ちまたの本屋さんではネグリ来日記念ということでフェアを展開されているお店が増えてきましたが、ネグリやその周辺の思想家をそろえるだけでは何か物足りないですよね。ネグリの面白さというのは、彼が関わっていたアウトノミア運動にその一端を見ることができるのではないかと私は思います。そこには、「男性の肉体労働者」に限定されてしまうような従来の運動や革命の主体性を突き抜けて、学生も主婦も非正規労働者も知識人もアーティストも変革の主体なのだととらえるダイナミックな転換があったように思います。マスキュリニズムからの脱却の萌芽がそこにはあったわけで、それを現在の日本に当てはめて吸収するならば、ニートであろうと引きこもりであろうとホームレスであろうと排除されない運動の新たな地平が見えてくる気がします。
ネグリへの直接的な言及の有無に囚われず、そうした文脈においてネグリ本と一緒読みたい新刊が先月何点か発売されました。
眠られぬ労働者たち――新しきサンディカの思考
入江公康(1967-):著
青土社 08年2月 定価1,995円 46判上製230頁 ISBN978-4-7917-6397-9
帯文より:ポストフォーディズム、グローバリゼーション、そしてネオリベラリズム・・・・・・虚ろな消費と競争の連鎖の中で、裏切られ続けている労働者たち。眠ることすらできない者たちに現実への蜂起をうながす新しい闘争のための理論。
01年:酒井隆史『自由論』、03年:渋谷望『魂の労働』、05年:道場親信『占領と平和』、そして08年:入江公康『眠られぬ労働者たち』。月刊『現代思想』で活躍してきた早稲田閥の「第四の男」、ついに単独著第一弾刊行です。2000円を切る値段というのが嬉しいですね。デビュー作はこうであって欲しいです。
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ホームレスと自立/排除――路上に〈幸福を夢見る権利〉はあるか
笹沼弘志(1961-):著 大月書店 08年2月 定価2,730円 46判上製カバー装272頁 ISBN978-4-272-33053-9
帯文より:強いられる「自立」を越えて――失業者、DV被害者、障害者、高齢者……居場所(ホーム)なき人々を排除する社会の貧困を問い、「人権」を現場で鍛え直す。
著者の笹沼さんは静岡大学で教鞭を執る憲法学者であるとともに、「野宿者のための静岡パトロール」の事務局長として活躍されています。自治体によっては「路上生活者巡回指導員」ないしそれに類する名称でホームレスの皆さんを「指導」して回る方たちがいることをテレビのニュースで見たりしたことがありますが、この「指導」という言葉、私は好きじゃありません。
本書にはこんな言葉があります。「断たれた他者とのつながり、出会いをいかにしてつくり出していくかが問題なのである」(293頁)。出会いやつながりというものは、指導する/されるという次元とは別のものから生まれるのではないかなと思います。自治体のお役人さんたちは本書を読まなくちゃね。
もう一冊写真に掲げてある雨宮処凛さんの出色の対談集『
全身当事者主義』(春秋社)についてはもう皆さんご存知のことでしょう。ネグリ・フェアに広がりを持たせるならば、このほかに赤木智弘さんの『
若者を見殺しにする国』(双風舎)、山の手緑さんと矢部史郎さんの共著『
無産大衆神髄』(河出書房新社)や『愛と暴力の現代思想』(青土社)、萱野稔人さんの『国家とはなにか』(以文社)や『
カネと暴力の系譜学』(河出書房新社)、『権力の読みかた』(青土社)、人文書院発売の『
フリーターズ・フリー』をはじめ、まだまだ沢山の本を引き寄せることができそうです。