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2016年 06月 19日

注目新刊:創刊40周年、講談社学術文庫6月新刊、ほか

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人間不平等起源論 付「戦争法原理」』ジャン=ジャック・ルソー著、坂倉裕治訳、講談社学術文庫、2016年6月、本体860円、240頁、ISBN978-4-06-292367-5
ひとはなぜ戦争をするのか』アルバート・アインシュタイン+ジグムント・フロイト著、浅見昇吾訳、養老孟司・斎藤環解説、講談社学術文庫、2016年6月、本体500円、120頁、ISBN978-4-06-292368-2
中央アジア・蒙古旅行記』カルピニ+ルブルク著、護雅夫訳、講談社学術文庫、2016年6月、本体1,330円、456頁、ISBN978-4-06-292374-3
杜甫全詩訳注(一)』下定雅弘・松原朗編著、講談社学術文庫、2016年6月、本体2,300円、912頁、ISBN978-4-06-292333-0
今昔物語集 本朝世俗篇(上)全現代語訳』武石彰夫訳、講談社学術文庫、2016年6月、本体1,630円、592頁、ISBN978-4-06-292372-9

★講談社学術文庫の今月(2016年6月)新刊では、すべて帯に「古典へ! 講談社学術文庫 創刊40周年」のアイキャッチが印刷されています。その謳い文句に相応しく今月新刊は古今東西の古典が目白押しです。

★ルソー『人間不平等起源論』は文庫オリジナル新訳。中山元さんによる光文社古典新訳文庫(2008年)以来の新訳です。同書の既訳で入手しやすい版には、上記の光文社古典新訳文庫版のほか、岩波文庫版(本田喜代治訳、1933年初版;本田喜代治・平岡昇訳、1957年改版;1972年改訳版)や、中公クラシックス版(小林善彦訳、2005年、井上幸治訳『社会契約論』を併載)などがあります。今回の新訳では表題作である「人間たちの間の不平等の起源と根拠に関する論文」(1755年出版)のほかに「戦争法原理」(1756年頃執筆)が収録されているのが特徴です。訳者解説によれば、前者はプレイヤード版『ルソー全集』第3巻(ガリマール、1964年)所収のテクストを底本としつつ、ルソー生誕300年記念のスラトキン版『ルソー全集』第5巻(2012年)を参照し、「専門家の目から見れば、ものたりないところが生じることは覚悟のうえで、できる限り、一般の読者の方々にも親しみやすい、平易な訳文にすることを心がけた」とのことです。後者「戦争法原理」は、「ベルナルディらによって復元されたテクスト(ヴラン、2008年)を底本として用いた。異文については日本語訳では不要と判断して、省略した。復元された『戦争法原理』の日本語訳としては、本書が初めてのものとなるかもしれない」と。

★『ひとはなぜ戦争をするのか』は『ヒトはなぜ戦争をするのか?――アインシュタインとフロイトの往復書簡』(花風社、2000年)の文庫化。奥付手前の特記によれば、「講談社学術文庫に収録するにあたり、一部を再構成しています」とのことです。親本に収録されていた養老孟司さんの解説「脳と戦争」は割愛され、新たに養老孟司さんによる解説1「ヒトと戦争」と、斎藤環による解説2「私たちの「文化」が戦争を抑止する」という2篇の書き下ろしが追加されています。短い端的な内容で活字の大きな本なので、学生さんの課題図書や読書感想文向きではないかと思います。

★なお、ちくま学芸文庫の今月新刊には、アインシュタインが「数学の進歩を扱った本としてこれまでに手に取った中で、間違いなく一番面白い」と絶賛したというトビアス・ダンツィク『数は科学の言葉』(水谷淳訳、ちくま学芸文庫、2016年6月、本体1,500円、480頁、ISBN978-4-480-09728-6)が文庫化されています。親本は日経BP社より2007年に刊行されたもの。文庫化にあたり改訳されています。版元紹介文に曰く「数感覚の芽生えから実数論・無限論の誕生まで、数万年にわたる人類と数の歴史を活写」と。また、カヴァー紹介文には「初版刊行から80年、今なお読み継がれる数学読み物の古典的名著」とあります。原著は、NUmber: The Language of Science (1930)で、ジョセフ・メイザーによる編者注・メモ・あとがき・参考文献とバリー・メイザーによるまえがきが添えられた2005年復刊版を底本としているようです。 既訳には同書第2版を底本とした『科学の言葉=数』(河野伊三郎訳、岩波書店、1945年)があります。

★『中央アジア・蒙古旅行記』は、同名の親本(桃源社、1965年;1979年新版)の文庫化。親本に収録されていた附録「ポーランド人ベネディクト修道士の口述」は割愛されています。また、訳者が故人のため、編集部が誤字誤植の訂正や表記の整理などの作業を行っておられます。帯文に曰く「13世紀東西交渉の一級史料。教皇・王に派遣された修道士たちはモンゴルをめざす」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。第一部が、プラノ=カルピニのジョン修道士の旅行記。 第二部が、スブルクのウィリアム修道士の旅行記です。

★『杜甫全詩訳注(一)』は全4巻予定の第1巻。帯文に曰く「全作品に訳注を添えたポケット版「杜甫全集」」と。カヴァー紹介文には「日本を代表する漢文学研究者陣による、最新の研究成果をふまえた平易な現代語訳に語釈を添える完全書き下ろし杜甫詩全訳注。本巻は、杜甫の青年期から安史の乱にかけての作品を収録する」とあります。一篇ずつ、原文、読み下し、題意、現代語訳、語釈という構成。巻末には用語説明、人物説明、杜甫関連地図、松原朗さんによる解説「杜甫とその時代」が収められています。

★『今昔物語集 本朝世俗篇(上)全現代語訳』は上下巻予定の上巻。凡例によれば、「本書は『今昔物語集』巻第二十二から巻第三十一の現代語訳である。上下巻とし、巻第二十二から巻第二十六を上巻、巻第二十七から巻三十一までを下巻に収めた。/本書の現代語訳文は『現代語訳対照 今昔物語集 本朝世俗部』(一)~(四)(旺文社刊、1984~1986年)の現代語訳を用いた」とのことです。カヴァー紹介文に曰く「全三十一巻〔うち三巻を欠き、現存は二十八巻〕、千話以上を集めた日本最大の説話集。本朝(日本)に対し、天竺(インド)・震旦(中国)という、当時知られた世界全域を仏教文化圏として視野に奥。〔・・・上巻には〕藤原氏の来歴、転換期に新しく立ち現われた武士の価値観と行動力、激動を生き抜く強さへの驚嘆と共感を語り伝える」。巻末には武石彰夫さんによる解説を収め、さらに参考付図・系図が付されています。なお、講談社学術文庫ではかつて国東文麿さんによる全訳注版『今昔物語集』全9巻(1979~1984年)が刊行されていましたが、現在は品切のようです。

★講談社学術文庫の今月新刊には上記5点のほか、あと2点あります。佐々木惣一『立憲非立憲』石川健治解説、そして、姜尚中+玄武岩『興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産』です。また、来月(2016年7月11日発売予定)の同文庫新刊には、『杜甫全詩訳注(二)』 、エティエンヌ・ボノ・ド・コンディヤック『論理学 考える技術の初歩』山口裕之訳、 筒井紘一『利休聞き書き「南方録 覚書」全訳注』などが予告されています。

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★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

民主主義は止まらない』SEALDs著、河出書房新社、2016年6月、本体900円、B6判並製 256頁、ISBN978-4-309-24763-2
変える』奥田愛基著、河出書房新社、2016年6月、本体1,300円、46判並製272頁、ISBN978-4-309-02471-4
人類進化の謎を解き明かす』ロビン・ダンバー著、鍛原多恵子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2016年6月、本体2,300円、46判上製344頁、ISBN978-4-7726-9551-0

★河出書房新社さんの新刊『民主主義は止まらない』『変える』は発売済。『民主主義は止まらない』は、『民主主義ってなんだ?』(高橋源一郎共著、河出書房新社、2015年9月)、『SEALDs 民主主義ってこれだ!』(大月書店、2015年10月)に続くSEALDs本の3冊目。ほぼ同時に『日本×香港×台湾 若者はあきらめない』(太田出版、2016年6月)も発売されています。『民主主義は止まらない』は、SEALDsのメンバー(諏訪原建・本間信和・溝井萌子の三氏)と小熊英二さんの対談「社会は変えられる」、そしてSEALDsKANSAIのメンバー(大野至・塩田潤・寺田ともかの三氏)と内田樹さんの対談(マイナス3とマイナス5だったら、マイナス3を選ぶ)を収録し、後半1/3には三浦まりさん監修による「選挙を変える、市民が変える」と題し、SEALDsの皆さんの論説を収めています。巻頭の「はじめに」は奥田愛基さん、巻末の「この本の終わりに」は牛田悦正さんが執筆されています。初回限定で、「参院選2016ガイドブック」という20ページの小冊子が付されています。また、本書の刊行を記念して、7月6日(水)19時より東京堂書店6F東京堂ホールにて「小熊英二×SEALDs 奥田愛基・諏訪原健 トークイベント」が開催されるとのことです。参加費500円、要予約。詳しくはイベント名のリンク先をご覧ください。

★奥田愛基さんの『変える』は単独著としては初めてのもの。帯文に曰く「絶望から始めよう。「失われた20年」に生まれ、育ってしまった新世代の旗手による、怒りと祈り。いじめ、自殺未遂、震災、仲間たちとの出会い、そして――。SEALDs創設メンバー、23歳のリアル」。書き下ろしでこれまでの人生を振り返っておられるのですが、すべてを吐き出すというのは実際かなりしんどいことのはずです。「あとがきにかえて」には、「本なんて書くのは初めてだった〔・・・〕。正直、出版できないんじゃないかというぐらい、悩みながら書きました。〔・・・〕特に中学生当時の気持ちを、もう一度追体験しながら書くのはちょっとキツかったです」と。執拗に中傷され続け、命を狙われることすらあったにもかかわらず、顔出し・実名で行動し続けるのは相当の勇気が必要です。目立たずに隠れて暮らしていることも選択できたはずの彼の人生がどう変わっていったのか。その激動を活写した本書は、私たちが生きる時代を映す刃の輝きを有しています。

★ダンバー『人類進化の謎を解き明かす』は発売済。著者のロビン・ダンバー(Robin Dunber, 1947-)は、オックスフォード大学の進化心理学教授。既訳書には『科学がきらわれる理由』(松浦俊輔訳、青土社、1997年)、『ことばの起源――猿の毛づくろい、人のゴシップ』(松浦俊輔・服部清美訳、青土社、1998年;新装版、2016年7月発売予定)、『友達の数は何人?――ダンバー数とつながりの進化心理学』(藤井留美訳、インターシフト、2011年)があります。4冊目となる今回の新刊の原書は、Human Evolution (Pelican, 2014)。帯文はこうです。「私たちはいかにして「人間」になったのか、心や社会ネットワークはどのように進化したのか――謎を解く鍵は、「社会脳」と「時間収支(1日の時間のやりくり)」にある。「ダンバー数」で知られる著者が、人類進化のステージを初めて統合する!」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「人類進化の社会的側面とその認知基盤」(26頁)を探究するアプローチとして本書では社会脳仮説と時間収支モデルが用いられています。最終章である第9章「第五移行期:新石器時代以降」における友情やペアボンディング(一夫一婦制)の分析は現代人にとっても興味深いもので、人間の行動原理への理解を深めることができるのではないかと思います。 

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★以下はいずれもまもなく発売となる新刊です。

吉本隆明全集1[1941‐1948]』吉本隆明著、晶文社、2016年6月、本体6,300円、A5判変型上製572頁、ISBN978-4-7949-7101-2
評伝 ウィリアム・モリス』蛭川久康著、平凡社、2016年6月、A5判上製548頁、ISBN978-4-582-83731-5
多摩川 1970-74』江成常夫著、平凡社、2016年6月、本体4,600円、B4判上製120頁、ISBN978-4-582-27824-8

★『吉本隆明全集1[1941‐1948]』は、全集第10回配本。版元情報によれば6月22日発売予定。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文に曰く「著者の原型はすべてここにある。戦前の府立化学工業学校時代と米沢工業学校時代、および敗戦直後の詩と散文を収録する。『和楽路』創刊号の詩三篇「桜草」「後悔」「生きてゐる」と、長編詩「(海の風に)」の初期形「(海はかはらぬ色で)」を初収録」と。数々の詩篇や散文には、帯文が言う「原型」を確かに見る思いです。付属する「月報10」には、石川九楊さんによる「吉本さんの三冊の本」と、ハルノ宵子さんの「あの頃」が掲載されています。回想や追憶を越えた来たるべき何かのために全集が編まれ続けていることに驚異の念を覚えずにはいられません。

★平凡社さんの新刊2点『評伝 ウィリアム・モリス』『多摩川 1970-74』はまもなく発売。前者は帯文に曰く「ウィリアム・モリス、美と真実を希求した芸術家の全生涯。ケルムスコット・プレスに代表される近代デザインの父、優れた詩人にして社会主義者。生涯を通じて美と真実とその表現を真摯に求め、絶え間ない前進を続けた輝かしい「知の多面体」ウィリアム・モリスの生涯と作品とを叙述する、本邦初の全編書き下ろし評伝」と。「「楡の館」から「赤い家」(1834~58)」「「赤い家」から「ケルムスコット領主館」(1860~82)」「ケルムスコット領主館からケルムスコット・ハウス」の三部構成で、モリスの講演・演説の年代順一覧やゆかりの建築物の紹介、略年譜、ケルムスコット・プレス刊本一覧・解題なども付されています。基本書となる研究書の誕生です。

★『多摩川 1970-74』は文字通り、70年代の多摩川とそれを擁する地域の風景を白黒写真で記録した写真集。帯文はこうです。「大阪万博に浮かれ、札幌五輪に熱狂したころ、首都の川は死に瀕していた――。奥秩父に発した生命の水は、高度経済成長のもと、際限なき砂利採取と不法投棄に汚され、生活排水の泡に覆われて東京湾に注いだ。清流がよみがえった今こそ想起すべき負の記憶」。巻末のテクストで江成さんは次のように書いています。「すでに半世紀が過ぎた今、生活排水の泡が川面を埋め、魚のし甲斐が浮かぶ1970年代の首都の川を、あえて拙作品集に纏めたのは、未来は過去の罪の反省によって築かれる、と考えるからである」(115頁)。上流から下流へと写真は移り行き、清冽な源流から汚染した中流へ、そして生き物たちを死へと追いやりながら海へと流れ込む風景を写し取っています。すべての写真が陰惨というわけではありません。自然にせよ人間にせよ、美しさも醜さもそこにあります。

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by urag | 2016-06-19 23:24 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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