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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 908 )


2017年 11月 19日

注目新刊:レリス『ゲームの規則』全4巻刊行開始、ほか

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ゲームの規則Ⅰ 抹消』ミシェル・レリス著、岡谷公二訳、平凡社、2017年11月、本体3,400円、4-6判上製360頁、ISBN978-4-582-33323-7
ゲームの規則Ⅱ 軍装』ミシェル・レリス著、岡谷公二訳、平凡社、2017年11月、本体3,200円、4-6判上製292頁、ISBN978-4-582-33324-4
七十人訳ギリシア語聖書 モーセ五書』秦剛平訳、講談社学術文庫、2017年11月、本体3,150円、1200頁、ISBN978-4-06-292465-8
書簡詩』ホラーティウス著、高橋宏幸訳、講談社学術文庫、2017年11月、本体900円、248頁、ISBN978-4-06-292458-0
水滸伝(三)』井波律子訳、講談社学術文庫、2017年11月、本体1,780円、640頁、ISBN978-4-06-292453-5
中国名言集―― 一日一言』井波律子著、岩波現代文庫、2017年11月、本体1,280円、448頁、ISBN978-4-00-602295-2
世界の共同主観的存在構造』廣松渉著、岩波文庫、2017年11月、本体1,320円、560頁、ISBN978-4-00-381241-9

★レリス『ゲームの規則〔La Règle du jeu〕』全4巻の刊行開始です。岡谷公二訳『Ⅰ 抹消』(原書:Biffures, Gallimard, 1948)と『Ⅱ 軍装』(原書:Fourbis, Gallimard, 1955)が同時発売。前者の初訳は『ゲームの規則 ビフュール』として筑摩書房より1995年に刊行されたことがあります。新訳にあたっては原題の音写ではなく漢字二文字の訳語で統一するとの方針です。帯文に曰く「神話の偉大さに達した告白文学」と謳われ、個々の帯文は『Ⅰ 抹消』が「ビフュール。未来が暗い穴でしかなかった日々の幼少期の記憶の執拗な重ね書き〈日常生活の中の聖なるもの〉の探求」、『Ⅱ 軍装』は「フルビ。死を飼い馴らし、正しく振る舞い、おのれの枠を超え出る……〈生きる/書く〉心情の一件書類」。今回初訳となる『軍装』について岡谷さんは訳者あとがきで次のようにお書きになっておられます。「『軍装』は『抹消』とは異なり好評をもって迎えられた。ナドー、ビュトール、ポンタリス、ブランショらが有力な雑誌に次々と好意的な批評を発表、そして〔・・・〕刊行翌々年には『抹消』と合わせてクリティック賞を受け、レリスの文名は不動のものとなったのである」。シンプルで美しい装幀は細野綾子さんによるもの。第Ⅲ巻『縫糸』(千葉文夫訳、原書:Fibrilles, 1966)、第Ⅳ巻『囁音』(谷昌親訳、原書:Frêle bruit, Gallimard, 1976)が続刊予定です。

★講談社学術文庫の11月新刊より3点を選択。秦剛平訳『七十人訳ギリシア語聖書 モーセ五書』はいよいよ税別本体価格で3000円を超える時代に突入した、ということでしょうか。親本は河出書房新社より2002から2003年にかけて刊行された5点の単行本。奥付前の特記によれば、合本文庫化にあたり「その後の研究をもとに加筆・修正・再構成を行い、新に図版を挿入」したとのことです。分冊せずに大冊となるのをあえて避けずに全一巻としたことに強い印象を覚えます。訳者の秦さんは昨秋より、七十人訳聖書の預言者シリーズとして青土社から「イザヤ書」「エレミヤ書」「エゼキエル書」「十二小預言書」を上梓されています。

★ホラーティウス『書簡詩』は同文庫のための訳し下ろし。原著『Epistles』の既訳には、古いものでは田中秀央/村上至孝訳(生活社、1943年)、新しいものでは鈴木一郎訳(『ホラティウス全集』所収、玉川大学出版部、2001年)がありますがいずれも古書でしか買えません。原著第二巻第三歌は「詩論」としてさらに翻訳があり、文庫版では岡道男訳『アリストテレース 詩学/ホラーティウス 詩論』(岩波文庫、2001年)でも読むことができます。新訳より一節を引きます。「簡潔であろうと努力する。すると曖昧になる。流麗さを追究する。すると気骨と気勢が乏しくなる。荘重さを打ち出す。すると鼻持ちならない。安全無事ばかりを考えて嵐を恐れる人は地面に這いつくばる」(「詩論」より、146~147頁)。

★井波律子訳『水滸伝(三)』は全五巻のうちの第三巻。第43回から第60回までを収録。なお井波さんは今月、岩波現代文庫から『中国名言集―― 一日一言』が発売されたばかりです。親本は岩波書店から2008年に刊行。366篇の名言が選ばれ、出店や注釈が簡潔に記されています。「ジャンルをとわず、時代を超えて生き生きとなした生命力を保つ言葉を選ぶように心がけ、あまりに教訓的なものや説教臭の強いものは避けた。/しみじみと味読すると、発言者の深い叡智を感受して、なるほどと元気になったり、楽しくなったり、勇気がわいてきたりする」と巻頭の「はじめに」に記されています。なるほどその通りで、実に味わい深い句々に胸が熱くなります。「精衛微木を銜み、将に以て滄海を塡めんとす」(陶淵明)。

★廣松渉『世界の共同主観的存在構造』は凡例によれば、1972年に勁草書房より刊行された同書に「附録として足立和浩/白井健三郎/廣松渉による鼎談「サルトルの地平と共同主観性」(「情況」1973年1月号)を併録するもの」とのことです。同書の底本には岩波書店版『廣松渉全集』第一巻(1996年)が使用されており、「底本にある「学術文庫版への序」は省き、巻末の索引は初出の単行本に基づいて作成した」ともあります。なお講談社学術文庫版は1991年に刊行されていました。今回の再文庫化にあたり、熊野純彦さんが解説と解説者注を担当され、熊野さんの責任において「底本にふくまれるあきらかな誤記・誤植を訂正し、読みやすさを考慮して振り仮名の追加・整理をし、通行の表記法に基づいて記号を整理するなどの変更をおこなった個所がある」そうです。

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南方熊楠と説話学』杉山和也著、平凡社、2017年11月、本体1,000円、A5判並製108頁、ISBN978-4-582-36449-1
聖なる珠の物語――空海・聖地・如意宝珠』藤巻和宏著、2017年11月、本体1,000円、A5判並製120頁、ISBN978-4-582-36450-7
マルクスと商品語』井上康/崎山政毅著、社会評論社、2017年11月、本体6,500円、A5判上製580頁、ISBN978-4-7845-1846-3
哲学すること――松永澄夫への異議と答弁』松永澄夫監修、木田直人/渡辺誠編、中央公論新社、2017年11月、本体5,800円、A5判上製704頁、ISBN978-4-12-005028-2
ウールフ、黒い湖』ヘラ・S・ハーセ著、國森由美子訳、作品社、本体2,000円、四六判上製196頁、ISBN978-4-86182-668-9

★『南方熊楠と説話学』『聖なる珠の物語』はまもなく発売。ブックレット「書物をひらく」の第9弾と第10弾です。カバーソデ紹介文を引いておくと、『南方熊楠と説話学』は「民俗学や植物学をはじめ、南方熊楠が渉猟した学問領域は多岐にわたり、その足跡は広く深く展開している。説話学においても、南方熊楠の博学は、高木敏雄、柳田國男らをリードする役割をもった。けれども南方の説話学派、彼らや芳賀矢一など、その後の学界の主流とは別の方向をめざし、別の視野を拓いている。膨大な遺存資料のなかに、南方説話額の可能性をとらえる」。「南方熊楠の生涯」「南方熊楠の学問」「日本における説話学の勃興と南方熊楠」「南方熊楠の説話学と、その可能性」「南方熊楠旧蔵資料の価値――説話研究の側から」の五章立てです。『聖なる珠の物語』の紹介文は「ある場所が〈聖なる力〉によって〈聖なる空間〉に変容されるそのなりゆきを、たとえば寺社の縁起が語る。そして〈聖なるモノ〉が、その言葉に力を与え、その聖性を持続させる――。空海が中国から請来した「如意宝珠」。この聖なるモノの由来を語り、その由来譚を解釈しなおす言葉の群れが、室生寺の、高野山の聖性を増幅する。歴史のなかに、その言説システムを丹念に解きほぐす」。「空海と如意宝珠」「室生山の如意宝珠」「龍と如意宝珠」「高野山の如意宝珠」の四章立て。

★『マルクスと商品語』は発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭のはしがきによれば「本書の目的は、『資本論』冒頭商品論の解読であり、それを第二版以降に述べられる「商品語」という概念に焦点をあてたうえで遂行するものである」とのことです。「「商品語」という一般には聞きなれない用語について、人間語と対照させて、そのおおよその輪郭を明らかにしたのが、第一部〔第Ⅰ章、第Ⅱ章〕であり、本書の序論に当たる。/第二部〔第Ⅲ章~第Ⅶ章〕は本論である。『資本論』冒頭商品論をまったく新たな視点から捉え、従来の解読を刷新することを目指した。従来流布していたほとんどすべての読みを覆し、『資本論』冒頭商品論の精確な読解をなせた、と自負している。/第三部〔第Ⅷ章、第IX章〕は補論というべきものである。第三部草稿まで含めた『資本論』全体を踏まえて、今日の資本主義を批判するという課題は今後のものであり、そのための準備作業に相当する。〔・・・〕鍵となるのは架空資本の概念である。マルクスによるこの概念を復権させ、その新たな内容展開を目指していきたい」。本書はもともと2013年から2014年にかけて紀要「立命館文学」に連載された共著論文「商品語の〈場〉は人間語の世界とどのように異なっているか」を大幅に加筆修正したものとのことです。

★『哲学すること』は発売済。版元さんウェブサイトでは目次が未掲出のようですが、アマゾンには目次が掲載されています。帯文はこうです。「松永の薫陶を受けた13人が、渾身の力をふるって師に立ち向かう。厳密・緻密・稠密な言語使用を実践し、人間にとって本質的なことのみを論じ交わした火花散る師弟対決」。13人というのは次の方々です。朝倉友海、伊多波宗周、伊東俊彦、大西克智、木田直人、越門勝彦、佐藤香織、高橋若木、手塚博、中真生、原一樹、吉田善章、渡辺誠、の各氏です。松永さんは巻末の謝辞で次のように述べておられます。「私にとって、哲学は学問というより、生きることそのことと切り離せないものです。どうしてかと言いますと、人は単純に生きてはいず、ああだこうだと考え、そして悩んだり差し当たり得心したりして生きているわけで、すると、人はどのように生きてゆく存在なのか、その襞々までを十分に見通したいし、見通すことで生きることを心から納得したいという思いをもつからです。/そこでこの論文集の執筆者の皆さんが、私が哲学に対してもつこのようなイメージに対応する主題を選び、どの主題であれ、私と同じような姿勢で論じてくださったことは本当に嬉しいことでした」(679頁)。また、こうも書かれています。「私の哲学的思索について、「生きることの肯定の哲学」だとか「幸福の哲学」とかの評を聞くことがありますが、今回、答弁を書きながら、自分の哲学の営みの中心にあるものは、同時に「哀しみ」でもあるのかな、とあらためて感慨を懐いた次第です。「幸福の哲学」が「哀しみの哲学」でもあるということ、これは如何ともし難いことだと考えています」(680頁)。ちなみに松永さんは『めんどりクウちゃんの大そうどう』という絵本シリーズをご準備中とのことです。

★『ウールフ、黒い湖』は発売済。原書は1948年にオランダで刊行された『Oeroeg』です。ヘラ・S・ハーセ(Hella S. Haase, 1918-2011)はバタヴィア(現ジャカルタ)生まれのオランダの作家で、本国では非常に有名なのだそうですが、日本では本書が初訳。「訳者あとがき ヘラ・S・ハーセ その生涯と作品」(135~196頁)では著者について詳しく紹介しており、本書について「旧植民地で生まれ育った白人少年と現地少年の友情と別離を描き、読者に問いかけるように終わるこの作品は、オランダの東インド植民地文学とポスト・コロニアル文学とのちょうど境目に当たる時期に書かれ、オランダ文学史上においても、きわめて重要な位置づけとなっている」と説明されています。著者自身は「あとがき ウールフと創造の自由」で本作を「過去を探し求める旅の記録」と書いています。オランダの若者である主人公「ぼく」が1947年に現在のインドネシアで過ごした自身の少年時代を振り返り、同年齢の現地少年ウールフとの友情を顧みるというものです。訳者は本作に「誕生から20歳までのほとんどの日々を過ごした旧オランダ領東インド(ジャワ島)での作家自身の体験」が随所に反映されている、とも解説されています。

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by urag | 2017-11-19 18:30 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 11月 17日

ブックツリー「哲学読書室」に明石健五さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『柄谷行人書評集』(読書人、2017年11月)の担当編集者・明石健五さんによるコメント付き選書リスト「今を生きのびるための読書」が追加されました。リンク先にてご覧いただけます。


◎哲学読書室

星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む
河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在
岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流
吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ
明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書

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by urag | 2017-11-17 09:33 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 11月 16日

注目新刊:上村忠男『ヴィーコ論集成』みすず書房

★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
みすず書房さんより、今月、上村さんのヴィーコ論をまとめた大冊が刊行されました。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

ヴィーコ論集成
上村忠男著
みすず書房 2017年11月 本体10,000円 A5判上製520頁 ISBN978-4-622-08665-9
カバー表4紹介文より:学問に必要なのは、認識可能なものと不可能なものを区別する原理である。主著『新しい学』を筆頭に、徹底した学問批判を展開したイタリアの哲学者ジャンバッティスタ・ヴィーコ(1668-1744)。今まさに学ぶところの多いその透徹した思考と生涯を研究してきた第一人者による長年にわたる論考を、ここに一書にする。学者としての緻密さと思想家としての奥行きを兼ね備えた、著者のヴィーコ研究の集大成。

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by urag | 2017-11-16 11:57 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 11月 15日

今月末発売:笠井叡『金鱗の鰓を取り置く術』現代思潮新社

舞踏家でありオイリュトミストの笠井叡さんが今月末(11月27日)、現代思潮新社さんから大著『金鱗の鰓を取り置く術』をご刊行になります。「きんうろこのえらをとりおくじゅつ」と読むそうです。パンフレットには、目次詳細などの書誌情報のほか、笠井さんご自身による紹介文「「金鱗の鰓を取り置く術」のために」や、高橋巖さん、鈴木邦男さん、萩尾望都さんの推薦文が掲載されていますが、これらは書名のリンク先からご覧いただけますし、版元さんのウェブサイトの同書ニュース欄でPDFが配布されています。なお、来年1月から1年間、月1回ずつ、本書をめぐるワークショップが天使館で開催されるとのことです。詳しい日程や定員や参加費についてはリンク先でご確認いただけます。「完全に目覚めた社会意識、人間関係、国際意識を保持しつつ、「肺呼吸から鰓呼吸への変換」を、実践するためのWSです。社会活動・芸術活動・政治活動のための新しい出発」とのことです。

金鱗の鰓を取り置く術(きんうろこのえらをとりおくじゅつ)
笠井叡著
現代思潮新社 2017年11月 本体20,000円 A5判上製貼函入832頁 ISBN978-4-329-10007-8

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by urag | 2017-11-15 12:03 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 11月 12日

注目新刊:『文化・階級・卓越化』青弓社、ほか

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文化・階級・卓越化』トニー・ベネット/マイク・サヴィジ/エリザベス・シルヴァ/アラン・ワード/モデスト・ガヨ=カル/デイヴィッド・ライト著、磯直樹/香川めい/森田次朗/知念渉/相澤真一訳、青弓社、2017年10月、本体6,000円、A5判上製560頁、ISBN978-4-7872-3425-4
世界を揺るがした10日間』ジョン・リード著、伊藤真訳、光文社古典新訳文庫、2017年11月、本体1,540円、748頁、ISBN978-4-334-75365-8
社会分業論』エミール・デュルケーム著、田原音和訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,800円、800頁、ISBN978-4-480-09831-3
鏡の背面――人間的認識の自然誌的考察』コンラート・ローレンツ著、谷口茂訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,600円、512頁、ISBN978-4-480-09832-0
定本 葉隠〔全訳注〕中』山本常朝/田代陣基著、佐藤正英校訂、吉田真樹監訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,500円、528頁、ISBN978-4-480-09822-1

★『文化・階級・卓越化』は「ソシオロジー選書」の第4弾。『Culture, Class, Distinction』(Routledge, 2009)の全訳です。フランスの社会学者ブルデューの主著『ディスタンクシオン』の「問題設定・理論・方法を批判的に継承し、質問紙調査とインタビューを組み合わせた社会調査によって、2000年代以降のイギリス社会の分析に応用した」(版元紹介文より)論集です。第1部「分析の位置づけ」、第2部「嗜好・実践・個人のマッピング」、第3部「文化界と文化資本の構成」、第4部「卓越化の社会的次元」の全4部13章を序論と結論で挟み、「方法論的補遺」として4篇の付録が付されています。巻末にはインタヴューを受けた人々の簡単な紹介(「登場人物」)と「参考文献」「訳者解説」、そして人名と事項の二種の「索引」が付されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。文化一般のみならず出版界を考える上でも重要であり、特に第6章「人気と稀有と――読むことの界に関する探究」は必読かと思います。「われわれの質問紙調査からは、本を読むことは相対的に不人気な活動であることが明らかになった」というギクリとする一文から始まり、非常に興味深い具体的な分析が続きます。やや高額な本ですが、それだけの価値はあります。

★『世界を揺るがした10日間』は光文社古典新訳文庫の「ロシア革命100周年企画」第2弾(第1弾は先月刊行の『ロシア革命とは何か――トロツキー革命論集』森田成也訳)です。文庫で刊行された同書の訳本には、原光雄訳(上下巻、岩波文庫、1957年)、大崎平八郎訳(角川文庫、1972年)、松本正雄/村山淳彦訳(上下巻、新日本文庫、1977年)、小笠原豊樹/原暉之訳(ちくま文庫、1992年) などがあり、長く読み継がれてきたベストセラーでしたが、いずれも紙媒体では品切中。タイミングの良い新訳刊行となりました。たった100年前の話と読むのか、遠い昔の話と読むのか、読み手によって様々な感慨を呼び起こす本です。

★ちくま学芸文庫の今月新刊6点から3点のみ挙げると、『社会分業論』は『宗教生活の基本形態――オーストラリアにおけるトーテム体系』(山崎亮訳、2014年)に続く、ちくま学芸文庫でのデュルケームの訳書第2弾。親本は青木書店版「現代社会学大系」第2巻(1971年刊)で、底本はPUF版第7版(1960年刊)。文庫版解説は菊谷和宏さんによるもの。大著ですが分冊ではなく全1巻のままなのは幸いでした。 『鏡の背面』は新思索社版(1996年刊)の文庫化。巻末に「「ちくま学芸文庫」版再刊に寄せて」と題された訳者あとがきがあります。『定本 葉隠〔全訳注〕中』は「葉隠聞書」五~七を収録し、巻末解説「『葉隠』の中心思想とその問題点について――聞書六の74を手掛かりに」は岡田大助さんが執筆されています。来月発売の下巻で全三巻完結です。

★なお同文庫の今月新刊にはチラシ「ちくま学芸文庫創刊25周年フェア」が挟み込まれており、ちくま学芸文庫で読む「思想の星座」20世紀西洋編/日本編の二つのダイアグラムが掲載されています。これは同フェアのウェブサイトにも掲出されているもの。同フェアは今月から全国主要書店で順次開催し、以下の4点6冊が復刊されるとのことです。松田壽男『古代の朱』、稲田浩二編『日本の昔話』上下巻、ベンヤミン『ドイツ悲劇の根源』上下巻、アドルノ『プリズメン』。特にベンヤミンはこの機会を逃さない方が良いと思います。なお、先月末まで紀伊國屋書店チェーンで展開していた、紀伊國屋書店創業90年記念特別企画「知の絆を未来につなげ――河出文庫×ちくま文庫・ちくま学芸文庫合同フェア」でも復刊が行なわれており、河出文庫で、ボルヘスほか『ラテンアメリカ怪談集』鼓直編、寺山修司『青少年のための自殺学入門』の2点、ちくま文庫で荒俣宏『パラノイア創造史』、中島梓『美少年学入門』の2点、合計4点が復刊されています。オリジナルグッズプレゼントの応募期間は終了しましたが、復刊書はまだ入手可能なので、こちらも見逃すことなく購入しておきたいところです。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

柄谷行人書評集』柄谷行人著、読書人、2017年11月、本体3,200円、四六判上製600頁、ISBN978-4-924671-30-0
映画時評集成 2004ー2016』伊藤洋司著、読書人、2017年11月、本体2,700円、四六判上製528頁、ISBN978-4-924671-31-7
現代思想2017年12月臨時増刊号 総特集=分析哲学』青土社、2017年11月、本体1,800円、A5判並製294頁、ISBN978-4-7917-1355-4
ミルクとはちみつ』ルピ・クーア著、野中モモ訳、アダチプレス、2017年11月、本体1,400円、四六変型判並製208頁、ISBN978-4-908251-07-8

★書評紙「週刊読書人」で知られる株式会社読書人さんはこれまで長らく、書店新風会の年度版『棚づくりに役立つ ロングセラー目録』を発売してこられましたが、このたび自社本出版にも進出されることとなりました。その第一弾が『柄谷行人書評集』と、伊藤洋司さんの『映画時評集成 2004―2016』です。前者は「朝日新聞」に掲載された107本の書評(2005~2017年)を中心に、68年から93年に執筆された書評、作家論、文芸時評、さらに1971年から2002年に発表された文庫解説、全集解説など、単行本未収録作51本も併載され、本書のために書き下ろされた「あとがき」が付されています。書評委員となることによって「『世界史の構造』その他の著作を書くのに必要な最新の文献に継続的に目を通すことができた」と述懐しておられます。

★『映画時評集成 2004―2016』は「週刊読書人」連載「映画時評」を中心にまとめられた一書で、映画作家5氏(青山真治、黒沢清、パスカル・フェラン、ギヨーム・ブラック、ペドロ・コスタ)との対談7本、さらに映画本の回顧、青山真治さんと伊藤さんがそれぞれが選んだ「映画ベスト300」などが収録されています。蓮實重彥さんの推薦文が帯に記されています。曰く「その感覚と知性と筆力の幸運な融合を真に四っとすべき批評家が、ここに登場する」と。刊行を記念して、以下のトークイベントが今月末に予定されています。

出演:黒沢清(映画監督)×伊藤洋司(中央大学教授・フランス文学専攻)
日時:2017年11月28日(火)19時~
場所:東京堂ホール(神保町・東京堂書店本店6階)
料金:500円(要予約:東京堂書店 03-3291-5181)

★『現代思想2017年12月臨時増刊号 総特集=分析哲学』は、分析哲学ガイド、分析哲学の実践、分析哲学のハードコア、分析哲学との対話、分析哲学のハイブリディゼーション、の5部構成で、第一線に経つ20名の寄稿を読むことができる必読文献です。各論文の参考文献は、哲学思想書のご担当者ならチェックしておいて損はありません。ちなみに青土社さんは2017年10月27日(金)12:00から2017年12月27日(水)11:59まで期間限定で開催されている、楽天ブックスの「謝恩価格本フェア」(全品45%OFF)に参加されておられます。見逃せません。

★クーア『ミルクとはちみつ』はアダチプレスさんの約1年ぶりの新刊。原題は『milk and honey』で2014年刊。全米100万部のベストセラー詩集で、すでに世界30か国で翻訳されているそうです。ルピ・クーア(Rupi Kaur, 1992-)さんはインド生まれで、幼少期にカナダに移住。『ミルクとはちみつ』は2014年、彼女が21歳の時に自費出版した第一詩集で、翌2015年にはカナダの出版社Andrews McMeel Publishingから再刊されました。「傷つくこと」「愛すること」「壊れること」「癒やすこと」の全4章で、181篇の詩と92点の自筆イラストを収めています。版元さんによれば彼女は160万ものフォロワーがいる「インスタ詩人」の代表的存在なのだそうです。本書の一節「半分は刃で半分はシルク」(30頁)という言葉は、男性にとっての本書を表わす上で最適な表現のように感じます。「あなたは/絶対に/あなたの正直さを/伝わりやすさと引き換えにしてはだめ」(202頁)と彼女は書いています。先月には『太陽と花々』という第二詩集が英米語圏で発売されています。

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by urag | 2017-11-12 20:31 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 11月 03日

注目新刊:ドゥルーズ/ガタリ『カフカ』新訳版刊行、ほか

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カフカ――マイナー文学のために〈新訳〉』ジル・ドゥルーズ/フェリックス・ガタリ著、宇野邦一訳、法政大学出版局、2017年10月、本体2,700円、四六判上製218頁、ISBN978-4-588-01068-2
哲学のプラグマティズム的転回』リチャード・J・バーンスタイン著、廣瀬覚/佐藤駿訳、岩波書店、2017年10月、本体3,600円、四六判上製408頁、ISBN978-4-00-024057-4
科学の本質と多様性』ジル=ガストン・グランジェ著、松田克進/三宅岳史/中村大介訳、文庫クセジュ:白水社、2017年10月、本体1,200円、新書判並製176頁、ISBN978-4-560-51016-2

★新訳『カフカ』は、1978年に叢書ウニベルシタスの第85番として刊行された旧訳(宇波彰/岩田行一訳)以来の、待望の新訳。原著は『Kafka: Pour une littérature mineure』(Minuit, 1975)です。新訳と旧訳の章題節題の比較を列記します。

新訳|旧訳
第1章 内容と表現|内容と表現
 うなだれた頭、もたげた頭|うなだれた頭、挙げられた頭
 写真、音|写真・音
第2章 太りすぎのオイディプス|ふとりすぎのオイディプス
 二重の乗り越え――社会的三角形、動物になること|二重の超越――社会的三角形、動物への変身
第3章 マイナー文学|マイナー文学とは何か
 言葉|言語
 政治|政治
 集団|集団的なもの
第4章 表現の構成要素|表現の構成要素
 愛の手紙と悪魔の契約|愛の手紙と悪魔の契約
 短編小説と動物になること|物語と動物への変化
 長編小説と機械状アレンジメント|長篇小説と機械状鎖列
第5章 内在性と欲望|内在と欲求
 法、罪悪性等々に抗して|法に対する違反、罪など
 過程──隣接的なもの、連続的なもの、無制限なもの|プロセス、隣接・連続・無限定
第6章 系列の増殖|セリーの増殖
 権力の問題|権力の問題
 欲望、切片、線|欲求・分節・線
第7章 連結器|連結器
 女性と芸術家|女たちと芸術家
 芸術の反美学主義|芸術の反=美的主義
第8章 ブロック、系列、強度|ブロック・セリー・強度
 カフカによる建築の二つの状態|カフカによる構築物の二つの状態
 もろもろのブロック、それらの異なる形式と長編小説の構成|ブロック、そのさまざまなかたちと長篇小説の構成
 マニエリズム|マニエリスム
第9章 アレンジメントとは何か|鎖列とは何か
 言表と欲望、表現と内容|言表と欲求、表現と内容

★旧訳では巻末に訳者あとがきと、宇波さんによる論考「カフカの表現機械」が付録として納められていました。新訳では長めの訳者あとがきのみです。宇野さんの訳者あとがきの節題も列記しておくと、1「読みの転換」、2「アンチ・オイディプスとしてのカフカ」、3「リゾーム、強度、マイノリティ」、4「アレンジメントのほうへ」、5「ガタリのプロジェクト」、6「ベンヤミンとカネッティ」の全6節です。「『アンチ・オイディプス』と『千のプラトー』のあいだに刊行された『カフカ』は他の二冊とともに確かに三部作を構成するといえる。〔・・・〕このカフカ論のめざましい発見と、すさまじい思考の生気〔・・・〕カフカ自身の書いたテクストを〈名作〉の囲いから引きずりだし、生々しく蠕動する現在の〈過程〉そのものとして読み直すことを、いまもこの本はうながしているはずだ」と宇野さんは評しておられます。『カフカ』はその独特な言葉遣いと自在な論理展開によって難解とも見える論考ですが、著者二人の思考の中核的主題が次々に現れる非常に濃密なテクストであるだけに、新訳によって新たな読解の鍵が示されたことは読者にとって幸運だと言えるのではないでしょうか。

★『哲学のプラグマティズム的転回』は、アメリカの哲学者バーンスタイン(Richard J. Bernstein, 1932-)による『The pragmatic turn』(Polity, 2010)の全訳です。ローティ夫妻への献辞がある本書では、「プラグマティストたちとともに50余年を生きてきた者として、彼らから学んだことを読者と分かち合うのが狙い」(まえがきより)とされており、以下通り全9章立てとなっています。第一章「パースのデカルト主義批判」、第二章「ジェイムズのプラグマティックな多元主義と倫理的帰結」、第三章「デューイの根源的民主主義のヴィジョン」、第四章「ヘーゲルとプラグマティズム」、第五章「プラグマティズム・客観性・真理」、第六章「経験が意味するもの――言語論的転回のあとで」、第七章「ヒラリー・パットナム――事実と価値の絡み合い」、第八章「ユルゲン・ハーバマスのカント的プラグマティズム」、第九章「リチャード・ローティのディープ・ヒューマニズム」。

★訳者あとがきにはこう書かれています。「いわば新旧のプラグマティストとの対話という体裁で編まれた本書は、著者自身がプラグマティズムの歴史を綴ったものではないと断りながらも、“プラグマティズムの衰亡と分析哲学の台頭”という従来の「物語」を刷新し、米国の哲学について「より精妙で入り組んだ」物語を語る流れに掉さすものとなっている」。なお、バーンスタインの訳書は本書で4点目。既刊書には以下の3点4冊があります。『科学・解釈学・実践――客観主義と相対主義を超えて』(全2巻、丸山高司/木岡伸夫/品川哲彦/水谷雅彦訳、岩波書店、1990年、品切;Beyond Objectivism and Relativism: Science, Hermeneutics, and Praxis, University of Pennsylvania Press, 1983)、『手すりなき思考――現代思想の倫理-政治的地平』(谷徹/谷優訳、産業図書、1997年;The New Constellation: The Ethical-Political Horizons of Modernity/Postmodernity, Polity, 1991)、『根源悪の系譜――カントからアーレントまで』(阿部ふく子/後藤正英/齋藤直樹/菅原潤/田口茂訳、法政大学出版局、2013年;Radical Evil: A Philosophical Interrogation, Polity, 2002)。

★『科学の本質と多様性』は『La science et les sciences』(初版1993年;第二版1995年)の全訳。『理性』(山村直資訳、文庫クセジュ、1956年)、『哲学的認識のために』 (植木哲也訳、法政大学出版局、1996年)に続く、フランスの科学哲学者グランジェ(Gilles-Gaston Granger, 1920-2016)の久しぶりの訳書です。訳者あとがきに曰く「本書は、「科学とは何か」というきわめて大きな問題を巡るほぼ半世紀にわたる著者の議論のエッセンスを、数式等のテクニカルな論述を用いずに分かりやすく記述したものである」と。「「科学の時代」の諸問題」「科学的知識と技術知の相違」「方法の多様性と目標の統一性」「形式科学と経験科学」「自然科学と人間科学」「科学的真理の進歩」の全6章立て。よく詳しくは書名のリンク先をご覧ください。

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★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。

心理学と錬金術 Ⅰ 新装版』C・G・ユング著、池田紘一/鎌田道生訳、人文書院、2017年11月、本体4,200円、A5判上製326頁、ISBN978-4-409-33055-5
心理学と錬金術 Ⅱ 新装版』C・G・ユング著、池田紘一/鎌田道生訳、人文書院、2017年11月、本体4,700円、A5判上製404頁、ISBN978-4-409-33056-2
フトゥーワ――イスラームの騎士道精神』アブー・アブドゥッラフマーン・スラミー著、中田考監訳、山本直輝訳、作品社、2017年11月、本体2,200円、46判上製192頁、ISBN 978-4-86182-649-8

★ユング『心理学と錬金術』2巻本は、新装復刊。初版は1976年のロングセラーで、ユングの代表作である1944年の大著『Psychologie und Alchemie』の全訳です。底本は1951年の第2版。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。原著は全1巻ですが訳本では2分冊です。第Ⅰ巻は第一部「錬金術に見られる宗教心理学的問題」と第二部「個体化過程の夢象徴」を収め、第Ⅱ巻では第三部「錬金術における救済表象」が収められています。図版は全部で270葉。「キリスト教文明と意識・自我万能の西洋合理主義の蔭に、地下水として古代以来連綿と命脈を保ち続け、現代という危機の時代において無意識の諸問題として前面に現れ出てきたところの隠された心の歴史」(訳者あとがきより)をめぐる本書は、脳や心の科学的研究が進展してもなお割り切れないものを残す不可解な〈深み〉を見つめようとする時、何度でも読み直されるのではないかと思われます。

★『フトゥーワ』は帯文に曰く「イスラーム版『武士道』、初翻訳」と。著者のアブー・アブドゥッラフマーン・スラミー(937-1021)はイランのハディース学者。訳者によれば「フトゥーワ」とはアラビア語でもともと「若々しさ」や「漢気(おとこぎ)」を意味するとのことで「弱いものを助け、気前よく振る舞い、名誉を重んずることを良しとする生き方を意味」しているとのことです。イスラーム教における礼節と自己鍛錬、精神修養を端的に教えるもので、たいていは短いアフォリズムのような形式をとり、フトゥーワの何たるかが様々な表現で簡潔に示されたあと、聖典やスーフィーの先師たちの言葉などによる例証が続きます。非常に興味深い一冊です。以下に目次を列記しておきます。

はじめに:『フトゥーワ』邦訳に寄せて(レジェブ・シェンチュルク:イブン・ハルドゥーン大学学長)
フトゥーワ
 第一章「家族、同胞と共に生きること」
 第二章「己を鍛えること」
 第三章「全てをゆだねること」
 第四章「尽くすこと」
 第五章「恩寵のもとに」
解説:『フトゥーワ』とは何か?(山本直輝)
解説:西洋の騎士道と「フトゥーワ」について(中田考)

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by urag | 2017-11-03 22:35 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 10月 30日

注目新刊:ホワイト『実用的な過去』岩波書店、ほか

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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
ヘイドン・ホワイトさんの論文集『実用的な過去』(上村忠男監訳、上村忠男/佐藤啓介/松原俊文/那須敬訳、岩波書店、2017年10月)が発売となりました。『The Practical Past』(North western University Press, 2014)の全訳に、ホワイトさんの最新論考「歴史的真実、違和、不信」(翻訳初出は上村さん訳で『思想』2016年11月号)を付録として収めています。目次詳細や立ち読みは書名のリンク先でご利用になれます。上村さんは同書の翻訳に当たられ、さらに監訳者として解説「ホロコーストをどう表象するか――「実用的な過去」の見地から」と監訳者あとがきも担当されておられます。

★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
中沢研さんの作品集『中沢研』(赤々舎、2017年10月)の巻末に、星野さんが執筆された「形態の明滅――中沢研の作品(2012-2016)」が併載されています。「フレーム」「空間」「軽量化」「形態」「形象」「理性/比率」の全6節で、中沢さんの作品を読み解かれておられます。

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一方、弊社刊行物の書評情報です。8月刊、ポール・ギルロイ『ユニオンジャックに黒はない――人種と国民をめぐる文化政治』(田中東子/山本敦久/井上弘貴訳)の書評が出ました。『MUSIC MAGAZINE』2017年11月号の「RANDOM ACCESS」欄に、石田昌隆さんによる書評が掲載されています。また「図書新聞」2017年11月4日号では1~2面に、酒井隆史さんによる長文の書評「不変と変化、この30年――レイシズムとナショナリズムの不可分な力関係」が掲載されています。また、再掲となりますが、同書をめぐるシンポジウムが来月中旬行われます。


日時:2017年 11月12日(日曜日)13:30〜17:00(開場13:00)
場所:神戸市・海外移住と文化の交流センター
参加費:無料(要・事前申し込み→こちらから)

登壇者:酒井隆史(大阪府立大学人間社会システム研究科教授)、鈴木慎一郎(関西学院大学社会学部教授)、田中東子(大妻女子大学文学部准教授)、山本敦久(成城大学社会イノベーション学部准教授)、井上弘貴(神戸大学国際文化学研究科准教授)

主催:神戸大学国際文化学研究推進センター2017年度研究プロジェクト「ポストBrexitの文化状況――身体・都市・メディア・資本へのグローバルな影響と意味」(代表者:小笠原博毅)
後援:カルチュラル・ スタディーズ学会

内容:「ユニオンジャックに黒はない」。1970年代イギリスの極右勢力が移民排斥のスローガンとしたこの文言は同時に、「だからなんだってんだ!」というカルチュラル・スタディーズの立ち位置を鮮明に表す合言葉ともなった。原著出版後30年の時を経てついに邦訳なる! ディアスポラの響きに誰よりも寄り添ってきた鈴木慎一郎氏と、近代資本主義を地べたから検証している酒井隆史氏をゲストに迎え、訳者3名と徹底的に討論する。

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by urag | 2017-10-30 12:47 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 10月 29日

注目新刊:コペルニクス『完訳 天球回転論』みすず書房、ほか

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完訳 天球回転論――コペルニクス天文学集成』高橋憲一訳/解説、みすず書房、2017年10月、本体16,000円、A5判上製728頁、ISBN978-4-622-08631-4
麻薬常用者の日記〔新版〕Ⅰ天国篇』アレイスター・クロウリー著、植松靖夫訳、国書刊行会、2017年10月、本体2,300円、四六変型判並製320頁、ISBN978-4-336-06215-4
書物の宮殿』ロジェ・グルニエ著、宮下志朗訳、岩波書店、2017年10月、本体2,700円、四六判上製208頁、ISBN978-4-00-061223-4
語るボルヘス――書物・不死性・時間ほか』J・L・ボルヘス著、木村榮一訳、岩波文庫、2017年10月、本体580円、192頁、ISBN978-4-00-327929-8
国語学史』時枝誠記著、岩波文庫、2017年10月、本体900円、320頁、ISBN978-4-00-381504-5
呻吟語(ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)』湯浅邦弘著、角川ソフィア文庫、2017年10月、本体960円、320頁、ISBN978-4-04-400291-6 
幸福論』B・ラッセル著、堀秀彦訳、角川ソフィア文庫、2017年10月、本体800円、384頁、ISBN978-4-04-400339-5

★コペルニクス『完訳 天球回転論』は、高橋憲一さんによる『コペルニクス・天球回転論』(みすず書房、1993年)に続く、待望の完訳版です。既訳は大まかに言うと、『天球回転論』第一巻の抄訳(全14章のうち第11章まで)と関連する未刊論考「コメンタリオルス〔小論〕」と訳者解説の三本立てでしたが、今回の完訳版では『天球回転論』全6巻の全訳と「コメンタリオルス」、そして訳者解説の三本立てです。同書第1巻の既訳には矢島祐利訳『天体の回転について』(岩波文庫、1953年)があります。言うまでもありませんが、『天球回転論』はコペルニクスの没年に刊行された主著で、地動説を闡明した歴史的転換点を為す古典です。高額本ではありますけれども、品切になる前に購入しておきたい書目です。みすず書房さんの近刊書にはスピノザ『知性改善論・短論文』の佐藤一郎さんによる新訳が12月刊行と予告されていて、こちらも鶴首して待ちたい本です。

★クロウリー『麻薬常用者の日記〔新版〕Ⅰ天国篇』は国書刊行会版『アレイスター・クロウリー著作集』第3巻(1987年;原著『The Diary of a Drug Fiend』1922年)の改訳新装版を3分冊で刊行するものの第1回配本。個人的にはギーガーの絵をあしらった旧版の函入本が好きなのですが、今回の新装版は判型もハンディかつスタイリッシュに変更されて、これはこれで美しい一冊です。クロウリー没後70年を記念しての刊行で、第Ⅱ巻「地獄篇」は来月(2017年11月)発売予定、第Ⅲ巻「煉獄篇」は12月とのことです。全巻購読者は特典として特製収納BOXがもらえるとのことで、これは揃えるしかないでしょう。国書刊行会さんでは今月、グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜――マイリンク幻想小説集』(垂野創一郎訳、国書刊行会、2017年10月、本体4,600円、A5判上製450頁、ISBN 978-4-336-06207-9)も刊行されており、こちらも要チェックです。

★次に岩波書店の今月新刊から3点。グルニエ『書物の宮殿』は『Le palais des livres』(Gallimard, 2011)の全訳。書名からすると書物論なのかと連想しますが、実際は少し違います。訳者あとがきで宮下さんは次のように紹介しておられます。「作家人生も終わりに近づいたグルニエが、テーマに応じて、これまで自分が読んできた文学テクストを引いたり、ジャーナリスト・作家としての経験を織り交ぜたりしながら、文学について、書くことについて思いをめぐらせたエッセイだといえる」。目次詳細と立ち読みは書名のリンク先でご利用になれます。特に本書末尾のテクスト「愛されるために」は印象的で、「書くこと〔エクリチュール〕は、ひとつの生きる理由なのだろうか?」という一文から始まります。この一文は帯にも大書されている文言です。

★ブエノスアイレスでの1978年の連続講演集である『語るボルヘス』は特記がないものの、『ボルヘス、オラル』(書肆風の薔薇、1987年;第二版〔新装版〕、水声社、1991年)の改訳版と見ていいかと思います。単行本版と文庫版の違いを列記しておくと、単行本版は原著『Borges, oral』1979年初版を底本とし、ボルヘスの「序言」と5つの講演「書物」「不死性」「エマヌエル・スウェデンボルグ」「探偵小説」「時間」を収めたほか、巻頭にはアベリーノ・ホセ・ポルト(ベルグラーノ大学学長)による「ベルグラーノ大学におけるボルヘス」、巻末にマルティン・ミュラーによる「講演者ボルヘス」、さらに「ボルヘスのプロフィール」と題した無記名の紹介文が訳出され、最後に「訳者あとがき」が置かれています。一方、文庫版は序文と5つの講演(「スウェデンボルグ」が「スヴェーデンボリ」と表記変更されています)を収録したほかは、新たに書き直された訳者による「解説」が巻末に配され、単行本版にあるポルトやミュラーのテクストはありません。底本は原著初版本ではなく、1996年刊の全集第4巻です。

★時枝誠記『国語学史』は、1940年に岩波書店から刊行された単行本の文庫化。凡例によれば底本は改版第14刷(1966年)です。「序説」と「研究史」の二部構成で、第二部は「第一期 元禄期以前」「第二期 元禄期より明和安永期へ」「第三期 明和安永期より江戸末期へ」「第四期 江戸末期」「第五期 明治初年より現代に至る」と立て分けられています。藤井貞和さんが解説「『国語学史』と『国語学原論』」を寄せておられます。巻末に索引あり。時枝誠記(ときえだ・もとき:1900-1967)の文庫で読める著書は、『国語学原論』(上巻、岩波文庫、2007年、品切重版中)と『国語学原論 続篇』(岩波文庫、2008年、在庫僅少)以来のもの。

★角川ソフィア文庫の今月新刊では2点取り上げます。「『菜根譚』と並ぶ混沌の時代の処世訓」との端的な惹句が帯文に書かれた呂坤『呻吟語』は抄訳です。現代語訳、書き下し、原文、解説で構成されています。文庫で読める『呻吟語』抄訳には講談社学術文庫版(荒木見悟訳著)がありましたが、現在品切。「『呻吟語』は、決して過去の遺物ではありません。むしろ今こそ読まれるべき古典です」と今回の編訳本の巻頭に置かれた「はじめに」で湯浅さんは強調しておられます。まったく同感です。現代人の心に深く突き刺さる教えに満ちた素晴らしい本です。

★ラッセル『幸福論』は1952年に刊行され、1970年に改版が出た角川文庫の、久しぶりの新版です。目次や試し読みは書名のリンク先へどうぞ。巻末にはNHK「100分de名著」で『幸福論』を取り上げた小川仁志さんが「復刊に際しての解説」を寄せておられます。「幸福論」という訳題のついた古典的名著にはアランやヒルティ、ヘッセのそれがありますが、類似する書名ではショーペンハウアーの『幸福について』などもあり、ラッセルの本書と比べ読みするのも面白いと思います。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

タラバ、悪を滅ぼす者』ロバート・サウジー著、道家英穂訳、作品社、2017年10月、本体2,400円、四六判上製272頁、ISBN978-4-86182-655-9
『死者の書』の謎』鈴木貞美著、作品社、2017年10月、本体1300円、46判上製280頁、ISBN978-4-86182-658-0
詩集工都――松本圭二セレクション第2巻(詩2)』松本圭二著、航思社、2017年10月、本体3,200円、四六判上製396頁、ISBN978-4-906738-26-7

★『タラバ、悪を滅ぼす者』は、イギリスの桂冠詩人ロバート・サウジー(Robert Southey, 1774-1843)による物語詩『Thalaba the Destroyer』(1801年)の全訳。訳者あとがきによれば、サウジーによる自註のうち、「本文と関連するところ、直接の関係は薄くても内容的に興味深いところは訳出」したとのことです。既訳には高山宏さんによる抄訳「破壊者サラバ」(『夜の勝利――英国ゴシック詞華撰Ⅱ』所収、国書刊行会、1984年)があり、今回の新訳本でも言及があります。訳者の道家さんは「アラブ人でイスラム教徒の主人公タラバがドムダニエルの悪の魔術師の一味と戦う」作品である本作を、「突飛と思われるかもしれないが〔・・・〕話の枠組みが驚くほど『ハリー・ポッター』に類似し、かつ対照的」とも指摘されています。

★『『死者の書』の謎』は27日(金)取次搬入済。章立てを列記しておくと、序章「釈迢空と折口信夫のあいだ」、第一章「『死者の書』の同時代」、第二章「『死者の書』の読まれ方」、第三章「「口ぶえ」とその周辺」、第四章「釈迢空の象徴主義」、第五章「『死者の書』の謎を解く」。巻末には、文献一覧と人名・書名索引が配されています。折口の生誕130周年にあたる本年、『死者の書』は中公文庫版や岩波文庫版があるにもかかわらず角川ソフィア文庫でも今夏刊行されており、今世紀に入ってから川本喜八郎さんによる人形アニメ映画化や、近年の近藤ようこさんによる漫画化が果たされていることは周知のとおりですが、丸ごと一冊を費やした謎解き本はさほど多くありません。

★『詩集工都』はまもなく発売(30日取次搬入)。「松本圭二セレクション」の第2回配本、第2巻です。底本は七月堂より2000年に刊行された単行本で、帯文に曰く「幻の」第二詩集。付属の「栞」には「「詩」を映写すること」と題された佐々木敦さんによる寄稿と、松本さんによる著者解題が掲載されています。後者は前橋文学館特別企画展図録『松本圭二 LET'S GET LOST』からの転載とのことですが、第二詩集の刊行までの紆余曲折に満ちた顛末が赤裸々に記されていて、読む者を戦慄させます。松本さんの執念もさることながら、セレクションに賭ける航思社さんの思いにも凄まじいものを感じます。こうした情念の塊にも似た書物に出会うと、読み手が味読するという次元を超えて、手にしたこの物体に刻まれた言葉たちに読者が視線を食らわれているかのような心地さえします。

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by urag | 2017-10-29 00:23 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 10月 26日

ブックツリー「哲学読書室」に吉田奈緒子さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、ボイル『無銭経済宣言』(紀伊國屋書店、2017年8月)の訳者・吉田奈緒子さんによる選書リスト「お金に人生を明け渡したくない人へ」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む
河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在
岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流
吉田奈緒子(よしだ・なおこ)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ

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by urag | 2017-10-26 19:21 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 10月 22日

注目新刊:スタノヴィッチ『現代世界における意思決定と合理性』太田出版、ほか

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現代世界における意思決定と合理性』キース・E・スタノヴィッチ著、木島泰三訳、太田出版、2017年11月、本体3,800円、A5判並製324頁、ISBN978-4-7783-1597-9
政治の本質』マックス・ヴェーバー/カール・シュミット著、清水幾太郎訳、中公文庫、2017年10月、本体900円、文庫判288頁、ISBN978-4-12-206470-6

★『現代世界における意思決定と合理性』はまもなく発売(25日取次搬入)。『Decision Making and Rationality in the Modern World』(Oxford University Press, 2010)の全訳です。カナダの認知心理学者スタノヴィッチ(Keith E. Stanovich, 1950-)の訳書は『心は遺伝子の論理で決まるのか――二重過程モデルでみるヒトの合理性』(椋田直子 訳、みすず書房、2008年、品切)、『心理学をまじめに考える方法――真実を見抜く批判的思考』(金坂弥起監訳、誠信書房、2016年7月)に続き本書が3冊目。「スタノヴィッチが自身の学問的・思想的営みの核心に据えている「合理性」の概念を、心理学の学生向け教科書として簡潔かつ平易に解説した書物である」と訳者はあとがきに記しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。各章末には「さらなる読書案内」と題したブックリストがあり、巻末にも充実した「参考文献」があるので、書店さんにとっても書棚編集の大きな参考になるはずです。合理性は分野横断的なキーワードですから、ブックフェアにも向いていると思います。

★『政治の本質』は発売済。三笠書房より1939年に刊行された同名単行本の文庫化です。ヴェーバーの「職業としての政治」(1919年)とシュミットの「政治的なるものの概念」(1933年第3版からの翻訳)のカップリングであり、文庫化にあたり、清水幾太郎さんの関連論考2篇「職業としての政治」「名著発掘 カール・シュミット著『政治的なるものの概念』」を収め、苅部直さんによる解説「幻の政治学古典」が付されています。シュミットの「政治的なるものの概念」が文庫化されるのは初めてのことです。原書は版によって異同がありますからいずれ文庫で各版の異同が分かる新訳が出ることを祈りたいです。なお、中公文庫さんの「古典作品の歴史的な翻訳に光を当てる精選シリーズ」である《古典名訳再発見》では本書の前には、トーマス・マン/渡辺一夫『五つの証言』が刊行されましたが、続刊にはヴァレリー『精神の政治学』吉田健一訳、が予定されているそうで、楽しみです。

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★10月20日(金)に代官山蔦屋書店1号館2Fイベントスペースで行われた、記念すべき第1回となる「代官山人文カフェ」にお邪魔してきました。ローリー・アン・ポール『今夜ヴァンパイアになる前にーー分析的実存哲学入門』(名古屋大学出版会、2017年5月)の刊行を記念し、「人生を変える選択にベストアンサーはあるか?」と題して、訳者の奥田太郎さん(南山大学社会倫理研究所教授)と、訳者あとがきに「助力を得た」と謝辞のある宮野真生子さん(福岡大学人文学部准教授)、さらに進行役として『哲学カフェのつくりかた』(大阪大学出版会、2014年)などの共著書がある三浦隆宏さん(椙山女学園大学人間関係学部准教授)がお越しになり、車座になった会場で、参加者との様々なトークのキャッチボールが尽きることなく交わされました。

★書店さんのトークイベントというとどうしても新刊を出した著者のお話を来場者が拝聴するというのがメインとなるわけですが、「代官山人文カフェ」では哲学カフェ形式で、参加者を交えた多様なトークをじっくりと堪能できるのが特徴です。オチのないユルい展開もまた自然なもので、参加者のほとんどは「哲学カフェ」形式は初体験とのことでしたが、結果的には三先生の気さくな人柄とざっくばらんな進行、参加者の肩ひじ張らない発言の数々で、ゆったりと楽しめるひとときでした。ちなみにイベント前には三先生と一緒に参加者が売場を散策する「オーサー・ビジット」も行われており、カフェ形式との相乗効果を生んでいました。「オーサー・ビジット」で三先生が言及された本が買われていく光景は、書き手と読み手の垣根を越えた、読書好き同士ならではのものかと思います。

★新刊を出していないとイベントができない、ですとか、著者が来ないとイベントができない、という発想から自由になれば、書店でのイベントでできることの枠組は大きく広がるだろうな、と感じました。哲学カフェや読書会の楽しさを書店イベントに導入するという代官山蔦屋書店さんの挑戦に、率直な驚きと可能性をかいまみた次第でした。蔦屋さんはお客様の体験を重視した「滞在型書店」を目指しておられるわけなので、「哲学カフェ+オーサー・ビジット」のようなイベントの進化は必然的なのかもしれないなと思います。また、こうした試みにいち早く目を付けて参加された読者の方々に、一出版人として強い感銘を覚えました。

★なお、同店では「代官山人文カフェ」を記念したフェア「人生を変える選択にベストアンサーはあるか?を考えるための50冊」が展開されています。ポールの本や、彼女の師匠であるデイヴィッド・ルイスの『世界の複数性について』(名古屋大学出版会、2016年)をはじめ、興味深いラインナップです。選書コメントの入ったパンフレットも店頭で無料配布されています。

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by urag | 2017-10-22 22:21 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)