2017年 11月 19日
『ゲームの規則Ⅰ 抹消』ミシェル・レリス著、岡谷公二訳、平凡社、2017年11月、本体3,400円、4-6判上製360頁、ISBN978-4-582-33323-7 『ゲームの規則Ⅱ 軍装』ミシェル・レリス著、岡谷公二訳、平凡社、2017年11月、本体3,200円、4-6判上製292頁、ISBN978-4-582-33324-4 『七十人訳ギリシア語聖書 モーセ五書』秦剛平訳、講談社学術文庫、2017年11月、本体3,150円、1200頁、ISBN978-4-06-292465-8 『書簡詩』ホラーティウス著、高橋宏幸訳、講談社学術文庫、2017年11月、本体900円、248頁、ISBN978-4-06-292458-0 『水滸伝(三)』井波律子訳、講談社学術文庫、2017年11月、本体1,780円、640頁、ISBN978-4-06-292453-5 『中国名言集―― 一日一言』井波律子著、岩波現代文庫、2017年11月、本体1,280円、448頁、ISBN978-4-00-602295-2 『世界の共同主観的存在構造』廣松渉著、岩波文庫、2017年11月、本体1,320円、560頁、ISBN978-4-00-381241-9 ★レリス『ゲームの規則〔La Règle du jeu〕』全4巻の刊行開始です。岡谷公二訳『Ⅰ 抹消』(原書:Biffures, Gallimard, 1948)と『Ⅱ 軍装』(原書:Fourbis, Gallimard, 1955)が同時発売。前者の初訳は『ゲームの規則 ビフュール』として筑摩書房より1995年に刊行されたことがあります。新訳にあたっては原題の音写ではなく漢字二文字の訳語で統一するとの方針です。帯文に曰く「神話の偉大さに達した告白文学」と謳われ、個々の帯文は『Ⅰ 抹消』が「ビフュール。未来が暗い穴でしかなかった日々の幼少期の記憶の執拗な重ね書き〈日常生活の中の聖なるもの〉の探求」、『Ⅱ 軍装』は「フルビ。死を飼い馴らし、正しく振る舞い、おのれの枠を超え出る……〈生きる/書く〉心情の一件書類」。今回初訳となる『軍装』について岡谷さんは訳者あとがきで次のようにお書きになっておられます。「『軍装』は『抹消』とは異なり好評をもって迎えられた。ナドー、ビュトール、ポンタリス、ブランショらが有力な雑誌に次々と好意的な批評を発表、そして〔・・・〕刊行翌々年には『抹消』と合わせてクリティック賞を受け、レリスの文名は不動のものとなったのである」。シンプルで美しい装幀は細野綾子さんによるもの。第Ⅲ巻『縫糸』(千葉文夫訳、原書:Fibrilles, 1966)、第Ⅳ巻『囁音』(谷昌親訳、原書:Frêle bruit, Gallimard, 1976)が続刊予定です。 ★講談社学術文庫の11月新刊より3点を選択。秦剛平訳『七十人訳ギリシア語聖書 モーセ五書』はいよいよ税別本体価格で3000円を超える時代に突入した、ということでしょうか。親本は河出書房新社より2002から2003年にかけて刊行された5点の単行本。奥付前の特記によれば、合本文庫化にあたり「その後の研究をもとに加筆・修正・再構成を行い、新に図版を挿入」したとのことです。分冊せずに大冊となるのをあえて避けずに全一巻としたことに強い印象を覚えます。訳者の秦さんは昨秋より、七十人訳聖書の預言者シリーズとして青土社から「イザヤ書」「エレミヤ書」「エゼキエル書」「十二小預言書」を上梓されています。 ★ホラーティウス『書簡詩』は同文庫のための訳し下ろし。原著『Epistles』の既訳には、古いものでは田中秀央/村上至孝訳(生活社、1943年)、新しいものでは鈴木一郎訳(『ホラティウス全集』所収、玉川大学出版部、2001年)がありますがいずれも古書でしか買えません。原著第二巻第三歌は「詩論」としてさらに翻訳があり、文庫版では岡道男訳『アリストテレース 詩学/ホラーティウス 詩論』(岩波文庫、2001年)でも読むことができます。新訳より一節を引きます。「簡潔であろうと努力する。すると曖昧になる。流麗さを追究する。すると気骨と気勢が乏しくなる。荘重さを打ち出す。すると鼻持ちならない。安全無事ばかりを考えて嵐を恐れる人は地面に這いつくばる」(「詩論」より、146~147頁)。 ★井波律子訳『水滸伝(三)』は全五巻のうちの第三巻。第43回から第60回までを収録。なお井波さんは今月、岩波現代文庫から『中国名言集―― 一日一言』が発売されたばかりです。親本は岩波書店から2008年に刊行。366篇の名言が選ばれ、出店や注釈が簡潔に記されています。「ジャンルをとわず、時代を超えて生き生きとなした生命力を保つ言葉を選ぶように心がけ、あまりに教訓的なものや説教臭の強いものは避けた。/しみじみと味読すると、発言者の深い叡智を感受して、なるほどと元気になったり、楽しくなったり、勇気がわいてきたりする」と巻頭の「はじめに」に記されています。なるほどその通りで、実に味わい深い句々に胸が熱くなります。「精衛微木を銜み、将に以て滄海を塡めんとす」(陶淵明)。 ★廣松渉『世界の共同主観的存在構造』は凡例によれば、1972年に勁草書房より刊行された同書に「附録として足立和浩/白井健三郎/廣松渉による鼎談「サルトルの地平と共同主観性」(「情況」1973年1月号)を併録するもの」とのことです。同書の底本には岩波書店版『廣松渉全集』第一巻(1996年)が使用されており、「底本にある「学術文庫版への序」は省き、巻末の索引は初出の単行本に基づいて作成した」ともあります。なお講談社学術文庫版は1991年に刊行されていました。今回の再文庫化にあたり、熊野純彦さんが解説と解説者注を担当され、熊野さんの責任において「底本にふくまれるあきらかな誤記・誤植を訂正し、読みやすさを考慮して振り仮名の追加・整理をし、通行の表記法に基づいて記号を整理するなどの変更をおこなった個所がある」そうです。 +++ 『南方熊楠と説話学』杉山和也著、平凡社、2017年11月、本体1,000円、A5判並製108頁、ISBN978-4-582-36449-1 『聖なる珠の物語――空海・聖地・如意宝珠』藤巻和宏著、2017年11月、本体1,000円、A5判並製120頁、ISBN978-4-582-36450-7 『マルクスと商品語』井上康/崎山政毅著、社会評論社、2017年11月、本体6,500円、A5判上製580頁、ISBN978-4-7845-1846-3 『哲学すること――松永澄夫への異議と答弁』松永澄夫監修、木田直人/渡辺誠編、中央公論新社、2017年11月、本体5,800円、A5判上製704頁、ISBN978-4-12-005028-2 『ウールフ、黒い湖』ヘラ・S・ハーセ著、國森由美子訳、作品社、本体2,000円、四六判上製196頁、ISBN978-4-86182-668-9 ★『南方熊楠と説話学』『聖なる珠の物語』はまもなく発売。ブックレット「書物をひらく」の第9弾と第10弾です。カバーソデ紹介文を引いておくと、『南方熊楠と説話学』は「民俗学や植物学をはじめ、南方熊楠が渉猟した学問領域は多岐にわたり、その足跡は広く深く展開している。説話学においても、南方熊楠の博学は、高木敏雄、柳田國男らをリードする役割をもった。けれども南方の説話学派、彼らや芳賀矢一など、その後の学界の主流とは別の方向をめざし、別の視野を拓いている。膨大な遺存資料のなかに、南方説話額の可能性をとらえる」。「南方熊楠の生涯」「南方熊楠の学問」「日本における説話学の勃興と南方熊楠」「南方熊楠の説話学と、その可能性」「南方熊楠旧蔵資料の価値――説話研究の側から」の五章立てです。『聖なる珠の物語』の紹介文は「ある場所が〈聖なる力〉によって〈聖なる空間〉に変容されるそのなりゆきを、たとえば寺社の縁起が語る。そして〈聖なるモノ〉が、その言葉に力を与え、その聖性を持続させる――。空海が中国から請来した「如意宝珠」。この聖なるモノの由来を語り、その由来譚を解釈しなおす言葉の群れが、室生寺の、高野山の聖性を増幅する。歴史のなかに、その言説システムを丹念に解きほぐす」。「空海と如意宝珠」「室生山の如意宝珠」「龍と如意宝珠」「高野山の如意宝珠」の四章立て。 ★『マルクスと商品語』は発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭のはしがきによれば「本書の目的は、『資本論』冒頭商品論の解読であり、それを第二版以降に述べられる「商品語」という概念に焦点をあてたうえで遂行するものである」とのことです。「「商品語」という一般には聞きなれない用語について、人間語と対照させて、そのおおよその輪郭を明らかにしたのが、第一部〔第Ⅰ章、第Ⅱ章〕であり、本書の序論に当たる。/第二部〔第Ⅲ章~第Ⅶ章〕は本論である。『資本論』冒頭商品論をまったく新たな視点から捉え、従来の解読を刷新することを目指した。従来流布していたほとんどすべての読みを覆し、『資本論』冒頭商品論の精確な読解をなせた、と自負している。/第三部〔第Ⅷ章、第IX章〕は補論というべきものである。第三部草稿まで含めた『資本論』全体を踏まえて、今日の資本主義を批判するという課題は今後のものであり、そのための準備作業に相当する。〔・・・〕鍵となるのは架空資本の概念である。マルクスによるこの概念を復権させ、その新たな内容展開を目指していきたい」。本書はもともと2013年から2014年にかけて紀要「立命館文学」に連載された共著論文「商品語の〈場〉は人間語の世界とどのように異なっているか」を大幅に加筆修正したものとのことです。 ★『哲学すること』は発売済。版元さんウェブサイトでは目次が未掲出のようですが、アマゾンには目次が掲載されています。帯文はこうです。「松永の薫陶を受けた13人が、渾身の力をふるって師に立ち向かう。厳密・緻密・稠密な言語使用を実践し、人間にとって本質的なことのみを論じ交わした火花散る師弟対決」。13人というのは次の方々です。朝倉友海、伊多波宗周、伊東俊彦、大西克智、木田直人、越門勝彦、佐藤香織、高橋若木、手塚博、中真生、原一樹、吉田善章、渡辺誠、の各氏です。松永さんは巻末の謝辞で次のように述べておられます。「私にとって、哲学は学問というより、生きることそのことと切り離せないものです。どうしてかと言いますと、人は単純に生きてはいず、ああだこうだと考え、そして悩んだり差し当たり得心したりして生きているわけで、すると、人はどのように生きてゆく存在なのか、その襞々までを十分に見通したいし、見通すことで生きることを心から納得したいという思いをもつからです。/そこでこの論文集の執筆者の皆さんが、私が哲学に対してもつこのようなイメージに対応する主題を選び、どの主題であれ、私と同じような姿勢で論じてくださったことは本当に嬉しいことでした」(679頁)。また、こうも書かれています。「私の哲学的思索について、「生きることの肯定の哲学」だとか「幸福の哲学」とかの評を聞くことがありますが、今回、答弁を書きながら、自分の哲学の営みの中心にあるものは、同時に「哀しみ」でもあるのかな、とあらためて感慨を懐いた次第です。「幸福の哲学」が「哀しみの哲学」でもあるということ、これは如何ともし難いことだと考えています」(680頁)。ちなみに松永さんは『めんどりクウちゃんの大そうどう』という絵本シリーズをご準備中とのことです。 ★『ウールフ、黒い湖』は発売済。原書は1948年にオランダで刊行された『Oeroeg』です。ヘラ・S・ハーセ(Hella S. Haase, 1918-2011)はバタヴィア(現ジャカルタ)生まれのオランダの作家で、本国では非常に有名なのだそうですが、日本では本書が初訳。「訳者あとがき ヘラ・S・ハーセ その生涯と作品」(135~196頁)では著者について詳しく紹介しており、本書について「旧植民地で生まれ育った白人少年と現地少年の友情と別離を描き、読者に問いかけるように終わるこの作品は、オランダの東インド植民地文学とポスト・コロニアル文学とのちょうど境目に当たる時期に書かれ、オランダ文学史上においても、きわめて重要な位置づけとなっている」と説明されています。著者自身は「あとがき ウールフと創造の自由」で本作を「過去を探し求める旅の記録」と書いています。オランダの若者である主人公「ぼく」が1947年に現在のインドネシアで過ごした自身の少年時代を振り返り、同年齢の現地少年ウールフとの友情を顧みるというものです。訳者は本作に「誕生から20歳までのほとんどの日々を過ごした旧オランダ領東インド(ジャワ島)での作家自身の体験」が随所に反映されている、とも解説されています。 +++
by urag
| 2017-11-19 18:30
| 本のコンシェルジュ
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