2018年 02月 25日
『Lexicon 現代人類学』奥野克巳/石倉敏明編、以文社、2018年2月、本体2,300円、四六変形判並製224頁、ISBN978-4-7531-0344-7 『キュレーションの方法――オブリストは語る』ハンス・ウルリッヒ・オブリスト著、中野勉訳、河出書房新社、2018年2月、本体2,700円、46判上製248頁、ISBN978-4-309-27919-0 『ゲームの規則Ⅳ 囁音』ミシェル・レリス著、谷昌親訳、平凡社、2018年2月、本体3,800円、4-6判上製480頁、ISBN978-4-582-33326-8 『漢京識略――近世末ソウルの街案内』柳本芸著、吉田光男訳註、東洋文庫:平凡社、2018年2月、本体3,400円、B6変判上製函入496頁、ISBN978-4-582-80885-8 『新装版 花の王国1 園芸植物』荒俣宏著、平凡社、2018年2月、本体3,800円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-54323-0 『新装版 花の王国2 薬用植物』荒俣宏著、平凡社、2018年2月、本体3,800円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-54324-7 『新装版 花の王国3 有用植物』荒俣宏著、平凡社、2018年2月、本体3,800円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-54325-4 『新装版 花の王国4 珍奇植物』荒俣宏著、平凡社、2018年2月、本体3,800円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-54326-1 『ブッチャーズ・クロッシング』ジョン・ウィリアムズ著、布施由紀子訳、作品社、2018年2月、本体2,600円、四六判上製340頁、ISBN978-4-86182-685-6 ★『Lexicon 現代人類学』は27名の執筆者が「新たな「人文学」を構想」(帯文より)し、「今日的課題に挑む、現代人類学の思想と実践を追った50項目の「読む」キーワード集」(同)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。このところ人文書でも話題になっている「人新世」についても立項されています。コンパクトで持ち運びやすいサイズは、以文社さんが9年前に刊行された『VOL lexicon』という、読むキーワード集を思い出させます。『Lexicon 現代人類学』は項目ごとに関連するキーワードや参考文献が掲げられているので、書店さんの棚づくりやフェアに役立つと思います。水声社さんの「叢書 人類学の転回」や、青土社さんの「現代思想2017年3月臨時増刊号 総特集=人類学の時代」を扱っていらっしゃる書店にとっては必図書備ではないでしょうか。 ★なお同書の刊行を祈念し、今週以下のイベントが行われるとのことです。 ◎「人類学からの問いかけ:存在論×政治と経済×価値創造」奥野克巳×石倉敏明×上妻世海トークイベント 日程:2018年03月01日(木)19:00~20:30 開場:18:30~ 会場:青山ブックセンター本店内(小教室) 料金:1,350円(税込) 定員:50名様 お問い合わせ先:青山ブックセンター本店 TEL:03-5485-5511 10:00~22:00 内容:前世紀末から現在まで、人文・社会科学の危機とともに「人間とは何か」という根源的な問いが再浮上する中で、人類学は大きな変貌を遂げ、隣接領域を巻き込む大きな知的運動の渦を起こしてきました。地球規模の自然環境とともに個人や集団、世界の在り方を問い直す「存在論」の問い、国境を超えて日常生活に浸透しつつある「経済と政治」の問い、モノや情報技術、技芸(アート)の実践をめぐる「価値創造」の問いなど、人類学はいま改めて「現代」を問い直し、共通世界を構想する実践的な道具となりつつあります。現代を人類学から見たとき、どんな光景が見えてくるのか、そして人類学から現代を問うということはどういうことなのか、語り合っていただきます。 ★オブリスト『キュレーションの方法』は『Ways of Curating』(Penguin Books, 2014)の翻訳。帯文に曰く「英『アートレビュー』誌「現代アートの最も影響力を持つ100人」で第1位に選ばれたトップ・キュレーターが、自身の活動を振り返り、現代アートを含む芸術文化の過去と未来を語り尽くす!」。目次を列記しておきます。 プロローグ――事の次第 アリギエロ・ボエッティとともに 世界〔グローバル〕性 『do it』 キュレーション、展覧会、綜合芸術作品 クールベ、マネ、ホイッスラー 知をコレクションする ミュージアムとアーカイヴについて 印刷された展覧会 終わりなき会話 先駆者たち 夜行列車やその他の儀式 キッチン ローベルト・ヴァルザーとゲアハルト・リヒター 導師たち フェリックス・フェネオンとホテル・カールトンパレス 見えない都市たち こちらロンドン〔ロンドン・コーリング〕 建築、アーバニズム、展覧会 ビエンナーレ ユートピア・ステーション バレエ・リュス 時間と展覧会 パヴィリオンとマラソンについて (カンファレンスならざる)カンファレンスをキュレーションする 『非物質的なものたち』 『ラボラトリウム』 未来をキュレーションする ★オブリストは「知をコレクションする」の冒頭でこう書いています。「コレクションをつくるとは、アイテムを購入し整理し、部屋であれ家であれ図書館であれミュージアムであれ倉庫であれ、或る場所に収蔵することである。それはまた不可避的に、世界について考えをめぐらせることでもある――コレクションを生み出す接続〔コネクション〕や原理には、想定、並置、発見、実験的な可能性や連想〔アソシエーション〕といったものが含まれる。コレクションづくりとは知を生産する一方法なのだと言ってもいい」(59頁)。また同テクストではこうも書かれています。「ルネサンス期にはすでに、キルヒャーなどの学者たちは「ミュージアム」を、学問研究に備えてアイテムをコレクションする場、またはモノのいっさい――書斎、図書館、庭園、百科全書――を指す語として用いていた。ミュージアムは過去をモノとして集成するアーカイヴということになっていた。19世紀後半にはすでに、ミュージアムの相互にコネクトされた一連の部屋を歩いていくことは、時間のなかを旅することだと理解されていた」(63頁)。日々中身が少しずつ入れ替わっていく「現在形の鏡」=「移ろうミュージアム」である書店のありようを考える時に、オブリストのキュレーション観は様々な示唆を与えてくれる気がします。 ★レリス『ゲームの規則Ⅳ 囁音』は全4巻の最終回配本。原書は『Frêle bruit』(Gallimard, 1976)。これまでの三巻と異なり断章形式になっており、「拾遺集のような性格を帯び」ていると訳者の谷さんは指摘されています。また「レリスが『囁音』の執筆にかかっていた1960年代後半は、フランスにかぎらず世界各地で反体制的な運動が盛り上がりを見せた時代で、レリス自身も一種の高ぶりを感じていたに違いない」とも指摘されています。本書には例えば次のようなくだりもあります。「発言権を得るのは人食い鬼やロボットや猫をかぶった絞殺者や人の脳みそを台なしにする輩ばかりとなっていく世界で、任務放棄とならずに、非暴力の大義を支持するためには、いったいどうすればいいのだろうか」(236頁)。「ぼろぼろになった私の記憶〔メモワール〕をうまく繕ってはくれないこの覚書〔メモワール〕」(268頁)。「どんなことをしても廃絶できない悪があり、詩だけがそれに立ち向かう助けとなりうる」(同)。「かすかな物音」という原題を持つ本書は、レリスの思考の深淵を垣間見ることができる断崖のようです。 ★柳本芸『漢京識略』は東洋文庫第885巻。訳注者の吉田さんによる「まえがき」に曰く「18世紀末から19世紀初頭にかけてソウルに居住していた柳本芸という一官僚知識人が、1830年に完成させたソウルの町案内」であり、「一文字のハングルのほかは、すべて当時の朝鮮知識人の共通文字言語である漢字漢文で記されている。したがって、街案内とは言え、想定される読者は庶民一般ではなく、あくまでも知識人階層に属する人々である」とのことです。現在に至るまで写本しかなく、本書は「日韓を通じて初めての刊本」(帯文より)と。東洋文庫次回配本は3月、『周作人読書雑記2』の予定。 ★荒俣宏『新装版 花の王国』全4巻は、2014年に平凡社100周年を記念して刊行された『新装版 世界大博物図鑑』全5巻に続く、荒俣さんの図鑑本の新装復刊です。巻頭に掲載された「「花の王国」の読み方」によれば「各頁とも、植物名の〈見出し〉〈解説〉〈図版〉および〈図版説明〉で構成される。各巻とも、総数三十万余種もある植物のうちから、テーマにふさわしい珍奇で美しいものを選んだ。また巻末に、古今東西・現実架空の庭園を25項目ずつとりあげ、人間と植物の深い関わりを後づける〈天と地の庭園巡り〉を併載する」。古い文献から採用されたオールカラーの図譜の溜息の出るような美しさに加え、荒俣本ならではの博物学から雑学までを渉猟した情報と図版の数々が楽しませてくれます。『世界大博物図鑑』は1冊あたり税込2万円前後する高額本ですが、『花の王国』全巻買っても2万円を大きく下回ります。揃いでのご購入をお薦めします。 ★ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』は『Butcher's Crossing』(Macmillan, 1960)の翻訳。作品社さんではアメリカの作家ジョン・ウィリアムズ(John Edward Williams, 1922-1994)の小説『ストーナー』(東江一紀訳)を2014年9月に刊行されており、同書は昨年末に16刷を数えるロングセラーとなっています。今回刊行された『ブッチャーズ・クロッシング』は「19世紀後半の米国西部を舞台にしたバッファロー狩りの物語」(訳者あとがき)で、訳者の布施さんは「『ストーナー』を“静”とすれば、本書はまさに“動”。〔…〕『ストーナー』と同様、本書もやはり、人が生きることの本質を鋭く問いかける、味わい深い文学作品である」と評しておられます。 +++
by urag
| 2018-02-25 20:05
| ENCOUNTER(本のコンシェルジュ)
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