2016年 02月 14日

ジャン・ウリの単著初訳『精神医学と制度精神療法』春秋社、ほか

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精神医学と制度精神療法』ジャン・ウリ著、三脇康生監訳、廣瀬浩司・原和之訳、春秋社、2016年1月、本体3,800円、四六判上製416頁、ISBN978-4-393-33341-9
『夜と霧』ビクトール・フランクルの言葉』諸富祥彦著、ワニ文庫、2016年1月、本体670円、文庫判216頁、ISBN978-4-584-39386-4

★『精神医学と制度精神療法』は発売済。版元紹介文に曰く「革新的な精神科病院、ラ・ボルド病院を創立し、ガタリらも参加した「制度精神療法」の理論と実践を深めた著者による論文・講演録を、本邦初訳。日常の実践と理論を往還し、精神医療環境の新たな地平をきりひらいた軌跡」。1955年から1975年までの主要論文を集めたウリの代表作であり、原書は、Psychiatrie et psychothérapie institutionnelle: traces et configurations précairesで、1976年にPayotから刊行された初版ではなく、Champ socialから2001年に出版された新版です。

★全24章のうち、15章が訳出されています。巻頭には新版についての短い「著者メッセージ」、ピエール・ドゥリオンによる「新版のためのまえがき」、著者の盟友で今まではトスケルと表記されることが多かったフランソワ・トスケィエスによる序文が付され、巻末には共訳者の廣瀬浩司さんによる「訳者あとがき」と、三脇康生さんによる監訳者解説「ジャン・ウリへ――粗品としてのラ・ボルド病院」が収められています。人名と事項をまとめた索引もあります。原書新版の目次(リンク先でご確認いただけます)と比べていただくために今回の抄訳書に収録された上記以外の本論部分を列記します。

序論 つかのまの痕跡と布置、精神医学と制度精神療法の領野における道標
第1章 精神科クリニックにおける脱疎外
第2章 病人を直接的に取り巻くものの制度精神療法の環境における分析
第3章 看護師の精神療法への参加
第4章 精神医学における専門的訓練への寄与
第5章 個人開業の精神分析家と病院の精神科医の合同会議のためのプロジェクト
第6章 学校環境における疲労の問題
第7章 転移と了解
第8章 エマーブル・Jの現前
第9章 制度精神療法についての覚書と変奏
第10章 ミーティングの概念について語ることは可能か?
第11章 制度精神療法のいつくかの理論的問題
第12章 制度精神療法における幻想〔ファンタスム〕・転移、そして〈行為への移行〉の弁証法
第13章 制度精神療法
第14章 制度精神療法の実践における主体の概念
第15章 制度精神療法のエクササイズ

★著者であるフランスの精神科医ジャン・ウリ(Jean Oury, 1924-2014)は今回の訳書が単著初訳となるものの、ジャック・ラカンの弟子であり、フェリックス・ガタリの友であり、ユニークな医療活動で知られるラ・ボルド病院の創立者にして医院長として、日本でも知られてきました。2005年の来日時の講演等は『Rencontre avec le japon』(Edition Marice, 2007)という本にまとめられています。ちなみにウリによるガタリへの追悼文「精神の基地としてのラボルド――フェリックスのために」を、ガタリ『精神病院と社会のはざまで――分析的実践と社会的実践の交差路』(杉村昌昭訳、水声社、2012年)で読むことができます。

★訳者あとがきでウリの仕事はこう評されています。「精神病に苦しむすべての患者たちを取り巻く「制度化された諸環境」のベクトルが、少しでも「脱疎外」の方向に向かうようにコントロールすること」(373頁)。ウリはこう書いています、「「病人」のひとりひとりは、その人格、疾病学的空間、世界との繋がり、その可能性、ローカルな治療様態などを考慮に入れながら、この機械〔私たちがその器官であり、燃料であり、労働者となっているような機械=機関=機構〕によって考慮されなければならない。時系列的な探究にあたふたするよりは、〈集合態〉における混乱した地帯に「働きかけ」、葛藤の結び目のひとつに立ち止まったほうが、効率的なこともある」(252頁)。「問題になっているゲームをよりよく検討するために、ゲームで使われているカードを検討すること」(253頁)。健常者も含めた社会全体がますます精神的に深く傷つき疲弊しきっているように見える昨今、ウリやガタリが再評価されるべき時が近づいている気がします。

★『『夜と霧』ビクトール・フランクルの言葉』は発売済。コスモス・ライブラリーから2012年に刊行された同書親本を改訂し、文庫化したものです。テーマ別にフランクルの言葉152編を集め新訳した「フランクル語録」であり「フランクル名言集」です。カバー紹介文に曰く「ナチスの強制収容所における体験を綴った名著『夜と霧』の著者であり、「生きる意味」を見出していく心理療法、実存分析(ロゴセラピー)の創始者であるビクトール・フランクルが読者に熱く語りかける「魂」を鼓舞するメッセージ」。全11章に配されたテーマは以下の通りです。「強制収容所での体験」「愛することについて」「生きることの「むなしさ」について」「人生の「苦しみ」について」「生きる意味について」「仕事について」「幸福について」「時間と老いについて」「人間について」「神について」「生きるのがつらい人へ」。

★フランクルの言葉はいずれも胸に沁みるものばかりなのですが、いくつかを抜き出してみます。丸括弧内は出典文献です。「「仕事の大きさ」は問題ではない。その人が「自分なりの使命をどれだけ果たせたか」が重要なのだ」(『医師による魂のケア』より)。「人生の意味は、他社と取って代われえないもの、一回的なもの、独自的なものである。そこで重要なのはそれをその人がいかに行うかという点にあるのであり、何を行うかという点ではないのである」(同)。「心理療法の中に倫理学を取り入れること、すなわち、責任存在であり使命を有しているという人間存在の本質を心理療法の中核に据えること、それによって患者にその特殊な責任と課題とを指し示すことが必要なのだ」(『哲学と心理療法』)。「逆説的ではあるけれども、人は誰かのため、すなわち大義のため、友人のため、神のために、自分を失う地点に達してはじめて、真の自分を発見するのである」(『心理療法と実存主義』)。

★本書の姉妹編として、諸富さんはワニ文庫で一昨年に『ビクトール・フランクル 絶望の果てに光がある』という既刊書を上梓しておられます。また、フランクル自身の著作の文庫には『生きがい喪失の悩み』(中村友太郎訳、講談社学術文庫、2014年)があります。広い層の読者を獲得している書き手であることからすれば、文庫版著作集が刊行されてもおかしくないフランクルですが、意外に少ない(少なすぎる)のが驚きです。

★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

情念・感情・顔――「コミュニケーション」のメタヒストリー』遠藤知巳著、以文社、2016年2月、本体7,800円、A5判上製768頁、ISBN978-4-7531-0330-0
ミュージカル映画事典』重木昭信著、平凡社、2016年2月、本体17,000円、A5判上製函入1028頁、ISBN978-4-582-12649-5

★『情念・感情・顔』は発売済。帯文はこうです。「思考の外部に触れる――近代社会の全体を外から俯瞰する視線がリアリティを喪失しつつある現在、主体の内部作用という薄明の言説領域に足を踏み入れながら、異世界に触れようとする思考の冒険」と。全16章立て、注を含め700頁を超える大著です。しかも書き下ろし。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者の遠藤知巳(えんどう・ともみ:1965-)さんは日本女子大学人間社会学部教授をおつとめで、ご専門は社会学、特に近代社会論、言説分析、メディア論、社会理論でいらっしゃいます。単独著としては本書が初めて。既訳書にジョナサン・クレーリー『観察者の系譜』(十月社、1997年;以文社、2005年)があるほか、編著書として『フラット・カルチャー――現代日本の社会学』(せりか書房、2010年)があります。

★『ミュージカル映画事典』はまもなく発売。著者は大学人ではなく在野の研究者で、本書は『ブロードウェイ・ミュージカル事典』(芝邦夫名義、劇書房、1984年;増補版1991年)に続く労作です。帯文に曰く「アメリカを中心に、世界のミュージカル映画の全貌を知ることができる、本邦初の事典。世界初のミュージカル映画「ジャズ・シンガー」(1927)から「イントゥ・ザ・ウッズ」(2014)まで、90年間に制作された、約3400作品を紹介」。全13章を列記すると「ミュージカル映画の誕生」「1930年代:不況の時代」「1940年代:戦争の時代」「1950年代:画面の大型化」「1960年代:スタジオ・システムの崩壊」「1970年代:ロックの時代」「1980年代以降のミュージカル映画」「テレビのミュージカル」「踊りと歌の流れ」「英国の作品」「ドイツの作品」「スペインの作品」「その他の国(フランス/イタリア/ソ連)」です。さらに年度別作品一覧、[付録]主な伝記映画、参考文献、索引(邦題、原題、人名)が付されています。

★ちなみに平凡社さんでは今月19日発売で、細江英公さん写真、笠井叡さん舞踏・文で『透明迷宮』という写真集が刊行されます。笠井叡さんが被写体の写真集には『Androgyny dance』(瀧口修造序文「舞踏よ、笠井叡のために」、赤瀬川原平装幀、蘭架社、1967年)、『ダンス・ドゥーブル』(笠井爾示写真、フォトプラネット〔オシリス〕/河出書房新社、1997年)、『銀河革命』(現代思潮新社、2004年)がありますが、『銀河革命』は60~70年代の写真なので、新作写真集としては20年ぶりとなるものと思われますし、当然のことながら細江さんの新刊としても大注目です。品切にならないうちに急いで買っておくべきかと思われます。
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by urag | 2016-02-14 23:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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