2006年 11月 26日

今週の注目新刊(第77回:06年11月26日)

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カネと暴力の系譜学
萱野稔人(1970-):著
河出書房新社 06年11月刊 1,575円 B6判202頁 ISBN:4-309-24395-9
■帯文より:社会を動かす二つの力=カネと暴力への考察から、国家、資本主義、そして非合法権力が、かつてない姿で現われる。『国家とはなにか』(以文社)で注目の新鋭による、いまもっとも必要でリアルな書き下ろし。
●注目シリーズ「道徳の系譜」の最新刊。二年以上の準備期間を経て出来上がった力作。「あとがき」にはこう書かれています。「その二年のあいだに、わたしは『国家とはなにか』を上梓した。本書は、ある意味でその続編といっていいかもしれない。/ただし本書が主題にしているのは、国家そのものではない。「人びとが働いた成果をみずからのものとして吸いあげる」という運動である。国家は資本とともに、その運動の具体的なあらわれとしてここでは位置づけられている(本書はだから、国家を論じつつも、『国家とはなにか』ではあつかわれなかった問題――非公式暴力の活用や違法行為の管理など――を考察している)」。
●いっぽう書き出しはこうです、「生きていくためにはカネが必要だ。/この単純な事実をわれわれの思考の出発点にしよう」。このたった2行で私はたちまち本書の語り口に引き込まれました。そうそう、そういう話を聞きたかったんだよ、という感覚。高尚な論題を回りくどく長々と語られるより、がぜんリアルだし、ストレートです。萱野さんは時代の空気をうまくつかんでいる気がします。本書は世間のいわゆる「格差社会」論やニート論などが十分には掘り下げえなかった根本的な暴力批判、権力批判の観点から労働を論じています。重要な新刊です。

ニューヨーク烈伝――闘う世界民衆の都市空間
高祖岩三郎:著
青土社 06年12月刊 2,940円 46判524頁 ISBN:4-7917-6306-8
■帯文より:世界民衆都市の戦う主体とは誰か。他人種・移民による錯乱と混沌の21世紀の世界首都ニューヨーク。その市街で日々展開される資本と権力による熾烈な収奪に、生活しかつ文化生産と闘争で対抗する無数の無名民衆の多彩極まりない戦術とは。スクワット、ガーデニングなどの住環境運動、アートや演奏による主張と表現から、各種の権利奪還・反戦行動まで、生存のためのラディカルな闘争の現場を描ききる。誰にも書けなかったニューヨーク。
●『現代思想』での連載を再構成したものです。高祖さんは柄谷行人や磯崎新の著書の英訳者であり、先に以文社から刊行されたグレーバーの『アナーキスト人類学のための断章』の訳者でもあります。1980年以降ニューヨークに住んでいて、自転車で街の隅々を毎日ウォッチしていらっしゃるとか。萱野稔人さんらと『VOL』誌の編集委員をつとめていらっしゃいます。今後ますます活躍されるに違いない批評家です。
●ちょうど昨日から、ブックファースト渋谷店4Fレジ前で、著者自選の関連書籍30点がフェア販売されています。フェアは12月17日まで。

和解のために――教科書・慰安婦・靖国・独島
朴裕河(1957-):著 佐藤久:訳
平凡社 06年11月刊 2,310円 46判261頁 ISBN:4-582-70265-1
■版元紹介文より:日本と韓国の間に横たわる4つの歴史問題に、ナショナリズムを超えたまったく新しいアプローチで取り組む大胆な提言。日韓の歴史的な和解ははたして可能か。

日本無頼論!
坂口安吾(1906-1955):著
G.B. 06年12月刊 1,000円 B6判230頁 ISBN:4-901841-53-X
■版元紹介文より:坂口安吾生誕100周年記念出版。「憲法第九条」「愛国の精神」「欲望」「堕落」等、今の日本に必要なキーワードをすべで含む、読まずに明日を迎えられない衝撃の1冊。安吾からのメッセージをあなたはどう読み解くか。

表象の奈落――フィクションと思考の動体視力
蓮実重彦(1936-):著
青土社 06年11月刊 2,520円 46判370頁 ISBN:4-7917-6308-4
■帯文より:不可能性を超えて、事件を炸裂させる〈力〉。バルト、ドゥルーズ、デリダ、フーコー、そしてフローベール。「批評」は他者の言説の中でまどろむ記号に触れ、それを目覚めさせることから始まる。読むことで潜在的なものは顕在化し、その覚醒によって他者の言説は誰のものでもない言説へと変容する。待望の「批評」論集。
●70年代から最近までの15編のテクストが収録されています。ロラン・バルト追悼に始まり、その25年後のバルト再論に終わる、印象的な一冊。

人類再生――ヒト進化の未来像
ミッシェル・セール(1930-):著 米山親能:訳
法政大学出版局 06年11月刊 4,935円 46判447頁 ISBN:4-588-00861-7
■版元紹介文より:ゲノムの解読、遺伝子操作、クローン技術、核開発などによって、人類は創造と絶滅にかかわる全能性を手にし、コンピューター社会の出現によって未知の時空の中にいる。哲学の古い概念を再検討し、新時代にふさわしい哲学の創出をhominesence(人類再生)として提唱する。

〔新訳〕 神の場――内面生活に関するエッセイ
テイヤール・ド・シャルダン(1881-1955):著 美田稔:訳
五月書房 06年11月刊 2,940円 46判232+4頁 ISBN:4-7727-0449-3
●旧訳というのは、1968年に春秋社より刊行されていた、三雲夏生訳『宇宙のなかの神の場』のことかと思います。今回の新訳の訳者の美田さんは高名な『現象としての人間』(みすず書房)の翻訳を手がけられた方です。

無我と無私――禅の考え方に学ぶ
オイゲン・ヘリゲル:著 藤原美子:訳 藤原正彦:監訳
ランダムハウス講談社 06年11月刊 1,000円 46判140頁 ISBN:4-270-00164-X
●「新訳完成」と謳っていて、原著は"Zen in the Art of Archery"であると表記されています。旧訳というのは1950年代から80年代にかけて幾度か改版されてきた『弓と禅』(稲富栄次郎+上田武:訳、福村出版)のことかと思うのですが、こちらの底本はドイツ語版"Zen in der Kunst des Bogenschiessens"です。新訳の底本とどう違うのか、未確認です。

鉄道忌避伝説の謎――汽車が来た町、来なかった町
青木栄一(1932-):著
吉川弘文館 06年12月刊 1,785円 B6判214頁 ISBN:4-642-05622-X
■版元紹介文より:江戸時代に繁栄した町になぜ鉄道が通らなかったのか。明治の人々は鉄道建設による悪影響に不安をもち、鉄道や駅を町から遠ざけた…これが鉄道忌避伝説である。果たしてこの伝説は事実か。東海道の岡崎や甲州街道の府中など、全国各地に伝えられている実例を検証。当時の鉄道誘致運動、ルートや地形など様々な視点から実態を探り、伝説の謎に迫る。
●私の好きなシリーズ「歴史文化ライブラリー」の最新刊。そういう「忌避」習慣があったことを私はぜんぜん知りませんでした。ああ恥ずかしい。
●鉄道つながりの新刊ですが、『負け犬の遠吠え』で有名な酒井順子(1966-)さんが「小説宝石」や「ユリイカ」に寄稿したエッセイを単行本化した『女子と鉄道』(光文社)という本が出ていて、興味をそそります。
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by urag | 2006-11-26 19:49 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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