2005年 10月 15日

廣瀬純さんの処女作『美味しい料理の哲学』

a0018105_22402097.jpg小社より刊行したヴィルノの『マルチチュードの文法』の訳者である廣瀬純さんの初の単独著『美味しい料理の哲学』が、河出書房新社さんのシリーズ「道徳の系譜」の一冊として刊行されました。

本書は龍谷大学での講義をもとにしていますが、世間によくある生真面目で凡庸な研究論文とまったく異なり、とにかく内容が「ぶっ飛んで」います。廣瀬さんのイマジネーションと構想力の強靭さ、そして既成の分野や知的枠組みを荒々しく乗り越えていくその大胆さには、同世代の誰も真似できない比類ないものがあります。

「料理の《全体》を《骨付き肉》としていっきに把握してみよう、また、そのことによって、料理の《美味しさ》を《骨》と《肉》との「あいだ」として捉えてみよう」というのが本書の意図ですが、こうした意図がいかに大胆な戦略であるかは、本書をひもとくまで誰にもわからないでしょう。そして一度読み始めたら最後、びっくりするような型破りな冒険が読者を待ち受けています。

本書は料理をめぐる薀蓄に議論の比重があるのではありません。薀蓄や歴史といった前提に囚われることなく料理そのものへ現象学的に迫ること。その結果、薀蓄や歴史は新しい布置のもとに再配置され、議論の順序は改まり、もはや今まで通りに美味しいとか不味いとかを口にする必要などない次元が開かれます。そうした地平にいやいや屈服することのほうが馬鹿馬鹿しい。

目次は以下の通りです。

はじめに
第一講 磔刑図と焼き鳥――《骨付き肉》とは何か
第二講 料理の比較解剖学――《料理=折り紙》序説
第三講 《美味しさ》と《自然》――「ヌーヴェル・キュイジーヌ」のモナドロジー
第四講 「串」とその変異体――「カニバリズム」から「ピンチョス」へ
第五講 《肉》、美しい多様態――「フライドチキン」と「焼き鳥」
第六講 《美味しさ》と速度――パスタシュッタのケース・スタディ
第七講 甲殻動物タイプの《骨付き肉》――セザンヌと春巻
第八講 料理発生学――タコヤキとゴンブローヴィッチ
第九講 料理の個体化原理――「トンカツ」から「カツ丼」へ
第十講 料理の共生平面――フェラン・アドリアと料理の進化
おわりに

人は本書を読んでこう言うこともできるでしょう、「キリストの磔刑図と焼き鳥を同列に扱うなんて不謹慎極まりない」とか、「パスタ料理やクレーム・ブリュレが骨付き肉と同じだというのは、著者が料理の差異や機微を全然分かっていない証拠だ」等々。どう批判しようと勝手ですが、著者がそうした次元でものを考えようとしているのではないことは確かです。

倫理や道徳にまつわる従来の価値観を相対化する場所に著者は移動しているのだし、料理が分かるとか分からないとか、そうした文化的ヒエラルキーとは別の場所から著者は料理を見ようとしているのです。もとよりとんでもない非「料理本」なのです。

現代思想はここまで冒険できるし、冒険してもいいんだ、ということを本書はあらためて認識させてくれます。別に不謹慎な本でも、厚顔無恥な本でもありません。気軽に読んで楽めます。本体価格1500円也。(H)
[PR]

by urag | 2005-10-15 22:41 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://urag.exblog.jp/tb/2326613
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


<< 今週の注目新刊(第24回:05...      アマゾンが版元直取引を本格開始か >>