2017年 10月 15日
帯文より:コペルニクスは考えた――もし美が真実だというのなら、真実は美しいはずだ。「創造」「地球」「月」などのテーマ別10章のもと、前2000年から現代に至る世界認識の諸相を概観する“宇宙誌/宇宙図”集成。謎めいた古代の遺物から現代美術さながらのデジタル解析図へと飛躍する美麗図版300点が誘う、視覚知のミクロコスモス! オーウェン・ギンガリッチ「序文」より:この“宇宙図集”は、天文学の驚異や発見、理解についての色鮮やかな記録であり、中世の緻密なミニアチュールから現代のコンピュータを駆使したデザインにいたるまでの描法に関する歴史書でもある。手短かに言うと“美を愛でる者にとっての賛歌”なのだ。 目次: 序文(オーウェン・ギンガリッチ) はじめに 第1章 創造 第2章 地球 第3章 月 第4章 太陽 第5章 宇宙の構造 第6章 惑星と衛星 第7章 星座・獣帯・天の川銀河 第8章 食と太陽面通過 第9章 彗星と隕石 第10章オーロラと大気現象 解(松井孝典) 図版出典 索引 ★まもなく発売(本日16日取次搬入済)。『ビヨンド――惑星探査機が見た太陽系』(新潮社、2005年)、『ファー・アウト――銀河系から130億光年のかなたへ』(新潮社、2010年)、『プラネットフォール――惑星着陸』新潮社、2013年)と、日本でもその美しい天体写真集の数々によって知られている映像作家/写真家のベンソン(Michael Benson, 1962-)の近作『Cosmigraphics: Picturing Space through Time』(Abrams, 2014)の日本語版です。今までの既刊写真集が科学技術の賜物であったのに対し、今回は天体と人間をめぐる数千年の歴史をひもとく驚異的な一書となっています。約4000年前の天文盤(ネブラディスク)や、前50年頃のデンデラ神殿の天井レリーフなどにはじまり、ランベール『花々の書(Liber Floridus)』1121年、アピアヌス『皇帝の天文学(Astronomicum Caesareum)』1540年、『アウクスブルクの奇跡の書(Augsburger Wunderzeichenbuch)』1547~1552年、『彗星の書(Kometenbuch)』1587年、セラリウス『大宇宙の調和(Harmonia Macrocosmica)』1660年、など傑作の数々を経て、さらに、17世紀ではフラッドやキルヒャー、19世紀ではトルーヴェロ、フラマリオン、リエ『天界』など、カラーのものはすべてフルカラーで掲載されています。幻視されたものから科学的な描写まで、めくるめく美の世界に陶酔するばかりです。新潮社版の写真集に比べると生産部数が限られていると聞きますので、気になる方はどうかお早目に購入されてみて下さい。 ★ちなみに『アウクスブルクの奇跡の書』は『The Book of Miracle』としてTaschenから今夏に廉価版が出ています(英独仏の三か国語併記。最初の100頁が解説、後の170頁強がプレートのリプリントの大判大冊です。2017年10月15日現在、ありがたいことにアマゾン・ジャパンでも在庫しています。BuzzFeed Japanの記事「400年の時を超えて。幻の奇書『奇跡の書』が色鮮やかで、怖い」でもサンプルをご覧になれます)。また、『世界《宇宙誌》大図鑑』で言及され引用されているコペルニクスの『天球回転論』はいよいよ今週後半に完訳版がみすず書房さんより刊行されます。本体16,000円とお高いですが、何とか購読したいものです。 +++ ★このほか最近では以下の新刊に注目しています。 『ベル・フックスの「フェミニズム理論」――周辺から中心へ』ベル・フックス著、野﨑佐和/毛塚翠訳、あけび書房、2017年10月、本体2,400円、A5判並製240頁、ISBN978-4-87154-154-1 『道徳を基礎づける――孟子vs. カント、ルソー、ニーチェ』フランソワ・ジュリアン著、中島隆博/志野好伸訳、講談社学術文庫、2017年10月、本体1,150円、360頁、 ISBN978-4-06-292474-0 『言語起源論』ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー著、宮谷尚実訳、講談社学術文庫、2017年10月、本体840円、232頁、ISBN978-4-06-292457-3 『水滸伝(二)』井波律子訳、講談社学術文庫、2017年10月、本体1,830円、692頁、ISBN978-4-06-292452-8 『ロシア革命とは何か――トロツキー革命論集』トロツキー著、森田成也訳、光文社古典新訳文庫、2017年10月、本体1,100円、414頁、ISBN978-4-334-75364-1 『初級者のためのギリシャ哲学の読み方・考え方』左近司祥子著、だいわ文庫、2017年10月、本体780円、296頁、ISBN978-4-479-30673-3 ★『ベル・フックスの「フェミニズム理論」』は、『Feminist Theory: From Margin to Center』(1984, South End Press; 2nd edition, 2000, South End Press; 3rd edition, Routledge, 2015)の新訳です。既訳には、清水久美訳『ブラック・フェミニストの主張――周縁から中心へ』(勁草書房、1997年、絶版)があります。全12章構成なのは今回の新訳の底本である新版(第三版)でも変わりませんし、章題も変わっていません。目次詳細は版元さんのウェブサイトでご確認いただけます。「序文(新版)」と訳されているのは原著では「新版への序文:光を見る――ヴィジョンのあるフェミニズム」で、この序文は原著第二版より付されている序文と変わりありません。この序文でフックスは次のように述べています。 ★「フェミニストたちはしばしば、一般大衆を基盤にしたフェミニズム運動をつくりあげる必要性について話し合ったが、そうした運動を立ちあげるためのしっかりした基盤などどこにもなかった。ウーマンリブ運動は、狭い土台の上に形づくられてきたというだけではなく、何よりもまず特権階級(そのほとんどが白人)の女性に関係する問題にしか注意を呼び起こさなかった。/わたしたちは、一般大衆を基盤にした運動のための考えや戦略を示してくれる理論を必要としていた。そうした理論が、ジェンダー、人種、そして階級の理解に根ざしたフェミニズム的な視点からわたしたちの文化を検証してくれるに違いなかったからである。そうした必要性に答えて、わたしは本書『フェミニズム理論 周辺から中心へ』を執筆したのである」(12頁)。 ★帯文には「男性女性ともに読んでほしい一冊です」とあります。野﨑さんは巻頭の訳者まえがきこうお書きになっています。「何だか生きづらさを感じている人、自分のパートナーや家族との関係がうまくいかないという人、女性であっても男性であっても構いません、そういう人にこそ本書を手に取ってほしいのです。/些細な問題だと思っていたことが実は深刻なフェミニズムの問題だったということもあるからです」(2頁)。ベル・フックス(bell hooks, 1952-)の著書は90年代からこんにちに至るまで6点ほど訳されてきましたが、初訳がほからなぬ本書の旧訳本でした。7冊目となる今回の新訳がフックス再読の契機となることを期待したいです。 ★講談社学術文庫の今月新刊からはいくつか。ジュリアン『道徳を基礎づける』は2002年に講談社現代新書として刊行されたものの文庫化。原書は『Fonder la morale』(Grasset, 1996)です。巻末に付された中島さんによる「講談社学術文庫のための解題」によれば、共訳者の志野さんが「細かい訳文の修正」を行われたとのことです。新書版は古書価が高騰していたので文庫化は妥当だと思います。帯文には東浩紀さんの推薦文が掲載されています。曰く「カントと孟子が互いを照らし合う。西欧近代と東洋思想がぶつかる場所にいる、ぼくたちこそが読むべき新たな哲学」と。なお中島さんによるジュリアンの訳書はもう一冊あります。『勢――効力の歴史:中国文化横断』(知泉書館、2004年)です。書店店頭ではあまり見かけませんが、版元さんのサイトでは「在庫あり」となっています。 ★ヘルダー『言語起源論』は文庫オリジナルの新訳。既訳には木村直司訳(大修館書店、1972年2月)や、大阪大学ドイツ近代文学研究会訳(法政大学出版局、1972年3月)があります。ともに72年刊でほぼ同時期に出版されたものです。今回の新訳の底本は訳者解説によれば「最終版の手書き原稿」とのことで、ゲーテも見たであろう手稿と地道に向き合ったり、既訳から学んだりする謙虚な姿勢が解説やあとがきから垣間見えます。一方、『水滸伝(二)』は第23回から第42回を収録。帯文には「『金瓶梅』の原話「〈行者〉武松の物語」あります!」と特記されています。本巻に収められた第23~32回に武松の生きざまが描かれています。いつの日か、井波さん訳の『金瓶梅』を読む日も訪れるでしょうか。 ★光文社古典新訳文庫の今月新刊では『ロシア革命とは何か』に注目。1906年から1939年までに公刊された重要論文6本を収録。同文庫でのトロツキー新訳本は、『レーニン』(森田成也訳、2007年)、『永続革命論』(森田成也訳、2008年)、『ニーチェからスターリンへ――トロツキー人物論集【1900?1939】』(森田成也/志田昇訳、2010年)に続く4点目です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。1932年の高名な「コペンハーゲン演説」を、英訳や独訳からの重訳ではなくロシア語から新訳したのが目玉のひとつ。同書は「ロシア革命100周年企画」の第1弾だそうです。同文庫では来月、ジョン・リード『世界を揺るがした10日間』(伊藤真訳)の発売が予定されていますが、こちらが第2弾となるのでしょうか。月刊誌『現代思想』2017年10月号で「ロシア革命100年」の特集が組まれ、『ゲンロン』誌では二号連続で「ロシア現代思想」が特集されます。ロシア思想のコーナーを作る絶好のチャンスかと思われます。幾度となく推していますが、水声社版「叢書・二十世紀ロシア文化史再考」もお薦めします。 ★だいわ文庫の新刊では、文庫版オリジナルの書き下ろしである『初級者のためのギリシャ哲学の読み方・考え方』に注目。同書は著者の左近司祥子(さこんじ・さちこ:1938-)先生にとって、『哲学するネコ――文学部哲学科教授と25匹のネコの物語』(小学館文庫、1998年)、『本当に生きるための哲学』(岩波現代文庫、2004年)に続く、久しぶりの文庫新刊です。ソクラテス、プラトン、アリストテレスのほか、少しばかりですが、タレスら初期の哲学者たちや、ソフィスト、エピクロス派、ストア派、ネオプラトニズムも言及されています。文庫で読めるギリシア哲学入門は数少なく、現在入手可能な本も少ないなか、とりわけ取っつきやすい内容となっていると感じます。目次詳細は版元サイトにはありませんが、アマゾンや7ネット、紀伊國屋書店などには掲載されているので、ご参照なさってください。 +++
by urag
| 2017-10-15 22:14
| 本のコンシェルジュ
|
Comments(0)
|
アバウト
カレンダー
ブログジャンル
検索
リンク
カテゴリ
最新の記事
画像一覧
記事ランキング
以前の記事
2024年 12月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 2004年 06月 2004年 05月 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||