2016年 11月 20日
ダーク・ドゥルーズ アンドリュー・カルプ著 大山戴吉訳 河出書房新社 2016年11月 本体2,400円 46判上製232頁 ISBN978-4-309-24782-3 帯文より:ドゥルーズは喜びと肯定の哲学ではなく憎しみと破壊の哲学だ。暗黒のドゥルーズを召喚して世界の破壊を共謀する最も記念な哲学の誕生。ドゥルージアン4人による応答を併載。 目次: イントロダクション 存在の絶滅 無に向って前進すること 崩壊、破壊、壊滅 〈外〉の呼びかけ 結論 注 解説(大山戴吉) 応答1 憎しみはリゾームを超えるか(宇野邦一) 応答2 反戦運動の破綻の後に――ダーク・ドゥルーズに寄せて(小泉義之) 応答3 破壊目的あるいは減算中継――能動的ニヒリズム宣言について(江川隆男) 応答4 OUT TO LUNCH(堀千晶) ★まもなく発売(11月28日予定)。原書は『Dark Deleuze』(University of Minnesota Press, 2016)です。アマゾン・ジャパンをご利用になっておられる読者の中には、この原書をドゥルーズ関連の和書へのレコメンド(この商品を買った人はこんな商品も買っています)としてご覧になった方がいらっしゃるかもしれません。英語圏の非常に幅広く多様で自由なドゥルーズ読解の前線を形成する本の中でも、書名の通り暗いオーラを放っています。「何よりもアンドリュー・カルプという名を一躍有名にしたのは、本書『ダーク・ドゥルーズ』であろう。その企図は、光と喜びに満ちた肯定の哲学者ジル・ドゥルーズを、破壊と崩壊をもたらす否定のダーク・ヒーローとして(再-)創造すること、あるいは、ドゥルーズ自身と「苗字を共有するダーク・ドゥルーズという子供を生みつけること」(本書8頁)である。この挑発的な試みは大きな反響を呼び、今や多くの読者のあいだで賛否や好悪の感情を巻き起こしている」(162頁)、と訳者の大山さんは解説で説明されています。 ★カルプは彼のデビュー作である本書を「ドゥルーズ自身が絶対に書くことはなかった書物」(123頁)だと表現します。「というのも、彼が生きた時代は、現在のようにポジティブさが強制され、管理が浸透し、息苦しいほどにすべてがオープンである時代ではなかったからだ。私の基本的な議論はこうである。もはやドゥルーズの時代〔カルプはこのフーコーの言葉を嫌味だと解釈しています〕ではない現在にあって、新たな反時代性は、彼の仕事によって導入されたものの、結局は維持できなかった否定というプロジェクト、つまり「この世界の死」を要請することで示される。/この世界の終わりは、一連の死のうちで三番目のものである。すなわち、「神の死」、「人間の死」。そして「この世界の死」である。もちろん、これは物理的な世界破壊を求めることではない」(同)。「「この世界の死」は、世界を救おうというかつての試みの不十分さを認め、その代わりに革命に賭ける。〔・・・〕この世界の死ということで私が主張したいのは、繋がりとポジティブさの強制とに対する批判であり〔・・・〕コミュニズムという共謀である」(124~125頁)であるとカルプは述べ、「モノたちによる毛細状連結の拡大に乗じて、全てを統合して唯一の世界を築き上げようとする」、「繋がり至上主義」(125頁)を批判します。そして「要点は現在に固執することではなく、永遠に続く息苦しい現在を終わらせる新しい方法を見つけること」(129頁)なのだと書きます。 ★本書の冒頭近くでカルプは本書の三つの機能(論争・回復・創造)を次のようにまとめています。「第一に、私は、繋がりを素朴に肯定する思想家としてのドゥルーズを言祝ぐ「喜びの規範」に反駁する。第二に、私は「この世界に対する憎悪を滾らせることで、否定性がもつ破壊的な力を回復する。第三に、私は創造と言う喜びに満ちた任務の反意語である共謀を提案する」(8頁)。ドゥルーズ哲学の無害化に抗い、あえて野蛮な読解を実践する本書は、現代人がうんざりしているすべての現実と徹底的に訣別するための否定性を駆動させることを積極的に称揚することによって、見事に時代の空気を捕まえているように感じます。その意味で言えば、本書はドゥルーズ研究に一石を投じるものである以上に、カルプ自身が言及しているエリック・シュミットとジャレッド・コーエンによる『第五の権力――Googleには見えている未来』(櫻井祐子訳、ダイヤモンド社、2014年2月)への彼なりの応答でもあるのでしょう。コーエンは1981年生まれですが、カルプも学歴から推察しておそらく80年代半ば頃に生まれた若い世代です。 千葉雅也さんによる推薦文にある通り、本書は「革命のマニフェスト」だと言えます。前世代との断絶を高らかに宣言する鮮やかな本で、次回作に期待したいです。メイヤスー『有限性の後で――偶然性の必然性についての試論』(千葉雅也/大橋完太郎/星野太訳、人文書院、2016年1月)に刺激を受けた読者がカルプをどう受け取るか、書店さんにとっても興味深い新刊だと思います。 負債論――貨幣と暴力の5000年 デヴィッド・グレーバー著 酒井隆史監訳 高祖岩三郎/佐々木夏子訳 以文社 2016年10月 本体6,000円 A5判上製848頁 ISBN978-4-7531-0334-8 帯文より:『資本論』から『負債論』へ。現代人の首をしめあげる負債(=ローン)の秘密を、古今東西にわたる人文知の総結集をとおして貨幣と暴力の5000年史の壮大な展望のもとに解き明かす。資本主義と文明総体の危機に警鐘を鳴らしつつ、21世紀の幕開けを示す革命的な書物。刊行とともに重厚な人文書としては異例の旋風を巻き起こした世界的ベストセラーがついに登場。 ★発売済。原著は『Debt: The First 5,000 Years』(Melville House Publishing, 2011; Updated & expanded edition, 2014)です。もともと原書でも大著ですが、訳書では束幅55ミリの大冊となりました。このヴォリュームで本体6,000円というのは版元さんの努力以外の何物でもありません。巻末には監訳者の酒井さんと訳者の高祖さんによる長編論考「世界を共に想像し直すために――訳者あとがきにかえて」が収められています。目次詳細やピケティ、ソルニット、米国有名紙での評判は書名のリンク先でご覧いただけます。ピケティと言えば彼の代表作のひとつ『Les hauts revenus en France au XXe siècle』(Grasset、2001)の日本語訳『格差と再分配――20世紀フランスの資本』(山本知子/山田美明/岩澤雅利/相川千尋訳、早川書房、2016年9月)が先々月発売されましたが、本体価格17,000円という高額本で、多くの読者を悶絶させたかと想像します(私自身購読できておらず、地元の図書館にも所蔵されていません)。ピケティの『21世紀の資本』を読んで次に読むべき本を探しておられた読者にはグレーバーの本書『負債論』を強くお勧めします(ちなみにグレーバーによるピケティ批判については巻末の酒井/高祖論考で言及されています)。 ★第一章冒頭の、IMFをめぐる女性弁護士との対話は本書の導入部として非常に興味深く、最初の10頁でグレーバーの考察の率直さに惹かれた読者は本書の続きも堪能できるだろうと思います。「本書が取り扱うのは負債の歴史であう。だが本書は同時にその歴史を利用して、人間とはなにか、人間社会とはなにか、またはどのようなものでありうるのか――わたしたちは実際のところたがいになにを負っているのか、あるいは、このように問うことはいったいなにを意味するのか――について根本的に問いを投げかける」(30頁)。本書は経済史をめぐる文化人類学者の挑戦であり、その姿勢は次の言葉に端的に表れていると思います。「真の経済史とはまたモラリティの歴史でもなければならない」(582頁)。「負債は〔・・・〕複数のモラル言説のもつれ合い」(同)であり、「約束の倒錯にすぎない。それは数学と暴力によって腐敗してしまった約束なのである」(578頁)。「金銭は神聖なものではないこと、じぶんの負債を返済することがモラリティの本質ではないこと、それらのことはすべて人間による取り決めであること、そしてもし民主主義が意味をもつとするならば、それは合意によってすべてを違ったやり方で編成し直すことを可能にする力にあること」(577頁)。グレーバーによる道徳批判は、別様にもありえた世界への道筋を閉ざしてきた幻想の歴史的所在を解明しようとする、非常に強力な検証として私たちに多くのことを教えてくれます。 ★酒井/高祖論考の末尾には本書の関連書についての構想が明かされていますが、ネタバレはやめておきます。なおグレーバーの既訳書には、『アナーキスト人類学のための断章』(高祖岩三郎訳、以文社、2006年)や『資本主義後の世界のために――新しいアナーキズムの視座』(高祖岩三郎訳、以文社、2009年)があります。 +++ ★このほかに最近では以下の新刊との出会いがありました。 『古地図で見る京都――『延喜式』から近代地図まで』金田章裕著、作品社、2016年11月、本体3,200円、4-6判上製362頁、ISBN978-4-582-46819-9 ★まもなく発売(11月28日予定)。著者の金田章裕(きんだ・あきひろ:1946-)さんは京都大学名誉教授で、人文地理学や歴史地理学がご専門です。近年の著書に『文化的景観――生活となりわいの物語』(日本経済新聞出版社、2012年4月)や、『タウンシップ――土地計画の伝播と変容』(ナカニシヤ出版、2015年2月)があります。今回の新著の帯文は次の通りです。「日本最古の地図から明治の近代測量図まで、京都市街地1200年の様相。平安京から現在の観光都市へとその姿を大きく変えていった、京都の深く長い歴史を古地図によって通覧する」。目次は以下の通り。 目次: はじめに 第一章 宮廷人と貴族の平安京 1 碁盤目状の街路と邸第――左京図と右京図】 2 宮殿と諸院――宮城図と内裏図 第二章 平安京の変遷 1 認識と実態/京の道、京からの道 2 洛中の町と洛外の町 3 御土居と間之町――外形と街路の変化 第三章 名所と京都 1 洛外の名所 2 コスモロジカルな京都――山と川に囲まれた小宇宙 第四章 観光都市図と京都 多色刷りの京都図 観光都市図の内裏と公家町 多彩な観光地図――両面印刷と街道図の手法 多彩な観光地図――鳥瞰図と新構成への試行 第五章 近代の京都図 1 銅板刷りの京都図――京都と学区 2 地筆と地番――地籍図 3 近代測量の地図 4 京都の近代化と地図 5 大縮尺図と鳥瞰図 おわりに あとがき 注 主要文献 『ハンナ・アーレント「革命について」入門講義』仲正昌樹著、作品社、2016年11月、本体1,800円、46判上製384頁、ISBN978-4-86182-601-6 ★発売済。2015年6月から12月にかけて早稲田大学YMCA信愛学舎で行われた是6回の連続講義に加筆したもので、2014年5月に上梓された『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』の姉妹編です。帯文は次の通り。「権力の暴走を抑制し、政治の劣化を阻止する〈永続する政治体〉とは? ポピュリズム、排外主義の蔓延、世の中を「いますぐ変えたい」願望の台頭。そして民主主義が機能停止しつつある、今。『人間の条件』と双璧をなす主著を徹底読解。その思想の核心を丁寧に掴み取る」。目次を下段に掲出しておきます。なおアーレント『革命について』はちくま学芸文庫で志水速雄訳を読むことができます。原典は『On Revolution』(Viking, 1963)です。 目次: [前書き]アーレントの拘り [講義第一回]「革命」が意味してきたもの ――「序章 戦争と革命」と「第一章 革命の意味」を読む [講義第二回]フランス革命はなぜ失敗なのか? ――「第二章 社会問題」を読む [講義第三回]アメリカ革命はフランス革命と何が違うのか? ――「第三章 幸福の追求」を読む [講義第四回]「自由の構成」への挑戦 ――「第四章 創設(1)」を読む [講義第五回]アメリカとローマ、法の権威 ――「第五章 創設(2)」を読む [講義第六回]革命の本来の目的とは何か? ――「第六章 革命的伝統とその失われた宝」を読む 『革命について』をディープに理解するためのブックガイド 『革命について』関連年表
by urag
| 2016-11-20 23:58
| 本のコンシェルジュ
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