2017年 11月 12日
『文化・階級・卓越化』トニー・ベネット/マイク・サヴィジ/エリザベス・シルヴァ/アラン・ワード/モデスト・ガヨ=カル/デイヴィッド・ライト著、磯直樹/香川めい/森田次朗/知念渉/相澤真一訳、青弓社、2017年10月、本体6,000円、A5判上製560頁、ISBN978-4-7872-3425-4 『世界を揺るがした10日間』ジョン・リード著、伊藤真訳、光文社古典新訳文庫、2017年11月、本体1,540円、748頁、ISBN978-4-334-75365-8 『社会分業論』エミール・デュルケーム著、田原音和訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,800円、800頁、ISBN978-4-480-09831-3 『鏡の背面――人間的認識の自然誌的考察』コンラート・ローレンツ著、谷口茂訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,600円、512頁、ISBN978-4-480-09832-0 『定本 葉隠〔全訳注〕中』山本常朝/田代陣基著、佐藤正英校訂、吉田真樹監訳、ちくま学芸文庫、2017年11月、本体1,500円、528頁、ISBN978-4-480-09822-1 ★『文化・階級・卓越化』は「ソシオロジー選書」の第4弾。『Culture, Class, Distinction』(Routledge, 2009)の全訳です。フランスの社会学者ブルデューの主著『ディスタンクシオン』の「問題設定・理論・方法を批判的に継承し、質問紙調査とインタビューを組み合わせた社会調査によって、2000年代以降のイギリス社会の分析に応用した」(版元紹介文より)論集です。第1部「分析の位置づけ」、第2部「嗜好・実践・個人のマッピング」、第3部「文化界と文化資本の構成」、第4部「卓越化の社会的次元」の全4部13章を序論と結論で挟み、「方法論的補遺」として4篇の付録が付されています。巻末にはインタヴューを受けた人々の簡単な紹介(「登場人物」)と「参考文献」「訳者解説」、そして人名と事項の二種の「索引」が付されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。文化一般のみならず出版界を考える上でも重要であり、特に第6章「人気と稀有と――読むことの界に関する探究」は必読かと思います。「われわれの質問紙調査からは、本を読むことは相対的に不人気な活動であることが明らかになった」というギクリとする一文から始まり、非常に興味深い具体的な分析が続きます。やや高額な本ですが、それだけの価値はあります。 ★『世界を揺るがした10日間』は光文社古典新訳文庫の「ロシア革命100周年企画」第2弾(第1弾は先月刊行の『ロシア革命とは何か――トロツキー革命論集』森田成也訳)です。文庫で刊行された同書の訳本には、原光雄訳(上下巻、岩波文庫、1957年)、大崎平八郎訳(角川文庫、1972年)、松本正雄/村山淳彦訳(上下巻、新日本文庫、1977年)、小笠原豊樹/原暉之訳(ちくま文庫、1992年) などがあり、長く読み継がれてきたベストセラーでしたが、いずれも紙媒体では品切中。タイミングの良い新訳刊行となりました。たった100年前の話と読むのか、遠い昔の話と読むのか、読み手によって様々な感慨を呼び起こす本です。 ★ちくま学芸文庫の今月新刊6点から3点のみ挙げると、『社会分業論』は『宗教生活の基本形態――オーストラリアにおけるトーテム体系』(山崎亮訳、2014年)に続く、ちくま学芸文庫でのデュルケームの訳書第2弾。親本は青木書店版「現代社会学大系」第2巻(1971年刊)で、底本はPUF版第7版(1960年刊)。文庫版解説は菊谷和宏さんによるもの。大著ですが分冊ではなく全1巻のままなのは幸いでした。 『鏡の背面』は新思索社版(1996年刊)の文庫化。巻末に「「ちくま学芸文庫」版再刊に寄せて」と題された訳者あとがきがあります。『定本 葉隠〔全訳注〕中』は「葉隠聞書」五~七を収録し、巻末解説「『葉隠』の中心思想とその問題点について――聞書六の74を手掛かりに」は岡田大助さんが執筆されています。来月発売の下巻で全三巻完結です。 ★なお同文庫の今月新刊にはチラシ「ちくま学芸文庫創刊25周年フェア」が挟み込まれており、ちくま学芸文庫で読む「思想の星座」20世紀西洋編/日本編の二つのダイアグラムが掲載されています。これは同フェアのウェブサイトにも掲出されているもの。同フェアは今月から全国主要書店で順次開催し、以下の4点6冊が復刊されるとのことです。松田壽男『古代の朱』、稲田浩二編『日本の昔話』上下巻、ベンヤミン『ドイツ悲劇の根源』上下巻、アドルノ『プリズメン』。特にベンヤミンはこの機会を逃さない方が良いと思います。なお、先月末まで紀伊國屋書店チェーンで展開していた、紀伊國屋書店創業90年記念特別企画「知の絆を未来につなげ――河出文庫×ちくま文庫・ちくま学芸文庫合同フェア」でも復刊が行なわれており、河出文庫で、ボルヘスほか『ラテンアメリカ怪談集』鼓直編、寺山修司『青少年のための自殺学入門』の2点、ちくま文庫で荒俣宏『パラノイア創造史』、中島梓『美少年学入門』の2点、合計4点が復刊されています。オリジナルグッズプレゼントの応募期間は終了しましたが、復刊書はまだ入手可能なので、こちらも見逃すことなく購入しておきたいところです。 +++ ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『柄谷行人書評集』柄谷行人著、読書人、2017年11月、本体3,200円、四六判上製600頁、ISBN978-4-924671-30-0 『映画時評集成 2004ー2016』伊藤洋司著、読書人、2017年11月、本体2,700円、四六判上製528頁、ISBN978-4-924671-31-7 『現代思想2017年12月臨時増刊号 総特集=分析哲学』青土社、2017年11月、本体1,800円、A5判並製294頁、ISBN978-4-7917-1355-4 『ミルクとはちみつ』ルピ・クーア著、野中モモ訳、アダチプレス、2017年11月、本体1,400円、四六変型判並製208頁、ISBN978-4-908251-07-8 ★書評紙「週刊読書人」で知られる株式会社読書人さんはこれまで長らく、書店新風会の年度版『棚づくりに役立つ ロングセラー目録』を発売してこられましたが、このたび自社本出版にも進出されることとなりました。その第一弾が『柄谷行人書評集』と、伊藤洋司さんの『映画時評集成 2004―2016』です。前者は「朝日新聞」に掲載された107本の書評(2005~2017年)を中心に、68年から93年に執筆された書評、作家論、文芸時評、さらに1971年から2002年に発表された文庫解説、全集解説など、単行本未収録作51本も併載され、本書のために書き下ろされた「あとがき」が付されています。書評委員となることによって「『世界史の構造』その他の著作を書くのに必要な最新の文献に継続的に目を通すことができた」と述懐しておられます。 ★『映画時評集成 2004―2016』は「週刊読書人」連載「映画時評」を中心にまとめられた一書で、映画作家5氏(青山真治、黒沢清、パスカル・フェラン、ギヨーム・ブラック、ペドロ・コスタ)との対談7本、さらに映画本の回顧、青山真治さんと伊藤さんがそれぞれが選んだ「映画ベスト300」などが収録されています。蓮實重彥さんの推薦文が帯に記されています。曰く「その感覚と知性と筆力の幸運な融合を真に四っとすべき批評家が、ここに登場する」と。刊行を記念して、以下のトークイベントが今月末に予定されています。 出演:黒沢清(映画監督)×伊藤洋司(中央大学教授・フランス文学専攻) 日時:2017年11月28日(火)19時~ 場所:東京堂ホール(神保町・東京堂書店本店6階) 料金:500円(要予約:東京堂書店 03-3291-5181) ★『現代思想2017年12月臨時増刊号 総特集=分析哲学』は、分析哲学ガイド、分析哲学の実践、分析哲学のハードコア、分析哲学との対話、分析哲学のハイブリディゼーション、の5部構成で、第一線に経つ20名の寄稿を読むことができる必読文献です。各論文の参考文献は、哲学思想書のご担当者ならチェックしておいて損はありません。ちなみに青土社さんは2017年10月27日(金)12:00から2017年12月27日(水)11:59まで期間限定で開催されている、楽天ブックスの「謝恩価格本フェア」(全品45%OFF)に参加されておられます。見逃せません。 ★クーア『ミルクとはちみつ』はアダチプレスさんの約1年ぶりの新刊。原題は『milk and honey』で2014年刊。全米100万部のベストセラー詩集で、すでに世界30か国で翻訳されているそうです。ルピ・クーア(Rupi Kaur, 1992-)さんはインド生まれで、幼少期にカナダに移住。『ミルクとはちみつ』は2014年、彼女が21歳の時に自費出版した第一詩集で、翌2015年にはカナダの出版社Andrews McMeel Publishingから再刊されました。「傷つくこと」「愛すること」「壊れること」「癒やすこと」の全4章で、181篇の詩と92点の自筆イラストを収めています。版元さんによれば彼女は160万ものフォロワーがいる「インスタ詩人」の代表的存在なのだそうです。本書の一節「半分は刃で半分はシルク」(30頁)という言葉は、男性にとっての本書を表わす上で最適な表現のように感じます。「あなたは/絶対に/あなたの正直さを/伝わりやすさと引き換えにしてはだめ」(202頁)と彼女は書いています。先月には『太陽と花々』という第二詩集が英米語圏で発売されています。 +++
by urag
| 2017-11-12 20:31
| 本のコンシェルジュ
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