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2016年 10月 09日

山本貴光×吉川浩満「生き延びるための人文」第3回@『考える人』、ほか

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新潮社の季刊誌『考える人』2016年秋号に、山本貴光さんと吉川浩満さんの連載対談「生き延びるための人文」の第3回「モードチェンジは「驚き」から始まる」が掲載されています。今回も人文書の編集・営業・販売に関わる人々に必読の話題に触れておられます。短期的に成果を出さねばならない昨今の状況を考える上で、「短期的合理性だけでしのぐには、人生は長すぎる」(山本さん)と気づくことは重要です。「短期では合理的に見えたことも、流行や状況が変わったらそうもいかなくなる。中長期で考えたら、そういうすぐ役に立つ・立たないという発想自体を改める必要も出てくる。〔・・・〕死後となり状況をとりまく一種のエコロジーというか、「関係の網目」を視野に入れることが重要」(山本さん)。「合理性の適正範囲は実は短期長期いろいろ〔・・・〕、そのいろいろあるってことが人文的視点なしには見えない」(吉川さん)。「見えない関係のつながりをどうやって見るかというのも、人文知の利用価値のひとつ」(山本さん)。「準備できないものに出会うための準備〔・・・〕。あえて何らかのクルージを与えて環境をつくる。驚きとかアイデアを誘発するように」(吉川さん)。吉川さん曰くクルージとは「クリエイティビティを発揮できる環境をつくる仕組み」。「驚きのチャンネルを増やしたいね、驚きが快感に変わるような場面、他者と関わる場面というのに自分を開いていくのが大事」(吉川さん)。吉川さんは読書会の効用についても軽く触れられているのですが、お二人をお招きして書店員や出版人とともに読書会が開けたらどんなに素晴らしいでしょうか。しかしながら以下の通りお二人はご多忙なのです。

山本さん、吉川さんのお二人は「ゲンロンβ」で対談「人文的、あまりに人文的」を連載されていることは周知の通りです。またお二人はネット書店hontoの「ブックツリー」にブックキュレーターとしても参加されていますね。まさに大車輪。お二人の今後の刊行予定は山本さん吉川さんのそれぞれのブログのプロフィール欄をご覧ください。吉川さんは紀伊國屋書店の季刊PR誌「scripta」の最新号(第41号、2016年10月)より「哲学の門前」という連載を開始されています。第1回は「Call me Ishmael.」で吉川さんが19歳の頃の米国留学でのとある経験(タクシー運転手との交流)を回想しておられます。胸に沁みるお話。また、山本さんは月刊誌『新潮』2016年11月号にエッセイ「母語のなかで異邦人になる」を寄稿しておられます。さらに山本さんは「本迷宮――本を巡る不思議な物語」展(竹尾見本帖本店2F、2016年10月21日~11月25日)を記念して行われるスペシャルトーク「本を巡る不思議な物語」(2016年10月27日18:30-20:00)にも東雅夫さんや礒崎純一さん(国書刊行会出版局長)とともに登壇されます。予約制につき、参加ご希望の方は、10月13日(木)までに同イベントが紹介されているウェブページ上のフォームにて申し込みが必要とのことです。さらにさらに、山本さんが選書されたブックフェア「知と言葉の連環を見るために」が「じんぶんや」シリーズの最新弾として紀伊國屋書店新宿本店3FのI28棚で11月上旬まで開催されています。

山本さん、吉川さんのお二人は共著『脳がわかれば心がわかるか――脳科学リテラシー養成講座』(太田出版、2016年6月)の刊行記念イベントとしてここ数か月、大澤真幸さんと全三回の連続講義「心脳問題から自由意志、脳の社会性へ、人工知能の可能性とは何を意味するか」(2016年7月~9月)を行っておられました。いずれ活字で読めるようになるでしょうか。対談相手の大澤真幸さんですが、最新著『可能なる革命』(太田出版、2016年9月、本体2,300円、四六判変型432頁、ISBN978-4-7783-1534-4)が先月下旬に発売されました。『atプラス』誌の7号(2011年2月)から29号(2016年8月)まで掲載された連載「可能なる革命」に加筆修正し、序章と終章を書き下ろして1冊にしたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

「革命は可能だ。その可能性の根のようなものを探すのが、本書の狙いである。変化を求めながらも逆に現状を固辞するという悪循環から逃れるためには、革命がまさに可能だということを信じる必要があるからだ」(「はじめに」7頁)。大澤さんの言う革命とは「非合法的な暴力活動」(同頁)ではなく、「修正や改革や維新」(「序章」10頁)以上の「より大きく根本的な変動を指し示す」(同、10~11頁)ものであり、「集合的な要求を通じて、事実上は不可能とされていたことを実現し、そのことで、状況の全体を一変させること」(同、30頁)であり、「不可能だったことを可能にするような変化を、社会運動によってもたらすこと」(同頁)だとされています。本書の狙いは「われわれが無意識のうちに求めているものは、ある意味で〈革命〉だということ、このことを前提にして、次のように問うてみたいのである。それならば、〈革命〉を担い、遂行する主体はいるのか。そのような主体は、われわれの社会の中に準備されているのか。とりわけ、〔政治や社会への関心が乏しいと言われることがある10代から30代前半くらいまでの〕若い世代の中に、そのような主体はいるのか。このことを、さまざまな角度から問い、探究すること」(同、27~28頁)だ、と。

本書の終章では本書の革命論と「〈動物と人間〉をめぐる原理的な考察」とが「まっすぐに一本の糸によってつながっている」ことが明かされています。「私は今、動物との関係において人間とは何かを問う探究に従事している。とりわけ、人間の社会性、人間に固有な社会性は何であり、それはどのようなメカニズムで可能になっているのかが中心的な主題である。この研究では、進化生物学や霊長類学、脳科学などの自然科学から、社会学や哲学の知見までが、横断的に総動員される。成果は部分的に発表されている。いや、まさに発表の途上にある。こうした研究は〈革命〉の可能性という主題とは、およそ関係がないように思われるだろう。しかし、そうではない」(409頁)。発表の途上というのは、『動物的/人間的(1)社会の起原』(弘文堂、2012年)および、2014年より講談社月刊PR誌『』で連載されている「社会性の起原」を指しておられます。なお、大澤さんはつい最近発売になった『現代思想』2016年10月号「緊急特集=相模原障害者殺傷事件」に「この不安をどうしたら取り除くことができるのか」(38-43)というエッセイを寄稿されています。この事件が人びとに抱かせる不安(障碍者を殺すべきだという暴論に由来する)を払拭するに至るための条件について明快にお書きになっておられます。

最後に話を『考える人』2016年秋号に戻すと、同号では、糸井重里さん、細野晴臣さん、横尾忠則さんの三氏による鼎談「ぼくらは“飛び出した”方が生きやすかった[前編]」も掲載されています。横尾さんがYMOに参加予定だったことなどが語られており、興味深いです。横尾さんは発売されたばかりの『文藝』2016年冬季号に掲載された保坂和志さんや磯﨑憲一郎さんとの連載対談「アトリエ会議――二〇一六年八月二日」にも参加されています。今回は彫刻の森美術館を訪問。詳しくは書きませんが、館内を案内されていた主任学芸員の与田さんが思わず「あっ!!!」と声をあげるくだりは、随行されていた編集者の方にとってはさぞかし冷や汗ものだったろうと想像できます。不謹慎ながら思わず吹き出してしまいます。

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by urag | 2016-10-09 19:57 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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