「ほっ」と。キャンペーン
2005年 11月 06日

今週の注目新刊(第27回:05年11月6日)

「読書の秋」というキャッチフレーズがなんだか廃れつつあるように思う今日この頃です。

***

ボッティチェッリ全作品
高階秀爾+鈴木杜幾子+京谷啓徳著
中央公論美術出版 05年11月 本体64,000円 B4変型判 バックラム装 保護函入 本文344頁・カラー図版144頁 ISBN4-8055-0508-7
■版元紹介文より:ルネサンスの巨匠・ボッティチェッリの入手可能な全作品144点を世界各国から収集し、その繊細な線描、華麗な色調をすみずみまでクリアーに再現。高階・鈴木両大家に気鋭の研究家京谷啓徳氏を加え、最新の研究成果を踏まえた伝記・解説等を併せて収める、わが国初のオリジナル版。
■本書の特色:ボッティチェッリ(1445-1510)の全作品を全点カラーで収録。最新の印刷技術により、繊細な線描、華麗な色調を忠実に再現。研究者・愛好者必読の論文を掲載。「作品解説」のほか、詳細年譜、参考文献など豊富な資料を収録。定評ある中央公論社版『全作品』シリーズの棹尾を飾る。格調高く堅牢な造本による永久保存版。
■本文:序文、評伝、解説、年譜、主要作品リスト。
■カラー図版:宗教作品99点、世俗主題作品35点、ダンテの「神曲」挿絵10点。
●この値段では庶民は簡単に手が出せませんが、売切れてしまうと、のちのち古書市場でもっと高価になることでしょう。でもどうなんだろう、某大書店ではまだ一冊も売れていないと聞きました。でも欲しいなあ、現金では買えないけど。

ディオニュソスの美学
高橋巌著
春秋社 05年11月 本体2,200円 46判213頁 ISBN4-393-95504-8
■帯文より:バッハの「フーガの技法」からシュタイナーの芸術論まで、音楽と絵画に潜む「ディオニュソス的なもの」が浮上する。人は自己の内面に出会ったとき、芸術家になる。
■版元紹介文より:バッハ、ワーグナーからシュタイナー、イッテンまで幅広く芸術作品を語りつつ、その根底に共通する精神を明らかにした高橋美学の真骨頂。対位法、音楽の内面世界、音階の力、光の認識論など芸術の本質に触れる「内的体験」を語りつくした講演集。
●シュタイナー研究者として著名な高橋さんの最新著です。久しぶりではないでしょうか。シュタイナーの特異な音楽論や芸術論に裏打ちされた重厚な精神史を本書から学べるでしょう。

生成するマラルメ
柏倉康夫(1939-)著
青土社 05年11月 本体4,800円 A5判460頁 ISBN4791762150
■帯文より:〈詩人〉の誕生、その全軌跡を読む。1861年12月、地方紙で匿名デビューをとげた19歳の詩人が、いかにしてフランスを、西洋近代を代表する芸術家となったか。膨大な資料を収集し、書簡のすべて、テクストの細かい修正過程までを精緻に分析して詩人の生成する瞬間をとらえた批評=ドキュメント。
●『ユリイカ』連載がまとまったものです。マラルメ研究の基本的文献として常に座右に置いておきたい味わい深い本です。「世界は一冊の美しい書物へと至るためにつくられているのです」という彼の有名な言葉は、ジャーナリストのユレのインタビューに際して発せられた、別れ際の名文句ですが、このエピソードも非常に生き生きと活写されています。

セルバンテスの芸術
本田誠二(1951-)著
水声社 05年10月 本体5,000円 A5判414頁 ISBN4891765615
■帯文より:『ドン・キホーテ』出版400年記念。小説そのものの起源であり、その最高の到達点ともいうべきこの大長編小説を生んだセルバンテスの創作理念を、戯曲、短編小説、叙事詩等を含めてその全作品から解き明かす。
■目次より:
序章 対立の時代とセルバンテス
第1章 セルバンテスの人と作品
第2章 『ガラテア』と牧人小説
第3章 『アルジェールの牢獄』と演劇
第4章 『模範小説集』における魔術とエロース
第5章 『ドン・キホーテ』と騎士道物語
第6章 『パルナソ山への旅』と叙事詩
第7章 『ペルシーレス』と冒険小説
第8章 詩人セルバンテス
●数週間前に刊行された既刊書ですが、書店店頭で立ち読みして、読み応えのある素晴らしい研究書だと思ったので、取り上げます。訳者の本田さんは次の大著の翻訳もされています。こちらも必読でしょう。

セルバンテスの思想
アメリコ・カストロ著 本田誠二訳
法政大学出版局 04年8月 本体7,300円 46判669+35頁 ISBN4588008013
■帯文より:セルバンテスを覆っていたスペインの“栄光の神話”を引きはがし、ヨーロッパ的知性の文脈に位置づける。
■目次より:
第1章 文学的指針
第2章 表現された現実に対する批判と表現者
第3章 文学的主題としての“過ち”と“調和”
第4章 神の内在的原理としての自然
第5章 その他のテーマ
第6章 宗教思想
第7章 道徳観
第8章 結論

政治報道とシニシズム――戦略型フレーミングの影響過程
J・N・カペラ+K・H・ジェイミソン著 平林紀子+山田一成監訳
ミネルヴァ書房 05年11月 本体6,500円 A5判378+38頁 ISBN4-623-04449-1
■帯文より:なぜ世論はシニカルなのか? アメリカ政治を蝕む「冷笑の螺旋」、実証研究によるフレーミング効果の解明。
●フレーミング効果(framing effect)というのは、簡単に言うと、メディア報道などにおいて、ある話題をポジティヴに、あるいはネガティヴに伝えることによって、視聴者の受け取り方が違ってくる、ということを説明する際に使用される術語だと私は理解しているのですが、マスコミという存在はこんにち無視できない大きな権力になっていますから、その影響力を考える上で本書は役に立つのではないかと思われます。特に昨今の日本における劇場型政治とそれに寄り添う各種報道などを考えるためには。本書とともに、次の本も併読しておくべきではないかと思います。

インターネットは民主主義の敵か
キャス・サンスティーン著 石川幸憲訳
毎日新聞社 03年11月 本体1,905円 46判223頁 ISBN4620316601
■版元紹介文より:インターネットでの言論は「絶対に自由」であるべきだ―ネット第一世代が唱えたその主張に対し、著者は自由と民主主義の原理にもとづき異議を申し立てる。出版以来、全米に賛否両論を巻き起こした本書は、インターネットの将来のみならず、「討議型民主主義」と「表現の自由」に関心あるすべての方への基本書といえる。
■目次より:
第1章 デーリーミー
第2章 アナロジーと理想
第3章 分裂とサイバー・カスケード
第4章 社会の接着剤と情報伝播
第5章 市民
第6章 規制とは何か
第7章 言論の自由
第8章 政策と提案
第9章 結論 リパブリック・コム

討議倫理
ユルゲン・ハーバーマス(1929-)著 清水多吉+朝倉輝一訳
法政大学出版局 05年11月 本体3,300円 46判283+20頁 ISBN4-588-00832-3
■帯文より:討議とは、討議倫理とは何か。了解と意思形成、正義と善は、いかにして実現されうるのか。カントとヘーゲルを問い直しつつ、道徳・実践理性・正義・公共性・人格の原理を論ずる。法の基礎としての倫理を追究してきたハーバーマスが、諸論争を通じて発展させた〈討議倫理学〉の全体像。
●小社(月曜社)刊行の、A・ガルシア・デュットマン『友愛と敵対』では、ハーバーマスの「討議倫理」とデリダの「脱構築」が対比的に論じられています。ハーバーマスの本書と、デリダの『友愛のポリティックス』(みすず書房)、カール・シュミットの『政治的なものの概念』 (未来社)などの議論の地平が、現代においてどのように繋がっているのか、デュットマンは示しています。

臨床哲学がわかる事典
田中智志(1958-)著
日本実業出版社 05年11月 本体1,800円 A5判222頁 ISBN4-534-03988-3
■帯文より:「かわいそう」という言葉をどのように使っていますか? 医療・看護・介護・教育をめぐる新しい思考!
●現代社会における様々な〈生きにくさ〉の悩みや痛み、苦しみ、それらをめぐる「生きることの哲学」である「臨床哲学 cilinical philosophy」について、90のキーワードから解説した、読む事典だそうです。キーワードには、ニヒリズム、時間感覚、エロティシズム、生きる意味、他者との関係、健康、聖なるもの、老い、ケアリング、QOL、復讐、音楽、自己決定、身体、コミュニケーションなどが含まれています。
●臨床哲学、という言葉を書名で見るようになったのはそれほど昔ではありません。国際高等研究所学術出版から今年3月に出版された報告書『臨床哲学の可能性』 の研究概要が示すところによれば、「現実社会の具体的場面で生じているさまざまな問題を「治療」という観点から、しかも「医者」ではなく、むしろ「患者」の立場に立って考えていこうとする哲学的活動」を言うそうです。
●書名に「臨床哲学」を冠している既刊書には以下のものがあります。『臨床哲学』養老孟司著(哲学書房、1997年)、『「聴く」ことの力――臨床哲学試論』鷲田清一著(TBSブリタニカ/阪急コミュニケーションズ、1999年)、『木村敏著作集(7)臨床哲学論文集』(弘文堂、2001年)など。

もうひとつの愛を哲学する――ステイタスの不安
アラン・ド・ボトン著 安引宏訳
集英社 05年11月 本体3,200円 A5版382頁 ISBN4-08-773440-4
■どうすれば、不安から抜け出せるのか? 幸福に生きるための哲学の冒険! 『哲学のなぐさめ』『旅する哲学』につづく哲学三部作。独・フィナンシャル・タイムズ選定「年間最優秀経済書賞受賞」。
●デビュー作である『恋愛をめぐる24の省察』(白水社)以来、彼の著書は毎回楽しみにしています。私の個人的な意見では、先述した「臨床哲学」に「より臨床医学寄り」のものと、「より哲学寄り」のものがもしもあるとすれば、本書は後者に属すると思うのです。後者にはほかに、エリック・ホッファーですとか、アンドレ・コント=スポンヴィルといった人々がいるというのが、私の勝手な「分類」です。

クリシュナムルティ著述集(1)花のように生きる――生の完全性
ジドゥ・クリシュナムルティ(1895-1986)著 横山信英(1949-)+藤仲孝司(1963-)訳
UNIO発行 星雲社発売 05年11月 本体2,600円 46判539+17頁 ISBN4-434-06966-7
■帯文より:クリシュナムルティの初期の対話集。第一次世界大戦後の世界恐慌の混沌とした時代のなかで、「星の教団」を解散したクリシュナムルティは、彼のことばに耳を傾ける人々と、新たな対話を始めた。訳註、索引付。
●著書がたくさん翻訳されているわりには、彼に対する大半の日本人の理解は浅く軽いものなのではないかと思います。神秘思想家とか、そんな言葉で片付けられる人物ではありませんが、概して日本人の宗教観の貧しさから来る偏見と先入観が、彼だけでなく多くの宗教的思想家たちの言説を読み誤らせ、それ以上に彼らから自分たちを不当に遠ざけているように、私には思えます。しかし、クリシュナムルティもまた「臨床哲学」に貢献しうるのです。

***

以上です。(H)
[PR]

by urag | 2005-11-06 23:52 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://urag.exblog.jp/tb/2511924
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


<< ちくま文庫創刊20周年記念復刊      書物の脱製本化をめぐって >>