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2014年 12月 07日 ( 1 )


2014年 12月 07日

注目新刊と既刊:ホッブズ『リヴァイアサン』光文社古典新訳文庫、ほか

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◎古典の新訳が続々と――空海、アリストテレス、ホッブズ、フーコー

弁顕密二教論』空海著、加藤精一訳、角川ソフィア文庫、2014年11月、ISBN978-4-04-407273-2
アリストテレス全集(2)分析論前書/分析論後書』岩波書店、2014年11月、ISBN978-4-00-092772-7
リヴァイアサン(1)』ホッブズ著、角田安正訳、光文社古典新訳文庫、2014年12月、ISBN978-4-334-75302-3
言説の領界』ミシェル・フーコー著、慎改康之訳、河出文庫、2014年12月、ISBN978-4-309-46404-6

『弁顕密二教論』は発売済。ソフィア文庫「ビギナーズ 日本の思想」シリーズでの加藤精一さんによる空海の現代語訳は、『三教指帰』(加藤純隆共訳、2007年9月)、『秘蔵宝鑰』(加藤純隆共訳、2010年4月)、『般若心経秘鍵』(2011年5月)、『即身成仏義/声字実相義/吽字義』(2013年7月)に続き本書が4冊目。同文庫から入門書『空海入門』(2012年4月)も上梓されています。空海が唐への留学から帰国したのが30代前半。密教の教えを顕教と比較して解説した本書を執筆したのは帰国後ほどなくではないかと推測されています。加藤さんは「空海の真言教理の基礎」と訳者あとがきで評価されておられます。

『アリストテレス全集(2)分析論前書/分析論後書』は発売済。第7回配本。西洋史における初めての論理学書として名高い『分析論前書』(今井知正・河合淳訳)と『分析論後書』(高橋久一郎訳)を収録。巻末には「推論表」あり。旧全集では『分析論前書』は井上忠訳、『分析論後書』は加藤信朗訳で、山本光雄訳『カテゴリー論』『命題論』とともに第1巻(1971年)に併録されていました。今回の新訳に付属する「月報7」では、八木沢敬「アリストテレスとM」、野本和幸「アリストテレス遠望・近景」を掲載。次回配本は今月(2014年12月)18日、第19巻『アテナイ人の国制/著作断片集(1)』です。

『リヴァイアサン(1)』は発売済。全2巻予定。第1巻では第1部「人間について」全16章を収録。言うまでもなくホッブズの主著であり、「万人の万人に対する闘い」という人間のありようを鋭く抉った名言で知られています。同書の既訳には、水田洋訳岩波文庫全4巻(全4部全訳)や、永井道雄・上田邦義訳中公クラシックス版全2巻(第1部と第2部の全訳、第3部と第4部のみ抄訳)などが現在でも入手可能ですが、元を辿ると前者は1940年代末、後者は70年代初頭が最初の出版で、殊に水田訳は幾度となく改訳されて90年代に現行版へ至っている労作です。今回の新訳は、全2巻であることと、第1巻の訳者あとがきの末尾に「できるだけ早く第二部をお届けするべく」とあるので、あるいは第3部と第4部は解説もしくは要約のみになるのかもしれません。訳者あとがきには翻訳のご苦労が率直に綴られていて、新訳への興味は尽きません。

ホッブズについては周知の通り今月は岩波文庫から『ビヒモス』(山田園子訳)がまもなく出ます。同じく今月発売と予告されていた京都大学学術出版会の「近代社会思想コレクション」の『物体論』(本田裕志訳)は最新情報によれば、来年度以降(つまり来春)の発売に延期になったようです。

『言説の領界』は発売済。1970年12月2日のコレージュ・ド・フランス開講講義である「L'ordre du discours」の42年ぶりの新訳と謳われています。これは中村雄二郎さんによる既訳『言語表現の秩序』(河出書房新社、1972年初版;改訂版1981年;新装版1995年)の初版から数えた数字ですが、改訂版から数え直しても33年ぶりです。既訳はさほど入手が難しい本ではありませんが、新装版についてはさほど廉価にはなりにくいようです。1984年のフーコーの死に至るまでのコレージュ・ド・フランス講義は筑摩書房より現在刊行中の『ミシェル・フーコー講義集成』全13巻に明らかですけれども、開講記念講義の日本語訳は本書に依るしかありません。この講義(正確に言えば講義原稿)を読む人は誰しも、フーコーの前任者にして恩師である哲学史家ジャン・イポリット(Jean Hyppolite, 1907-1968)への讃辞に紋切型の挨拶以上の重みを感じるに違いありません。最上段写真に見る通り、イポリットの単著(小冊子を除く)は死後刊行の2分冊の論文集を除いてすべて邦訳されています(論文集も論文単位では邦訳があるものもあります)。先達のご尽力に深く感謝したいです。


◎レオ・シュピッツァーの単著本邦初訳

言語学と文学史――文体論事始』レオ・シュピッツァー著、塩田勉訳、国際文献印刷社、2012年7月、ISBN978-4-902590-22-7

山本貴光さんの新著『文体の科学』(新潮社、2014年11月)にその存在を教えられ、早速購入しました。シュピッツァーの単独著書の本邦初訳がまさか2年も前に刊行されていたとは。まったく日本の出版界が作りだす森は深く、侮りがたいです。同書は特記されていませんが、Linguistics and Literary History (Princeton University Press, 1948)の訳書です。目次内容は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきによれば、本書は40数年前に原子朗さんから依頼されたものだそうです。おそらく当時原さんは早稲田大学出版部にお勤めだったことと思われます。塩田先生は早稲田大学で教鞭を執られている間に約半分までお訳しになり、退官後に完成されたとのことで、長い道のりと御苦労があったことと拝察します。

国際文献印刷社(現:国際文献社)さんの本は、同社のウェブサイトから代引きで購入することができるほか、アマゾン内の同社ショップ「学術書籍netショップ」より買うことができます。書店であまり見かけないのは直販を主体とされているからのようで、取次は鍬谷書店扱いと聞いています。売り切る自信のある書店さんはぜひ挑戦されてみて下さい。『言語学と文学史』はかのアウエルバッハが書評を書いています。アウエルバッハやクルツィウスの本が店頭で回転しているお店ならば、シュピッツァーも絶対に(あえて強めに言います)売れるはずです。

塩田先生は、日本でのシュピッツァー(Leo Spitzer, 1887-1960)の認知度の低い理由をいくつかあとがきで指摘されていますが、その一端は彼の守備範囲の広さと多言語使用にあると書かれています。シュピッツァーの全貌を視野に収めるのは容易ではないことは確かです。私自身の貧しい体験談で恐縮ですが、文体論とは異なる特異な分野において彼の業績に気づいた時、ここにもすでにシュピッツァーがいたと心底感動したものでした。今なおその感動は薄れていません。『言語学と文学史』をきっかけに読者が増え、シュピッツァーの冒険が続々と見直されていくようになることを一出版人として待望せずにはいられません。
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by urag | 2014-12-07 22:31 | Trackback | Comments(0)