2006年 03月 21日

マイク・デイヴィス『感染爆発』で言及されている本たち

鳥インフルエンザの世界的大流行前夜の世界状況を分析しリアルな脅威を浮かび上がらせた戦慄の書、『感染爆発――鳥インフルエンザの脅威』(マイク・デイヴィス著、柴田裕之+斉藤隆央訳、紀伊國屋書店、06年3月刊、本体1600円、ISBN4-314-01001-0)は、これから続々と書評や紹介が出るに違いない大注目の新刊です。

大注目と言っても、読んで楽しい本ではありません。いまここにある危機が見えてきて暗くなりますし、食品会社の無責任ぶりや製薬会社の「灰色」ぶり、そして政治家や役人たちの無能ぶりに無性に腹が立ってきます。でも、こうした本を読まずに済ますのは、もっと楽しくないことでしょう。知らなかったよね、で終わることではないのです。
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マイク・デイヴィスの既訳書には『要塞都市LA』(村山敏勝+日比野啓訳、青土社、01年4月刊、本体3400円、ISBN4-7917-5878-1)という大著があります。都市論の名手である彼の主著のひとつです。原書最新刊は今月発売の『スラムの惑星』(Verso, 2006, ISBN1-84467-022-8)で、やはりこれも優れた都市論であり鋭利な文明論です。また、『現代思想』06年1月号:特集=災害――難民・階級・セキュリティ(青土社、本体1238円、ISBN4-7917-1144-0)ではデイヴィスのエッセイやインタビューが30頁にわたって読めます。ニューオーリンズを襲ったハリケーン被害について都市政治学の視点から厳しく分析しています。

『感染爆発』を中心に書店さんでミニ・コーナーを作られる際には、上記の既訳書や洋書(可能ならば)を置き、さらに『感染爆発』で言及されている様々な本のうち、日本語訳があるものを並べるとちょうどいい規模のコーナーができるはずです。文学あり、ドキュメンタリーあり、研究書ありで、なかなか面白いです。以下にその書目をピックアップします。

『ペスト』カミュ著、新潮文庫、2004年、本体743円、ISBN:4102114033
『アンドロメダ病原体』マイケル・クライトン著、ハヤカワ文庫、1986年、本体760円、ISBN:4150102082
『グレート・インフルエンザ』ジョン・バリー著、共同通信社、2005年、本体3200円、ISBN:4764105500
『突発出現ウイルス』スティーヴン・モース著、海鳴社、1999年、本体6000円、ISBN:4875251890
『崩壊の予兆』上下巻、ローリー・ギャレット著、河出書房新社、2003年、本体各2400円、ISBN:4309251722/ISBN:4309251730
『見えざる敵ウイルス』ドロシー・クロフォード著、青土社、2002年、本体2400円、ISBN:4791759966
『史上最悪のインフルエンザ』アルフレッド・クロスビー著、みすず書房、2004年、本体3800円、ISBN:4622070812
『だから、アメリカの牛肉は危ない!』D・スタル+M・ブロードウェイ著、河出書房新社、2004年、本体2000円、ISBN:4309251838
『ビッグ・ファーマ』マーシャ・エンジェル著、篠原出版新社、2005年、本体2300円、ISBN:4884122623
『病原体進化論』ポール・イーワルド著、新曜社、2002年、本体4500円、ISBN:4788508273

私個人が特に注目しているのは、『ビッグ・ファーマ』です。ビッグ・ファーマというのは巨大製薬会社のこと。世界的利権をめぐるその赤裸々な内実を炙り出す好著です。

なお、『感染爆発』では、WHO(世界保健機関)西太平洋事務局事務局長の尾身茂(1949-)さんが2004年の暮れに鳥インフルエンザによる推定死亡者数を「少なくとも700万人、最悪で1億人」と警告したことに言及しています。尾身さんは衛生学の分野では知らぬ人はいないほどの有名人ですが、国民一般にはいまだにそれほど知られていないかもしれません。

尾身さんは、医学書院から刊行されている月刊専門誌『公衆衛生』(ISSN 0368-5187)で「Health for All――尾身茂WHOをゆく」という連載を執筆されており、05年12月号(特集=アニマルセラピー)では、「鳥インフルエンザの課題」と題して寄稿されています。この連載はまだ一冊にはまとまっていませんが、第一線で活躍されている尾身さんの本が出たら大きな話題になるのではないかと思います。

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ところで、NHKの番組「プロフェッショナル・仕事の流儀」の06年2月28日の放送では、「鳥インフルエンザを封じ込めろ」と題して、WHOのメディカル・オフィサー進藤奈邦子さんの活躍にスポットをあてていました。最高にカッコいい女性だなあととても感動しました。キャスターをつとめる脳科学者の茂木健一郎さんのコメントがこちらで読めます。また、ご存知「クオリア日記」の2月21日のエントリー「ぼそりぼそり」でも舞台裏が覗けます。

進藤奈邦子さんについては、イー・ウーマンの「佐々木かをり対談 win-win」第54回で、ロング・インタビューが読めます。このひとも著書が出たら絶対売れる気がします。

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最後に一言、『感染爆発』に話を戻しておくと、鳥インフルエンザH5N1型による「致死性」に基づく推定死亡者数は、尾身さんの予想を遥かに超える10億人になる、という専門家の報告もあることが本書では言及されています。隣人や家族が命を落とすかもしれない危機、下手をすれば複数の途上国が壊滅的被害を受けるかもしれない災厄が近づいているというのは、背筋の凍る話です。

・・・「時事通信」の報道によれば、WHOはこの日(21日)、2003年以降の鳥インフルエンザによる死者は103人となったと発表したそうです。
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by urag | 2006-03-21 23:08 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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