2006年 04月 16日

今週の注目新刊(第47回:06年4月16日)前編

今週は色々出ていますので、二回に分けてご紹介します。

神話論理 (I) 生のものと火を通したもの
クロード・レヴィ=ストロース(1908-)著 早水洋太郎(1941-)訳
みすず書房 06年4月刊  8,400円 A5判572頁  ISBN:4622081512
■版元紹介文より:構造人類学の探究の頂点に位置し、20世紀思想の金字塔と讃えられるレヴィ=ストロースの主著『神話論理』(全5巻・原著は全4巻)を、ここに刊行する。10年以上の年月をかけ、ほぼ2000ページを費やして成ったこの大著は、南北アメリカ大陸先住民の813の神話を扱いながら、自然から文化への移行を読む驚くべき想像力、南アメリカのボロロの神話から北アメリカまで範囲を広げた地理的運動のダイナミズム、神話の論理にみられる二項対立の思考への構造分析の緻密さによって、まさに比類がない。神話的思考の普遍性をしめした、圧巻の文明批判の書でもある。音楽的構成のきわだつ第1巻は、「序曲」に続いて、全体の基準神話となるボロロの「鳥の巣あさりの神話」が論じられる。
●『生のものと火を通したもの』『蜜から灰へ』『食卓作法の起源』『裸の人1・2』からなる、レヴィ=ストロース畢生の大著『神話論理』が、原著刊行から実に40年の時を経てついに刊行開始です。06年の人文書動向における「事件」であることは間違いありません。同版元から同時刊行で、渡辺公三+木村秀雄編『レヴィ=ストロース『神話論理』の森へ』(2,730円、46判260頁、ISBN4-622-07208-4)が発売されています。執筆陣は、中沢新一、マルセル・ エナフ、渡辺公三、木村秀雄、内堀基光、鈴木一誌、港千尋、安冨歩、池澤夏樹といった面々。昨秋行われたレヴィ=ストロースへのオリジナル・インタヴューや、主要著作目録を併録しています。
●出版社による「刊行開始のご挨拶」には、出版にいたるまでの苦難に満ちた経緯が簡潔に述べられています。翻訳の前任者だけでなく、読者の中にも、本書をついに見ずしてお亡くなりになった方もいらっしゃることでしょう。一冊の書物が成るということは本来的にはそれだけ時の重みがあるものなのですが、新書全盛のこんにちではこうしたドラマはまるで昔話のように響いてしまいます。そうではないのです。一冊ずつの書物の重みを知る人は、書物の本質に触れているのです。たとえ今は軽々しいものが多くなっているのだとしても、本当はそうではないのです。

象徴の貧困 (1) ハイパーインダストリアル時代
ベルナール・スティグレール(1952-)著 ガブリエル・メランベルジェ+メランベルジェ眞紀訳
新評論 06年4月刊 2,730円 46判256頁 ISBN:4794806914
■帯文より:未来を生み出す時間が脅かされている。今、「文明国」に果てしなく蔓延する「象徴の貧困」。それはすべての人々にとって逃れることのできない問題である。
●スティグレールの単独著の日本語訳は本書が初めて。これから新評論では、スティグレールの911論やインタビュー本なども刊行していく模様。デリダ以後、もっとも実力のある思想家の一人で、本領はその「技術哲学」にあります。今後ますます注目されることでしょうし、実際多くの著書が翻訳されていくはずです。訳者のメランベルジェさんですが、お二人とも上智大学の教員です。版元のサイトで一部立ち読みが可能になるようです。

方法 (5) 人間の証明
エドガール・モラン(1921-)著 大津真作(1945-)訳
法政大学出版局 06年4月刊 6,510円 46判500頁 ISBN:4588008404
■版元紹介文より:人間とはなにか。人類は愛と友情の人間性をどのようにして獲得するのか。人類の未来はどうなるのか。人間概念の喪失と断片化を批判し、自然科学・社会科学・人文科学などの知の諸分野を統合した独自の「方法論」から人間の「複雑性」の復権を試み、「人間の証明」に斬新な視角を提示する。フランスの思想家モランの30年に及ぶ壮大な「人間探求」の終楽章。
●全四作で終わると思われた『方法』ですが、第五巻が出ました。原著では30年間をかけたライフワークで、日本語訳としては、『自然の自然』(1984年)、『生命の生命』(1991年)、『認識の認識』(2000年)、『観念―その生息場所、その生命、その習俗、その組織』(2001年)、そして本書『人間の証明』(2006年)というふうに、約20年がかかっています。訳者である大津真作さんと、モランの本を数多く出版してきた法政大学出版局の持続力に学びたいと思います。
●モランほど本屋さんの書棚で「定位置」を探すのが難しい思想家もいません。ある時は歴史学、ある時は社会学、またある時は科学哲学、またまたある時は映画論、そしてそのいずれでもない時は大雑把にフランス現代思想に新刊が置かれました。彼は雑誌編集者の経験があり、その関心領域の広がりかたはもともと越境的で、学閥的セグメントやら縄張りなどは気にかけていないようです。人間にかかわることすべてに関心を持つ彼にとっては、アカデミックな諸境界の方こそ不自然な存在でしょう。
●モランはセファラード系ユダヤ人の子としてパリに生まれ、養子縁組によってナウーンからモランという姓に変わったと聞きます。セファラードはスペインに住むユダヤ教徒で、キリスト教勢力によってスペインからイスラム教徒が15世紀末に追い出されたいわゆる「レコンキスタ」の折にスペインの地を追われ、ほうぼうに離散した民族です。中世スペインにおけるユダヤ教徒は、イスラム世界とギリシア・ローマ世界のそれぞれの知を結びつけ、交流させる媒介者の役割を持っていました。一神教どうしがせめぎあう地中海世界がそれでも多元的なのは、彼らのような越境的媒介者たちがいたからでしょう。
●彼の多角的研究と彼の出自に一種の運命を感じると言ったら大げさでしょうか。人文書に強い書店さんはぜひこの機会にモランをピックアップしてミニコーナーなどをおつくりになってみてはいかがでしょうか。

認識論――知の諸形式への案内
ヘルベルト・シュネーデルバッハ(1936-)著 加藤篤子+中川明博訳
晃洋書房 06年4月刊 3,045円  A5判219+28頁 ISBN:4771016763
■版元紹介文より:「知の諸形式の理論」としての『認識論』は、懐疑的なホーリズム的異議に対抗して認識への信頼を回復しようとする分析的批判の哲学。
●著者のシュネーデルバッハはベルリン・フンボルト大学名誉教授。アドルノのもとでヘーゲル研究の博論を書き上げ、博士学位取得しています。これまでの翻訳には、『ヘーゲル以後の歴史哲学――歴史主義と歴史的理性批判』(古東哲明訳、法政大学出版局、 1994年)や、エッケハルト・マルテンスとの共編著『哲学の基礎コ-ス』(加藤篤子+中川明博+西巻丈児訳、晃洋書房、2001年)があります。

開かれた歴史学――ブローデルを読む
イマニュエル・ウォーラーステインほか著 浜田道夫末+広菜穂子+中村美幸訳
藤原書店 06年4月刊 4,410円 A5判318頁 ISBN:4894345137
■版元紹介文より:ブローデルは歴史をどう塗りかえたのか? 歴史学、社会学、経済学、地理学の気鋭が、『地中海』『物質文明・経済・資本主義』のブローデルを論じ、疑問・批判を含めた本格的なブローデル研究。従来の歴史学の領域を超える人文社会科学の総合としての新しい歴史学の可能性を探る試み!
●副題の『ブローデルを読む』が原著書名。執筆者は、日本でも名前が知られている研究者では、ウォーラーステインのほか、フランソワ・ドッス、イヴ・ラコストなど。

ローマの歴史 (III) 革新と復古
テオドール・モムゼン(1817-1903)著 長谷川博隆訳
名古屋大学出版会 06年3月刊 6,300円 A5判454頁 ISBN:4815805075
■版元紹介文より:現代のローマ史研究の基礎を築いた碩学が若き才能を注ぎ込んだ歴史の一大傑作にして、ノーベル文学賞を受賞した情熱の書の第Ⅲ巻。雄大な構想と鋭く核心を衝く洞察により、人間の営みの全体を描く。この巻では、地中海世界の覇者となったローマが、元老院による統治体制の機能不全から革新と復古のあいだを揺れ動く、混迷の時代を叙述。モムゼンの筆が冴えわたる。
●第I巻『ローマの成立』、第II巻『地中海世界の覇者へ』 は05年4月に同時刊行されています。全四巻。来年刊行予定の、第IV巻ではカエサル時代が描かれます。19世紀ドイツの歴史家による未完の大著の全貌が見えるまであともう少しです。古代ローマ帝国の変遷と没落は、私たちが生きるグローバル化した現代世界にどこか似ています。歴史は繰り返す。私たちの未来を知りたいなら、ローマ史を知るべきなのかもしれません。


ナチス第三帝国とサッカー――ヒトラ-の下でピッチに立った選手たちの運命
ゲールハルト・フィッシャー+ウルリッヒ・リントナー編著 田村光彰ほか訳
現代書館 06年4月刊 2,100円 46判237頁 ISBN:4768469191
■版元紹介文より:勝利が民族の義務であったナチ時代に、サッカー選手たちはどう生きたのか? 世界を魅惑するサッカーというスポーツを、ナチス第三帝国はどう利用したのか。政治プロパガンダとスポーツの隠された関係を暴き、スタンドの熱狂がそのままナチス体制支持にすりかわる恐ろしいプロセスを当事者のインタビューを交え詳解。
●版元ウェブサイトに掲載されている担当編集者さんの紹介によれば、「ドイツサッカー協会の裁かれざるナチス戦犯の真相を暴く」本だそうです。これは読まねばなりますまい。

心と形の考古学――認知考古学の冒険
小杉康(1959-)編
同成社 06年4月刊 5,040円 A5判287頁 ISBN:4886213456
●「人類の進化における認知能力と造形表現の発達が、どのように関連しあい物質文化環境を創り出してきたのか」を探る認知考古学の成果を集めた論集。

象徴図像研究――動物と象徴
和光大学総合文化研究所+松枝到編
言叢社 06年3月刊 6,800円 A5判586頁 ISBN:4862090079
●象徴図像研究会の論文集成。収録論文は以下の通り。
第一部:動物象徴の世界
 動物表現の起源―ルロワ=グーランの仮説をめぐって 蔵持不三也
 蛇のほめ歌 前田耕作
 古代中国の動物図像 土居淑子
 ワニとは何か―日本神話の動物誌 松村一男
 土蜘蛛の原義について 瀧音能之
 古代イランの動物変身―ウルスラグナを例に 岡田明憲
 スィームルグについて―アッタール作『鳥の言葉』を手がかりに 甲子雅代
 ケルトの動物文様と装飾主義 鶴岡真弓
 カエルをめぐる象徴性―グリム童話集を起点に 嶋内博愛
 コクッロの蛇祭り 竹山博英
 人狼Werwolfとその周辺 檜枝陽一郎
 メソアメリカにおける蛇図像 越川洋一
 スリランカ現代政治における動物のシンボリズム 渋谷利雄
 赤い隼の歌をめぐって 村山和之
第二部:象徴イメージの世界
 視覚芸術の構造を探る試み―北米大陸北西海岸インディアンの象徴的画像にみる造形素分析の可能性 大村敬一
 呪術における「力」概念の効用と限界―「宗教誌」の記述をめぐって 樫尾直樹
 王の見えざるところ―南インドのある小王権の巡幸儀礼について 中村忠男
 日本の「牲 サクリファイス」をめぐる一考察―日本社会の供犠構造に関する一試論 田口良司
 ヘルメスをめぐって 井本英一
 神異なるペルソナ仮面の高僧―四川省石窟宝誌和尚像報告 北進一
 フリーメイソンの五芒星(五尖の星) 佐藤信夫
 台湾原住民の美術様式について 清水純
 張騫図と乗槎説話 杉原たく哉
 ガンダーラのヴァジラパーニをめぐる一考察 前田たつひこ
 ビザンティン絵画を読み解く―「エゼキエルの死の谷での幻想」の図像を手がかりに 永澤 峻
 カルナヴァルの熊―フランス・ルシヨン地方のプラ=ド=モロの事例より 出口雅敏
 マリア授乳図をめぐって―乳を与える母のシンボリズム 寺戸淳子
 仙人の誕生―全真教と呂洞賓信仰を中心として 福島一浩
 屈原(と)の対話 松枝到

霊的人間――魂のアルケオロジー
鎌田東二(1951-)著
作品社 06年4月刊 1,995円 46判194頁 ISBN:4861820758
■帯文より:魂の完成を目指す根源的「知」の探求者たち。ゲーテ、ヘッセから宣長、篤胤に通底する人間をして人間たらしむるもの。苦難と絶望に満ちた現実世界ゆえに時代を超えた存在の真実を探し求めた人々。人類の精神的営為の頂点を渉猟しつつ人間的霊性の本質に迫る刺激的労作。
●鎌田さんの音楽論にとても惹かれている私です。
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by urag | 2006-04-16 18:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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