ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ

2015年 08月 04日 ( 2 )


2015年 08月 04日

雑談(11)

ふたたび字数制限にひっかかりましたので、エントリーを新規に起こします。(10)ももう少し埋め立てたいと思ってはいますので、続報が(10)に投稿されたり、(11)に投稿されたり、とまちまちになるかもしれません。

◆8月4日21時現在。

歴史書版元「有志舎」の永滝稔社長がブログ「有志舎の日々」の8月1日付エントリー「出版システム危機について」で拙ブログに言及してくださっています。永滝さん、ご無沙汰しております。引用していただき光栄です。記事の主題が「栗田危機」ではなく「出版システムの危機」であることにまず注目したいです。栗田の話に始まり、有志舎さんの販売方針や新書の裏側など、同業者だけでなく、書店さんや著者の皆さんにとっても参考になるエントリーとなっていす。以下では永滝さんの記事を引用しつつ、拝読して触発されたことを綴っていこうと思います。

永滝さんはこうお書きになっておられます。「これで、新刊委託という販売方式がいかにリスクが高いか思い知ったということで、もはや書店からの注文だけを受けて出荷する注文出荷制か、トランスビュー・ミシマ社がやっている書店への直販システムしかなくなるのだろうと思います。ただ、これはリスクを低くすると同時に、必然的に商売を小さくすることになるので、これが出来るのは小規模な出版社のみとなるでしょう。大規模出版社の多くは、大量部数を市場に撒いて、それらの返品が戻る前に次の本をまた大量部数、市場に撒くことで、結果的に返品のマイナスを殆ど受けずに資金繰りをし続けるという方法をとっています。この方式を維持できないと潰れてしまうので、何としても栗田という取次を救済し、この大規模販売システムを維持し続けないといけないと考えているのでしょう」。

まず新刊委託のリスクについては、栗田の一件でさらに顕在化しましたが、少し過去を振り返ってみます。約5年前に突如として始まった取次の総量規制により、新刊委託の部数は絞られてきました。「新文化」2010年2月11日号記事「日販の総量規制が波紋/1月に5%削減出版社は悲鳴」をご参照ください。記事に曰く「日販が1月から総量規制を行ったのは、昨年7月から12月までに委託品の取扱高が前年に比べ徐々に増加していったためだ。その間、POS調査店の月別売上高は最悪で前年同月比10%減、少なくとも同6%弱減と低迷。それと同様に書店からの注文品の扱い金額も前年同月比7%弱~15%と減少していた。/そうしたなか、委託品の取扱高は月を追うごとに前年同月比ベースで増加。10月、12月は前年同月比を上回った。その一方、返品率は改善もせず、悪化すらしていたという。日販ではこの委託取扱高と店頭状況とのかい離を問題視した。/そこで、衣料品など他業界でもみられるように、市況が低迷していれば市場への送品量も少なくすべきと判断、1月から前年同期の委託総仕入れ額のうち、5%を削減目標に掲げ、現場もそれに沿って動いた。これが今回波紋を呼んだ日販の総量規制の基本的な考え方である」と。弊社のようなもともと「事前受注分のみ配本」するだけだった版元にはほとんど影響はありませんでしたけれども、取次の委託配本に部数を頼っていた版元は大幅に冊数を減らされ、少なくないダメージを受けた、という経緯がありました。二大取次の総量規制(記事には日販しか出てきませんが、トーハンでも同様の処置はありました)は衝撃的でしたけれど、返品率を改善するために取次としてもやるべきことがあったと言えます(ただしこの一件はこの理由だけで簡単に説明がつくわけではない側面もあるようです)。

取次にばかり頼っているわけにはいかない、という情勢においては書店との直取引や読者への直販が改めて注目されることになります。書店さんとの直取引は簡単そうで実はそうでもない部分があります。商品のやりとり自体は難しくはありませんが、送料がかさみますし、お金の回収も苦労することがあり、委託条件にはリスクがあります。小出版社がリスクを最小限にするためには、買取で返品なしが一番シンプルです。その場合、価格設定は書店さんの自由裁量にお任せした方がいい、というのが私の意見です。再販制の契約をしない、ということです。定価より安く売っていただいてもいいし、高くしてもいい。ただしこれができる取引相手は、弊社にとってはいわゆる新刊書店ではなく、古書や洋書、雑貨なども扱うような独立系のごく小さなお店に限られます。定価販売で縛りつけるようなことはせず、売れ残ったらディスカウントしてもらっても構わない、と。逆に、定価以上の価値がある(たとえば版元品切になってレアな商品になっている場合とか)と判断されたら、定価より高く売ってもらっても結構だ、と。卸正味を大幅に下げるのは難しいとしても、せめて価格決定権はお店に委ねるのが妥当であると考えています(とはいえ、お店の方からは安くしたとも高くしたとも聞いたことがありません。新本の値付けというものは存外に難しいのかもしれません)。

繰り返しになりますが、この方式は一般の新刊書店さんとはやるのは難しいです。新刊書店さんでは再販制が前提とされているからです。全国どこに行っても同じ値段というのは読者の利便性から言って素晴らしいシステムです。地方に行けば東京で作った本が運送料の上昇とともに高くなる、というのでは、読者の負担がかさむばかりです。再販制は一概に否定されるべきものではないのです。ただし、「本を買い取るし返品しない」という書店さんには販売価格の設定権が与えられてもいいはずだ、とも考えています。むろんそうなれば弊害も想定しなければなりません。財力のある大書店さんに人気商品ばかりが買いつけられて安売りされ、余った商品や読み捨てられた商品が結果的に大量にブックオフや古書市場に出回る、ということもありえます。再販制が外れれば、売行良好とはいえない専門書を扱う本屋さんはごく一部の専門店に限られるようになるかもしれません。結果、ある種の本は今以上に店頭では探しづらくなって、読者は品揃え豊富なアマゾンに頼るしかなくなる、と。そして大書店とアマゾンとの挟み打ちで小書店は淘汰されていく、と。ちなみに小規模書店だから潰れる、というのではないです。小さくとも魅力的で個性的な品揃えで読者をひきつけてやまない、愛される本屋さんも実在するのですから。

直取引の場合、基本的にお店ごとのやりとりになりますから、代金の回収は存外に手間取りますし、実際に相手の支払いが遅かったり帳簿管理が杜撰だったりすると苦労します。物流機能においても金融機能においても一括して窓口になって下さる取次さんの方が格段に便利ではあるわけです。しかしこの取次の役割は永滝さんの仰る「大規模販売システムを維持し続けないといけない」人々の都合によっても利用されているわけで、今回の栗田の一件はそこがアキレス腱であったとも言えるかもしれません。先日も引用したかと思いますが、小田光雄さんの「出版状況クロニクル(87)」ではこんなことが書かれています。「昨年の大阪屋の再建に当たって、37億円の増資を引き受けたのは講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、楽天、DNPであり、その前に社長として講談社の大竹深夫、小学館や集英社から取締役が送り込まれていた。/私が仄聞しているところによると、彼らの役割は増資案件の他に、高正味出版社の正味の見直し交渉があったとされるが、それらはまったく成功しなかったようだ。それゆえに、増資はクリアしても再建は片翼飛行でしかなく、今回の栗田案件とその吸収によって、かろうじての両翼飛行をプランニングしたのではないだろうか。あるいは増資に当たっての楽天やDNPに対する密約スキームのようなものであったとも考えられる」。

高正味出版社の正味の見直し交渉がもしも成功していたら、それと同時に支払いサイトの優遇も見直されていたら、大阪屋はどうなっていたでしょうか。別の未来があったかもしれませんけれど、その選択肢は今回の栗田危機でもう一度彼らの目前に置かれるようになったはずだと思います。正味や条件や支払いサイトが改定された場合、大版元にはどんな影響があるのでしょう。図体の大きな彼らは巨人であると同時に恐竜でもあります。今の出版事情は「適切な小ささ」まで縮むことを彼らに要請している一方で、紙媒体の出版以外の事業へと乗り出す新時代における「適応による変容と拡大」のチャンスを他方で与えているとも言えます。

また永滝さんはこうもお書きになっておられます。「結局、今の出版システムは大企業のためだけにあるので、我々のような小規模出版社はもうこのシステムからおりて別のシステムでやらないといけないのだろうと思います。/有志舎も、1年くらい前から大規模取次であるトーハンの新刊委託をやめました。今は、基本的には事前にファクスで書店に新刊の内容を知らせて予約をとり、予約してくれた書店にだけ本を出荷するという方式をとっています。/新刊委託をすれば、注文してくれていない書店にも強制的に新刊を送りつけられるわけですから、一時的には出荷数は伸びます。しかしその分、「こんな本、勝手に送りつけてきて。いらんわ!」と思う書店さんもあるから返品も多いので、結局、70%以上は返品されるうえに本は汚れて返ってきます。これがもう耐えられません。どの段階で汚れているのかわかりませんが、他人の本だと思ってぞんざいに扱いやがって、という怒りがわいてきます。/だから、有志舎はもう新刊委託はしないことにしました。/かといって、書店への直販へ移行することは難しい(全国たくさんの書店への配送・返品受け入れ・決済に膨大な手間とシステムが必要になる)ので、とりあえずは注文出荷制でやっていくしかないと思っています」。

実際のところ、全国書店との大規模な直取引はどの版元にも可能な選択肢であるわけではありません。「全国たくさんの書店への配送・返品受け入れ・決済に膨大な手間とシステムが必要になる」というのは大げさな話でもなく、しっかりした専任担当者がいないと直取引はままなりません。当たり前ではあるのですが、誰しもがトランスビューの工藤さんになれるわけではないのです(とはいえ、工藤さんが突拍子もないことを毎日やっているわけではないこともまた事実です。15年も持続している会社なのですから)。取次経由の注文出荷制はこれまでは配本数のもともと多くない小零細版元が中心的プレイヤーだったろうと推察できます。総量規制や栗田危機を経て、今後は中堅以上にもますます広がっていくと想像できます。これを大量販売とは正反対の「後退戦」と見る方もおられるかもしれませんけれども、もともと出版界は多品種少量販売だったはずです。ただ、より正確に言えば「多品種少量販売」も一時代の産物ではあります。

たとえば大書店で日々催されている数々のブックフェアでは、出品した本が完売となることは年々難しくなっています。フェアに出荷することにどれほどの意味があるのか、顔見せに過ぎないのか、出版社の苦悩も年々深まっています。著者関連の催事や新規開店の際の出荷も同様です。書店さんが企画したイベントに伴い著者の既刊書や新刊が大量に発注されたはいいもののの、終了後に数十冊が丸ごと返ってきた、ということが現実にありました。新規店では初期在庫として出荷したはずなのに店頭に並んでないということが起こりますし、さらに困ったことには、お付き合いは初期在庫のみで開店後にまったく相手にされない場合すらあります。フェアやイベント、採用品や新規店に要注意、ということはもうずいぶん昔から版元の間で常識になっています。返品できるのが当たり前、とは書店員さんとて思っていらっしゃらないと拝察します(片面的解約権の話とは違います。仕入の責任と精度の話です)。しかし残念ながら、軽く考えておられる方には折々に遭遇します。

書店さんに本を置いていただけるのは嬉しい、でも返品は悲しい。版元の本が悪いのか、書店の売り方が悪いのか。編集者が無能なのか、営業マンがアホなのか。間にいる取次にも問題があるんじゃないの。いやそもそも日本の景気がさ、政治が、教育が、民度が、若者が、年寄りが、云々。そうやって互いに疑心暗鬼になって犯人探しにやっきになると、魅力的な本があることや読書の楽しみといったものは背景に退きます。本当は誰しも、もっとシンプルでありたいと思っているはずなのです。

+++

◆8月6日午前1時現在。

音羽グループの一角である星海社が運営するサイト「最前線」に、8月5日付で大塚英志さんによる連載「角川歴彦とメディアミックスの時代」の第5回が公開されました。圧倒的な長文で角川ドワンゴのゆくえが考察されています。業界人必読です。

出版界を冷徹に分析するその筆致には容赦がありません。曰く「出版社としての角川はもはや消滅し、プラットフォーム企業としてのドワンゴも大きく変わるだろう。〔・・・〕経営統合がなければ、出版社としての旧KADOKAWAは経営破綻していたはずだ」。「コンテンツ企業としての旧KADOKAWAは縮小に向かっていく、という流れは明快である。それは『少年サンデー』の発行部数が40万部を切った衝撃からも明らかなように、KADOKAWAに限らない問題で、例えば、講談社と集英社の合併のような強者連合がまず起きて、それが次に外資のプラットフォーム企業と結びつく、ぐらいしか残る選択肢はないのだが、まあ何でもいい」。

昨年の大阪屋再建のための出資が4.6億円。今年は栗田への債権額が手形と売掛を合わせて8億強で出版社としては最大の債権者となっているのがKADOKAWAです。業界を支える大きな柱のひとつであるはずのKADOKAWA(出版社としての旧KADOKAWA)が、ドワンゴとの経営統合がなければ破綻していたはずだ、という分析には強烈な印象を覚えます。

後段で大塚さんはこうも書かれています。「資本主義システムの中で生きる限りぼくたちは無垢ではいられない。しかし自分のもたらしたリスクを最小化していく責任が同時にある。それがマッチポンプに見えなくもないが、そういう批判は「自分のもたらす害」を自覚できないものの幸福な特権だ。/その意味で「ニコ動」はやはり確実に「社会を悪く」した。例えばぼくは川上の中に不意にヘイトっぽいものの言い方が出てくる不用意さを幾度か感じ、批判もした。「在特会」サイトの閉鎖騒ぎはそういう脆さと無縁ではない。「2ちゃんねる」以降の世代に染みついている不用意な物言いをぼくは下の世代にしばしば感じる。星海社の人のゲラの赤入れにさえ感じる。その悪意のなさをぼくは擁護はしない」。

「自分のもたらしたリスクを最小化していく責任」という言葉の重みを感じます。それは単なる後始末ではないでしょうし、未来へと開かれたものでなければならないはずのものだ、と受け止めています。この出版業界にとっては落とし前であり、次の一歩でもあるような、そうした責任。あるいは応答可能性。コンテンツへの責任だけでなく、システム自体への。

「星海社の人のゲラの赤入れにさえ」という文章を当の版元が運営するサイトで書けるというのは、星海社さんが大塚さんを信頼しているからでしょう。ただ、軽い誤植が残っているのを見る限り、星海社さんがどこまで原稿チェックをされているのかは窺い知れないところではあります。「ここで渡邊が言う「巨大な相手」とは渡邊の中では作者個人のように思える。しかし、彼が「脅迫」下のは作者個人ではない」。「下」はひらがなにすべきところ、単純な誤変換が残ったものでしょう。いずれ修正されるものと思われます。

+++

◆8月6日14時現在。

来たる9月11日19時~21時に神楽坂・読書人スタジオで行われる「独立系出版社の挑戦――編集・販売・経営」(登壇者=共和国・下平尾直さん/堀之内出版・小林えみさん/月曜社小林)では、販売に関わるテーマとして、出版社が流通をどう考えるか、取次口座の開設を望む場合、何に注意すべきかについても話さなくてはならないと考えています。すなわち、業界内の連帯保証人が必要であることのほか、昨今の栗田事案に鑑みて、取引について栗田代理人が言い出した法的解釈「片面的解約権」や「委託買上論(新刊委託・延勘・長期は未請求でも未精算でも取次の買上であり、納品伝票とともに取次に納品されたものはすべて取次の所有物となる。ただし常備寄託は除く)」の問題点や日常業務における矛盾点、そして今後の課題や、別チャンネルでの販売の可能性について、時間の許す限りお話しするつもりです。共和国さんと堀之内出版さんは販売代行としてトランスビューさんをお使いになっておられるので、そちらのお話しもお二人からあるかと思います。

+++
[PR]

by urag | 2015-08-04 21:55 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2015年 08月 04日

雑談(10)

◆8月4日正午現在。

「雑談」は1エントリーあたり2日分の投稿をまとめていますので、今日からまた新しいエントリーに移行します。日本書店商業組合連合会(日書連)が発行する「全国書店新聞」2015年8月1日号に、「栗田出版販売民事再生について/日書連会長・舩坂良雄」という記事が掲載されています。同記事は日書連が運営するサイト「本屋さんへ行こう!」で読むことができます。「全国書店新聞」は書店員さんの立場や本音を垣間見ることのできる貴重なメディアです。出版人も読者もこうして閲覧可能になっていることには大きな意義と意味があります。勉強になりますし、たいへん役立ちます。日書連さんに感謝します。

栗田が民事再生法の適用を申請した6月26日以降、「全国書店新聞」は7月1日号、同15日号、8月1日号と発行されましたが、15日号に「栗田出版販売が民事再生/出版取次で過去最大の倒産」という簡単な記事が載ったのみで、日書連としてコメントを発表したのは今回が初めてになるかと思われます。

曰く「栗田の経営陣はこの事態を重く受け止め、これ以上の混乱を回避するため栗田帳合書店並びに出版社の意見、批判に謙虚に耳を傾けていただきたい。そして、栗田帳合書店が可能な限り通常に近い形で営業できる体制を作っていただきたい。来春に予定される大阪屋との経営統合までの期間、栗田帳合書店への安定した商品供給を継続して確保するための施策に万全を期して取り組むよう強く要望します。特に新刊配本についてはいまだ停止している出版社も多く、栗田の責任において、あらゆる手段を講じて商品調達に努めていただきたいと思います」。

→この「特に新刊配本についてはいまだ停止している出版社も多く」というくだりはある意味衝撃的です。私たち出版社が栗田から説明を受けていることとズレがあるからです。山本社長はこれまで、多くの出版社の協力と賛同を得ていると各種説明会で強調してきました。また、書店さんの現状については7月29日の「山本社長の話を聞く会」で次のように話されています。「当初は、書店からのパニック的返品や入金不良、帳合変更への恐れがあり、そうした事態を避けたかった。しかしその後は通常より多い入金があり、予定より資金繰りは良い」。

→版元サイドとしては限られた版元の現状しか知ることはできず、2000社全体としてはどうなっているかは知るべくもありません。先日お伝えした通り、7月29日時点では新提案に対する回答率は65%で、そのうち賛成している版元は債権額ベースでは90%、債権者ベースでは80%超だと山本社長は明かしていました。65%の回答率でそのうち80%の版元が承認ということは、来たるべき再生計画が採択されるかどうかがまさに当落線上にあるということを意味しています。早ければ9月、遅くとも11月に開催される債権者集会で再生計画が採択されるためには、債権額ベースと債権者ベースのともに半数以上の賛成が必要です。新提案はその票読みのためのものだ、と多くの版元が分析しています。

→新提案に賛成する版元はたいてい7月24日の最初の期限までに回答したはずです。回答を保留していた版元は「賛成しかねる」から保留しているわけなので、その意味で言えば、今回の債権届出期限ギリギリの「再々提案」=最後通牒は、賛成票がなかなか増えないからこそダメ押ししよう、となったことを推測させます。焦っているのでしょうか。このダメ押しは残念ながら、版元の出荷停止や返品拒否に対して効力を発揮することは難しいでしょう。北風と太陽の寓話を思い出しますね。栗田や代理人が焦っている、拙速だ、とここまで分かってしまうと、当然のことながら版元だけではなく、書店さんも栗田に対して自衛策を取らざるをえなくなってくるでしょう。今回の日書連の憂慮は決して軽いものではありません。もはやこれ以上黙っていられない情況になってきた、という書店さんの現実をこの声明は表しているでしょう。

→出荷停止をしている版元がどれくらいあるか、ということについては、新提案への回答率からただちに推測することはできません。新提案には二次卸スキームへの合意書が付されており、これに合意した版元は返品買取に合意したことになりますが、継続出荷の可否までは合意に左右されないのです。つまり、合意しても出荷は各版元の判断で停止しうるのですし、実際に完全停止はしないまでも、赤残が発生しない程度に出荷を抑制することは充分ありえます。栗田が本当に再生できるのかどうか不明なうちは、そうした出荷抑制が版元の取りうる選択肢のひとつです。一方、二次卸スキームを拒絶ないし保留している版元は、賛成している版元よりも一般論としては栗田に対する用心がより強いわけですから、賛成版元以上に出荷抑制や出荷停止を選択していてもおかしくはないです。そうなると、二次卸スキームに同意しようとしなかろうと、どちらでも出荷の抑制ないし停止が起こりうるということで、その数が一定数であれば、当然書店さんの商品調達は困難の度を深めることになります。その数が数十社なのか数百社なのかは分かりませんが、だいたいの数字が人づてに流れてくることもありました。

また曰く「7月6日の債権者説明会で栗田が説明した再生計画案スキームは、出版社に多重の負担を強いるものであるとして強い反発を受けています。その結果、少なからぬ出版社が栗田への出荷を停止し、返品を逆送しています。栗田が出版社の批判を真摯に受け止め、返品問題解決を検討するのは当然です。しかし、出版社の出荷停止措置で商品供給が滞れば、栗田帳合書店の経営に深刻な影響が及び、ひいては書店の先にいるお客様の読書環境を阻害する事態にもつながりかねません。日本の出版文化を守る観点からも、出荷停止措置を行っている出版社の皆様には、措置の解除に向けてご善処くださるようお願い申し上げます」。

→この「少なからぬ出版社が栗田への出荷を停止し、返品を逆送しています」という事態がどの程度の規模のものなのかは不明ですが、7月29日の「話を聞く会」で栗田の高梨取締役は会場からの質問に答えて「返品を書店に逆送することはしていない」と明言しています。この言葉を信じるなら、版元から栗田に返品が逆送されても、栗田から書店には逆送していないことになります。もし、書店さんに栗田から逆送品が届いているならば、それは由々しき事態です。事実はありのままに公表されるべきです。【4日17時追記:今のところ書店さんから「逆送があった」という声は耳にしていません。高梨取締役は「話を聞く会」と同じく7月29日に行われた書店への説明会でも「逆送しない」と明言されていたと聞いています。】

→出荷停止措置の解除について。出版社が自滅しないためには返品入帳にせよ、納品出荷にせよ、自衛的手段を取らざるをえない現状であることは明白な事実です。栗田が繰り返し強硬策を取り続けている以上、現状が変わることはありません。栗田が銀行から借金できず資金繰りに苦しんでいることは知っています。山本社長もようやく少しづつ「苦境」について版元に話すようになってきてはいます。しかし当初から変わっていないのは、版元に対する傲慢すぎる上から目線の態度です。「片面的解約権」を掲げ出版社を威圧し、出版社が未精算分の返品を買い上げるのは当然だと言わんばかりの姿勢を終始示してきました。口では「お願い」や「提案」と言っても、内実はまったくかけ離れているのです。先日も書いた通り、現状では「謝りながら相手に蹴りを入れている」状態なのです。人間性を踏みにじるようなこうした仕打ちを続けている限り、栗田が出版社の信頼を取り戻すことは不可能です。これが悪循環を生みかねない現状であることは栗田もよく理解しているはずです。たとえ再生が叶っても浅からぬ遺恨が残り、それが大阪屋へと連鎖します。大阪屋としても、これ以上版元の反発があるならば、自社に飛び火しないよう(もうすでに飛び火し始めているわけですが)、やはり「自衛」の手段を考えざるをえないでしょう。合併は火種を孕んでいるということです。合併解消やむなし、となりたくないのであれば、全力で信頼回復に努めるべきです。

→栗田は公平性の名のもとに、出荷停止版元や返品拒否版元に対して歩み寄る姿勢を一切見せてきませんでした。これもまた、どのような結果を生むのかは充分分かっているだろうと思います。栗田の一番マズい印象というのは《まるで版元からカネをふんだくらないと「負け」なのだとでも思っているらしい》というものです。必死なのは分かりますが、それが「喧嘩を売っている」ようにしか見えていないのは明らかに損ではないですか。なぜこんな当たり前のことを代理人はケアしてあげないのでしょう。出版業界を知らないから? 民事再生で反対勢力がいるのは当然だから? 栗田さんの社員さんでも「このままではマズい」と思っておられる方がいるはずです。今こそ、栗田は代理人の指示にばかり従うのではなく(たとえそうでないとしても、そうにしか「見えていない」のです)、版元と向きあって自身の抱えているジレンマを率直に話すべきです。「再生の責務を負っている」のならば、機会を逸するべきではありません。もう間に合わなくなりつつあるのですから。

+++

◆8月4日15時現在。

声明つながりの話題です。「雑談(3)◆7月17日正午現在」で書いた「出版労連は栗田事案をどう考えているのだろう、という思いが募ります」という私の疑問に対してレスポンスを下さった方がいるのを遅まきながら知りました。興味深いので引用しておきます。曰く「栗田民事再生の件で、出版労連を隠微にくさす月曜社小林。労連がこの件で声明を出すとしたらドミノ合理化問題だろ。極論すれば関係ないわけじゃないが立場は労働者だからね。むしろ、出版協(旧・流対協)の声明を紹介すべきでしょ。あえて無視してんのかな」(23:25 - 2015年7月17日)と。

レスポンス嬉しいです。ありがとうございます。率直な疑問を「隠微にくさ」したと読んでいただいたことや、私がその直前のエントリー「雑談(2)◆7月16日16時現在」で出版協の声明を紹介していたことにお気づきでない御様子なのは、議論の本筋ではないためひとまず脇におくとします。私を呼び捨てにしてくれるほど親しい友人の中にはこの方に該当する人物がいるとも思えないので他人行儀ながらgyrmjng@gye_kzmさんとお呼びしますが、「労連がこの件で声明を出すとしたらドミノ合理化問題だろ」というのはなかなか興味深いコメントです。一方「極論すれば関係ないわけじゃないが立場は労働者だからね」というのはいささか物足りない。労働者だろうが経営者だろうが出版人に変わりはないのですから、無関係ではありえないし、何も意見がないとは思えません。この「ドミノ合理化」が何を意味するのか分からないので、話の続きを聞きたいところです。ぜひどしどしツイートしてください。勉強になります。

出版労連について知らない方は同会ウェブサイトをご覧ください。巷のおしゃべりについては古いスレッドですが「出版労連ってどう?」をご覧ください。コメント110で言及されている「鈴木書店の自己破産申請に関する声明」というのを読んでみたいのですが、労連のサイト内には見つからず。読みたいなあ。

+++

◆8月4日18時現在。

7月29日の「山本社長の話を聞く会」で大阪屋の大竹社長がこんなことを仰っていました。「栗田さんからの相談は6月に入ってからあった」と。ん? 6月に入ってから? 要するに6月26日以前には知っていたということです。むろん、26日に栗田から債権版元に送られてきた最初の文書にはすでに「今後は大阪屋に請求書を送れ」と書いてありましたし、大阪屋の挨拶文も添付されていましたから、このように周到な代替システムが準備期間なしに突然稼働できるわけはありません。OKCで協業しているとはいえ、大阪屋に突然「今日倒れるから助けてね」となったわけではない。

大竹さんはご存知の通り講談社のご出身ですが、講談社の森武文専務は6月26日にこんなことをコメントされたそうです。「今は困惑している。しかし、栗田が事業を譲渡し、書店を守ることができるならば、今回の措置もやむを得ない。今後もできる限り応援したいと思う」(「新文化」2015年7月2日号;これはウェブではなく紙媒体に載ったものです)。この発言の引用のあと、「新文化」はこう続けています。「小学館、集英社も栗田を支援する考えを示している」と。出身者が大阪屋のトップにいるのに、専務が栗田のことを知らなかったとは思えません。「今は困惑している」という発言は「先日来相談されて困っている」と読まねばならないのです。小学館も集英社も当然事前に知っていたでしょう。6月26日付の山本社長の挨拶文「栗田出版販売(株)民事再生手続き開始の申立てについて」にはこう書かれています。「4月以降も売上の現状が続き、主要出版社様から資金支援を受ける状況にありました」と。つまり栗田リスクは以前から主要出版社には周知の事実だったと推測できます。

大阪屋も音羽も一ツ橋も事前に知っていたろうというのは誰でも気付いていたことだ、と仰る方もおられるかもしれません。その通りです。しかし、公的な場で「事前相談があった」ことを関係者が明かしたのはこれが初めてです。栗田事案が紛糾しているのは、この《栗田が大版元にしか相談していなかったであろう》ことが一因となっています。未精算分の商品を買い上げろ、と迫られている《支払いサイトが長い》版元たちのことなど、栗田も大手もいちいち勘定に入れている暇はなかったのでしょう。最初から「無理を言う」ことは決まっていたと言えます。

+++

◆8月5日午前1時現在。

株式会社インプレスホールディングスが8月4日付でニュースリリース「特別損失(貸倒引当金繰入額)の計上に関するお知らせ」を公開されました。「当社グループは、平成27年6月29 日に公表いたしました「栗田出版販売株式会社に対する債権の取立不能のおそれに関するお知らせ」のとおり、当社連結子会社(3社)の取引先である栗田出版販売株式会社に対する債権に対し取立不能又は取立遅延のおそれが生じております。これに伴いまして、栗田出版販売株式会社に対する売掛金の一部に対して貸倒引当金を設定し、貸倒引当金繰入額32百万円を特別損失に計上いたします」とのことです。

インプレスホールディングスさんは栗田の件では出版界の上場企業では真っ先にニュースリリースを公表されました。前回(6月29日)もそうでしたが今回の対応も他社に比べ迅速です。本日は債権額の届出期限日なので、いち早くIR情報を出されたのだと思います。

この素早い対応に比べると、出版界の上場企業の雄であるKADOKAWAの沈黙は実に不思議です。定時株主総会は毎年6月で、今年は6月23日でした。つまり、栗田事案の発生前です。総会の様子はまとめページをご覧ください。開会前の呟き「それにしてもこのチャートで株主総会を迎えるのはひどいなあ。誰がこんなに売ってるのかな。早期退職者の人たちが売ってるとしたら、売り払ってどうでもよくなった人たちが質疑応答でたくさん登場しそう」というのが気になりますが、質疑では次のようなやり取りがあったようです。

「Q4 川上さんに聞きたい。株式市場は合併をまったく評価していないと思う。1つの理由は川上さんが社長も会長もやりたくないと言っているとのことでやる気が伝わってこないことにあるのではないか」。「A4 (佐藤さんが回答)統合初期において、私の役割は次のステップにいくための基礎構築にある。その次に川上が登板する、今回は本人が社長になるべく自ら手を挙げたので、総会のあとにごあいさつしたい」。
「Q9 統合されてから株価が上がっていないけど、その理由と対策について」。「A9 株価について株主様にご心配おかけしている。業績とかIRについての反もあるが、2016年の業績予想、3年後のプランを達成し、IR活動を行うなどしてがんばっていきたい」。

さらに川上さんの挨拶から抜粋してみます。

川上「なぜこの時期に社長になったのか、そもそもなぜこのタイミング、最初からではないのか。インタビュー等は僕が社長がやるのが嫌だったからというのはリップサービス。これは若干正確ではない」
川上「今後新しい企画を考えている。現在株価は低迷しているが、カドカワドワンゴの未来は楽観しています。私もたくさん株を持っているので人ごとではない」
川上「角川は古い慣習に従っていたが、ネット時代の新しい出版社にならないといけない。アマゾンとの取引を開始したり、自前で流通センターを作ったりしようとしている」
川上「出版業界を長いことやってきて、いくつもの出版社が統合している。日本の出版社は海外と違って権利をあまり持っていないとか、海外のIPを持っている会社に比べて遅れている」
川上「10月1日に変わるカドカワという名前をIT企業として世の中に認知させたい。人工知能の研究所を作ったり、ハードウェア研究者も集めたりして、世界でもないような研究をして発信していきたい」
川上「株価の状況は私も不本意ですが、少し長い目で見守っていただきたい」

IPというのは知的財産(Intellectual property)のこと。それにしても総会が栗田事案後だったら株主から質問が出たでしょうか。大阪屋関連の質問すら出なかった様子ですから、株主の注目度は低いのかもしれません。業界内では大ごとでも、外ではちまちました出来事に見えている、とか。ちなみに2014年6月21日に行われたKADOKAWA株主総会のツイートまとめはこちら

+++
[PR]

by urag | 2015-08-04 13:23 | 雑談 | Trackback | Comments(0)