2016年 10月 02日

注目新刊:渡辺優『ジャン=ジョゼフ・スュラン』、ほか

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ジャン=ジョゼフ・スュラン――一七世紀フランス神秘主義の光芒』渡辺優著、慶應義塾大学出版会、2016年10月、本体7,500円、A5判上製474頁、ISBN978-4-7664-2368-6
『神秘主義――超越的世界へ到る途』イーヴリン・アンダーヒル著、門脇由紀子・ 今野喜和人・鶴岡賀雄・村井文夫訳、ナチュラルスピリット、2016年9月、四六判上製595頁、ISBN978-4-86451-217-6
錬金術の世界 新装版』ヨハンネス・ファブリキウス著、大瀧啓裕訳、青土社、2016年5月、本体4,800円、2016年5月、A5判上製**頁、ISBN978-4-7917-6926-1

★『ジャン=ジョゼフ・スュラン』はまもなく発売(10月5日頃より)。「17世紀フランス最大の神秘家として近年注目を集める」(帯文より)イエズス会士ジャン=ジョゼフ・スュラン(Jean-Joseph Surin, 1600-1665)をめぐる日本で初めての単行本になるかと思います。スュラン(シュランと表記されることもあり)の名前は、20世紀における再評価の功労者となったミシェル・ド・セルトーによる『ルーダンの憑依』(みすず書房、2008年)や『歴史のエクリチュール』(法政大学出版局、1996年、品切)などをお読みになった方はご存知かもしれません。著者の渡辺優(わたなべ・ゆう:1981-)さんは天理大学人間学部宗教学科講師。本書は2014年5月に東大大学院人文社会系研究科に提出された博士論文に大幅な加筆修正を施したもので、著者にとって初の単独著となります。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。以下では「はじめに」からいくつか引用します。

★「近世神秘主義においては、神の「不在」の経験は、むしろ根源的に肯定的な意味を帯びたものとして、嘉するべきものとしてありえた」(6頁)。「幻視や脱魂などの神秘体験ではなく、「不在の他者」とのもうひとつの交わりのかたちである「神秘的信仰」をこそ主題化する本書は、本質的に個人的・直接的なものとされる体験、何か特別な「現前の体験」を神秘主義の――ひいては「宗教」そのものの――「本質」とみなしてきた従来の研究の趨勢を正面から問い直し、私たちの神秘主義理解、そして宗教理解の水準を一段押し上げようとする試みである」(7頁)。

★スュランは「15年以上にも及んだ心身の危機的状況――魂の「暗夜」――を通じて、〔・・・〕その身に数々の「超常の・常軌を逸した」体験を被」りつつ、後年の恢復ののちには「すべてのキリスト教信徒に「共通の」、そして一切の超常の体験を拭い去った「通常の」信仰の境涯にこそ、「神秘的合一」への道を見出すに至ったのである」といいます(6~7頁)。「比類なき現前の体験に恵まれたスュランだが、その晩年、彼は、あたかも神が不在であるかのように暗い「信仰の状態」にこそ根源的な平安と喜びを認め、そこに憩うことに」なったと(7頁)。本書は「この間の消息を明らかにし、スュランにおける信仰の何たるかを解明」した労作です。

★本書の補遺「スュランのテクストについて」ではスュランの諸著作(詩的テクスト/霊的指導のためのテクスト/自伝的テクスト/書簡)について簡潔に解説しておられます。スュラン自身の著作の邦訳では「愛の諸相をめぐる十五の詩篇」(村田真弓訳、『キリスト教神秘主義著作集(15)キエティスム』所収、教文館、1990年、341~436頁)があります。

★渡辺さんの新刊で参考文献に挙げられていたアンダーヒルの古典的著作『神秘主義』が、先月復刊されました。親本はジャプラン出版より1990年に出版。1911年にロンドンで刊行されたMysticismの第2部の全訳で、巻頭の「訳者解説」の末尾に付されたごく短い「追記」によれば、訳文に手を入れた改訂版であるとのことです。目次を列記しておくと、訳者解説、第1章「はじめに」、第2章「自我の覚醒」、第3章「自我の浄化」、第4章「自我の照明」、第5章「声とヴィジョン」、第6章「内面への旅(1)――潜心と静寂」、第7章「内面への旅(2)――観想」、第8章「脱我と歓喜」、第9章「魂の暗夜」、第10章「合一の生」、むすび、付録「キリスト教紀元からブレイクの没年までのヨーロッパ神秘主義の歴史的素描」、文献目録〔原書のみ記載〕、索引〔主に人名〕。長らく品切だった本なので、今回の改訂版は嬉しい限りです。なおアンダーヒルの訳書には本書のほかに、『衷なる生活』(中山昌樹訳、教文館出版所、1929年、絶版)、『霊の力』(前川真二郎訳、羊門社、1937年、絶版)、『実践する神秘主義――普通の人たちに贈る小さな本』(金子麻里訳、新教出版社、2015年) があります。

★また、久しぶりの復刊と言えば、隣接する分野では今春、ファブリキウス『錬金術の世界』(青土社、1995年)の新装版が今春刊行されたことも思い出しておきたいと思います。原書はAlchemy: The Medieval Alchemists and their Royal Art (Copenhagen: Rosenkilde and Bagger, 1976; Revised edition, Wellingborough: Aquarian Press, 1989)です。著者はヨハンネス・ファブリキウスと記載されていますが、実際のところプロフィールは不明で、訳者あとがきによれば「心理学に取り組んで無意識の研究をおこなうとともに、少なくとも30年以上の歳月を費やして精力的に錬金術の研究をつづけていることが、かろうじてうかがえるだけ」とのことです。名前はおそらくはペンネームで、近世ドイツに実在した同名の天文学者(Johannes Fabricius, 1587-1616)から採られたものと思われます。復刊にあたり、「新装版あとがき」が加えられているほかは、特に初版から変更や改訂などはないようです。帯文も特に変更はないようです。「初めて解き明かされた神秘主義の殿堂。解明された夢と象徴の体系。古代・中世を経て現代に至る、ヨーロッパ文明の地下水脈に、人類の秘められた、夢と象徴の元型をさぐる。――近代知が見失ってきた魂の救済や生命の蘇生などをめぐる、中世の壮大かつ豊饒な知の体系を、精神分析学の成果を駆使して、深層から掘り起こし平明に解き明かした、錬金術研究の決定版」。

★以下に目次を列記しておきます。

序言
第1章 中世のサブカルチャーの古代の源泉
第2章 第一質料 作業の開始
第3章 最初あるいは地上での再誕の精神外傷
第4章 最初の結合 地上での再誕
第5章 ニグレド 「黒」の死と腐敗
第6章 アルベド 清めの白色化作業
第7章 第二あるいは月の再誕の精神外傷
第8章 第二の結合 月の再誕
第9章 キトリニタス 「黄色」の死と腐敗
第10章 第三あるいは太陽の再誕外傷
第11章 第三の結合 太陽の再誕
第12章 ルベド 「赤」の死と腐敗
第13章 死の精神外傷 第四の結合
第14章 大いなる石あるいは宇宙の石の再生
第15章 サイケデリック心理学 新しい錬金術
参考文献

図版出典
付録(連作図版の研究)
訳者あとがき
索引
新装版あとがき

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★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

創造元年1968』笠井潔+押井守著、作品社、2016年9月、本体1,800円、46判並製256頁、ISBN978-4-86182-596-5
幸福はなぜ哲学の問題になるのか』青山拓央著、太田出版、2016年9月、本体1,600円、四六判変型272頁、ISBN978-4-77831535-1
アートの入り口 美しいもの、世界の歩き方[ヨーロッパ編]』河内タカ著、太田出版、2016年9月、本体1,800円、四六判変型368頁、ISBN978-4-7783-1520-7

★『創造元年1968』は発売済(29日取次搬入済)。押井さん(1951年東京生まれ)と笠井さん(1948年東京生まれ)との対談は、劇場アニメ『立喰師列伝』を記念して行われ、『立喰師、かく語りき。』(徳間書店、2006年、品切)に収録された「革命の火はなぜ消えたのか?」 に続くもので、話題は多岐にわたり、刺激的で濃密です。今回の対談本の巻頭にある笠井さんによる「まえがき」によれば、その最初の対談では「二人とも〈68年〉をめぐる話題に終始して、新作アニメ記念としては異例の対談だった」とのことで、「しかし、それでも語り残したことが多すぎる。今度は時間制限なしで〈68年〉論を徹底的に語ろうということになり、そして完成したのが本書」だということです。「ルーツ――68年世代の僕らがつくったもの」「リアルと表現をめぐる対話」「ルーツを生きること、創造すること」の三部構成。押井さんは対談の最後でこう述べておられます。「運動をやっていた68年から、ずっと自分には、空白の時期があり、68年の自分と今の自分がいまだに直接つながっている感じがします。〔・・・〕自分の作品は、あの当時の原風景を、その「記憶」を物語として表現してきたとも言える」(210頁)と。巻末に藤田直哉さんと編集部による40頁もの事項注釈あり。

★『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』は発売済。著者の青山拓央(あおやま・たくお:1975-)さんは山口大学時間学研究所の准教授。今回の新刊は単独著としては『タイムトラベルの哲学』(講談社SOPHIA BOOKS、2002年;新版、ちくま文庫、2011年)、『分析哲学講義』(ちくま新書、2012年)に続く3冊目。巻頭の「はじめに」によれば本書は幸福をめぐる哲学的考察についての本であり、「幸福とは何かを――なぜその問いに十全な答えがないのかを――読者とともに考えていく本」だと位置付けられています。目次や概要、言及される先人たちの諸著作については、書名のリンク先をご覧ください。「幸福」という言葉は「多義的でありながら、他方でその多義性を自ら打ち消し、私たちを均質化しようとする奇妙な力をもっている」(7頁)と著者は書きます。第5章「付録:小さな子どもたちに」は児童の読者に向けて書いたというユニークな試み。第7章は本書執筆の「一種の楽屋裏」を明かすと同時に「同時に筒井康隆氏の小説『モナドの領域』への特殊な論評」ともなっているとのことです。なお近刊予定として、博士論文に加筆した『時間と自由意思』を筑摩書房より上梓されるそうです。

★『アートの入り口――美しいもの、世界の歩き方[ヨーロッパ編]』は発売済。『アートの入り口――美しいもの、世界の歩き方 [アメリカ編]』(太田出版、2016年2月)に続く第2弾。本書の目次や取り上げられる芸術家については書名のリンク先をご覧ください。「本書には、ぼくが学生の頃から尊敬してやまない歴代の画家や彫刻家や写真家に加え、あまり知られていない、未だ過小評価されていると感じている作家たちが登場します。さらに第4章〔「変貌し続けたボウイ」〕でロンドンのミュージシャンたちのことを熱く書いたのは、美術や写真だけでなく、ぼくに大きな影響を与えてきた彼らのことも同じくらいに重要だと考えたからで、ヨーロッパにおけるアートの入り口として一章を設けました」(364頁)とあとがきにあります。俳優の井浦新さんは本書を評して「読んでいて画家たちと握手を交わせるくらいの距離感を感じた」とコメントしておられます。

★太田出版さんでは今月、大澤真幸『可能なる革命』や、大塚英志『感情化する社会』が発売されていることを申し添えます。こちらもともに注目新刊です。
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by urag | 2016-10-02 23:51 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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