2006年 06月 18日

今週の注目新刊(第55回:06年6月18日)

バロックのイメージ世界――綺想主義研究
マリオ・プラーツ(1896-1982)著 上村忠男(1941-)+尾形希和子(1959-)+廣石正和(1956-)+森泉文美(1963-)訳
みすず書房 06年6月刊 ¥6,300 A5判331+12頁 ISBN4-622-07199-1
■版元紹介文より抜粋:後期ルネサンスからバロック時代に至る16~17世紀、ヨーロッパでは、図絵入り書物に「エンブレム(記章)」「インプレーサ(標語付き図案)」「エピグラム(寸鉄詩)」を描き込むことが大流行した。それらの寓意的=象徴的図像を精査し、そこに現れた〈綺想〉というイメジャリーのシンボリズムを読み解くプラーツの主著。言葉と表象、叡智と感性、稀有さと驚異、秘教的言語と宗教的真理が一体となった〈バロック的思考〉に、はじめて体系的に取り組んだ古典的名著。図版75点を併録。
●プラーツはイタリアの英文学研究者です。62年に英国王室からのナイトの称号を授与されています。ローマにはマリオ・プラーツ美術館があるそうです。
●98年にありな書房から伊藤博明訳で刊行された『綺想主義研究――バロックのエンブレム類典』は1936年/1946年に刊行された"Studi sul concettismo"2巻本の翻訳。今回みすず書房から刊行されたのは、1939年/1948年に刊行されたその英語版"Studies in Seventeenth-Century Imagery"2巻本の翻訳。――ということであるはずですが、この二冊の関係については後日書いておきたいと思います。

プラーツの既訳書:
『記憶の女神ムネモシュネ――文学と美術の相関関係』前川祐一訳、美術出版社、79年2月刊。
→『ムネモシュネ――文学と視覚芸術との間の平行現象』【増補版の翻訳】 高山宏訳、ありな書房、99年11月刊。
『肉体と死と悪魔――ロマンティック・アゴニー』倉智恒夫ほか訳、国書刊行会、86年11月刊。
『官能の庭――マニエリスム・エンブレム・バロック』若桑みどりほか訳、ありな書房、92年2月刊。
『ペルセウスとメドゥーサ――ロマン主義からアヴァンギャルドへ』末吉雄二+伊藤博明訳、ありな書房、95年2月刊。
『綺想主義研究――バロックのエンブレム類典』伊藤博明訳、ありな書房、98年12月刊。
『ローマ百景――建築と美術と文学と』白崎容子+上村清雄+伊藤博明訳、ありな書房、99年7月刊刊。
『蛇との契約――ロマン主義の感性と美意識』【第2版の翻訳】浦一章訳、ありな書房、02年3月刊。

ピュグマリオン効果
ヴィクトル・I・ストイキツァ(1949-)著 松原知生訳
ありな書房 06年6月刊 ¥7,560 A5判416頁 ISBN4-7566-0691-1
■版元紹介文より:西洋の視覚文化の底流をなす、生命を賦与されて現前する魔術的なイメージ、シミュラークル。その遥かなる起源としてのピュグマリオン神話が時を超えて及ぼす多様な「効果」を鮮やかに読み解き、プラトニズム/モダニズム的な〈表象〉概念を脱構築する、スリリングなイメージ人類学の試み。
●ストイキツァVictor Stoichitaはルーマニアのブカレスト出身の美術史家。ローマ大学やパリ大学ソルボンヌ校などで学び、広く欧米諸国で教鞭を執っています。

ストイキツァの既訳書:
『絵画の自意識――初期近代におけるタブローの誕生』岡田温司+松原知生訳、ありな書房、01年7月刊、税込7,560円、A5判534頁、ISBN4-7566-0169-3。
『ゴヤ――最後のカーニヴァル』アンナ・マリア・コデルク共著、森雅彦+松井美智子訳、白水社、03年2月刊、税込5,880円、A5判405+8頁、ISBN4-560-03891-0。

悪の記憶・善の誘惑――20世紀から何を学ぶか
ツヴェタン・トドロフ(1939-)著 大谷尚文訳
法政大学出版局 06年6月刊 ¥5,565 46判503+9頁 ISBN4-588-00848-X
■版元紹介文より:20世紀の悲劇の源となった二つの全体主義(共産主義とナチズム)に共通する科学万能主義とユートピア思想が善悪二元論による排外主義に帰結した経緯を辿るとともに、この悲劇の渦中で批判的ヒューマニズムを貫いた人々の人生と思想を蘇らせ、20世紀の経験が現在に投じる光を探究する。全体主義の世紀から多元主義的民主主義の世紀へ──21世紀に生きる人間の道をさぐる。
●1939年3月1日にブルガリアのソフィアに生まれたЦветан Тодоровは文学理論、芸術批評、アメリカ史やナチスやスターリニズムなどの歴史研究、政治的時評などを幅広く手がける学者で、1963年以降はパリに移住、73年にフランス国籍を取得しています。20冊以上ある既訳書のほとんどは法政大学出版局から出版されており、文庫本もあります(『幻想文学序説』三次郁朗訳、創元ライブラリ、1999年。親本は75年刊『幻想文学――構造と機能』渡辺明正共訳、朝日出版社)。その横断的学殖と多作のためか、本屋さんでは一箇所にまとめて全冊揃って置かれることがほとんどありません。先日、フランス在住のセファラード系ユダヤ人学者エドガール・モランについて似たようなことを書きましたが、こういう著者は折を見てミニ・フェアなりコーナーなりを設けて一挙に陳列するとかなり壮観だろうと思います。

人権の政治学
マイケル・イグナティエフ著 エイミー・ガットマン編 添野育志+金田耕一訳
風行社 06年6月刊 税込2,835円 46判275+9頁 ISBN4-938662-52-3
●原書は、2001年にPrinceton University Pressから刊行された以下の本です。"Human Rights as Politics and Idolatry" by Michael Ignatieff. Edited and with an introduction by Amy Gutmann. With commentary by K. Anthony Appiah, David A. Hollinger, Thomas W. Laqueur, and Diane F. Orentlicher. これは2000年にイグナティエフがプリンストン大学のCenter for Human Valuesにおいて行ったタナー記念講演をもとにした本で、「政治としての人権」「偶像崇拝としての人権」の2論考のほか、ガットマンによる解説、アッピア、ホリンジャー、ラカー、オレントリッチャーらのコメントと、それらに対するイグナティエフの応答が収録されています。
●タナー記念講演の邦訳にはたとえばクッツェーの『動物のいのち』(大月書店)があります。カリフォルニア大学アーヴァイン校のウェレック・ライブラリー講演と並んで、タナー記念講演は英米語圏における人文社会系の最重要講義を聴講できる場所です。

辞書とアメリカ――英語辞典の200年
本吉侃(1938-)著
南雲堂 06年6月刊 税込4,725円 A5判410頁 ISBN4-523-30071-2  
●アメリカの辞典編纂史についての本で、英語辞書の誕生(1789年)からこんにちに至る歴史を扱っているそうです。こういう基礎研究がやっぱり重要ですよね。

どこにもない国――現代アメリカ幻想小説集
柴田元幸編訳
松柏社 06年6月刊 税込2,310円 46判311頁 ISBN4-7754-0116-5
■版元紹介文より:過去約20年間にアメリカで書かれた幻想小説のなかから9作品を厳選、翻訳した逸書。ニコルソン・ベイカー「下層土」、ジョイス・キャロル・オーツ「どこへ行くの? どこ行ってたの?」、ケリー・リンク「ザ・ホルトラク」、エリック・マコーマック「地下堂の査察」、ピーター・ケアリー「“Do You Love Me?”」、ウィリアム・T・ヴォルマン「失われた物語の墓」、ケン・カルファス「見えないショッピング・モール」、レベッカ・ブラウン「魔法」、スティーヴン・ミルハウザー「雪人間」を収録。
●編訳者の柴田元幸さんのトークショーが以下の通り予定されています。

◎『どこにもない国』刊行記念・柴田元幸トーク&サイン会
日時:2006年6月29日(木) 19:00~20:30(予定)
場所:丸善丸の内本店・3階日経セミナールーム
※整理券は本書ご購入時、ご希望の方にお配りいたします。電話予約も可能です。

アメリカ文学むだばなし
日時:2006年7月5日(水曜日) 19:00~
場所:ジュンク堂書店池袋本店・4F喫茶コーナー

新説 東京地下要塞――隠された巨大地下ネットワークの真実
秋庭俊(1956-)著
講談社 06年6月刊 税込1,470円 46判238頁 ISBN4-06-213354-7 
●帯文に曰く「禁断の領域にはじめて踏み込んだ!! 権力者たちがひた隠しにしてきた驚愕の舞台裏が、いま明らかになる!!」とのこと。「帝都」の地下を語らせるならこの人というくらい、もうすでに有名だと思います。今回はサンシャインシティの地下4階の巨大変電所から始まり、浅草線など都営線の真実が暴かれるようです。
●関連書としては、今月グラフィック社から刊行された内山英明(1949-)さんの写真集『トーキョー・アンダー』があります。内山さんもまた『Japan Underground』(アスペクトよりパート3まで刊行)で有名ですよね。たとえば『ユートピア旅行記叢書(12)ニコラス・クリミウスの地下世界への旅』(岩波書店)のような読み物もあわせて、地下世界をキーワードにしたブックフェアなどができたら面白そうですね。一方で都市計画や軍都、もう一方で洞窟、冥界(あの世)、地獄といった関連キーワードもフォローするとけっこうそれなりの規模のフェアになるのでは。

扉の国のチコ
巌谷国士文 上野紀子+中江嘉男絵
ポプラ社 06年6月 税込1,470円  29cm×25cm 37頁 ISBN4-591-09282-8
■版元紹介文より:ひとりぼっちのチコが望遠鏡でみつけた扉。その向こうには……。仏文学者・巌谷國士と「ねずみくん」の作者がつむぎだす、不思議な物語。読者対象:小学中学年以上向き。

神秘と詩の思想家メヴラーナ――トルコ・イスラームの心と愛
Emine Yeniterzi著 東京・トルコ・ディヤーナト・ジャーミイ監訳 西田今日子訳
丸善プラネット 06年6月刊 税込3,150円 菊判387+5頁 ISBN4-901689-52-5
●セルジューク大学文学部教授で、オスマン文学およびトルコ古典文学の研究者Yeniterziによる、中世イスラームの神秘思想家にして詩人であるルーミー(1207-1273)の研究書。メヴラーナというのはルーミーの尊称だそうですね。井筒俊彦訳の『ルーミー語録』は岩波書店の「イスラーム古典叢書」や中央公論社の「井筒俊彦著作集」でかつて読めましたが、今は品切。文庫化されてもおらず、残念でなりません。
●丸善プラネットは、丸善の自費出版部門。わが月曜社には自費出版部門はありませんが、東西の古典名著の埋もれた翻訳原稿については積極的に探求しています。

心霊現象の心理と病理
カール・グスタフ・ユング著 宇野昌人+岩堀武司+山本淳訳
法政大学出版局 06年6月刊 税込1,890円 46判159頁  ISBN4-588-18213-7
●新装版ですね。82年に初版が刊行され、これまで版を重ねてきました。精神科医としてのユングの出発点をなす最初の論文で、学位論文でもあります。
●呆然とするくらい品切の多いユングの訳書ですが、文庫や新書では以下のものがあります。

変容の象徴(上下)/ちくま学芸文庫/野村美紀子訳/92年6月刊/ISBN4480080090|ISBN4480080104
空飛ぶ円盤/ちくま学芸文庫/松代洋一訳/93年5月刊/ISBN4480080570【品切】
自我と無意識/レグルス文庫/松代洋一訳/95年2月刊/ISBN4476012205
創造する無意識――ユングの文芸論/平凡社ライブラリー/松代洋一/96年3月刊/ISBN4582761402
現在と未来――ユングの文明論/平凡社ライブラリー/松代洋一訳/96年11月刊/ISBN4582761712
ユング オカルトの心理学/講談社+α新書/島津彬郎訳/00年6月刊/ISBN4062720205【品切】
ユング 錬金術と無意識の心理学/講談社+α新書/松田誠思訳/02年6月刊/ISBN4062721392

それぞれ親本あり。『変容の象徴』を除いては、それぞれ他社から引っ張ってきた本です。文庫化ないし新書化されたものが品切絶版になると、単行本として再生されることが少ないので、一部の出版人は皮肉を込めてこれらを「本の墓場」と呼んでいます。古典が単なる「消費財」に堕するのは、読者にとっては迷惑なだけです。とはいえ、出版文化を支えるのは版元だけでなく、本屋さんもそうですし、究極的には読者です。読者の激励の声を出版社にぜひ送ってください。

実用カラーの癒し――暮らしの中で実践できる完全ガイド
リリアン・ヴァーナー・ボンズ著 今井由美子+諫早道子訳
産調出版 06年6月刊 税込2,520円 B5変形判144頁 ISBN4-88282-484-1 
●2001年刊の『実用カラーヒーリング――色の持つ力を知り、心と身体を至福の状態に導く方法』の新装普及版です。普及版と言っても、値段はほとんど変わりません。私の色彩への関心はゲーテ『色彩論』に由来するもので、形態学との関連でこの手の本を漁ります。

ヒトの変異――人体の遺伝的多様性について
アルマン・マリー・ルロワ(1964-)著 上野直人監修 築地誠子訳
みすず書房 06年6月刊 税込3,360円  46判392頁 ISBN4-622-07219-X
■版元紹介文より抜粋:「私たちはみなミュータントなのだ。ただその程度が、人によって違うだけなのだ」。発生生物学者たちを虜にする体づくりの精妙な仕組みと多様性の謎。重い奇形の原因が、約30億の塩基対のうちのたった一つに起きた変異である場合もある。違いの源がいかに私たちの直感に反して微かであるかを本書は発見する。人体の遺伝的多様性の原因を科学的に解明することは、不当な差別を助長するのではなく、無化するはずではないか? 著者が改めて提起するこの問いが、賛否に拠らず軽視できないものであることは、「怪物」から「遺伝子のわずかな変異」への旅を知った読者には明らかだろう。
●「人体」がキーワードの今月のこのほかの新刊には『人体失敗の進化史』 (遠藤秀紀著、光文社新書)があります。こちらは二足歩行に至る人体の進化とその未来を探る本です。

ブックショップはワンダーランド
永江朗(1958-)著
六耀社 06年6月刊 税込1,680円 46判288頁 ISBN4-89737-558-4
■版元紹介文より:永江朗が会いたかった13人の書店員さんたち。ジャンル別に書店員さんと対談、書店員さんたちの本音や、ためになるテーマがいっぱい。各書店員さんが選んだ、ジャンル別お薦め書籍リストも掲載。
■取材先書店:BOOK246/クレヨンハウス/ナディッフ/南洋堂書店/デザインブックス/ときわ書房本店/青山ブックセンター本店海外文学売場/ブックファースト渋谷店現代日本文学売場/東京堂書店近代日本文学売場/紀伊國屋書店新宿本店5階「じんぶんや」/教文館キリスト教書売場/書肆アクセス/リンドバーグ本店
■出版記念イベント「永江朗ミニトーク&サイン会
1、永江朗×松田哲夫ミニトーク「本屋の歩き方」
本屋を巡る街歩きのすすめ・面白い本を探すにはなど、本屋の活用法をレクチャー。
2、永江&松田「豪華ダブルサイン会」
日時:06年6月24日土曜日14:00~
場所:青山ブックセンター自由が丘店 TEL:03-5726-0271
参加方法:青山ブックセンター自由が丘店・本店・六本木店にて、『ブックショップはワンダーランド』(永江朗・著/六耀社刊/¥1600本体)及び永江朗さん・松田哲夫さん全著書(文庫本は除く)をご購入の方、先着50名様に、ミニトーク&サイン会ご参加整理券を差し上げます。


◎注目の新書・文庫

常識として知っておきたい世界の哲学者50人/夢プロジェクト編/KAWADE夢文庫/540円/ISBN4-309-49619-9
希望のしくみ/アルボムッレ・スマナサーラ(1945-)+養老孟司(1937-)著/宝島社新書/750円/ISBN4-7966-5331-7
/カフカ著/池内紀訳/白水社uBooks/1,470円/ISBN4-560-07155-1

***

法政大学出版局の06年7月の刊行予定を見ますと、10日発売でついにアブラハム+トロークの『埋葬語法/狼男の言語標本――フロイトの症例報告読解』が港道隆+森茂起訳で刊行されるようですね。もちろん、デリダの序文《Fors》も収録されます。アブラハム+トローク(あるいはトロック)については『表皮と核』が松籟社より刊行予定です。

皆さんは「これから出る本」はどこでどうやって情報を入手されますか。各出版社のサイトや、雑誌での言及、クチコミなど色々な方法があると思いますが、取次の日販が運営する「本やタウン」の書籍・文庫・コミックの「近刊情報」は様々な版元の近刊情報が見ることができるので便利です。基本的に日販に情報をデータで提供している版元のものしか分かりませんけれども、現状でも見る価値はあります。
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by urag | 2006-06-18 18:35 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
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Commented by 西田 at 2006-06-26 22:47 x
はじめまして、「神秘と詩の思想家メヴラーナ――トルコ・イスラームの心と愛」ご紹介ありがとうございます。光栄です。

公開編集会議というのは誰でも参加できるものなのですか?物陰からでも拝見してみたいものです。
Commented by urag at 2006-06-27 00:19
西田様、こんにちは。こちらこそご訪問いただき光栄です。たいしたご紹介もできておらず冷や汗が出ます。公開編集会議プレ企画にはもちろんどなたでも無料でご参加いただけます。ちょっとしたお祭りとして楽しんでいただけたらと思っています。


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