。全3巻の完結編です。帯文に曰く「近代中国の大先導者でありながら不等にその存在意義を貶められてきた思想家の主要論説を編訳。第3巻はトロツキズム転向後から晩年まで。生涯にわたる反対派の真面目」と。次回配本は5月刊、揖斐高訳注『柏木如亭詩集1』とのことです。

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★最後にナカニシヤ出版さんの最近の新刊の一部を列記します。

モダン京都――〈遊楽〉の空間文化誌』加藤政洋編、ナカニシヤ出版、2017年4月、本体2,200円、4-6判上製244頁、ISBN978-4-7795-1166-0
リバタリアニズムを問い直す――右派/左派対立の先へ』福原明雄著、ナカニシヤ出版、2017年4月、本体3,500円、4-6判上製280頁、ISBN978-4-7795-1156-1
ヒューム哲学の方法論――印象と人間本性をめぐる問題系』豊川祥隆著、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体3,500円、4-6判上製228頁、ISBN978-4-7795-1126-4
交錯と共生の人類学――オセアニアにおけるマイノリティと主流社会』風間計博編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体5,200円、A5判上製320頁、ISBN978-4-7795-1144-8
響応する身体――スリランカの老人施設ヴァディヒティ・ニヴァーサの民族誌』中村沙絵著、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体5,600円、A5判上製404頁、ISBN978-4-7795-1019-9
国際関係論の生成と展開――日本の先達との対話』初瀬龍平/戸田真紀子/松田哲/市川ひろみ編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体4,200円、A5判上製402頁、ISBN978-4-7795-1147-9
社会運動と若者――日常と出来事を往還する政治』富永京子著、2017年3月、本体2,800円、4-6判上製280頁、ISBN978-4-7795-1164-6
代表制民主主義を再考する――選挙をめぐる三つの問い』糠塚康江編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体4,600円、A5判上製348頁、ISBN978-4-7795-1145-5
交錯する多文化社会――異文化コミュニケーションを捉え直す』河合優子編、ナカニシヤ出版、2016年12月、本体2,600円、4-6判並製234頁、ISBN978-4-7795-1114-1

★特記したいのは加藤政洋編『モダン京都』と、富永京子『社会運動と若者』。前者は「文学作品、地図・絵図、そして古写真などを材料にして、モダン京都における〈遊楽〉の風景を探訪しながら、都市空間の随所に埋もれた場所の意味と系譜を掘り起こす試み」(序章、7頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。4月15日に放映されたNHK「ブラタモリ」の第70回「京都・祇園――日本一の花街・祇園はどうできた?」を楽しまれた方は本書でいっそう興味深い歴史の細部が学べます。『社会運動と若者』は、立命館大学准教授の富永京子(とみなが・きょうこ:1986-)さんによる、博士論文の書籍化である『社会運動のサブカルチャー化――G8サミット抗議行動の経験分析』(せりか書房、1986年)に続く単独著第2作。「「世代」や「学生」であることに基づく運動の特質があるという論じ方ももはや有効ではなく、ネガティブな批判にせよ、ポジティブな持て囃しにせよ、年長者が自らのものさしで若者を論じているだけなのではとも感じている。私たち年長者は自分たちが思うほど若くないし、若者たちは思った以上に年長者とは異なる体験を生きている。だからこそ、彼らの意味世界を汲み尽くす試みからまずは始める必要があるのではないか」(ii-iii頁)と富永さんは巻頭の「はじめに」で読者に問いかけておられます。

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by urag | 2017-04-16 18:37 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 12日

注目新刊:日本語版オリジナル論集にして初の単行本、ホワイト『歴史の喩法』作品社

上村忠男さん(訳書:カッチャーリ『抑止する力』、アガンベン『到来する共同体』、パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
ヘイドン・ホワイト(Hayden White, 1928-)の主要論考7本を編んで1冊とした日本語版オリジナル論集の訳書をご刊行されました。編訳者あとがきによれば、本書は、『メタヒストリー――19世紀ヨーロッパの歴史的想像力』(1973年)の後に刊行された3冊の批評論集である『言述の喩法』(1978年)、『形式の内容』(1987年)、『フィギュラル・リアリズム』(1999年)のなかから、主要な論考を選んで訳出したもので、編訳を担当された上村さんが各論文の解題や、巻末解説をお書きになっておられます。『メタヒストリー』は岩崎稔監訳で作品社さんより続刊予定とのことです。なおホワイトの著書の展開場所ですが、歴史書売場でカルロ・ギンズブルグを扱っていらっしゃる書店さんはその隣に置かれると良いかもしれません。ギンズブルグとホワイトの対立については後段で言及する『アウシュヴィッツと表象の限界』をご参照ください。

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歴史の喩法――ホワイト主要論文集成
ヘイドン・ホワイト著 上村忠男編訳
作品社 2017年4月 本体3,200円 46判上製305頁 ISBN978-4-86182-635-1

帯文より:“メタヒストリー”によって歴史学に革命的転換をもたらしたヘイドン・ホワイト――その全体像を理解するための主要論文を一冊に編纂。

目次:
日本の読者のみなさんへ(ヘイドン・ホワイト)
第1章 歴史という重荷〔The Burden of History. 初出1966年、『言述の喩法』収録〕
第2章 文学的製作物としての歴史的テクスト〔The Historical Text as Literary Artifact. 初出1974年、『言述の喩法』収録〕
第3章 歴史の喩法――『新しい学』の深層構造〔The Tropics of History: The Deep Structure of the New Science. 初出1976年、『言述の喩法』所収〕
第4章 現実を表象するにあたっての物語性の価値〔The Value of Narrativity in the Representation of Reality. 初出1980年、『形式の内容』所収〕
第5章 歴史的解釈の政治――ディシプリンと脱崇高化〔The Politics of Historical Interpretation: Discipline and De-Sublimation. 初出1982年、『形式の内容』所収〕
第6章 歴史のプロット化と歴史的表象における真実の問題〔Historical Emplotment and the Problem of Truth in Historical Representation. 初出1992年、『フィギュラル・リアリズム』所収〕
第7章 アウエルバッハの文学史――比喩的因果関係とモダニズム的歴史主義〔Auerbach's Literary History: Figural Causation and Modernist Historicism. 初出1996年、『フィギュラル・リアリズム』所収〕
編訳者による解題
解説「ヘイドン・ホワイトと歴史の喩法」(上村忠男)
編訳者あとがき

なお、第4章「現実を表象するにあたっての物語性の価値」には以下の既訳があります。海老根宏・原田大介訳『物語と歴史』(《リキエスタ》の会、2001年;初出「歴史における物語性の価値」、W・T・J・ミッチェル編『物語について』所収、平凡社、1987年)。また、第6章「歴史のプロット化と歴史的表象における真実の問題」はもともと、ソール・フリードランダー編『アウシュヴィッツと表象の限界』(未來社、1994年)に上村さん自身の訳で「歴史のプロット化と真実の問題」という題名で収録されています。

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by urag | 2017-04-12 15:57 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 09日

注目新刊:観光客/来たるべきバカ/混合体・・・の哲学、ほか

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ゲンロン0:観光客の哲学』東浩紀著、ゲンロン、2017年3月、本体2,300円、A5版並製320頁、ISBN978-4-907188-20-7
勉強の哲学――来たるべきバカのために』千葉雅也著、文藝春秋、2017年4月、本体1,400円、四六判並製240頁、ISBN978-4-16-390536-5
五感〈新装版〉――混合体の哲学』ミッシェル・セール著、米山親能訳、法政大学出版局、2017年3月、本体6,200円、四六判上製584頁、ISBN978-4-588-14039-6

★このところ人文書では話題の新刊が続いています。今月は東浩紀さんや千葉雅也さんの新刊が書店さんの店頭にほぼ同時期に並ぶことになり、私がよくお邪魔している某店では國分功一郎さんの先月新刊『中動態の世界』を加えて三冊の「白い本」が強烈な波動を放っています。お店によってはさらに今月新刊の、西兼志さんの『アイドル/メディア論講義』(東京大学出版会)を並べておられることでしょうし、星野太さんの『崇高の修辞学』の重版(月曜社)を一緒に展開して下さっていることもあるかと思います。偶然かもしれませんが、東さんの本も千葉さんの本も「~の哲学」という書名で、哲学的思索の再起動を垣間見る思いがします。

★「~の哲学」といえば、少し前にミシェル・セールの『五感――混合体の哲学』も再刊されました。セールはつくづく「未来の哲学者」です。東さんや千葉さんが盛り上げてくださっている売場で、若い読者がセールの柔らかで魅力溢れる知的文体に出会うことを期待したいです。本書は『Les cinq sens : philosophie des corps mêlés Tome 1』(Grasset, 1985)の翻訳で、1991年に刊行されました(その後一度カバーデザインが変わったのは2004年の復刊時だったでしょうか)。「偉大な思想ほど価値のあるものは何もない。なぜならその思想は、雑多な色の波型模様を描きつつ、壮大な風景を開くからであり、その思想をよりよく理解することの奇跡のような歓喜は、誰であれ凡庸な部屋のなかで眠っている者の住居を拡げ、宮殿としての彼の世界を突然改造するからである」(528頁)。それに続く一連の美しい論証を見るとき、私は哲学の再起動がいかに世界(の見方)を変えるか、その鮮やかさを思います。

★『ゲンロン0:観光客の哲学』は「『郵便的』から19年、集大成にして新展開」(帯文より)の新著で、「いままでの仕事をたがいに接続するように構成されている」(はじめに、7頁)のだと言います。つまり本書は、『存在論的、郵便的』(新潮社)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『一般意志2・0』(講談社)、『弱いつながり』(幻冬舎)のいずれの続編としても読めるもので、その基本的主題は「誤配こそが社会をつくり連帯をつくる。だからぼくたちは積極的に誤配に身を曝さねばならない」(はじめに、9頁)というものです。第4章「郵便的マルチチュードへ」には次のように記されており、これは帯文にも引かれています。「ネグリたちのマルチチュードは、あくまでも否定神学的なマルチチュードだった。だから彼らは、連帯しないことによる連帯を夢見るしかなかった。けれどもぼくたちは、観光客という概念のもと、その郵便化を考えたいと思う。そうすることで、たえず連帯しそこなうことで事後的に生成し、結果的にそこに連帯が存在するかのように見えてしまう。そのような錯覚の集積がつくる連帯を考えたいと思う。ひとがだれかと連帯しようとする。それはうまくいかない。あちこちでうまくいかない。けれどもあとから振り返ると、なにか連帯らしきものがあったかのような気もしてくる。そしてその錯覚がつぎの連帯の(失敗の)試みを後押しする。それが、ぼくが考える観光客=郵便的マルチチュードの連帯のすがたである」(159頁)。

★さらにこのあとこう書かれてもいます。「マルチチュードが郵便化すると観光客になる。観光客が否定神学化するとマルチチュードになる。〔・・・〕連帯の理想を掲げ、デモの場所を求め、ネットで情報を集めて世界中を旅し、本国の政治とまったく無関係な場所にも出没する21世紀の「プロ」の市民運動家たちの行動様式がいかに観光客のそれに近いか、気がついていないのだ。〔・・・〕観光客は、連帯はしないが、そのかわりたまたま出会ったひとと言葉を交わす。デモには敵がいるが、観光には敵がいない。デモ(根源的民主主義)は友敵理論の内側にあるが、観光はその外部にあるのだ」(160頁)。本書は昨年から今年にかけての冬の三ヶ月に執筆されたそうです。「本書の執筆を終え、ぼくはいま、かつてなく書くことの自由を感じている」(はじめに、7頁)という東さんの本書は、かつてない疾走感に満ちた同時代感覚を読者に届けるものです。それは誤配のユートピア、とでも言うべきものでしょうか。

★「21世紀の新たな抵抗は、帝国と国民国家の隙間から生まれる。それは、帝国を外部から批判するのでもなく、また内部から脱構築するのでもなく、いわば誤配を演じなおすことを企てる。出会うはずのないひとに出会い、行くはずのないところに行き、考えるはずのないことを考え、帝国の体制にふたたび偶然を導き入れ、集中した枝をもういちどつなぎかえ、優先的選択を誤配へと差し戻すことを企てる。そして、そのような実践の集積によって、特定の頂点への富と権力の集中にはいかなる数学的な根拠もなく、それはいつでも解体し転覆し再起動可能なものであること、すなわちこの現実は最善の世界ではないことを人々につねに思い起こさせることを企てる。ぼくには、そのような再誤配の戦略こそが、この国民国家=帝国の二層化の時代において、現実的で持続可能なあらゆる抵抗の基礎に置かれるべき、必要不可欠な条件のように思われる。21世紀の秩序においては、誤配なきリゾーム状の動員は、結局は帝国の生権力の似姿にしかならない。/ぼくたちは、あらゆる抵抗を、誤配の再上演から始めなければならない。ぼくはここでそれを観光客の原理と名づけよう。21世紀の新たな連帯はそこから始まる」(192頁)。

★「観光客の哲学とは誤配の哲学なのだ。そして連帯〔ローティ〕と憐み〔ルソー〕の哲学なのだ。ぼくたちは、誤配がなければ、そもそも社会すらつくることができない」(198頁)。毎回インスピレーションを感じるのですが、東さんの著書はすべて出版論に読み替えることが可能だと思います。誤配は皮肉にも物流においてもっとも忌避すべき過ちだからこそ、東さんの言う「誤配」を出版人は真剣に受け止めねばならないと思うのです。なぜならば、私たちは「子として死ぬだけではなく、親としても生き」(300頁)るべきだからです。ここでは実体的な家族のことを論じられているという以上に、リレーのありようが問われているのです。

★いっぽう、千葉さんの『勉強の哲学』は、東さんにとっての『弱いつながり』のように、本来的な意味での「自己啓発」書へと踏み出された一歩ではないかというのが第一印象です。「人生の根底に革命を起こす「深い」勉強、その原理と実践」と帯文にはいたわれています。「勉強を深めることで、これまでのノリでできた「バカなこと」が、いったんできなくなります。「昔はバカやったよなー」というふうに、昔のノリが失われる。全体的に、人生の勢いがしぼんでしまう時期に入るかもしれません。しかし、その先には「来たるべきバカ」に変身する可能性が開けているのです。この本は、そこへの道のりをガイドするものです。/勉強の目的とは、これまでとは違うバカになることなのです。その前段階として、これまでのようなバカができなくなる段階がある。/まず、勉強とは獲得ではないと考えてください。勉強とは、喪失することです。これまでのやり方でバカなことができる自分を喪失する」(はじめに、13~14頁)。

★書名のリンク先では「はじめに」と第一章の最初の二ページ分の立ち読みも可能です。本書はもとより千葉さんのデビュー作『動きすぎてはいけない』(河出書房新社、2013年)に比べて親切な語り口の本ですが、さらに結論では本書の主題が端的にまとめられており、通読した方にとってはおさらいになるとともに、未読の方にとっては本書の通覧的な見通しを得るよすがとなります。こうしたネタバレを恐れない書き方は、本書に細部があるからこそできることです。第1章「勉強と言語――言語偏重の人になる」は原理編その1であり「勉強とは、これまでの自分の自己破壊である」と要約されています。第2章「アイロニー、ユーモア、ナンセンス」は原理編その2であり、「環境のノリから自由になるとは、ノリの悪い語りをすることである」。第3章「決断ではなく中断」は原理編その1であるとともに実践編その1で、「どのように勉強を開始するか。まず、自分の現状をメタに観察し、自己アイロニー〔自己ツッコミ〕と自己ユーモア〔自己ボケ〕の発想によって、現状に対する別の可能性を考える」。第4章「勉強を有限化する技術」は実践編その2であり、「勉強とは、何かの専門分野に参加することである」。

★本文では重要な語句や文章はゴシック体で組まれています。「ツイッター哲学」としての『別のしかたで』(河出書房新社、2014年)の次の、千葉さんの最新作が勉強論だということはしばらく前から知られていたことではありました。こうしてひもといてみると、千葉さんの思考と実践のエッセンスがぎゅっと凝縮された本で、なおかつそれを可能なかぎり明晰に明瞭に記述しえた魅力的な本だと感じます。結論の後にある「補論」は。「本書の学問的背景を知りたい方、専門家の方へ」と始まり、「本書は、ドゥルーズ&ガタリの哲学とラカン派精神分析学を背景として、僕自身の勉強・教育経験を反省し、ドゥルーズ&ガタリ的「生成変化」に当たるような、または精神分析過程に類似するような勉強のプロセスを、構造的に描き出したものです」(222頁)と説明されています。こうした種明かしは自画像に似て、自意識との困難な格闘が伴うものですが、千葉さんにとってこうした相対化は、ある種必然だったのではないかと思われます。というのも、『勉強の哲学』は、NHKの特番を書籍化した『哲子の部屋Ⅲ: “本当の自分”って何?』(河出書房新社、2015年)で言及されていた「変態の哲学」を出発点に、詳しく方法論を示したものだとも読めるからです。

★「僕が言いたいことはシンプルです――「最後の勉強」をやろうとしてはいけない。絶対的な根拠を求めるな、ということです。それは、究極の自分探しとしての勉強はするな、と言い換えてもいい。自分を真の姿にしてくれるベストな勉強など、ない」(136頁)。また、後段ではこのようにも書かれています。「アイロニーの批判性を生かしておくには、絶対的なものを求めず、そして、複数の他者の存在を認めなければならない。アイロニカルな批判は、むしろハンパな状態にとどめておく必要があるのです」(145頁)。そして、「複数の他者のあいだで旅しながら考えること」(146頁)の可能性が説明されます。「信頼に値する他者は、粘り強く比較を続けている人である」(148頁)という千葉さんが言う、「出来事と出会い直そうとする」(153頁)ことや「「変化しつつあるバカさ」で行為する」(170頁)ことをめぐる議論は、どこか東さんの「観光客の原理」と交差する部分があるような予感がします。

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★さらにここ最近の文庫新刊では以下のものに注目したいと思います。
点と線から面へ』ヴァシリー・カンディンスキー著、宮島久雄翻訳、ちくま学芸文庫、2017年4月、本体1,000円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-09790-3
『枕草子』巻、清少納言著、島内裕子校訂訳、ちくま学芸文庫、2017年4月、本体1,400円/本体1,500円、文庫判464頁/528頁、ISBN978-4-480-0978-6/978-4-480-09787-3

★『点と線から面へ』と『枕草子』上下巻は今月のちくま学芸文庫の新刊。このほかには納富信留『哲学の誕生』、アルフレッド・W・クロスビー『ヨーロッパの帝国主義』が発売されています。カンディンスキー『点と線から面へ』は、中央公論美術出版社の「バウハウス叢書」の第9巻として1995年に刊行されたものの文庫化。底本は原著第二版(1926年)。既訳には『カンディンスキー著作集(2)点・線・面――抽象芸術の基礎』(西田秀穂訳、美術出版社、1959年;改訂版1979年;新装版2000年)がありますが、こちらの底本は1955年の第3版(ベンテリ社版)です。巻末の文庫版あとがきによれば、再刊にあたり、訳語の修正が行われています。ちくま学芸文庫さんには今後もバウハウス叢書の品切本の文庫化を期待したいところです。

★いっぽう島内裕子校訂・訳『枕草子』上下本は文庫オリジナル。凡例によれば「現代では「三巻本」で『枕草子』を読むことが主流となっているが、昭和20年代頃までは「枕草子を読む」とは、基本的に、北村季吟『春曙抄』を読むことであった。日本文化に大きな影響を与えてきた『枕草子』の本分に触れるために、本書の底本を『春曙抄』とするゆえんである」と(下巻巻末の「解説」には『春曙抄』に対するさらなる言及あり)。構成は段ごとに本文、現代語訳、評というシンプルなもの。語釈や補注が欲しいという方は、石田穣二訳注『新版 枕草子―――付現代語訳』(上下巻、角川ソフィア文庫、1979~1980年)や、上坂信男/神作光一全訳注『枕草子』(全3巻、講談社学術文庫、1999~2003年) などが参考になるかと思います。このほか、橋本治さんによる『桃尻語訳 枕草子』(全3巻、河出文庫、1998年)や、大庭みな子さんによる『現代語訳 枕草子』(岩波現代文庫、2014年)をはじめ、様々なヴァージョンがあります。

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★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。
もうひとつの〈夜と霧〉――ビルケンヴァルトの共時空間』ヴィクトール・E・フランクル著、諸富祥彦編、広岡義之編訳、林嵜伸二訳、ミネルヴァ書房、2017年4月、本体2,200円、4-6判上製208頁、ISBN978-4-623-07936-0
18歳で学ぶ哲学的リアル――「常識」の解剖学』大橋基著、ミネルヴァ書房、2017年4月、本体2,800円、A5判並製306頁、ISBN978-4-623-07937-7
『新しき土』の真実――戦前日本の映画輸出と狂乱の時代』瀬川裕司著、平凡社、2017年4月、本体4,500円、A5判上製376頁、ISBN978-4-582-28264-1
2100年へのパラダイム・シフト』広井良典+大井浩一編、作品社、2017年3月、本体1,800円、A5判並製217頁、ISBN 978-4-86182-597-2

★ミネルヴァ書房さんの新刊『もうひとつの〈夜と霧〉』『18歳で学ぶ哲学的リアル』はともにまもなく発売(今月20日頃)。フランクル『もうひとつの〈夜と霧〉』はドイツ語版『夜と霧』の初版に付録として併載されていた思想劇「ビルケンヴァルトの共時空間――ある哲学者会議」(Synchronisation in Birkenwald : Eine metaphysische Conference. 初出は1948年『ブレンナー峠』誌第17号)の、初の単行本化です。既訳には武田修志訳(『道標』第33号、人間学研究会、2011年6月、2~54頁)があるとのこと。この思想劇について広岡さんは巻頭の「はしがき」で「強制収容所を舞台として展開されており、『夜と霧』の内容がリアルに戯曲化されている」と紹介されています。この思想劇はまず、スピノザ、ソクラテス、カントが天国で話し合うところから始まります。「人間は地獄でも人間であり続けることができるということを証明する」とソクラテスは述べ、3人は下界のビルケンヴァルト強制収容所へ降りていきます。そこで語り合う被収容者らを観察し、さらに議論を交わします。淡々とした劇ですが、作者の血涙が行間に滲み出るような内容です。本書の後半はこの劇作の詳細な解説。

★『18歳で学ぶ哲学的リアル』の著者、大橋基さん(おおはし・もとい:1965-)は現在法政大学文学部・社会学部兼任講師。共著や共訳書がありますが、単独著は本書が初めてになります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭の序章にはこう書かれています。「本書は「哲学入門」に先立つ緩やかなエントランスである。ここから「哲学」のなかに踏み込んでも、「社会科学」や「自然科学」に立ち返ってもかまわない。学校の勉強とは無関係な「怖いものみたさ」でも大歓迎だ。/君たちが、自分に似た「哲学者」を見つけたとき、彼らは君たちを「非日常」へのいざなう「秘密の友人」になる」(8頁)。各章末には参考文献が列記され、巻末には用語集と索引が配されています。本書は「大学の社会科学系学部に在籍する学生向けの「哲学案内」として企画された。〔・・・〕内容は〔・・・〕「近代以後の規範的倫理学」を中心とするものとなっている」(あとがき)。本書執筆に至りつくまでの苦労の一端は終章の最終節「ある日の夕暮れどき、「教室」で」にリアルに描写されています。

★瀬川裕司『『新しき土』の真実』はまもなく発売(今月14日頃)。帯文に曰く「若き原節子を〈世界の恋人〉たらしめた、戦前における「最初で最後の本格的輸出映画」の真相に切り込む力作。日独共同製作の裏側で囁かれ、現在でも定説として語り継がれる数々の嘘と虚報を、ドイツ側の視点も含めて丹念に検証し、『新しき土』という怪物を生み出した時代の精神を明らかにする。「日独防共協定の産物」か、「ナチのプロパガンダ」か、果ては「国辱映画」か」。目次についても列記します。序章「世界への夢」、第一章「日本映画の海外進出」、第二章「『新しき土』の誕生」、第三章「伊丹版・ファンク版の相違点」、第四章「批評の諸相」、第五章「『新しき土』製作期以降の輸出映画」、第六章「関係者の運命」、最終章「『新しき土』を生み出したもの」、あとがき、参考文献。序章の末尾には各章が次の通り要約されています。「第一章で『新しき土』以前の日本における映画輸出の流れを確認し、第二章で『新しき土』が企画されてから完成後の海外プロモーション活動までの経過、第三章で『新しき土』における〔両監督〕伊丹〔万作〕版と〔アーノルト・〕ファンク版の相違点、第四章で『新しき土』が受けた批評の諸相、第五章で『新しき土』製作時期以後の日本映画輸出の試み、第六章で『新しき土』に関わった主要人物のその後の運命を扱い、最終章で何が同作を生み出したかについて総括をおこなう」。

★『2100年へのパラダイム・シフト』は発売済。帯文はこうです。「日本を代表する50人の知性が“21世紀の歴史”の大転換を予測する。資本主義の危機、ポピュリズムの台頭、宗教とテロ、覇権交代の国家……世界、そして日本はどうなるのか?」。「国家と紛争の行方」「脱〈成長〉への道」「〈核〉と人類」「新しい倫理」「変貌する学と美」の五部構成で、それぞれの冒頭には編者の広井さんと識者による討議が置かれ、そのあとに7~10本の寄稿が並べられています。収録作はオンライン書店「honto」に上がっています。「述」とあるのが各部冒頭の討議です。

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★さらに注目すべき新刊としては、4月5日発売となったらしいもののその値段ゆえに書店店頭ではまだ見かけていない二冊本、伊藤博明『ヨーロッパ美術における寓意と表象――チェーザレ・リーパ『イコノロジーア』研究【付属資料『イコノロジーア』一六〇三年版全訳】』(ありな書房、2017年4月、本体36,000円、B5判上製函入272頁+別冊432頁、ISBN978-4-7566-1751-4)があります。図像学のかの大古典、リーパの『イコノロジーア』の全訳が成ったということで、2017年の大ニュースのひとつになるべきところですが、版元ドットコムでの特記や雑誌広告を除くと、アマゾンでもhontoでもこの驚嘆すべき付属資料について記載がなく、もっと宣伝したらいいのに、と感じます。アマゾンでは在庫なしですが、買い物カゴが付いているので取り寄せ可能ということでしょう【4月13日現在、カゴが外れてしまいました】。hontoでは「現在お取り扱いができません」となっており、丸善、ジュンク堂、文教堂のいずれにも店頭在庫なし。まあこの値段ですから今後も書店さんが仕入れるというのは難しいかもしれません。さほど発行部数は多くないでしょうからうかうかしていると図書館に買われて品切、となる可能性もあります。ただ、ありな書房さんの前回の高額本『ヴァールブルク著作集 別巻1 ムネモシュネ・アトラス』(2012年3月刊、本体24,000円、ISBN978-4-7566-1222-9)に比してもさらに高いわけなので、なかなか手が届きにくいですね。

★最後にもうひとつ。これまで復刊ドットコムでは「ジャガーバックス」の復刊が行われてきましたが、ついに「ジュニアチャンピオンコース」の復刊も開始となりそうです。しかもその第一弾は、斎藤守弘著『なぞ怪奇 超科学ミステリー』(1974年)だというのです。子どもの頃愛読していたにもかかわらず大学生になる前に一括処分してしまい、あとあとになってそのことを悔やんだだけに、購入を決断するには一秒もかかりませんでした。身も蓋もないことを言うと、子供だった時分のインパクトは、復刊されて見直す際にはずいぶん薄れてしまっていることに気づくことが多いです。それでも、この本とともに生きたことを思い出すのは、自分の奥に埋もれて見つけがたくなってしまったものをもう一度掘り起こすきっかけになるわけで、その意味で復刊本は「特別な装置」たりうるのです。

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by urag | 2017-04-09 23:02 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 04月 01日

注目新刊:松田行正『デザインってなんだろ?』、ほか

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デザインってなんだろ?』松田行正著、紀伊國屋書店、2017年3月、本体1,800円、B6変形判並製328頁、ISBN978-4-314-01145-7
タウリス島のイフィゲーニエ』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ作、市川明訳、松本工房、2017年1月、本体1,100円、新書判並製352頁、ISBN978-4-944055-87-6
ゴーストタウン』ロバート・クーヴァー著、上岡伸雄・馬籠清子訳、作品社、2017年3月、本体2,400円、四六判上製246頁、ISBN978-4-86182-623-8

★松田行正『デザインってなんだろ?』は3月29日取次搬入済の新刊。新書判よりわずかに天地左右が大きいサイズで、手のひらにしっくりくる美しい本です。帯文に曰く「ブックデザインの世界を颯爽と駆け抜けてきた著者が、長年の経験と博覧強記の知識を駆使して、デザインや美的感覚が、そもそもどのように形成されていったか、歴史の糸をときほぐしつつ解説する渾身のデザイン論。混迷する文化状況を俯瞰し、その行く末を占う読み物としても楽しめる、基礎教養が詰まったコンパクトブック」。目次は書名のリンク先をご覧ください。小口に仕掛けがあり、2種類の模様が浮かび上がるようになっています。巻頭からめくるのと巻末からめくるのでは模様が違うのです。一見、硬くて開きづらい本のように感じますが、PUR製本なので、よほど乱暴にしないかぎりはぐいっと開いてもしっかり開きます。松田さんは巻頭の「はじめに」で、現在はコンピュータで仕事をしているものの、コンピュータ以前のデザインは「コンピュータまかせではない発送の宝庫だ」と指摘されています。「本書は、歴史探偵さながらに、さまざまなデザインの背景にある意味などを探求し、まとめてみたものです」。またこうも記しておられます「効率や実利にばかり気を取られ、〔・・・〕すぐに役立つことばかりにとらわれ過ぎるのも、なにか寂しい気がします。やはり精神的で持続可能性のある豊かさは大事です」。歴史をひもとくカラー図版多数、これこそ本当の「自己啓発本」です。「さっさと仕事を終えて遊ぼう!」という帯のキャッチフレーズも素敵です。

★ゲーテ『タウリス島のイフィゲーニエ』は、大阪大学名誉教授の市川明さん(いちかわ・あきら:1948-)の個人訳によるドイツ語圏演劇翻訳シリーズ「Akira Ichikawa Collection」の第1巻として2014年10月に刊行されたものの新装版。初版は横長のB5変型判という大判な本でしたが、新装版では第2巻以降と同じ新書判となっています。本文は美しいオリーブ色で刷られ、ドイツ語原文との対訳となっています。同シリーズの既刊書には以下のものがあります。第2巻:クライスト『こわれがめ 喜劇』2015年、第3巻:レッシング『賢者ナータン 五幕の劇詩』2016年、第4巻:ブレヒト『アルトゥロ・ウイの興隆』2016年。有限会社松本工房さんは大阪市でグラフィックデザイン、組版、出版を営んでいる会社。二代目の代表者松本久木さんへの2009年のインタヴュー記事によれば同社は1977年に松本さんの父上が創業。経営難から2000年代前半に久木さんが関わるようになり、見事に危機を脱して、大阪の「ひとり出版社」として活躍されています。制作されている書籍はいずれも造本が美麗なものばかりですが、ほとんどがお手頃価格なのがすごいところ。たとえば劇作家の深津篤史さん(ふかつ・しげふみ:1967-2014)の作品集成『深津篤史コレクション』3巻本をご覧ください。その繊細な佇まいにはっとします。このほか、海外からの注文が多く来るという博士号取得論文刊行シリーズ「INITIAL」、アートブックレーベル「colophon.」、ギャラリーとヴィジュアルブックのレーベル「ondo」など、いずれも紙媒体の喜びに満ちあふれた仕事を手掛けておられます。

★クーヴァー『ゴーストタウン』は『Ghost Town』(Henry Holt/Grove Press, 1998)の翻訳。訳者あとがきによれば、本書の刊行によって「クーヴァーのパロディ物4冊が揃った」と。ほかの3冊は『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』『ノワール』『ようこそ、映画館へ』で、いずれも作品社より刊行。『ゴーストタウン』について訳者はこうも述べています。「いわば西部劇のテーマパークで乗り物に乗り、決められたコースを走っているかのような感じなのだ。とはいっても、ディズニーランドのような清潔なテーマパークではない。暴力的な要素、卑猥で下品な要素が思い切り誇張され、神話に隠された裏の部分を露わにする。そして、人間が作り上げた文化的構築物の中でしか生きられない我々の姿を照射して見せる」(244頁)。「ピンチョン、バース、バーセルミらと並び称される、アメリカのポストモダン文学を代表する小説家」(著者略歴より)としてのクーヴァーの面目躍如とした一作、と言ってよいかと思われます。

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★今月以降の注目新刊を列記します。

0329『カウンター・デモクラシー――不信の時代の政治』ピエール・ロザンヴァロン著、嶋崎正樹訳、岩波書店
0329『幻想としての〈私〉: アスペルガー的人間の時代』大饗広之著、勁草書房
0331『〈わたし〉と〈みんな〉の社会学』大澤真幸/見田宗介著、左右社
0331『不協和音の宇宙へ: モンテスキューの社会学』中江桂子著、新曜社
0331『人間の運命』ラインホールド・ニーバー著、髙橋義文/柳田洋夫訳、聖学院大学出版会
0331『歴史の喩法――ホワイト主要論文集成』ヘイドン・ホワイト著、上村忠男訳、作品社
0401『理念の進化』ニクラス・ルーマン著、土方透監訳、新泉社
0404『書店員の仕事』NR出版会編、新泉社
0404『流されるな、流れろ! ありのまま生きるための「荘子」の言葉』川崎昌平著、洋泉社
0405『啓蒙と神話: アドルノにおける人間性の形象』藤井俊之著、航思社
0406『デカメロン(中)』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫
0406『現金の呪い――紙幣をいつ廃止するか?』ケネス・S・ロゴフ著、村井章子訳、日経BP社
0408『ゲンロン0 観光客の哲学』東浩紀著、ゲンロン
0410『第四の革命――情報圏(インフォスフィア)が現実をつくりかえる』ルチアーノ・フロリディ著、春木良且/犬束敦史/先端社会科学技術研究所訳、新曜社
0411『実体概念と関数概念【新装版】――認識批判の基本的諸問題の研究』エルンスト・カッシーラー著、山本義隆訳、みすず書房
0411『死に至る病』セーレン・キェルケゴール著、鈴木祐丞訳、講談社学術文庫
0411『写生の物語』吉本隆明著、講談社文芸文庫
0411『ヨハネス・コメニウス 汎知学の光』相馬伸一著、講談社選書メチエ
0411『勉強の哲学――来たるべきバカのために』千葉雅也著、文藝春秋
0411『人類の未来――AI、経済、民主主義』ノーム・チョムスキー/レイ・カーツワイル/マーティン・ウルフ/ほか著、NHK出版新書
0412『アナキスト民俗学: 尊皇の官僚・柳田国男』絓秀実/木藤亮太著、筑摩選書
0414『スノーデン 日本への警告』エドワード・スノーデン/青木理/井桁大介/金昌浩 /ベン・ワイズナー/宮下紘/マリコ・ヒロセ著、集英社新書
0415『バウドリーノ』上下巻、ウンベルト・エーコ著、堤康徳訳、岩波文庫
0418『科学とモデル――シミュレーションの哲学 入門』マイケル・ワイスバーグ著、松王政浩訳、名古屋大学出版会
0418『ゾンビ学』岡本健著、人文書院
0419『辺境図書館』皆川博子著、講談社
0419『ポピュリズムとは何か』ヤン=ヴェルナー・ミュラー著、板橋拓己訳、岩波書店
0420『ラカニアン・レフト――ラカン派精神分析と政治理論』ヤニス・スタヴラカキス著、山本圭/松本卓也訳、岩波書店
0420『もうひとつの〈夜と霧〉: ビルケンヴァルトの共時空間』ヴィクトール・E・フランクル著、諸富祥彦/広岡義之編、広岡義之/林嵜伸二訳、ミネルヴァ書房
0420『戦争にチャンスを与えよ』エドワード・ルトワック著、奥山真司訳、文春新書
0422『再起動する批評――ゲンロン批評再生塾第1期全記録』東浩紀編著、朝日新聞出版
0422『老子道徳経(井筒俊彦翻訳コレクション)』井筒俊彦著、古勝隆一訳、慶應義塾大学出版会
0422『著作権の誕生――フランス著作権史』宮澤溥明著、太田出版
0425『美学講義』G. W. F. ヘーゲル著、寄川条路監修、石川伊織/小川真人/瀧本有香訳、法政大学出版局
0425『記号と再帰 新装版: 記号論の形式・プログラムの必然』田中久美子著、東京大学出版会
0425『人工知能の哲学: 生命から紐解く知能の謎』松田雄馬著、東海大学出版部
0427『臨床哲学の知』木村敏/今野哲男著、言視舎
0427『美味礼讃』ブリア=サヴァラン著、玉村豊男訳、新潮社
0429『アレゴリー:ある象徴的モードの理論』アンガス・フレッチャー著、伊藤誓訳、白水社
0430『思考の体系学: 分類と系統から見たダイアグラム論』三中信宏著、春秋社
0510『柄谷行人講演集成1985-1988 言葉と悲劇』ちくま学芸文庫
0512『ラテン語を読む――キケロ―「スキーピオーの夢」』山下太郎著、ベレ出版
0526『メルロ=ポンティ哲学者事典 第二巻:大いなる合理主義・主観性の発見』加賀野井 秀一ほか監訳、白水社
0529『トールキンのベーオウルフ物語<注釈版>』J・R・R・トールキン著、岡本千晶訳、原書房

★なんといっても今月は、東浩紀さんの『観光客の哲学』と、千葉雅也さんの『勉強の哲学』に注目。翻訳ではヘイドン・ホワイト『歴史の喩法』と、ヤニス・スタヴラカキス『ラカニアン・レフト』。古典ものでは寄川条路監修『美学講義』と、鈴木祐丞訳『死に至る病』、玉村豊男訳『美味礼讃』ですね。

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by urag | 2017-04-01 19:20 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 03月 30日

近藤和敬さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」

主体の論理・概念の倫理――二〇世紀フランスのエピステモロジーとスピノザ主義』(以文社、2017年2月)の共編著者でいらっしゃる近藤和敬さん(こんどう・かずのり:1979-)によるブックツリー「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」が、オンライン書店hontoにて公開されました。「哲学読書室」の第三弾です。皆様にご高覧いただけたら幸いです。

◎「哲学読書室」@honto

第1弾「崇高が分かれば西洋が分かる」選書:星野太さん(1983-:金沢美術工芸大学講師。『崇高の修辞学』月曜社、2017年2月刊)
第2弾「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」選書:國分功一郎さん(1974-:高崎経済大学准教授。『中動態の世界』医学書院、2017年3月刊)
第3弾「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」選書:近藤和敬さん(1979-:鹿児島大学法文学部准教授。『主体の論理・概念の倫理』以文社、2017年2月刊)

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by urag | 2017-03-30 16:15 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 03月 26日

注目新刊:國分功一郎『中動態の世界』医学書院、ほか

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中動態の世界――意志と責任の考古学
國分功一郎著
医学書院 2017年3月 A5判並製336頁 ISBN978-4-260-03157-8

帯文より:「しゃべっている言葉が違うのよね」。ある依存症当事者がふと漏らした言葉から、「する」と「される」の外側への旅がはじまった。若き哲学者は、バンヴェニスト、アレントに学び、デリダ、ハイデッガー、ドゥルーズを訪ね直し、細江逸記を発見し、アガンベンに教えられ、そして新たなスピノザと出会う。 失われた「態」を求めて。

目次:
プロローグ――ある対話
第1章 能動と受動をめぐる諸問題
第2章 中動態という古名
第3章 中動態の意味論
第4章 言語と思考
第5章 意志と選択
第6章 言語の歴史
第7章 中動態、放下、出来事――ハイデッガー、ドゥルーズ
第8章 中動態と自由の哲学――スピノザ
第9章 ビリーたちの物語

あとがき

★「シリーズ ケアをひらく」の最新刊。知の考古学者としての國分さんの才気がもっとも生きいきと示された本です。ごく図式的に言えば、國分さんのこれまでの著作には『暇と退屈の倫理学』や『ドゥルーズの哲学原理』のような哲学的著作と、『近代政治哲学』や『民主主義を直感するために』のような政治的著作があったわけですが、この二つの分岐が、文法や言葉をめぐる史的探究としての『中動態の世界』へとついに合流した、という印象があります。この流れは國分さんを、デビュー作『スピノザの方法』と同様に、再びスピノザの精読へと促す還流でもあったかもしれません(第8章)。さらに本書では、その円環は自由論として兆す問いの地平へと思考を発出し始めているように思えました。

★同書の刊行を記念して、以下のトークイベントが行われる予定です。定員40名のところ、告知開始初日である昨日25日(土)の夜ですでに20名まで予約が入ったそうなので、参加ご希望の方はお早めにご予約下さい。【3月27日18時現在予約満席となりました。まことにありがとうございました。

◎國分功一郎×星野太「中動態と/の哲学」【満席御礼

日時:2017年04月29日(土)19:30開演(19時開場)
場所:ジュンク堂書店池袋本店4F喫茶コーナー
料金:1000円(1ドリンク付、当日4F喫茶受付にて精算)
予約:ジュンク堂書店池袋本店1Fサービスコーナーもしくは電話03-5956-6111

内容:このたび國分功一郎さんが出版された『中動態の世界』(医学書院)は「中動態」という失われた文法を追い求めながら、人間の存在そのものを問い直そうとする野心作です。対話相手の星野太さんは上梓したばかりの初の単著『崇高の修辞学』(月曜社)の中で、「言葉と崇高」という言語一般を問い直す問題に挑んでいます。哲学と言語という古くて新しい論点を巡る対話。いま最も思弁的であり、最も思弁的であるが故にアクチュアルな二冊の本の著者がジュンク堂に集います!

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★國分さんの新刊『中動態の世界』の発売前後には次のような新刊も発売されています。いずれも書名のリンク先に書誌情報や目次詳細がありますので、ご参照ください。

デカルト 医学論集』ルネ・デカルト著、山田弘明/安西なつめ/澤井直/坂井建雄/香川知晶/竹田扇訳、アニー・ビトボル=エスペリエス序、法政大学出版局、2017年3月、本体4,800円、A5判上製326頁、ISBN978-4-588-15082-1
グリム兄弟言語論集――言葉の泉』ヤーコプ・グリム/ヴィルヘルム・グリム著、千石喬/高田博行編、千石喬/木村直司/福本義憲/岩井方男/重藤実/岡本順治/高田博行/荻野蔵平/佐藤恵訳、ひつじ書房、2017年2月、本体12,000円、A5判上製398頁、ISBN978-4-89476-850-5
二人称的観点の倫理学――道徳・尊敬・責任』スティーヴン・ダーウォル著、寺田俊郎監訳、会澤久仁子訳、法政大学出版局、2017年3月、本体4,600円、四六判上製462頁、ISBN978-4-588-01052-1
新版アリストテレス全集(18)弁論術/詩学』堀尾耕一/野津悌/朴一功訳、岩波書店、2017年3月、本体7,600円、A5判上製函入500頁、ISBN978-4-00-092788-8

★デカルトについては知泉書館版『全書簡集』全8巻が昨春完結しており、今回『医学論集』が成ったわけですが、この『医学論集』のあとがきによれば、続刊として、法政大学出版局では『デカルト 数学・自然学論集』が、知泉書館からは『ユトレヒト紛争書簡集』が予定されており、「これでデカルト研究の典拠とされるいわゆるアダン・タヌリ版全集全11巻のほとんどすべてが日本語で読めることになる」とのことです。

★グリム兄弟については童話以外の訳書を本屋さんで探すのがなかなか難しいのが現状なので、ご参考までに下記にまとめておきます。

ドイツ・ロマン派全集(15)グリム兄弟』小沢俊夫/谷口幸男/寺岡寿子/原研二/堅田剛訳、国書刊行会、1989年(品切)
『グリム兄弟往復書簡集――ヤーコプとヴィルヘルムの青年時代』全5巻、山田好司訳、本の風景社、2002~2007年(第1巻のみ書名は『グリム兄弟自伝・往復書簡集』。ブッキング〔現・復刊ドットコム〕よりPOD版として刊行されていたものの現在は入手できない様子。なお訳者の山田さんは同じく本の風景社より2010~11年に『わが生涯の回想――グリム兄弟の弟ルートヴィヒ・エーミール・グリム自伝』上下巻を上梓されており、こちらは入手可能なようです。)
ヤーコプ・グリム 郷土愛について――埋もれた法の探訪者の生涯』稲福日出夫編訳、編集工房東洋企画、2006年
グリム兄弟 メルヘン論集』高木昌史/高木万里子訳、法政大学出版局、2008年

★ダーウォル(Stephen Darwall, 1946-)は現在、イェール大学アンドリュー・ダウニー・オリック教授であり、ミシガン大学ジョン・デューイ卓越名誉教授。初訳となる本書は、『The Second-Person Standpoint: Morality, Respect, and Accountability』(Harvard University Press, 2006)の第一部、第二部、第四部を訳出したもの。監訳者解説によれば「原著は全四部・十二章からなるが、その第三部にあたる第七章「二人称の心理学」および第八章「間奏――正義をめぐるリードとヒューム」を、原著者と相談のうえ、割愛した」と。補助的な章であることを考慮し大部な訳書になることを避けたとのことです。

★『新版アリストテレス全集(18)弁論術/詩学』は予定より約5か月遅れの第15回配本。「弁論術」堀尾耕一訳、「アレクサンドロス宛の弁論術」野津悌訳、「詩学」朴一功訳、を収録。付属の「月報15」は新版全集の編集委員のお一人で昨秋逝去された神崎繁さんへの、中畑正志さんによる「惜別の辞」が掲載されています。「神崎さんが執筆する予定だった『政治学』の解説はどのようなものとなったのだろうか、と想像して、それが読めないことが残念でなりません」とお書きになっておられます。同月報の「編集部より」によれば第17巻「政治学」は内山勝利訳・解説から、神崎繁/相沢康隆/瀬口昌久訳、内田勝利解説となるそうです。同月報では、第16巻「大道徳学/エウデモス倫理学」、第8~9巻「動物誌」の正誤表も記載されています。次回配本は7月末刊行予定、第4巻「自然学」とのことです。

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★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。

遊戯の起源――遊びと遊戯具はどのようにして生まれたか』増川宏一著、平凡社、2017年3月、本体3,600円、4-6判上製306頁、ISBN978-4-582-46821-2
〈増補新版〉文化的再生産の社会学――ブルデュー理論からの展開』宮島喬著、藤原書店、2017年3月、本体4,200円、A5判上製368頁、ISBN978-4-86578-118-2

★増川宏一『遊戯の起源』は帯文に曰く「社会性の形成とともに生まれた人間の遊びの起源と変化、遊戯具に秘められた多彩な知恵と活動のあとを読み解く」もの。図版多数。目次を列記すると、はじめに、序章「ヒトは賢い」、第一章「遊びへの準備」、第二章「身体能力の競い」、第三章「道具を用いる遊び」、第四章「遊戯具の起源」、終章、おわりに、あとがき、参考文献、索引。あとがきによれば、本書をもって著者の一連の遊戯史研究が完結したとのことです。

2006年05月『遊戯――その歴史と研究の歩み』法政大学出版局/ものと人間の文化史
2010年10月『盤上遊戯の世界史――シルクロード 遊びの伝播』平凡社
2012年02月『日本遊戯史――古代から現代までの遊びと社会』平凡社
2014年09月『日本遊戯思想史』平凡社
2017年03月『遊戯の起源』平凡社

★宮島喬『〈増補新版〉文化的再生産の社会学』は、1994年刊の旧版とことなるのは、巻頭に「増補新版への序文」が加えられ、第Ⅱ部「ブルデュー理論からの展開」の第8章「エスニシティと文化的再生産論」に「補論」が足され、あらたに第10章「「子どもの貧困」と貧困の再生産――一ノートとして」が新設された、という3点です。

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by urag | 2017-03-26 23:18 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 03月 20日

注目新刊:櫂歌書房版『プラトーン著作集』、ほか

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人生の短さについて 他2篇』セネカ著、中澤務訳、光文社古典新訳文庫、2017年3月、本体900円
デカメロン 上』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫、2017年3月、本体1,000円
北欧の神話』山室静著、ちくま学芸文庫、2017年3月、1,000円
組織の限界』ケネス・J・アロー著、村上泰亮訳、ちくま学芸文庫、2017年3月、本体1,000円
重力と恩寵』シモーヌ・ヴェイユ著、冨原眞弓訳、岩波文庫、2017年3月、本体1,130円
口訳万葉集(上)』折口信夫著、岩波現代文庫、2017年3月、本体1,400円
『老子』――その思想を読み尽くす』池田知久訳注、講談社学術文庫、2017年3月、本体2,200円
新版 雨月物語 全訳注』上田秋成著、青木正次訳注、講談社学術文庫、2017年3月、本体1,650円
アルキビアデス クレイトポン』プラトン著、三嶋輝夫訳、講談社学術文庫、2017年3月、本体820円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第一分冊 第一アルキビアデース/ヒッパルコス/第二アルキビアデース』水崎博明訳、櫂歌全書16/櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年2月、本体2,800円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第二分冊 プロータゴラース』水崎博明訳、櫂歌全書17/櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年2月、本体2,200円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第三分冊 ピレーボス』水崎博明訳、櫂歌全書18/櫂歌書房、星雲社発売、2017年2月、本体2,800円
『プラトーン著作集 第七巻 自然哲学 ティーマイオス/クリティアース』水崎博明訳、櫂歌全書19/櫂歌書房、星雲社発売、2017年2月、本体3,000円
復刻版 きけ小人物よ!』ウィルヘルム・ライヒ著、片桐ユズル訳、赤瀬川源平挿画、新評論、2017年2月、本体2,000円

★まずは文庫新刊から。光文社古典新訳文庫のセネカ『人生の短さについて 他2篇』は表題作のほか、「母ヘルウィアへのなぐさめ」と「心の安定について」を収録。岩波文庫版では樋口勝彦訳(『幸福なる生活について 他一篇』1954年;「人生の短さについて」を併載)、茂手木元蔵訳(『人生の短さについて 他二篇』1980年;「心の平静について」「幸福な人生について」を併載)、大西英文訳(『生の短さについて 他二篇』2010年;「心の平静について」「幸福な人生について」を併載)という風に長く読み継がれてきた名著です。「母ヘルウィアへのなぐさめ」は文庫では初訳(単行本としては大西英文訳が岩波書店版『セネカ哲学全集(2)倫理論集Ⅱ』2006年に、茂手木元蔵訳が東海大学出版会〔現・東海大学出版部〕『セネカ道徳論集』1989年に収録)。皇帝ネロの教育係を務め、自死を命じられた哲人の言葉は二千年の時を超えて今なお読む者の胸に刺さります。ローマ帝国の爛熟期と現代社会がどこか似ているからでしょうか。

★次に河出文庫。平川訳『デカメロン』は親本が2012年刊。全3巻で文庫化。文庫での同作の既訳には、柏熊達生訳(既刊2巻、世界古典文庫、1948~49年;全10巻、新潮文庫、1954~56年;全3巻、ちくま文庫、1987~88年)、野上素一訳(全6巻、岩波文庫、1949~59年)、高橋久訳(全5巻、新潮文庫、1965~66年)、河島英昭訳(上下巻、講談社文芸文庫、1999年)などがありますが、現在も新本で入手可能なのは河島訳のみ。平川訳には長編の訳者解説が付されていて、上巻では第一章「西洋文学史上の『デカメロン』」、第二章「新訳にあたって」を収録。中巻は4月6日発売予定。

★次にちくま学芸文庫。山室静『北欧の神話』は筑摩書房版「世界の神話」シリーズで刊行された単行本(1982年)の文庫化。訳書ではなく、解説を交えた再説本。ですます調が柔らかく、若年の読者層にも訴求するのではないかと思います。アロー『組織の限界』は岩波書店の単行本(初版、1976年;岩波モダンシラシックス、1999年)からのスイッチ。文庫版オリジナルの巻末解説は慶応大学経済学部教授の坂井豊貴さん。「読者は本書『組織の限界』から、情報という厄介なもの、そして信頼という貴重な資産について、考えさせられることになるだろう」(162頁)という結語に至る前半部の論説がユニーク。

★続いて岩波文庫および岩波現代文庫。『重力と恩寵』は『自由と社会的抑圧』(2005年)、『根をもつこと』(上下巻、2010年)に続く、冨原眞弓さん訳による岩波文庫のヴェイユ新訳本。文庫の既訳には田辺保訳(講談社文庫、1974年;ちくま学芸文庫、1995年)があります。『口訳万葉集』は全三巻予定の上巻。解説「最高に純粋だった」は文芸評論家の持田叙子さんによるもの。中公文庫版「折口信夫全集」では第4巻と5巻の上下巻でした(1975~76年)。

★最後に講談社学術文庫。池田知久訳注『『老子』』は『淮南子』『荘子』に続く、同文庫での池田さんによる懇切な訳注本。『老子』の「諸思想を総合的・体系的に解明し、一般読者にその諸思想のありのままの内容を分かりやすい形で提供しよう」(凡例より)というもので、巻末には原文・読み下し、現代語訳がまとめられています。同文庫では、金谷治さんによる訳解本である『老子』が1997年に刊行されていますが、それを残しつつ新刊も出すという講談社さんの姿勢は好ましいですし正しいです。青木正次訳注『新版 雨月物語 全訳注』は同文庫の同氏による訳注本上下巻(1981年)を再構成し、一巻本としたもの、とのことです。原文(原文が漢文の場合は読み下し付き)、現代語訳、語文注、考釈という構成。プラトン『アルキビアデス クレイトポン』三嶋輝夫訳は文庫オリジナルの新訳。訳者の三嶋さんは同文庫ではプラトンの『ラケス』を1997年に、『ソクラテスの弁明・クリトン』を1998年に上梓されています。「アルキビアデス」の副題は「人間の本性について」、「クレイトポン」は「徳の勧め」です。

★続いて単行本新刊。水崎博明訳『プラトーン著作集』(全10巻27冊予定)は、福岡の出版社「櫂歌書房(とうかしょぼう)」さんより刊行中の個人全訳。第六巻第一分冊に収められたのは「第一アルキビアデース――人間の本性について」「ピッパルコス――利得の愛好者」「第二アルキビアデース――祈願について」。短期間に先述の三嶋訳とこの水崎訳の二つの新訳が上梓されたわけで、驚くべき成果です。櫂歌書房は星雲社扱いで、基本的にパターン配本はないでしょうから、大型書店でも限られた店舗でしか見かけないかもしれませんが、取り寄せは比較的に容易ですから、買い逃す手はありません(ネット書店の場合、アマゾンよりもhontoの方が便利です)。ここまで既刊15巻が上梓されていますが、2月付で4点を発行。2011年2月の第1回配本以降、27冊中19巻までたどり着いたことになります。最新巻である第七巻は「自然哲学」部門であり、「ティーマイオス」と「クリティアース」が一冊にまとめられています。次回配本は順番通りであれば第八巻「人間存在の在るところ」部門となり、三分冊の「国家」に「クレイトポーン」が含まれることになります。全巻共通の感動的な「序」の冒頭には、水崎さんの恩師の言葉が刻まれています。「しかし、プラトンは、僕は思うが、未だ誰一人にも読まれてはいないのだ」。

★ライヒ『復刻版 きけ小人物よ!』片桐ユズル訳は、太平出版社版『W・ライヒ著作集』第4巻(1970年)の復刻。旧版は刊行10年余の間に10刷を数えるロングセラーでした。復刻にあたり、巻頭には訳者による「復刻に寄せて――訳者巻頭言」が新たに付されています。赤瀬川源平さんによる挿画本であることを知っているのは中年以上の世代でしょうから、若い読者には新たな出会いとなることと思います。しかし、本書が素晴らしいのは赤瀬川さんの超現実主義的な挿画による以上にその内容です。「小人物よ、あなたがどんなであるかあなたは知りたいでしょう。あなたはラジオで便秘薬や歯みがきやデオドラントの広告を聞く。しかしあなたにはプロパガンダの音楽は聞こえない。あなたの耳をとらえようとしてつくられているこれらのものの吐き気のするような悪趣味と底知れぬおろかしさをあなたはわからないでいる。ナイトクラブの司会者たちがあなたについてしゃべっている冗談をちゃんときいたことがありますか? あなたについて、かれ自身について、あなたのみじめなちっぽけな世界のすべてについての冗談。あなたの便秘薬の広告をきいてあなたがどんなふうな、どんな人間であるかを知りなさい」(53頁;旧版では59頁;おそらくこの言葉に読者の方が見覚えがあるとしたらそれは、キィの名著『メディア・セックス』の引用だからかもしれません)。実を言えば私はこの著作をドイツ語原書からの新訳で再刊したいと念願してきましたが、今まで果たせずにきました。片桐訳は英訳からの重訳ではあるものの、充分に読み応えがある名訳です。ちなみに太平出版社のライヒ著作集は全10巻のうち半分まで刊行されて途絶しましたが、未刊の半分はすべて他社から翻訳が出ているので、既訳を利用すれば全10巻を再現できます。今こそライヒを再評価すべき時です。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

無名鬼の妻』山口弘子著、作品社、2017年3月、本体1,600円、46判上製468頁、ISBN978-4-86182-624-5
『触れることのモダニティ――ロレンス、スティグリッツ、ベンヤミン、メルロ=ポンティ』高村峰生著、以文社、2017年2月、本体3,200円、菊判上製314頁、ISBN978-4-7531-0339-3
ドゥルーズと多様体の哲学――二〇世紀のエピステモロジーにむけて』渡辺洋平著、人文書院、2017年2月、本体4,600円、4-6判上製370頁、ISBN978-4-409-03093-6
ラカン 真理のパトス――一九六〇年代フランス思想と精神分析』上尾真道著、人文書院、2017年3月、本体4,500円、4-6判上製344頁、ISBN978-4-409-34050-9
フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データ』日野行介/尾松亮著、人文書院、2017年2月、本体1,800円、4-6判並製208頁、ISBN978-4-409-24115-8
日本人のシンガポール体験――幕末明治から日本占領下・戦後まで』西原大輔著、人文書院、2017年3月、本体3,800円、4-6判上製312頁、ISBN978-4-409-51074-2
近代皇族妃のファッション』青木淳子著、中央公論新社、2017年3月、本体4,000円、A5判上製416頁、ISBN978-4-12-004957-6
ユネスコ番外地 台湾世界遺産級案内』平野久美子編著、中央公論新社、2017年3月、本体1,400円、A5判並製128頁、ISBN978-4-12-004959-0
西洋美術の歴史7 19世紀:近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ』尾関幸/陳岡めぐみ/三浦篤著、中央公論新社、2017年2月、本体3,800円、B6判上製600頁、ISBN978-4-12-403597-1

★まず作品社さんの新刊。山口弘子『無名鬼の妻』は帯文に曰く「悲劇の文人・村上一郎との波瀾の半生。海軍主計中尉との出会いから、その壮絶な自死まで。短歌と刀を愛した孤高の文人・村上一郎の悲運に寄り添い支え続けた妻、93歳の晩晴!」と。「戦後、ジャーナリスト、編集者として活躍し、思想家であり、文芸評論家で、小説も書き、日本の古典と詩歌をこよなく愛した歌人でもあった」(「プロローグ」より)村上一郎(1920-1975)さんの伴侶だった人形作家、長谷えみ子さんの半生を取材した本です。無名鬼とは村上さんが創刊した文芸誌の名前。貴重な証言から成る無類の一冊です。

★次に以文社さんの新刊。高村峰生『触れることのモダニティ』は、イリノイ大学大学院へ2011年に提出された英文の博士論文『Tactility and Modernity』を日本語に直し、大幅な改稿と増補を施したもの。序論「触覚とモダニズム」、第一章「後期D・H・ロレンスにおける触覚の意義」、第二章「スティーグリッツ・サークルにおける機械、接触、生命」、第三章「ヴァルター・ベンヤミンにおける触覚の批判的射程」、第四章「触覚的な時間と空間――モーリス・メルロ=ポンティのキアスム」、結論、あとがき、という構成。結論の末尾近くで著者はこう記しています。「本稿が検討したモダニストたちの多くは〔・・・〕接触〔contact〕のエピファニー的な性質に言及していた。彼らは触覚=接触が西洋の伝統的な時間・空間概念、ならびに主体と世界との静的な関係に挑戦すると考えたのだ」(244頁)。

★続いて人文書院さんの新刊。渡辺洋平『ドゥルーズと多様体の哲学』は博士論文を増補改訂したもの。多様体(multiplicité)とはドゥルーズにおいて「特殊な個体化のあり方をとらえるために考案された概念であり、ひとつの固定した人格や性格、性別、あるいは種や類、主体と言った概念とは全く異なる思考法のために創造された概念である」(222頁)と著者は解説します。生成変化や此性、固有名もそこに連なります上尾真道『ラカン 真理のパトス』は21日(火)取次搬入でまもなく発売。ラカンの1960年代の仕事の解明を目指したもので、2011年から2016年にかけて発表してきた成果に書き下ろし(第七章「科学の時代の享楽する身体」)を加えた一書。著者の単独著第一作です。日野行介/尾松亮『フクシマ6年後 消されゆく被害』は、福島における小児甲状腺がんの多発と原発事故の因果関係をなんとか誤魔化そうとする国、県、医師たちの卑劣さを追及した痛烈な本。「情報がいびつにシャットダウンされた社会で、民主主義はありうるのだろうか」(199頁)という言葉が胸に刺さります。西原大輔『日本人のシンガポール体験』は巻頭の「はじめに」によれば、「主に幕末から戦後に至る百年あまりの間に、日本人が旅行記に記録し、絵画に描き、文学の舞台とし、音楽や映画の題材としたシンガポールのイメージを論じたもの」で、「日本人の眼に映ったシンガポールの姿を日本文化史の中に探り、その全体像を描こうと試みた」もの。元は日本シンガポール協会の機関誌に2000年から2011年まで連載された文章とのことです。

★最後に中央公論新社さんの新刊です。青木淳子『近代皇族妃のファッション』は博士論文をもとに書籍化。「日本人の洋装化、生活文化の近代化をリードした皇族妃たち」(帯文より)を研究したもので、梨本宮伊都子妃と朝香宮允子妃の例が詳細に検討されています。カラーを含む図版多数。著者は婦人画報社の編集者を務めたご経験もおありです。細野綾子さんによる組版と装丁が美しいです。『ユネスコ番外地 台湾世界遺産級案内』は書名の「級」の字がミソ。「台湾には世界遺産が一つもない」(帯文より)ながら、素晴らしい自然と文化に恵まれており、本書ではオールカラーで18の名所が紹介されています。『西洋美術の歴史』第7巻は第5回配本。「今ここにあるものこそ美しい。革新と多様性の世紀」(帯文より)と謳う本書では19世紀が扱われ、「多様なベクトルが作用して、坩堝のような混沌」(序章、39頁より)が描出されています。

◎『西洋美術の歴史』既刊書と次回配本(すべて本体価格は3,800円)

2016年10月:第4巻「ルネサンスⅠ:百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現」小佐野重利/京谷啓徳/水野千依著、ISBN978-4-12-403594-0
2016年11月:第6巻「17~18世紀:バロックからロココへ、華麗なる展開」大野芳材/中村俊春/宮下規久朗/望月典子著、ISBN978-4-12-403596-4
2016年12月:第2巻「中世Ⅰ:キリスト教美術の誕生とビザンティン世界」加藤磨珠枝/益田朋幸著、ISBN978-4-12-403592-6
2017年01月:第1巻「古代:ギリシアとローマ、美の曙光」芳賀京子/芳賀満著
2017年02月:第7巻「19世紀:近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ」尾関幸/陳岡めぐみ/三浦篤著、ISBN978-4-12-403593-3
2017年03月:第3巻「中世Ⅱ:ロマネスクとゴシックの宇宙」木俣元一/小池寿子著、ISBN978-4-12-403593-3

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by urag | 2017-03-20 16:39 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)