ウラゲツ☆ブログ

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2006年 09月 26日

「今週の注目新刊」の約1年半、全68回を総括してみました

「[本]のメルマガ」9月25日号に掲載した拙文を転載します。

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■「ユートピアの探求」/ 五月
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◎「今週の注目新刊」の約1年半、全68回を総括してみると

もう遥か昔のことのように感じるのだけれど、オンライン書店「bk1」で、人文思想書の新刊を毎週紹介する「人文レジ前」というコーナーを、2001年6月から2004年6月までやらせてもらっていた。同時期に、メタローグの隔月書評誌『レコレコ』や、同社の年刊特集誌『ことし読む本いち押しガイド』、そしてNTT出版の季刊誌『インターコミュニケーション』などへ書評を寄稿させてもらっていたおかげで、人文書全体の底上げに微力ながら貢献するという私個人の願望の一端が果たせたように思う。

人文書の宣伝というのはしかし地味なもので、上記の仕事はすべて節目を迎え、一昨年の夏は「これからどうしようか」と辺りを見回したものだった。どうも風向きはよくなかった。多数の人文書版元のたゆまぬ営業努力は変わらず続いていたのだけれど、会社の枠組みを超えて、人文書販売の底上げをするという作業は、書店さんにとっても、読者にとっても、今なお見えにくいものになっているのではないかと思う。

「人文レジ前」を終了するおよそひと月前の2004年5月6日、「ウラゲツ☆ブログ」を立ち上げた。そして「人文レジ前」を終了後に、「人文レジ裏」というブログも立ち上げた。前者は仕事がらみだから否応なく継続していったけれど、後者は活動方針が定まらず、ほどなくやめてしまった。しかし、新刊を毎週チェックするという作業は自分にとってやはり欠かせるものではなく、また、幸いにも複数の方から「人文レジ前」を惜しむ声を頂戴していたので、「ウラゲツ☆ブログ」の中で、「今週の注目新刊」というコーナーを立ち上げた。2005年4月17日のことだ。

本業である出版業と、新刊を紹介するライター業を以前までは立て分けていたけれど、もはや分離する必要もないと思った。私は本の海の中で生きている自分を再認識した。業界に入ってからというもの、自社他社の区別なく、素晴らしいと思った本はもともと宣伝し続けてきたのだし、自分の会社の本もそうした本たちの網目の中で生かされるものなのだから、本の海の中に住まう自分のあらゆる志向性をブログにさらけ出そうと思ったのだった。

ブログで「今週の注目新刊」を始めてから今月(2006年9月)いっぱいで、全68回を数える。このうち、新書や文庫、ライブラリー、ブックレットを除く単行本だけで集計してみたところ、261社の版元の760冊を取り上げてきたことがわかった。集計する前に好物のティママンのグーズを飲んだせいで、時折譫妄状態の中でカウントが怪しくなった場面もあるが、概算数字としてはほぼこんなものかと思う。

われながら興味があったのは、どこの版元の本を一番多く取り上げてきたか、だった。結果は自分が予想していたのとは違っていて若干驚きもしたが、納得できるものではあった。10冊以上を基準にして順位にすると以下の通りになる。

1位:みすず書房、42冊
2位:岩波書店、32冊
3位:法政大学出版局、30冊
4位:青土社、27冊
5位:河出書房新社、25冊
6位:平凡社、17冊
7位:作品社、16冊
8位:明石書店、14冊
8位:人文書院、14冊
10位:春秋社、13冊
11位:NHK出版、12冊
11位:水声社、12冊
13位:白水社、10冊
13位:藤原書店、10冊
13位:講談社、10冊
13位:新曜社、10冊

まず驚いたのは、みすずがダントツのトップだったことだ。これは全く意識していなかった。もうひとつ驚いたのは、講談社が上位に入っていることだった。私にとって大手の本は文庫を除いてそのほとんどが興味を惹かないから、最大手はほとんど取り上げていないはずなのだけれど、それでも10点もある。作品社が7位なのは、自分の古巣であるという背景もあるかもしれないが、別段贔屓したわけではない。げんにもう一つの古巣である未来社はもう少し順位が下になる。

思い出せば、大学生の頃、生協で人文系版元の全点フェアが行われていたときには、よく大量買いをしていたものだった。特にみすず書房のフェアではあれもこれもと欲張ったものだった。なるほど、私は今も昔もみすずファンらしい。いずれにせよ、上位のみすず、岩波、法政、の三社はおそらく私自身が無意識のうちに目標としている版元の理想形であるのかもしれない。

上記のデータは、その版元が年間で何点刊行しているかを参考にすると、また違った順位表を作れるのではないかと思う。例えば、上記のランクにはないが、哲学書房や洛北出版の新刊はほぼすべて漏れなく関心を払っている。各版元が刊行した本のうち何点を気に入っているか、そういう切り口ならば、順位はおのずと違ってくるだろう。

なお、単行本の上位ランクには筑摩書房が入っていないが、同社は文庫新書の部門ではおそらくトップになるのではないかと思う。ちくま学芸文庫、岩波文庫、講談社学術文庫、平凡社ライブラリーが大方を占めるだろう。

今回気づいたことがもう一つある。私は選書において「bk1」時代から、図書館流通センター(TRC)の「週刊新刊全点案内」を常に参照していたのだけれど、まことに腹立たしいことに、同サービスを含む「ブックポータル」は2005年8月24日で終了してしまった。毎週1100~1500点をチェックしていた時は、零細版元の良書をけっこうピックアップできていた、ということがよくわかった。

現在利用している、bk1の日替わりの「新入荷一覧」は、24時間以内に発送可能な書籍から選択的に掲載されているため、データ登録はされたけれど、まとまった部数をTRCが仕入れていない零細版元の新刊の多くは、「見えなくなってしまった」のだ。

これの穴を埋めるには、ジュンク堂書店のような超大型書店に行って、新刊棚を巡回してくるしかない。むろん本屋巡りは大好きなので、苦痛ではないけれど、ネットで一括してデータベースを見れば良かった頃の便利さと合理性には遠く及ばない。本屋巡りというのは社会人にとっては、時間の余裕がなければできない贅沢なのだ。

さらにもうひとつの贅沢があることに「今週の注目新刊」では毎回気づかされる。自分がピックアップした新刊をすべて購入した場合、毎週数万円ずつの出費となり、一ヶ月で十万円以上をかけなければ、注目新刊を買うことが不可能なのだ。残念ながらその経済的余裕は私にはないし、たとえ買えたとしても、今度は本の置き場所に困るだろう。「注目新刊」の一覧と、リアルに買った本のリストは当然異なることになる。「良書」の類を購入し続けるのは金持ちでなければ無理だし、その本を保管するのも、それなりの大きな書斎と設備を構えなければ無理だ。ようするに贅沢なのである。

さきほど「ブログですべてをさらけ出す」と書いたけれど、私は新刊をチェックする以上に、実は古書を漁っていてるということを、さらけ出しては「いない」。新刊はともかくとして、どんな古書を漁っているのかをもし明かしてしまったとしたら、私の仕事場と趣味はほとんど丸見えになってしまう。本当のことを言えば、自分にとって「今週の注目古書」は「今週の注目新刊」同様、あるいはそれ以上に面白い。広く情報を共有してみたい気もするけれど、漁書においてライバルである諸姉兄に塩を贈るわけにはいかない。

いつか仕事を引退することになったら、そしてそのときにまだブログをやっていたら(やっていない気がするが)、「今週の注目古書」を始めてみたいなと思ったりする。


◎五月(ごがつ):1968年生まれ。月曜社取締役。本誌25日号編集同人。
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by urag | 2006-09-26 02:57 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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