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2007年 02月 10日

再販制の護持と弾力的運用のあいだにあるもの

公取委取引企画課長(当時)の寺川祐一氏が06年12月21日の日書連理事会の席上で言うには、「再販制度はここ何年間かは維持されていくと思うが、制度をガチガチに守るよりは、その中でうまく運用していく方が業界全体の利益につながり、消費者利益にも結びつくのではないか」と。音楽業界における、「時限再販を積極的に導入し、期間を短くすれば業界全体にメリットがあり、大量の在庫を残すより、安くして売っていく方がよいという視点」について言及したあとに続けて。

あくる年07年1月26日の第53回出版販売新年懇親会(日書連主催)で、日本書籍出版協会(書協)理事長の小峰紀雄氏は「再販を心を合わせて守らなければいけない」と発言。日本出版取次協会(取協)会長の山﨑厚男氏は「再販制度の維持。出版業界の多様性を確保し、利益をもたらし、ひいては消費者のためになる」と発言。

同会には日本書店商業組合連合会(日書連)会長の丸岡義博氏も出席している。曰く、「今年は書店経営環境改善を第一に努力していきたい」。マージン問題や返品問題、ポイント(景品)問題などに言及しているけれども、再販制については特に触れていなかった様子

出版社や取次は再販制護持が前面だけれども、書店が出版社や取次に対して抱いているのは、具体的なマージンや返品をめぐる諸問題。出版社や取次の言い分――「心を合わせて」とか「多様性の確保」とかは、一出版人である私にとってすら、何やら平板な響きを帯びている感じがする。

出版社や取次が言う「再販制の護持」と公取委の推奨する「弾力的運用」とのあいだにあるもの、それは書店の現場の「苦悩」ではないのか。その苦悩の具体性に目を向けることなしに、再販制をめぐる実りある議論が可能なのだろうか。

日書連が昨年12月に発表したという、全国小売書店経営実態調査報告書の別冊「書店経営者・生の声」は、出版人や取次人にも読ませるべきであるように思う。少なくとも私は読みたい。ネット上で公開したらいいのに。

護持論と弾力的運用論のはざまにあるのは、さらに言えば、書店の現場の「苦悩」だけではない。マージン問題や返品問題は出版社も抱えているし、取次も抱えている。ただ、その苦悩の具体性と深刻度はそれぞれに異なる。大企業と零細企業の抱えている苦悩の現実は一緒のものではない。

弱肉強食の原理から言えば、出版社にせよ取次にせよ書店にせよ、零細企業の現実は厳しい。資本制のピラミッドの頂点により近い大企業の存立は、零細企業に対する残酷さを抜きにしては成立しない。不均衡が利益を生み出すのだから。ならばその是正のために、零細企業同士で、出版社や取次や書店が団結するかというとそうでもない。ほとんど皆、手を取り合う余裕がないだろう。他方、大企業同士の団結や提携は自分たちの収益を上げるためである。

結局のところ、業界を越えた次元の問題であるはずの「公益」というものを誰が考えているのだろうか。「公正」なる取引の問題と「公益」の産出の問題はどう立て分けて考えるべきだろうか。私たち業界人が言う「読者」や「活字文化」というものは、この「公正」さや「公益」とどう関係しているのだろう。

資本主義社会における文化流通と経済活動を考えるための、パブリック/サブパブリック/アンダーグラウンドの3項……。
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by urag | 2007-02-10 23:33 | 雑談 | Trackback | Comments(2)
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Commented by けん at 2007-02-11 12:46 x
新聞でも同様なことがおきていますね。購読者数の減少で販売店はどこも苦しい。以下の新聞販売黒書を読むと新聞社(出版含む)の下で販売店の人びとが弱い立場にいるのがよくわかります。
http://www.geocities.jp/shinbunhanbai/
Commented by urag at 2007-02-11 23:12
けんさんこんにちは。「おごれる者久しからず」とは言え、強者は弱者を切り捨て続けながら自らの延命を試みています。くまざわ書店の社長さんが数日前に「店舗の大型化は時代の趨勢」と発言したそうですが、私は首をひねってしまいます。小さな店舗はもはや生き残れない、と言いたいのでしょうか。恐竜時代は長く続かないと私は思っています。


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