2007年 09月 16日

今週の注目新刊(第115回その1:07年9月16日)

遅まきながら、9月2日の「今週の注目新刊第113回」を先日公開しました。第115回は、文庫について長いコメントを書いてしまったので、二回に分載します。前半は文庫、新書、選書、ブックレットを取り上げ、後日公開の後半では単行本を取り上げます。

◎注目の文庫、新書、選書、ブックレット

光文社古典新訳文庫は創刊一周年で、今月は怒涛の5点刊行。ロンドン『野生の呼び声』深町眞理子訳、スタンダール『赤と黒(上)』野崎歓訳、スティーヴンスン『新アラビア夜話』南條竹則+坂本あおい訳、そして下記に掲げる2点。良いラインナップですね。創刊一周年記念に、非売品の別冊文庫『古典新訳をより楽しむ副読本』(仮)を抽選で1000名にプレゼント、とのこと。特別対談、エッセイ、評論、近刊予告などを読めるそうで。1000名って少なくないですか?当たらない気がしてなりませんが、申し込みはしようかと。応募締切は07年10月31日で当日消印有効。書店店頭では、フリーペーパー「光文社古典新訳文庫NEWS」を配布してますよね。広げるとA3サイズの壁新聞みたいなやつ。続刊予告にはO・ヘンリー『賢者の贈り物 他22編』芹澤恵訳、ソル・フアナ『ある修道女の手紙』旦敬介訳、ブルトン『狂気の愛』海老坂武訳、とあります。

一方、講談社文芸文庫は、来年の創刊20周年を記念するキャンペーンとして、「アンコール復刊アンケート」を実施中。総刊行点数840点のうち、文庫新刊にはさまれている投げ込みアンケート用紙には、63点がピックアップされています。ウェブでは未公開のようです。リクエストの多かった書目20点を来年二月から順次復刊するとのこと。自分がリクエストした書目が復刊されれば、菊地信義さんデザインの復刊特装版のプレゼントに当たるかも、とのこと。1点あたり20名限定。猛烈な競争率!けれど、案外この手のアンケートはものすごい数の回答が届けられるわけでもないのが通例なので、当選の倍率はさほど高くないかも。悩むなあ、どの書目にするか。すでに持っている本でも、特装版が当たったら嬉しいし。

さらに、今年で15周年を迎えるちくま学芸文庫ではついに「復刊投票2007」を敢行。学芸文庫では確かはじめての復刊事業ですよね。大歓迎です。今後必ず毎年やって欲しいものです。ウェブ投票なので、告知次第で数はそれなりに集まるのでは。投票締切日は07年10月26日、復刊文庫発表が07年11月下旬とのこと。皆さんでガンガン投票しましょう!・・・書目一覧を見ててふと気づいたんですが、品切書目のすべてが列記されているのではないようです。えええそんな殺生な! たとえば、文庫オリジナルのプラトン『テアイテトス』がないです。オリジナルなのに・・・

【07年9月19日追記:筑摩書房編集部さんのご説明によれば、『テアイテトス』のように品切になってから日にちが浅いもの(具体的には06年以降の品切書目)は今回の復刊候補からはずしてあるそうです。なるほど! つまり、復刊ではなく重版で対応ということもあるわけでなのでしょうね。】

***

・幻想の未来/文化への不満 フロイト:著 中山元:訳 光文社古典新訳文庫 07年9月 760円 439頁 ISBN:978-4-334-75140-1 ●『幻想の未来』(1927年)全訳、『文化への不満』(1930年)全訳、『人間モーセと一神教』(1939年)抄訳、の三篇を収録。「フロイト文明論集」第一巻と銘打たれています。続刊予定の第二巻は、『人はなぜ戦争をするのか』と題して、フロイトの戦争論をまとめるようです。期待大ですね。

・変身/掟の前で 他2編 カフカ:著 丘沢静也:訳 光文社古典新訳文庫 07年9月 440円 180頁 ISBN:978-4-334-75136-4 ●『判決』、『変身』、『アカデミーで報告する』、『掟の前で』の四篇を収録。底本は「史的批判版カフカ全集」。堂々たる既訳書が居並ぶ中で再度新訳の労を取っているのは、カフカの原文のリズムに、より忠実に、そして現代語訳に、より磨きをかけるため。実際、これまでにないリズム感が生まれ、若者にとって違和感がないだろう言葉で紡がれています。既訳に親しんできた自分としては最初は「やりすぎじゃないかな」といぶかしんだものでしたが、読んでいくうちに味が分かってくるというか。正直に告白すれば、池内訳より好きです。ユーモア感が伝わります。自分が若いとは思いませんが、若い読者向きに違いないです。これでこそ「新訳」。この感じで「審判」や「城」などの長編も丘沢訳で読んでみたくなりました。

・ザ・ダルマ・バムズ ジャック・ケルアック:著 中井義幸:訳 講談社文芸文庫 07年9月 1,995円 498頁 ISBN:978-4-06-198489-9 ●『ジェフィ・ライダー物語--青春のビートニク』(講談社文庫、82年)を底本として使用し、訳者による加筆訂正を行った、とのこと。本作は本邦初訳の小原広忠訳では『禅ヒッピー』というタイトルだったんですよね。今回、原題をカタカナ表記したものになったわけですが、『禅ヒッピー』のほうがさすがにインパクトは強かったですね。このタイトルはロバート・パーシグの『禅とオートバイ修理技術』(めるくまーる、90年)をも連想させるのですが、パーシグの本は現在品切。文庫化されるという噂。それはともかく、今回の本の訳者の中井さんによる「解説」の末尾には、「若い読者の皆さんにはぜひ、秋に出るという「オン・ザ・ロード」の新訳とともに読むことをお勧めする」とあります。11月10日に河出書房新社から発売される青山南訳『オン・ザ・ロード』のことですね。池澤夏樹個人編集『世界文学全集』全24巻の第1回配本。既訳では「路上」(福田稔訳、河出文庫)として親しまれてきたものです。

・暴力論(上) ソレル:著 今村仁司+塚原史:訳 岩波文庫 07年9月 798円 322頁 ISBN:978-4-00-341381-4 ●全二巻。木下半治訳(1933年/1965-66年改版、上下巻、岩波文庫)以来の新訳です。改版されてから、93年にリクエスト復刊されています。改版前の訳は伏字はあるわ、使用している記号類がややこしいわで、幻惑を誘うほどの本だったのですが、改版後は解消されました。それでも読みやすいかといえば、若い読者には敷居が高い本でした。今回の新訳はより平明さを心がけている労作です。比較して読むとたいへん勉強になります。ソレルが主張している、「国家の強制力(フォルス)に対抗し、個人の自由と権利を擁護するための、下からの暴力(ヴィオランス)」(文庫カバー紹介文より)というのは、具体的にはジェネラル・ストライク(ゼネスト=全労働者の一斉ストライキ)を指しています。こんにちではストや春闘自体がすっかり「時代遅れ」にされてしまっている感がありますが、本当は、今こそ、大規模なストライキが政治的には有効なのかもしれません。資本主義経済という「けっして止まらない、止まれない機械」をサスペンド=宙吊りにすること。そんなバカなことができるか、と人は言うでしょうが、私たちには本当はその力がある。荒々しいそのサボタージュの力、ヴィオランスを考える上で、ソレルの新訳は様々な示唆を与えてくれそうです。ちなみに、講談社学術文庫の10月新刊には、今村さんの『アルチュセール全哲学』がエントリーされています。

・けものたち・死者の時 ピエール・ガスカール:著 渡辺一夫+佐藤朔+二宮敬:訳 岩波文庫 07年9月 903円 402頁 ISBN:978-4-00-375071-1 ●親本は岩波書店、1955年刊。特に新しいあとがき等はナシ。半世紀後に文庫化。すごいですよね。

論理的原子論の哲学 バートランド・ラッセル:著 高村夏輝:訳 ちくま学芸文庫 07年9月 1,155円 294頁 ISBN:978-4-480-09096-6 ●文庫版オリジナル。1918年の連続講義録が、ついに本邦初訳。

ヘレニズムの思想家 岩崎允胤:著 講談社学術文庫 07年9月 1,260円 406頁 ISBN:978-4-06-159836-2
〔新訂版〕 桃太郎の母--ある文化史的研究 石田英一郎:著 講談社学術文庫 07年9月 1,313円 378頁 ISBN:978-4-06-159838-6
竈神と厠神--異界と此の世の境 飯島吉晴:著 講談社学術文庫 07年9月 1,103円 329頁 ISBN:978-4-06-159837-9 ●親本は人文書院、1986年刊。
・怪魚ウモッカ格闘記--インドへの道 高野秀行:著 集英社文庫 07年9月 600円 331頁 ISBN:978-4-08-746215-9

愉悦の蒐集--ヴンダーカンマーの謎 小宮正安(1969-):著 集英社新書ヴィジュアル版 07年9月 1,050円 222頁 ISBN:978-4-08-720409-4 ●たまらんです(もちろん素敵だ、という意味で)。驚異の部屋(ヴンダーカンマー)へ至る隠し扉とか、グロテスクな肖像画とか、精巧なミニチュアとか、動物の結石コレクションだとか、巨大な天球儀とか、天井から釣り下がっているワニやシュモクザメの剥製とか、数々の神獣の人造ミイラとか、ガラスに封じ込められた悪魔とか、色々な写真が楽しめます。ヴィジュアル新書は本書で5点目。既刊は以下の通りです。『フェルメール全点踏破の旅』(朽木ゆり子:著、06年9月)、 『謎解き広重「江戸百」』(原信田実:著、07年4月)、『ダーウィンの足跡を訪ねて』(長谷川眞理子:著、06年8月)、『江戸を歩く』(田中優子:著、05年11月)。

・「粉もん」庶民の食文化 熊谷真菜(1961-):著 朝日新書 07年9月 777円 278頁 ISBN:978-4-02-273165-4
・江戸の歌舞伎スキャンダル 赤坂治績(1944-):著 朝日新書 07年9月 798円 289頁 ISBN:978-4-02-273167-8
・〈負け組〉の戦国史 鈴木眞哉:著 平凡社新書 07年9月 798円 243頁 ISBN:978-4-582-85391-9
・世界の小国--ミニ国家の生き残り戦略 田中義晧(1943-):著 講談社選書メチエ 07年9月 1,575円 230頁 ISBN:978-4-06-258397-8
・近代日本の右翼思想 片山杜秀(1963-):著 講談社選書メチエ 07年9月 1,575円 246頁 ISBN:978-4-06-258396-1
・日本幻想文学史 須永朝彦:著 平凡社ライブラリー 07年9月 1,470円 354頁 ISBN:978-4-582-76620-2 ●親本は93年、白水社より。
・愛国心を考える テッサ・モーリス‐スズキ(1951-):著 伊藤茂:訳 岩波ブックレット 07年9月 504円 71頁 ISBN:978-4-00-009408-5
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by urag | 2007-09-16 02:33 | 本のコンシェルジュ | Trackback(1) | Comments(0)
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