2008年 04月 24日
弊社より刊行している『芸術とマルチチュード』の著者であるアントニオ・ネグリが、『〈帝国〉』(以文社)や『マルチチュード』(NHK出版)に先駆けて、マイケル・ハートとタッグを組んで出版した、二人の原点と言うべき『ディオニュソスの労働』がついに人文書院から発売されました。訳者あとがきの一部が下記のリンク先にて読めます。 ディオニュソスの労働――国家形態批判 著:アントニオ・ネグリ+マイケル・ハート 訳:長原豊+崎山政毅+酒井隆史 人文書院 08年4月 定価6,090円 A5判上製480頁 ISBN978-4-409-03074-5 帯文より:三十年強の長きにわたるネグリ思想の一大集積。『〈帝国〉』や『マルチチュード』で展開される現在の基本的な問題設定のすべてがここにある。並ぶものなきユニークさにみちた、さまざまな次元での〈革命〉をめぐる、真摯な思考のオーケストレーション。 版元紹介文より:『帝国』以前の最重要著作、いよいよ登場。共和制の問題、社会的賃金の問題、国家の枠組みを超克する「構成的権力」の諸問題等々、また「マルチチュード」「非物質的労働」等々の論点など、後に『〈帝国〉』や『マルチチュード』で展開されることになる基本的な問題設定・論点のすべてがすでに本書で提示されており、現在のネグリのスプリングボードともいえる最重要な著作である。「『〈帝国〉』、『マルチチュード』を『資本論』に喩えるとすれば、本書はその二冊に対する『経済学批判要綱』をはじめとした草稿群と位置づけることができる」(訳者あとがきより)。 原書:"Antonio Negri & Michael Hardt, Labor of Dionysus : A Critique of the State-Form", Minneapolis: University of Minnesota Press, 1994. 訳者: 長原豊(ながはら・ゆたか):1952年生。法政大学教授。『天皇制国家と農民』(日本経済評論社,1989)、ジジェク『迫り来る革命』(岩波書店,2004)など。 崎山政教(さきやま・まさき):1961年生。立命館大学教授。『サバルタンと歴史』(青土社,2001)、『思考のフロンティア 資本』(岩波書店,2004)、『異郷の死』(共編,人文書院,2007)など。 酒井隆史(さかい・たかし):1965年生。大阪府立大学准教授。『自由論』(青土社,2001)、『暴力の哲学』(河出書房新社,2004)、ネグリ&ハート『〈帝国〉』(共訳,以文社,2003)など。 目次: 謝辞 序――ディオニュソス Ⅰ 第一章 批判としてのコミュニズム 恐竜/コミュニズム/労働/主体/ポストモダン/さまざまなマルクス主義/道程 - 経路 第二章 ケインズと国家の資本主義的理論 近代国家の時期区分――基本的契機としての一九二九年/ケインズと一九一七―二九年という時代――十月革命と資本主義の構造への衝撃についての理解/ケインズにおける政治から科学へのシフト――世界大恐慌と資本内部の労働者階級/資本主義的再編と社会国家 第三章 憲法における労働 1 問題設定への序論:労働の憲法的な社会的妥当性 社会的資本と社会的労働 第一の帰結――ブルジョワ的範疇としての労働 第二の帰結――資本の科学 法治国家と社会国家/2 労働の憲法化過程:資本主義的発展における労働力の憲法化の歴史過程 第一の司法的帰結――諸源泉のシステムの危機 第二の司法的帰結――法の主権理論の危機 社会国家における権利 - 法の具体的産出様式のあり様 社会国家の生産的源泉/3 労働の憲法化のモデル:労働の憲法化からそのモデルへ 権利 - 法の一般理論とモデル構築 抽象的労働のモデルの具体化の諸条件 資本の啓蒙 社会国家/4 ブルジョワ的権威理論モデルの批判 弁証法の慢性疾患 社会的資本における従属 資本の社会的組織化 諸矛盾から敵対へ 結論という装いのもとで――労働者主義的批判は可能だろうか? II 第四章 コミュニズムの国家論 修正主義の伝統とその国家概念/問題を位置づける――マルクス的アプローチ/理論の現段階――ネオ・グラムシ派のヴァリエーション3 問題の再設定――分配から生産へ/国家の構造的分析の諸展開――組織化のメカニズム/国家の構造的分析の諸展開――危機論における国家/一つの挿話――ブルジョワ理論の逃げ口上、ほのめかし、自己批判/問題の再提起――国家、階級闘争、そしてコミュニズムへの移行 第五章 国家と公共支出 総括的な問題構成――解釈の諸条件と現実の諸条件/第一の分析的アプローチ――生産的労働の社会的統一に向かう傾向の評価要素/第二の分析的アプローチ――社会的蓄積、国家管理、正統性の資本主義的基盤の諸矛盾をめぐって/イタリアにおける公共支出の危機/危機と再構造化の時期における新たなプロレタリア的主体/公共支出の蓄積と正統化諸機能のさらなる考察/制度的労働運動のイデオロギー的崩壊――改良主義と抑圧/新たな戦略のための古い戦術 III 第六章 ポストモダン法と市民社会の消滅 ロールズと革命/ポストモダン法と憲法〔=政体構成〕における労働の亡霊/システムの精髄――反照と均衡/弱い主体と回避の政治/ネオリベラリズムの強い国家――八〇年代における危機と革命/共通善と共同体の主体/国家の自律――道徳的福祉/国家への社会の実質的包摂 第七章 構成的権力の潜勢力 現実リアルの社会主義の危機――自由の空間/ポストモダン国家の逆説/ポストモダン国家の社会的基礎と現存するコミュニズムの前提条件/近代性内部のさまざまなオルタナティヴについての考察/存在論と構成/暴力の実践的批判/ポストモダン国家の規範的展開と強化/法的改良主義の幻想/構成的主体の系譜学 原註/訳者あとがき/引照文献/索引 *** フェリックス・ガタリにささげられた本書について、初出をもう少し詳しく見ていきますと、次のようになります。まず第I部の第一章はネグリ+ハートの書き下ろし原稿です。同じく第I部の第二章、第三章はぞれぞれネグリが60年代に執筆したもので、前者(第二章)は72年にフェルトゥリネッリより刊行された著書『労働者と国家』から採られたものです。後者(第三章)は、第II部の第四章、第五章とともに、77年にフェルトゥネッリより刊行されたネグリの著書『国家形態』から採られたもので、この二つの章は70年代に執筆されました。そして、第III部を構成する第六章と第七章はネグリ+ハートの書き下ろし原稿。 ネグリの著書は、英米で刊行された単行本としては、89年に二つの論文集『奪回された革命』と『転覆の政治学』(現代企画室)が、そして91年に『マルクスを超えるマルクス』(作品社)と『野生の異例性』(作品社より近刊)が刊行され、そのあと94年にハートとの共著『ディオニュソスの労働』が刊行されます。そして2000年に刊行された『帝国』以降は、ますますさかんに訳されています。 英米圏でネグリの著書が丸ごと翻訳出版されたのは79年のアンソロジー『労働者階級の自律と危機』に収められた『支配とサボタージュ』が初めてだったろうと思います。上記アンソロジーが出版された年の春、ネグリは逮捕されます。『支配とサボタージュ』はごく小さい本で、イタリアのフェルトゥリネッリから刊行されたのはアンソロジー刊行の前年、78年です。日本語訳は、小倉利丸さんによる部分訳が『現代思想』83年3月号「増頁特集=マルクスと現代思想』に収録されています。全体はまだ訳されていないのが、残念です。どなたかお訳しになりませんか。 *** なお、人文書院の4月21日現在の復刊予告によれば、下記のスケジュールで復刊予定とのこと。いずれも待望の書目ばかり。特に、第II巻のみの在庫だった『結合の神秘』第I巻は古書価が2万円近かったこともあり、朗報。ユング・コレクションではこのほか『アイオーン』などが古書では『結合の神秘』同様に高価。学生が買える値段ではないだけに、重版が待ち望まれていると思われます。 6月 『シュルレアリスムと絵画』 A・ブルトン 予定価格10000円 6月 『聖書象徴事典』 M・ルルカー 予定価格5500円 8月 『ユングコレクション5 結合の神秘Ⅰ』 予定価格6200円 今秋 『スピノザ 異端の系譜』 Y・ヨベル 予定価格7600円 今秋 『恋する虜』 J・ジュネ 予定価格7600円
by urag
| 2008-04-24 14:17
| 本のコンシェルジュ
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