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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2007年 01月 30日

「書物復権」2007の復刊候補リストが公開されています

岩波書店、紀伊國屋書店、勁草書房、新曜社、東京大学出版会、白水社、法政大学出版局、みすず書房、未來社の9社合同による復刊事業「書物復権」が2007年で第11回目を迎えました。現在、復刊候補リストを公開中で、2月末までリクエストを受け付けています。年をとってくると、10年前の本がつい先日刊行されたもののように思えるので、「えー、こんな本、ついこのあいだまであったじゃんか」などと一人ごちて、復刊候補の書目に新鮮味を感じず、文句を付けたくなるのであります。浅ましいことです。

それはそうと冒頭の挨拶文は、今年は岩波書店の山口昭男社長が書いておられます。ニュー・プレス代表のアンドレ・シフレンさんの著書『理想なき出版』にある言葉を引いていらっしゃるのが印象的です。いわく、「本には、主流に逆らい、新しい思想を生み出し、現状に立ち向かい、いつかは読者に受け入れられると期待して待つ力があるのである。そうした書籍とその思想――「思想の自由市場」と呼ばれるもの――にのしかかる脅威は、職業としての出版のみが直面する危機ではない。私たちの社会そのものに関わる危機なのだ。私たちは、民主主義社会にとって欠かせないとされてきた、自由な意見を発表していく姿勢を維持していかなければならない」。

頁数が記されていませんが、これは『理想なき出版〔The Business of Books〕』(柏書房)の末尾の言葉です。238頁。山口社長の引用をきっかけに本書を再びひともいてみて、どきっとしました。私はシフレンさんからこの訳書にサインをもらっていたのでした。サインにはこんな一言が添えられていました。"All my best wishes as you become the ideal Japanese publisher." ちょっと泣きそうになりました。

シフレンさんにお目にかかったのは訳書が出版されてから一年後の2003年5月だったでしょうか。並み居る業界の諸先輩方に混じって、私は幸運にも会食の末席についていたのでした。シフレンさんのあたたかくてやさしい人柄が記憶に残っています。それにしても、自分はいつからこのシフレンさんの激励の言葉を忘れていたのか。サインのついでの、ほんの儀礼的なメッセージだとでも軽々しく受け止めていたのでしょうか。

今ならあの時よりもっと重く、励ましを受け止めることができる気がします。季刊「本とコンピュータ」第二期9号(2003年秋号)にはシフレンさんのインタビューが載っており、いましがた読み返しました。月曜社への言及もあって、当時は面映く読んだのでしたが、自分の浅はかさに赤面します。激励と評価のその下地にある、シフレンさんの出版人としての苦労が多少なりとも分かるようになるまでに、あと何年かかるでしょう。

零細出版社の現実は常に厳しく、前途は多難です。これは今も昔も変わらない真実でしょう。進めば進むほど苦しく、どうして出版社をやっているのか、何度となく自身に問い返します。なぜ本でなければならないのか。出版のidealとは何か。理想と虚無が隣接するぎりぎりのエッジで、なおも一歩踏み出そうとする冒険。勇気と諦念の激しい相克。

シフレンさんの言う「待つ力」というのは、今般の出版業界においてはもっとも等閑視されていることのひとつです。誰もが待てないからこそ、短期的な回収が見込めるような、時流に乗った新刊を乱発し、さらに二番煎じ、三番煎じへと走る。「待っている場合じゃない」現実の中で、さらに市場は加速していくかのように見え、走り出した自分の足の回転に上半身がついていかない。止まろうにも強迫観念が自分の目の前を走るもう一人の自分の影となって先へ急ぐから、立ち止まることはおろか、振り返ることすらできない。止まったら死んでしまうと誰もが恐れている。速度は暴力です。私たちの肉眼から視野を奪い、自分しか、いえ、本当の自分ではなくその幻影しか見えなくさせる。その幻影が「世界」だと私たちは勘違いしてしまう。

今晩からもう一度、『理想なき出版』を枕元に置こうと思います。

by urag | 2007-01-30 22:09 | 雑談 | Comments(0)


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