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2016年 03月 14日

備忘録(26)

◆2016年3月14日午前10時現在。
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◆3月15日午前10時現在。
ついにこの時が来ました。太洋社國弘社長名で取引出版社、取引書店宛に3月15日付「ご報告とお詫び」全3枚のFAXです。経緯の説明が長いですが、3枚目に「もはや万策が尽きたものとして、自主廃業を断念し、この度、本日の午前10時をもって東京地方裁判所に対し破産申立をするに至ったことをご報告申し上げます」と。

「帝国データバンク」3月15日付大型倒産情報「中堅の出版取次業者/続報、出版取次業界では過去2番目の大型倒産/株式会社太洋社/破産手続き開始決定受ける/負債76億2900万円」に曰く「(株)太洋社(資本金1億8000万円、千代田区外神田6-14-3、登記面=中央区銀座2-2-20、代表國弘晴睦氏、従業員100名)は、3月15日に東京地裁へ自己破産を申請し、同日同地裁より破産手続き開始決定を受けた」。「その後の資産精査により書店からの売掛金回収が当初想定通りに進まない可能性が高まるなか、主要販売先の(株)芳林堂書店(東京都豊島区)が2月26日に破産手続き開始決定を受けたことで同社に多額の不良債権が発生。その後、8割超の書店で帳合変更のメドが経ったことで、3月1日には今後の取次業務の停止方針を取引先に対して通知していた。〔・・・〕なお、出版取次業者の倒産では栗田出版販売(株)(負債133億8200万円)に次いで過去2番目の負債額」。

「東京商工リサーチ」3月15日付速報「[東京] 出版取次ほか/(株)太洋社/破産開始決定負債総額76億2964万円~自主廃業方針から一転、破産~」に曰く「2月5日、自主廃業の準備に入っていたことを公表していた(株)太洋社(千代田区外神田6-14-3、登記上:中央区銀座2-2-20、設立昭和28年8月、資本金1億8000万円、國弘晴睦社長)は3月15日、東京地裁へ破産を申請し同日開始決定を受けた。破産管財人には深山雅也弁護士(深山・小金丸法律会計事務所)が選任された。/負債総額は76億2964万円(平成28年6月期中間決算時点)だが、変動する可能性がある」。「大口取引先の(株)芳林堂書店(豊島区西池袋3-23-10、設立昭和23年3月20日、資本金2000万円、齋藤聡一社長)が2月26日、東京地裁へ破産を申請したことで、約8億円の焦付が確定した。また、廃業を除き、96.5%の帳合変更が完了したが、約2億円の帳合変更に伴う未回収が生じ、万策尽きたことから自主廃業を断念し、破産を申請した」。

おさらい。「東京商工リサーチ」3月7日付速報「[東京] 書店経営/(株)S企画(旧:(株)芳林堂書店)/破産開始決定負債総額20億3535万円~破産申立書の内容が判明~」に曰く、「申立書によると、過去において事業多角化を目的に語学や飲食業に参入したものの、これら投資の一部が不良資産化し有利子負債が増加した。また、本業である書店事業も苦戦を強いられ、〔・・・〕売上高が〔・・・〕減少。資金繰りが次第に悪化したため、主力取引先で取次業者の(株)太洋社(千代田区)に対する支払いの繰り延べを要請して凌いだものの、これに伴い太洋社からの仕入報奨金(売価ベースで1.8%)を受け取ることが出来なくなり、利益率がさらに悪化。28年1月には、太洋社が求めていた額の56%程度しか支払いをすることが出来なかったことから、商品の納入が停止される事態となり、自力での店舗の運営が困難になった。/店舗運営の継続に向け交渉を重ねた結果、2月23日に、(株)アニメイト(板橋区)のグループ会社の(株)書泉(千代田区)との間で、書店・外商事業について譲渡対価約1億4800万円で事業譲渡契約を締結するに至った。〔・・・〕「債権者一覧表」における最大の債権者は太洋社〔・・・〕」。

それぞれの速報は細部が大事なので、ぜひ全文をリンク先でお読みください。

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◆3月15日午前11時現在。
太洋社の自主廃業が難しいだろうことはおおよそ予想の範囲だったとしても、芳林堂の推移については具体的な実情が今般判明したわけで、これが呼び起こす信用不安は当然、芳林堂以外の書店チェーンへの疑いの目として波及することになるものと思われます。取次による書店チェーンの子会社化に限界があるとすれば、帳合変更組も含めて、日販、トーハン、大阪屋栗田を利用している書店は、支払いが厳しいお店から順次切り捨てられていく可能性があるのかもしれません。たとえ支払いがきちんとできていても、街ナカの小書店に対する物流は昨今省力化される傾向にある、との証言も耳にします。この先数年は、書店・取次・版元の三者いずれにとっても、いっそう厳しいサバイバル状況に突入することになるのは間違いありません。取次が総量規制以上の何らかの施策を打ち出すことになるとしても不思議ではないと言えますし、パターン配本を行っている版元は全面的に配本先を見直さざるをえないでしょう。今まで以上に版元は書店の動向に敏感になり、問題ありと見れば出荷停止も辞さないでしょう。こんなにも体力の弱り切った状態下では、率直に言えば、再販制撤廃や委託制廃止(買切制への完全移行)はカンフル剤としては強烈すぎて業界全体の死を早めるだけではないかと懸念されます。

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◆3月15日正午現在。
この業界はいったん焼野原にならないかぎり生まれ変われない、という方もいらっしゃるかもしれませんが、私はそうした議論には与するつもりはありません。輝かしい新天地を展望する前に失うものの大きさについて数えることができなければ、それは単なる破壊主義であり、ニヒリズムにすぎません。ただし、再販制や委託制の是非や評価については積極的かつ柔軟に広く議論すべきであることは言うまでもありません。異なる利害を持つ者同士が話し合うのですから、最初から「対立」だけがクローズアップされても不毛なだけです。問題なのは、同じ書店業であっても、また同じ取次業、出版業であっても、異なる利害が明白であるがゆえに「議論しないまま水面下で争いを続ける」ことがこの期に及んで有効なのかどうか、というものです。

業界よ、ひとつになれ(団結せよ)と言っているのではありません。ただ、先の栗田事案ではっきりしたのは、版元同士が出版ジャンルを超えて語り合えるという思いがけない発見があったこと、そして、会社同士の団結や一致が難しいにもかかわらず、個人レベルでは様々なネットワークができあがる兆しもあったということです。危機が招来した新しい地平というものがあったとするならば、敢えてリアリズムに徹して言えば、「全員が生き残ることはできないかもしれないけれど、私たちが生きた証しと知恵と技術を精一杯残すために、バトンを渡し合い、リレーしていこう」ということです。私たち出版人はけっして孤独ではなかった。独りきりで呆然とする夜すら実は「大勢」であった。まだ見ぬあなたへと向かう一筋の光の矢であった。あなたへと降り注ぐ涙の雨であった。あなたの背中を押す、諦めの悪い一陣の風であった。あなたへの。私の。私たちの。

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◆3月15日19時現在。
太洋社トップページに、破産手続開始の申し立ての挨拶文あり。版元・書店向けの「ご報告とお詫び」もPDFファイルで公開されています。太洋社破産の報道で、この「ご報告とお詫び」を元にした記事には以下のものがあります。
「新文化」3月15日付記事「太洋社、破産手続き開始決定受ける
「産経ニュース」3月15日付記事「出版取り次ぎ「太洋社」が破産 芳林堂の売掛金回収困難
「クリスチャントゥデイ」3月15日付「太洋社が破産、出版取次中堅 昨年末時点で負債76億3千万円

また、TDB(コメント欄付ヤフーニュース版)やTSRの速報に準拠した記事は以下の通り。
「ITmediaニュース」3月15日付速報記事「取次中堅の太洋社、破産決定 芳林堂書店の倒産で8億円焦げ付き」(コメント欄付ヤフーニュース版
「ねとらぼ」3月15日付記事「「万策尽きた」 出版取次業者の太洋社が自主廃業から一転して破産へ」(コメント欄付ヤフーニュース版
「読売新聞」3月15日付記事「中堅出版取次「太洋社」、破産手続き開始決定」(コメント欄付ヤフーニュース版
「時事通信」3月15日付記事「太洋社が自己破産=出版取り次ぎ、負債76億円」(コメント欄付ヤフーニュース版
「ハフィントン・ポスト」3月15日付、安藤健二氏記名記事「太洋社が破産。芳林堂書店の自己破産で8億円が焦げ付く
「BIGLOBEニュース」3月15日付記事「コミックの太洋社、自主廃業を断念し破産 負債総額76億円
「文化通信」3月15日付記事「太洋社、東京地裁が破産手続き開始決定

さらに、TSR(東京商工リサーチ)の「データを読む」欄3月15日付記事「太洋社に連鎖した書店の倒産・休廃業調査」では太洋社事案に連鎖して倒産・閉店・休業した書店の判明分一覧が記載されるとともに、「苦境の出版社、取次、書店」と題した次節ではグラフ「出版業の倒産 年次推移」(1996~2015年)を掲出しつつ、「太洋社は、3月1日に通知した「ご報告とお願い」の中で、同日までに帳合変更の目途がたっていない書店について「(当該書店の)財務状況、その他の事情」があると記している。このため、3月15日現在も帳合変更が出来ていない書店を中心に、店舗の閉鎖や休業、倒産がさらに拡大することも危惧される。/このままでは地域に書店が一店舗もない「書店空白エリア」が拡大する恐れがある。取次業者のパイの奪い合いのしわ寄せは、地域書店と地方の読者が受けることになる」と懸念を表明しています。また、太洋社と芳林堂の関係性については「太洋社の自主廃業に向けた動きから破産の流れは、芳林堂書店の支払い遅延が大きな要因になったとの見方もできる。ただし、出版取次は通常の卸売業と異なり、書店に対する流通やファイナンス機能も兼ね合わせている。ファイナンスでは与信管理が極めて重要な要素だ。取引の戦略上、ある程度の債務履行の延滞を認めざるを得ないケースもあるが、自社の資金繰りに致命傷を与えるまで引き延ばすことは経営判断のミスとの指摘もある」と言明しています。これは先日の日経新聞有料記事が両社のもたれ合いを指摘したのと同様に、傾聴すべき賢明な分析だと言えるでしょう。

また、元業界人で現在はIT企業に勤務されているという方がこんな鋭いことをツイートされています。「芳林堂の焦げ付きがやはり大きかったのか。こういった隠れ不良債権を全書店について精査すると、日販トーハンですら危ないかもしれない」。この悪い予感はおそらく多くの現役出版人が共有するものです。大手書店チェーンも例外とは思われてはいないでしょう。

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◆3月16日19時現在。
太洋社破産のその後の報道は以下の通りです。

「日本経済新聞」3月15日付記事「出版取次の太洋社、破産手続き開始
「朝日新聞」3月15日付記事「出版取り次ぎの太洋社が自己破産申請 負債総額76億円
「マイナビニュース」3月16日付記事「太洋社が破産決定、書店に影響は?
「ITmediaニュース」3月16日付記事「太洋社に連鎖、書店14社が休廃業 東京商工リサーチ調査」(コメント欄付ヤフーニュース版
「THE PAGE」3月16日付記事「中堅出版取次の太洋社が破産、出版業界独特の業態「取次」って何?」(コメント欄付ヤフーニュース版

日経や朝日の記事はごくあっさりしたもので、扱いの小ささに寂しくなります。本の世界にコミットしている記者がいるのにもったいないことですが、記者がいるかどうかよいうよりは、日経や朝日の基準からすれば小さな出来事なのでしょう。それにしても朝日は産経ニュースと同じように「取次」を「取り次ぎ」と書いていて、業界人からはいささか失笑を買っているようです。

「マイナビニュース」や「ITmediaニュース」続報は東京商工リサーチの「データを読む」欄記事を受けてのものが、「マイナビ」の方は記事末尾にTSR当該記事には掲出されていなかった「2015(平成27)年出版業 従業員数別倒産状況」と「2015(平成27)年 主な「出版業」の倒産」の一覧を添付していて参考になります。50人以上の出版社の倒産が昨年度はない一方で、5人以上50人以下の中小規模の倒産がちらほら、そして4人までの零細版元は中小の倒産を合わせた数の倍以上の会社が倒産していることが窺えます。後者の一覧を見ると倒産原因のほとんどは「販売不振」です。トップに掲出されている美術出版社の倒産原因は過小資本で、民事再生法を適用、CCCのグループ会社である「カルチュア・エンタテインメント株式会社」をスポンサーに向えたことは周知の通りです。昨年7月30日付プレスリリース「ARTの出版社から、ARTで動かす会社へ! 美術出版社が生まれ変わります。カルチュア・エンタテインメントをスポンサーに迎え、8月1日より始動」に曰く「美術出版社は、今後、これまでの出版事業、編集・制作事業を軸としながら、蔦屋書店をはじめ、TSUTAYA店舗との協働によるイベント開催、Tポイントのデータベースを活用したマーケティング・サービスなど、CCCグループのリソースとの連携をおこなっていきます。/また、ART をあつかう企画・提案型企業としての事業領域を広げるため、他業種との業務提携も予定しています」と。

「THE PAGE」記事は一般読者にはなじみの薄い「取次業」についての概要説明となっています。「いわば返品ができる「卸」」「書籍は典型的な多品種少量生産」「取次を中抜きするケースも」といった構成。第二節目に曰く「例えば標準的なコンビニには2500~3000点ほどの商品があるといわれていますが、同じ売り場面積の書店には2万冊を超える本が置いてあります。よほど売れている本でなければ、同じ題名の本が何冊も置いてあるわけではありませんから、書籍がいかに多品種少量生産であるかが分かると思います」。「〔零細〕書店は在庫リスクを抱える余裕がありません。このため出版業界では、出版社が大きなリスクを負う代わりに利益は大きく、一方、取次や書店はリスクが少ない分、利益も少ないという構図に落ち着いたわけです」と。実際のところ、返品は取次や書店にとってもリスクではあります。返品が少ない方がいいには決まっていますが、かと言ってすべての新刊を取次や書店が買い切るのは無理です。春樹新刊の紀伊國屋書店による買取はいまだに例外に属するものです。

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by urag | 2016-03-14 10:28 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
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