2008年 11月 25日

近刊チェック《知の近未来》:08年11月25日

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■「近刊チェック《知の近未来》」/ 五月
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忘年会のお誘いをいただくようになる今日この頃、一日、一月、一年の過ぎ去る驚異的な速さに愕然とする。一川誠『大人の時間はなぜ短いのか』(集英社新書、08年9月)や、竹内薫『一年は、なぜ年々速くなるのか』(青春新書INTELLIGENCE、08年11月) といった新刊が立て続けに出たことを思い出す。検索エンジンでは上記のような疑問が数多くヒットする。とするとこれらの新書も疑問の数の多さに比例して売れたのだろうか。

この年末、もっとも気になること。鳥インフルエンザ、大地震。どちらも怖い。さらには金融不安の影響が出版業界に及びつつあるようだ、という恐怖。いかん、不安感に包囲されているのか?

来月刊行される新刊で注目しているのは以下の通り。

08年12月
02日『現代アートの現場から』高階秀爾 講談社 1,995円
03日『ランボーとアフリカの8枚の写真』鈴村和成 河出書房新社 2,625円
04日『クルーグマンの視座』ポール・クルーグマン ダイヤモンド社 1,680円
05日『現代世界で起こったこと:ノーム・チョムスキーとの対話1989-1999』日経BP出版センター 3,570円
08日『夢の動物園:旭山動物園の明日』坂東元 角川書店 1,470円
08日『都市のドラマトゥルギー:東京・盛り場の社会史』吉見俊哉 河出文庫 1,260円
08日『花のノートルダム』ジュネ/鈴木創士訳 河出文庫 1,260円
10日『霊符全書』大宮司朗 学習研究社 2,415円
10日『ルバイヤット』ジャスティン・マッカーシー英訳/片野文吉訳 ちくま学芸文庫 1,050円
10日『熱学思想の史的展開(1)熱とエントロピー』山本義隆 ちくま学芸文庫Math&Science 1,470円
10日『共産党宣言・共産主義の諸原理』マルクス+エンゲルス/水田洋訳 講談社学術文庫 1,008円
12日『私はガス室の「特殊任務」をしていた:知られざるアウシュヴィッツの悪夢』シュロモ・ヴェネツィア 河出書房新社 2,520円
15日『破綻するアメリカ:壊れゆく世界』ノーム・チョムスキー 集英社 3,045円
16日『老子』蜂屋邦夫訳注 岩波文庫 945円
16日『怒りについて 他二篇』セネカ/兼利琢也訳 岩波文庫 903円
16日『広告の誕生:近代メディア文化の歴史社会学』北田暁大 岩波現代文庫 1,050円
16日『デジタル・ナルシス:情報科学パイオニアたちの欲望』西垣通 岩波現代文庫 1,050円
17日『パーソナリティ・ホイール:あなたの中の複数の「わたし」を発見する』リタ・カーター ランダムハウス講談社 1,890円
17日『チャーリーの100問100答』鈴木謙介 ランダムハウス講談社 1,365円
18日『絶頂美術館』西岡文彦 マガジンハウス 1,680円
19日『自爆する若者たち:人口学が警告する驚愕の未来』グナル・ハインゾーン 新潮選書 1,470円
22日『社会法則/モナド論と社会学』ガブリエル・タルド 河出書房新社 4,410円
24日『インドの時代:豊かさと苦悩の幕開け』中島岳志 新潮文庫 460円
25日『新版 禅とは何か』鈴木大拙 角川ソフィア文庫 740円

文庫新刊では、ジュネ、老子、セネカが新訳。岩波書店に言いたいが旧訳を品切絶版にするのは止めてほしい。新訳が常に絶対に素晴らしいかといえば、それは疑問である。読者に選択の余地を残すべきで、旧訳は旧訳のまま出し続けて欲しい。文庫ではないが、みすず書房がフランクルの『夜と霧』を、新旧ともに販売し続けていることはいまなお特筆に値するだろう。大拙の新版は、宗教学者の末木文美士による解説が加わるもの。

単行本ではチョムスキーの新刊が2点。注目は河出書房新社の3点。タルドの新訳本は同社では『模倣の法則』に続く第2弾。あとの2点は同社ウェブサイトでのそれぞれの紹介文を引用しよう。鈴村和成のランボー論は、「1883年、アフリカ・エチオピアのハラル。“詩を放棄した詩人”ランボーは、高価な写真機をヨーロッパから取り寄せ、わずか8枚の写真を残しただけでカメラを捨てる。ここから発する数々の謎を追跡して詩人の本質に迫る渾身の力作」。

ギリシャ生まれのイタリア系ユダヤ人で、絶滅収容所のサバイバーであるシュロモ・ヴェネツィア(1923-)の本は「ナチスのユダヤ人大量虐殺で最も有名なアウシュヴィッツ収容所で、殺された同胞たちを「ガス室」から搬出し焼却棟で遺体を焼く仕事を強制された特殊任務部隊があった。ユダヤ人生存者がその惨劇を問答形式で克明に語る衝撃の書」。

発売日未確認だが、12月の新刊予定には以下の書目もある。

08年12月
『困難な自由 増補版・定本全訳』レヴィナス 法政大学出版局 4,935円
『アメリカの省察:トクヴィル・ウェーバー・アドルノ』クラウス・オッフェ 法政大学出版局 2,100円
『アーレントとティリッヒ』クリストファーセン+シュルゼ 法政大学出版局 2,310円
『チャリティとイギリス近代』金澤周作 京都大学学術出版会 5,040円
『プラトン哲学入門』アルビノスほか 京都大学学術出版会 3,255円
『死にいたる病/現代の批判』キルケゴール 白水Uブックス 1,365円
『フェティシズム』ポール=ロラン・アスン 文庫クセジュ 1,103円
『思想としての翻訳:ゲーテからベンヤミン、ブロッホまで』三ッ木道夫編訳 白水社 3,570円
『カプリ島:地中海観光の文化史』河村英和 白水社 2,940円
『サミュエル・ベケット証言録』ノウルソン編著 白水社 6,300円
『クレーの日記 新版』W・ケルステン編 みすず書房 8,925円
『メルヘン・透視・錬金術:アンティエ・グメルスの旅』巖谷國士著/アンティエ・グメルス絵 レス・アレス・デラ・テッラ 2,625円
『西洋製本図鑑』ジュゼップ・カンブラス 雄松堂出版 6,930円
『カナリアが沈黙するまえに:斎藤貴男書評選集2004-2008』同時代社 1,890円
『バブルの物語:人々はなぜ〈熱狂〉を繰り返すのか 新版』ジョン・ガルブレイス ダイヤモンド社 1,575円
『イスラエル全史(上下)』マーティン・ギルバート 朝日新聞出版 3,675円
『砂糖のイスラーム生活史』佐藤次高 岩波書店 3,360円
『子どものための文化史』ベンヤミン 平凡社ライブラリー 1,785円
『マヤ文明の興亡』エリック+トンプソン 新評論 4,725円
『日本中世史事典』阿部猛ほか編 朝倉書店 26,250円
『中国古代の鉄器研究』白雲翔 同成社 13,650円
『古代日本海の漁撈民』内田律雄 同成社 5,040円
『近世の死と政治文化:鳴物停止と穢』中川学 吉川弘文館 10,500円
『災害と江戸時代』江戸遺跡研究会編 吉川弘文館 5,880円
『明治期怪異妖怪記事資料集成』湯本豪一編 国書刊行会 47,250円
『戦後日本スタディーズ(3)80・90年代』北田暁大ほか 紀伊國屋書店 2,520円

レヴィナスの『困難な自由』については拙ブログで何度か言及しているので、そちらをご覧いただけると嬉しい。『プラトン哲学入門』は「西洋古典叢書」シリーズ第四期からの一冊。収録されているのは、アルビノス『プラトン対話篇入門』、アルキノオス『プラトン哲学講義』、アプレイウス『プラトンとその学説』、ディオゲネス・ラエルティオス『プラトン伝』、オリュンピオドロス『プラトン伝』、著者不明『プラトン哲学序説』の6本。

三ッ木道夫編訳『思想としての翻訳』は、翻訳論史上の古典的文献(全10人15本)を収録する。明細は以下の通り。

1.ヨーハン・ヴォルフガング・ゲーテ
 翻訳者ヴィーラント
 翻訳さまざま
2.フリードリヒ・シュライアーマハー
 翻訳のさまざまな方法について
3.ヴィルヘルム・フォン・フンボルト
 『アガメムノーン』翻訳への序論
4.ウルリヒ・フォン・ヴィラモーヴィッツ=メーレンドルフ
 翻訳とは何か
5.ルートヴィヒ・フルダ
 翻訳者の技芸
6.ノルベルト・フォン・ヘリングラート
 ヘルダーリンの翻訳原理
 ヘルダーリンの訳業
7.ルドルフ・パンヴィッツ
 『ヨーロッパ文化の危機』補説
8.カール・ヴォルフスケール
 翻訳することの意味と位置
 文学的相続財を更新する
9.ヴァルター・ベンヤミン
 書簡
 翻訳者の課題
 翻訳 賛否両論
10.ヘルマン・ブロッホ
 翻訳の哲学と技術に関する若干のコメント

『メルヘン・透視・錬金術』は発売元の河出書房新社によれば、A3判60頁の大型本で、内容は「ドイツに生まれ、日本のアトリエで創作にいそしむ画家の人生をメルヘンに喩え、作品のヒルデガルト・フォン・ビンゲンの幻視との類似を指摘する。巌谷國士が案内するアンティエ・グメルス(1962-)の不思議な作品世界」。

発行元のレス・アレス・デラ・テッラ(Les ales de la terra)は初見だが、05年に現代企画室から刊行された限定本『夜曲』(瀧口修造:詩、アンティエ・グメルス:版画)や、グメルスの90年代以後最新作まで紹介したブックレット「存在しえないへりを超えて:アンティエ・グメルスの旅」(大倉宏:文)を企画していたりするので、いかにもグメルス氏との関係が深そうだが、一方で伝説のアーティスト/パフォーマー「ダダカン」の個展「鬼放展:ダダカン2008 糸井貫二・人と作品』(銀座:ギャラリー・アーチストスペース、東高円寺:ギャラリーPara GLOBE)も企画しているのが面白い。

『明治期怪異妖怪記事資料集成』は版元紹介文によれば「明治時代45年間に発行された中央紙、地方紙、海外邦字紙のほぼすべてを渉猟、約4500件の怪異・妖怪事件の記事を抽出し、影印を掲載」した、A4変型1100頁の大冊。影印というのは写真複製版のこと。怪異妖怪資料収集の第一人者による成果であり、大いに興味をそそるが、45,000円+税では手も足も出せない。

紀伊國屋書店の注目の新シリーズ「戦後日本スタディーズ」は、版元の宣伝によれば「「戦後」を問い直すための見取り図を提示するとともに、これまでこぼれ落ちてきた論点をアクチャルな問題として拾い上げ、戦後を、特に社会運動に力点をおいて総括しようとする野心的な試みである」とのこと。

3巻までが予告されており、まずは80年代と90年代を扱う第3巻が来月刊行。続いて第2巻「60・70年代」が来年2月、最後に第1巻「40・50年代」が来年4月の刊行予定だ。

各巻の目次を転記しておくと、

第3巻「80・90年代」
論考
「ポスト冷戦と9・11のあいだ」 山下範久
「ネオリベラルな受動的革命の始動」 土佐弘之
「階層化社会の『私たち』」 佐藤俊樹
「『冷戦構造』と『五五年体制』崩壊後の日本社会」 小森陽一
「グローバル化する人権」 玄武岩
「『新しい戦争』と日本」 佐々木寛
「オウム事件と90年代」 遠藤知巳
「フェミニズムが獲得したもの/しそこなったもの」 斎藤美奈子
「グローバル化とパブリック・スペース」 五十嵐泰正
「ピースボートの25年」 櫛渕万里
「『おたく』という文化圏の成立」 森川嘉一郎
「ポストバブル文化論」 原宏之
インタビュー
 辻井喬「爛熟消費社会とセゾン文化」
 三浦雅士「現代思想の時代」
ガイドマップ80・90年代
 北田暁大×小森陽一×成田龍一
年表(図版付) 道場親信

第2巻「60・70年代」
論考
「日本にとっての『文革』体験」 福岡愛子
「反復帰反国家論の回帰」 新城郁夫
「五五年体制」 杉田敦
「地域闘争:三里塚・水俣」 道場親信
「60年安保闘争とは何だったのか」 松井隆志
「連赤のトラウマが残したもの」 北田暁大
「高度成長期と生活革命」 上野千鶴子
「『唐十郎』という視点から見る戦後日本演劇」 室井尚
「コミューンはどこへ行った?」 今防人
「少年マンガなのだ」 瓜生吉則
インタビュー
 田中美津(聞き手:北島みのり)
 吉川勇一(聞き手:小熊英二)
ガイドマップ60・70年代
 上野千鶴子×小森陽一×成田龍一
年表(図版付) 道場親信

第1巻「40・50年代」
論考
「二つの『生き残ること』」 丸川哲史
「帝国・復興・沖縄」 屋嘉比収
「アメリカ・占領・ホームドラマ」 吉見俊哉
「憲法・GHQ・教育基本法」 小森陽一
「サンフランシスコ講和条約と東アジア」 内海愛子
「抑圧された東京大空襲の記憶」 早乙女勝元
「挫折した日本革命」 岩崎稔
「朝鮮戦争・女性・平和運動」 藤目ゆき
「<復員兵>と<未亡人>のいる風景」 加納実紀代
「『平凡』とその時代」 成田龍一
「サークル詩・記録・アヴァンギャルド」 鳥羽耕史
インタビュー
 井上ひさし/金石範/無着成恭
ガイドマップ40・50年代
 岩崎稔×小森陽一×成田龍一
年表(図版付) 道場親信

以上である。実に楽しみなシリーズだと思う。

最後に11月下旬に発売が予告されていたが、まだ刊行が確認できていない、ドン・キューピット『未来の宗教:空と光明』(藤田一照 訳、春秋社、2,940円)に言及しておきたい。イギリス・ケンブリッジ大学のラディカルな宗教哲学者キューピット(1934-)の訳書は『最後の哲学』(山口菜生子訳、青土社、00年)に続く待望の第二弾。もう少し注目されてもいい哲学者ではある。公式ウェブサイトは、http://www.doncupitt.com/ だ。


◎五月(ごがつ):某出版社取締役。ブログ→ http://urag.exblog.jp
近刊情報のご提供は ggt0711【アットマーク】gmail.com までお願いします。
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by urag | 2008-11-25 14:18 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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