2006年 03月 12日
今週は思わず瞳孔が開いちゃうくらいに凝視してしまう素晴らしい、まさに待望の新刊ばかりです。遅ればせに取り上げている書目もあります。出費がかさんでも我慢せねばなりません。我慢できればの話ですが。 *** シェリング著作集 (3) 同一哲学と芸術哲学 伊坂青司+西村清和訳 燈影舎 06年3月 ¥8,400 A5判464頁 ISBN:4860940024 ●全5巻本の、記念すべき、待望の第1回配本です。 三つのヘーゲル研究 テオドール・W・アドルノ(1903-1969)著 渡辺祐邦(1931-)訳 ちくま学芸文庫(筑摩書房) 06年3月 ¥1,155 文庫判303頁 ISBN:4480089683 ●文庫版の訳者あとがきを読んで驚いたのですが、初版本(河出書房新社、1986年)はわずか500部ほどしか刷らなかったと書いてあります。本当なんでしょうか。私が大学生の頃はかろうじて買えたのですが、500部ではほとんど「幻」に近いですよね。 マルブランシュ――マルブランシュとキリスト教的合理主義 フェルディナン・アルキエ(1906-1985)著 藤江泰男(1948-)訳 理想社 06年2月刊 ¥2,835 46判287頁 ISBN:4650105366 ●「椙山女学園大学研究叢書」の第24巻。 アルキエの著書は、巌谷国士訳『シュルレアリスムの哲学』の新装版が1981年に河出書房新社から刊行された(初版は1975年)のが最後だから、実に四半世紀ぶりの新刊。嬉しいですねえ。アルキエはドゥルーズの「先生」でもあります。 ●本書は前半がアルキエのマルブランシュ論、後半はテーマ別にマルブランシュ自身のテクストを再構成したものになっています。ちょうど一年前、マルブランシュの『形而上学と宗教についての対話』(井上龍介訳)が晃洋書房から刊行されました。最初の訳書が刊行されてから数えて実に半世紀以上が経過して、ようやくまた別の著書の訳書が出たわけですが、古典の翻訳はそれだけ貴重かつ大儀であることが分かります。 ロラン・バルト講義集成 (1) いかにしてともに生きるか――コレージュ・ド・フランス講義 1976-1977年度 ロラン・バルト(1915-1980)著 野崎歓(1959-)訳 筑摩書房 06年3月刊 ¥4,725 A5判268頁 ISBN:4480790071 ●悲劇の交通事故死からはや四半世紀。最晩年のコレージュ・ド・フランス講義録の日本語訳がついに刊行開始です。全三巻。 ソシュールのアナグラム――語の下に潜む語 ジャン・スタロバンスキー(1920-)著 金澤忠信(1970-)訳 水声社 06年3月刊 ¥2,625 A5判231頁 ISBN:4891765801 ●叢書「記号学的実践」からの一冊。名著"Les mots sous les mots"の日本語訳。 エコノミメーシス ジャック・デリダ(1930-2004)著 湯浅博雄+小森謙一郎訳 未来社 06年2月刊 ¥1,890 46判156頁 ISBN:4624932544 ●「ポイエーシス叢書」第54弾。"Mimesis - des articulations", Paris: Aubier-Flammarion, 1975からデリダのテクストを抜き出したもの。デリダのほかにはシルヴィアーヌ・アガサンスキー、サラ・コフマン、フィリップ・ラクー=ラバルト、ジャン=リュック・ナンシー、ベルナール・ポートラらが参加していた。原書がもう手に入らないだけに、全部まとめて日本語訳を原書通り一冊で読めればいいのにという思いもあるけれども。 住宅市場の社会経済学 ピエール・ブルデュー(1930-2002)著 山田鋭夫+渡辺純子訳 藤原書店 06年2月刊 ¥3,990 A5判336頁 ISBN:489434503X ●まさに今、日本でも住宅問題がホットな話題になっていますが、本屋さんは強引にそのあたりをPOPに書いて売り文句にする逞しさというかずうずうしさがあってもいいと思います。 ミース・ファン・デル・ローエ 真理を求めて 高山正實著 鹿島出版会 06年3月刊 ¥3,675 A4変型判113頁 ISBN:4306044688 ●直弟子による建築家ミース論! マインド――心の哲学 ジョン・R・サール(1932-)著 山本貴光+吉川浩満訳 朝日出版社 06年3月刊 ¥1,890 46 判395+15頁 ISBN:4255003254 ■カバー裏の紹介文より:哲学から心理学・生物学・脳科学に至るまで、多くの人の心をとらえて離さない最難問――「心とは何か」への、第一人者による魅惑的なイントロダクション。 ●原書は"Mind: A Brief Introduction" Oxford University Press, 2004. サールの訳書は『志向性』(誠信書房)以来、約十年ぶり。今までにないこなれた訳文でとても親しみやすいです。 経験論と心の哲学 ウィルフリッド・S・セラーズ(1912-1989)著 神野慧一郎+土屋純一+中才敏郎訳 勁草書房 06年1月刊 ¥3,150 46判277+9頁 ISBN:4326198974 ■帯文より:クワインと並ぶ戦後アメリカを代表する哲学者の本邦初訳。心の哲学における機能主義は、まだ克服されていない。 ●「双書プロブレーマタ」第III期第4巻。"Science, Perception and Reality"の訳書。1963年刊の論文集から「哲学と科学的人間像」「理論の言語」「経験論と心の哲学」の三本を訳出したもの。今月(06年3月)には岩波書店より同書の浜野研三訳(ISBN:4000227521)が刊行予定。こちらはリチャード・ローティによる序文と、R・ブランダムによる「読解のための手引き」を併録しているとのこと。詳細&比較はまた後日に。 ●ほぼ同時期に同じ本の翻訳が出るというのは今までにもシュレーバーの「回想録」(筑摩書房と平凡社)やバハオーフェンの『母権論』(みすず書房と白水社)などの先例があります。両方とも買う、という熱心な読者もいるでしょうけれど、たいていは先に出たほうを買ってしまうものでしょうか。 省察 ルネ・デカルト(1596-1650)著 山田弘明(1945-)訳 ちくま学芸文庫(筑摩書房) 06年3月 ¥1,050 文庫判306頁 ISBN:4480089659 ●新訳! 生命理論 郡司ペギオ‐幸夫(1959-)著 哲学書房 06年3月刊 ¥4,830 46判537頁 ISBN:4886790887 ●ついに合本です。第1部「生成する生命」、第2部「私の意識とは何か」。 感染爆発――鳥インフルエンザの脅威 マイク・デイヴィス(1946-)著 柴田裕之+斉藤隆央訳 紀伊國屋書店 06年3月刊 ¥1,680 46判246頁 ISBN:4314010010 ■帯文より:パンデミック(世界的大流行)前夜、いま何をなすべきか。「時計の針が不気味に時を刻み、パンデミックの到来が刻一刻と近づく……。私たちは今、迫り来る本物の怪物、サイエンス・フィクションに登場するどんな怪物にも劣らず恐ろしい脅威に対して、手遅れになる前に目を覚ませるだろうか」(本書より)。 ●昨年夏にアメリカで刊行された超話題作"The Monster at our Door : The Global Threat of Avian Flu"が早くも日本語で読めるようになりました。デイヴィスの訳書には『要塞都市LA』(青土社)がありますが、同じ著者だということがほとんど気づかれていないのでしょうか、店によっては人文書売場でこの『感染爆発』を全然見かけません。鳥インフルエンザの関連書は最近数が増えてきましたが、政治的観点から鋭く分析できるのはデイヴィスならでは。月刊誌『現代思想』の06年1月号(特集=災害――難民・階級・セキュリティ)でもアメリカでの台風被害をめぐるテクストやインタビューがまとめて訳されていたデイヴィス。注目度は増すばかりです。 ●アメリカでは今月、デイヴィスの最新刊"Planet of Slums"がVersoから刊行され、アルンダティ・ロイなども激賞しています。この本もそのうち日本語訳が読めるようになるのではないかと思います。 病魔という悪の物語――チフスのメアリー 金森修(1954-)著 ちくまプリマー新書(筑摩書房) 06年3月刊 ¥735 新書判143頁 ISBN:4480687297 ●一伝染病患者の女性メアリーが「毒を撤き散らす悪女として恐れられた」という実話をめぐる考察だそうです。大昔ではなく、前世紀初頭のこと。デイヴィスの本とセットで読みたいですね。 中国の血 ピエール・アスキ著 山本知子訳 文藝春秋 06年2月刊 ¥1,700 46判224頁 ISBN:4163679103 ■帯文より:「わたしたちは見捨てられた」。中国当局に売血をすすめられ、エイズに感染した農民が治療も受けられず次々に死んでいく大惨事を描く、北南フェスティバル・メディア賞受賞作品。 ●フランスの新聞『リベラシオン』紙の貴社による渾身のルポ。経済成長を続ける大国の暗部があらわになります。恐い。恐すぎるこの悲惨さ。 ハンセン病検証会議の記録――検証文化の定着を求めて 内田博文著 明石書店 06年3月刊 ¥7,350 46判572頁 ISBN:4750322946 ■版元紹介文より:1996年まで約100年続いたらい予防法の下で隔離政策は、なぜ、どのように行われたのか。行政、法曹、宗教、メディア等の関わりを解明する。また被害の実態調査を行い、再発の防止を図ると同時に今も続く差別をどう解消するのか、今後への貴重な提言を行う。 ●「世界人権問題叢書」の第62巻。 戦時中にハンセン病患者の女性を強制堕胎させた際の「胎児標本」114体が各地の施設にこんにちまで残っていたというショッキングなニュースを最近再びテレビなどで目にしています(TBS・ニュースアイ「ハンセン病「強制堕胎」、胎児標本の行方」)。関連記事→赤旗、南日本新聞。国が犯してきた非人間的処遇を私たちはもっともっと知らねばなりません。 イマジナリ-な領域――中絶、ポルノグラフィ、セクシュアル・ハラスメント ドゥルシラ・コ-ネル(1950-)著 仲正昌樹監訳 御茶の水書房 06年2月刊 ¥3,990 菊判352頁 ISBN:4275004116 世俗の形成――キリスト教、イスラム、近代 タラル・アサド(1933-)著 中村圭志訳 みすず書房 06年3月刊 ¥6,510 A5判376頁 ISBN:4622071908 ■版元紹介文より:世俗的近代性という、特殊に西洋的なモデルの再考を迫り、近代の権力と宗教的諸伝統の再布置を試みた、エキサイティングな書。西洋的近代化と功利的個人主義が現代の発展を判定するための基準であり、あらゆる伝統がその後に続くべき唯一の真性な軌道である、という考えの限界が論じられる。 ●『宗教の系譜――キリスト教とイスラムにおける権力の根拠と訓練』(中村圭志訳、岩波書店、04年1月刊、ISBN:4000233858)に続く、日本語訳第二弾。本屋さんではサイードの隣あたりに置くのが効果的では。 1968――世界が揺れた年 (前・後) マーク・カーランスキー(1948-)著 来住道子訳 越智道雄監修 ソニー・マガジンズ 06年3月刊 ¥2,625/2,520 46判379/312頁 ISBN:4789727742/ISBN:4789727750 ■版元紹介文より:ベトナム反戦運動、公民権運動の高まりとキング牧師の暗殺、パリの「五月革命」、プラハの春……。ベトナムでは最悪の戦死者を出し、キング牧師もロバート・ケネディも暗殺され、プラハの春は踏みにじられた。英雄カストロと社会主義を選んだキューバ、メキシコシティーの大虐……。そして一年を象徴的にしめくくるかのように、年の終わりにはアポロが月に到着する。手に石を持ち、バリケードを築いた学生たちはなにを見つめていたのだろうか。 ●カーランスキーの著書の翻訳には以下のものがあります。『鱈――世界を変えた魚の歴史』(飛鳥新社、1999)、『 タラの物語――世界をかえた魚』(S・D・シンドラー絵、BL出版、2004)、『「塩」の世界史――歴史を動かした、小さな粒』(扶桑社、2005)。
by urag
| 2006-03-12 20:40
| 本のコンシェルジュ
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Comments(2)
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at 2006-03-14 16:46
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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by
urag at 2006-03-14 23:51
西東さんこんにちは。おお西東さんと私は同い年です。しかし私は浪人しましたので、88年某私立大学へ入学。それはともかくとして、私が在籍中に作品社から『否定弁証法』が出たときに、よくわからないながらもつらつら読んでいるうちにふとした直感が訪れました。アドルノの言葉遣いが誰かのそれと似ていることに気づいたのですが、あまりにも不謹慎な直感だったのでついに誰にもそれを尋ねることのないまま今日まで過ごしてきました。アドルノの本には何か読者をのめりこませる深淵があるような気がしています。
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