ウラゲツ☆ブログ

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2009年 05月 18日

注目新刊:古典篇

◎注目新刊【古典編】

生物の驚異的な形
エルンスト・ヘッケル:著 小畠郁生:日本語版監修 戸田裕之:訳
河出書房新社 09年4月 本体2,800円 A4変型判並製144頁 ISBN978-4-309-25224-7
■内容(帯文&版元ウェブ紹介より):太古の原生生物から無脊椎動物、植物から動物まで……なぜ自然界はこんなにも美しいのか? アール・ヌーヴォーに影響を与え、ヨーロッパ中で100年以上愛されてきた、ドイツの博物学者ヘッケルの《芸術的な生物画集》、待望の刊行! 系統発生は個体発生を繰り返すという「生物発生原則」を主張し、系統樹を初めて発案し、ダーウィンの進化論を強力に支持したドイツの博物学者エルンスト・ヘッケル(1834-1919)。画家を志したこともあるヘッケルが、対象性と秩序をテーマに描いた本書は、ヘッケルの思想を表す集大成となっている。また、その息を呑むような美しさから、アール・ヌーヴォーやユーゲントシュティールといった20世紀初頭の芸術や建築にも大きな影響を与えた。放散虫や珪藻類、植物などの精緻な100枚の図版が、見たこともなかったような生物の「かたち」の世界へと読者をいざなう。リヒャルト・ハートマン:序文/オラフ・ブライトバッハ+イレネウス・アイブル-アイベスフェルト:解説。荒俣宏氏推薦「生物学者も芸術家も建築家もびっくりした生きものの「かたち」のひみつ。進化論学者ヘッケルが、美の進化をも発見した!」
●とにかく「美しい」の一言です。人によってはグロテスクで苦手、という反応もあるかもしれませんが、生物のかたちと色の法則性に迫るその繊細で写実的な絵筆は、公刊から百年以上経った今も、見る者を圧倒し、生物の美の再発見へといざないます。ダーウィン『種の起原』新訳が朝倉書店より刊行され、ゲーテの『形態学論集』全二巻(植物篇動物篇)がちくま学芸文庫から刊行された昨今、芸術書と理工書とを大胆に結ぶ、「かたち」(そして広義の「デザイン」)というテーマが、書店さんの売場でもっとクローズアップされると良いなと思います。

プリニウス博物誌 植物篇植物薬剤篇
大槻真一郎:責任編集
八坂書房 09年4月 本体各7,800円 菊判上製632頁/576頁 ISBN978-4-89694-931-5/932-2 
■版元紹介文【プリニウス博物誌[全2巻]】:博物学史上不変の世界的名著より、植物に関する部分をラテン語原典より翻訳。植物誌、言語、文化、歴史、民俗各方面におよぶ豊富な訳注を付す。〈植物篇〉では約600種、〈植物薬剤篇〉では約1200種もの植物を記載する。
■版元紹介文【植物篇】:内容 地中海世界を中心にペルシア、アラビア、インドをも含む地域に生育する植物約600種を収録。性状や栽培法はもとより、食用、薬用、酒、香料、木材などへの利用法を、神話・伝説・歴史にもふれながら詳述する壮大な植物誌。
■版元紹介文【植物薬剤篇】:内容 野菜、草花、果物、樹木、穀物など約1200種におよぶ植物を、様々な病気に効く医薬として、また染料、洗剤、毒薬、媚薬などとして網羅した、古代薬物知識の集大成。記載の薬効は6000種以上におよび、その製法と処方が詳述される。
●94年に初版が刊行されて以来、久しぶりの新装版です。この機会に買っておかない手はありません。プリニウスの大著『博物誌』全37巻はかつて、中野定雄さんらによる全訳(英訳からの重訳)が雄山閣出版より1986年に全三巻本(セット定価45,000円)で刊行されていましたが、現在は品切。八坂書房版はラテン語からの初訳になります。植物篇は『博物誌』の第12巻から第19巻、植物薬剤篇は第20巻から第27巻にあたります。植物篇のあとがきでは、『博物誌』の宝石篇が某出版社で刊行予定、と予告されていましたが、未刊の様子。
●帯文に引用されている澁澤龍彦『私のプリニウス』からの一節:「プリニウスが扱っている領域は天文地理から動植物や鉱物、さらには技術や芸術をふくめた人間の文化にまでおよんでおり、なかでも植物や動物の薬品としての効能や利用法に多くの巻があてられているのは、魔術と未分化の状態にあった当時の科学のなかで占めていた薬物学の重要性を示すものだろう」。『私のプリニウス』は河出文庫版などで読むことができます。
●『プリニウス書簡集』(講談社学術文庫)の著者プリニウス(小プリニウス)は、『博物学』の著者プリニウス(大プリニウス)の甥にあたります。別人です。

女の平和
アリストパーネス:著 オーブリー・ビアズリー:挿絵 佐藤雅彦:訳
論創社 09年5月 本体2,000円 四六判上製256頁 ISBN978-4-8460-0950-2
■帯文より:豊雛挿し絵を伴って待望の新訳刊行! いま、なが~い歴史的な使命を終えて息もたえだえな男たちに代わって、女の時代がやってきた。
■版元紹介文より:2400年の時空を超えて「セックス・ボイコット」を呼びかける、古代ギリシャの反戦喜劇。待望の新訳刊行!
■訳者あとがきより:「『女の平和』は、今から2400年以上もまえの紀元前411年に、古代ギリシアの都市国家アテーナイで上演されました。そして2003年。馬鹿げた戦争をくい止めるために何かできないかと考えた人々が全世界に呼びかけて、いっせいに古代ギリシアの反戦喜劇『女の平和』の朗読会を行いました。その規模は59か国、1000か所以上に及び、史上最大の朗読会になりました。リトアニアではビルデ・ヴェイサイテ議員が「対イラク戦争を支持する男とセックスするのはやめましょう!」と宣言しました」。
●訳者の佐藤さん(1957-)は、翻訳家でありジャーナリストでいらっしゃいます。著書には『現代医学の大逆説』(工学社、2000年)や『徹底暴露!! イラクの侵略とホンネと嘘』(鹿砦社、2004年)などがあります。アリストパネスの劇作『女の平和(リューシストラテー)』の日本語訳は、高津春繁さん(こうづ・はるしげ:1908-1973)の訳でしか読めませんでした(岩波文庫、ちくま文庫など)。じつに半世紀ぶりの新訳となります。佐藤さんの訳は現代語訳と言ってよく、物語がかなり身近に感じられるようになっています。冒頭部分を高津訳と対比させてみましょう。

【高津訳】(岩波文庫『女の平和』7-8頁/ちくま文庫『ギリシア悲劇II アリストパネス(下)』133頁)
リューシストラテー:ほんにお酒の神様のお社に呼ばれたか、パーンか愛の女神のコーリアスさまか、ゲネテュリスさまのお社にだったら手太鼓の群れのため通行さえできないところなのにねえ。ところが今はたった一人の女の人さえここにいやしない。と思ったら、ほらあそこにご近所の女〔ひと〕がやって来たわ。カロニーケーさん、ご機嫌よう。
カロニーケー:ご機嫌よう、リューシストラテーさん。どうしたの、苦虫面〔にがむしづら〕はおよしなさいよ、ねえ。瞋恚〔いかり〕のなまじりなんてのはあんたには似合わないわよ。
リューシストラテー:だって、カロニーケーさん、あたしは胸の中が煮えくりかえる、そしてわたしたち婦人のために心を痛めているのよ、だってね、男たちの考えではあたしたちは悪賢い悪党だってさ。
カロニーケー:だってほんとうにそうよ。

【佐藤訳】
リューシストラテー:どうしちゃったんだろ。お酒の神様バッコスさまのところで無礼講の酒盛りがあるとか、愛の女神のアプロディーテーさまや、そのまたお付きのゲネテュリスの神さまや、みだらな牧神パーンさまのところで、酔っぱらい放題ややり放題のパーティでもあれば、もうこのへんは人出がすごくて、手太鼓〔タンバリン〕なんかを叩いてはしゃぎまわるものだから、歩くことだってできないのにねえ。……なのに、きょうはこんなに待っても、人っこひとり、きやしない。と、思ったら、ようやくひとりやってきました。ご近所のカロニーケーさんだよ。こんにちは、若奥様!
カロニーケー:おはよう、リューシストラテーさん。けど、どうしたの? そんな浮かない顔しちゃってさ。そんなしかめっ面は、あなたには似合わないわよ。
リューシストラテー:だってカロニーケーさん、あたしはもう腹が立つやら悲しいやらで……。おなじ女として、あたしゃ、もう……。なんせ男どもが、あたしらのことを小ずるいとか悪賢い、さんざんなことを言ってるじゃない。
カロニーケー:だけど本当なんだもん、しょうがないじゃない。

本当はこの後段を引用したほうが、ストーリー的にも面白いですし、佐藤訳の工夫が伝わるのですが、それは皆様読んでのお楽しみということで。長く読みつがれている高津訳ももちろん悪くないのですが、より若い世代には佐藤訳のほうが親しみやすいかもしれません。ビアズリーの挿絵より、訳文のインパクトの方が勝ってます。

ソクラテスの弁明 関西弁訳
プラトン:著 北口裕康:訳
PARCO出版 09年5月 本体1,200円 B6判変型上製160頁 ISBN:978-4-89194-798-9
■帯文+版元紹介文よりより:これって落語? それとも哲学? これまで難解と思われ敬遠されがちだったこの哲学書が、関西弁に訳すことで、目から鱗が落ちるほど読みやすくなりました! 生きることの意味、善と悪、国家と法、死のとらえ方……賢人ソクラテスのメッセージが生きた言葉として、いま私たちに届きます。
●訳者の北口さん(1965-)は「システム&デザインカンパニー、株式会社一八八の社長」さんとのこと。もちろん関西人でなくても読めます。幾度も訳されてきたこの古典を、居酒屋でオッサン同士が繰り広げるああでもないこうでもない話、のように新鮮に読める。ひょっとすると、この一冊は、これまで碩学たちの翻訳で読まれてきた本書の印象を一気にひっくり返すくらいのインパクトがあるかもしれない。ドイツ文学者の池内紀さんがカントの『永遠平和のために』を一昨年新訳して集英社から出版したとき、カントにこれまでにない親しみを感じながら読むことができたことを思い出します。
●私の拙い持論ですが、やはり新訳は、専門家や学者ではない人々の手になるもののほうが、訳者がより一般読者に近い場所から原典と格闘した分だけ、いっそう親しみやすいものになると思います。むろん専門家や学者の仕事は立派ですが、編集者はそうした権威を必ずしも全面的に信頼しているわけではありません。むしろ、権威を突き崩す(ないし突き放して相対化する)作業を編集の仕事に組みこむものだと思います。たしかに専門家や学者ではない人々による翻訳が認められることはそう多くありませんが、読者はアカデミズムの評価とは無関係に「良いものは良い」と主張する権利があります。北口訳は日本におけるプラトンの翻訳史上、記念すべき試みだと私は断言しておきたいと思います。

賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう
原稿と校正刷 フランソワーズ・モレルによる出版と考察
ステファヌ・マラルメ:著 柏倉康夫:訳
行路社 09年3月 本体6,000円 A5判変型並製函入200頁 ISBN978-4-87534-416-2
●A5判変型と書きましたが、私の勝手な判断です。B4よりは小さく、A5よりは一回り大きいサイズです。つまり、一昨年、パリのLa Table Rondeからナンバリング入りで刊行された原書と同じサイズ。原稿および校正刷の写真版を含む厳密な資料本であり、モレルによる詳細な注釈本です。惜しむらくは、柏倉先生の訳詩のみを「通し」で印刷している頁がないことです。研究書としてはつつましいあり方で好感が持てますが、思潮社版秋山澄夫訳『骰子一擲』のようには訳文のみを味わうという読み方ができず、少しもどかしい気がします。しかし、本書は間違いなく「お宝」です。品切になって古書にでもなろうものなら、いずれ高額本になるでしょう。Un coup de Désが大好きで、マラルメももちろん大好きだ!という方は買っておいて損はないと思います。
●組版担当に「内浦亨」さんのお名前が。冬弓舎代表の内浦さんですよね。良い仕事なさってます。
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by urag | 2009-05-18 03:04 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(7)
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Commented by 通りすがりの者 at 2009-06-07 19:33 x
『賽の一振り~』を、某ネットブックストアで探したところ品切れでした。
なので、大学生協で注文したら、これまた品切れの返事。
ということで、また先のHPを見たところ、いまだ新品はないものの、出版社ご自身で出品されていて、「出版社にも在庫無きがごとく表示し営業を妨害していますが、出版社には在庫あります」とのコメントが。
実際、そういったことが起こりうるのでしょうか。だとしたら、とても残念なことのように思われるのですが。
Commented by さらに通りすがり。 at 2009-06-07 20:03 x
amazonではよく起ることですよ。ちいさい出版社の扱いはひどいものです。
Commented by ttt at 2009-06-08 15:08 x
よくあることですよね。アマゾンの取次ぎが大阪屋であることから起きるとも言われる。
ウラゲツの小林さんはウラゲツ開始以前からその点にこだわって「アマゾンよりはbk1の方がこうした零細版元を行き届いてます。これは趣味の問題ではないんです」というふうに訴えていた。

ちなみに、「賽の一振り」については最近、柏倉康夫氏が試訳を公開して興味深い動きとなっています。
http://www.campus.u-air.ac.jp/~kashiwa/un%20coup%20de%20des.html
Commented by urag at 2009-06-12 00:46
通りすがりさんこんにちは。行路社さんの仰る通りです。アマゾン「品切」表示問題については拙ブログの4年半前のエントリーをご高覧いただけたら幸いです。大学生協の店員さんがもし「品切」と説明していたとしたら、それはずいぶんと不正確な説明ですね。
Commented by urag at 2009-06-12 00:48
さらに通りすがりさん、代弁してくださってありがとうございます。仰る通りですね。
Commented by urag at 2009-06-12 01:03
tttさんこんにちは。大雑把に言うと、アマゾンは新刊を日販から仕入れて、既刊補充を大阪屋から行っています。大阪屋が原因というよりかは、VANに加入していない版元の本をアマゾンが扱いたがらない(在庫情報をリアルタイムで正確につかめないから)というのが大きいかなと思います。なお、行路社さんは地方小扱いで、大阪屋や日販と直接の取引があるわけではなく、地方小を介して大阪屋に届けられます。このワンクッションによって、調達時間も多少かかるわけです。ところで柏倉先生の試訳は本に掲載されている体裁と同じく基本的に単語訳ですね。これが通読訳になるのを待ち焦がれています。
Commented by urag at 2009-06-12 01:06
アマゾン品切表示問題について書いた拙文のURLを書きそびれました。
http://urag.exblog.jp/1270737/
です。


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