2017年 05月 21日
『受苦の時間の再モンタージュ――歴史の眼2』ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著、森元庸介/松井裕美訳、ありな書房、2017年5月、本体6,000円、A5判上製292頁、ISBN978-4-7566-1754-5 『アール・ブリュット――野生芸術の真髄』ミシェル・テヴォー著、杉村昌昭訳、人文書院、2017年5月、本体4,800円、A5判上製250頁、ISBN978-4-409-10038-7 『ジャック・ラカン 不安(下)』ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之/鈴木國文/菅原誠一/古橋忠晃訳、岩波書店、2017年5月、本体5,500円、A5判上製296頁、ISBN978-4-00-061187-9 ★ディディ=ユベルマン『受苦の時間の再モンタージュ』は発売済。シリーズ『歴史の眼』の第2巻です。既刊書には刊行順に、第3巻『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』(伊藤博明訳、ありな書房、2015年11月)、第1巻『イメージが位置をとるとき』(宮下志朗/伊藤博明訳、ありな書房、2016年8月)があります。今回刊行された第2巻の原書は、Remontages du temps subi. L'Œil de l'histoire, 2 (Minuit, 2010)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者の松井裕美さんによる巻末解説では本書はこう説明されています。「収容所の映像を読むために「モンタージュする」という行為が考察対象となる。そのためにディディ=ユベルマンが焦点をあてるのは、サミュエル・フラーとハルーン・ファルッキという二人の映画監督である。/本書第Ⅰ章〔「収容所を開き、眼を閉じる──イメージ、歴史、可読性」〕では戦地における経験の表象不可能性と出来事の記録の問題が扱われる。とりわけ記録映像の問題を検討するためにとりあげられるのがフラー〔による「ファルケナウ」1945年、など〕である」(275頁)。そして「本書第Ⅱ章〔「時間を開き、眼を武装する──モンタージュ、歴史、復元」〕では、記録映像を理解可能にするための作業に関するより根本的な方法論的考察が展開される。そのさいに焦点があてられるのはハルーン・ファロッキの作品〔「世界のイメージと戦争の書きこみ」1988年、「猶予」2007年、ほか〕である」(276~277頁)。ディディ=ユベルマンの著書は人文書に置くか芸術書に置くか分類が難しいため、書店さんによっては悩まれるだろうと思うのですが、どちらに置くにせよ、分散させずに一箇所にまとめるのもひとつの手ではあります。 ★テヴォー『アール・ブリュット』は発売済。原書は、L'art brut (Skira, 1975)です。著者のミシェル・テヴォー(Michel Thévoz, 1936-)は美術史家、美学者。単独著の既訳書に『不実なる鏡――絵画・ラカン・精神病』(岡田温司/青山勝訳、人文書院、1999年)があります。1976年よりローザンヌの美術館「アール・ブリュット・コレクション(Collection de l'art brut)」の館長を務めておられ、本書『アール・ブリュット』はその設立者である画家のジャン・デュビュッフェが序文を寄せています。そもそも「アール・ブリュット」という概念を提唱したのがデュビュッフェで、本書の第一章にも引用されているテクスト「文化的芸術よりもアール・ブリュットを」でデュビュッフェは次のように書いています。「われわれの言うアール・ブリュットとは次のようなものである。すなわち、それは芸術的文化の影響を逃れた人たちによってつくられた作品であり、そこでは、知的な人々のなかで起きることとは反対に、模倣はほとんどと言っていいほどなく、作品のつくり手がすべてを(主題、材料の選択、作品化の手段、リズム、表現法、等々)伝統的芸術のありきたりの型からではなく、自分自身のなかの奥深い場所から引き出す。われわれはそこで、まったく純粋で生〔き〕のままの芸術的推敲が行なわれ、つくり手自身の固有の衝動を唯一の起点として芸術がその全局面において再発明される現場に立ち会うのである」(11~12頁)。巻頭16頁はカラー図版26点を掲載。目次詳細は書名のリンク先からご覧下さい。版元サイトではデュビュッフェの序文や訳者あとがきも公開されています。アール・ブリュット(英語圏での名称は「アウトサイダー・アート」)にご関心のある方には必携の基本書です。 ★『ジャック・ラカン 不安(下)』は発売済。「セミネール」シリーズ第10巻の後半部分です。第12講義「不安、現実的なものの信号」から第24講義「aからいくつかの〈父の名〉へ」までを収録。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。セミネールは原書で全26巻予定、現在まで16巻が刊行されており、そのうち邦訳されたのは今回の『不安』までで9巻です。まだまだ道のりは遥かです。なお、同版元の2017年6月新刊案内によれば、受注生産方式の「岩波オンデマンドブックス」ではセミネール第2巻である『フロイト理論と精神分析技法における自我』上下巻(1998年)の復刻版が6月12日より受付開始だそうです。受注から2~4週間でお届け。本体価格は上巻が7000円、下巻が6600円と割高ですが、仕方ありません。同ブックスは「内容についてはオリジナル本と変わりませんが、装丁や外見が異なります」とのことで、新たな修正はなさそうです。ある場合はもう一度買わねばなりません。 +++ ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『戸籍と無戸籍――「日本人」の輪郭』遠藤正敬著、人文書院、2017年5月、本体4,000円、4-6判上製380頁、ISBN978-4-409-24117-2 『回想の青山光二――資料で読む「最後の文士」の肖像』池内規行著、共和国、2017年5月、本体5,000円、菊変型判上製288頁、ISBN978-4-907986-35-3 『パフォーマンスがわかる12の理論――「クリエイティヴに生きるための心理学」入門!』鹿毛雅治編、金剛出版、2017年4月、本体3,200円、四六判並製400頁、ISBN978-4-7724-1548-4 『マインドフルネス実践講義――マインドフルネス段階的トラウマセラピー(MB-POTT)』大谷彰著、金剛出版、2017年5月、本体2,800円、A5判並製184頁、ISBN978-4-7724-1555-2 ★遠藤正敬『戸籍と無戸籍』は発売済。前著『戸籍と国籍の近現代史――民族・血統・日本人』(明石書店、2013年)で「戸籍が「日本人なるものを〔・・・〕いかに創出してきたのかを歴史的に検討した」(22頁)著者が今後は「無戸籍とは何か」を問うことによって研究を新たな段階へと進めたユニークな本です。ネタばれはやめておきますが、「あとがき」が非常に自由な筆致で書かれているのも印象的です。 ★池内規行『回想の青山光二』は発売済。小説家・青山光二(あおやま・こうじ:1913-2008)さんから著者に当てられた多数の葉書や手紙を引用しつつ綴られた回想記で、巻頭には「秘蔵写真を駆使した」(帯文より)という文学アルバム、巻末には詳細な年譜と全著作目録が収載されています。投げ込みの「共和国急使」第15号(2017年5月20日付)で、下平尾代表は、本書は少部数出版ではあるけれども「諸事即席で売れる本だけが本ではないし、こういう含蓄のある本を世に出すのも版元の仕事であろう」としたためておられます。本書の「あとがき」で著者は下平尾さんを「わが友」と呼び掛けておられ、著者と編集者の麗しい交流に胸打たれる思いがします。 ★最後に金剛出版さんの新刊より2点。まず『パフォーマンスがわかる12の理論』は『モティベーションをまなぶ12の理論――ゼロからわかる「やる気の心理学」入門!』(鹿毛雅治編、金剛出版、2012年4月)の続篇で、心理学用語としての「パフォーマンス」をめぐる12の理論を紹介するもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。次に『マインドフルネス実践講義』は『マインドフルネス入門講義』(大谷彰著、金剛出版、2014年10月)の続篇。「マインドフルネスを使いこなすための理論と方法をガイドする実践篇として刊行」(版元サイトより)。目次詳細はこちらも書名のリンク先をご覧ください。マインドフルネスとは「「今、ここ」での体験に気づき(アウェアネス)、それをありのままに受け入れる態度および方法」(16頁)であり、「仏教徒が2500年にわたり実践してきた瞑想がマインドフルネスという臨床手段へと変化し、しかも西洋、特にアメリカを経て仏教国である日本にセラピーとして逆輸入された」(15~16頁)と著者は説明しています。
+++
by urag
| 2017-05-21 22:05
| 本のコンシェルジュ
|
Comments(0)
|
アバウト
カレンダー
ブログジャンル
検索
リンク
カテゴリ
最新の記事
画像一覧
記事ランキング
以前の記事
2024年 12月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 2004年 06月 2004年 05月 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||