ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ

2017年 11月 26日 ( 1 )


2017年 11月 26日

注目新刊:『コミュニズム ― HAPAX 8』夜光社、ほか

a0018105_20545581.jpg


★マルクス『資本論』刊行150周年記念となる今年(2017年)も残すところあと一ヶ月、ここ最近ではマルクス主義やコミュニズム、そして資本主義の未来/終焉をめぐる新刊が目白押しとなっています。歴史学、地理学、社会学、人類学、など視点は様々ですが、人間と社会をどうとらえ直すかが問われているのだと思います。

『コミュニズム ― HAPAX 8』夜光社、2017年11月、本体1,200円、四六判変形並製180頁、ISBN978-4- 906944-13-2
いかに世界を変革するか――マルクスとマルクス主義の200年』エリック・ホブズボーム著、水田洋監訳、伊藤誠/太田仁樹/中村勝己/千葉伸明訳、作品社、2017年11月、本体3,800円、四六判上製618頁、ISBN978-4-86182-529-3
資本主義の終焉――資本の17の矛盾とグローバル経済の未来』デヴィッド・ハーヴェイ著、大屋定晴/中村好孝/新井田智幸/色摩泰匡訳、作品社、2017年10月、本体2,800円、四六判上製430頁、ISBN978-4-86182-667-2
資本主義はどう終わるのか』ヴォルフガング・シュトレーク著、村澤真保呂/信友建志訳、河出書房新社、2017年11月、本体4,200円、46判上製362頁、ISBN978-4-309-24831-8
非‐場所――スーパーモダニティの人類学に向けて』マルク・オジェ著、中川真知子訳、水声社、2017年11月、本体2,500円、四六判上製176頁、ISBN978-4-8010-0287-6
『経済人類学――人間の経済に向けて』クリス・ハン/キース・ハート著、深田淳太郎/上村淳志訳、水声社、2017年11月、本体2,800円、四六判上製304頁、ISBN978-4-8010-0311-8
現代思想2017年12月号 特集=人新世――地質年代が示す人類と地球の未来』青土社、2017年11月、本体1400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1356-1

★『HAPAX』第8号は発売済。「コミュニズム」と銘打たれ、以下の11編が収録されています。

コミュニストの絶対的孤独――不可視委員会の新著によせて|HAPAX
黙示録的共産主義者(アポカリプティック・コミュニスト)|高祖岩三郎
自由人の共同体と奴隷の共同体|李珍景
文明破壊獣ヒビモス、あるいは蜂起派のためのシュミット偽史|混世博戯党
非統治のための用語集|NPPV(マジで知覚するためのニュアンス)
壁のしみ|ヴァージニア・ウルフ
かたつむりの内戦、小説の倫理――「壁のしみ」訳者解題|五井健太郎
「復興」共同体と同じ場所に暮れをつくりだす  廉想渉「宿泊記」(一九二八)論|影本剛
「別の長い物語り」について|食卓末席組
巨椋沼における3つの議論|Great Caldrons
分裂的コミュニズム|HAPAX+鼠研究会

★巻頭論考で言及されている不可視委員会の新著というのは、今年刊行された『Maintenant』(La Fabrique, 2017)のこと。論考の注においては「いまこそ」と訳されています。いずれ日本語訳も読めるようになるのではないかという予感がします。続く高祖さんのテクストではコミュニズムとコミュニストがこんにち何を意味するかが問われており、高祖さんはこう書かれています。「今日の「コミュニズム」の一つの大きな役割は、諸々の技術の錬磨とその共有によって、「別の存在論的地平を開拓すること」であろう。わたしたちは、今後、解放された制度を夢見ることなく、瓦解する世界の中で、いつまでも地球的闘争を生き続ける以外にないのだ」(23頁)。「世界から積極的に離脱し続けること、それが今日のコミュニストの合言葉である」(22~23頁)。『HAPAX』は常に(反)時代のアトモスフィアとともにありましたが、当号でもそうした同時代性を感じます。また、当号ではヴァージニア・ウルフの最初期の短篇作「The Mark of the Wall」(1917年)の新訳が掲載されているのも特徴的です。底本は1921年の短編集『月曜日から火曜日』。訳者の五井さんによる解題も鮮烈で興味深いです。

★作品社さんの新刊、ホブズボーム『いかに世界を変革するか』とハーヴェイ『資本主義の終焉』はともに発売済。前者はイギリスの歴史家ホブズボーム(Eric Hobsbawm, 1917-2012)の最晩年に出版された論文集『How to Change the World: Tales of Marx and Marxism』(Abacus, 2011)の全訳で、日本語版解説として水田洋さんによる「著者エリックについて」、伊藤誠さんによる「21世紀世界をどのように変えるか――本書の魅力」、中村勝己さんによる「ホブズボームとグラムシ、アルチュセール」、千葉伸明さんによる「編集後記」が付されています。巻末には人名、事項、書名、地名・国名の各種索引を完備。「マルクス、マルクス主義、さらに歴史的文脈と思想の発展やその影響との相互作用」(10頁)をめぐる半世紀以上に及ぶ著者の研究を一望できる希有な一書です。全16章の章題を列記しておくと、「現代のマルクス」「マルクス、エンゲルスとマルクス以前の社会主義」「マルクス、エンゲルスと政治」「エンゲルスの『イングランドにおける労働者階級の状態』について」「『共産党宣言』について」「『経済学批判要綱』の発見」「マルクスの資本主義に先行する諸形態」「マルクスとエンゲルスの諸著作の遍歴」(以上が第Ⅰ部「マルクスとエンゲルス」)、「マルクス博士とヴィクトリア時代の評論家たち」「マルクス主義の影響――1880年から1914年まで」「反ファシズムの時代に――1929年から1945年まで」「グラムシ」「グラムシの受容」「マルクス主義の影響力――1945年から1983年」「マルクス主義の後退期――1983年から2000年まで」「マルクスと労働者階級――長い世紀」(以上が第Ⅱ部「マルクス主義」)。

★ハーヴェイ『資本主義の終焉』は『Seventeen Contradictions and the End of Capitalism』(Profile Books, 2014)の全訳。ハーヴェイ(David Harvey,1935-)はイギリス出身の地理学者。訳書は多数ありますが、本書の共訳者の大屋定晴さんによる日本語版解説「資本主義に対する「最も危険な本」」によれば、ハーヴェイはこの『資本主義の終焉』を「私がこれまで執筆したもののなかで最も危険な本だ」と述べているとのことです。大屋さんはその発言の背景をこう説明しておられます。「本書の目的は、米国ミレニアル世代に見られる「反資本主義」的なムードを、より論理的に一貫したものにすることにある。それは資本の諸矛盾を分析することによって、「反資本主義運動」が生まれざるをえない理由を解明し、さらにこの運動がめざすべき方向を提示しようとする」。興味深いのは、ハーヴェイが「資本の領域のなかには抑えがたい諸矛盾が存在しており、それが希望の多くの根拠を与えるものである」(390頁)と本書の末尾で逆説的に述べていることです。矛盾と危機を見つめる中に変革への契機もある、ということでしょうか。彼はこうも書いています。「われわれが反資本主義的活動を通じて世界を革新的に変化させ、多様な人々が存在する別種の場所を実現するためには、いかなる種類の人間主義を必要とするのか?/私は、世俗的な革命的人間主義を明言することが喫緊の必要であると考えている」(380頁)。以下に目次を列記しておきます。

[はじめに]21世紀資本主義は、破綻するか、ヴァージョン・アップするか
序章 “資本”がもたらす矛盾について
第Ⅰ部 資本の基本的な矛盾
第1章 使用価値と交換価値
第2章 労働の価値と貨幣
第3章 私的所有と国家
第4章 私的領有と共同の富〔コモン・ウェルス〕
第5章 資本と労働
第6章 資本は過程なのか、物なのか
第7章 生産と資本増大の実現
第Ⅱ部 運動する資本の矛盾
第8章 技術、労働、人間の使い捨て
第9章 分業における矛盾
第10章 独占と競争
第11章 地理的不均等発展と資本の時空間
第12章 所得と富の格差
第13章 労働力と社会の再生産
第14章 自由と支配
第Ⅲ部 資本にとって危険な矛盾
第15章 無限の複利的成長
第16章 資本と自然
第17章 人間性の疎外と反抗
第18章 資本主義以後の社会――勝ち取られるべき未来の展望
[おわりに]政治的実践について

★ちなみに作品社さんではハーヴェイが今年上梓した新刊『Marx, Capital and the Madness of Economic Reason』(Profile Bokks, 2017)の翻訳出版の準備が進んでいるとのことです。

★シュトレーク『資本主義はどう終わるのか』は発売済。『How Will Capitalism End?: Essays on a Failing System』(Verso, 2016)の全訳です。シュトレーク(Wolfgang Streeck, 1946-)はドイツの社会学者。著書の既訳書には『時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか』(みすず書房、2016年)、共編著書の訳書には『現代の資本主義制度――グローバリズムと多様性』(NTT出版、2001年;論考「ドイツ資本主義」を収録;人名表記は「ウォルフガング・ストリーク」)があります。今回の新刊は11本の論文に書き下ろしの注記と60頁もの序文を付して一冊としたもので「どれも共通して、〔・・・〕とくにマクロ政治社会学と政治掲載学と関連のある社会科学と社会学理論にとって、2008年の金融危機が何を意味しているのかを理解しようとする継続的な試みから生まれている。〔・・・〕この論文集は、現代のグローバル資本主義体制の根底に潜んでいる資本主義および資本主義社会の長期的な危機を中心的主題としている。そして、このシステムがそう遠くない未来、それを継承するシステムも不明のまま、その内的矛盾が拡大してどのように終わりを迎えるのかについて、より具体的に考えるよう読者を促すことを目的としている」(5~6頁)とのことです。「対立と矛盾にみち、つねに不安定で流動的」(7頁)な資本主義の行方を冷徹に分析する本書について訳者は「前著『時間かせぎの資本主義』で主張された内容をさらに大きく展開した内容になって」おり、「戦後の民主主義政治体制の歴史とその背後にある思想や社会状況を検討することにより、戦後先進諸国における民主制資本主義の崩壊過程と、その将来を考察することに特徴がある」(350頁)と評しています。

★水声社さんの「叢書・人類学の転回」の新刊2点が今月刊行されています。オジェ『非‐場所』は発売済。『Non-lieux : Introduction à une anthropologie de la surmodernité』(Seuil, 1992)の全訳です。目次は書名のリンク先でご覧になれます。オジェ(Marc Augé, 1935-)はフランスの人類学者であり民族学者。既訳書には『国家なき全体主義』(勁草書房、1995年)や『同時代世界の人類学』(藤原書店、2002年)があります。訳者あとがきでは「非‐場所」について次のような説明がなされています。「三つの過剰(出来事の過剰、空間の過剰、準拠枠の個人化)によって変容した、私たちが生きるこの時は、「近代〔モダニティ〕」ではなく「スーパーモダニティ」という尺度ではかられる。そして人類学がスーパーモダニティに向き合うとき、出会う空間は、「人類学の場」ではなく「非‐場所」なのである。/「人類学の場」は社会の構造を、その複雑な構成を、意味を読みとらせてくれる場所である。住居や祭壇や広場のように、歴史をそなえ、アイデンティティを構築し、関係をうむ場所だ。その意味でスーパーモダニティに登場する空間は、「場所」ではない。空港に代表される交通の空間、大規模スーパーマーケットのような消費の空間、そしてテレビに顕著なコミュニケーションの空間は、孤独の場なのである」(169頁)。こうした「場」について考えることは「スーパーモダニティ」に翻弄されているこんにちの出版や小売を考える上でとても重要です。「「いま・ここ」の新たな理論を立ち上げる」(帯文より)という本書の試みに注目したいです。なお水声社さんではオジェの1986年の著書『メトロの民族学者』が近刊予定であるとのことです。

★同叢書ではもう1点刊行されています。ハン/ハート『経済人類学』はまもなく発売。『Economic Anthropology: History, Ethnography, Critique』(Polity Press, 2011)の全訳です。ハン(Chris Hann, 1953-)とハート(Keith Hart, 1943-)はともにイギリス出身の社会人類学者。著書の日本語訳は本書が初めて。序文では本書の試みは次のように紹介されています。「これまで経済人類学は、かの高名なマルクスやヴェーバー、デュルケームなどの近代社会理論の父祖たちと結びつけて説明されてきた。ときにその歴史は啓蒙主義時代のポリティカル・エコノミー研究者にまで遡ることもあった。だが私たちの主張は、経済人類学の中核的な問いがそれよりもはるかに古くからのものだということである。究極的には経済人類学は、人間の本性や幸福をめぐる問いに、つまりあらゆる社会の哲学者たちが原初から心を奪われてきた問いに取り組むのである。本書において私たちは、この人類全体による創造物としての「人間の経済」をあらゆる時間、空間を通して探求できるのが経済人類学だということを論証していく」(14頁)。帯文には「グローバルな新自由主義的経済に代わるオルタナティブな方法論とは?」と大書されています。版元さんのブログにはまだ本書は掲出されていませんが、遠からず目次を含めた書誌情報がアップされることと思います。

★『現代思想』12月号は発売済。人新世(アンソロポシーン)とは1万7000年前に始まった完新世に継ぐ新しい地質年代として、ドイツの大気化学の権威パウル・クルッツェンが提唱した概念。中村桂子さんによるエッセイ「「人新世」を見届ける人はいるのか」によれば、その後の国際的議論でその始まりは20世紀の後半、つまり1950年以降と考えられているとのことで、プラスチックやコンクリートなどの大量生産、エネルギー大量消費、地球温暖化、核開発による汚染など、長期間に渡り人間の営為が地層に影響を与えることが予測されるためだそうです。同特集号では、ブルーノ・ラトゥール「人新世の時代におけるエージェンシー」、ダナ・ハラウェイ「人新世、資本新世、植民新世、クトゥルー新世――類縁関係をつくる」、ティモシー・モートン「この美しいバイオスフィアは私のものではない」などの論考が読めます。なお次号となる2018年1月号の特集は「現代思想地図2018」と予告されています。

+++

[PR]

by urag | 2017-11-26 20:48 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)