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カテゴリ:本のコンシェルジュ( 892 )


2017年 09月 24日

注目新刊:『【「新青年」版】黒死館殺人事件』作品社、など

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★今回は近刊書で日本三大奇書、既刊文庫で中国四大奇書など、力作が続きます。まずはまもなく店頭発売開始となる注目新刊をご紹介します。

【「新青年」版】黒死館殺人事件』小栗虫太郎著、松野一夫挿絵、山口雄也註・校異・解題、新保博久解説、作品社、2017年9月、本体6800円、A5判上製480頁、ISBN978-4-86182-646-7
密告者』フアン・ガブリエル・バスケス著、服部綾乃/石川隆介訳、作品社、2017年9月、本体4,600円、四六判上製548頁、ISBN978-4-86182-643-6
スター女優の文化社会学――戦後日本が欲望した聖女と魔女』北村匡平著、作品社、2017年9月、本体2,800円、四六判上製432頁、ISBN978-4-86182-651-1
子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』ジャンシー・ダン著、村井理子訳、太田出版、2017年9月、本体1,800円、四六判並製416頁、ISBN978-4-7783-1596-2

★作品社さんの新刊3点はまもなく発売(27日取次搬入予定)。『黒死館殺人事件』は言うまでもなく日本三大奇書の一つ。今回の作品社版は「新青年」での連載(1934年4月号~12月号)を底本とした初めての単行本で、松野一夫さんによる初出時の挿絵をすべて収め、山口雄也さんによる解題と2000項目に及ぶ語註、世田谷文学館所蔵の手稿や雑誌掲載時の校正ゲラを照合した校異を配し、新保博久さんによる解説「黒死館愛憎」を巻末に置いた、同作品の未曾有の大冊です。資料編として、同小説に対する所感である、江戸川乱歩「「猟奇耽異博物館」の驚くべき魅力について――小栗虫太郎君を称う」と、甲賀三郎「興奮を覚える」の2篇が併載されています。百科事典を駆使しない限り理解が困難だった数々の歴史的固有名や専門用語の数々に注がついただけでもすごいことです。前日譚の「聖アレキセイ寺院の惨劇」をお読みになりたい方は創元推理文庫版の『日本探偵小説全集(6)小栗虫太郎集』もお買い求めになって下さい。

★バスケス『密告者』は『Los informantes』(ALFAGUARA, 2004)の翻訳。帯文に曰く「父親の隠された真の姿と第二次大戦下の歴史の闇」と。コロンビアの作家フアン・ガブリエル・バスケス(Juan Gabriel Vásquez, 1973-)の小説第三作で、「初めて文学的成功をおさめた作品であると同時に作家としての評価を高めるきっかけとなった作品」(訳者あとがき)とのことです。第二次大戦下のコロンビアにおける敵国人に対する非人道的政策を背景にした作品である本書の「普遍的なテーマ」を訳者は「どの時代のどの状況においても人間の心の奥に常に存在し得る裏切りへの願望、妬み、密告志向」と説明しています。「知っていたはずの身近な人物が、実は思っていたのと違う人であった、それによって自分が今まで見てきて経験したことが覆されるという体験が、さまざまな登場人物に起こるというのがこの小説の一つの面白みである」と。

★『スター女優の文化社会学』は、映画学や歴史社会学、メディア文化論がご専門の新鋭、北村匡平(きたむら・きょうへい:1982-)さんの修士論文から、原節子と京マチ子を論じた二章を大幅に加筆改稿したもの。帯文に曰く「スクリーン内で構築されたイメージ、ファン雑誌などの媒体によって作られたイメージの両面から、占領期/ポスト占領期のスター女優像の変遷をつぶさに検証し、同時代日本社会の無意識の欲望を見はるかす、新鋭のデビュー作」と。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。「集合的欲望としてスクリーンに投影されるスターこそ、潜在的な意識を顕在化させる文化装置――あるいは抽象的な欲望を具現化する媒体(メディウム)なのである」(13頁)。「日本を代表するスター女優の見取り図を描き、原節子と京マチ子を中心としたスターイメージを比較しながら、彼女たちを取り巻く大衆の欲望、価値づけ、実践、まなざしを分析することによって、日本の〈戦後〉を説き明か」(15頁)す試みです。

★太田出版さんの新刊『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』はまもなく発売(25日取次搬入)。『How Not to Hate Your Husband After Kids』(Little, Brown and Company, 2017)の翻訳です。著者のジャンシー・ダン(Jancee Dunn, 1966-)さんはフリーランス・ライターで、同業者の夫がいます。本書はいきなり彼女が夫に激怒する場面から始まります。夫がパソコンでゲームに興じていて、オムツを捨てに行ってくれないからです。そりゃ、怒るでしょうね。「私たちの娘は六歳になり、私とトムはいまだに、終わることのない喧嘩を繰り返している。なぜ私たちは子育てと家事の分担に関して、これほどまでにぶつかり合うのだろう」(13頁)。冒頭から「これはマズい」と思える展開で、読者がもし家庭を持つ男女だとしたら読み進めるのに恐怖や辛さを覚えるでしょうけれども、夫婦間のことや子育てのこと、簡単そうで深刻にもなりがちな家庭生活全般について、うまくやるヒントを与えてくれる好著です。

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★7月~9月の文庫新刊の中から今まで取り上げていなかった注目書をピックアップします。

オイディプス王』ソポクレス著、河合祥一郎訳、光文社古典新訳文庫、2017年9月、本体740円、166頁、ISBN978-4-334-75360-3
君主論』マキャヴェッリ著、森川辰文訳、光文社古典新訳文庫、2017年9月、本体860円、272頁、ISBN978-4-334-75361-0
文明の衝突』上巻、サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社文庫、2017年8月、本体各700円、上320頁/下288頁、ISBN978-4-08-760737-6/760738-3
初稿 倫理学』和辻哲郎著、苅部直編、ちくま学芸文庫、2017年9月、本体1,000円、272頁、ISBN978-4-480-09811-5
アマルティア・セン講義――グローバリゼーションと人間の安全保障』アマルティア・セン著、加藤幹雄訳、ちくま学芸文庫、2017年9月、本体1,000円、192頁、ISBN978-4-480-09819-1
貧困と飢饉』アマルティア・セン著、黒崎卓/山崎幸治訳、岩波現代文庫、2017年7月、本体1,540円、448頁、ISBN978-4-00-600366-1
クァジーモド全詩集』河島英昭訳、岩波文庫、2017年7月、本体1,070円、448頁、ISBN978-4-00-377021-4
プレヴェール詩集』小笠原豊樹訳、岩波文庫、2017年8月、本体840円、304頁、ISBN978-4-00-375171-8
ヨーロッパの昔話――その形と本質』マックス・リュティ著、小澤俊夫訳、岩波文庫、2017年8月、本体970円、320頁、ISBN978-4-00-342291-5
ヨーロッパの言語』アントワーヌ・メイエ著、西山教行訳、岩波文庫、2017年9月、本体1,320円、560頁、ISBN978-4-00-336991-3
比較史の方法』マルク・ブロック著、高橋清徳訳、講談社学術文庫、2017年7月、本体600円、136頁、ISBN978-4-06-292437-5
暗号大全――原理とその世界』長田順行著、講談社学術文庫、2017年7月、本体1,300円、448頁、ISBN978-4-06-292439-9
梁塵秘抄』西郷信綱著、講談社学術文庫、2017年7月、本体980円、272頁、ISBN978-4-06-292440-5
道元「宝慶記」 全訳注』大谷哲夫訳、講談社学術文庫、2017年8月、本体1,150円、384頁、ISBN978-4-06-292443-6
十二世紀のルネサンス――ヨーロッパの目覚め』チャールズ・ホーマー・ハスキンズ著、別宮貞徳/朝倉文市訳、講談社学術文庫、2017年8月、本体1,280円、424頁、ISBN978-4-06-292444-3
宗教改革三大文書 付「九五箇条の提題」』マルティン・ルター著、深井智朗訳、講談社学術文庫、2017年9月、本体1,300円、440頁、ISBN978-4-06-292456-6
水滸伝(一)』井波律子訳、講談社学術文庫、2017年9月、本体1,850円、720頁、ISBN
978-4-06-292451-1
新校訂 全訳注 葉隠(上)』菅野覚明/栗原剛/木澤景/菅原令子訳・注・校訂、講談社学術文庫、2017年9月、本体1,750円、656頁、ISBN978-4-06-292448-1

★光文社古典新訳文庫の今月新刊は、同文庫で初めてのソポクレスとマキャヴェッリ。現在も入手可能な文庫で読める『オイディプス王』の既訳には、藤沢令夫訳(岩波文庫)や、福田恒存訳(新潮文庫)、高津春繁訳(ちくま文庫『ギリシア悲劇(Ⅱ)ソポクレス』所収)があります。今回の新訳はサー・リチャード・ジェップの対英訳注本を底本としており、ギリシア語原典を参照しつつも各種の英訳本や注釈書を比較検討して成ったものである点がユニーク。巻末には戦後日本での上演がリストアップされています。『君主論』の底本はエイナウディより1995年に刊行されたジョルジョ・イングレーゼ編の新版。既訳文庫には、池田廉訳(中公文庫BIBLIO)、大岩誠訳(角川ソフィア文庫)、河島英昭訳(岩波文庫)、佐々木毅訳(講談社学術文庫)があり、比較して読むと面白いと思います。同文庫の10月新刊にはトロツキー『ロシア革命とは何か』森田成也訳、などがエントリーされています。

★集英社文庫の先月新刊では『文明の衝突』(親本は1998年刊)がようやく文庫化されました。親本通りに全1巻にした方が通読しやすかった気がしますが、重くなるのを避けたのでしょう。下巻の巻末には政治学者の猪口孝さんによる解説を収録。集英社文庫ではハンチントンの『分断されるアメリカ』が本書と同じ鈴木主税さんによる訳本が今年1月に文庫化されています(親本は2004年刊)。世間ではハンチントンの分析に賛否があるとはいえ、「衝突」がいよいよ目立ってきた世界情勢を読み解く上での現代の古典が文庫で読めるようになったことは歓迎したいです。

★ちくま学芸文庫の今月新刊では全集未収録の初稿「倫理学」(1931年)と、センの講義録を購入。本当は先月刊行の『藤原定家前歌集』上下巻(久保田淳校訂・訳)も購読したかったところですが財布が追随せず。『初稿「倫理学」』は「随筆「面とペルソナ」、講演「私の根本の考」および座談会「実存と虚無と頽廃」を収録した文庫オリジナル編纂」(カヴァー紹介文より)。初稿を出発点とした大著『倫理学』や『人間の学としての倫理学』は岩波文庫で読めます。『グローバリゼーションと人間の安全保障』はちくま学芸文庫で昨年末に発売された『経済学と倫理学』に続くセン講義本の第二弾で、2002年の来日講演3本と2000年の論文1本を収録。日本経団連出版より2009年に刊行されたものの文庫化です。来月新刊ではちくま文庫でレオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』垂野創一郎訳など、学芸文庫では中村元編『原典訳 原始仏典』上下巻、吉田真樹監訳『定本 葉隠〔全訳注〕』上巻、『チョムスキー言語学講義 言語はいかにして進化したか』渡会圭子訳、などが予定されています。

★岩波現代文庫でも先々月にセンの著書『貧困と飢饉』(2000年)が文庫化。原著は1981年の『Poverty and Famines: An Essay on Entitlement and Deprivation』です。巻末注記によれば、文庫版刊行にあたり「訳文を改訂し、単行本刊行後の研究動向を踏まえて「訳者解説」に加筆を施した」とのことです。引用や参照する場合はこの文庫版を現時点での決定版と見なすべきです。

★創刊90年を迎える岩波文庫のここ三ヶ月の新刊からは、クァジーモドとプレヴェールの二つの詩集と、リュティとメイエの研究書を選択。流行に左右されない同文庫の渋さが光ります。クァジーモドは筑摩書房版(1996年)の文庫化。プレヴェールは巻末の編集付記によれば、小笠原訳の各版(ユリイカ、河出書房、マガジンハウス)所収のすべての詩篇と、同氏訳の昭森社版『唄のくさぐさ』所収の七篇にシャンソン「枯葉」を追加して文庫化したもので、文庫化にあたりマガジンハウス社版訳者解説と、谷川俊太郎さんのエッセイ「ほれた弱み――プレヴェールと僕」(初出「ユリイカ」1959年8月)を併録しています。リュティ『ヨーロッパの昔話』は岩崎美術社版(1969年)の文庫化で、訳文全体が見直されています。底本は原書第七版(1981年;初版1947年)で、凡例によれば「原注は大幅に割愛し、必要最小限を訳者注に盛り込んだ」とのことです。訳者の小澤さんはリュティの晩年作『昔話 その美学と人間像』(岩波書店、1985年)もかつて上梓されており、こちらも文庫化されて良いのではと祈るばかりです。

★メイエ『ヨーロッパの言語』の底本は、1928年に刊行された『Les langues dans l'Europe nouvelle』の第二版(初版は1918年)。文庫オリジナルの新訳です。訳者あとがきによれば「テニエールが執筆したヨーロッパの言語統計は割愛」されています。同書には古い既訳『ヨーロッパの諸言語』(大野俊一訳、三省堂、1943年)があり、大野氏の業績については訳者解説「よみがえるメイエ」で触れられています。岩波文庫では今月から乱歩の少年探偵団シリーズが文庫化され始めており、いよいよかと感慨深いものがあります。来月の新刊では時枝誠記『国語学史』や『語るボルヘス』(木村榮一訳)が予告されています。

★ここしばらくの充実ぶりから目が離せないのは講談社学術文庫。まず7月刊より3点挙げると、ブロックの高名な講演録『比較史の方法』(原著1928年)は創文社版(1978年)の文庫化。訳文・注・訳者解説が改訂され、「学術文庫版への付記」が付け足されています。『暗号大全』は現代教養文庫版(1985年;初版はダイヤモンド社より1971年)の再刊。西郷信綱『梁塵秘抄』はちくま学芸文庫版(2004年;初版は筑摩書房より1976年)の再刊。巻末に三浦佑之さんによる解説「西郷信綱のことばと感性に遊ぶ」が収められています。次に8月刊より2点。『道元「宝慶記」 全訳注』は永平寺の機関誌「傘松」誌に連載(2011年5月号~2013年1月号)されたのをまとめたもの。訳注者の大谷さんは巻頭の「はじめに」で、『正法眼蔵』や『永平広録』につまづいた読者に「まずは『宝慶記』の精読を勧めたい」とお書きになっています。同記は若き道元が宋の如浄に拝問した貴重な記録です。ハスキンズ『十二世紀のルネサンス』はみすず書房版(1989年)の文庫化。原著は1927年刊。巻末に「文庫版あとがき」が加えられています。

★最後に同文庫の9月新刊より重量級の新訳3点。ルター『宗教改革三大文書』は文庫版オリジナルの新訳。1520年に発表された『キリスト教界の改善について』(8月刊)、『教会のバビロン捕囚について』(10月刊)、『キリスト者の自由について』(12月刊)に加え、「贖宥の効力を明らかにするための討論〔九五箇条の提題〕」を収録。三大文書をまとめて収めた文庫は本書が初めてです。井波律子さんによる訳し下ろし『水滸伝』は全5巻予定。第一巻では、冒頭の「引首」から「第二十二回」までを収録。中国四大奇書のうち井波さんは『三国志演義』の現代語訳をすでに上梓されており、同文庫より全4巻本が出ています。井波さんの精力的なご活躍には瞠目するばかりです。『新校訂 全訳注 葉隠』が全3巻予定。凡例によれば本文は佐賀県立図書館所蔵の天保本(杉原本)を底本とし、餅木本や小城本などにより校訂したとのことです。上巻には「聞書第一」から「聞書第三」を収録。『葉隠』はちくま学芸文庫でも来月より新たな訳注本が発売予定なので、読者の特権として当然両方の版を購読したいです。

★講談社学術文庫の10月10日発売新刊には、『水滸伝(二)』、ヘルダー『言語起源論』宮谷尚実訳、フランソワ・ジュリアン『道徳を基礎づける――孟子vs. カント、ルソー、ニーチェ』中島隆博/志野好伸訳、などが、また11月10日発売新刊には、『水滸伝(三)』、ホラーティウス『書簡詩』高橋宏幸訳、秦剛平『七十人訳ギリシア語聖書 モーセ五書』などが予告されています。モーセ五書とは「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」の5つですが、秦さんによるこれらの日本語訳はすべて河出書房新社より2002年~2003年に刊行されていますので、これらを一冊にまとめるという話ならば素晴らしい企画と感嘆せざるをえません。すごいです。

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by urag | 2017-09-24 23:20 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 18日

注目新刊:ハーマン『四方対象』人文書院、ほか

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★まず、まもなく発売となる新刊から注目書を取り上げます。

四方対象――オブジェクト指向存在論入門』グレアム・ハーマン著、岡嶋隆佑監訳、山下智弘/鈴木優花/石井雅巳訳、人文書院、2017年9月、本体2,400円、4-6判並製240頁、ISBN978-4-409-03094-3
ダスクランズ』J・M・クッツェー著、くぼたのぞみ訳、人文書院、2017年9月、本体2,700円、4-6判上製240頁、ISBN978-4-409-13038-4
PANA通信社と戦後日本――汎アジア・メディアを創ったジャーナリストたち』岩間優希著、人文書院、2017年9月、本体3,200円、4-6判上製326頁、ISBN978-4-409-24118-9
ゲンロン6』ゲンロン、2017年9月、本体2,400円、A5判並製366頁、ISBN978-4-907188-22-1
トラクターの世界史――人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』藤原辰史著、中公新書、2017年9月、本体860円、新書判288頁、ISBN978-4-12-102451-0

★ハーマン『四方対象』はまもなく発売。『The Quadruple Object』(Zero Books, 2011)の全訳で、グレアム・ハーマン(Graham Harman, 1968-)の単独著の本邦初訳であり、昨今日本でも注目を浴びている「対象(オブジェクト)指向存在論(OOO:Object-Oriented Ontology)」の第一人者による入門書です。目次は書名のリンク先をご覧下さい。本書では、二種類の対象(実在的対象/感覚的対象)と、二種類の性質(実在的性質/感覚的性質)の、四つの極からなる対象指向哲学の基礎的なモデルが提示されます。「四つの極の組み合わせのうち、一つの対象の極と一つの性質の極の間の特殊な緊張関係を含むものには四つあり、それらは時間、空間、本質、そして形相と名付けられ」ています(191頁)。ハーマンの整理は、フッサールによる「事象そのものへ」向かう哲学的思惟の更新と、ハイデガーの「四方界」に倣う包括的存在論の刷新を図るものと見えます。小さな著作ですが、それだけに論点が凝縮されており、思想地図の現在だけでなくその未来をも展望する上でひとつの重要な里程標になっていると感じます。

★原著を刊行した版元Zero BooksはJohn Hunt Publishingのインプリントで、ハーマンのほかに、アルベルト・トスカーノ、ブルーノ・ラトゥール、ユージン・サッカー、グラント・ハミルトン(ややこしいですが、イアン・ハミルトン・グラントとは別人)、マウリツィオ・フェラーリス、スティーヴン・シャヴィロや、『四方対象』の序文で名前が特記されているマーク・フィッシャーやタリク・ゴダール、等々の著書を刊行しており、現代思想系ではもっとも活動的な出版社のひとつです。新刊を継続的にチェックしておけば何かしらの出会いが期待できるでしょう。なお、ハーマンのここ最近の著書には『Immaterialism: Objects and Social Theory』(Polity, 2016)や、マヌエル・デランダとの共著『The Rise of Realism』(Polity, 2017)などがあり、さらに近刊予定では、その名もズバリ『Object-Oriented Ontology: A New Theory of Everything』(Penguin, 2018)という著書が来春発売予定と聞きます。ハーマンの動向は今後も注目を浴びそうで、特にこの近刊書はおそらく日本語でも翻訳が出るのではないかと思われます。

★本書のほか人文書院さんよりまもなく発売となる新刊には、クッツェー『ダスクランズ』と、岩間優希『PANA通信社と戦後日本』があります。『ダスクランズ』はクッツェーのデビュー作(1974年)の新訳。既訳には、赤岩隆訳(『ダスクランド』アフリカ文学叢書、スリーエーネットワーク、1994年)があります。新訳本のシンプルかつ力強い装丁は、藤田知子さんによるもの。『PANA通信社と戦後日本』は中部大学専任講師の岩間優希(いわま・ゆうき:1982-)さんの単独著第一作で(編著書としては2008年に人間社から刊行された『文献目録 ベトナム戦争と日本――1948~2007』があります)、「戦後アジアに誕生したPANA通信社の歴史を、関わったジャーナリストらのライフヒストリーを軸にしながら執筆」(あとがきより)したもの。帯文に「敗戦から朝鮮戦争、安保闘争、東京オリンピック、ヴェトナム戦争の時代――個性的なジャーナリストたちを軸に描く戦後史」と。

★『ゲンロン6』は一般書店では9月23日(土)発売開始。目次詳細は誌名のリンク先をご覧下さい。メイン特集は「ロシア現代思想Ⅰ」。帯文に曰く「革命100周年。資本主義と宗教回帰のあいだで揺れるもうひとつの現代思想」と。ドゥーギン(1962-)、マグーン(1974-)らの論考のほか、折り込み付録として、1991年から今日に至る年表「ロシア現代思想史見取図」や、「ロシア現代思想重要人物10人 2017年版」が付いているのが良いです。今のところボリス・グロイス(1947-)くらいしか訳書はありませんが、来年1月発売予定の次号でも同特集の第2弾が組まれるので、今後の盛り上がりを期待したいです。小特集「遊びの哲学」ではスティグレールの来日講演「有限のゲーム、無限のゲーム」(2017年5月27日、アンスティテュフランセ東京)や、東浩紀さんによる特別インタヴューなどを読むことができます。また、同号では第1回ゲンロンSF新人賞を受賞した、高木刑(たかぎ・けい:1982-)さんによる創作「ガルシア・デ・マローネスによって救済された大地」が掲載されています。註だけを見ていると『中世思想原典集成』『キリスト教神秘主義著作集』『科学の名著』『世界の名著』のほか、ギリシア哲学や聖書など、まるで学術論文のようで興味深いです。

★『トラクターの世界史』はまもなく発売。「トラクターがそれぞれの地域にもたらした政治的、文化的、経済的、生態的側面について考察し、20世紀という時代の一側面を、ただし、けっして見逃すことができない重要な側面を追っていく」(vii頁)ユニークな試みで、トラクターによる大地の束縛からの人間の解放と、今なお進行中であるその変化を描出しつつ、「農業生産の機械化・合理化と農地内物質循環の弱体化という二つの決定的な影響を〔・・・〕20世紀の人間たちにもたらした」(iii頁)ことの帰結を分析しています。新書大賞にエントリーしそうな予感がする良作です。目次を転記しておきます。

まえがき
第1章 誕生――革新主義時代のなかで
 1 トラクターとは何か
 2 蒸気機関の限界、内燃機関の画期
 3 夜明け――J・フローリッチの発明
第2章 トラクター王国アメリカ――量産体制の確立
 1 巨人フォードの進出――シェア77%の獲得
 2 農機具メーカーの逆襲――機能性と安定性の進化
 3 農民たちの憧れと憎悪――馬への未練
第3章 革命と戦争の牽引――ソ独英での展開
 1 レーニンの空想、スターリンの実行
 2 「鉄の馬」の革命――ソ連の農民たちの敵意
 3 フォルクストラクター――ナチス・ドイツの構想
 4 二つの世界大戦下のトラクター
第4章 冷戦時代の飛躍と限界――各国の諸相
 1 市場の飽和と巨大化――斜陽のアメリカ
 2 東側諸国での浸透――ソ連、ポーランド、東独、ヴェトナム
 3 「鉄牛」の革命――新中国での展開
 4 開発のなかのトラクター――イタリア、ガーナ、イラン
第5章 日本のトラクター――後進国から先進国へ
 1 黎明――私営農場での導入、国産化の要請
 2 満州国の「春の夢」
 3 歩行型開発の悪戦苦闘――藤井康弘と米原清男
 4 機械化・反機械化論争
 5 日本企業の席捲――クボタ、ヤンマー、イセキ、三菱農機
終章 機械が変えた歴史の土壌
あとがき
参考文献
関連年表
索引

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★次に発売済の新刊の中から注目書をいくつか書き出します。

近代の〈物神事実〉崇拝について――ならびに「聖像衝突」』ブリュノ・ラトゥール著、荒金直人訳、以文社、2017年9月、本体2,600円、四六判上製248頁、ISBN978-4-7531-0342-3
こわいもの知らずの病理学講義』仲野徹著、晶文社、2017年9月、本体1,850円、四六判並製376頁、ISBN978-4-7949-6972-9
台湾人の歌舞伎町――新宿、もうひとつの戦後史』稲葉佳子/青池憲司著、紀伊國屋書店、2017年9月、本体1,800円、B6判並製249頁、ISBN978-4-314-0115108
書物の時間――書店店長の思いと行動』福嶋聡著、多摩デポブックレット/けやき出版発売、A5判並製54頁、ISBN978-4-87751-574-4
新約聖書 訳と註 第七巻 ヨハネの黙示録』田川建三訳著、作品社、2017年8月、本体6,600円、A5判上製874頁、ISBN978-4-86182-419-7

★ラトゥール『近代の〈物神事実〉崇拝について』は『Sur le culte des dieux faitiches suivi de Iconoclash』(Éditions La Découverte, 2009)の全訳です。ラトゥールは受容と活躍の場が英米語圏に広がっているためか、ファーストネームBrunoを「ブルーノ」と表記されることが日本でも多かったのですが、当訳書ではフランス語の発音により忠実に「ブリュノ」と表記されています。「近代の〈物神事実〉崇拝について」と「聖像衝突」の二篇を収めており、巻末の訳者解題「超越の制作」では本書の端的な要約が示されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。「物神事実」というのは本書の鍵となるラトゥールの造語で、訳者は次のように説明しています。「「事実」(fait/fact)という言葉と「物神」(fétiche/fetish)という言葉は、「なされたこと」、「作られたもの」を意味する同じ語源を有しながらも、前者が「外部の実在」という超越的側面を強調するのに対して、後者は「人間の製作物」への「主観的な信仰」という二重の内在性を強調している。しかしこの二つの側面は実践においては結び付いているとラトゥールは考え、この結び付きを示すために、「物神事実」(faitiche/factish)という造語を導入する」と。

★ラトゥールはこう書いています。「あなたたちの諸々の物神事実は、破砕されているのにも拘らず修繕されている。そしてそれは、理論が破砕と修復という二重の形式のもとでしか捉えることのできないものを、実践へ送り返すという仕方で為されている。これが我々の伝統、物神事実の破砕者と修復者の伝統であり、これが我々の祖先、あらゆる系族に対してそう為されるように、尊敬し過ぎずに尊敬すべき祖先である」(81頁)。「自分の為すところによって超過されておらず、自らの創造物を支配しているような」(144頁)創造者などいないと彼は教えます。「技師が機械を支配するだろう、〔・・・〕プログラマーが自作のプログラムを、創造者が自分の創造物を、著者が自分の文章を〔・・・〕支配するだろう。――まさか、そうお考えだろうか」(同)。一方、911以後に発表された「聖像衝突」でラトゥールは聖像破壊をめぐる五つの類型を提示しており、「脆く、弱々しく、脅かされている」(212頁)現代人への処方を示唆しています。近代的思考による人間観や社会観への呪縛に対する、解毒作用をラトゥールの著作は示しているように思えます。

★『こわいもの知らずの病理学講義』は、大阪大学大学院医学系研究科の病理学教授、仲野徹(なかの・とおる:1957-)さんによる「正しい病気の知識」(「はじめに」)について書き下ろした本です。「いろいろな病気がどのようにできてしまうのか、について、できるだけやさしく、でも、おもしろく」(同)書かれています。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。本書の後半は、「病の皇帝」であるガンの総論編と各論編です。ガンの罹患率は20代後半頃から右肩上がりになるものの、「女性ではだらだらと上昇していくのに対して、男性では、50歳代から急激に増加」(211頁)すると言います。「30歳代後半から40歳代までは女性の方が多く、60歳代以降は男性の方が女性より顕著に高率に」(同)とのことなので、気になる方はぜひ店頭で本書を手に取ってみて下さい。思うに本書は医学書コーナーに留めておけばいい本なのではなくて、ジャンルを問わず異なる種類の本の中に突然面陳しておく方が読者との出会わせ方としては有効だと思います。著者の書く通り、ひとは「一生の間、一度も病気にならないことはありえません」(18頁)から。

★ちなみに晶文社さんでは6月に刊行された『日本の覚醒のために――内田樹講演集』がとてもよく売れているそうです。まえがきで内田さんはこう書いておられます。「この本のメッセージは一言で言えば「もう起きなよ」という呼びかけです」(8頁)。米国の「属国」から「国家主権と国土を回復する」ための「目覚め」が問われています。「72年かけてじりじりと失っていった主権なんだから、今さら起死回生の大逆転というようなシンプルで劇的なソリューションがあるはずもない。僕たち日本人は長い時間をかけて、日々のたゆみない実践を通じて、こんな「主権のない国」を作りあげてしまった。だから、主権を回復するためには、それと同じだけの時間をかけて、同じような日々のたゆみない実践を通じて働くしかない」(8~9頁)と。内田さんはこうも書きます、「国語力というのは創造する力のことです。自力で言語を豊かで、多様で、味わい深いものに変成してゆく力のことです。外国語では表現できないもの、他言語において代替する概念がないような概念を創造する力です。自分たちの種族のコスモロジーの「源泉」にまで遡航して、そこから新しい生命を汲み出す力です」(226頁)。これは2013年11月の全国高校国語教育研究連合会での講演で語られたことの一部ですが、出版人の胸に刻む言葉でもあるように思われます。

★『台湾人の歌舞伎町』は映画監督の青池さんと、NPO法人理事で新宿区多文化共生まちづくり会議の委員をつとめる稲葉さんの共著。新宿区は現在、住民の8人に1人が外国人で、出身国は120か国以上にのぼると言います。本書は8年もの取材をもとに、戦後のヤミ市「新宿西口マーケット」から出発し、焼野原から興行街となった歌舞伎町を支えた台湾人華僑の歴史を、証言や写真とともに綴ったものです。歌舞伎町初の映画館「地球座」、名曲喫茶の「スカラ座」や「らんぶる」、歌声喫茶「カチューシャ」、中華料理店「東京大飯店」、総合アミューズメントビル「風林会館」など、彼らが手がけた数多くの店舗や施設は「じゅく文化」形成に影響を少なからぬ及ぼした様子が窺えます。歌舞伎町を捉え直す上で非常に興味深い一書です。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。

★『書物の時間』は、特定非営利活動法人「共同保存図書館・多摩」による第25回多摩デポ講座(2016年2月27日)でのジュンク堂書店難波店の福嶋聡さんによる講演の書籍化です。目次を列記しておきます。

はじめに
1 私はなぜ、図書館にコミットするのか?
2 図書館がどう見えているか
3 出版界と図書館の不毛で不可解な抗争
4 書物の持つ時間
5 具体的な連携の実践こそが大事
6 紙の本は、滅びない
7 本と目が合う
8 ヘイト本とクレーム
9 民主主義は危ない
10 電子図書館のアポリア
終わりに――再生産が続くこと、書店に行くこと
巻末注 「図書館の自由」とは
本書は多摩デポブックレットの第11弾ですが、既刊書には図書館を来し方と未来を考える上での必読講演が揃っています。

★『新約聖書 訳と註 第七巻 ヨハネの黙示録』は田川さん訳「新約聖書」全七巻(全八冊)の完結最終配本。本文訳が40頁(7~47頁)、訳註が800頁以上あり(51~858頁)、最後に「解説と後書き」(859~874頁)が続きます。綿密なテクスト検証の結果、「ヨハネの黙示録」には原著者と、自身の文書を大量に挟み込んだ編集者、この二人の書き手がいると田川さんは指摘します。編集者が執筆したであろう文書は二文字下げで組まれています。有名な「私はアルファであり、オメガである」(本書では「我はアルファなり、オメガなり」)は編集者が書き足したものとされます。衝撃的です。2017年の人文書出版における事件として記憶されることになるでしょう。これらの新説については巻末の解説に詳しく述べられていますが、田川さんのウェブサイトでも別稿を読むことができます。なお後書きによれば、全七巻の本文訳のみをまとめた「新訳聖書」も続刊予定であるとのことです。

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by urag | 2017-09-18 23:53 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 12日

ブックツリー「哲学読書室」に河野真太郎さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『戦う姫、働く少女』(堀之内出版、2017年7月)の著者・河野真太郎さんによる選書リスト「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む
河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在

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by urag | 2017-09-12 01:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 11日

『アイデア』誌最新号の特集「ブックデザイナー鈴木一誌の仕事」

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★鈴木一誌さん(森山大道さんとの共著:『絶対平面都市』)
出版人にとっての「眼のオアシス」である『アイデア』誌の、今月発売されたばかりの第379号で「ブックデザイナー鈴木一誌の仕事」という素晴らしい特集が組まれています。版元紹介文に曰く「1970年代の杉浦康平との仕事、1980年代からの映画本/写真集/ニュー・アカデミズム周辺のデザイン、1990年代の「ページネーション・マニュアル」や『知恵蔵』裁判などの活動、2000年代のデザイン誌『d/SIGN』編集……。40年に渡る鈴木一誌の仕事を見通す、初めての特集」と。鈴木さんのアトリエ「蕣居(しゅんきょ)」の美しいパノラマ写真や、40年のキャリアを振り返る貴重なロング・インタヴュー、手掛けられてきた書籍や雑誌の数々の書影など、見応え・読み応え充分の特集です。郡淳一郎さんと長田年伸さんが企画・構成されたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。特集外でも、大田暁雄さんによる論考「アトラス考――生態学的世界観の視覚化」の第2回「ポール・オトレの『普遍文明アトラス』とアトラス・ミュージアム」や、太田和彦さんによる「日本酒のラベルデザイン」をはじめ、とても充実しています。

なお、鈴木さんのエッセイを集成した『ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見』が7月に『アイデア』の発行発売元である誠文堂新光社さんから発売されています。2005年から2016年までの12年間にわたって日常や社会の諸相に巡らせた思索の軌跡、とのことです。特集号とともに必読読の一冊。

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by urag | 2017-09-11 14:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 10日

注目新刊:千葉雅也『動きすぎてはいけない』が文庫化、ほか

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世界最古の物語――バビロニア・ハッティ・カナアン』Th・H・ガスター著、矢島文夫訳、東洋文庫884、2017年9月、B6変型判上製函入322頁、ISBN978-4-582-80884-1
絵ときSF もしもの世界 復刻版』日下実男著、復刊ドットコム、2017年9月、本体3,700円、B6判上製218頁、ISBN978-4-8354-5526-6
1990年代論』大澤聡編著、河出ブックス、2017年9月、本体1,800円、B6判並製336頁、ISBN978-4-309-62506-5
動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』千葉雅也著、河出文庫、2017年9月、本体1,000円、480頁、ISBN978-4-309-41562-8
吉本隆明全集13[1972-1976]』吉本隆明著、晶文社、2017年9月、本体6,800円、A5判変型上製706頁、ISBN978-4-7949-7113-5

★ガスター『世界最古の物語』は東洋文庫第884弾。現代教養文庫版(1973年、社会思想社)の再刊です。訳者は2006年に死去されており、巻末の著者紹介「セオドア・ヘルツル・ガスター」は池田裕さんが執筆されています。本書はエリアーデの序文(仏訳版より)のほか、副題にある三地域の古い神話や説話を収録しています。ハッティというのはヒッタイトのこと。こうした基本書の復刊は見逃せません。東洋文庫の次回配本は11月、『漢京識略』とのことです。

★『絵ときSF もしもの世界 復刻版』は学研「ジュニアチャンピオンコース」の復刊第2弾。親本は1973年刊行。税別3700円とお高いですが、ど真ん中世代である40代後半から50代前半の大人にとっては思い出を買う値段として考えれば安いものです。巻頭カラー劇画「生きていた石像」(画=田中善之助)のインパクトといい、数々の「もしも」の恐ろしさやワクワク感といい、人知を超えたものへの感性をくすぐられた70年代サブカルチャーの「昭和遺産」とも言うべきものを感じます。続刊が楽しみです。

★『1990年代論』は大澤さんの説明によれば「1990年代の日本社会を多角的に検討したアンソロジー」で「社会問題編」と「文化状況編」の二部構成。10本ずつの論考とエッセイで「政治や社会、運動、宗教から、マンガやアニメ、ゲーム、音楽にいたるまで、実に多岐にわたる合計20のジャンルの考察」を読むことができます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「巻頭にはノンジャンルの総合的な共同討議を、各パートの締めくくりにはインタビューを掲載」し、巻末には年表とブックガイドが配されています。

★『動きすぎてはいけない』は2013年に刊行された千葉さんのデビュー作の待望の文庫化です。文庫化にあたり巻末に、大阪大学特任助教の小倉拓也さんによる「文庫版解説 読解の手引」(456~475頁)が付されています。帯文はこうです「接続過剰〔つながりすぎ〕の世界に風穴を開ける「切断の哲学」」と。「世界の本当の姿は〔・・・〕渾然一体のめちゃくちゃではない。切断された、区別された、分離された、複数のめちゃくちゃによるコラージュである。世界には、いたるところに、非意味的切断が走っている」(68頁)。

★『吉本隆明全集13[1972-1976]』はまもなく発売。第Ⅱ期の第2回配本で通算では第14回配本。帯文に曰く「はじめて海外の文学者たちを論じた『書物の解体学』、長くその資質にひかれて論じてきた「島尾敏雄」のほか、1972年から1976年の間に発表された詩や散文を収録」と。単行本未収録は二篇とのことで、巻末解題に「本全集にはじめて収録された」とある、「高村光太郎の存在」(筑摩書房版『高村光太郎全集』第二刷内容見本;『吉本隆明資料集93』にも収録)と、第12巻の補遺「掛率増加のお知らせ」(『試行』取扱書店向け文書、1972年)のことかと思われます。付属の「月報14」は、宇佐美斉「並みの下の思想を」、橋爪大三郎「気配りのひとの気骨」、ハルノ宵子「党派ぎらい」を掲載。「父に刷り込まれたのは、「群れるな。ひとりが一番強い」なのだ」というハルノさんの証言が印象的です。次回配本は12月、第14巻とのことです。

★先月刊行の単行本の中からいくつか振り返ります。

全体主義の起原(1)反ユダヤ主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、みすず書房、本体4,500円、四六判上製360頁、ISBN978-4-622-08625-3
全体主義の起原(2)帝国主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大島通義/大島かおり訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六版上製424頁、ISBN978-4-622-08626-0
全体主義の起原(3)全体主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎/大島かおり/矢野久美子訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六判上製512頁、ISBN978-4-622-08627-7
エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、山田正行解説、みすず書房、2017年8月、本体4,400円、四六判上製488頁、ISBN978-4-622-08628-4
アイヒマン調書――ホロコーストを可能にした男』ヨッヘン・フォン・ラング編、小俣和一郎訳、岩波現代文庫、2017年8月、本体1,460円、448頁、ISBN978-4-00-600367-8
日本の科学 近代への道しるべ』山田慶兒著、藤原書店、2017年8月、本体4,600円、A5判上製312頁、ISBN978-4-86578-136-6

★アーレントの代表作でありロングセラーである二著四冊が、判型をA5判並製から四六判上製に変更し、訳文を見直した新版として刊行されました。まず『全体主義の起原』は、最新の研究成果を踏まえて全文の見直し作業に取り組まれたのは山田正行さんで、新たに訳出された「初版まえがき」(1951年)と「新版への解説」を矢野久美子さんが担当されています。『エルサレムのアイヒマン』も全文見直しを山田さんが担当され、さらに「新版への解説」や年譜作成も手掛けておられるとのことです。この二作については版元さんのウェブサイトで「新版刊行にあたって」という挨拶文が公開されています。二作とも旧版はフランクル『夜と霧』の場合のように販売を今後も継続するわけではないようなので、対照用に旧版を買っておくなら今のうちに店頭をチェックされた方が良いです。また、岩波現代文庫では同月に、アイヒマンへの長編インタヴューである『アイヒマン調書』が文庫化されており、この機会にあらためて併読しておきたいところです。

★『日本の科学』は、科学史家の山田慶兒(やまだ・けいじ:1932-:京都大学名誉教授)さんによる論文や講演をまとめたもの。「受容史だけではない日本の科学史へのまなざし」(帯文より)のもと、日本独自の近代科学の特殊性をたどった論文集です。一九九四年から二〇〇六年までに執筆され、あるいは発表されたもののほか、未発表や書き下ろしも含まれています。目次を以下に列記しておきます。▼が英文のみ発表済だったもの、▲が未発表、◆が書き下ろしです。

はじめに ◆
Ⅰ 二つの展望
 十八、九世紀の日本と近代科学・技術 ▼
 日本と中国、知的位相の逆転のもたらしたもの ▲
Ⅱ 科学の出発 
 飛鳥の天文学的時空――キトラ『天文図』
 日本医学事始――『医心方』
Ⅲ 科学の日本化
 医学において古学とはなんであったか――山脇東洋
 反科学としての古方派医学――香川修庵・吉益東洞
 現代日本において学問はいかにして可能か――富永仲基
Ⅳ 科学の変容
 中国の「洋学」と日本――『天経或問』
 幕府天文方と十七、八世紀フランス天文学――『ラランデ暦書管見』
 見ることと見えたもの――『欧米回覧実記』他
〈補論〉浅井周伯養志堂の医学講義――松岡玄達の受講ノート ◆
あとがき ◆

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by urag | 2017-09-10 10:16 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 05日

注目新刊:ミリアム・ブラトゥ・ハンセン『映画と経験』法政大学出版局

弊社出版物でお世話になっている訳者先生の最近のご活躍をご紹介します。

★竹峰義和さん(共訳:シュティーグラー『写真の映像』)
法政大学出版局さんから先月、下記の共訳書を上梓されました。シカゴ大学英文科教授だったMiriam Bratu Hansen (1949-2011)の主著にして遺作である『Cinema and Experience: Siegfried Kracauer, Walter Benjamin, and Theodor W. Adorno』(University of California Press, 2011)の完訳です。目次詳細は訳書名のリンク先をご覧ください。

映画と経験――クラカウアー、ベンヤミン、アドルノ
ミリアム・ブラトゥ・ハンセン著 竹峰義和/滝浪佑紀訳
法政大学出版局 2017年8月 本体6,800円 四六判上製698頁 ISBN978-4-588-01065-1

帯文より:思考の星座は、映画とともに煌めく。クラカウアー、ベンヤミン、アドルノは、映画とは何かよりはむしろ、映画は「何をするのか」という問いを立てる。いまだに予感しえない未来を生じさせる試みのなかで、映画という媒体、映画館という場がもつ可能性を追究する。映画を観る公衆の生きた経験についての思考を、批判理論と映画の交点で炸裂させる。

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by urag | 2017-09-05 23:59 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 03日

注目新刊:『魅了されたニューロン』『禁書』、ほか

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魅了されたニューロン――脳と音楽をめぐる対話』P・ブーレーズ/J-P・シャンジュー/P・マヌリ著、笠羽映子訳、法政大学出版局、2017年8月、本体3,600円、四六判上製358頁、ISBN978-4-588-41032-1
禁書――グーテンベルクから百科全書まで』マリオ・インフェリーゼ著、湯上良訳、法政大学出版局、2018年8月、本体2,500円、四六判上製204頁、ISBN978-4-588-35233-1

★『魅了されたニューロン』は『Les Neurones enchantés: Le cerveau et la musique』(Odile Jacob, 2014)の全訳。作曲家ブーレーズ(Pierre Boulez, 1925-2016)と、神経生物学者シャンジュー(Jean-Pierre Changeux, 1936-)、作曲家マヌリ(Philippe Manoury, 1952-)による鼎談本。第一章「音楽とは何か?」、第二章「「美」のパラドックスと芸術の規則」、第三章「耳から脳へ──音楽の生理学」、第四章「作曲家の頭の中のダーウィン」、第五章「音楽創造における意識と無・意識」、第六章「音楽的創造と科学的創造」、第七章「音楽を学ぶ」、の全七章構成です。

★シャンジューは一時期、作曲家アンドレ・ジョリヴェ(André Jolivet, 1905-1974)に作曲を習っていた(24頁)と明かしており、ブーレーズに次々と興味深い質問をぶつけています。マヌリはしばしば緊張感あふれるブーレーズとシャンジューの間(あいだ)をところどころで巧みに取り持っていて、二人の時折沈思する間(ま)をうまく引き受けているように思えます。二人の距離感が一気に縮まるように見える瞬間が最初に到来するのはようやく第二章の途中になってからです。次のようなやりとりがあります(75~77頁)。

シャンジュー:革新はあなたの作品の根本的な要素であるように思われますが、作曲家としてのあなたの広範なキャリアを通じて、あなたがつねにとりわけ革新に腐心してこられたのは、どのような理由のためなのですか?

ブーレーズ:それは生物学的必要だと言いましょうか。〔・・・〕まったく単純にいつも同じ動作を繰り返すことはできないのです。それは自分自身に対する不快感の問題です。「もうそれはすでにやった」とそこで考えるわけです。

シャンジュー:問題になるのは、不快感、あるいは退屈、疲労ですか?

ブーレーズ:不快感ですね。それがしまいには耐えがたくなるのです。〔・・・〕偶発事を予期し、それを活用すべきです。予想外の何かが眠りを妨げにきて、反応を促すのです。「おや、その通りだ、私はそんなことを考えたことがなかった」と思うわけです。〔・・・〕新しいものを捕まえ、それを飼いならす必要があります。作曲家は言ってみれば捕食者です。〔・・・〕それらのものと自分との間に突如現実性が生じるのですが、後になるともはやその現実性は理解できないので、それをまさにその時に捉えなければならないのです。自分が何をしたかを意識しているとはいえ、後戻りすることはできません。〔・・・〕。

シャンジュー:そうした革新は科学的進歩と比べられるでしょうか?

ブーレーズ:問題になっているのは革新であって、進歩ではありません。モーツァルトより私たちが進歩するということはありません。けれども、革新という意味で、新しさの重要性を強調するということであなたにまったく同意します。言い換えれば、いくつかの恒常性とともに行動範囲が変わるのです。

★こうしたやりとりのあとブーレーズはこう答えます。「芸術的な創作活動においては、進歩はなく、あるのは、とくに西洋においてですが、絶えず変形している文法的規則に応じた視点の変化です。それらの発展的変遷は人為的ではなく、育まれるのだとでも言えるでしょう。それらは、個々人の行為であり、個々人は個人として自己を表現することを望み、むろん、それらを取り巻く世界と繋がってはいますが、自分を取り巻く世界を、個人として表現します」(78頁)。

★本書にはこのほかにも興味深いやりとりがあちこちに見いだされ、シャンジューの人間観や文明観、そしてブーレーズの音楽観を読み取ることができます。ブーレーズの音楽観の一端は例えば次のような発言にも表れているかもしれません。「音楽は非物質的であり、あるいはもっと正確には、売ったり買ったりでき、自宅の壁に掛けたり、ナイトテーブルに置いておける物のかたちで提供されません〔・・・〕。音楽の市場は存在せず、したがって金銭的な投機もありません。〔・・・〕それは音楽の唯一の利点なのです。音楽はたしかに投機から守られています。投機はずっと後になって、まず自筆譜に、第二に入場者数、興行成績に関わることに介入してくるだけです。ヴァーグナーの作品を上演すれば、ホールは満杯になりますし、新作初演をやろうとすると、ホールの三分の二は空席です。したがって、作品はあるがままの存在、つまり新しさへの侵入なのですから、作品が損をするだろうという意味でも競争はありません。けれども〔・・・〕目下話題の出来事なら、人々は押し寄せます。重要なのは当節の流行であり、流行に賛成であるか反対であるかなのです。流行に適った何かを提供すれば、公衆は好奇心からやって来ます。もしそれが流行に逆らう何かだったり、一層難しく、取っつきにくい何がだったりすれば、公衆は、新しさを怖れるので、やって来ません。そして新しさに対する恐れは新しさに対する欲求よりもはるかに大きいのです」(70頁)。

★シャンジューとの対比から見て、ブーレーズの言葉は折々に厳しく、安易な協調や楽観を退けます。時に冷徹なリアリズムに響くブーレーズの最晩年の言葉は、どれも印象的です。

★『禁書』は、『I libri proibiti da Gutenberg all'Encyclopédie』(Laterza, 1999)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきの文言を借りると本書は「主にトレント公会議前後から本格的に始まった禁書目録の作成や対応を通して、統治する側の論理と統制の組織化、そして管理に対する人々の対策や統制の網の目を逃れていく方法について、イタリア半島のみならず広くヨーロッパ社会の地域ごとの事情を解き明かした歴史書である。第一章の「出版規制」では、出版物の管理・監督について主に検閲という観点から明らかにし、第二章の「文化追放」では、各地域に対して個別に作成され、適用された禁書目録の内容について扱い、第三章の「検閲の限界」では、検閲制度では、検閲制度の限界と十六世紀末以降の時代の変化を指摘し、第四章の「絶対主義と検閲」では、教会主導から国家による統制への変化、そして出版の自由へといたる時代の流れを扱う。全章を通じてイタリア半島の諸国家の事情だけでなく、ヨーロッパ各国の状況について比較・検討を行っている」ものです。

★情報統制や検閲や規制(自己規制を含む)が活きている現代社会の淵源を考える上で重要であるだけでなく、表現の自由や知る自由を獲得してきた歴史を振り返る上でも参照すべき基本書であると思われます。巻頭の「著者から日本の読者へ」で著者はこう書いています。「社会の全階層における書籍の伝播、購読と著述の増加、そしてラテン語に替わる各国の言語の確立は、社会と権力の間のこれまでとは異なる関係性の基盤を作り出します。十七世紀から十八世紀の間、読書を行う大衆は引き続き増加していきますが、彼らは統御に関する規定に従う姿勢をつねには見せていなかったのです。こうした状況は、活発な非合法市場のおかげでもあり、この市場はヨーロッパ中で組織され、枝分かれし、当局の課す購読に有効な形で代替となるものを提供できたのです。/著述と購読が自由でなければならないという考え方は、こうした背景から生まれ、発展しました。意見表明や表現の自由の権利が現代文明の主要原則の一つとなり始めたのは、まさにその瞬間であったのです」(vi頁)。著者のインフェリーゼ(Mario Infelise, 1952-)さんはイタリアの出版史家。ミラノ大学やヴェネツィア大学で教鞭を執られています。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

松本圭二セレクション(1)ロング・リリイフ』航思社、2017年9月、本体2,500円、四六判上製112頁、ISBN978-4-906738-25-0
松本圭二セレクション(3)詩篇アマータイム』航思社、2017年9月、本体2,600円、四六判上製106頁、ISBN978-4-906738-27-4
松本圭二セレクション(8)さらばボヘミヤン』航思社、2017年9月、本体2,400円、四六判上製236頁、ISBN978-4-906738-32-8
心は燃える』ル・クレジオ著、中地義和/鈴木雅生訳、作品社、2017年8月、本体2,000円、四六判上製198頁、ISBN978-4-86182-642-9
ヤングスキンズ』コリン・バレット著、田栗美奈子/下林悠治訳、作品社、2017年8月、本体2,400円、四六判上製292頁、ISBN978-4-86182-647-4
誰が何を論じているのか――現代日本の思想と状況』小熊英二著、新曜社、2017年8月、本体3,200円、四六判並製554頁、ISBN978-4-7885-1531-4
ワードマップ 現代現象学――経験から始める哲学入門』植村玄輝/八重樫徹/吉川孝編著、富山豊/森功次著、新曜社、2017年8月、本体2,800円、四六判並製318頁、ISBN 978-4-7885-1532-1
現代思想2017年9月号 特集=いまなぜ地政学か――新しい世界地図の描き方』青土社、2017年8月、本体1400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1352-3
現代思想2017年9月臨時増刊号 総特集=かこさとし――『だるまちゃん』『からすのパンやさん』から科学絵本、そしてあそびの大研究まで…広がり続ける表現の世界』青土社、2017年8月、本体1,800円、B5変型判並製284頁、ISBN978-4-7917-1351-6
現代思想2017年8月臨時増刊号 総特集=恐竜――古生物研究最前線』青土社、2017年7月、本体1,800円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1350-9
現代思想2017年8月号 特集=「コミュ障」の時代』青土社、2017年7月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1349-3

★まず航思社さんの新刊。『ロング・リリイフ』『詩篇アマータイム』『さらばボヘミヤン』は「松本圭二セレクション」の第1回配本(3冊同時発売)。同セレクションは月報付きで全9巻、隔月刊予定で、詩人でありフィルム・アーキヴィストの松本圭二(まつもと・けいじ:1965-)さんの詩集、小説、評論およびエッセイを集めた選集です。前田晃伸さんさんによる瀟洒な造本が際立っています。『ロング・リリイフ』(七月堂、1992年)、『詩篇アマータイム』(思潮社、2000年)の2点は詩集の再刊で、『さらばボヘミヤン』は表題作(『新潮』2009年7月号)、「タランチュラ」(『すばる』2011年12月号)、「ハリーの災難」(『すばる』2012年6月号)の3本をまとめた小説集です。出色なのは『詩篇アマータイム』で、著者解題の言葉を借りると「テクストを重層的に配置」した「交響楽のスコア」のような紙面は必見です。

★次に作品社さんの新刊。『心は燃える』はル・クレジオの中短篇小説集『Cœur brûle et autres romances』(Gallimard, 2000)の全訳。「心は燃える」「冒険を探す」「孤独という名のホテル」「三つの冒険」「カリマ」「南の風」「宝物殿」の7本を収め、巻末に訳者による解題が付されています。『ヤングスキンズ』はアイルランド文学界の期待の新星だというバレット(Colin Barrett, 1982-)のデビュー作『Young Skins』(Stinging Fly Press, 2013)の翻訳。ガーディアン・ファーストブック賞、ルーニー賞、フランク・オコナー国際短編賞などを受賞している話題作で、帯文によれば「経済が崩壊し、人心が鬱屈したアイルランドの地方都市に暮らす無軌道な若者たちを、繊細かつ暴力的な筆致で描きだす、ニューウェイブ文学の傑作」と。カヴァーの個性的な装画は葉山禎治さんによるもの。

★続いて新曜社さんの新刊。『誰が何を論じているのか』は巻頭におかれた著者による「読者の方々へ」によれば、「私が本書に収録された論評を書いたのは、2013年4月から2016年3月である。私はこの時期、朝日新聞の論壇委員という仕事をしていた。この仕事のため、私のもとには、毎月毎週、朝日新聞社からさまざまな雑誌が送られてくる。それを読み、これはと思った論文をとりあげながら論評するのが論壇委員の仕事だ。〔・・・送られてくる様々な雑誌の〕ほぼ全てに目を通し、傍線を引き、付箋を貼り、切り抜き、メモをとる作業を、この六年ほど続けている。論評にとりあげたのは、そのなかのごく一部だ」。目次は書名のリンク先をご覧ください。

★『現代現象学』はシリーズ「ワードマップ」の最新刊で、まえがきによれば「第1部・基本編……現象学的哲学の基本的な発想や概念の解説」「第2部・応用編……哲学の諸問題に対する現象学からのアプローチの試み」という二部構成。同書の刊行を記念し、紀伊國屋書店新宿本店3階哲学思想書エンド台にてブックフェア「いまこそ事象そのものへ!――現象学からはじめる書棚散策」が先月より今月末まで開催中です。同書は新宿本店総合ランキング9位に入る売行で、フェア全体の売上も絶好調と仄聞しています。フェア用に作成された36頁もの力作ブックガイド(第一部「現象学:源流から現代へ」、第二部「哲学の古典的主題」、第三部「現代の哲学・諸学との接点」)が配布されています。ぜひ店頭にてご確認下さい。

★最後に青土社さんの月刊誌「現代思想」でのここ2ヶ月の間に発売された通常号2点と臨時増刊号2点。先日も言及した8月通常号「「コミュ障」の時代」は、國分功一郎さんと千葉雅也による討議「コミュニケーションにおける闇と超越」や、新連載として磯崎新さんによる「瓦礫(デブリ)の未来」などを掲載。8月臨時増刊号「恐竜」では、吉川浩満さんの「私の恐竜」、大橋完太郎さんの「怪物・化石・恐竜――フランスにおける近代自然史の展開から」などを掲載。9月臨時増刊号「かこさとし」では、國分功一郎さんによる、かこさとしさんへのインタビュー「学ぶこと、生きることの意味を求めて――子どもと社会のあいだから」をはじめ、中村桂子さんによる「生活の中での子どもをよく見て、子どもの声を聞く――加古里子さんと生命誌の出会い」、篠原雅武さんの「かこさとしにおける不信と怒り――「怒りの時代」を生き抜くために」などを掲載。9月通常号「いまなぜ地政学か」では、伊勢崎賢治さんと西谷修さんいよる討議「「非戦」のための地政学」や、中野剛志さんへのインタビュー「地政経済学の射程――グローバリゼーションの終焉以後を読み解く」などを掲載。10月通常号の特集は「ロシア革命」と予告されています。

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by urag | 2017-09-03 14:25 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 08月 27日

注目新刊:ラング『夢と幽霊の書』作品社、ほか

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夢と幽霊の書
アンドルー・ラング著、ないとうふみこ訳
作品社、2017年8月、本体2,400円、四六判上製304頁、ISBN978-4-86182-650-4

帯文より:ルイス・キャロル、コナン・ドイルらが所属した心霊現象研究協会の会長による幽霊譚の古典、ロンドン留学中の夏目漱石が愛読し短篇「琴のそら音」の着想を得た名著、120年の時を越えて、待望の本邦初訳!

目次:
はじめに
第一章 夢
第二章 夢と幻視
第三章 水晶玉による幻視
第四章 幻覚
第五章 生き霊
第六章 死者の幽霊
第七章 目的を持って現れた霊
第八章 幽霊
第九章 幽霊と幽霊屋敷
第一〇章 近世の幽霊屋敷
第一一章 さらなる幽霊屋敷
第一二章 大昔の幽霊
第一三章 アイスランドの幽霊
第一四章 さまざまなおばけ
原註
訳註
訳者あとがき
一二〇年の時を経てあらわれた幻の本(吉田篤弘)

★原書は1897年に刊行された『The Book og Dreams and Ghosts』で、1899年の第2版の前書きも訳出されています。「〔民話・説話・童話の〕蒐集家と語り部としてのラングの力がフルに発揮された、怪異にまつわる古今東西の実話集」(訳者あとがき)です。全14章に75篇を収めています。晩夏の暑気払いに味読したい一冊です。

★アンドルー・ラング(Andrew Lang, 1844-1912)はスコットランドの詩人・小説家・文芸批評家。先に引いた訳者あとがきでないとうさんはラングについて「日本では、『あおいろの童話集』をはじめとする色名のついた童話集の編纂者として最もよく知られている。また童話以外でも、『書斎』(生田耕作訳、白水社)、『書物と愛書家』(不破有理訳、図書出版社)といった、書物へのマニアックな愛を語るすぐれた随筆が紹介されている。だが、ラングの業績は、これだけではとうてい網羅できないほど多岐にわたっている」と記し、さらに詳しい経歴を紹介しています。特に本作との関係では心霊現象研究協会に1882年の設立当初から会員として所属し、逝去する前年には会長も務めたとのことです。

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★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。

戦う姫、働く少女』河野真太郎著、堀之内出版;POSSE叢書003、2017年7月、本体1,800円、四六判並製240頁頁、ISBN978-4-906708-98-7
明治・大正期の科学思想史』金森修編、勁草書房、2017年8月、本体7,000円、A5判上製472頁、ISBN978-4-326-10261-7
エドワード・ヤン――再考/再見』フィルムアート社編集部編、蓮實重彦ほか著、フィルムアート、2017年8月、本体3,000円、A5判並製472頁、ISBN 978-4-8459-1641-2
パリに終わりはこない』エンリーケ・ビラ=マタス著、木村榮一訳、河出書房新社、2017年8月、本体2,400円、46変形判304頁、ISBN978-4-309-20731-5
定版 見るなの禁止――日本語臨床の深層』北山修著、岩崎学術出版社、2017年8月、本体3,700円、A5判上製304頁、ISBN978-4-7533-1121-7
臨床心理学 増刊第9号 みんなの当事者研究』熊谷晋一郎編、金剛出版、2017年8月、本体2,400円、B5判並製200頁、ISBN978-4-7724-1571-2
はじめてまなぶ行動療法』三田村仰著、金剛出版、2017年8月、本体3,200円、A5判並製336頁、ISBNISBN978-4-7724-1571-2
古都の占領――生活史からみる京都 1945‐1952』西川祐子著、平凡社、2017年8月、本体3,800円、4-6判上製516頁、ISBN978-4-582-45451-2
故郷』李箕永著、大村益夫訳、平凡社;朝鮮近代文学選集8、2017年8月、本体3,500円、4-6判上製552頁、ISBN978-4-582-30240-0
国民再統合の政治――福祉国家とリベラル・ナショナリズムの間』新川敏光編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体3,600円、A5判上製310頁、ISBN978-4-7795-1190-5
功利主義の逆襲』若松良樹編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体3,500円、A5判上製272頁、ISBN978-4-7795-1189-9
講義 政治思想と文学』堀田新五郎/森川輝一編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体4,000円、4-6版並製400頁、ISBN978-4-7795-1191-2

★『戦う姫、働く少女』は『〈田舎と都会〉の系譜学――二〇世紀イギリスと「文化」の地図』(ミネルヴァ書房、2013年)に続く、河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-;一橋大学大学院商学研究科准教授)さんの単独著第二作。『POSSE』誌で2014年から2015年にかけて連載された「文化と労働」を加筆修正したものです。発売後目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ジブリやディズニーなど映画作品から現代の女性像を読み解く話題作で、発売1ヶ月で早くも重版とのことです。著者が最終的に取りつかれたアイデアだという「連帯とは他者の欲望や願望を受け取ることであり、その願望はそれが他者のものであるがゆえにより強いものになる」(236頁)という言葉が印象的です。刊行記念トークイベント「戦闘美少女はなぜ働くのか」が来月9月7日19時から、Readin'Writin'(銀座線・田原町徒歩3分)にて行われます。参加費500円当日現金精算、定員20名要予約です。

★『明治・大正期の科学思想史』は科学思想史研究の第一人者、金森修(かなもり・おさむ:1954-2016)さんの編書三部作である『昭和前期の科学思想史』2011年、『昭和後期の科学思想史』2016年、に続く完結編論文集です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。奥村大介さんによる巻末附記によれば、三部作にさらに遡る編著書『科学思想史』2010年、と合わせて四冊で「勁草・科学思想史」シリーズと括っておられます。今回刊行された遺作には金森さんの序論やあとがき、さらに「疾病の統治――明治の〈生政治〉」と仮題を付された論攷が掲載予定だったものの、逝去によって叶わなかったことが説明され、さらに論攷の内容構想についても言及されています。

★『エドワード・ヤン――再考/再見』は台湾の映画監督で、今年生誕70年を迎えるエドワード・ヤン(楊徳昌:1947-2007)をめぐる論文集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。現在、1991年の作品『牯嶺街〔クーリンチェ〕少年殺人事件』の4Kレストア・デジタルリマスター3時間56分版が都下では下高井戸シネマで9月1日(金)まで上映されています(2K変換上映)。その他劇場情報はこちらでこちらをご覧ください。また同作品と『台北ストーリー』(1985年)のブルーレイとDVDが11月2日に発売となるとのことです。今回の論集では同作品をめぐる論考を丹生谷貴志さんがお書きになっているほか、監督のインタビュー2本「映画はまだ若い」(聞き手=坂本安美)と「人生のもう半分を映す窓」(聞き手=野崎歓)のほか、監督と四方田犬彦さんの対談「JAMMING WITH EDWARD」が収められています。巻末にはフィルモグラフィ、バイオグラフィ、関連図書が配されています。

★『パリに終わりはこない』は『París no se acaba nunca』(Barcelona: Anagrama, 2003)の翻訳。帯文に曰く「現代文学の再前衛『バートルビーと仲間たち』以後の代表作。暴走するアイロニー、パリのスペイン人。〈ヘミングウェイそっくりさんコンテスト〉最下位の「私」がデュラスの屋根裏部屋での青春を回想? 講演? 小説?する」と。訳者あとがきではこう説明されています。「彼の小説は自伝的要素が織り込まれたフィクションで、自らも自身の作品を《自伝的フィクション》autoficciónと呼んでいる〔・・・〕。〔・・・『パリに~』は〕1974年からパリで2年間文学修行した時のことがさまざまなエピソードや引用をまじえながら語られている」と。バルセロナの作家ビラ=マタス(Enrique Vila-Matas, 1948-)の既訳小説2点はいずれも今回と同じく木村榮一さんによって訳されています。『バートルビーと仲間たち』(新潮社、2008年)、『ポータブル文学小史』(平凡社、2011年)。『パリに~』はこれらに続く3点目となります。

★『定版 見るなの禁止』はまもなく発売。1993年に刊行された『北山修著作集:日本語臨床の深層』第1巻をもとに再編集された決定版。それぞれの目次を比べてみても旧版とは異なっていることが分かりますが、より詳しくは、旧版の各章が今回の定版でどのように変更されているのかを記してある、291頁の旧版目次をご確認ください。「見るなの禁止」というのは、見てはいけないという禁止であり、「動物が人間の姿で嫁に来るけれども、正体を見られて去る」という形式を持つ「異類婚姻説話」に見られるものです。定版で新たに加えられた工藤晋平さんによる解説にはこうあります。見るなの禁止とは「対象の二面性に急激に直面し、幻滅することを防ぐ設定である」(282頁)。「対象の二面性に直面した時の、嫌悪感、罪悪感、環境の失敗を噛みしめる、抑うつポジションでのワークスルーが、見るなの禁止を巡る課題である。それがはかなく消えゆく媒介的対象をはさんで間を置く移行の作業に他ならないことを、北山は説いている」(285頁)。工藤さんはこのテーマをめぐる北山さんの歩みを「長い旅をみているよう」だ(281頁)と評しておられます。

★『臨床心理学 増刊第9号 みんなの当事者研究』と『はじめてまなぶ行動療法』は金剛出版さんの今月新刊です。前者は『臨床心理学』誌の増刊号で、國分功一郎さんと編者の熊谷晋一郎による対談「来たるべき当事者研究」をはじめ、河野哲也さん、村上靖彦さん、上野千鶴子さん、坂口恭平さんほか、多数の論考を収録した必読号です。『はじめてまなぶ行動療法』は版元紹介文に曰く「「パブロフの犬」の実験から認知行動療法、臨床行動分析、DBT、ACT、マインドフルネスまで、行動療法の基礎と最新のムーブメントをていねいに解説する研究者・実践家必読の行動療法入門ガイド」であり、「はじめて読んでもよくわかる,行動療法の歴史・原理・応用・哲学を学べる教科書」と。巻末に充実した「用語解説・定義」と300冊強の引用文献一覧あり。

★『古都の占領』と『故郷』は平凡社さんの今月新刊。『古都の占領』は帯文に曰く「1952年の講和条約発効までは休戦期であり、戦争状態はつづいていた――国は忘却に躍起となり、人々は故意に忘れたいと願った占領の事実から戦争そのものの構造を問う」という、非常に興味深い力作です。『故郷』はシリーズ「朝鮮近代文学選集」の第8巻で、版元紹介文の文言を借りると「朝鮮プロレタリア文学を代表する作家」である李箕永(イ・ギヨン:1895~1984)の最高傑作。日本統治下の荒廃する農村に生きる小作人の群像を描いたものとのことです。

★『国民再統合の政治』『功利主義の逆襲』『講義 政治思想と文学』はナカニシヤ出版さんが今月刊行されたアンソロジー。収録作品詳細は書名のリンク先をご覧ください。『国民再統合の政治』は帯文によれば「各国で移民問題が深刻化し排外主義が台頭するなか、新たな統合の枠組みとして、リベラル・ナショナリズムが提唱されている。国民統合戦略の以降のなかで、福祉国家の弱体化、極右政党の台頭、多文化主義の実態を、各国の事例をもとに分析する」論集。『功利主義の逆襲』は「反直観論法は成功しているか」「功利主義の動学」「功利主義的な統治とは何か」の三部構成による論文集で、『法哲学年報2011』(日本法哲学会による2011年の「功利主義ルネッサンス」と題した学術大会の成果をまとめたもの)の続編とのことです。『講義 政治思想と文学』は、カミュ、シェストフ、ディドロ、バーク、ヴェイユ、フロベール、メルヴィルらの作品を「政治と文学」という視点から読み解く7本の論考に加え、作家の平野啓一郎さんによる特別講義「『仮面の告白』論」(『新潮』2015年2月号に掲載された同題の三島由紀夫論に加筆修正したもの)と、京都大学名誉教授の小野紀明さんによる最終講義「戦後日本の精神史――三島由紀夫と平野啓一郎」を併載しています。

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by urag | 2017-08-27 17:58 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 08月 23日

ブックツリー「哲学読書室」に杉田俊介さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ジョジョ論』(作品社、2017年6月)の著者・杉田俊介さんによる選書リスト「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む

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by urag | 2017-08-23 11:25 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 08月 20日

注目新刊:ボイル『無銭経済宣言』紀伊國屋書店、ほか

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★まもなく発売となる注目新刊を列記します。

nyx 第4号』山本芳久/乙部延剛ほか著、堀之内出版、2017年8月、本体2,000円、A5判並製275頁、ISBN978-4-906708-71-0
五つの証言』トーマス・マン/渡辺一夫著、中公文庫プレミアム、2017年8月、本体800円、文庫判224頁、ISBN978-4-12-206445-4
無銭経済宣言――お金を使わずに生きる方法』マーク・ボイル著、吉田奈緒子訳、紀伊國屋書店、2017年8月、本体2,000円、46判並製496頁、ISBN978-4-314-01150-1
動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』フランス・ドゥ・ヴァール著、柴田裕之訳、紀伊國屋書店、2017年8月、本体2,200円、46判上製416頁、ISBN978-4-314-01149-5

★『nyx 第4号』は第一特集が「開かれたスコラ哲学」(主幹=山本芳久)、第二特集は「分析系政治哲学とその対抗者たち」(主幹=乙部延剛)。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。大学の紀要や「中世哲学研究」のような学会誌ではない、一般発売されている思想誌でスコラ哲学が主題になるのは哲学書房の『季刊哲学』以来ではないでしょうか。第一特集では、アラスデア・マッキンタイア(Alasdair MacIntyre, 1929-)の論文集『The Tasks of Philosophy』(Cambridge University Press, 2006)の第九章「自らの課題に呼び戻される哲学――『信仰と理性』のトマス的読解」(野邊晴陽訳;Philosophy recalled to its tasks: Thomistic reading of Fides et Ratio)が訳出されています。

★『五つの証言』は、巻末の編集付記によれば、トーマス・マンの『五つの証言』(渡辺一夫訳、高志書房、1946年)と第一部とし、渡辺一夫のエッセイおよび「中野重治・渡辺一夫往復書簡」(『展望』誌1949年3月号)を第二部として独自に編集したもの、とのことです。帯文に曰く「古典名訳再発見。不寛容な時代に抗い、戦闘的ユマニスムのほうへ。ナチスと対峙した精神のリレー」と。目次を以下に掲出しておきます。

目次:
トーマス・マン『五つの証言』に寄せて(渡辺一夫)
五つの証言(トーマス・マン著、渡辺一夫訳)
 一 トーマス・マンの最近の文章を読んで(アンドレ・ジード)
 二 ボン大学への公開状
 三 ヨーロッパに告ぐ
 四 イスパニヤ
 五 キリスト教と社会主義
寛容について(渡辺一夫)
 文法学者も戦争を呪詛し得ることについて
 人間が機械になることは避けられないものであろうか?
 中野重治・渡辺一夫往復書簡
 寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか
解説 第六の証言(山城むつみ)

★中公文庫プレミアムの既刊書については同レーベルのブログ「編集部だより」をご覧ください。続刊は10月予定で、ヴェーバー/シュミット『政治の本質』清水幾太郎訳、とのことです。

★マーク・ボイル『無銭経済宣言』は『The Moneyless Manifesto: Live Well. Live Rich. Live Free』(Permanent Publications, 2012)の翻訳で、『ぼくはお金を使わずに生きることにした』(吉田奈緒子訳、紀伊國屋書店、2011年;The Moneyless Man: A Year of Freeconomic Living)に続く、ボイル(Mark Boyle, 1979-)による待望の第二作です。「「お金がないと生きられない」というのは、ぼくらの文化が創りだした物語にすぎない。自然界や地域社会とのつながり、生の実感、持続可能な地球を取りもどすための新しい経済モデルを提起した、フリーエコノミー運動創始者による「カネなしマニフェスト」。貨幣経済によらない生活のノウハウも多数紹介」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。序文は、『聖なる経済学』(Sacred Economics: Money, Gift, and Society in the Age of Transition, North Atlantic Books, 2011;非営利の日本語訳)の著者であるチャールズ・アイゼンスタイン(Charles Eisenstein, 1967-;アイゼンシュタインとも)が寄せています。曰く「実際に会って話してみたら、〔ボイルは〕聖人ぶったところがまったくなく、傲慢さとも無縁の人物だった。だからこそ、マークのメッセージは多くの人の共感を呼ぶのだろう。〔・・・〕彼いわく、金銭の放棄は、つながり、親密なつきあい、冒険、真の人生経験にいたる道である。善人と認められんがために身を犠牲にする道どころか、喜びの道であり、豊かさの道とすらいってもいい。/本書のひとつの意義は、その道をほかの人にも開いた点にある」(13頁)。「マークの著作は、つながりと喜びにあふれた生き方の単なる解説にとどまらない重要性を持つ。新しい体制の精神的いしずえを築いた点でも意義がある。来るべき革命も、マークの論じた深みに到達するものでなければ加わるに値しない。生命の流れに身をまかせ、寛大さこそが人間性の本質であると認識し、与える者は与えられると信じる次元まで踏みこんだ変革でなければ」(16頁)。

★ボイルはアイゼンスタインの序文に続く「はじめに」でこう書き綴っています。「本書の存在意義はもちろん、人間とカネの関係の再検討が必要だと信じる論拠を説明するのみにとどまらない。究極の目的は、読者が金銭ぬきで生活のニーズを満たせる(または少なくとも金銭への依存を小さくできる)方法を幅広く紹介することにある。自分自身の生きかたをもっと自分で決められるような、豊かな創造性を発揮できるような方法。自然界と地域社会に与えるマイナスの影響をおさえて、プラスの影響をふやす方法。喜びを感じなくなった仕事から自分を解放してやる方法。あるいはただ、自分のなかに存在することすら気づいていなかった未知の領域への道すじを」(27頁)。

★ボイルはこうも書いています。「いずれにしろ100%ローカルな生きかたを、ぼく自身は強く望んでいる。〔・・・〕全面的なローカル化が極端な経済モデルだと感じられるのは、極端にグローバル化した今日の経済と比較するからであり、ローカル化できない最新の電子機器に身も心も奪われた人の視点で見るからである。/ブラジルのアマゾンに住むアワ族のように、人どうしのきずなも大地との結びつきも強い民族から見たら、極端なのは、今日の工業化社会における暮らしぶりのほうだ。極端なのは、地球上の栄えある生命を、採鉱、皆伐、トロール漁にとって効率的に現金化できる資源の一覧表としか見ない世界観のほうだ。極端なのは、気がねなく隣人に助けを求めるどころか、近所にどんな人が住んでいるかすら知らない現実だ。極端なのは、空き部屋のある家があふれている地域で、路上に寝起きする人がいることだ。極端なのは、銀行にカネを返済するために、やりたくもない仕事をして人生をすごすことだ。そもそも銀行が無から作りだしたカネなのに。極端なのは、タダで与えられたものの代金を、同じ自然界に属する他者に請求することだ。自分の受けた贈り物を分けてやるのは引きかえに何かをくれる相手にかぎると言って。極端なのは、善人気どりで食品の紙パックをリサイクルしながら、がけっぷちにむかって歩いていくことだ。極端なのは、自分の力では止めようがないとばかりに、事態の進展に手をこまねいていることだ」(92頁;原書では42~43頁)。

★「子どもに価値ある未来を残してやるやめには、ただちに、皆の力で新しい物語を創造しはじめなくてはいけない。持続可能で、いまの時代にふさわしい物語を。〔・・・〕ユダヤの賢者ヒレルはこう言った。「きみがやらねば、誰がやる。いまやらねば、いつやる」。次世代に必要なのは、自己認識を拡張し、立ちあがっていまの文化を変えていく勇者だ。/そのひとりになろうではないか」(150頁)。本書は理論編と実践編の二部構成で、フリーエコノミーの思想と方法を読者に教えます。これはおそらく人類にとって、本気のサバイバルのためのバイブルです。

★ドゥ・ヴァール『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』は『Are We Smart Enough to Know How Smart Animals Are?』(Norton, 2016)の翻訳。帯文に曰く「ラットが自分の決断を悔やむ。カラスが道具を作る。タコが人間の顔を見分ける。霊長類の社会的知能研究における第一人者が提唱する《進化認知学》とはなにか。驚くべき動物の認知の世界を鮮やかに描き出す待望の最新作」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください(リンク先では試し読みもできます)。「私の主要な目的は、進化認知学への熱意の高まりを伝え、この分野が厳密な観察と実験に基づく立派な科学へと成長する過程を描き出すことだ」(362頁)と著者は書きます。訳者解説によればドゥ・ヴァールの提唱する進化認知学とは「人間とそれ以外の動物の心の働きを科学によって解明するきわめて新しい研究分野」であり、本書は「その格好の入門書」だと評されています。

★ドゥ・ヴァールはこう書きます。「それぞれに神経が通っていて独立した動きをする八本の腕の一本一本に行き渡ったタコの認知機能や、自分の発する甲高い鳴き声の反響を感じ取り、動き回る獲物を捕まえることを可能にするコウモリの認知能力と比べると、私たち人間の認知だけが特別だなどとははたして言えるだろうか」(12頁)。「私たちは自らの研究に生態学的な妥当性を求め、他の種を理解する手段として人間の共感能力を奨励したユクスキュル、ローレンツ、今西の助言に従っている。真の共感は、自己の焦点を合わせたものではなく他者志向だ。私たちは人間をあらゆるものの尺度とするのではなく、他の種をありのままのかたちで評価しなければならない」(359~360頁)。人間中心主義を乗り越える新たな地平が読者に提示されます。

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★続いて、既刊と新刊の中から注目書を列記してみます。

月刊ドライブイン vol.04』橋本倫史取材/撮影/文、2017年7月、本体463円、A5判並製40頁、ISBNなし
魔法をかける編集』藤本智士著、インプレス、2017年7月、本体1,600円、四六判並製240頁、ISBN978-4-295-00198-0
フリーメイソン――秘密結社の社会学』橋爪大三郎著、小学館新書、2017年8月、本体840円、新書判304頁、ISBN978-4-09-825315-9
映画とキリスト』岡田温司著、みすず書房、2017年8月、本体4,000円、四六判上製376頁、ISBN978-4-622-08624-6
HUMAN LAND 人間の土地』奈良原一高写真、復刊ドットコム、2017年8月、本体8,000円、A4変判上製176頁、ISBN978-4-8354-5504-4

★『月刊ドライブイン vol.04』はリトルマガジン『HB』の編集発行人である橋本倫史(はしもと・ともふみ:1982-)さんが取材、写真、文章、構成をすべてお一人でやられている、その名の通りドライブイン専門のユニークな月刊誌の第4号です。この号では沖縄の「A&W」と「ドライブインレストランハワイ」を取り上げています。取扱書店は約30店で、私は松本市の「本・中川」さんで購入しました。表紙も本文紙も共に灰色で文字はスミで刷られていますが明るく落ち着いた印象があります。味わい深い文章と写真で、旅の気分が味わえます。「いくら沖縄を訪れたところで、何かが分かるわけではない。それは沖縄という土地に限らず、誰のことだって「わかる」と言える日が来るとはとうてい思えない。わかりきることなんてできないのに、それでも足を運んだり、視線を注いだりしてしまう。この時間はいったい何なのだろう」(編集後記より)。このしなやかな感性に好感を持ちます。いずれ一冊の書籍にまとまりそうな予感がします。

★『魔法をかける編集』は、ミシマ社さんが編集し、インプレスさんが発行するレーベル「しごとのわ」の最新刊。著者の藤本智士 (ふじもと・さとし:1974-)さんはは編集者で、有限会社りす代表。帯文はこうです。「一過性で終わるイベント、伝わらない商品、ビジョンのないまちづくり・・・足りないのは、編集です。マイナスをプラスに、忘れられていたものを人気商品に、ローカルから全国へ発信する・・・etc. 誰もが使えるその技術を、「Re:S」「のんびり」編集長がすべて公開!」。松本市のブックカフェ「栞日」で見つけて購入しました。藤本さんは「はじめに」でこう書いています。「僕は、編集とは魔法であり、編集者は魔法使いだと本気で思っているのですが、それが魔法であるがゆえに、これまでは一部の人だけが持つ特権的能力として扱われてきたように思います。/しかし編集力というのは、何もホグワーツに通わなくても、すべての人がすでに備えている能力であり、意識することで鍛えられるのです。〔・・・〕僕が思う編集力とはズバリ、「メディアを活用して状況を変化させるチカラ」です」(3頁)。こうした職能は業界人なら経験的に理解しているものであり、松岡正剛さんや後藤繁雄さんをはじめとする先人によっても言及されてきたものですが、その力を意識的に統御し活用できているかどうかは人によるかもしれません。藤本さんは「ローカルメディア」にこだわり、その戦略と戦術を本書で惜しみなく明かしています。同時代人のエールとして、業界人の必読書だと言っていいのではないかと思います。

★『フリーメイソン』はメイソンをめぐる23の疑問をそのまま章立てにして、橋爪大三郎さんが簡潔に答える体裁の入門書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「テンプル騎士団は、フリーメイソンなのですか」「イルミナティは、フリーメイソンなのですか」「マッカーサーは、フリーメイソンなのですか」「フリーメイソンは、陰謀集団なのですか」などの問いがあります。橋爪さんの考えがもっとも表れているのは「日本人はなぜ、フリーメイソンをよく理解できないのですか」という最初の問いと、「フリーメイソンを理解すると、なぜ世界がよく見えてくるのですか」という最後の問いではないかと思います。「フリーメイソンは、日本人が西欧キリスト教文明をみる場合の、盲点である」(まえがき、5頁)、また「フリーメイソンについて理解を深めること。それは、日本人が、21世紀の国際社会を生きていくための基礎教養だと思う」(294~295頁)と橋爪さんは指摘されています。日本グランドロッジも見学し、取材されたことがあとがきで明かされています。特にメイソンの幹部である片桐三郎さんの『入門フリーメイスン全史――偏見と真実』(アムアソシエイツ、2007年)には「とても助けられた」とお書きになっていますが、この本は残念ながら絶版の様子。本書が参考にしている新書には、吉村正和さんの『フリーメイソン』(講談社現代新書、1989年)や、荒俣宏さんの『フリーメイソン――「秘密」を抱えた謎の結社』(角川oneテーマ21、2010年)があります。

★『映画とキリスト』は「欧米における映画の発展は、キリスト教のテーマ系と切り離すことができないし、二千年にわたる美術の伝統も多かれ少なかれそこに影を落としている。その意味でこの本は、前著『映画は絵画のように――静止・運動・時間』〔岩波書店、2015年〕の延長線上にくるものでもある」(おわりに)とのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「まず第Ⅰ章では、両者〔映画とキリスト〕の関係性を理論的な観点から概観しておきたい。つづく第Ⅱ章から第Ⅳ章は、サイレントの時代より現代にいたるまで、いわゆるイエスのビオピック(伝記映画)の代表的な作品を取り上げ、それぞれ異なる視点から分析と記述を試みる。具体的には章の順に、サイレント映画、パゾリーニの『奇跡の丘』、1970年代以降の多様化するイエス像、マリアの出産シーン、そして名脇役としての「裏切り者」ユダと「娼婦」マグダラのマリア、である。映画におけるイエスの表象が、たんなる歴史(物語)の挿絵ではなくて、いろんな意味で、いかにアクチュアルにしてかつ解決困難な問題系を引きずってきたかが明らかになるだろう。/さらに第Ⅶ章から第Ⅸ章までの三つの章では、固有名詞としてのイエスその人というよりも、「油を塗られた人」すなわち「メシア」としてのキリストのイメージが投影されている作品が対象となる。〔・・・〕数ある作品に篩をかけながら、「キリスト」との同一化――その可能性と限界」がいかに映像化され、そこにいかなる意味が託されているかが問われるだろう。最後の章は、神学上のみならず、社会的で政治的でもあるキリスト教内部の問題をパロディやアイロニーも交えつつ鋭くえぐりだす作品に捧げられている」(はじめに)。

★また岡田さんはこう書いてもいらっしゃいます。「現代は、近代における宗教の「世俗化」にたいして、「ポスト世俗化」の時代と呼ばれることもある。もちろん映画もこの状況と無関係ではありえない。/さらにこうした現況下、哲学者たちも近年、開かれたキリスト教の可能性(とその限界)を新たに模索しはじめている。代表的な名前だけを挙げるなら、ジャン=リュック・ナンシー、ジョルジョ・アガンベン、ジャンニ・ヴァッティモ、ジョン・カプートらがいるが、本論でわたしは、必要とあれば彼らの議論にも応答しようと試みた」(おわりに)。

★『HUMAN LAND 人間の土地』はリブロポートより1987年に刊行された、奈良原一高さんのデビュー作となる写真集の復刊。被写体はまだ人が住んでいる時代の「緑なき島」軍艦島と、鹿児島県の桜島東部に位置する「火の山の麓」黒神村(現在は黒神町)。いずれも1950年代に写されたものです。復刊ドットコムのウェブサイトより購入すると、非売品のポストカード1枚が付いてきます。作家性の強い写真集は絶版になると古書価が高くなりなかなか手が届きにくいので、ぜひ今後も復刊ドットコムさんには写真集復刊の分野でぜひ頑張っていただきたいです。ちなみに本書は「復刊ドットコム×代官山蔦屋書店 コラボ企画」の第2弾であり、第1弾は永井博さんのイラスト作品集『Time goes by…』、第3弾は『犬神家の人々 寺山修司・幻想写真館』が刊行済み。第4弾には、和田唱/和田誠の親子コラボ作品集『親馬鹿子馬鹿』 が10月中旬刊予定だそうです。充実しています。復刊ドットコムを傘下におくCCCの増田宗昭社長は「SPA(製造小売業)をやらなければアマゾンには勝てない」と今春の年次会合で話したそうですが、復刊事業の活用は実に正しいと思います。名作はまだまだ数多く埋もれているからです。
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by urag | 2017-08-20 23:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)