2006年 04月 07日

ユダの福音書

ユダの福音書 The Gospel of Judas

初期キリスト教の外典。2世紀にリヨン司教イレナエウス(エイレナイオス115?-202)はこれを異端派による偽書であると断じている。
1970年代にエジプトで写本が発見される。約1700年前に古代エジプト語(コプト語)でパピルスに記されたもので、66ページに及ぶ全体のうち、13枚26ページが「ユダの福音書」(その他は「ピリポへの手紙」と「ヤコブの黙示録」)。ギリシャ語の原本から訳されたとみられている。
写本を発見した村人からカイロのエジプト人古美術商が写本を買い取り、欧米で売却しようとしたが高額のため商談は不成立、ニューヨークの金庫に16年間にわたって保管された後、2000年にスイス・チューリヒの骨董商に買い取られ、現在はスイスのバーゼルにあるマエケナス古美術財団の管理下にあるという。このかん、一度盗まれたこともあったようだ。
アメリカのナショナル・ジオグラフィック・ソサエティ(米国地理学協会)による06年4月6日の発表によれば、元ジュネーヴ大学の文献学教授ロドルフ・カッセル氏(79歳)を中心にした研究チームがこの写本を「解読」したとのこと。詳細は、4月28日発売の「ナショナルジオグラフィック日本版」に掲載される模様

「過ぎ越しの祭りが始まる3日前、イスカリオテのユダとの1週間の対話でイエスが語った秘密の啓示」(冒頭の言葉)。
「他の者たちから離れなさい。そうすれば、お前に王国の神秘を語って聞かせよう。その王国に至ることは可能だが、お前は大いに悲しむことになるだろう」(イエスからユダへの言葉)。
「お前は、真の私を包むこの肉体を犠牲とし、すべての弟子たちを超える存在になるだろう」(同)。
「お前はこの世代の他の者たちの非難の的となるだろう――そして彼らの上に君臨するだろう」(同)。
「聞きなさい、お前にはすべてを話し終えた。目を上げ、雲とその中の光、それを囲む星々を見なさい。皆を導くあの星が、お前の星だ」(同)。
「幻視の中で、私は12人の弟子から石を投げつけられ、迫害を受けていました」(ユダからイエスへの言葉)。

***

上記は、読売新聞、時事通信、共同通信の06年4月7日の配信記事や、ナショナル・ジオグラフィック日本版ウェブサイト等々を参照し要約したものです。同じ写本に記載された他のテクストや「ユダの福音書」の内容自体から判断して、これは立派なグノーシス主義者の古文書だと思います。グノーシス主義は初期キリスト教の双生児のような存在です。イレナエウスをはじめとする教父たちによってグノーシス主義は異端視され、彼らの文書は正典から外されました。

どうも一部に「これで従来のユダ像がひっくり返り、キリスト教の根幹が揺るがされる」と煽っている人々がいるような気配ですが、そこまで言ってしまうと誇大表現です。キリスト教とグノーシスは似て非なるものどうしなのですから、何かしらの相関性を認めることはできても混同するわけにはいかないのではないでしょうか。

ちなみに「ユダの福音書」のほかの聖書外典および偽典(講談社文芸文庫や教文館全7別3巻本)、ナグ・ハマディ文書(岩波書店)や死海文書(山本書店)は日本語訳されています。どれも面白いですよ。

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関連情報:
4月9日(日)夜8:00より、「ナショナル・ジオグラフィック・チャンネル」(スカパーやケーブルテレビなどで視聴可能)にて、「禁断の聖書:ユダが残した福音書の衝撃!」が放映されます。予告編
5月2日(火)、緊急出版として、日経ナショナル・ジオグラフィック社(日経BP出版センター発売)より、ハーバート・クロスニー著『ユダの福音書を追え』が刊行されます。

写本が公開されるまでの経緯と、ロドルフ・カッセル氏のインタビュー記事。カッセル氏はナグ・ハマディ文書の解読実績あり。
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by urag | 2006-04-07 14:12 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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