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2017年 09月 24日

注目新刊:『【「新青年」版】黒死館殺人事件』作品社、など

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★今回は近刊書で日本三大奇書、既刊文庫で中国四大奇書など、力作が続きます。まずはまもなく店頭発売開始となる注目新刊をご紹介します。

【「新青年」版】黒死館殺人事件』小栗虫太郎著、松野一夫挿絵、山口雄也註・校異・解題、新保博久解説、作品社、2017年9月、本体6800円、A5判上製480頁、ISBN978-4-86182-646-7
密告者』フアン・ガブリエル・バスケス著、服部綾乃/石川隆介訳、作品社、2017年9月、本体4,600円、四六判上製548頁、ISBN978-4-86182-643-6
スター女優の文化社会学――戦後日本が欲望した聖女と魔女』北村匡平著、作品社、2017年9月、本体2,800円、四六判上製432頁、ISBN978-4-86182-651-1
子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』ジャンシー・ダン著、村井理子訳、太田出版、2017年9月、本体1,800円、四六判並製416頁、ISBN978-4-7783-1596-2

★作品社さんの新刊3点はまもなく発売(27日取次搬入予定)。『黒死館殺人事件』は言うまでもなく日本三大奇書の一つ。今回の作品社版は「新青年」での連載(1934年4月号~12月号)を底本とした初めての単行本で、松野一夫さんによる初出時の挿絵をすべて収め、山口雄也さんによる解題と2000項目に及ぶ語註、世田谷文学館所蔵の手稿や雑誌掲載時の校正ゲラを照合した校異を配し、新保博久さんによる解説「黒死館愛憎」を巻末に置いた、同作品の未曾有の大冊です。資料編として、同小説に対する所感である、江戸川乱歩「「猟奇耽異博物館」の驚くべき魅力について――小栗虫太郎君を称う」と、甲賀三郎「興奮を覚える」の2篇が併載されています。百科事典を駆使しない限り理解が困難だった数々の歴史的固有名や専門用語の数々に注がついただけでもすごいことです。前日譚の「聖アレキセイ寺院の惨劇」をお読みになりたい方は創元推理文庫版の『日本探偵小説全集(6)小栗虫太郎集』もお買い求めになって下さい。

★バスケス『密告者』は『Los informantes』(ALFAGUARA, 2004)の翻訳。帯文に曰く「父親の隠された真の姿と第二次大戦下の歴史の闇」と。コロンビアの作家フアン・ガブリエル・バスケス(Juan Gabriel Vásquez, 1973-)の小説第三作で、「初めて文学的成功をおさめた作品であると同時に作家としての評価を高めるきっかけとなった作品」(訳者あとがき)とのことです。第二次大戦下のコロンビアにおける敵国人に対する非人道的政策を背景にした作品である本書の「普遍的なテーマ」を訳者は「どの時代のどの状況においても人間の心の奥に常に存在し得る裏切りへの願望、妬み、密告志向」と説明しています。「知っていたはずの身近な人物が、実は思っていたのと違う人であった、それによって自分が今まで見てきて経験したことが覆されるという体験が、さまざまな登場人物に起こるというのがこの小説の一つの面白みである」と。

★『スター女優の文化社会学』は、映画学や歴史社会学、メディア文化論がご専門の新鋭、北村匡平(きたむら・きょうへい:1982-)さんの修士論文から、原節子と京マチ子を論じた二章を大幅に加筆改稿したもの。帯文に曰く「スクリーン内で構築されたイメージ、ファン雑誌などの媒体によって作られたイメージの両面から、占領期/ポスト占領期のスター女優像の変遷をつぶさに検証し、同時代日本社会の無意識の欲望を見はるかす、新鋭のデビュー作」と。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。「集合的欲望としてスクリーンに投影されるスターこそ、潜在的な意識を顕在化させる文化装置――あるいは抽象的な欲望を具現化する媒体(メディウム)なのである」(13頁)。「日本を代表するスター女優の見取り図を描き、原節子と京マチ子を中心としたスターイメージを比較しながら、彼女たちを取り巻く大衆の欲望、価値づけ、実践、まなざしを分析することによって、日本の〈戦後〉を説き明か」(15頁)す試みです。

★太田出版さんの新刊『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』はまもなく発売(25日取次搬入)。『How Not to Hate Your Husband After Kids』(Little, Brown and Company, 2017)の翻訳です。著者のジャンシー・ダン(Jancee Dunn, 1966-)さんはフリーランス・ライターで、同業者の夫がいます。本書はいきなり彼女が夫に激怒する場面から始まります。夫がパソコンでゲームに興じていて、オムツを捨てに行ってくれないからです。そりゃ、怒るでしょうね。「私たちの娘は六歳になり、私とトムはいまだに、終わることのない喧嘩を繰り返している。なぜ私たちは子育てと家事の分担に関して、これほどまでにぶつかり合うのだろう」(13頁)。冒頭から「これはマズい」と思える展開で、読者がもし家庭を持つ男女だとしたら読み進めるのに恐怖や辛さを覚えるでしょうけれども、夫婦間のことや子育てのこと、簡単そうで深刻にもなりがちな家庭生活全般について、うまくやるヒントを与えてくれる好著です。

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★7月~9月の文庫新刊の中から今まで取り上げていなかった注目書をピックアップします。

オイディプス王』ソポクレス著、河合祥一郎訳、光文社古典新訳文庫、2017年9月、本体740円、166頁、ISBN978-4-334-75360-3
君主論』マキャヴェッリ著、森川辰文訳、光文社古典新訳文庫、2017年9月、本体860円、272頁、ISBN978-4-334-75361-0
文明の衝突』上巻、サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社文庫、2017年8月、本体各700円、上320頁/下288頁、ISBN978-4-08-760737-6/760738-3
初稿 倫理学』和辻哲郎著、苅部直編、ちくま学芸文庫、2017年9月、本体1,000円、272頁、ISBN978-4-480-09811-5
アマルティア・セン講義――グローバリゼーションと人間の安全保障』アマルティア・セン著、加藤幹雄訳、ちくま学芸文庫、2017年9月、本体1,000円、192頁、ISBN978-4-480-09819-1
貧困と飢饉』アマルティア・セン著、黒崎卓/山崎幸治訳、岩波現代文庫、2017年7月、本体1,540円、448頁、ISBN978-4-00-600366-1
クァジーモド全詩集』河島英昭訳、岩波文庫、2017年7月、本体1,070円、448頁、ISBN978-4-00-377021-4
プレヴェール詩集』小笠原豊樹訳、岩波文庫、2017年8月、本体840円、304頁、ISBN978-4-00-375171-8
ヨーロッパの昔話――その形と本質』マックス・リュティ著、小澤俊夫訳、岩波文庫、2017年8月、本体970円、320頁、ISBN978-4-00-342291-5
ヨーロッパの言語』アントワーヌ・メイエ著、西山教行訳、岩波文庫、2017年9月、本体1,320円、560頁、ISBN978-4-00-336991-3
比較史の方法』マルク・ブロック著、高橋清徳訳、講談社学術文庫、2017年7月、本体600円、136頁、ISBN978-4-06-292437-5
暗号大全――原理とその世界』長田順行著、講談社学術文庫、2017年7月、本体1,300円、448頁、ISBN978-4-06-292439-9
梁塵秘抄』西郷信綱著、講談社学術文庫、2017年7月、本体980円、272頁、ISBN978-4-06-292440-5
道元「宝慶記」 全訳注』大谷哲夫訳、講談社学術文庫、2017年8月、本体1,150円、384頁、ISBN978-4-06-292443-6
十二世紀のルネサンス――ヨーロッパの目覚め』チャールズ・ホーマー・ハスキンズ著、別宮貞徳/朝倉文市訳、講談社学術文庫、2017年8月、本体1,280円、424頁、ISBN978-4-06-292444-3
宗教改革三大文書 付「九五箇条の提題」』マルティン・ルター著、深井智朗訳、講談社学術文庫、2017年9月、本体1,300円、440頁、ISBN978-4-06-292456-6
水滸伝(一)』井波律子訳、講談社学術文庫、2017年9月、本体1,850円、720頁、ISBN
978-4-06-292451-1
新校訂 全訳注 葉隠(上)』菅野覚明/栗原剛/木澤景/菅原令子訳・注・校訂、講談社学術文庫、2017年9月、本体1,750円、656頁、ISBN978-4-06-292448-1

★光文社古典新訳文庫の今月新刊は、同文庫で初めてのソポクレスとマキャヴェッリ。現在も入手可能な文庫で読める『オイディプス王』の既訳には、藤沢令夫訳(岩波文庫)や、福田恒存訳(新潮文庫)、高津春繁訳(ちくま文庫『ギリシア悲劇(Ⅱ)ソポクレス』所収)があります。今回の新訳はサー・リチャード・ジェップの対英訳注本を底本としており、ギリシア語原典を参照しつつも各種の英訳本や注釈書を比較検討して成ったものである点がユニーク。巻末には戦後日本での上演がリストアップされています。『君主論』の底本はエイナウディより1995年に刊行されたジョルジョ・イングレーゼ編の新版。既訳文庫には、池田廉訳(中公文庫BIBLIO)、大岩誠訳(角川ソフィア文庫)、河島英昭訳(岩波文庫)、佐々木毅訳(講談社学術文庫)があり、比較して読むと面白いと思います。同文庫の10月新刊にはトロツキー『ロシア革命とは何か』森田成也訳、などがエントリーされています。

★集英社文庫の先月新刊では『文明の衝突』(親本は1998年刊)がようやく文庫化されました。親本通りに全1巻にした方が通読しやすかった気がしますが、重くなるのを避けたのでしょう。下巻の巻末には政治学者の猪口孝さんによる解説を収録。集英社文庫ではハンチントンの『分断されるアメリカ』が本書と同じ鈴木主税さんによる訳本が今年1月に文庫化されています(親本は2004年刊)。世間ではハンチントンの分析に賛否があるとはいえ、「衝突」がいよいよ目立ってきた世界情勢を読み解く上での現代の古典が文庫で読めるようになったことは歓迎したいです。

★ちくま学芸文庫の今月新刊では全集未収録の初稿「倫理学」(1931年)と、センの講義録を購入。本当は先月刊行の『藤原定家前歌集』上下巻(久保田淳校訂・訳)も購読したかったところですが財布が追随せず。『初稿「倫理学」』は「随筆「面とペルソナ」、講演「私の根本の考」および座談会「実存と虚無と頽廃」を収録した文庫オリジナル編纂」(カヴァー紹介文より)。初稿を出発点とした大著『倫理学』や『人間の学としての倫理学』は岩波文庫で読めます。『グローバリゼーションと人間の安全保障』はちくま学芸文庫で昨年末に発売された『経済学と倫理学』に続くセン講義本の第二弾で、2002年の来日講演3本と2000年の論文1本を収録。日本経団連出版より2009年に刊行されたものの文庫化です。来月新刊ではちくま文庫でレオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』垂野創一郎訳など、学芸文庫では中村元編『原典訳 原始仏典』上下巻、吉田真樹監訳『定本 葉隠〔全訳注〕』上巻、『チョムスキー言語学講義 言語はいかにして進化したか』渡会圭子訳、などが予定されています。

★岩波現代文庫でも先々月にセンの著書『貧困と飢饉』(2000年)が文庫化。原著は1981年の『Poverty and Famines: An Essay on Entitlement and Deprivation』です。巻末注記によれば、文庫版刊行にあたり「訳文を改訂し、単行本刊行後の研究動向を踏まえて「訳者解説」に加筆を施した」とのことです。引用や参照する場合はこの文庫版を現時点での決定版と見なすべきです。

★創刊90年を迎える岩波文庫のここ三ヶ月の新刊からは、クァジーモドとプレヴェールの二つの詩集と、リュティとメイエの研究書を選択。流行に左右されない同文庫の渋さが光ります。クァジーモドは筑摩書房版(1996年)の文庫化。プレヴェールは巻末の編集付記によれば、小笠原訳の各版(ユリイカ、河出書房、マガジンハウス)所収のすべての詩篇と、同氏訳の昭森社版『唄のくさぐさ』所収の七篇にシャンソン「枯葉」を追加して文庫化したもので、文庫化にあたりマガジンハウス社版訳者解説と、谷川俊太郎さんのエッセイ「ほれた弱み――プレヴェールと僕」(初出「ユリイカ」1959年8月)を併録しています。リュティ『ヨーロッパの昔話』は岩崎美術社版(1969年)の文庫化で、訳文全体が見直されています。底本は原書第七版(1981年;初版1947年)で、凡例によれば「原注は大幅に割愛し、必要最小限を訳者注に盛り込んだ」とのことです。訳者の小澤さんはリュティの晩年作『昔話 その美学と人間像』(岩波書店、1985年)もかつて上梓されており、こちらも文庫化されて良いのではと祈るばかりです。

★メイエ『ヨーロッパの言語』の底本は、1928年に刊行された『Les langues dans l'Europe nouvelle』の第二版(初版は1918年)。文庫オリジナルの新訳です。訳者あとがきによれば「テニエールが執筆したヨーロッパの言語統計は割愛」されています。同書には古い既訳『ヨーロッパの諸言語』(大野俊一訳、三省堂、1943年)があり、大野氏の業績については訳者解説「よみがえるメイエ」で触れられています。岩波文庫では今月から乱歩の少年探偵団シリーズが文庫化され始めており、いよいよかと感慨深いものがあります。来月の新刊では時枝誠記『国語学史』や『語るボルヘス』(木村榮一訳)が予告されています。

★ここしばらくの充実ぶりから目が離せないのは講談社学術文庫。まず7月刊より3点挙げると、ブロックの高名な講演録『比較史の方法』(原著1928年)は創文社版(1978年)の文庫化。訳文・注・訳者解説が改訂され、「学術文庫版への付記」が付け足されています。『暗号大全』は現代教養文庫版(1985年;初版はダイヤモンド社より1971年)の再刊。西郷信綱『梁塵秘抄』はちくま学芸文庫版(2004年;初版は筑摩書房より1976年)の再刊。巻末に三浦佑之さんによる解説「西郷信綱のことばと感性に遊ぶ」が収められています。次に8月刊より2点。『道元「宝慶記」 全訳注』は永平寺の機関誌「傘松」誌に連載(2011年5月号~2013年1月号)されたのをまとめたもの。訳注者の大谷さんは巻頭の「はじめに」で、『正法眼蔵』や『永平広録』につまづいた読者に「まずは『宝慶記』の精読を勧めたい」とお書きになっています。同記は若き道元が宋の如浄に拝問した貴重な記録です。ハスキンズ『十二世紀のルネサンス』はみすず書房版(1989年)の文庫化。原著は1927年刊。巻末に「文庫版あとがき」が加えられています。

★最後に同文庫の9月新刊より重量級の新訳3点。ルター『宗教改革三大文書』は文庫版オリジナルの新訳。1520年に発表された『キリスト教界の改善について』(8月刊)、『教会のバビロン捕囚について』(10月刊)、『キリスト者の自由について』(12月刊)に加え、「贖宥の効力を明らかにするための討論〔九五箇条の提題〕」を収録。三大文書をまとめて収めた文庫は本書が初めてです。井波律子さんによる訳し下ろし『水滸伝』は全5巻予定。第一巻では、冒頭の「引首」から「第二十二回」までを収録。中国四大奇書のうち井波さんは『三国志演義』の現代語訳をすでに上梓されており、同文庫より全4巻本が出ています。井波さんの精力的なご活躍には瞠目するばかりです。『新校訂 全訳注 葉隠』が全3巻予定。凡例によれば本文は佐賀県立図書館所蔵の天保本(杉原本)を底本とし、餅木本や小城本などにより校訂したとのことです。上巻には「聞書第一」から「聞書第三」を収録。『葉隠』はちくま学芸文庫でも来月より新たな訳注本が発売予定なので、読者の特権として当然両方の版を購読したいです。

★講談社学術文庫の10月10日発売新刊には、『水滸伝(二)』、ヘルダー『言語起源論』宮谷尚実訳、フランソワ・ジュリアン『道徳を基礎づける――孟子vs. カント、ルソー、ニーチェ』中島隆博/志野好伸訳、などが、また11月10日発売新刊には、『水滸伝(三)』、ホラーティウス『書簡詩』高橋宏幸訳、秦剛平『七十人訳ギリシア語聖書 モーセ五書』などが予告されています。モーセ五書とは「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」の5つですが、秦さんによるこれらの日本語訳はすべて河出書房新社より2002年~2003年に刊行されていますので、これらを一冊にまとめるという話ならば素晴らしい企画と感嘆せざるをえません。すごいです。

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by urag | 2017-09-24 23:20 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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