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2014年 12月 21日 ( 1 )


2014年 12月 21日

本邦初訳:ウィリアム・モリス/バックス『社会主義』晶文社、ほか

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◎フルカラー版画集『芳年』平凡社創業100執念記念出版

芳年』岩切友里子編著、平凡社、2014年12月、本体15,000円、ISBN978-4-582-66215-3
東洋音楽史』田辺尚雄著、植村幸生校注、東洋文庫、本体3,200円、ISBN978-4-582-80856-8

★『芳年』は発売済。浮世絵師・月岡芳年の画業を通覧する大判作品集。帯文に曰く「稀少な初摺の完品を可能な限り厳選し、芳年の画業船体を330余点の秀作で通覧する」と。巻頭の特別附録は4点「那智山之大滝にて荒行図」「奥州安達がはらひとつ家の図」「清盛入道布引滝遊覧悪源太義平霊討難波次郎」「藤原保昌月下弄笛図」。続くカラー図版はまず年代順に「初期の諸相」「江戸から明治へ 一魁斎の時代」「大蘇の時代」「明治の世相」と分け、さらにその後は「戯画」「円熟期の揃物」「美人画」「役者絵」「肉筆画」「版本・挿絵・素描」と分野で分けられています。巻末には、総説(編者の岩切さんによる「芳年の生涯と画業」)、図版解説、年譜、芳年錦絵作品一覧、図版索引などが揃っています。芳年の諸作品の圧倒的な迫力と寒気がするほどの凄みに時を忘れてしまう一冊です。

★『東洋音楽史』は発売済。東洋文庫の第856巻です。帯文に曰く「西アジア、インド、中国、朝鮮、そして日本に伝播・発展した東洋音楽が、西洋音楽との融合によって、理想の音楽として宇宙に鳴り響くことを説いた、世界初の「東洋音楽史」を再読する」。親本は雄山閣版「東洋史講座」第13巻(1930年)。「緒論」「中亜音楽の拡散」「西亜細亜音楽の東流」「回教及び蒙古勃興の影響」「国民音楽の確立」「欧洲音楽の侵入と東洋音楽の世界化」の六章立てで巻末に植村さんによる校注と解説「「東洋音楽」という夢」が付されています。東洋文庫の次回配本は1月、『バーブル・ナーマ3』です。


◎『現代思想』2015年1月臨時増刊号は2点、ピケティと柄谷行人

現代思想 2015年1月臨時増刊号 総特集=ピケティ『21世紀の資本』を読む――格差と貧困の新理論』青土社、2014年12月、本体1,300円、ISBN978-4-7917-1289-2
現代思想 2015年1月臨時増刊号 総特集=柄谷行人の思想』青土社、2014年12月、本体1,300円、ISBN978-4-7917-1290-8 

★ここ数年、臨時増刊号の発行が増えている印象がある「現代思想」誌ですが、同じ月に2冊の臨時増刊号が出るというのは前例がなかったかもしれません。2点とも通常号よりはヴォリュームが薄めですが、この2冊の間にはいわば「マルクス」の臨在もしくは不在が鳴り響いているわけで、ある意味でこの2冊は「ポスト・マルクス」特集の2分冊であると言えるかもしれません。

★ピケティ特集は言うまでもなく2014年のビジネス人文書では最高の話題作『21世紀の資本』(みすず書房、2014年12月)の発売に合わせた増刊号。ピケティへのインタヴュー2本「マルクスなんてどうでもいい――左翼ロックスター経済学者へのインタビュー」(I・チョティナー聞き手、本橋哲也訳)、「資本、労働、成長そして不平等」(N・ピアス+M・オニール聞き手、渡辺景子訳)のほか、クルーグマン「私たちはなぜ新たな金ぴか時代に居るのか」(山家歩訳)、ハーヴェイ「ピケティ『資本』への補足」(長原豊訳)、ジジェク「主体性の唯物論的理論に向けて」(松本潤一郎訳)などの論評を読むことができます。

★柄谷特集は同誌の1998年7月臨時増刊号「総特集=柄谷行人」以来の久しぶりのフィーチャーになります。柄谷さんと佐藤優さんの異色対談「柄谷国家論を検討する――帝国と世界共和国の可能性」に始まり、対談がさらにもう1本、インタヴューが3本、テクストが再掲1本(「ポール・ド・マンは何を隠したのか」)を含む2本収められています。そして柄谷論として、ジジェク「視差的視点」(遠藤克彦訳)をはじめ8本が掲載。目次詳細は同号のリンク先をご覧ください。ピケティ特集と柄谷特集のどちらにもジジェクが顔を出しているということにも注目しておこうと思います。


◎晶文社版『吉本隆明全集』第4回配本第5巻と、ウィリアム・モリス『社会主義』初訳

吉本隆明全集5[1957‐1959]』晶文社、2014年12月、本体6,400円、ISBN978-4-7949-7105-0
社会主義――その成長と帰結』ウィリアム・モリス+E・B・バックス著、大内秀明監修、川端康雄監訳、晶文社、2014年12月、本体2,300円、ISBN978-4-7949-6775-6

★『吉本隆明全集5』は発売済。第4回配本です。帯文に曰く「最初の単行本である作家論『高村光太郎』と、初期の重要な評論「芸術的抵抗と挫折」「転向論」、および花田・吉本論争の諸篇を収録する」。単行本未収録で本全集が初収録となるのは「内的な屈折のはらむ意味――『井之川巨・浅田石二・城戸昇詩集』(1958年)。『高村光太郎』(飯塚書店、1957年)、『芸術的抵抗と挫折』(未來社、1959年2月)、『抒情の論理』(未來社、1959年6月)、『異端と正系』(現代思潮社、1960年)へと「評論家」としての地歩を固めていった時期の吉本を通覧できます。付属する「月報4」には、北川太一「吉本と光太郎」、ハルノ宵子「ノラかっ」を収録。第4巻と第6巻のそれぞれの解題にかんする訂正事項も特記されています。次回配本は来年3月、第9巻(1964-1968)とのことです。

★『社会主義』は発売済。原書は、Socialism: Its Growth and Outcome (1893)です。カバーソデの紹介文を引くと、「アーツ&クラフト運動の第一人者として知られるウィリアム・モリスは19世紀末、社会主義運動に精力を注ぐ。〈社会主義同盟〉を結成し、機関紙「コモンウィール」を創刊。学識に富む若き同志E・B・バックスとの共同執筆のかたちで「社会主義――その根源から」という長期連載をはじめる。そこでは「世直し」の思想を根源にまでさかのぼり、オウエンやフーリエなどの思想や運動を点検し、「科学的社会主義」としてマルクスの『資本論』を紹介・・・そのうえで独自の共同体社会主義のヴィジョンを提起した。マルクス=レーニン主義の系譜とは異なるもうひとつの「社会主義」の誕生である」。

★また、版元サイトではこんなふうにも紹介されています。「経済の先行きが不透明な現代、「コミュニティデザイン」「ソーシャルデザイン」といった新しい発想方法が生まれている。本著は人文読者やデザイナー、そしてあらゆる設計にかかわる読者に訴求できる内容になっている」と。モリスたちはポーの小説からある場面を抜き出し、病んだ社会のシンボルを読者に突きつけるところから話を始めます。人間は「様々な時代を経て成長してきたものであり、それが置かれた状況により、たえずかたちづくられるものなのである」(24頁)とモリスたちは書きます。社会主義とは「人間を高めて、知的な幸福と喜ばしい活力をいまだ到達しえない次元にまで導く」(234頁)ものであり、「近代の資本主義社会と比べて相対的に平等な状態」(210頁)を目指すだけでなく、さらにその先へと進む運動だと教えています。120年近く前の本ですが、広義の「デザイン史」を捉え直す上で欠かせない基本文献であると言えそうです。

★なお晶文社さんでは今月、シャスティン・ウヴネース・モベリ『オキシトシン【普及版】――私たちのからだがつくる安らぎの物質』(瀬尾智子・谷垣暁美訳、晶文社、2014年12月、本体1,800円、ISBN978-4-7949-6866-1)が再刊されています。親本は2008年刊。オキシトシンについては近年関連書が増えており、精神科医の岡田尊司さんは本書に「愛と幸福のホルモン・オキシトシン。その全容を基礎からわかりやすく学べる絶好の入門書である」との推薦文を寄せられています。


◎アメリカ人親子の67日間にわたる日本列島縦断自転車旅行記

スコット親子、日本を駆ける――父と息子の自転車縦断4000キロ』チャールズ・R・スコット著、児島修訳、紀伊國屋書店、2015年1月、本体1,900円、ISBN978-4-314-01123-5

★発売済。著者はインテル社出身の作家で冒険家という肩書の持ち主で、本書では、作家デビューする前の2009年の夏、著者が41歳の折に8歳の息子を連れて自転車で日本縦断の旅をした67日間の体験が綴られています。彼らはこの旅を通じて国連が推進する「10億本植樹キャンペーン」のチャリティ募金に協力し、国連から「地球温暖化を救うヒーロー」と命名されたのだとか。奥さんが日本人で国連職員なので、出来レースなのかと疑う方もいらっしゃるかもしれませんが、インテルから長期休暇をもらい、北海道・宗谷岬から鹿児島県・佐多岬まで、真夏の日本を35キロもの装備品をぶら下げてひたすら自転車で移動しながらテント生活をするなどという行為は、伊達や酔狂でできるものではありません。

★父と息子の道中記は様々な人々との出会いあり、自然との触れ合いあり、波乱とトラブルありで飽きさせません。特に、ワークライフバランスについて、あるいは子供と過ごす時間について悩んでいる読者にとっては色々なことを考えさせてくれる本です。原著は、Rising Son: A Father and Son's Bike Adventure across Japan (Thrd Wheel Press, 2012)で、訳書では分量の都合で一部割愛しているとのことなので、原書を一緒に読むのもいいかもしれません。訳者の児島さんは紀伊國屋書店さんのPR誌「スクリプタ」2015年冬号(34号)で、本書の最大のメッセージのひとつは「自分に正直に生きるのを恐れてはいけないということ」だと指摘されています。胸に刺さる言葉です。


★なお、本書の出版を記念して来年1月8日(木)19:00より紀伊國屋書店新宿南店3階イベントスペース〈ふらっとすぽっと〉にて、スコットさん親子のライブトーク(通訳付き)が開催されるとのことです。


◎「出版人に聞く」シリーズ第16弾は井家上隆幸『三一新書の時代』

『三一新書の時代』井家上隆幸著、論創社、2014年12月、本体1,600円、ISBN978-4-8460-1379-0

★発売済。「出版人に聞く」シリーズ第16弾です。帯文にはこう書いてあります。「1958年に三一書房に入社し、73年に退社した著者は、60年安保闘争・70年大学闘争に「三一新書」の編集者として対峙する。左翼と「三一新書」の蜜月時代の軌跡を辿る」。井家上さんは当時をこう回想しておられます。「高度成長期の60年代は合同新書や青木新書や大月新書なども出て、その他にも左翼向けの新書がかなりあった。それでも今みたいに画一化しておらず、食い合うような内容を避け、各編集者は自分のところのオリジナリティをどうやってつくっていくかという思いがこめられていた」(101頁)。いわゆる新書ブームあるいは新書創刊ラッシュは50~60年代に始まり近年では90年代からゼロ年代にも起きています。井家上さんが三一新書で活躍されたのは、若い世代の中で政治的に今以上に元気だった時代であり、高度成長期の活気が渦巻いていていたことが見て取れます。

★井家上さんはこうも語っておられます。「後悔していないけれど、学生運動に入れこんでいたので、『資本論』を読むとかの正統的なマルクス主義の勉強をしている暇がなかった。せいぜいパンフレットを読む程度だった。だから僕はパンフレット左翼だと自嘲しているんだけど」(52頁)。「本当は三一書房に入ってから、もう少しアカデミックな勉強もすればよかったんだろうけど、色んな人に会ったりするのが面白くなってしまい、またしてもそれに入れこんでしまった。でも考えてみると、自分の資質がそちらに向いていたんじゃないかという気もしたわけです」(52-53頁)。ここには生き様としての編集者の愉しみが見て取れるように思います。編集者はアカデミックの諸領域を越えて自由にあちこちへ知の探求に出かけることを職業的に許されている特異な存在です。かつても今もそれは本質的には変わりません。
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by urag | 2014-12-21 23:04 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)