2008年 09月 12日

今週の注目新刊:『医療制度を変える』京都大学学術出版会

医療環境を変える――「制度を使った精神療法」の実践と思想
多賀茂・三脇康生:編
京都大学学術出版会 08年8月 5,985円 A5上製426頁 ISBN978-4-87698-751-1

a0018105_17215760.jpg■版元紹介文より:病を癒すには、まず医療をめぐる環境を癒してからでなければならない——。「制度を使った精神医療」をめぐる日本とフランスを中心としたの医療実践を紹介し、それらのバックボーンたる現代思想を解説する。病院機能評価によってますます硬直しつつある現在の医療・社会システムに風穴をあけ、「ひと」が癒える場をとりもどすために集結した、医療実務者と思想研究者による熱気あふれる論陣。

■本書「key word 制度/制度分析」より:本書では、病棟や教室や地域に、無意識のうちにできあがる非公式なルールや人員の配置、場の雰囲気すら制度と呼ぶ。・・・小さな環境改善運動をおしすすめるために「制度を使う」ことを研究したい。制度を使うことで、場に小さいが生命観あふれる動きが生じ得るからである。

■本書「はじめに」より:本書で紹介する「制度を使った精神療法」とは、フランスで50年以上前に始められ、現在も存続している精神科における一治療法のことである。・・・この両方の基本的な考え方は、「やんだ環境では病気を治すことはできない」、だから「まず治療現場を治していこう」ということである。

■推薦文(帯文):「これは、死なないため、生き抜くための方法論である」(荒川修作+マドリン・ギンズ)。

■執筆者:多賀茂/三脇康生/ジャン・ウリ/ラ・ボルド病院スタッフ/ティロ・ヘルト/和田央/菅原道哉/波床将材/高江洲義英/平田豊明/ミシェル・オラシウス/吉浜文洋/野沢典子/上山和樹/合田正人/江口重幸/立木康介/松嶋健

★実践編と思想編の二部構成で、ジャン・ウリやフェリックス・ガタリらのラ・ボルド病院、また二人に影響を与えたカタロニア出身の亡命者フランシスコ・トスケイェス(フランソワ・トスケル)のサン・タルバン病院での実践例を取り上げつつ、彼らの「制度を使った精神療法」(かつて「制度論的精神療法 psychotherapie institutionnelle」と訳されたこともありました)の思想的射程と日本におけるその実践を吟味しています。

★先行する関連書には、『精神の管理社会をどう超えるか?――制度論的精神療法の現場から』(杉村昌昭・三脇康生・村澤真保呂編訳、松籟社、2000年)があります。この本では、ガタリ、ウリ、トスケル、高江洲義英、菅原道哉らのインタビューや、ガタリの友人ダニエル・ルロのテクスト、そして、今回の新刊の編者でもある三脇康生さんの長編論考「精神医療の再政治化のために」を読むことができます。現在、版元品切とのこと。

★平凡社から以前刊行された『ドゥルーズ/ガタリの現在』を読んで、ガタリの思想と実践をもっと知りたいとお感じになった方には特にお奨めします。精神療法と政治的実践の興味深い交差を豊かに読み解くことができるのではないかと思います。なお、ガタリについては晩年の名著『三つのエコロジー』が平凡社ライブラリーで今週再刊されたので、併読をお奨めします。

★ガタリの特異な概念「トランスヴェルサリテ」はこれまで「横断性」と訳されてきましたが、三脇さんは「斜め性」と訳しておられるのが特徴的です。本書の「key word」から三脇さんの説明を引用しますと、「トランスヴェルサリテとは、単に横断するのではなく、主要なメインの流れ、線、方向性から「抜け道」を使ってマイナーの場所へ抜け出しうる可能性を意味する・・・訳語としては、この場合、「横切り性」、既存の流れを変える意味で「分流性」、さらには「抜け道性」などが考えられるだろう。さらに・・・このような「抜け道」を通って「垂直性と水平性とは別のマイナーな流れに至りついた状態(横断し終わった状態)」も意味するだろうし、さらには「至りつくべき別のマイナーな流れをあらかじめ作っておくこと(横断の準備)」すら意味する」(27頁)とあります。

★本書には、弊社より刊行したネグリの『芸術とマルチチュード』の共訳者である立木康介さんも寄稿され、ラカン派との対比において「制度を使った精神療法」について論じられています。
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by urag | 2008-09-12 17:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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