2008年 04月 26日

近刊チェック《知の近未来》:08年4月25日

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■「近刊チェック《知の近未来》」/ 五月
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取次大手の日販(日本出版販売株式会社)トーハンが運営する、「全国書店ネットワーク」が謳い文句のウェブサイト「e-hon」に、「もうすぐ出る本の予約」というたいへん有益な近刊情報コーナーがある。

http://www.e-hon.ne.jp/bec/SB/MikanTop

扱っているのは以下の18分野の近刊である。小説・エッセイ/ノンフィクション・教養/文庫・新書/思想・心理・歴史・教育/ビジネス・経済・社会/Web/コンピュータ/サイエンス・テクノロジー/児童/コミック・アニメ・ゲーム/テレビ・タレント・写真集/映画・音楽・サブカルチャー/趣味・娯楽/スポーツ・格闘技/生活・料理・健康・ダイエット/語学・就職資格/学習参考書/楽譜。

ジャンル分けそのものの妥当性はしばらくおくとしよう。ここで紹介されている書目は、出版社から提供されたデータを元にしている。内容紹介文がなかったり、書誌情報が欠けていたり、重複登録されていたりと、細かい問題がないわけではない。また、すべての出版社が漏れなく近刊情報のデータ提供に参加できているわけではないから網羅的な目録でもない。しかしそれでも日本最大の近刊書データベースのひとつであると言っていいだろう。

ちなみに同じ日販系列のウェブサイト「本やタウン」でも近刊情報コーナーがあり、こちらの分類は上記とは少し異なっている。

http://www.honya-town.co.jp/hst/HTNewpub?week=0&genre=1

文芸/新書/社会一般/資格・試験/ビジネス/スポーツ・健康/趣味・実用/ゲーム/芸能・タレント/テレビ・映画関連/芸術/哲学・宗教・心理/歴史・地理/社会科学/教育/自然科学/医学/工業・工学/コンピュータ/語学・事辞典/学習参考書/児童図書/全集。

以上23分野は「書籍近刊情報」として括られており、文庫やコミックは別立てになっている。「本やタウン」は基本的に日販系リアル書店の集合体であり、サイトから本を予約することはできない。

日販と同じく取次大手のトーハンがバックアップしているオンライン書店「セブンアンドワイ」にも予約コーナーはある。

http://www.7andy.jp/books/reserve/

こちらは21分野の「本のカテゴリ」を設定している。ビジネス、経済/就職、資格/語学、辞書/コンピュータ/理学、工学/医学、薬学、看護/法律、社会/歴史、心理、教育/芸術/生活/趣味/地図、ガイド/子ども/学習参考書/文芸/エンターテインメント/アイドル写真集/コミック、アニメ/ゲーム攻略本/楽譜、音楽書/関連グッズ。

日販系との違いがここに表れていて興味深い。上記の21分野はさらに細分化されている。たとえば、大分類「歴史、心理、教育」の下位には次のような25の中分類がある。

歴史文庫/人文全般/心理一般/発達心理/臨床心理/カウンセリング/精神病理/社会心理/哲学、思想/宗教/宗教、神道/宗教、仏教/宗教、キリスト教/文化、民俗/地理/歴史/世界史/日本史/図書館、博物館/教育全般/教育一般/学校教育/保育/教育問題/教育関連就職試験。

教育全般と教育一般の違いがどこにあるのかよく分からないが、それはともかく、この中分類にはさらに下位の分類がある。たとえば、中分類「哲学、思想」の下位には、次のような26の小分類が配列されている。

哲学、思想全般/哲学、思想一般/辞典、事典/哲学史/ギリシャ、ローマ哲学/中世思想/ドイツ観念論/フランス啓蒙思想/古典社会思想/東洋思想/日本思想/倫理学/言語学/記号論/論理学/形而上学/認識、観念論/プラグマティズム(合理主義)/現象学、実存主義/構造主義、ポスト構造主義/現代思想/フーコー/自然哲学、宇宙論/文化、技術哲学/自然科学読物/哲学、思想その他。

西洋思想に比べると、東洋思想や日本思想はあまりにも大雑把なくくり方だが、これは今に始まった話ではないので、脇におく。個人名ではフランスのミシェル・フーコーだけが突出しているが、そこも当面は突っ込まないでおくとしよう。

さて、セブンアンドワイでは、上記のような小分類まで降りて選択しないと書誌情報が見れないわけではない。大分類でも中分類でも見れる。シンプルさではe-honのほうがまさっているように見えるし、扱われている書目も、私個人はセブンアンドワイよりe-honのほうが好みが多かった。これは、専門書への重点の置き方がトーハンと日販で異なるためかもしれない。

このほかにも、各種オンライン書店では予約コーナーが存在するが、上記の二社や版元各社の近刊予告を主な参照先にして、今月から毎月一回、注目の近刊書をピックアップしていこうと思う。

かつての連載「現代思想の最前線」では主に洋書新刊を取り上げ、続く「ユートピアの探求」では本の情報ではなく一出版人の肉声を綴ろうとしてその難しさにしばしば悩んだ。再び新刊の紹介に戻ろうかとも思ったけれど、それはやめて、今回の新連載を思いたった。近刊の情報収集は仕事上も一読者としても必要なので、継続していけそうな気がする。というか続けねばなるまい。

今月は前口上が長かったので、注目の近刊情報の紹介は簡単に済ませなければならない。来月つまり08年05月の新刊を、版元別に見てみる。大手版元の情報がほとんどだが、それは中小の版元の場合、近刊情報が間際にならないと提出できないことが多いからだろう。以下の新刊はほとんど大手のものに偏っているのが個人的には気に食わないが、現状では仕方がない。

まずは講談社の来月の新刊。価格はすべて税込予価である。

05月12日発売予定
水野和夫+島田裕巳『資本主義2.0 宗教と経済が融合する時代』1,575円

05月14日発売予定
中沢新一『対称性人類学(2)狩猟と編み籠』2,100円
大澤真幸『〈自由〉の条件』2,730円
森山大道『S' Moriyama Daido』通常版6,825円 特別限定版27,300円

まず『資本主義2.0』だが、版元の宣伝文句はこうだ。「次の500年を支配する経済の絶対ルール! 1995年に世界は変わった。「資本主義2.0」では、宗教と経済が渾然一体となる。それぞれの第一人者が、日本人がまだ気づいていない経済理論の激変を語る!」と。真っ先に連想するのは、ブッシュ政権下のアメリカのネオコンと福音派の結合。500年も支配されるのは困りものだけれども、どこか「本当にそうなるかも」という心配はある。

かたや、中沢さんの近刊は「10万年の精神史を読む」と宣伝されている。さすがに人類学は桁が違う。大澤さんの近刊は「大澤社会学の集大成。堂々の1000枚!」と。昨年刊行されて反響を呼んだ大著『ナショナリズムの由来』とともに、長く読まれそうな予感。森山さんの写真集は「スポーツの聖地」を巡って撮影されたものとのこと。A3サイズの大判。次に岩波書店。

05月15日発売予定
白楽晴『朝鮮半島の平和と統一 分断体制の解体期にあたって』2,415円

05月28日発売予定
ジュディス・バトラー+ガヤトリ・スピヴァク『国家を歌うのは誰か? グローバル・ステイトにおける言語・政治・帰属』1,785円
スピヴァク『スピヴァクみずからを語る 家・サバルタン・知識人』2,415円

日本の論壇でもつとに知られている韓国の批評家白楽晴の半島統一論は、クレインから01年に刊行された『朝鮮半島統一論 揺らぐ分断体制』以来。続いてスピヴァクはインタビューと対談の二冊同時発売。バトラーとの対談本が特に楽しみ。対談本は竹村和子訳、インタビュー本は大池真知子訳。未訳だが、昨年末についに刊行されたスピヴァクの『他なる諸アジア』もおそらくはどこかが版権を取っていることだろう。

http://www.blackwellpublishing.com/book.asp?ref=9781405102063

このほかに岩波書店で気になった来月新刊は、単行本が今福龍太『ミニマ・グラシア 歴史と希求』、富山太佳夫『英文学への挑戦』、文庫本ではスタニスラフスキー『芸術におけるわが生涯(上)』(蔵原惟人・江川卓訳)、シュレーディンガー『生命とは何か 物理的にみた生細胞』(岡小天・鎮目恭夫訳)、トクヴィル『アメリカのデモクラシー 第二巻(下)』(松本礼二訳)。スタニスラフスキーの本は、未来社のロングセラーでもある彼の自伝が岩波で新訳されて単行本として83年に刊行されていたものの文庫化。シュレーディンガーの本は古い新書からのスイッチ。

他版元でまだまだ注目書があるので、一気に並べてみると、

04月28日 糸井重里『糸井重里の最後の「広告論」』日経BP社 1,260円
05月02日 雨宮処凛『雨宮処凛の闘争ダイアリー』集英社 1,470円
05月13日 川本三郎+鈴木邦男『本と映画と「70年」を語ろう』朝日新聞出版 756円 →値段からすると新書か?
05月20日 ジョセフ・スティグリッツ『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』徳間書店 1,785円
05月21日 ジェイン・ジェイコブズ『壊れゆくアメリカ』日経BP社 1,890円
05月23日 デイヴィッド・ストローン『地球最後のオイルショック』新潮選書 1,575円
同日 チェ・ゲバラ『ゲバラ世界を語る』中公文庫 760円
05月26日 左巻健男『地球を救う数字』小学館 1,365円
05月28日 古川康一+向井国昭『数理論理学』コロナ社 2,940円 

がある。このほかには下旬刊行予定の池谷裕二・木村俊介『ゆらぐ脳(仮)』(文藝春秋、1,300円)、文庫本ではちくま文庫のシリーズ『ちくま日本文学』の第15巻「柳田國男」と第16巻「稲垣足穂」、ちくま学芸文庫の『橋爪大三郎の社会学講義 入門編』や木村敏『自分ということ』などに注目。いずれも05月08日発売だ。また、その翌日09日発売の河出文庫に、文庫本オリジナル編集のスラヴォイ・ジジェク『ロベスピエール/毛沢東 革命とテロル』がある。長原豊訳。ジジェクの文庫本は、06年のちくま学芸文庫『否定的なもののもとへの滞留』以来。

最後に触れなければならないのは、昨日発売されたばかりのNHKブックス別巻『思想地図 vol.1 特集・日本』(東浩紀+北田暁大編、1,575円)と、来月にかもがわ出版から創刊される「超左翼マガジン」『ロスジェネ』(1,365円)だろう。

前者の創刊趣旨はこう述べられている。「思想本来の力を取り戻せ! 思想はいま、本当に沈滞しているのか? 現実への性急な処方箋でもなく、イージーな人生論でもない、思想本来の力とは何か? ゼロ年代の思想を俯瞰し、来るべき10年代の知的な羅針盤を作るために、「思想地図」創刊! 創刊号の特集は「日本」。従来のイデオロギーや論壇的位置取りに捕らわれず、現代日本の課題に真摯に向き合い、新しい読者を獲得しつつある若手論客の論文を多数収載!」

業界の反応としては、たとえば双風舎さんのブログ「双風亭日乗」04月20日付のエントリー「北田さん、東さん、がんばれ!」をご参照いただきたい。また、創刊プレイベントの感想が、enka07さんのブログ「烟霞余録」の07年11月28日付エントリー「東浩紀・北田暁大対談」で読める。

http://sofusha.moe-nifty.com/blog/2008/04/post_082f.html →書影付。
http://enkayoroku.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_25b5.html

一方、『ロスジェネ』の創刊意図と受け取れる「ロスジェネ宣言」にはこうある。「就職超氷河期(1990年代という「失われた十年」)に社会へと送り出された20代後半から30代半ばの私たちは、いまだ名づけられ得ぬ存在として日々働き暮らし死んでいきつつある……、その数20,000,000人。「ワーキングプア」「フリーター」「ひきこもり」「ニート」「うつ病世代」「貧乏くじ世代」「負け組」「下流」「ロストジェネレーション」……。世間が私たちをさまざまなレッテルで一括りにする。しかし、私たちは、「レッテル貼り」によって目の前にある問題や矛盾が隠されたり、未解決のまま先送りされることを望まない。〔…〕全国のロスジェネ諸君! 今こそ団結せよ!〔…〕いま『ロスジェネ』は、ここに、左翼と現実とをつなぐ空間を設定する」。

本誌の詳細については版元の特設コーナーをご参照いただきたいが、『ロスジェネ』と『思想地図』の両方に萱野稔人氏が顔を出しているのが興味深い。

http://www.kamogawa.co.jp/moku/syoseki/0184/0184_top/0184.html

かなり駆け足の列記になり、メモ以外の何物でもなくなってしまったけれども、これから毎月、情報の濃淡をつけながら、近刊書から見る近未来=来月の書店店頭での知の風景を先取りしてみたい。情報の洪水の中で、たとえごくわずかなりとも世間の同好の士の便宜に適えば幸いに思う。


◎五月(ごがつ):某出版社取締役。ブログ→ http://urag.exblog.jp
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◆追記[08年4月26日]:まったく空恐ろしい間違いだった。e-honは日販ではなくトーハンが運営していることをメルマガ読者氏から指摘していただきました。関係者ならびに読者の皆様に深くお詫びして訂正します。
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by urag | 2008-04-26 00:02 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(1)
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Commented at 2008-04-27 09:48 x
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