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2009年 03月 15日

中公『新書大賞2009』に寄稿しました。

中央公論新社さんから今月発売された『新書大賞2009』の「目利きが選ぶジャンル別3冊」で「哲学・思想」コーナーを担当しました。3冊ということなので、「西洋哲学」「東洋哲学」「現代思想」から以下の通り各1冊ずつを選びました。狙いとしては「知の限界を知る」(西洋哲学)、「リアリティを変える」(東洋哲学)、「時代(いま)を読む」(現代思想)という三題話でした。

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性』高橋昌一郎:著 講談社現代新書 08年6月 740円
「孟子」は人を強くする』佐久協:著 祥伝社新書 08年10月 780円
ポスト消費社会のゆくえ』辻井喬+上野千鶴子:著 文春新書 08年5月 900円

価格表示は本体価格です。字数の関係もあって言及できなかったのですが、上記のほかに候補として考えていたのは次の本でした。

『超訳「資本論」』的場昭弘:著 祥伝社新書 08年5月 840円
『ニーチェ――ツァラトゥストラの謎』村井則夫:著 中公新書 08年3月 960円
『カントの読み方』中島義道:著 ちくま新書 08年9月 700円

『ヨーガ入門――自分と世界を変える方法』北沢方邦:著 平凡社新書 08年2月 760円
『イカの哲学』 中沢新一+波多野一郎:著 集英社新書 08年2月 680円

『不可能性の時代』大澤真幸:著 岩波新書 08年4月 780円
『逆接の民主主義――格闘する思想』大澤真幸:著 角川oneテーマ21 08年4月 724円
『論争若者論』文春新書編集部:編 文春新書 08年10月 740円
『「若者論」を疑え!』後藤和智:著 宝島社新書 08年4月 720円
『「生きづらさ」について――貧困、アイデンティティ、ナショナリズム』雨宮処凛+萱野稔人:著 光文社新書 08年7月 760円
『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』湯浅誠:著 岩波新書 08年4月 本体740円
『リアルのゆくえ――おたく/オタクはどう生きるか』大塚英志+東浩紀:著 講談社現代新書 08年8月 860円
『ネットいじめ――ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』荻上チキ:著 PHP新書 08年7月 740円
『サブカル・ニッポンの新自由主義――既得権批判が若者を追い込む』鈴木謙介:著 ちくま新書 08年10月 740円

『悩む力』姜尚中:著 集英社新書 08年5月 680円
『鬱の力』五木寛之+香山リカ:著 幻冬舎新書 08年6月 740円

***

上記とは別に、昨年に刊行された新書の中で、個人的にインパクトの強かった新書をもしも挙げるとしたら、次の2点がベストになります。

在日一世の記憶』小熊英二+姜尚中:編 集英社新書 08年10月 1600円
サバイバル!――人はズルなしで生きられるのか』服部文祥:著 ちくま新書 08年11月 760円

前者(『在日一世の記憶』)は昨年刊行された新書の中で一番分厚いのではないかと思います。書名の通りの内容で、帯文にはこうあります、「戦後/解放後を生き抜いた在日一世52人の魂の証言集」。つまり聞き書きなのですが、いずれの証言も人生の重みと深みを感じる、非常に素晴らしい本です。単行本ではなく、新書という手に取りやすい体裁で刊行されたことにも好感が持てます。ここしばらくネットの世界では「在日」の方々へのヘイト・スピーチがずいぶん目立つようになってきて辟易しますが、この本がもっと読まれるようになるといいと心から思います。

後者(『サバイバル!』)は、『サバイバル登山』(みすず書房、06年6月)に続く、服部文祥さんの書き下ろし第二弾です。今回の新書では、サバイバル登山の体験記のほかに、サバイバル登山の基礎知識や基本思想なども書かれています。私は服部さんの本は哲学に通じるものがあると思っていて、第一作の刊行当時、ジュンク堂書店の福嶋聡さん(当時池袋本店副店長、現在は大阪本店店長)に熱烈に推薦したことを思い出します。福嶋さんからその後「池袋店でも売れてるよ」と言われた時にはとても嬉しかったです。

『サバイバル!』の名言の数々をご紹介しますと、

「登山は判断の連続で成り立っている。なのに登山者の目に、判断の正誤が見える形であらわれるのは、致命的に誤っていたときだけだ。正しい判断にご褒美はなく、生存という現状維持が許される。小さな失敗は見えない労力や苦痛になって返ってくる。そして決定的な失敗をしたときに、登山者は死という代償を受けとることになる」(7-8頁)。

「フリークライミングの精神とは、登るということを突き詰めることで、もう一度、命の境界線をハッキリさせようということなのだ。/その延長で私は「サバイバル登山」に行き着いた。フェアに地球と向き合おうという考え方から生まれた登山スタイルの一つである。/装備に頼らずに原始的な山塊に入り込んでいくと、生々しい身体感覚や明暗さまざまな感情を次から次へと感じることになる。それは自分という人間が存在を持って立ち現れてくる瞬間でもある」(34頁)。

「登山に遭難する確率がなければそれを登山とはいわない。死ぬ可能性がないものを命とは呼ばないのといっしょである。生+死=命。相反する要素が同居してはじめて意味をなす事象は世の中にあふれている」(211-212頁)。

このほかにも印象的な言葉がありますが、生真面目一辺倒ではなく、思わず笑ってしまうようなユーモラスな記述もがあります(81頁とか)。どうか本屋さんでお買い求め下さい。服部さんの文章を読む時、私は、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンのことを思い起こします。アガンベンが論じる、現代世界における「剥き出しの生」について考えてみると、一方では、アガンベン自身が指摘するような、様々な権力によって強制的に裸にされ(保護や保障を剥奪され)危険にさらされることになる人々の生の過酷さに、否応なく気付かされます。そのもう一方で、自ら裸になって生(き)のままの生存へと接近し体感しようとするサバイバル登山のストイックさというのも、「剥き出しの生」の問題圏の別局面を構成するように思えます。それらはまったく次元を異にすることなのですが、どちらも、生きることと死ぬことについて考えさせてくれると私は感じています。

最近刊行されたアガンベンさんの最新著の書名は奇しくも、『裸形(Nudità)』です。弊社から刊行した『涜神』と同様の、エッセイ集。表題作では、宗教画、解剖図マネキン、現代アートなどにおけるヌードを引き合いにしつつ、神学、政治学、身体論を横断する議論が展開されています。参考図版には日本のやや古いマイナーな映像作品から採ったと思われるSM画像もあって、一瞬目を疑いました。驚くべき守備範囲の広さです。このほか、カフカのヨーゼフ・Kを論じたものですとか、大著『王国と栄光』に通じる「栄光の身体」をめぐる議論、また、「人格/個人(persona)なきアイデンティティ」と題されたエッセイもあります。全11編。

……ちなみに、「新書大賞2009」の大賞を受賞した堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)の受賞記念講演と贈賞式が、今月(09年3月)25日(水)18:30から、三省堂書店神保町本店8F特設会場で行われるそうです。また、取次大手の日販さんでは、「3月10日(火)発売の『新書大賞2009』(中央公論新社刊)にて掲載される「決定 新書大賞2009」の発表を記念し、上位の新書銘柄を集めたフェアを取引先書店店頭にて展開」する、と発表されています。
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by urag | 2009-03-15 02:26 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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