2006年 06月 11日
先日は以文社の『VOL』創刊で盛り上がりましたが、今度は講談社の話題。『アリエス』や『RATIO』の次に何が出てくるかと思ったらムック形態の雑誌『メカビ』ですって。誌名は、「メカから美少女まで」様々な話題を扱うということでつけられたようですね。「萌え世代のモブカルチャーマガジン」だそうです。 宣伝文句に曰く、「「オタク」層を生み出した、現代日本の社会構造の変化とは。「萌え」は誤解されているのか。ならば「萌え」の本質とは。クリエイターたちはいかに自らのオタク性を原動力としたか。本当のオタクだけが結集し、徹頭徹尾「オタクが読みたい記事」を厳選した未曾有の「男性読者限定の総合誌」、それが『メカビ』!そう、漢ならみんな仲間だ!」 「オタクな著名人へのインタビュー」として樋口真嗣、養老孟司、Gackt、麻生太郎が登場。なにやらすごい顔ぶれ。「新世代の評論家が「オタクと現代社会」を斬る」という批評・時評コーナーでは、本田透、皆川ゆか、森永卓郎、竹内一郎、森川嘉一郎、想田充、いずみのが寄稿。このほか、「オタクに支持される」クリエイターたちへのインタビューや小説など。 いわゆる総合誌や文芸誌からの若者離れはとっくの昔から始まっていましたが、こうした雑誌をつくることで柔軟路線と硬派路線を繋げて、趣味にも教養にも政治にも関心があり、フィギュアも愛でれば新書も読むといった今時の若い読者の受け皿をつくったというあたりでしょうか。そういうありきたりな分析では失礼ですけれども。総合誌や文芸誌の領域までこうした編集方針とコンテンツ選択が新世代のスタンダードとしてゆくゆく浸透していくかもしれない――そんな波及力が期待できるような気もします。 大塚英志責任編集の『新現実』(角川書店)以後の勢力として市場では受容されるのでしょうか。編集室の公式ブログ「メカビ--オタク情報総合誌編集室ブログ」によれば売切店続出だそうで。人文社会書売場にも馴染ませておきたいですね。私のような人文系の人間もオタクと言えばオタク。それぞれの分野のオタクがタコツボから這い出て、総合誌という雑談空間に流入していくといったイメージに近いのか。今後の動向が楽しみです。 刊行記念トークライブ(本田透+アニメ会)が昨日青山ブックセンター本店で行われました。店頭に「モブカルチャーコーナー」が設置されたそうですが、私はまだ見ていません。面白そう。 メカビ Vol.01 男子は皆、オタクである 本田透+堀田純司=スーパーバイザー / 講談社学芸局=編集 / 講談社 / ¥1,500 / ワイド判199頁 / ISBN4-06-179591-0 ブック・アートの世界――絵本からインスタレーションまで 中川素子(1942-)+坂本満(1932-)編 / 水声社 / ¥3,150 / A5判266頁 / ISBN4-89176-584-4 美術海 藤井健三解説 / 芸艸堂(うんそうどう) / ¥2,940 / 240mm×240mm 85頁 / ISBN4-7538-0215-9 ルミノシティ/ポロシティ スティーヴン・ホール(1947-)著 / TOTO出版 / ¥2,520 / A5判248頁 / ISBN4-88706-270-2 宝石の歴史 パトリック・ヴォワイヨ著 / ヒコ・みづの監修 / 遠藤ゆかり訳 / 創元社 / ¥1,575 / B6変形判144頁 / ISBN4-422-21187-0 迷走フェミニズム――これでいいのか女と男 E・バダンテール(1944-)著 / 夏目幸子訳 / 新曜社 / ¥1,995 / 46判216頁 / ISBN4-7885-0996-2 同性婚――ゲイの権利をめぐるアメリカ現代史 ジョージ・チョーンシー(1954-)著 / 上杉富之+村上隆則訳 / 明石書店 / ¥3,675 / 46判297頁 / ISBN 4-7503-2336-5 障害の政治 マイケル・オリバー著 / 三島亜紀子+山岸倫子+山森亮+横須賀俊司訳 / 明石書店 / ¥2,940 / 46判276頁 / ISBN4-7503-2338-1 「知識人」の誕生 1880-1900 クリストフ・シャルル(1951-)著 / 白鳥義彦訳 / 藤原書店 / ¥5,040 / 46判360頁 / ISBN4-89434-517-X ◎今週の注目新書・ライブラリー・文庫 今週はなんといっても、『葉隠』。周知のように「中公クラシックス」は旧シリーズ「日本の名著」および「世界の名著」の再編集版。『葉隠』は全2巻に分かれます。個人的にはこの手の古典で分冊というのは歯がゆいです。2~3冊に分かれてしまうならば、2段組の「日本の名著」版全1冊のほうが持ち運びやすい。そんなわけで、古書店で探せば全1巻は今も入手可能なのでオススメ。 ただ、今回の中公クラシックス版第一分冊には、『よみがえる武士道』(PHP研究所)、『武士道の逆襲』や『神道の逆襲』(いずれも講談社現代新書)などの著書で知られている東大教授の菅野覚明(1956-) さんによる巻頭解説「『葉隠』の凄み」が収録されていて、上記の著書を読んだ読者ならば別段無視しても構わないけれど、読んだことのない人には何かしらのインパクトを与えずにはおかない、迫力あるイントロダクションが読めます。 菅野さんは解説で『葉隠』における武士道の中心概念である「死狂い」と「嘆き」について説明しています。「死狂い」はシグルイと読みます。山口貴由の漫画作品の題名にもなっているあれです。常に死を覚悟して必死に生きること、主君のために命を惜しまぬこと、それがシグルイの道です。現代人にとっては非常に恐い世界ですし、ひねりようによっては危険な思想的隠れ蓑にもできます。 菅野さんは『葉隠』を、単なる自己啓発本として消化するのは安易ですよと示唆しているように読めます。実際そうなのでしょう。「死の美学」のもとに読むのではなく、距離感をもって本書に接することが肝要のようです。私は正直に言えば若い頃は『葉隠』には嫌な印象しか持っていませんでしたが、30代後半になってようやく『葉隠』を冷静に読めるようになってきました。付箋だらけになっていく本に我ながらびっくりしています。 葉隠 I / 奈良本辰也+駒敏郎=現代語訳 / 中公クラシックス / ¥1,470 / ISBN4-12-160090-8 道元「小参・法語・普勧坐禅儀」 / 大谷哲夫全訳注 / 講談社学術文庫 / ¥1,103 / ISBN4-06-159768-X 黄金伝説 2 / ヤコブス・デ・ウォラギネ著 / 前田敬作+山口裕訳 / 平凡社ライブラリー / ¥1,995 / ISBN4-582-76578-5 三島由紀夫文学論集 3 / 虫明亜呂無編 / 講談社文芸文庫 / ¥1,365 / ISBN4-06-198445-4 反骨 / 金子光晴著 / 大庭萱朗編 / ちくま文庫 / ¥998 / ISBN 4-480-42203-X 宗教と道徳 / 梅原猛著 / 文春文庫 / ¥580 / ISBN4-16-758304-6 板東俘虜収容所物語――日本人とドイツ人の国境を越えた友情 / 棟田博著 / 光人社NF文庫 / ¥820 / ISBN4-7698-2497-1 日本近代美術史論 / 高階秀爾著 / 筑摩書房 / ¥1,470 / ISBN4-480-08989-6 ウルトラマン誕生 / 実相寺昭雄著 / ちくま文庫 / ¥998 / ISBN4-480-42199-8 光人社の新刊文庫をはじめ、「板東俘虜収容所」関連の新刊と再刊が昨年末から続いています。 『板東俘虜収容所長・松江豊寿』横田新著 / 歴史春秋出版 / 05年11月 『鉄条網の中の四年半――板東俘虜収容所詩画集』カール・ベーア詩 / 井上書房 / 06年4月 『板東俘虜収容所――日独戦争と在日ドイツ俘虜』富田弘著 / 法政大学出版局 / 06年5月 『ひびけ青空へ!歓喜の歌――板東ドイツ俘虜収容所物語』安宅温著 / ポプラポケット文庫(ポプラ社) / 06年5月 『松江豊寿と会津武士道――板東俘虜収容所物語』星亮一著 / ベスト新書(ベストセラーズ) / 06年6月 まもなく封切りになる映画「バルトの楽園」の舞台が板東俘虜収容所なのです。徳島県鳴門市に実在した収容所で、1917~1920年にかけて千人近いドイツ兵がそこにいたと聞きます。第一次世界大戦の終戦前後に中国から日本に移送されたドイツ軍の捕虜たちによって、「日本で初めてベートーベンの第九が演奏された場所」でもあるそうで、捕虜と市民の交流は様々な果実を日本にもたらしたようです。なるほどねえ。 一方、高階さんによる古典的名著は、単行本が講談社文庫になり、のちに講談社学術文庫にスイッチされ、このたびちくま学芸文庫に収まりました。さほど意識的ではないでしょうけれども、学術文庫→学芸文庫の流れができつつあるようですね。
by urag
| 2006-06-11 19:21
| 本のコンシェルジュ
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Comments(2)
はじめまして。『葉隠』ワード検索からやってまいりました。
『葉隠 現代語全文完訳』を出版しております。 もし、ご興味おありでしたら、当HP【言の葉庵】で「立読み」もできます。 菅野さんの『武士道の逆襲』は、もっと広く読まれてもいい名著と おもっています。 それでは、また遊びに伺います。
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by
urag at 2006-12-07 16:09
言の葉庵主さん、こんにちは。ご案内をありがとうございます。さっそく拝読します。花伝書、五輪書、奥の細道なども手がけられていらっしゃるのですね。素晴らしい!
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