2006年 09月 10日

今週の注目新刊(第66回:06年9月10日【前編】)

今週は大漁につき、2回に分けてご紹介します。まずは単行本全編。続くエントリーでは単行本後編と文庫新書を。
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愛の新世界
シャルル・フーリエ(1772-1837):著 福島知己(1971-):訳
作品社 06年8月刊 8,190円 A5判716頁 ISBN 4-86182-089-8
■帯文より:そのあまりの先鋭さ故に長らく封印されていた幻の奇書、ついに全貌を現わす。稀代の幻視者フーリエが描く、恋愛のユートピア!
●本書については刊行前から拙ブログで何度か触れてきました。待望の刊行です。何はさておき、初版が限定800部ですから、多少の我慢をしてでも本書は買うに越したことはないです。半世紀に一度あるかないかの、ホンモノの「奇書」の翻訳なのですから。
●苦心の訳文に詳細な訳註と解説、巻末には用語集と地図が付されています。索引が欲しかった気もしますが、作成するだけでも途方もない作業となるでしょうし、人名索引はドゥブー版にありますから、原書を買うのがいいと思います。原文と訳文を対照もできますし。
●訳者の福島さんは訳稿をつくるに際して、フランス国立古文書館に保管されているフーリエの草稿にも目を通されていて、ドゥブー版と異なる判読をされている部分があるので、本書はいわば、福島さんによる最新校訂版に基づいていると言っていいわけです。
●松田行正さんの装丁も素晴らしいです。箔押しなどの加工が美しく、本書にぴったりです。
●フーリエの言う「調和世界」と、それを構成する様々な愛のかたちは、現代人にとっても今なお新鮮に映ることでしょう。常識や慣習をぶち壊す一撃また一撃が、本書には満載されています。
●フーリエ哲学は極端な思想なのでしょうか? そうではないかもしれません。彼は『四運動の理論』(現代思潮新社)でこう述べています、「賢明なる中庸に安定することなく、常に両極のあいだを動揺するのが文明の運命である」と。フーリエが極端な存在に映るとしたら、それは現代人こそが極端な存在だからかもしれないのです。

双数について
ヴィルヘルム・フォン・フンボルト(1761-1835):著 村岡晋一(1952-):訳&解説
新書館 06年9月刊 2,940円 A5判222頁 ISBN:4-403-12018-0
●「双数について」「いくつかの言語における場所の副詞と人称代名詞の類縁性について」「人間の言語構造の相違について」の三論文を収録。フンボルトの邦訳は20世紀前半に集中していて、後半はほとんどなかっただけに、今回の新刊は久しぶりのニュースです。 後半は『言語と精神--カヴィ語研究序説』(亀山健吉:訳、法政大学出版局、84年刊)と、『人間形成と言語』(クラウス・ルーメルほか:訳、以文社、89年刊)くらいで、あとは復刻が1点あるくらいです、『言語と人間』(岡田隆平:訳、創元社、48年刊/ゆまに書房、98年刊)。

ヨーロッパ文明史--ローマ帝国の崩壊よりフランス革命にいたる
フランソワ・ギゾー(1787-1874):著 安士正夫:訳
みすず書房 06年9月刊 3,360円 46判344頁 ISBN:4-622-07239-4
●初版は1987年刊。本年度の「書物復権」で復刊されたものの一つです。みすず書房のその他の復刊書目はこちらをご覧になってください。

異説・近代芸術論
サルヴァドール・ダリ(1904-1989):著 滝口修造訳
紀伊国屋書店 06年9月刊 2,310円 A5判131頁 ISBN:4-314-01014-2
●初版は1979年刊。これも「書物復権」からの一冊。「書物復権」全体の、復刊決定書目はこちらをご覧ください。

ブレイキング・グラウンド--人生と建築の冒険
ダニエル・リベスキンド(1946-):著 鈴木圭介:訳
筑摩書房 06年9月刊 3,675円 A5判344頁 ISBN:4-480-85784-2
●ポーランド出身の、現代建築界を代表する一人であるリベスキンドの、本邦初の単行本です。デリダとの交流がつとに有名ですから、建築書だけでなく、現代思想の棚に置いていい本だと思います。コールハースやバルモンド、チュミ、ジェンクス、礒崎新、飯島洋一の本なども並んでいるともっといいと思います。

摩天楼とアメリカの欲望--バビロンを夢見たニューヨーク
トーマス・ファン・レーウェン(1941-):著 三宅理一+木下寿子:訳
工作舎 06年9月刊 3,990円 A5判383頁 ISBN:4-87502-397-9
●著者はライデン大学教授で、アメリカでも教鞭を執っているそうです。同じくオランダの研究者
であるマグダ・レヴェツ-アレクサンダー女史による『塔の思想』という小さな本が河出書房新社からかつて刊行されていて、そこでは西欧文明における塔の精神史がコンパクトに解明されていましたが、ファン・レーウェンの本書は特にアメリカに的を絞って書かれているようです。聳え立つ摩天楼はなぜ人を魅了するのでしょうか。屹立するファロスだから? むろん、それだけが論点ではないのです。

テヘランでロリータを読む
アーザル・ナフィーシー(1950c-):著 市川恵里:訳
白水社 06年9月刊 2,310円 46判485頁 ISBN:4-560-02754-4
●ヴェールの着用を拒否したためテヘラン大学教授の地位を追われたナフィーシー女史(現在はジョンズ・ホプキンズ大学教授)が、女性だけの読書会を秘密裏に開いて禁書である「ロリータ」「グレート・ギャツビー」などを読んだという、「イスラーム革命下のイラン」における回想録だそうです。中味の立ち読みや岡真理さんの特別寄稿、書店員さんや読者からの声を掲載している白水社の特集ページはこちらです。

戦場で心が壊れて--元海兵隊員の証言
アレン・ネルソン(1947-):著
新日本出版社 06年9月刊 1,365円 小B6判156頁 ISBN:4-406-03312-2
●著者はベトナム戦争体験者で、長い年月、PTSDと対峙してきた方です。現代日本へのまなざしや、憲法9条などに対するコメントなど、経験者の言葉の重みを受け止めたいと思います。岩波書店の新刊『玉砕/Gyokusai』(小田実+ドナルド・キーン+ティナ・ペプラー)とあわせ、911を迎えるにあたって読みたい本です。

カイエ 1957-1972
E・M・シオラン(1911-1995):著 金井裕:訳
法政大学出版局 06年9月刊 28,350円 A5判1012+18頁 ISBN:4-588-15045-6
●「15年間にわたり書き継がれた膨大な未発表ノートの全訳に人名索引と略年譜を付」したものだそうです。翻訳出版自体は非常に喜ぶべきものですが、この値段では学生は買えないし、社会人だってたいていは尻込みするでしょう。推測するに初版は300部くらいかもしれません。大学図書館向けでしょうね。欲しい、でも手が出ない。

図書館は本をどう選ぶか
安井一徳(1982-):著
勁草書房 06年9月刊 2,205円 46判164+5頁 ISBN:4-326-09831-7
●「図書館の現場」シリーズの一冊。著者は東大卒で現在は国立国会図書館に勤務されています。「公共図書館での図書の選択はどんな基準にもとづいているのか。市民の要求か社会的価値か。選択基準の正当性を原理的に考えぬく」というのが趣旨だそうです。「原理的に」というのは恐らく、個々の実務を包摂していくようなメタレヴェルにおける選書論である、という意味でしょうね。要求論と価値論というのは、出版社においても書店においても直面する問題です。若い著者がどんなふうに整理しているのか、興味は尽きません。

書店繁盛記
田口久美子(1947-):著
ポプラ社 06年9月刊 1,680円 46判307頁 ISBN:4-591-09433-2
■帯文より:本屋さんの棚には、私たちの未来がつまっている。若い書店員の奮闘から、本と出版の未来を考える。
●リブロ池袋店の黄金期を振り返った『書店風雲録』(本の雑誌社、2003年)に続き、ジュンク堂書店池袋店での体験記がぎっしり詰まっています。ウェブマガジン「ポプラビーチ」で連載されていた「書店日記」を再構成し、加筆訂正したもの。今回の本も非常に面白いです。ほとんどの人物が実名で出てきて、皆さんの奮闘振りにあらためて感動。抱きしめたくなる本です。私の実名がちょこっと出てくるのは汗顔の至り。ああオンライン書店で買うんじゃなくて、ジュンク堂で買えばよかった。
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by urag | 2006-09-10 16:33 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(1)
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Commented at 2006-09-12 21:56 x
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