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2017年 04月 23日

注目新刊:全編新訳『ヘーゲル初期論文集成』作品社、ほか

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ヘーゲル初期論文集成
G・W・F・ヘーゲル著 村田晋一/吉田達訳
作品社 2017年4月 本体6,800円 A5判上製695頁 ISBN978-4-86182-631-3
帯文より:処女作『差異論文』からキリスト教論、自然法論、ドイツ体制批判まで。哲学・宗教・歴史・政治分野の主要初期論文を全て新訳で収録。『精神現象学』に先立つ若きヘーゲルの業績。
目次:
Ⅰ 哲学論文
 フィヒテとシェリングの哲学体系の差異――ラインホルト『一九世紀初頭の哲学の状況をもっと簡単に概観するための寄与』第一部との関連で
 哲学的批判一般の本質、とりわけ哲学の現状にたいするその関係について
 懐疑主義と哲学の関係――そのさまざまな変種の叙述および最近の懐疑主義と古代懐疑主義の比較
 抽象的に考えるのはだれか
 ドイツ観念論最古の体系プログラム
Ⅱ 宗教論文
 ユダヤ人の歴史と宗教
 イエスの教えとその運命
 愛と宗教
一八〇〇年の宗教論
Ⅲ 歴史・政治・社会論文
 自然法の学問的な取りあつかいかた、実践哲学におけるその位置、および実定化した法学との関係について
 歴史的・政治的研究
 ドイツ体制批判
『ヘーゲル初期論文集成』解題
ヘーゲル略年譜
あとがき
人名索引

★発売済。「あとがき」によれば本書は「『精神現象学』刊行までの(年代的にはおよそ1795年から1807年までの)論文をおさめている。『精神現象学』は、哲学はもとより自然科学、歴史、芸術、政治、宗教といったじつに多彩な領域における西洋の知的遺産を弁証法という一貫した論理のもとに鳥瞰させてくれる画期的な著作だが、それを可能にしたのは青年時代の思索の積み重ねである。そこで本書は「Ⅰ 哲学論文」、「Ⅱ 宗教論文」、「Ⅲ 歴史・政治・社会論文」の三章を設けて、青年ヘーゲルの知的活動をできるかぎり多方面にわたって収録するように努めた」とのことです。また、未刊草稿である「キリスト教の精神とその運命」は「それに含まれる草稿群の執筆年代にかなりのばらつきがあり、ヘーゲル自身がまとまった著作を計画していたとは考えられないために、あえて二つに分けて「ユダヤ人の歴史と宗教」と「イエスの教えとその運命」とした」とのことです。初期ヘーゲルの著作群については複数の訳書がありますが、ここにまた刮目すべき新訳が加わったことになります。

★ヘーゲルの新訳は今月もう一冊、『美学講義』(寄川条路監訳、石川伊織・小川真人・瀧本有香訳)が法政大学出版局さんよりまもなく発売予定です。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

悪しき愛の書』フェルナンド・イワサキ著、八重樫克彦/八重樫由貴子訳、作品社、2017年4月、本体2,400円、四六判上製247頁、ISBN978-4-86182-632-0
群島と大学――冷戦ガラパゴスを超えて』石原俊著、共和国、2017年3月、本体2,500円、四六判並製276頁、ISBN978-4-907986-34-6
謀叛の児――宮崎滔天の「世界革命」』加藤直樹著、河出書房新社、2017年4月、本体2,800円、46変形判上製352頁、ISBN978-4-309-24799-1
痛みと感情のイギリス史』伊東剛史/後藤はる美編、東京外国語大学出版会、2017年3月、本体2,600円、四六判上製368頁、ISBN978-4-904575-59-8
ゾンビ学』岡本健著、人文書院、2017年4月、本体2,800円、4-6判並製340頁、ISBN978-4-409-24110-3
アジアの思想史脈――空間思想学の試み』山室信一著、人文書院:シリーズ・近現代アジアをめぐる思想連鎖、2017年4月、本体3,400円、4-6判上製376頁、ISBN978-4-409-52065-9
アジアびとの風姿――環地方学の試み』山室信一著、人文書院:シリーズ・近現代アジアをめぐる思想連鎖、2017年4月、本体3,400円、4-6判上製392頁、ISBN978-4-409-52066-6

★『悪しき愛の書』は発売済。原書はペルー版『Libro de mal amor』(Alfaguara, 2006)です。フェルナンド・イワサキ(Fernando Iwasaki Cauti, 1961-)はペルーの日系小説家。既訳書に『ペルーの異端審問』(八重樫克彦/八重樫由貴子訳、新評論、2016年7月)があり、同書には筒井康隆さんによる巻頭言、バルガス・リョサによる序文が寄せられていました。『悪しき愛の書』は訳書第二弾であり、全十章構成の小説です。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。三つの序文が収められているほか(スペイン版第三版・メキシコ版初版2011年への序文、スペイン版第二版・ペルー版初版2006年への序文、スペイン語版初版2001年への序文)、2006年版に収められたリカルド・ゴンサレス・ビヒルによる解説が訳出されています。

★『群島と大学』は発売済。著者の石原俊(いしはら・しゅん:1974-:明治学院大学社会学部教員)さんには歴史社会学と同時代分析の二領域でこれまで上梓されてきた『近代日本と小笠原諸島』『〈群島〉の歴史社会学』『殺すこと/殺されることへの感度』などの単独著がありますが、今回の新刊はそれらに収録されてこなかった文章のなかから大小約20本をセレクトし、大幅に加筆修正・再構成したものだそうです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。特に第三部「大学という現場──グローバリズムと国家主義の攻囲のなかで」は大学の先生方の著訳書を刊行したり販売したりしている出版人や書店人は読んでおいた方がいいと感じました。なお、本書は昨秋逝去された道場親信さんに捧げられています。

★『謀叛の児』はまもなく発売。出版社勤務のご経験もおありのノンフィクション作家、加藤直樹(かとう・なおき:1967-)さんによる、話題作『九月、東京の路上で――1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから、2014年)に続く単独著第二弾であり、「世界革命としての中国革命」(15頁)を標榜した宮崎滔天をめぐる評伝です。帯には安藤礼二さんと酒井隆史さんによる推薦文あり。「滔天が復活する」(安藤さん)、「滔天像を一新する驚嘆すべき書」(酒井さん)と。加藤さんは滔天を「いかなる意味でも右翼ではない」(11頁)と評し、アジア主義との見方にも疑義を呈します。「滔天は、独自の深い思索によって日本と中国、世界の行方を見つめ続けた人物であり、その射程の長さには驚くべきものがある」(14頁)。

★『痛みと感情のイギリス史』は編者の伊東さんによる巻頭の「無痛症の苦しみ」によれば、「近世から現代のイギリス史の中に六つの舞台を設定し、個々の具体的な事例を通じて痛みの歴史性を明らかにする。その六つの章を表すキーワードはそれぞれ、Ⅰ「神経」、Ⅱ「救済」、Ⅲ「情念」、Ⅳ「試練」、Ⅴ「感性」、Ⅵ「観察」である」と。収録論文は版元ウェブサイトで公開されています。痛みをめぐる文化史であり、感情史というユニークな分野の研究成果です。

★最後に人文書院さんの新刊3点です。『ゾンビ学』は「世界初、ゾンビの総合的学術研究書」と帯文に謳われています。「映画、マンガ、アニメ、ドラマ、小説、ゲーム、音楽、キャラクターなど400以上のコンテンツを横断し、あらゆる角度からの分析に挑んだ、気鋭による記念碑的著作」とも。書名のリンク先では目次詳細が公開されているほか、「はじめに」「第1章」「付録:資料のえじき―ゾンビな文献収集」をPDFで立ち読みすることができます。著者の岡本健(おかもと・たけし:1983-)さんは、奈良県立大学地域創造学部准教授。ご専門は観光学で、既刊の著書に『n次創作観光――アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』(NPO法人北海道冒険芸術出版、2013年2月)などがあります。

★山室信一さんの『アジアの思想史脈』『アジアびとの風姿』はまもなく発売。「近現代アジアをめぐる思想連鎖」というシリーズの二巻本になります。『アジアの思想史脈』の「はじめに」に曰く、この二巻本は「国内外での講演記録などのうちから、割愛した箇所やもう少し説明を要すると気がかりだった箇所などを補訂したものです。いえ、補訂という以上に、書き下ろしといえるほど全面的に書き改めたものがほとんどです」とのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

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by urag | 2017-04-23 00:38 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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