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2015年 12月 27日

注目新刊:『ニュクス』第2号、ほか

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ニュクス』第2号、堀之内出版、2015年12月、本体1,800円、A5判並製312頁、ISBN978-4-906708-69-7
イナンナの冥界下り』安田登著、ミシマ社、2015年12月、本体1,000円、四六判並製角丸96頁、ISBN978-4-903908-70-0
新訳 弓と禅――付・「武士道的な弓道」講演録』オイゲン・ヘリゲル著、魚住孝至訳・解説、角川ソフィア文庫、2015年12月、本体800円、文庫判237頁、ISBN978-4-04-400001-1
ヘーゲルからニーチェへ――十九世紀思想における革命的断絶(上)』レーヴィット著、三島憲一訳、岩波文庫、2015年12月、本体1,440円、文庫判並製672頁、ISBN978-4-00-336932-6
中世と貨幣――歴史人類学的考察』ジャック・ル=ゴフ著、井上櫻子訳、藤原書店、2015年12月、本体3,600円、四六上製328頁、ISBN978-4-86578-053-6
スパム[spam]――インターネットのダークサイド』フィン・ブラントン著、生貝直人・成原慧監修・解説、松浦俊輔訳、河出書房新社、2015年12月、本体2,400円、46判並製336頁、ISBN978-4-309-24744-1
エトワール広場/夜のロンド』パトリック・モディアノ著、有田英也訳、作品社、2015年12月、本体1,900円、46判並製196/76頁、ISBN978-4-86182-552-1

★『ニュクス』第2号は「ドイツ観念論と理性の復権」「恋愛論」の特集二本立て。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。哲学の最前線をめぐって、ガブリエル/ジジェク『神話・狂気・哄笑』(堀之内出版、2015年11月)、『ニュクス』第2号(堀之内出版、2015年12月)、『現代思想』2016年1月号「特集=ポスト現代思想」(青土社、2015年12月)、メイヤスー『有限性の後で』(人文書院、2016年2月)、『ゲンロン2』(ゲンロン、2016年3月;千葉雅也氏特別対談収録)と、知的刺激に満ちた論戦含みの怒涛の新刊攻勢が来春まで続きます。こうしたコンスタントな流れは近年珍しいですから、書店店頭への追い風になればいいなと思います。

★『イナンナの冥界下り』はシリーズ「コーヒーと一冊」の第4弾。先月文庫化された『シュメール神話集成』(ちくま学芸文庫)にも収録されている「イナンナの冥界下り」の新訳を核に、安田さんが豊かに神話を読み解かれ、現代へと蘇らせておられます。執筆・編集・造本の妙がこれほどまで巧みに寄り合わさって読者に対する愛情へと昇華しているのを視覚や触覚を通じてまじまじと実感できる本は、さほど多くはないのではないかと思います。実に見事です。投げ込みの四つ折「くじら通信」に掲載されている「「コーヒーと一冊」について」はミシマ社さんの戦略が端的に記されていて非常に説得力があります。

★『新訳 弓と禅』は、『日本の弓術』(岩波文庫)として知られるヘリゲルの講演「武士道的な弓道」の新訳と、それに続く『弓と禅』(福村出版)の新訳をカップリングしたもの。ロングセラーを再び味わうのに最適な一冊です。今年は著者ヘリゲルの没後60年に当たるのだとか。旧訳本でもそうでしたが、私は講演で語られている、弓の師匠による暗闇の中の二射的中のくだりを読むたび、感銘を新たにし、深くします。日本文化における最も奥深い何ものかを私たちはこのドイツ人哲学者から何度でも学び続けるでしょう。

★フッサールに捧げられたレーヴィットの大著『ヘーゲルからニーチェへ』(原著初版1941年、今回の底本は1986年刊第9刷)はかつて、ヘリゲル『日本の弓術』を訳した柴田治三郎さんによる翻訳が半世紀以上前の1950年代にに岩波現代叢書で全2巻本で刊行されたことがあります。今回の新訳では上巻には第一部「十九世紀における精神の歴史」のほか、「初版の序文」「第二版の序文」を収録。凡例によれば続刊予定の下巻に付録として「初版との異同」を掲げるとのことです。

★『中世と貨幣』の原書は、Le Moyen Âge et l'argent (Perrin, 2010)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。序にはこうあります。「本書で取り上げる主要テーマは二つある。一つは、中世の経済、生活、心性において貨幣というもの、あるいはむしろさまざまな貨幣がいかなる境遇にあったか、ということ。そしてもう一つは、宗教が支配的な社会の中で、キリスト教徒としてあるべき貨幣に対する態度やその使い道について、キリスト教がどのように考え、それを説いていたか、ということである」(14頁)。多くの訳書があるル=ゴフですが、初訳は1977年の岩波新書でした(『中世の知識人――アベラールからエラスムスへ』)。

★『スパム』の原書は、Spam: A Shadow History of the Internet (MIT Press, 2013)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。デジタルメディアをめぐる技術史と技術論が専門のフィン・ブラントンは本書が単独著デビュー作で日本語訳としても初めての本になります。これまでの業績については著者自身によるウェブサイトをご参照ください。帯文に曰く「情報工学、国際法、経済、複雑系科学、地政学などを駆使して分析する、ネットの裏側の歴史」と。著者はスパムをこう定義します。「スパムとは情報テクノロジー基盤を利用して、現に集積している人間の注目を搾取することである」(277頁)。カバーを剥ぐとスパムメールがあしらわれている表紙があらわになります。デザインは『表象』や『ゲンロン』などを手掛ける加藤賢策さんです。

★今年は一方で、ジェイミー・バートレット『闇〔ダーク〕ネットの住人たち――デジタル裏世界の内幕』(星水裕訳、鈴木謙介解説、CCCメディアハウス、2015年8月)のような、ネットのまさにダークな(犯罪的な)側面を紹介する新刊も翻訳されました。日本語文献はまだ多くありませんが、危険な誘惑に満ちた「dark web」を巡る啓蒙書は増えてくるのではないかと思われます。

★『エトワール広場/夜のロンド』は、モディアノのデビュー作La Place de l'Étoile (Gallimard, 1968)と、第2作 La ronde de nuit (Gallimard, 1969)の、2つの初訳を1冊にまとめたものです。周知の通りモディアノは昨年、ノーベル文学賞を受賞しており、ナチス占領下のパリの群像を描いたデビュー作が「記憶の芸術」として改めて評価されたのでした。巻末には詳細な解説と地図、訳注が付されています。今年2015年はモディアノの訳書が本書を含め合計6冊も刊行され、たいへん賑わいました。いずれも評価が高く、安定感抜群といったところでしょうか。
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by urag | 2015-12-27 00:26 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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