先日、文化系トークラジオLifeの番外編「『ニッポンの思想』をめぐって」に参加しました。佐々木敦さんの書き下ろし作『ニッポンの思想』(講談社現代新書)をめぐる議論にゲストとして呼んでいただいたのです。番組サイドのパーソナリティが、斎藤哲也さん、仲俣暁生さん、charlieこと鈴木謙介さん(電話参加)の3氏で、メインゲストが佐々木さんでした。私は佐々木さんが『ニッポンの思想』でお書きになっている80年代からゼロ年代まで(ニューアカからゼロアカまで)の風景を、本の販売/営業サイドから裏書するような証言ができればよかったのですが、いかんせん私の力不足であまり貢献できませんでした。その反省を踏まえて、ラジオ収録のためにもともと準備していたあれこれの資料を事後的にですが再整理してレジュメにまとめたのが以下です。推敲の余地はまだまだたくさんあるものの、LIFE「『ニッポンの思想』をめぐって」のフォローとして公開いたします。
◎「人文書の購書空間の変容から見る80年代~ゼロ年代」 *「購書空間」・・・取次最大手トーハン出身の出版研究家・柴野京子(1962-)さん『書棚と平台――出版流通というメディア』(09年8月刊、弘文社)から借用。 *人文書販売の牙城(現在)・・・いわゆる「超大型書店」。500坪以上のナショナル・チェーン店(全国展開しているチェーン店)。「メイン」となるのは全国で100軒~150軒程度では。さらに「コア」となるのは30店と見ていい。 ■80年代「人文書販売の全盛期」(小林:中、高、大前半の学生時代) ・80年代を象徴する書店・・・リブロ池袋店(特に「今泉棚」が有名)。参考文献:田口久美子『書店風雲録』(ちくま文庫)。 ・番組内でいくつかご紹介した通り、幸福なエピソードには事欠かない。「ニューアカ特需」。参考:ウラゲツ☆ブログ(05年8月22日)「「ニューアカ」系図におけるリブロ池袋店全盛期」 ・ニューアカの4人(蓮実・柄谷・浅田・中沢)の台頭にも関わらず、棚ではあいかわらず吉本隆明の占める位置が大きかったし、実際に売れていた。 ・ニューアカ系の書棚づくりで参考になったのは彼らメインプレイヤーの著書ではなく、『わかりたいあなたのための現代思想・入門』(84年12月、別冊宝島)。 ■90年代「人文書販売の斜陽期」(小林:未来社営業部~哲学書房編集部~作品社営業部) ・バブル崩壊の影響。経済の低成長時代。前半期はまだ持ちこたえていたが、後半期より、いわゆる「出版不況」。なし崩し的な崩壊過程に入る。 1)金利が抑えられたため、かえって書店は「大型化」の時代を迎えた。代表格はジュンク堂書店。 2)全国主要都市での大型書店の増加に伴い、いわゆる「町の本屋」が消えて行き、その反面、郊外型書店が増加。郊外店の代表格は文教堂。 3)書店は大型化するだけでなく、複合化(CD/DVDセルレンタル売場の併設)していった。複合店の代表格はTSUTAYA。 4)不況に伴い文庫本や専門書の高額化。版元の長期低迷と「ベストセラー」頼み。 5)不況で一番アオリを食らったのは「美術書」。90年代後半に専門版元が相次ぎ倒産(光琳社、京都書院)。 6)セゾン文化最盛期の終焉。(=広告文化最盛期の終焉?) 販売面・・・リブロから大量に人材流出。 出版面・・・リブロポートとトレヴィルの廃業。(トレヴィルはその後、エディシオン・トレヴィルとして復活) 7)業界本では、藤脇邦夫(1955-:白夜書房営業部所属)『出版幻想論』(94年5月刊、太田出版)と『出版現実論』(97年11月刊、太田出版)が良く読まれた。 ・ニューアカ残照期。佐々木さんが挙げられた90年代を代表する3名(福田・大塚・宮台)のメイン売場はいずれも人文書ではなかった。 福田和也/大塚英志・・・主に「文芸」(評論)の扱い。 宮台真司・・・主に「社会」の扱い。 ※多産性の要求される時代・・・市場から忘却されない速度で書き続け出版し続けなければならない悲劇。 ・ニューアカシフトの棚が通用しなくなっていき、「構造主義~ポスト構造主義」や「記号論」の棚が解体されはじめ、以後は「哲学思想」棚の中の「フランス現代思想」として大きく括られる。 1)構造主義を代表する4名(レヴィ=ストロース/ラカン/アルチュセール/バルト)の分解と、哲学思想棚からの移動。 レヴィ=ストロース・・・人類学の棚へ(人文書内の移動) ラカン・・・心理学の棚へ(人文書内の移動) アルチュセール・・・80~90年代は新刊が少なく影が薄くなり「フランス現代思想」の棚で亡霊化。 バルト・・・文芸評論の棚へ(人文書外への転出) 2)ポスト構造主義を代表する4名(フーコー/ドゥルーズ(およびガタリ)/デリダ/リオタール)もまた新刊がさほど多くはなく、存在感が薄まり出す。特にデリダの日本語訳は死後出版の点数が多い。 3)ポスト構造主義以後は大きな話題となる思想潮流に乏しい(実際にはたくさんの思想家が訳されているのだが)。 ・それでも色々話題はあった90年代。 「批評空間」創刊・・・91年4月。「柄谷=浅田」ラインの全盛期。 「インターコミュニケーション」創刊・・・92年4月。創刊当時の編集委員は浅田彰、伊藤俊治、武邑光裕、彦坂裕。 「知の技法」・・・94年4月。東大表象文化論系「教科書」のヒット。知の三部作(~96年7月)。編者は小林康夫、船曳建夫。(担当編集者の羽鳥和芳氏は09年に退職後、「羽鳥書店」を立ち上げている。) 「カルチュラル・スタディーズ」への注目高まる・・・96年以後。 雑誌・・・96年に『思想』『現代思想』で相次ぎ特集。 単行本・・・99~02年にかけて入門書が相次ぎ出版。個々の研究書の翻訳が増えるのはゼロ年代になってから。 「新興出版社の台頭」・・・人文系の代表格は「藤原書店」。高額で分厚いブローデル『地中海』が良く売れた。 ■ゼロ年代「人文書販売の再編期」(小林:「月曜社」時代) ・出版不況の長期化。 1)取次が倒産する時代に突入。人文書販売を陰で支え続けた「鈴木書店」が00年12月に倒産。 2)チェーン書店のスクラップ&ビルドはまだまだ続く。総体としては書店数の減少に歯止めがかからず。 3)刊行点数の上昇も止まらず。返品率は慢性的に高く、委託制や再販制の負の側面が否応なく明らかになる。 4)後半期の特徴 *雑誌広告収入が激減し、廃刊相次ぐ。 *本格的な業界再編。草思社が自費出版系最大手「文芸社」傘下に。青山BCが古書店チェーン大手「ブックオフ」傘下に。丸善やジュンク堂、TRC(図書館流通センター)が「大日本印刷」グループに。 *著作権ビジネスに黒船?・・・Googleブック検索。 5)オンライン書店(ネット書店)の台頭。アマゾン(00年11月オープン)、bk1(00年7月オープン)など。 6)オンライン古書販売の活性化。「日本の古本屋」「スーパー源氏」「AMP(アマゾン・マーケット・プレイス)」。 7)個性派古書店やブックカフェのオープンが増える(新刊書店のオープンは経営的敷居が高すぎるという背景)。 8)ブック・コーディネーターの出現。業界外での書籍販売の活性化。代表格は幅允孝や内沼晋太郎。 9)人文系小規模出版社や大学出版会が徐々に増える。 人文系小規模出版社・・・月曜社(00年12月~)、株式会社批評空間(01年2月~02年8月)、トランスビュー(01年4月~)、双風舎(03年9月~)、書肆心水(04年8月~)、洛北出版(04年9月~)、左右社(05年4月~)、有志舎(05年11月~)、ミシマ社(06年11月~)など。 大学出版会・・・麗澤大学出版会(99年3月~)、上智大学出版(99年3月~)、聖徳大学出版会(02年9月~)、弘前大学出版会(04年6月~)、武蔵野大学出版会(05年4月~)、東京農工大学出版会(06年11月~)、東京外国語大学出版会(08年10月~)など。 10)業界本で話題になったのは、佐野真一『だれが「本」を殺すのか』(01年2月、プレジデント社)。ただし、資料として役に立つのは小田光雄(1951-:パピルス社主)『出版状況クロニクル』(09年5月、論創社)。 ・新書創刊ラッシュ。人文書ネタが増えるも、新書の刊行点数維持の過酷さは書き手も編集者もともに疲弊させた。雑誌並みに「読み捨て」られる本の大量生産。 ・佐々木さんが大別された三種類(広義の「左翼」本/「賢者の教え」本/「東浩紀もの」)以外のトピック 1)人文書でも「科学」ブーム。特に脳科学。代表格は茂木健一郎。90年代は養老孟司や布施英利らの解剖学者系が強かった。90年代以後、生命論系も着実に成長。中村桂子(ゲノム)、多田富雄(免疫)、福岡伸一(生物)、郡司ペギオ-幸夫(理論生命科学)など。 2)古典新訳ブーム。90年代は長谷川宏のヘーゲル、ゼロ年代は「光文社古典新訳文庫」。 ・営業現場における「ゼロ年代の書き手」の定義・・・70年代生まれ以後で、00年代にデビューした若手のこと。シンボルは東浩紀。左右関係なく、現在は分類前の「ごった煮」の情況。書店店頭でPOS管理するための「棚分類」としては定着していない。 *** 以上、あくまでも小林の主観で作ったものなので、歴史の細部では事実と比してズレのある説明も多々あると思います。09年9月14日作成:小林浩(月曜社)
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