2016年 01月 11日

注目新刊:注目の人類学書『森は考える』、ほか

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森は考える――人間的なるものを超えた人類学』エドゥアルド・コーン著、奥野克巳・近藤宏監訳、近藤祉秋・ニ文字屋脩訳、亜紀書房、2016年1月、本体2,700円、四六判上製480頁、ISBN978-4-7505-1462-8
変形する身体』アルフォンソ・リンギス著、小林徹訳、水声社、2015年12月、本体2,800円、四六判上製287頁、ISBN978-4-8010-0137-4

★「新実在論(ガブリエルなど)vs思弁的実在論(メイヤスーなど)」の流行と並んで昨今の人文書(特に現代思想)売場活性化の起爆剤となりつつあるのが、「人類学」の新潮流です。先月末、そして今月とまた注目新刊が発刊されました。コーン『森は考える』と、リンギス『変形する身体』です。前者は、How Forests Think: Toward an Anthropology Beyond the Human (University of California Press, 2013)の翻訳。 エドゥアルド・コーン(Eduardo Kohn, 1968-)はカナダのマギル大学人類学部准教授。本書にまとめられた研究成果によって2014年にグレゴリー・ベイトソン賞を受賞しています。監訳者による巻末解説によれば、本書はコーンが「南米エクアドル東部地域、アマゾン河上流域の森に住むルナのもとでの調査(主な調査は、1996~2000年の4年間)を、長年にわたり捉えなおし続けてきた成果として書かれた民族誌」です。目次を列記すると、序「ルナ・プーマ」、第一章「開かれた全体」、第二章「生ある思考」、第三章「魂=盲」、第四章「種=横断的ピジン」、第五章「形式の労なき効力」、第六章「生ある未来(と軽くなった死者のはかり知れない重さ)」、エピローグ「超える」で、巻末には日本語版特別付録として「動物図鑑」が付されています。

★コーンはこう書きます。「あれこれの未来を可能にする多数の死との関係において、生ある未来を思考すること。このことを、この人間的なるものを超えた人類学が習得できるようになる唯一の道は、この思考する森に息づく多くの実在する他者――動物、死者、精霊――と注意深く関わりあうことなのである」(378頁)。帯文に中沢新一さんが寄せられた推薦文は次の通り。「自分の属する民族や共同体の外から人間を理解しようとしてきた人類学は、いまや人間性の外から人間について思考する学問へと、大きな転回をとげようとしている。森は考える。植物が考え、動物が考えている。それらの異なる思考に包まれながら、人間も自分のやり方で考えている。人類学と哲学はいま限りなく近い場所に立っている」。現代の日本社会で様々な議論を呼んでいるテーマ――環境保護、動物の権利、死者への哀悼、スピリチュアリズム――のほとんどすべてが人類学と交差しうるのは、人類学がまさに人間の関わる領域すべてと関係を持っているからでしょう。ジャンルを横断する鍵としての人類学からますます目が離せません。

★リンギス『変形する身体』は、Body Transformations: Evolutions and Atavisms in Culture (Routledge, 2005)の翻訳。叢書「人類学の転回」第2回配本です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。アルフォンソ・リンギス(Alphonso Lingis, 1933-)の既訳書には周知の通り、『汝の敵を愛せ』(洛北出版、2004年)、『異邦の身体』(河出書房新社、2005年)、『何も共有していない者たちの共同体』(洛北出版、2006年)、『信頼』(青土社、2006年)などがあり、これまでは著者の経歴通りに哲学に分類されていました。しかしリンギスは実際のところ、同叢書にエントリーされるのがしっくりくるほど、境界的な思想家ではありました。本書の訳者あとがき「メキシコのヴァルハラで」でもこう評されています。「私たちは、リンギスが描き出す多様な場面に圧倒され、眩暈を覚え、笑い、そして再び思考する――概念としての「人間」を超えて、新しい「人類学」、新しい「人間学」に向かって」(285頁)。

★リンギスは本書の冒頭でこう書いています。「本書で私たちが研究するのは、現代社会において、ときに噴出する古代的な欲求や振る舞いと、それが獲得している諸形式である。規則と義務によって確立された社会――経済的・倫理的社会――において、なおもポトラッチ的な行動や、好運、宿命、幸運といった前倫理的な領域への回帰が見出される。〔後略〕」(11頁)。「私たちは、他者が生まれつつあるのを経験するだけでなく、すでに長いこと存在していた他者が、今は私たちの人生のうちに生まれつつあるのを経験する」(12頁)。帯文にあるようにリンギスは「旅する哲学者」として知られているだけに、その他者論には旅程で得たフィールドワーク的経験が反映されています。人類学と哲学の近さを知る上でリンギスの著書ほど好適なものはないかもしれません。「人類学の転回」の次回配本はマイケル・タウシグ『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』となるようです。

★なお、青土社さんの『現代思想』では2月下旬発売の3月増刊号で「人類学の未来」という総特集を組むそうです。この機会に合わせて人類学フェアを開催するのもいいかもしれませんね。開催される書店さんがいらっしゃいましたらぜひ、フェアの概要(開催期間や場所)と店頭の写真を弊社メール宛にお送り下さい。当ブログで宣伝いたします。

★このほか、最近では以下の新刊・近刊との出会いがありました。

メッカ巡礼記――旅の出会いに関する情報の備忘録(1)』イブン・ジュバイル著、家島彦一訳註、東洋文庫、2016年1月、本体3,100円、B6変判上製函入380頁、ISBN978-4-582-80868-1
燃えるキリン――黒田喜夫詩文撰』黒田喜夫著、共和国、2016年1月、本体3,200円、菊変型判並製404頁、ISBN978-4-907986-25-4
暴力の哲学』酒井隆史著、河出文庫、2016年1月、本体960円、文庫判272頁、ISBN978-4-309-41431-7
文藝 2016年春季号』河出書房新社、2016年1月、本体1,300円、A5判並製516頁、ISBN978-4-309-97878-9
唯物論』オリヴィエ・ブロック著、谷川多佳子・津崎良典訳、文庫クセジュ、2015年12月、本体1,200円、新書判222頁、ISBN978-4-560-51003-2

★イブン・ジュバイル『メッカ巡礼記(1)』は18日発売予定。全3巻予定の第1巻で、「579年、第二ジュマーダー月までを収録。帯文に曰く「イブン・バットゥータ『大旅行記』に多大な影響を与えた旅の記録。十字軍時代の社会を克明に活写。第1巻はグラナダを出発し、地中海を経て、エジプトを南下、メッカに至る」。訳者の家島先生は同じく東洋文庫でイブン・バットゥータ『大旅行記』(全8巻、1996-2002年)などを上梓されておられます。なお『巡礼記』の既訳には、藤本勝次・池田修監訳『イブン・ジュバイルの旅行記』(関西大学出版部、1992年;改訂版、講談社学術文庫、2009年)があります。東洋文庫の次回配本は3月、『メッカ巡礼記(2)』の予定とのことです。

★黒田喜夫『燃えるキリン』は15日発売予定(昨年末から一部書店にて先行発売中)。共和国さんによる「黒田喜夫生誕90周年プロジェクト《一人の彼方へ》」として今春より刊行開始される『不安と遊撃 黒田喜夫全集』全4巻に先立つ特別編集版の詩文集です。独自編集によるベスト版で、単行本未収録作品を多くふくむ「詩撰」「散文撰」の二部構成になっています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。鵜飼哲さんによる解説「黒田喜夫の動物誌――「辺境のエロス」をめぐって」を併載するほか、編集担当であり発行者である下平尾直さんによる「編集後記」が巻末におかれています。カバーを飾る田中千智さんの絵画作品「この世の終わりに何が残るのか」が非常に印象的です。初版分のみ、投げ込み詩集『除名』(16頁)付。版元さんのプレスリリースの文言を借りると、黒田喜夫(くろだ・きお:1926-1984)は「谷川雁、森崎和江、石牟礼道子、吉本隆明らとともに1960年代の現代詩/思想をリードしながら、このかんまったく忘れられてきた詩人」であり、本書は「没後30年で初の作品集」とのこと。編集者の強い意気込みと情熱を感じさせる入魂の一冊です。

★酒井隆史『暴力の哲学』は発売済。親本は同版元のシリーズ「道徳の系譜」で2004年に刊行されたもので、文庫化にあたり大幅改訂の上、増補したと特記されています。新たに補論「ヘンリー・デイヴィッド・ソローと「市民的不服従」について」(初出:『STUDIO VOICE』2005年2月号)のほか、「二〇一六年版あとがき」、さらにマニュエル・ヤンさんによる解説が加えられています。新しいあとがきにはこうあります、「再刊にあたって見直したが、大筋において変更を加えるべき点はみあたらなかった。〔・・・〕ただし、説明不足であったり転回不足であったりするように感じられるところには、かなり手を入れている。とくに、「反暴力」については、本書公刊後、よく質問をいただいた箇所でもあり、みずからも堂々めぐりにおちいっていた感もあったため、大幅に加筆している」とのことです。

★先週発売されたばかりの『文藝 2016年春季号』には、佐々木中さんの長篇論考「戦争と一人の作家――坂口安吾論」が掲載されています(222-261頁)。「ファルスの定義」「初期ファルスの実際とその蹉跌」「「吹雪物語」へ」「「吹雪物語」の挫折」「「文学のふるさと」と芋虫の孤独」「「イノチガケ」――合理主義と死」「「紫大納言」から「桜の森の満開の下」へ、そしてその彼方へ――消滅のカタルシス」「安吾の文体論――「文章のカラダマ」の「必要」」の全8節ですが、後記によれば「本稿は執筆の途上にあって今年河出書房新社から単行本として出版される『戦争と一人の作家――坂口安吾論』の前半にあたる」とのことです。「特攻隊賛美」へと至る安吾の言説に鋭く切り込んだ論考です。

★なお、同号には、ヴィヴェイロス・デ・カストロの新刊2点『食人の形而上学』と『インディオの気まぐれな魂』に加えてラプジャード『ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動』を取り上げた村澤真保呂さんによる書評「「常軌」を逸脱する思考のために」が収録されています(510-511頁)。「ドゥルーズの没後二十年にあたる今日、新自由主義政策により世界中で人文学が政治的に解体されている背後で、ここに挙げた三つの著作に示されるように、ドゥルーズらの蒔いた種がようやく新たな人文学の芽となって姿を現してきたことを素直に喜びたい」と村澤さんは結んでおられます。

★オリヴィエ・ブロック『唯物論』は文庫クセジュの12月新刊。原書 Le matérialisme は1985年に初版、1995年に第2版が刊行されています。カバー表4の紹介文から引いておくと、「三部構成の本書は、第一部で唯物論という概念を論じ、そのためにどのような方法をとるべきかという問題を考察。第二部では古代ギリシアから十九世紀までの唯物論をめぐる学説史を記述。第三部はに十世紀における唯物論をめぐる諸問題についてである」と。オリヴィエ・ブロック(Olivier Bloch, 1930-)はパリ第一大学名誉教授。ご専門は近世哲学です。エコール・ノルマル時代にはアルチュセールの薫陶を受けたそうで、親しい同級生には『自死の日本史』(講談社学術文庫)で著名なモーリス・パンゲがいるとのことです。
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by urag | 2016-01-11 17:47 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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